IS×MGS - Another Solid -   作:No.20_Blaz

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すみません、勢い余って一話丸ごと消してしまいました…(汗

とり合えず改めての投稿ということでご勘弁下さい…



あと、言い訳のような言い方ですがAct.2は後二話程度の予定です。

それでは改めて第四十四話、お楽しみ下さい。


No.44 「夏の記憶」

 

 

 

 

 

目を開けると、そこは一面の白い壁と天井だった。

だが目に映る天井には年季が入っているようで僅かにシミがついている。

それに白いからといって清潔感のあるニオイであるわけでもない。

かなり鼻に来るニオイだ。

 

 

「………。」

 

重くなった目蓋を開き、止まっていた思考がゆっくりと動き始める。

ここは何処で。自分は誰で。一体どうしてココに居るのか。

当たり前のことから何故と思う疑問までの全てが頭の中から湧き上がり、それを無意識下で整理されていく。

 

「―――おれ………」

 

何故自分はココに居るのだろう。

自問自答を自分へと投げかけたとき、近くに人が立っていることを感じ取り首だけを動かす。

 

 

 

 

 

 

 

「―――気が付いたかね」

 

「キャンベル…大佐?」

 

白髪の老人。彼がなんども顔を合わせたことのある人物、ロイ・キャンベルがベッドの隣で椅子に腰掛けていた。

頭の中が整理されていき段々と意識が戻り始めた一夏はどうして彼がココに居るのかと疑問に思い、それを問おうと身体を起こそうとするが

 

「ッ………」

 

「無理はするな。まだ起きて間もないんだ」

 

「ッ…大佐……俺は……」

 

 

ゆったりとした感覚から一変し身体には激痛と激しい疲労が襲い掛かった。

身体中は鉛のように重く、腕は棒のように動かない。まるで身体中に重しが付けられたかのように重力によって地面へと引っ張り戻そうとしていた。

慌てて止めるキャンベルの言葉に、微動だというのに汗をかく一夏は力の限りに声を絞り出す。

 

「どれくらい寝ていた…?」

 

「………。」

 

「大佐ッ……!」

 

 

 

「…………丸一週間だ」

 

「………。」

 

 

 

 

 

 

一週間の間に様々な事があった。

事件後の後処理。被害にあった生徒の治療と対処。

日独両政府に対する国連からの厳重抗議。

今回の事件に関わった人物たちへの処分。

 

首謀者、ラウラへの処分。

被害者であり加害者でもあるシャルロットへの対処。

 

そして、一人の男の生死不明の日々。

 

 

 

「一週間…」

 

一週間という言葉が彼に重く伸し掛かる。

その間の時間を無駄にしたという喪失感より、それほど寝ていたのかという何らかの絶望感が彼の中を渦巻いていたのだ。

しかし口を開いたキャンベルは無理もなしという為か言葉をつなぐ。

 

「一週間前の銃撃による出血多量。それとその前にあったメタルギアRAYとの一戦で作った傷のぶり返し。一週間で回復したこともあるが、君が生きていることさえも奇跡の一つだ」

 

「………。」

 

「始めの三日はなんども心肺停止となって君は生死の境をさまよっていた。ドイツ軍中佐によって意図的に傷の応急手当を外されていた(・・・・・・)からな」

 

「外されていた?」

 

「ああ。どうやらその前に誰かが君の事を応急ながら手当てしてくれていたらしい。それで多少は出血が抑えられていたのだろう」

 

 

誰かに助けられていたという事に疑問を感じた一夏は一体誰が行った事なのかと考える。

事件現場にいたメンバーの中でそんな事をする人間が居るだろうか。

そう考えると、真っ先に答えだけが帰ってくる。

―――少なくともあの時点ではいないだろう。

あの時のラウラは自分に殺意を持ち、ハンスも身体があれば良しという考えだった(実はあの時僅かながら話が聞こえていた)

なら他の誰かが、と思い記憶が霞んでいる事件の時の事をキャンベルへと尋ねようとする。

 

「大佐。俺はあの時…」

 

「ああ。そのことについては彼女に聞くといい」

 

「彼女?」

 

「直ぐに分かる。それに、私はまだ用事があるのでな」

 

「………。」

 

隠すようなつもりでもない。自分には話す権利がないというよりも自分よりもその彼女のほうが分かるだろう、という顔をしていた。

恐らく真実を彼よりも多く知る人物なのだろうと思った一夏は、あえてそれを聞かず杖を持って立ち上がるキャンベルを見送ろうとした。

そこで一夏は、起きてからずっと思っていた疑問を最後に彼に投げつけた。

 

