IS×MGS - Another Solid -   作:No.20_Blaz

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早々と出来た第四十三話!!

このActも終わりへと向かい走ります。
今回のラウラ編でのキーキャラクターは何もラウラだけではありません。
そして今回は一夏の過去の出来事も関係しています。
ということで話は再びMGS4の時代、二年前にさかのぼります。
以前の話の続き、あの後どうなったのか。そして一夏は何を知ったのか。


そのすべてが語られる第四十三話。お楽しみ下さい。


No.43 「夢の終わり」

 

 

 

 

悲鳴が聞こえた。

 

ひとりの少女が悲しみ苦しむ声。

苦痛と幻覚が濁流のように頭の中へと流れ込み、途絶える事のない負の感情が彼女たちを蝕み襲い掛かる。

例外など存在しない。それは彼の目の前に立つ少女も同じことだ。

感じるはずの無い苦痛が、感じることのなかった罪悪感が後悔がトラウマが

 

 

 

 

 

 

忘れていたはずの幻覚(真実)が、女たちを食い殺すかのように心へと伸し掛かり、容赦なく食い散らかしていく。

抑制されていたはずの感情が全て解放され、脆く弱いものであった彼女達の精神を侵して行く。

命令に従い、殺した時

許してくれと助けを請う相手に躊躇無く銃爪(ひきがね)を引いた瞬間

武器を持たぬのに、敵対勢力とみなされて虐殺した記憶

 

 

 

 

そして。傍に倒れる母の仇を討たんがために銃を持ち引き金を引いた子供を

 

 

躊躇いも無く引いたあの感覚

 

 

 

 

 

 

「あ…」

 

 

「あ……あああ………あがぁ……」

 

 

抑えられていた感情が。本来受け止めるべき思いが。

全ての代償となって、解放さたれという証として彼女達の心に、精神に伸し掛かる。

止まる事は無い、全ては彼女達が犯してしまった分。現在へと戻ってきたのだ。

 

 

「あああ…ああああああ……ああああああああああああああ!!!」

 

 

精神が痛み、蝕み、食い荒らされていくのが肌で感じられる。

神経が痛いと騒ぐのに幾ら掻こうとも癒える事は無いこの痛みはなんだ。

どんどん強く、どんどん痛くなっていくこの渦はなんだ。

 

 

 

頭が割れる

 

骨が砕かれる

 

目が潰され、脳が解かされ

 

 

闇のスパイラルが身体中の全てを蝕み食い荒らす。

見境無く、際限なく。目の前にあるもの全てが食い荒らされ無へと替えていく。

止まらない渦の中に囚われ真実を見せられた刻

彼女達の精神は限界へと至る。

 

 

 

 

 

『イチカッ!?』

 

「あっ…」

 

目の前で暴れるヘイブン・トルーパーに戸惑う一夏は彼女に感情移入して思わず手を伸ばそうとしていたが、その直前にオタコンの声が耳から聞こえると、どこかへと飛んでいた意識がのめりこむ様に戻ってくるのを感じると、自分が無意識に手を伸ばしているのに気づき直ぐに手を引っ込めて数歩後ろへと下がる。

一応敵だというのに無意識に手を伸ばしてしまった自分に正気の沙汰かを疑うが恐らく、彼の対応はその時の場合正しかったのだろう。

 

「一体……」

 

苦しむ少女を前に戸惑う一夏だが、それが彼女だけでなく乗船したヘイブン・トルーパーたち全員が急に苦しみだしていた。もがき倒れていく姿を見て何が起こっているのかと動揺したが、直ぐに頭が回転しだすともしかしてと呟き、自分が立つ戦艦のほぼ真横に鎮座する一隻の潜水艦を見上げた。

可能性があるとするならば。

 

「――オタコンッ!」

 

オペレーターである彼に連絡を入れて確かめようとする一夏だが、無線機からはノイズだけてしか帰ってこず彼が無線に気づいてないのか、それとも自分を相手にしているような状況ではないのかと思いたいが、それ所ではない。

突如として苦しみだした彼女達はその痛みや苦しみから逃げたいあまり、暴走(・・)を始めた。

 

「ッ……!」

 

 

奴等(カエルたち)から武器を取り上げろ!見境無く暴れるぞ!!」

 

