IS×MGS - Another Solid -   作:No.20_Blaz

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第四十五話です。

先にひとつ言います。


クソ長いです、今回。


今までは一話大体30ページ前後だったんですが、今回は纏めすぎて40ページオーバーです。クソ長いですし多分つまんないです。
一応次でAct.2を終わらせる予定ですが…(汗
ああ不安になってきた…


今回は病院でのそれぞれの会話。そして次回へと続く話となっています。
シャルについては今回で決まり、そしてラウラについては次回で終結です。
果たして二人がどうなるのか。

では、第四十五話をお楽しみ下さい。


No.45 「決意の朝」

 

 

= 同日 総合病院フロント =

 

 

一夏たちが入院した病院にある広々としたフロントロビーでは、多くの人が幾つかの列になった長椅子に腰を降ろし、呼び出されるのを待っている。中には呼び出されることを待たず、誰が待ち人を待っているという人物も居るが彼らは当然その部類だろう。

だが同時に異質さも感じられるのもまた事実。周囲には何か雰囲気の違う者が四人、それぞれ他人のフリをしているが何か周囲に気配を配っているようにも見える。

仮に彼らが誰かを警護しているとしたら、その人物は彼らの中心にいる、と思えるが実はまだその場には居らず、今ようやく姿を現したのだ。

 

 

「………。」

 

白髪の男が目線をズラす。

同じ老年の男性が杖を突いて近づいてくると、何も言わずに彼の隣へと腰を下ろした。

腰に気遣いがあるのか降ろし方は妙にゆっくりとしている。歩きや杖の動きはまだ元気さを見せているが身体と健康には神経質になっているのだろう。

老人が座った隣には彼を見る男と、黒髪の少女が一人。その場の空気に合わずのんびりとしており携帯端末にインストールしたゲームに夢中だ。

 

「話は終わったのか」

 

「ああ。二人ともな。それに彼とも話しはつけて来た」

 

杖を支えに言葉を返した老人、キャンベルは隣から呟くように話を切り出したスネークの方を見ずに答える。

 

「娘二人と話すのに時間を掛けたな」

 

「二人共それぞれに事情がある。君のように選択肢がないと言う訳でもないからな」

 

「……アンタがそうしたようにも思えるが」

 

苦笑して笑い誤魔化すキャンベルはそんな事もあったな、と覚えのある出来事を一つ脳裏に浮かべていた。あの時のように強制力はない。どちらも本人の意思が決めることなのだ。

そう思うとその時の自分に腹が立ちつつも仕方が無いのだと自身に言い訳し、言葉を繋ぐスネークへと耳を傾ける。

 

「で。あのフランス娘(シャルロット)は」

 

「今回は加害者であり被害者であるのは二人とも同じだか彼女はどちらかといえば被害者寄りだ。それでも処分は変わらんよ」

 

「武器類の没収と保護観察。事件に関与していた割には軽いな」

 

「そうでもない。執行猶予六年。それまでは監視付きの指定された所での生活を余儀なくされる。勿論、ナノマシンで蝕まれた精神の件もあるからカウンセリングは必須だがな」

 

それでも少ないだろ、と文句ありげな言い方でスネークが食いつくがキャンベルは間をおかずに返答する。

 

「言っただろ。今回彼女は被害者寄りだと。彼女が(一夏)を撃ったのが事実としてもそれは本人の意思ではない。情状酌量の余地はある」

 

「………。」

 

「それに幸いこれは学園内の生徒には知らされていない事だ。口裏合わせればある程度は誤魔化せる」

 

「悪人のやり方だな。随分と板に付いている…」

 

「仕方あるまい。時にはこうするしかないんだ…」

 

時には悪人にもなるしかないんだ、と呟いたキャンベルに口ごもると無言のままに彼の言葉を受け入れた。納得がいかないのは変わりないが、それでも彼の言う言葉には一理あると思い、何より自分もそれを経験し知っているとなれば嫌でも脳裏から掘り出され強調される。