「…大佐」

 

「何かね?」

 

 

 

 

 

「その顔。どうしたんだ?」

 

「………。」

 

 

キャンベルの頬には真新しいガーゼが張られ、額にも絆創膏が付けられていた。

それも一箇所二箇所ではなく複数個所。よく見れば腕などにも付いていた。

起きてからずっと気になっていた一夏は我慢していたその問いを投げつけ、直ぐに答えてくれと言わんばかりの目で彼を見ていた。

 

「まぁ……色々とな」

 

はぐらかしたような言い方で答えたキャンベルに一夏は直ぐに察しが付き、細めた目でぽつりと呟いた。

―――なるほど。そういうことか。

彼の言葉のすべてに合点のいった一夏は上半身だけを起こした身体でそそくさと逃げるように病室を出るキャンベルの後姿を見て小さく息を吐く。

だが彼がノブに手をかけた時、思い出したかのように振り返ると一夏に問い返した。

 

「………そういえば、気分は大丈夫なのかね?」

 

「…?まぁ…すっきりとまでは行かないけど」

 

 

何気ない顔で言い返した一夏に対しそうか、とだけ呟いたキャンベル。彼の反応に頭をかしげ何を言いたいのかと訊ねようとしたが、それよりも先に部屋を後にしたのでその場では結局聞けずじまいになる。

 

「………?」

 

一週間黙って寝ていればそれぐらいは回復するだろう。

安易な考えで自分の事について思う一夏だが、部屋を出たキャンベルの顔はそれを重く受け止めたような顔で下を向いて唸っていた。

 

 

 

 

なぜ彼があそこまで真剣な顔をしていたのかと疑問を持って居たが、また機会があれば聞けるだろうとして直ぐに諦める。

それよりも一夏は自分の重くなった身体に対し危機感を覚え、弱ってしまった自分の筋肉をどう回復させるかを考えていた。

 

「さて。どうするかな…」

 

普通に筋力トレーニングをするだけではかえって筋肉にダメージを与える。

ならばまず最初のうちは簡易なランニングなどで回復を待つべきでなはないか。軽く動かし痛みも無い腕を動かす一夏はそれでも弱りきった自分の力に頭を悩ませた。

 

「素直に筋トレでもするか…まぁそれで戻れば苦労しないけどな…」

 

 

「なにを苦労しないの?」

 

 

「………!」

 

ドアの向こうから聞こえてきた声に反応し、顔を振り向かせるとそこには珍しくラフな私服姿で立つ一人の女性がいた。

数ヶ月前に結婚し、しばらくの間姿をくらましていた女性。

 

「め、メリルさん?!」

 

「久しぶりね。イチカ」

 

元気にしてたか、と性格に合ったような明るさで声をかけて来る姿に一夏は顔を見た瞬間に様々な事を思い出してしまう。

どうしてココに居るのか。今まで何をしていたのか。いや、それ以前に。

口にしたい言葉が頭の中で飛び交い、どれを先に言えば良いのか分からなくなる。

 

「あの時の無謀少年がまた随分派手にやったものね」

 

「え…!?」

 

「話、大佐から聞いてないの?」

 

幾つか聞きたいこともあったが、それよりも先に一夏はどうして今回の一件を知っているのかと不思議に思い、メリルへと訊ねようとするが、彼女が居るということから考えて一夏の脳裏にはもしかしてという可能性が浮かび上がる。

 

「今回の一件。私達も関わっていたの」

 

「……それ、どういう事なんですか」

 

「…立場上言えないこともあるけど、とり合えず言うならば。

この問題が国際的なものである、ていうこと。そして、事がドイツだけの問題ではなかったという事」

 

()の座っていたパイプ椅子に腰を降ろし淡々と事実を告げるメリルに一夏は目を持って話に食いかかる。

それが一体どういうことなのか。

何故こうなっているのか。

その全てが、今メリルの口から語られた。

 

 

「まず。事の始まりはドイツでの出来事。これは国際的な事情からドイツは発表を控え、国内でも情報操作をしてどうにか騙していたわ」

 

「ドイツ国内での…政府に関係する?」

 

「というよりも軍よ。三ヶ月前に起こった軍の施設が爆破された事件。これが後に彼女、ラウラが実行したということが判明し、彼女に任意での事情聴取、場合によってはその場での逮捕も想定されていた。

けど、彼女は既に政府からの命令で日本へと向かう用意をしていたの」

 

「直ぐに確保は出来なかったんですか?」

 