弾ける音。鈍い音が甲板中から響く。

はじけた音と共に聞こえる叫びと火薬のニオイが、その場に立つ全ての兵士たちに再度緊張と恐怖を持たせる。

安息も束の間。まだ全て終わっていないのだ。

どこがで米兵の一人が声を上げて警告し、それを皮切りに始まった連なる発砲音に兵士たちは混乱を見せ始める。

勝利に歓喜する艦内とは違い、外は混沌へと変貌していたのをこの時主要たる面々は知る由もなかった。

 

「武器を取る前に押さえるんだ!ツーマンセルだ!!」

 

「こいつ等、一体…!?」

 

「分からん!だが、これは…!」

 

 

恐らく勝ちはしたのだろう。

誰もがそう思いたいが、暴徒と化した彼女達を目の前にしてはそんな事と一言で一蹴してしまう。

勝ちはしたが、まだ完全に勝ちとは言えない。絶対に安全とは言いきれない。

目の前に映る獣たちに勝利を喜ぶ事はできず、彼らだけはまだ戦いの中に置かれていた。

 

「このっ!落ち着け……!!」

 

「あああ――――」

 

「制御が無くなった途端がこれか!?これじゃあ…!」

 

声にならない叫びを上げる彼女達にそれでもと押さえ込む兵士達。

形勢は逆転したのだろうが、それでもこの混沌の中で余裕を持つ理由にはならない。現に、それに浸ってしまった者は…

 

 

「ぎゃぁああああああああああああああああ!!!」

 

「ッ!?アルフレッド!!」

 

「だから気をつけろって…!」

 

 

気を抜けば無意識な攻撃が彼らを襲う。

意図したものよりも恐ろしい寝首をかかれるような感覚に全身が恐怖に怯え、兵士達のこめかみからは汗が吹き出る。

下手を踏めば確実に死へと至らしめられるのだ。彼らの神経、精神、体は機械的だった彼女達と一戦交えた時以上に張り詰めていた。

 

「どうなってる…!?戦いは勝ったんじゃ…」

 

 

 

「勝ちはしたんだ。でも…」

 

混乱する甲板の惨状を目に呟く一夏。

彼も恐らく勝ちはしたというのは分かっていたが、問題はそこではないと理解していた。戦いには勝ちはした。これはその後の戦いだという事に、誰も気づかずただ一人しかそれに気づけていなかったのだ。

 

システムが破壊され、制御されていた彼女達の感情は確かに解き放たれた。

囲われていた世界が開かれ、野へと放たれる狐達。

これで全てが終わった。

誰もがそう思ったが

 

 

一夏と、もう一人

艦橋の上で眺める男が、迷える狐たちを沈黙のまま見ていた。

実にシンプルな理由だ。

彼も、一夏もわかっていた事。

これは恐らく野に解き放つ事だけを考えていた彼女(ナオミ)にとっても。恐らくは想定内か、もしかしたら想定外の事態だったのかもしれない。

 

 

野に放たれた狐達

彼らは無秩序となってしまったが為に行き場と生き方とを失い、これからの全て見失ってしまったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「多分…ナオミさんは野に放たれた事で全て解放されると思っていた。それは正しい。

 

 

けど。同時に間違いでもあるんだ」

 

 

「秩序に依存してしまった人類が突如として無秩序な世界に放り込まれたらどうなるか。

答えは簡単だ。

抑えられていた秩序が崩壊し、秩序無き秩序を生み出す。

 

分かるか、ナオミ?

お前は確かに奴らを野に解き放っただろう。

だが、ソレと同時に奴等についていた首輪は外され、抑えられていた感情は解き放たれ、それがトリガーとなって魔獣へと変化した。

殆どがナノマシンで制御されていた精神の脆い連中だ。なければ戦場で使い物にもならん。

ナノマシンから解放されればそれまでのストレスやトラウマ、罪悪感などの全てが奴等へと伸し掛かる。

それは逃げる事も、否定することもできない。

 

行き場を失った奴等は開放された刹那。代価として精神を喰われる。

 

 

――今もまた、な」

 

 

 

艦橋の上から微笑む男はそう呟くと無秩序となった世界の最初の犠牲者達、その惨状を眺めていた。

 

無意識によって制御されていた世界が崩壊し、それに連なり秩序も崩壊した。

絶対的決まりであった社会秩序が崩壊すれば、全てが正当となる無法の世界が誕生する。

男は無意識によって制御されていた世界が崩壊すればどうなるのか。その全てを理解し、悟っていた。

人によって作られ、終わることの無い戦いのある世界。

制御されたものでも、商品化されたものでもない。

法も秩序も、制御も無い。

ただ己が信念、理想、理念の為に戦い、生の充足を得られる世界。

 