諦めたスネークは溜息をひとつすると話題を切り替えた。

 

「……で。今回の首謀者については」

 

「話したとおりだ。彼女の全財産の没収。個人情報に至るまでの全ての抹消。事実上存在しない人物となったというわけだ」

 

「それと保護観察と執行猶予か。本人と周りはそれを納得したのか?」

 

「…本人も一応は受け入れた。完全に…ではないがな」

 

「彼女の元部下は」

 

「この件と処分は副官のみに伝えた。本人も言いたい事はあったが国の命令には逆らわんかったよ…」

 

「………。」

 

尚、今回の事件で解散された元黒ウサギ隊のメンバーは監視下はそのままに再編される部隊に組み込まれるという措置がなされた。

ただし今回の事件もあると言う事でしばらくの間は組織としては極秘裏ないし存在しない部隊として扱われ、ほとぼりが冷め次第表に出すという算段らしい。

無論、それで全て丸く収まると言う訳でもない。

社会に出られないという恐怖と上官の復讐の為の駒として扱われた事。誰の目から見ても彼女たちにそれだけで終わりというのも矛盾している。

軍にもラウラにも非があり、それが明るみに出た今、それを反省点に改善か変更するという事があってもいいのではいか。

 

もし自分が彼女の部下であったらと思い考えるスネークに、心を読んだかのようにキャンベルは口を開いた。

 

「それと、今回の件で政府は一度全ての軍管轄の施設への視察団の編成を決めた。軍が独断で何をしていたのか今まで分からずに起こったのだからな。

軍もその組織体制を解体、首相以下内閣組織によって入れ替えなどが行われる」

 

「………。」

 

「それと監視下の間、彼女達には社会に出るための勉学というのを受けさせるようだ」

 

「一般教養もまともにしていなかったのか」

 

「一般教養というより、必要最低限且つ軍の都合の良いような考えだけを持たせていたようでな。監視員やカウンセラーが驚いていたようだ」

 

「…下手すれば知識は一般の学生以下か。俺でもそこまで酷くはなかったぞ」

 

苦笑するスネークに共感の念を抱く。

あの「愛国者達」であってもスネークへの教育はしっかりとしていたであろうし、心の育みも本人に任せるままに在ったとしても普通の人間として育っている。

仮に彼らが彼女達を兵器として育てるにしても、もう少し社会と精神には気遣い、育むべきではなかったのか。もし彼らが「それでいい」というのなら始めから人間の兵器というのを創るべきではなかったし、それならAIにでもすれば済む話だ。

それを成功させれば名誉なことであり、誰よりも先に立てる。そんな欲求がもう一つの原因だったのだろう。

 

「今回の事件を受けて国連のUNHRC(国際連合人権理事会)が腰をあげてな。最低でも社会精神を育てることを第一にするそうだ」

 

「歪んだ社会知識では通用以前の問題だからな」

 

「それに今なら間違った知識は修正できる。「それが当たり前」ということがまだ完全に刷り込まれてないからな。社会入りさせることは十分に可能だ」

 

 

 

 

 

「―――だが彼女は。ラウラはどうなる」

 

「………。」

 

「今回の事件の首謀者。彼女達から夢を奪った張本人。存在を消しただけでは罪滅ぼしにはならんハズだ。少なくとも、彼女が生きていると知れば…」

 

そこから先は言わずとも分かっている。

小さく唸り俯いたキャンベルは黙り込んでしまう。

そのための方法があるのか。はたまた無いのか。それだけでもはっきりとして欲しいが彼はしばらくそのままだった。

 

「―――大佐」

 

まさか、と続けたスネークは彼の方へと目を向ける。

そこには彼の頭の中で浮かんでいた幾つかの可能性があり、その中から摘み上げたかのように口を重く開いた。

 

「方法はある。それは―――」

 

それはスネークにとっても、ある意味当然のことでありそれしかないのだと嫌にでも納得せざる得ない方法だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――そういえばイチカさん」