「向こうが巧妙に証拠を隠蔽していたから時間が掛かったの。そんな事をできるのは国内でも数少ないって逆転した考えになったのが彼女が出立する二週間前。その間彼女は国内で準備を進めていたの」

 

「…今回の事件」

 

「そう。移動用の足の確保。武器と機体の密輸の準備。パスポートの偽造など。時期的に考えると相当前から練られていた計画のようね」

 

それにしては杜撰なところもあったようだが、と声を漏らす一夏にそれは仕方ないとメリルは返す。

精神的なことを考えると杜撰なところが漏れるのも無理は無いと言うが、それには全部同意したわけではない一夏は考えるように言う。

 

「多分、そこが今回の一件で見つかった。あいつの大きな欠点、というか弱点だったんだと思います」

 

「弱点…?」

 

「なんていうか…学園内であいつ等とやり合って、確かに戦略としてはよかったんでしょうけど、どこか捨て駒って感じが否めなかったんです」

 

「捨て駒、ね…」

 

確かに、高速道路でラウラがドイツ軍に拘束されたのも元を辿れば身内にある。

つまり彼女に決定的に欠けていたのは人望ということではないか。それが一夏の導いた答えだった。

優秀な指揮官であっても人望、つまりカリスマがなければ部下はついて来ない。

BIGBOSSも高いカリスマがあってこそ二度の決起を起こす事ができた。でもなければ一度目の決起、「アウターヘブン蜂起」で既に頓挫していたはずだし、そもそも決起すらもできなかっただろう。

 

では、逆にそのカリスマ、人望がないラウラがどうしてここまでの事を起こせたのか。

その話を切り出すとメリルはこう答えた。

 

「それでも彼女に部隊がついて行ったのは…大方社会への復讐か、恐怖でしょうね」

 

「恐怖って…アイツへの?」

 

「それもあると思うけど、最も彼女達が恐怖していたのは恐らく社会」

 

「…適応、ですか」

 

社会適応。それが恐らく彼女たちが恐れていた、そしてラウラの部隊に居たもうひとつの理由だろうとメリルは言う。

元々、出自が特殊な彼女達は他の同年代と違い社会常識などに欠落があった。

また社会への見方にも違いがあった。

つまり、仮に部隊から離れれば彼女達は否応にも社会という時代の怪物を相手取らなければならない事になる。

それは同年代の一般人ならある程度の知識と力があるから然程の問題はないのだろう。

だが彼女たちの場合はそれとは違う。

始めから社会というものに触れる機会が極端に少ない彼女達ではそれに対する対応や適応が難しくなってしまうのだ。

一般人が社会に出れば何とかなる。そう思うのと同じだ。

 

「社会に慣れない彼女達は行き場を失う。なら、残された行き場は一つしかない。それも、出ようが出まいが、結局は居る所(所属)が違うだけ」

 

「………。」

 

その結果。部隊には実質的脱落者はなくこの事件まで持ってこられた。

それがメリルの考える補い(・・)だったのだ。

 

「けど結局は補いも後になって意味を成さなくなった。彼女はその報いのように身内、部隊に裏切られたの」

 

「………それで、ああなったんですね」

 

「ええ。といっても彼女の怪我は騒ぐほどでもないし、三日で退院できるわ」

 

できる(・・・)?出来たじゃなくて…?」

 

話してなかったわね、と思い出したかのように言うメリルはココに来た理由と、そして事件の後の出来事を語り始めた。

 

 

「まず。今回の事件だけど、公には反IS過激派組織による報復行為という事で纏まったわ」

 

「………ッ」

 

「無論、それらしき組織をでっちあげてでの事だけど。お陰で彼女達のことはバレずに済んだわ」

 

「じゃあ。アイツの部隊は?」

 

「黒ウサギ部隊は今回の活動に加担したという事と、独断での戦闘行為。そして仮にも隊長であった彼女を裏切ったという反逆行為から部隊は解体されることになったの。隊員たちは全員政府監視下に置かれ、武器装備、そしてISも没収。そして副隊長であるクラリッサ大尉には上官への反逆罪として階級降格と監視下での執行猶予二年。それもある意味軟禁状態でのだけど」

 

「………案外軽いんですね」

 

「弁護士付きだからよ。おかげで部下たちは脅迫されて参加させられたって事で監視下での執行猶予一年になったわ」

 

思っていたよりも罪が軽いことに不満を持つ一夏は、それで全部かと言いたげな様子で頭を抱え、自分の傷が無駄だったのではと声に出したい気持ちを抑え呟いた。

 