 

 

 

天国に見放された世界(アウターヘブン)がここに完成したのだ。

 

 

 

 

「秩序が失われた今…それに依存した人は行き場を失い、やがては暴走する」

 

「新たな秩序を生まない限り、人は絶えず限りを覚えずに争うだろう。

己の為。利益の為。理想の為。金の為。夢の為。復讐の為。

それぞれの目的の為。果ての無い争いが生まれては消え、そしてまた生まれる!」

 

「じゃあこれも、その一つ…!?」

 

「無秩序となった世界。その象徴。全てが解放され、自由となった証。

制御されていた感情の全てが襲い掛かり、人は廃人か悪魔になる」

 

 

そう。戦場でならなにをしようとも自由だ。

誰と戦おうとも。何をしようとも。

自分がどうしようとも。

 

 

 

 

甲高い発砲音が響き、その中で甲板に居た米兵の一人が驚きを隠せないままに叫び上げた。

 

 

「こ、こいつ等、自殺し始めたぞ!!!」

 

「ッ!?」

 

 

精神が限界に至り、楽になりたいあまりに自身へと引き金を引いてしまった者達まで現れ遂に混沌は頂点を極める。

精神を蝕まれた者達は崩壊し精神のまま暴徒と化し本能もないままに暴れ始める。

ある者は笑い、ある者は泣き、ある者は叫び、ある者は苦しみ続ける。

それは周りの米兵たちも巻き込み、甲板は再び血の海へと変貌していく。

 

 

「これが…解放された世界…」

 

「そうだ。これがアウターヘブン。何物にも束縛されない戦いだけの世界!」

 

「違う…こんなの戦いでもない…ただの暴走だ!」

 

混乱する彼女達にはもう自分で抑える力は残されていない。

なら、それを自分が代わりにするだけだ。

一夏は弾の残っているライフルを捨て腰にナイフだけを刺すと負の感情にもがき苦しむ彼女たちを止めるため、動き始める。

 

(止めるだけなら気絶でいけるはずだ…!)

 

周囲に増え始める彼女達に対し一夏は一人一人手当たり次第に気絶させていこうとスタンナイフを抜く。そして、逆手に構えるとマチェットを振り下ろした相手の腕を受け流すように掴み、そのまま身体を流れに乗せて背負い投げに持ち込む。

 

「せぇいっ!!!」

 

片足で一回転し、後ろへと向くと同時に投げ倒す一夏は腕に殆ど力を入れず腕を握る為の力しか込めていなかった。それでも、まるで相手は中身が綿だけかのように軽々と足を浮かせてしまい、木製の甲板へと頭から叩きつけた彼女は脳が揺らされて意識を失ってしまう。

 

「――――――!」

 

「先ずはッ…!」

 

一人目をノックダウンさせた一夏は直ぐに正面へと顔を振り向かせ、目の前に集まりつつあった暴徒たちへと立ち向かう。

元々CQCは柔道と似ているところもあると言う事で一夏の場合、CQCの中に柔道の技を混ぜたものがある。とは言うものの一夏自身の能力と知識の問題上かじった程度であり、知っている技も一般人と大差はない。背負いやもろ手、足払い程度だ。

だが、それだけでもCQCに組み込めば十分に対抗できる。

 

「うあああああああああ?!」

 

「次ッ!!」

 

正面。次も同じくマチェットを持つが今度は振り下ろしではなく突き。一点集中の一撃だが、マチェットを持つ腕がしっかり伸ばされず動きも遅いため先ほどよりもしっかりと見える。

片手でマチェットを持つ手を受け流し、もう片方で肘うちを頭部へと入れると流れで頭を掴み、足を入れて足払いを行う。武器は手放され足の支えを失ってしまい行動できなくなると後は彼の思うがまま。地面へと叩きつけられて同じく気を失う。

 

そして次に両腕を覆い被せるように上げて向かってくるのが一人。精神が蝕まれてしまい、それを一時的に忘れたいが為に彼を拘束しようとしていたのだろう。

だが、それも彼には容易なもの。あっさりと見切られてしまい数歩パックステップで間合いを取り相手の拘束を空振りさせると、がら空きになった頭に向かい右のストレートを打ち込む。