 

「…ん?」

 

「貴方が眠っている間に篠ノ之さんとあの酢…凰さんが見舞いに来たようですわ」

 

「ッ…」

 

「私も偶然見ただけですが…

殿方が女を泣かせるのはいけない事です。もし、貴方にその覚悟があるのなら…

あの時(・・・)のようにケジメをつけて来てください。でなければ…」

 

 

一瞬。喉の奥から本音が湧き上がりそうになる。

しかしセシリアはそれを堪え、直ぐに代わりの言葉を用意して振り返る。

 

 

「私は、貴方を後ろから堂々と撃てませんので」

 

「………撃たれるの前提かよ」

 

「当然です。女を泣かせたときから貴方はそう決まっているのですから…」

 

また一瞬。

今度は一夏がその姿を目に捉えた。

彼女の笑みが崩れた瞬間。ほんの僅かな事ではあるがそれを一夏は自身も不思議に思うくらい自然と目に焼き付けていた。

 

その言葉を最後に、セシリアは何も言わずに部屋を後にし真っ直ぐにフロントのほうへと歩み始めた。

病室の外には待っていたアリスが立っていたが彼女に何も言わず、ただ無言のままに歩き去っていったのだ。アリスもそれには驚き、急いで彼女を後を追う。

 

「ちょっお嬢ッ……」

 

「………。」

 

アリスの声に耳を傾けずただ歩いて行くセシリア。

その後姿を見て、アリスはなんとなしに心の中で悟りそれ以上の言葉を口に出さなかった。

今はそうしておくべきなのだろう。

今は彼女の時間なんだ、と。

 

「……先に車回しておきますね」

 

「………。」

 

答えなくてもいい。独り言のように呟いたアリスはそう言ってセシリアの後ろをついて行った。

 

 

 

 

「………。」

 

ただ一人、病室に残された一夏はその足音をしばらくの間ドアを見ながら見送り、それが遠のいて行くと自分への体罰のように拳を額へと強く当てた。

 

「……何やってんだろ、俺」

 

最低な人間だと心の底から思った一夏は、拳を強く握り自分の情けなさに恥じらい責めていた。

―――結局、自分は他人に迷惑だけをかけていただけじゃないか。

脳裏に再生されるセシリアの言葉と姿に強く思う彼は、徐に窓側に置かれた花瓶を見つめる。現実逃避ではない。

まるでそれが脳裏に浮かぶ事をより鮮明にするために装置であるかのように、青空の中を風に吹かれるオオアマナの花を見ていた。

 

 

 

 

 

 

すると。また誰かが病室の扉をノックした。

一体誰がと疑問に思いつつも警戒心を持ち、どうぞ。と答えた。

そして許可を得た客人は静かにドアを開けると先ず

 

 

 

 

 

 

嫌なパンチパーマを見せた。

 

 

「………。」

 

「よっ」

 

「アンタなぁ…」

 

しばらく見たくない顔が現れたその瞬間、一夏は盛大に深い溜息を吐き出す。

その勢いで生気までも抜けて行ってしまいそうな大きさのだ。

負の感情に獲りつれ感覚のある一夏はそんな感覚とは対照的な陽気さを見せる彼の姿に苛立ちを感じつつもそれは絶対に無駄だろうと諦めていた。

 

「まぁそんなシケた面すんなよ。俺がとんだ場違いだってのは分かってるからよ」

 

「ならなんで来たんだ」

 

コーラを片手に陽気な姿のドレビンは棚に缶を置くとセシリアの座っていた椅子…ではなくもうひとつの病院ベッドの上に座り足を放り出した。

そして。何時以来だろうか、陽気さの消えた声が、次から彼の口から出ていた。

 

「励まし…なんてワケじゃないさ。ただの世間話とでも思ってくれ。なんなら別に独り言とでもな」

 

「…………。」

 

「本当はお前に話したいことがあったが…先にこっちの方を片付けたほうがいいと思ってよ」

 