「…ドイツも身内の事を隠すのに手一杯ですか」

 

「そう剥れないの。ドイツについての報告はもう一つあるの」

 

「………?」

 

「実は今回の一件はドイツ軍の介入は軍部の独断だったのよ」

 

「軍部だけの…ですか」

 

「言い訳がましく聞こえるけど、まぁ聞きなさい」

 

 

なぜ今回の事件で関わったのが軍部だけなのか。

それは最初にラウラたちが起こした爆破事件から始まった。

彼女が爆破した施設は軍内部でも特に重要も言えるようなところで、しかもそこは彼女にも関係のある場所だった。

しかしそれを表立って堂々と発表できない軍部は苦し紛れの回答として公と似たものを提示した。「爆破されたのは軍が管理するISの研究施設だ」と。

その間に軍は独自に犯人を捜査。すると、逆に巧妙に証拠隠蔽を行っていたことなどから軍人ないしそれに通ずつプロの犯行という事に行き着く。

そこから辿り、ラウラが犯人として浮上。軍は彼女を拘束しようとするが本人はこれを計算してギリギリのタイミングまで姿を消していた。

 

 

「これが国内で彼女が追われる身になった理由。そして、軍からの追跡はその後にも続いた。その結果がアレ(・・)ってこと」

 

「……軍が国外に出てまで追った理由が?」

 

「…彼女の機体よ」

 

 

代表候補としてラウラが受領した機体『シュバルツェア・レーゲン』。

これがもう一つ軍がラウラを狙う理由だった。

白と対を成す黒き雨。その機体に使われている新技術の数々。

問題はそこにあったのだ。

半ば強奪のように引き渡され彼女の手足として使われた機体には未だ政府からの採決待ちの技術が多く使われており、並の操縦者が使えば最悪機体からの負荷に耐えられず死に至るものも使われている。

更に、人工筋繊維についてはまだ政府にも採用を通知しておらず一見すれば問題の無いことではあるがスポーツという枠組みから逸脱するという懸念から政府から採決待ちとされていたのだ。

 

その塊である機体が堂々強奪。更には公に姿を見せたことにとより軍部はラウラの生死を問わずに機体の確保を決断。軍の特殊部隊と国連に席を置く、男を派遣したという事だ。

 

 

「人工筋繊維は知ってのとおり「愛国者達」の持って居た技術の漏洩によって齎された技術。いわば戦争に向いた技術よ。そんなものを大胆に使えば、現在スポーツとして治まっているISのパワーバランスに異常をきたす」

 

「………。」

 

「イチカの場合、立場が特殊だから使用は許されてるけど、本来人工筋繊維はまだISには採用してはならない技術なの。そうなればスポーツの枠を超えて戦争兵器に変貌してしまうから」

 

「だから、ドイツ政府は採決を保留している」

 

「ドイツだけじゃない。アメリカや日本もこれを保留している。理由は全く似ているものでね」

 

 

メリルの言葉に一夏はある事を思い出す。

それは一人先立って人工筋肉を使った身体となった男の事を思い浮かべていた。

「愛国者達」によって自らの身体を奪われた男。

雷電のあの力を。

 

「IS技術の先進国は人工筋繊維の登場で当然真っ先にISへの搭載を考えた。でも、それではコストもあるし、なにより世間に認めてもらえない」

 

「ある意味女尊男卑を強める理由になるし、スポーツとしてのISが一気に崩れ去るから、か…」

 

「毛嫌いしている人にとっては拍車をかけたくも無かったし。意図的ではあるのよ」

 

「…なら、俺は?平気で人工筋繊維を使った機体に乗ってるけど」

 

「そこは自分の立ち位置から考えて見なさい。自分がどんな立場で。どんなところを立っているのか」

 

「………。」

 

複雑な立ち位置なんだな。

ぼやく一夏は改めて自分の居る場所を理解し、恵まれているのだということを知る。

これがもし普通の一般人という立場であったなら、自分はどれだけ危うかっただろう。

 

「………なるほど」

 

「そう言うこと。わかった?」

 

「まぁ国内とか色々とは」

 

「…何かあったの?」

 

「いや、あったっていうかこれからあるっていうか…」

 

心配げに呟く一夏になにかあったのかと問いただすメリルは彼の台詞にああ、と頷く。

 

「貴方のことは心配しないで。大方キャンベルが言ってくれたから、日本に追われるなんてことはないはずよ」

 

「―――そのことで思い出した。大佐、なんか怪我してたけど……」

 