 

 

「これでッ!!」

 

「ッ!?」

 

右ストレートでノックアウト、など出来ることではない。一夏の腕力とヘイブン・トルーパーのヘルメットではマイナスが多く大ダメージとならないのだ。

それは他でもない一夏がよく知っていること。なればそれに対する考え方は一つだけ。

右ストレートはあくまで牽制と囮。本命はこの後の一撃だ。

 

「とった!!」

 

「―――!?」

 

空いた左手を突き出し頭を掴む。牽制が働き、相手は一時的に動きが止まっているため技は容易にかけやすい。しかも相手は抵抗する気も精神もない。

技さえかかれば―――

 

 

後は同じく地面へと叩き落すだけだ。

 

 

「あッ!?」

 

三人目を落とし少しずつ身体に勢いが付き始める一夏は、その勢いを殺さずに視界を広げ迫り来ようとする相手に応戦しようとする。身体も徐々に温まり動きもより速く、より正確になっていく。

CQCなら相手を殺すことはないし気絶させることは容易な事。勢いづいていく動きを維持し一夏は次の相手をと目を向けた。

 

「――ッ!!!」

 

それが幸いし一夏は正面から襲い掛かる攻撃にいち早く察知すると、足に力を入れてブレーキを利かせ直ぐに横へと飛び込んだ。

自分が居た場所へと、弾丸の嵐が降り注いだのだ。

正確さも精密さもない、ただばら撒くように降り注いだ弾丸は自分の居た場所から扇状に広がり周りへと弾痕を作っていく。

更に、その一発が彼の足を掠りその一瞬だが彼の神経に悪寒が走る。

 

 

「……お前ッ!」

 

掠った足を確かめず直ぐに撃った相手へと顔を向けた彼の目の前にはふらついた猫背のような姿でP90を持つ彼女(・・)が立っていた。

一夏と単身でのナイフの戦いを行ったあの異常な兵士。

しかも前よりも違和感は増えている。ただ一人、感情的になり機械的な行動を行わない相手だが、どうやらナノマシンは同じようで先ほどのようにいまだに苦しそうな息をマスクの向こうから吐き出していた。

息は荒く、肩で呼吸するのが僅かだか見える。ナノマシンの解放から生じた代償に予想以上の体力が奪われたのだろう。

 

「………。」

 

その所為で、恐らく正常な思考は出来なくなっている。

首を傾け後ろへと振り返ると、彼の居た場所に倒れていたトルーパーたちは全員、無残にも灰化してその原型を殆ど残していなかった。

海風で流されるものや半分しか原型が残っていない者も居る。

 

あれほど感情的になった事を自分が平然とやって怒りを表さないのだろうか。

そう考える一夏だが、余裕がないのだろうと適当に自身に言い訳すると予測不可能そうな姿勢のまま立つ彼女に目を固定する。今の所、周囲には彼女しか相手が居ないので、もし他が現れるまでは彼女の相手をすればいいだろうと思い、腰に刺していたナイフを抜き構える。

彼も余裕はあまりないが、この事態が終わるまで持ち堪えるという自信はある。

早く終わってくれと、何処かで願い。そのために向かって行った男のことを考え一夏は彼女を止めにかかろうとした。

 

 

「――――。」

 

が。また何を思ったのだろうか。一夏の方をその見えない顔で見つめると突然持って居た銃をまたどこかへと捨て両腕をぶら下げた。

さっきのような計画的な捨てではなく、完全に必要なしという様にあらぬ方へと投げ捨てたその行いに彼は再び驚くことになるが、先ほどとは様子が違うことに気づき焦りをみせた顔で彼女の姿を目にしていた。

脳裏に今し方刻まれた声。そしてその意味。

彼の脳裏に最悪の二文字が浮かび上がる。

 

「――――。」

 

「ッ……!!おいッ!!!」

 

目の前の出来事に思わず大声を上げた一夏の前では彼が声を上げるほどの事を、ふらついた彼女が行おうとしていた。

精神を蝕まれ、疲労や罪悪感が溜まりきり暴走を起こした彼女は他の者達と同じく自決を選ぼうとしていたのだ。

状態を見れば分からない話ではないが、それでも眼前で行われれば誰だって驚きはする。そして。この状況なら彼の決断もひとつだ。

ナイフの構えを解き目の前で自決しようとしている彼女に素早く手を伸ばす。

その手の向かう先は勿論のこと自決の為に使おうとしていたFive-seveNで、こめかみに当てられていた銃のスライド部分を握った一夏は力ずくで自分のほうへと引き、こめかみそして彼女の頭部から無理矢理引き離す。