「…こっち?」

 

 

 

 

「………「自分は彼女達を泣かせた」」

 

「ッ…」

 

「いや。「俺は彼女達に不幸した招かない」か?随分と悲劇のヒーロー気取りじゃねぇか」

 

「それは…」

 

言い返せない言葉に一夏は詰まらせる。

ドレビンの言葉は何時もよりも冷たく、そして鋭い。彼は一夏の全てを知っているかのように急所を容赦なく見えない槍で貫き続けた。

 

「事実か?まぁそれもそうかもな。あの日本の嬢ちゃん()はお前の全てを知らず。もう一人()は真実を知らない。更にあのイギリスっ子(セシリア)には気持ちを伝えず理解もできない」

 

「ッ…ドレビン…!」

 

「そして。あの二人には」

 

「やめてくれ…!」

 

「……自分の所為で人生を狂わせてしまった」

 

「ッ………!!」

 

歯を強くかみ締め枕の下に隠されていたSOCOMを抜くとドレビンへと銃口を向ける。

鋭い怒りの目に息を荒げ、一夏は止めとと目で訴えるがドレビンはそれを軽く一笑した。

彼にとってはその程度にしか思えない行動だからだ。

 

「スネークでなくても厭きれるさ。確かにお前の所為であるのかもしれない。自分が今何をしているのかも。どんな立場であるのかも。何を知ってしまったのかも。何をやってしまったのかも。全て話さず、言わなかったお前が悪いのかもしれない。

けどな。それだからって延々抱えるもんか?」

 

「―――。」

 

「真実は何時か伝えればいい。気持ちは時間をかけて理解し、そして伝え答えればいい。

自分が人生を狂わせたのなら、戻す為に手伝えばいい。

難しそうにみえて実は簡単なことさ。単に深く考えるから、そうなっちまうだけだよ」

 

まるでスネークか誰かに説教されているようだ。

返しどころの無い、唯々打ち込まれるだけの言葉の数々。

返す言葉もない一夏はただ押されるがままに圧倒され小さく言い訳がましく呟く程度しかできなかった。

 

 

 

「…でも………」

 

「あのフランスっ子とドイツの嬢ちゃんか。確かにお前が狂わせたのかもしれねぇな。けどよ…

 

 

 

 

 

同時に救ったのもお前じゃないのか?」

 

「―――。」

 

 

可能性の話だ。

もしあの時。それは誰だって思い浮かべる話。

もしあの時ああだったらと思う「if」の話だ。

 

もしあの時。自分が彼女を助けていなかったら。

もしあの時。自分が助けられなかったら。

もしあの時。自分がああ言っていたら。

 

 

もしあの時。自分が迷い無く撃っていたら。

 

全ての考えには最後にこう付く。

 

―――こうならなかっただろう。

 

現実を逃げたいが為に誰もがそう締めくくる。

 

 

 

 

しかし。それを更に、もう一度「if」で考え直すとどうなるだろう。

 

 

 

 

 

もしあの時。自分が彼女を救っていたら。

 

もしあの時。彼にああ言っていたら。

 

もしあの時。自分が彼女を助けていたら。

 

もしあの時。彼女を撃たなかったら。

 

それが今。そしてそれが現実。正しいも違うもない。

それが起こった事。そして、それが結果として救いになった。いや、したのだ。

 

 

だがそれは結果論でしかない。

 

 

「――それは結果論だ。結果としてこうなっただけ。一歩でも間違えれば……」

 

「…………随分とまぁ」

 

あきれ返ったように溜息をしたドレビンは腰を上げると見下ろした目で一夏に問う。

 

 

 

 

「…………お前は誰だ」

 

 

「……は?」

 

 

「俺の知ってる『イチカ』は自分のやったことに迷いは持たなかったぞ。少なくとも、それが良かれ悪かれ…どちらに転んでもだ」

 

 

「ッ……そんなの、仕方ないだろ………」

 