「気にしなくて良いわよ」

 

「――え?」

 

「気にしなくて、いいわよ?」

 

「………………。」

 

 

メリルの強引な口止めに一夏は察した。

―――ああ。大佐またなんかやらかしたんだな。

と。さも、死人へと弔いを行うように。

後に彼は知る事になる。

自分が意識を失っている間、キャンベルが僅か十分ほどで太平洋を横断し、自宅を強襲した二人によって制裁を喰らったということを…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

伝えるべきことを伝え、話す事を話し、久しぶりだが会話ができたという事に満足感を感じていたメリルは嬉しそうな表情で病室を後にする。

最近ではこうやって安心した笑顔というのが少なくなったので久しぶりにそんな表情ができたということに喜びを感じ、怪我をしたとはいえ変わりない青年の姿に母親のような嬉しさを色濃く見せていた。

 

「………。」

 

だがそんな表情も長く続けてはいけない。隊長としてもあるが今の自分の状況。そして自分に対しての厳しさも含めて、メリルは自身に言い聞かせると深く深呼吸し気持ちを切り替える。

ここからは彼の友人であるメリルではなく、隊長としてのメリル・シルバーバーグとして行動する。頭を切り替え、笑みを消すと再び真剣な眼差しになる。

 

 

 

 

 

 

 

その刹那。

 

 

 

 

 

 

 

「あら。随分と年上の人とも縁を持つのですね、イチカさんは」

 

「ッ………!!」

 

向けられた視線に思わず振り向くメリル。反射的に利き手は自分の腰に向かって行き、一丁だけだが入っている相棒を抜こうと手をかける。

 

「お待ち下さい。こちらにその意思はありませんわ」

 

だが抜こうとする直前に少女に制止を呼びかけられ、本人はその意思がないとストップの合図を送る。

メリルもその合図は聞き入れたものの警戒を解こうとはせず利き手は未だに相棒を握り締めており、完全に聞き入れたわけではないという意思を見せる。

 

「――と言って簡単に納得してくれる方ではない…仕方ないですわね」

 

「……貴方、何者?」

 

 

 

 

 

「何者、と言われたら。答えるべきは一つ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――彼の学友ですわ」

 

そう言って、メリルの前に立つセシリアは笑顔と共に自分を言い表した。

 

 

「……ただの学生が、そんなに鋭い視線を向けるかしら?」

 

「………。」

 

だがそんな言い訳は彼女には通じない。

一目見た瞬間、その気配を感じた時。彼女の中では多少ではあるが察し付いていた。

彼女のこと。出自。地位。そして実力。

まだ確実ではないが恐らくは当たっていると見たメリルは恐る恐る警戒を解かず、それでも冷静な態度でセシリアへと言葉をつなぐ。

 

「イギリスの方では実際に年端も行かない娘たちを戦場に放り込んでいるって聞いたけど、本当だったのね」

 

「………。」

 

「生存確率は10%以下。更に、駆り出される戦場の全てでは作戦成功率も低く生存率も限りなく低い所をチョイスされてるって話も聞いたけど?」

 

「……多少化粧はされていますが……どうやら本当のようで」

 

メリルは僅かに目をズラし、セシリアの袖のほうに違和感を感じとる。

不敵な笑みと共に見せる学園独特の学生服。その袖が棒のように真っ直ぐに伸び下へと向けられている。

―――だがそれにしては妙だ。

彼女が違和感を持ったのは袖というより袖のふくらみ具合。

いくら彼女が鍛えているといっても膨らみ方が可笑しかった。まるで一本の棒が彼女の腕の中に通っているかのように。

違和感を確信に変えたメリルは再び目線をセシリアへと向けた。

 

 

「――ですが、今は貴方と争う気はありません。私は見ての通り、ただ往訪に来ただけです」

 

「…見舞いに行くのにそれ(・・)は必要なのかしら?」

 

「これは護身用。それにアレが起こってまだ日の余り経ってませんから念のためです」

 

「………。」

 

「心配しなくても彼に撃つ気はありません。そんなことをするならとっくの昔に、というやつです」

 

言う事は尤もだが、それでも信用は出来ない。

上手く説明はできないが、どうにも彼女にはセシリアの裏に勘付いていたのだろう。

未だに手を握っているメリルは愛想笑いをする彼女にに睨みを利かせるが本人はなれてしまっているので怖気づこうともせず平然としている。

 

このままでは堂々巡りか。そう思ってしまったメリルは諦めた顔で小さく息を吐き、握っていた手を見えるところに離した。

 