 

そして。それと同時に、彼女の目の前で自分の命を断とうとしていた引き金を彼女は引いた。

 

「ッ!?」

 

「あぶねっ…」

 

弾丸はどこかへと飛んでいった。

間一髪で自決を止められたことに安堵するがスライド部分に入れた力が甘かったのか銃は発砲し、手に入れた力も段々と弱まっていた。

自決が失敗したことに怒りと焦りを感じた彼女は、楽になりたい一心で一夏から拳銃を取り戻そうと力の限り引っ張る。

 

「っておまっ!?」

 

「――――ッ!!!」

 

「駄目だ…!はなさねぇ!」

 

もう楽になることしか考えていない彼女に必死に自決を止めさせるが、それでも頑なに銃を離そうとはせず引き金からも指を引っ込めようとしない。

銃を一向に手放さない彼女にそこまで死にたいのかと苛立ち、一瞬は自分が引導を渡してやろうかと考えたほどだが、すぐに苛立ちを抑えると腕に力を入れて先ほどよりも強く銃から手を離させようとした。

 

「こんのっ…!」

 

「ッ……!」

 

そしてとうとう彼女から銃を奪う事に成功し、一夏は直ぐに彼女が簡単に届かないような場所へと放り投げ丸腰となった彼女を気絶させようとスタンナイフを再び抜き取り刃の部分を当てないようにする。

銃を失い直ぐに楽になれないとなった彼女に、楽になれると思い消えていた痛みや罪悪感によるストレス、トラウマが再びこみ上げてくるとまたその痛みなどに苦しみ始め身体へと大きな重石が乗せられ華奢な身体を簡単に押し潰そうとする。

まるで噴水のように溢れ出るトラウマや悲しみ、そして人を殺したことによる罪悪感と恐怖。癒す事のできない苦しみが精神へと伸し掛かり身体の神経を狂わせる。

頭は揺さぶられ、めまいが起こり、吐き気は絶頂の手前にまで至る。

骨の至る所では骨が悲鳴をあげているかのように痛みを起こす。

身体という体がまるで元の構成要素、体のパーツ一つ一つに戻りたがるように体がはじけてしまうそうな暴れ方に体の中に渦が巻き起こる。

中にはそれに耐えられず吐いた者もいる。当然、胃液などだけではない、血をもだ。

 

しかし辛うじてそれから耐えているのか、それともまだそこまで酷くは無いのか、正面で苦しむ彼女は辛うじて足に力をいれて苦しさに足を躍らせつつも耐えていた。

 

 

「ああああ……あ…が………がふっ………」

 

「ッ……!」

 

――見ていられない。

一夏は歯をかみ締めその有様に耐えられなくなるとナイフを逆手に持ち極力彼女に当てないようにしつつ身動きを封じようとする。

力なく一夏に拘束される彼女かに見えたが、苦痛から逃れたいが為に暴れることで容易に捕まえられない。痛みと疲労が精神だけでなく身体の神経をも喰らい視界を摩り替える。

めまいと疲労、ストレスなどが神経にも干渉し彼女の視界には幻覚が見えていたのだ。

 

 

「――や……た…け………」

 

「―――ッ」

 

ココに来て吐き気で封じられていた口から声が漏れる。

だがまだ弱々しく声も僅かしか聞き取れない。

マスクで声が籠もり、それが余計に聞き取れないようになってしまっているのだろう。

なのに一夏はなんとなく。彼女がどんな事を言っているのか頭ではなく勘で理解し、やがてそれが頭へと伝わっていた。

頭から理解するのではない。感覚と勘が真っ先に理解したのだ。

そして。その勘と感覚が強くなり、今度は彼の耳に一言だけだか言葉が入る。

 

 

「ころ…して……」

 

「なっ……」

 

 

ナノマシンで封じられていた感情。いや、彼女の本性が現れたのだ。

ただでさえ脆かった感情が負の感情の渦と重石によって潰され、今までの全てが一斉に襲い掛かり彼女の本心、本音を吐き出させた。

罪の罪悪感。人を殺した事による恐怖と拒絶反応。

そして自殺願望。苦しさから逃げ出したい結果がこれだ。

 