「「人の物の考えは変わるものだ」か?」

 

先を読んだかのように答えるドレビンに歯を強くかみ締める。

苛立ちを抑えるがそれも何時まで続くか分からない。彼が怒りに任せ引き金を引いてしまうのが何時であるのかもだ。

しかしそれを物ともせずにドレビンは淡々と言葉を返していく。

 

「確かに物の考えは変わるさ。だがそれはちょっとやそっとじゃ染まりきるわけもない。時には戻ったりもするし、そこから変化もする。そうポンポン変わるもんでもないさ」

 

「………。」

 

「確かに、お前の物の考えは二年で変わったのかもな。けど…だからって頭と身体は正しいか?」

 

「ッ…」

 

頭と身体。

自分の所為で周りが不幸になっていると思う一夏だが、それも全て自分の頭が思っていることで結果として理解したものだ。

だがそれなら始めから不幸になるようなことをしなければ良いのではないか。少なくともその余裕は彼にはあるはずだ。その選択肢を選べることが出来たはずだ。

なのに、何故そうしなかったのか。

簡単なことだ。頭と身体ではやっていることが違うからだ。

頭ではこうするべきだった。こうすればいいと後と先(未来)を考える。

だが身体は違い、こうするしかないと(現在)を考えていた。

 

もし仮にまたこれに似たことがあったとしたら一夏は頭から先に動かすだろうか。

 

恐らくそれは一夏でも察し付いてる。目の前にある問題は迷い無く実行するはずだ、と。

 

 

「正直。お前は考えるより身体がって奴だ。目の前に助けを請う奴が居れば助け、苦しんでいる奴が居れば、救いの手を差し伸べる。さしずめ正義の味方、困った奴はほっとけないって奴だ」

 

「それは…」

 

「結果として。お前は彼女達を生かした。それが地獄であるのは確かだが、それを考えらる時間と生を与えた。」

 

「―――。」

 

「そうだろ?あの倉庫のことにしたって、戦艦の上での事にしたって…お前がその時持っていた銃を使えば、あの二人は楽に逝けた苦しまずに済んだ。

だが…お前は生かした。後先よりも今を考えて身体が動いた。違うか?」

 

「………それは、そう言うときだったから」

 

「そう。そう言うときだからだ。そんな時に冷静に考えるって奴も居るがお前は違う。目の前の事を最優先に後先考えずに行動する。後の事なんて幾らでもなるって奴だ」

 

ドレビンの言葉になんだか自分が考えなしの馬鹿のように思えてきた一夏は恨みがましい目で彼を見るが、それを本人は笑って返した。

 

 

「ま。要はうじうじしているのは情けねぇってことだ」

 

「…先にそれを言えよ」

 

「そう言うなよ。俺も久々にお前と話をしたかったからな」

 

「商売の話じゃなくてか?」

 

「買うか、弾」

 

買うか。と即決で答える一夏は呆れて頭を掻きつつも熱が冷めたのかSOCOMを枕の下へと隠す。一応法治国家の為と補充は可能であるというのが本音だが、それはあえて言わないで置こうと考えていたのだ。

だがそこで一夏はある事を思い出す。ドレビンがここでこうして居るという事は何かしらのビジネスの為に来たのではないかと。

 

「っていうか…あんたなんでまだ日本に居るんだ?」

 

「ん?理由を言う必要はあるか?」

 

「………無いな」

 

「だろ?ちょっと長居する理由はそれだけだよ俺は」

 

ああ、それと。

付け加えたかのように思い出す彼は一夏に尋ねる。

 

「あの機体に結構振り回されてるようだな。さすがは新技術か?」

 

「なんで知ってんだって、まさか…」

 

「ああ。あのCNTは俺が調達してきた。調整はあの嬢ちゃんたちだがな」

 

「…まぁ大体の見当はついてたけど、やっぱしか…」

 

「今はまだ国家がパワーバランスに敏感だからな。あったとしても国内からは絶対に出さないさ」

 