「変な事したら承知しないわよ」

 

「無論。殿方との戯れは…また彼が健やかな時に」

 

「…私の目が黒いうちはやめときなさい。でないと私の50口径が火を噴くわよ」

 

 

その言葉を警告としてか、捨て台詞としてかメリルはそう言い残すとエレベーターのほうへと歩き去っていった。

ただ一人残されたセシリアは僅かにその場に立ち止まっていたが、やがて体内に溜まっていた息を大きく吐き出すと

 

 

 

「―――全く…」

 

と緊張が解れた様子で今まで隠していた汗を滲ませ歩き去っていったほうへと振り向いた。

上には上が居る。久しぶりにその感覚を彼女は身に受けていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

日が差し込んできたからか、少し熱くなり始める。

明るい日差しが白い毛布を照らしそこから日の熱が伝わる。

黙っていれば熱いと思えるが今はまだ丁度いい。

晴天の空が涼しげな風を窓から向きこんでくれるのだ。

お陰で丁度いい程合いの風と日差しで過ごしやすいものとなってゆっくりと出来る。

今までそうやって過ごすことをしてこなかったので新しい感覚にも思える。

 

だが今回ばかりは違う。涼しげな風は嬉しいが、日差しが今日は鬱陶しく思えてしまう。

 

日のあたらない場所。それが今日はお似合いだと、彼女は思っていた。

 

 

「気分はどうかね?」

 

「………。」

 

小さく縦に頷く。

お陰様で。と答えたいが、硬く閉ざされた口は思うように開いてくれない。

 

「身体は。担当医からはもう平気だと聞いているが」

 

もう一度頷く。

まだ口は開けられない。

それを見かねた彼は唸ったような声と共に話を切り出した。

 

「……とり合えず、最悪の事態は避けられた。傷についても問題は無い。回復は順調だ」

 

だが。と言葉を繋ぐ彼に、それが聞きたかったと動かなかった顔を振り向かせた。

 

 

「問題は君自身だ。ラウラ・ボーデヴィッヒ」

 

「………。」

 

ラウラはそれを肯定するかのような目で、目の前に座るキャンベルと顔をあわせた。

双方ともに初見ではあるがキャンベルは先に事件の関係者として資料ではあるが彼女のことを知っていた。

そんな彼がラウラをみて最初に思ったのが資料で見たよりも幼げな顔だという事。

元からそうだといえばそれまでだが、今の彼女は生気が抜け切ったかのようにしぼんでしまっていて、見ただけでも生きる気力を殆ど失っているかのように思える。

キャンベルの言う彼女自身の問題。それがそこにあったのだ。

 

「やるだけの事をやり。知るべきことを知った今。君はどうしたい?」

 

「………。」

 

「全ての咎を受けて、君はそれを一生背負うことだけを考えるのか?それとも敗者に相応しい生き方を自分から作り、歩むのか?」

 

「―――。」

 

「それは違う。それでは今までと似て通ずることになる。いつまでも現実を受け入れなくなってしまう」

 

 

 

すっかりと生きる気力を失ったラウラは抜け切った様子だった。

まるで生きた人間に近い姿の人形。それが今の彼女だと言える。

以前のような殺気はもうなく、あるのはただ少女としての姿と風格だけ。

濁りきっていたあの目はもう無く、ただの人というには光を失いすぎた目の輝き。

何処がで知る事を拒絶していた事実を全て受け入れた彼女は自分の今までをただ一言にまとめて言い表す。

 

 

―――自分の今までの行動は一体何だったんだ

 

 

良く言えば夢と理想のため。

しかし一転させればただの子供のわがまま。

何故そんな事を今まで信じて生きてきたのだろうと知ったラウラは全てが無駄だったと理解すると、残されていた殺意という残留思念と共に彼女の生きる意味と力は全て何処かへと抜けていってしまった。

今の彼女にはもう殻の身体と心しか残っていない。

 

 

「………知ったさ。現実を」

 

「………。」

 

「受けたさ。咎を

だが。私の罪はそれだけではない。

私は誰にとっても意味の無い理想を掲げ、それを信じ、そして知った。

本当は誰もが分かっていたことを心のどこかで見ぬ振りをして。

結局は無駄だということを……」

 

「………。」

 

「生きる気力もない。意味もない。あの人の下に居たとしても私はもう戻れない。二度とやり直せない―――」

 

「…そうだな」

 