自分もなんどそれを経験しただろう。

その言葉に瞬く間に記憶をフラッシュバックさせた一夏は自分の始めての出来事を思い出す。

人を撃った時。傷つけたとき。殺した時。

彼も始めて人を撃った時、その細い神経に罪悪感による吐き気は襲い掛かった。

当然、一度は嘔吐するかのように体内の空気を吐き出させた。

それで気分が楽になると神経がそう訴えているかのように。

しかしそれで楽になる筈が無い。

眠れば悪夢のように襲い、人を撃てばそれがぶり返してくる。

罪悪感はそれによって増える一方だった。

 

だけど。死にたいなんて思った事は無い。

殺したからと言って死にたいという理由には絶対にならない。それが故意であるなら尚更、一夏は死ぬわけにはいかない。

 

 

「ッ――――」

 

唇を強く締めその言葉に怒りを感じ、彼の表情は一瞬だけではあるが烈火の鬼のような怒りの顔を見せた。

それは彼女にも自分の目の前に鬼がいるように感じ、朦朧とした意識の中その一瞬だけだ神経の全てが反応して背筋を凍らせた。

自分の眼前に怒りに震える鬼がいる。僅かな間の出来事だというのに恐怖と威圧の所為か彼女の動きはピタリと止まり、死後硬直のように身体動きが心臓を除きストップした。

 

「え…」

 

「ッ………」

 

本人もそこまでやる気はなかったが、突如固まってしまった彼女を見て思わず抜けた声を漏らす。そこまで怯えるのかと思い後悔と罪悪感が湧くが、別に殺したわけでもないのでと適当に言い訳し罪悪感から逃げる。

だがそれでもチャンスであるのには変わりなく、一夏はナイフを手放して彼女の両腕を握ると完全に彼女の身動きを奪い取る。後はCQCをするなり別の方法で気絶させるなり自由。

こうなれば相手がこの状態での反撃方法を知っていない限り、彼女がマトモでない限り拘束が解かれる事は無い。

 

なにをしようと一夏の自由。だから彼は…

 

 

「よっ…!」

 

「あ…」

 

 

これを後に蛇がやることになったと聞いたらどう思うだろう。

その相手が気になるのか。どうしてそうなったのか。何故、自分からではなく相手からだったのか。そんな事を聞くだろう。

 

未だ苦痛の残る彼女を一夏は力一杯引き寄せた。

なにをする気かと僅かに残った意識で思う彼女に、彼はその時では意外と言える行動を行った。

彼女を一人の女としてかのように抱きしめたのだ。

 

 

 

「………。」

 

「―――大丈夫だ」

 

 

ただ一言。一夏はそういうと有無を言わず敵だった彼女を力強く抱きしめた。

母親が怖がる娘を安心させるかのように。

恐怖と絶望に打ちひしがれた彼が、あの時。一人の男にそう言ってもらった時のように。

同じ言葉を同じように。彼は彼女に送った。

余計な言葉は要らない。ただ一言、大丈夫だと言えばいい。

それで自分が安心したように。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

管理された時代は終わっていく。

「愛国者達」のAIは消滅していき、一人の蛇は最後の任務を全うした。

生み出した時代への叛逆。

相反した兄弟との決着。

一生の全う。

 

二匹の蛇の永きに渡る戦いが、ここに終わりを告げた。

 

 

 

 

 

 

 

告げられた終わりが彼の身体にも聞こえたかのように、一夏の身体は力が抜けていき二人揃って地面へとへたり込む。

少年は地面に尻餅をつき、少女は膝をつくと前のめりに倒れていく。

 

「っと……」

 

小さな音と共に倒れる少女を少年は全身で受け止める。

ボディスーツと装備のせいか少し重く感じられるが、それでも彼女の身体は何もかもが抜け切ったかのように軽く、そして柔らかかった。

苦しみからも、痛みからも漸く解放され少女の代償は払い終えられた。

もう縛られる事は無い。

感情を制御された兵士から、彼女は漸く一人の少女としての姿を取り戻した。

 

 

銃声は止み、叫びも小さくなる。

時代が終わったのだ。

 

「………。」

 

疲労の溜まった身体で、一夏は深く小さな息を吐き出す。

終わった。

それを身体一杯に感じ、心に受け止めた彼は最後に助けた一人の少女の様子を呼吸と肌で感じ取る。

ナノマシンの制御が無くなり、弱々しいものになっているが呼吸は正しく、心拍も次第に落ち着きを取り戻していた。

 