「知ってる。俺がイレギュラーであったりズル(非合法)しているのも」

 

「そうか。なら…」

 

白いハンカチを取り出したドレビンは一夏の前にあるテーブルへと置くと、まじないでもかけたかのように一気に取り払う。

すると本物のマジシャンさながら、そこには一つの鍵が置かれていた。

 

「…これは?」

 

「直ぐ分かる。しばらく肌身から離すなよ」

 

置かれた鍵を見て手に取る。偽物ではない。不純物が僅かに紛れた鉄の素材の冷たさとニオイ。インチキではない本物の鍵だ。

だが、これを一体何処で使うのか。それが分からない一夏はドレビンに訊ねようとするが、本人は既に帰ろうとドアノブに手をかけて退室していた。

 

「おい、ドレビンッ!?」

 

「またな。しばらく日本に居るからそのうちまた会えるさ」

 

本当にそうなんだろうか。一抹の不安が彼の頭の中を過ぎり、次に会える機会が近い内にあるのかと聞こうとするがもう本人は帰る気満々で、決まりの挨拶を一夏に行った。

 

 

「EYE HAVE YOU!」

 

 

もう「愛国者達」はいないのに。

しかしその頼もしさと恐怖のある挨拶を最後に彼の口はぴたりと止まったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

日が暮れて夜になり、辺りがすっかりと暗くなった時間。

病院は消灯時間になり部屋は自動的に明かりを消され、入院患者たちはベッドの上でそれぞれ一日の最後の時間を使う。

そのまま眠る。少し起きて寝付けるようにする。寝付けないのでしばらくのんびりと時間を潰す。その気すらないので無視して自分の趣味などをする。

彼の場合は恐らく寝付けないので時間を潰す部類だろう。

夜風が吹く外の風景をみて物思いに耽る一夏は何も考えずにまだ明かりのあるビル街を眺めていた。

二度ほどナースに眠るようにと忠告されるが、本人は中々寝付けないのか眠ったフリをしては足音が遠のくのを聞いて起き上がるを繰り返し、かっこつけのように窓の外を見てる。

 

 

 

「…………。」

 

あれから何時間経っただろう。

あれからみんなどうして居るだろう。

そんなことを考えることもあったが次第に頭の中は白紙になっていき、今ではなにも考えずにボケッとした様子で夜景を眺めるだけだ。

 

 

が。その静寂を破ると共に白くなっていた彼の頭の中は色を取り戻しす。

一人の来訪者が彼のもとを訪れた。

 

 

 

「ッ…!」

 

 

「…イチカ、起きてる?」

 

 

「シャル…」

 

 

制服姿ではない彼女を見るのは始めてだ。

しかし、だからと言って似合うかどうかと聞かれれば答えがたい。

恐らく灰色のパーカー付きの上着と半ズボン。そしてまだ真新しい靴を履いた彼女は彼と同じく寝付けなかったのか普段と変わらない声で静かに入った。

 

「よかった。まだ寝れてなかったんだ…」

 

「…少しな。けどなんでココに…」

 

「実は、ちょっと身体のこととかでね。後、一応ボクも事件に関係していたし…」

 

「………。」

 

まだ完全に治ったと言う訳ではないと彼女の台詞と俯きから目線を少し落とす。

そこからありきたりな問いが投げられる。

 

「…身体の方は平気?」

 

「ああ。少し腕が鈍った程度だ。シャルこそ…」

 

「ボクは大丈夫。もう…ね」

 

「…そうか」

 

どう答えればいいか分からない。互いにそう思いシャルは勇気を振り絞って一夏へと聞く。

 

「あのさ一夏。まだ寝ないなら―――」

 

 

その時。一夏は何も言わず突如シャルの腕を掴んだ。

いきなり腕をつかまれたシャルは一瞬戸惑うが、彼の表情からなにかマズイ気がしたのか成されるがままベッドのほうへと引き込まれ、二人揃って毛布の中に隠れる。

 

「…ッ!?」

 