なら。伝えるには今しかない。

淡々と語り続けたラウラにキャンベルは止めの一刺しを振り上げた。

それはドイツと国連から言い渡された彼女への処遇だ。

だがその処遇は最初に見たキャンベルでさえも言葉を失った。

それが正しいのかと本当に問いただしたくなる内容。その結果。

常人なら精神が可笑しくなるのは明らかなことだ。

なのに彼らはあえてそれを堂々とそこに記した。

常人が本当に生きる気力を失うその全てを。

 

あとは全て本人次第。

だが今の彼女にそれを耐え切る力があるだろうか。

無言で杖を強く握るキャンベルはその僅かといえる可能性を信じ止める事無く突きつけた。

 

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒ。君にドイツ政府ならびに国連からの処分を言い渡す」

 

 

「―――。」

 

 

「――――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

君の所有する財産の没収。

 

無期の国家代表への昇格禁止。

 

軍または政府関係施設などに登録させている君のデータの抹消。

 

指定年齢までの保護観察と執行猶予を言い渡す」

 

 

「……………。」

 

 

「ッ………!!」

 

 

 

つまり。今この瞬間。

 

『ラウラ・ボーデヴィッヒ』という一人の少女。

その存在の全てが抹消された。

 

 

 

「だが君の、ラウラ・ボーデヴィッヒという存在が消されたとしても罪は消えない。君が指定された歳になるまでその全ては続く」

 

「………。」

 

「君が代表候補として行った行為。これによって君が使っていた機体の没収は勿論、ドイツ政府は今回の事を理由に向こう数年間の国家代表の停止を通達された。君のような人物。それをまた作らせないためにだ。

それまでの間、君はなれるはずであった少女達から夢を奪ってしまうことになる。いくらいけたとしても代表としての地位は確実に下がる。そして自分たちの立場も。

その全てが、他でもない君に伸し掛かるんだ」

 

当然、ラウラだけではない。軍にも非はあるが、それはここで言うべき事ではない。

仮に軍の失態であるとしても実行に移したのは他でもない彼女。

軍の命令ではなく自身が選び、行った故意だ。

これら全てのペナルティは酷なことをいえば当然の報いとなる。

この後に続くはずだった国家代表達が指定された年数表れなくなるという事。

その所為で多くの新しいIS操縦者達の夢が失われた事。

そしてその怒りの矛先。それが彼女に向くという事。

 

子供に言いつけるように言うなら、散々自分が好き勝手やった罰。

 

 

「君はこれから仮にラウラ・ボーデヴィッヒでなかったとしてもいずれはその咎を向けられることが続く。

軍の失態でもあるとはいえ、これを実行した君たちにも非はあるのだからな」

 

「………。」

 

「…だが―――」

 

 

 

 

 

 

 

「何故生かす」

 

「………っ」

 

「何故。私を生かした」

 

重くなっていた口。それが不思議と軽く広がり、意味も籠もっていない言葉がそこから吐き出された。

生気を失った目であるのは変わらないが機械的にラウラは呟いた。

 

「私が全ての原因だ。本来なら死罪は免れん。なのに…

何故私を生かす?」

 

「………。」

 

彼女のいう事も尤もなのだろう。

本来なら死罪ないし終身刑はあり得る事態。そして行いだ。

なのにラウラは財産剥奪と保護観察というだけで留まっている。

これは軍人として生きていたラウラにとっては可笑しいととしか言えない処分だ。

死を覚悟していたのにあったのは生という罪。

生き地獄というのだろうか。

それでもその矛盾に納得できない彼女は失った生気のまま、顔を合わさずに訊ねた。

 

どうして私が生きているのだ、と。

 

 

「もう生きる意味も無いに等しい。なのに何故…」

 

 

もう死にたい。そうも思っていたのだろう。

だがここでキャンベルは気づいた。

ここで使うべき言葉だったのだと。

 

 

「……「人として、生きる」だそうだ」

 

 

「………え?」

 

 

ポツリと呟いた台詞にラウラは顔を向けた。

そこには全て理解したキャンベルが優しい微笑みを見せており、そのまま今理解した言葉の意味を淡々と喋り続ける。

 

「確かに君は兵器として生まれた。兵器なら感情は持たん。従うべきに従い、矛盾を思わずに戦う。

だが…君はこうして感情を持ち、矛盾に反論している」

 

「……それ、は」

 