「………ふぅ」

 

もう大丈夫。自分にも彼女にも伝えるように笑みを浮かべた彼は、彼女を艦内に収容しようと少女の両腰に手を掴む。

そのままの状態で運べなくも無いが、一夏の場合それで彼女を落としてしまいそうでというしょうも無い考えに揺さぶられ、肩をかして運ぼうと考えていた。

これなら仮に途中で気づいた場合にも不慮の事故が起こることはないと考えていたのだ。一応。

 

「よっと…」

 

小さく一声の掛け声をして少女を引き離すと最初に彼の目に入り込んだのは海の光と夕焼けに反射した綺麗なブロンドの髪だった。

肩まで伸びた髪は蒸れたようにふやけているが溜まった汗が光に反射して海面のように輝いていた。

そんな髪に見とれていた一夏は自分がなにを考えて呆けていたんだと自身に叱咤すると疲労で重くなった自身の身体を立ち上がらせて運ぼうとするが、その前に彼のもとへと一人の男の足音が近づき、一夏は音のするほうへと目を向けた。

 

 

「おう。終わったな、坊主」

 

「ドレビン」

 

変わらぬ気さくな白いパンチパーマと黒人肌で挨拶する商人、ドレビンの姿を見て何してたんだと無意識に声を漏らす。

当然、彼の答えは艦内で飲んでたといういい加減な、というか誰もが怒りだしそうな答えだった。

 

「まぁ怒るなよ。俺だってただ飲んでたわけじゃない、武器や弾薬の整理もしていたさ。時々な」

 

「………。」

 

歪んだ顔で睨む一夏に笑いながらすまんすまんと答える。

――こいつ本当に他人事だな、一応世界の存亡かかってたんだぞ。と内心先ほどより怒りを見せていた一夏はもし自分の腰のホルスターに銃があれば問答無用に撃っていたと空いたほうの手を強く握り締める。

だがドレビンもただ彼を茶化しに来た理由ではない。

 

「それに、人手が足りなさそうなんでな。景気がてら出てきたってわけさ」

 

「…カエルの籠入れをか?」

 

「いや。ただの女たちをな」

 

「………。」

 

一応は本当らしい。

ドレビンは一夏が抱えていた少女を軽々と抱き上げ、俗に言うお姫様だっこという形で抱きかかえた。

本当はなにを考えているのかと思った一夏だが、運ぶ仕事が幾分か楽なったという事でその序でにと自分が抱えていた少女の顔を拝んだ。

 

 

 

 

 

それが自分が知っている(・・・・・)顔だと知らず、一夏は彼女の顔を見て思考が停止する。

 

「……え?」

 

ぐったりとした顔。汗に濡れる頬。華奢ではあるが整った体。

その姿を目に捉えた刹那。一夏の思考、そして彼の周りの世界は一時停止する。

 

自分でも分からなかった。

何故彼女を見た瞬間、そこまで驚いたのか。

何故彼女の顔を知っているのか。

 

朦朧としていく意識の中、はっきりとした感覚で頭の中で思い出す彼女の顔を見て思い出していく。

 

 

自分が助けた少女。

 

名前は知っている。

 

ココではないどこかで。

 

正体を知っている。

 

一戦戦ったのだ、この上(ミズーリ)で。

 

 

 

 

 

 

――――ああ、そうか。そういうことか。

 

 

 

 

 

俺は知っている。

 

この甲板の上で。

 

彼女と殺しあった。

 

 

俺は覚えている。

 

もう一度。

 

ココとは違う場所で出会った。

 

 

 

 

 

 

 

 

俺は、忘れて、いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『―――――イチカ』

 

 

 

 

 

 

 

 

俺は、シャルロット・デュノア(彼女)を知っていた。

 

 




オマケ。

MGS4時、一夏の服装(戦闘時)

普通のグレーの軍服にスネークたちがつけていたチョッキを着用。またドレビンから貰った特殊なフード付きのマントを着ています。
ちなみにこれはステルスマットと同じ原理ですがステルス迷彩とは違い全身を隠せないのが弱点。また雨にも弱い。
まぁ某ハリーの透明マントのようなものです。
ちなみにこれと同じ物があり、そちらはオクトカムと同じ。

これが使えないところではあのアサシンのを着ていました(笑)
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