「静かに」

 

「えっ…」

 

一体なにがどうなっているまか戸惑うシャルに一夏はただ一言耳元で囁く。

ピタリと動きを止めた二人は耳を澄ませ、遠くか近づいてくる足音に警戒する。

巡回しているナースだろうか。それも二人。話し声も聞こえてくる。

 

「そろそろ寝たかしら…?」

 

扉を開け、ナースが顔を覗かせる。

一夏が眠っているかを確かめる為だ。

先ほどまで起きていた彼も漸く寝たかと誤認(・・)するとやっと寝たようね、と呟き静かにドアを閉める。

本人はまだ眠ってもなく、更には来訪者が居ると知らずただ見ただけという甘い確認だけをしたナースたちは安眠の邪魔をさせまいと静かに閉めると再び雑談をしながら暗い廊下を歩いていった。

 

 

まさか男女二人が毛布の下に隠れていたとは気づかずに。

 

 

 

「………行ったようだな」

 

「…………。」

 

「…シャル?」

 

まるで死後硬直でもしているかのように固まったままのシャルは目を大きく見開き呼吸もままならない状態でいるのを見て、一夏は気絶でもしているのかと思い頬を軽く叩き、気づかせようとする。

 

「おい。シャル、大丈夫か」

 

「―――――――――――――え!?あ、え…」

 

間隔二十秒ほどだろうか。彼女の止まっていた何かが再起動し一夏がなにかを言っていた事に気づくと真っ白になった頭の中を必死に回転させながら状況の把握を急ぐ。

 

「すまん。ナースが近づいてきてたからな。手近な所で隠れる場所もなかったし…」

 

「あ……うん……アリガトウゴザイマス……」

 

「………?」

 

どうやら善意で行ったことなのだろうが、それがシャルには突然すぎたことでパニックになってしまっていた。

頬を赤らめ夜風に吹かれ月明かりに照らされた彼の顔に恥ずかしさを感じ、縮こまった彼女は段々と片言になって湯気をふかしていた。

それを見てまだ調子が悪いのだろうかと心配するが、その原因がまさか自分であるとは知らないまま、そういえばと思い出す。

 

「…シャル、さっき何か俺に訊こうとしてなかったか?」

 

「え…あ、えっと……その……もしさ、よかったら話をって……」

 

「話?」

 

「うん。ちょっとね…」

 

「………。」

 

別に構わないがと答える一夏だが、彼の中には問題が一つあった。

さっきの巡回ナースだ。一応彼らの居る病院はかなり大きなものでスタッフもそれなりの数だ。恐らく巡回についてもシフトが組まれているはず。

 

「なら、ナースが厄介だな…」

 

「あ…そっか…」

 

「………よし」

 

 

ならこうしよう。そう言いだした一夏はシャルに提案する。

 

「場所、変えるぞ。ここじゃナースに邪魔されて話す事も話せないし」

 

「それはいいけど…けど何処に?」

 

「屋上」

 

「…へ?」

 

そしてその瞬間。シャルは無計画に訪れた自分を呪った。

この流れでいけばやることは一つ。それは…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やっぱ…コレ…?」

 

「それ以外あるか?」

 

問いを問いで返され、更には言い返すことも出来ないシャルは否定して首を振る。

最早お約束となってしまったこの事態に自分は取り付かれているのだろうかと疑問に思いたくなる。

そして慣れてしまっている自分に、一体なにをしているのだと盛大な声で問いただしたいものだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「またコレ…」

 

またコレ。そう

 

ダンボールだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「失敬だな。コイツはただのダンボールじゃないぜ」

 

水を得たかのように反論する一夏の背中に溜息を吐き、シャルは二人仲良くダンボールの中を歩きながら足音に気を配る。

 

「…また変な機能が?」

 

「こいつは夜間戦用ダンボールって言ってな。黒い塗装が施されて人の目では見えにくいようになっているんだ。暗視装置にだって多少効果はある優れものだ」

 