「矛盾に違和感を感じ、反するのは生き物の証拠。

生まれてから他人の命令に従い続けたとしても、それは全て自分の意思で決めていたことだ。従うか否か。進むべきか止まるべきか。

答えは全て自分で決めていた。誰かではない。

AIのように確率で決めていない。自分の意思を元に決めたんだ。

君はもう兵器ではない。一人の人間だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

少女は全てを失った。

理想。夢。憧れ。憎しみ。怒り。殺意。

過去。未来。

そして存在。

(ゼロ)へと回帰した少女にはもう何も残っていない。

心は空に。身は脆弱に。目は先が見えなくなった。

 

 

だがまだだ。まだ終わっていない。

 

 

空になってしまったのなら。

何もなくなってしまった器があるのなら、そこに新たに注ぐだけだ。

今度は濁ったのではなく。澄んだものを、彼女に注ごう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃。再び一夏の居る病室では見舞いにきたセシリアがひとつの花束を置き、一夏に眠っている間に起こった事と結果についてを報せていた。

 

「じゃあ…シャルの奴…」

 

「今回の件を考えるとデュノアさんは加害者というより被害者。それでも無断であることには変化無いので相応の処分は下されるでしょう」

 

「下される…じゃなくて下された、だろ?」

 

「…ええ」

 

結果的にラウラやデュノア夫人に操られていたとは言え、銃を持ち一夏に撃ったことには変わりなくシャルはメリルたちの下で監査。夫人が一夏への妨害等を再開させる可能性があるものは全て没収し、シャルからも、いやシャル自身がもう持ちたくないということから所持していた銃などは回収。機体も一度検査にかけることになった。

 

シャルロット・デュノアへの処分は長期間の保護観察。

それと付属として定期的な検診が言い渡された。

これは当然ながら本人の体内にナノマシンがあるかどうか。またそれを抜き出せるかどうかという事でそれ自体が難しいが、それによる精神的疲弊を回復させる為のカウンセリングも兼ねている。

 

「それでも彼女は一定の訓練を受けている人ですから、それを無闇に行わせないように枷はつけるようです。

まぁ本人がその気になるのはこの先当分は無い事でしょう」

 

「だろうな。本人もかなりナノマシンに弄られていたようだから銃だって見たくないだろうに」

 

「ですから、それもあってフランス政府は彼女の代表候補取り消しと帰国。そして本国での治療を提案しているのですが…そこは一応本人の意思を尊重して彼女が決めるそうです」

 

フランス政府は今回の事件にデュノア社が関連していると知って慌てはしなかったが、国内の企業がテロを起こしたとなれば自国の地位も危ぶまれるとして、政府は本社への強制捜査を決行。夫人が行ったとされること全てを調査し、どこまで根を張っていたかなどを調べることとした。

尚、テロの時に本社に居たデュノア夫人は現在生死不明(・・・・)

社長は今回の件を謝罪し政府からの経済的制裁を受け入れる方針とした。

 

そのため一応ながら彼女のことを悪く扱う人物が居なくなったということでシャルには一度本国に戻ってもらい、本人の意思を踏まえて新たに代表候補を選ぶか、彼女が続投するかなどを思案するということだという。

 

 

「申し訳程度だな」

 

「ええ。酷く言えば手のひら返し。フランス政府はこれまで彼女に、デュノアに何もしてこなかった。一企業だからといえばそれまでですが、デュノアは国内ひいては政府とも関係を持って居た」

 

「今まで見てみぬフリをしていたけど、今は不利益となって手のひらを返す。常套手段だな」

 

「それもあって、今彼女はそれを保留しているんです。戻るべきか。留まるべきか」

 

「全ては本人次第、か…」

 

恐らく戻れば形式上優遇されるだろうが、それでも彼女がモルモットになるという可能性も捨てきれない。自意識を保ちつつもナノマシン制御された兵士のように的確且つ迷い無く戦う兵士。作り上げれば応用は可能だ。

だがだからと言って残ることも難しい。

カウンセリングは続けられるが、何時また今回の事件に似通った事が起こるかも分からない。その場合最悪また彼女が何らかの形で関わる事になってしまう。

そうなれば今度こそシャルの精神は崩壊するやもしれない。

 

どの道あるのは茨の道。結局は誰かに利用されるだけだ。

なら。彼女の答えは自ずと決まってくる。

 

 

 

「ま。多分今のアイツなら…大丈夫なはずだ」

 

そう言って、一夏は少し蒸し暑さを感じ始めた空を眺める。

夏の始まりを二人は感じた。

 




ちょっとMGSV風に予告を…

・テープを入手 [一夏を見舞う篠ノ之箒]

        [一夏を見舞う凰鈴音]

        [デュノア社 社長室での密談]

        [事件直後の悶着 キャンベル自宅にて]
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