「………そんなダンボール被っててよく歩けるね」

 

「暗順応って知ってっか?人の目は時間が経てば順応する。暗さに対してもあるように明るいのにもな。けど、それだけじゃ駄目だってことで…」

 

「ことで?」

 

「実は穴の所を覆い隠せる様に簡易な暗視ゴーグルが付けられてるのさ」

 

「…ダンボールだよね?」

 

「ダンボールだが?」

 

自分の見っとも無い姿に軽く死にたいと自殺願望が浮かび上がりそうになったが、なんとなくそれで死ぬのは嫌だなと諦め、屋上に続く階段までの間、シャルは暗い廊下を暗いダンボールの中を男と二人で被って歩くという意味不明な行動をするしかなかった。

 

 

 

 

 

深夜帯での行動は普通なら慣れるまでの時間や感覚の所為で手間取ることは多い。

特に人間は夜行性ではないので特に暗順応で目が慣れたとしても完全に身体は慣れるというわけではない。少なからずふら付くこともある。

しかし二人はこんな時間での行動は既に慣れきっており特に一夏は姿勢も安定し目立ったふら付きもなく歩いていた。

シャルも似たようなものではあるが一夏ほど慣れてはいないのか少し周囲に目を配り姿勢を安定させようとする。また目が慣れていても暗くてなにがあるのか分からないため、手探りな状態だ。なので必死に前を進む彼の姿を見失わないように一歩一歩確実に歩みを進めた。

 

 

「………!」

 

すると何かに気づいたのか前を歩いていた一夏は立ち止まり、後ろを歩いていたシャルは彼の背にぶつかってしまう。

 

「ッ…イチカ?」

 

「…鍵かかってる」

 

当然と言えば当然か。ノブに手をかけて引いても動かなかった事に当たり前のことを思う一夏はどうするべきかと僅かに光の漏れる窓とにらみ合っていた。

 

「…仕方ないよな、諦めて……」

 

別にここでも問題はないだろうし、最悪は別の方法で外に出るか。

ドアを開けられないと決め付け、別の方法を模索し諦めかけた時。ふとある事を思い出す。

 

「………。」

 

「イチカ、鍵かかってるんじゃ…」

 

「ああ…」

 

適当な相槌を打ち答えた一夏は、確かポケットの中に忍ばせてたなとズボンのポケットに手を入れて中に落とした筈のものを探し出す。

iDROID、ハンカチ、護身用のアイテム。そして。

 

(あった…)

 

 

昼間にドレビンから貰った鍵。

確かな感触を手がかりに引き抜いた一夏は鍵を持つとドアノブにある鍵穴へとはめ込んだ。

結果は彼の予想通り。鍵は問題なく差し込まれ、回すと掛かっていたドアが開く音が聞こえた。

 

「開けるぞ」

 

「え、鍵持ってたの?」

 

「…まあな」

 

多分持ってるというよりも盗んだのだろうと薄々ながら開けた瞬間に罪悪感の扉までも開けた気がした一夏は、一応の大丈夫という言葉を自分に言い聞かせ逃げるように屋上の世界へと向かって行った。

 

 

 

 

 

 

 

暗い闇の中を誰かが見ていたと知らずに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………!」

 

冷たい夜風が身体を通り抜けて行く。

月明かりと僅かな星が空と大地を照らし、不確かだった二人の姿は今はっきりと見えるものになった。

感じた事の無い、気持ちのいい夜風を始めて受けたかのようにシャルはその瞳をひとつ大きく浮かぶ月に合わせていた。

白く綺麗な月。いつも見ていたはずなのに、不思議と何かが違うような気がした。

 

「今夜はそんなに強い風は吹かないから、そう簡単に見つかりはしないだろ」

 

楽しげな顔で言うと、一夏は適当な場所に腰を降ろす。

夜風に吹かれるのが好きなのだろうか、座り込むと夜空を見上げてシャルも座るように薦める。

 

「座れよ。話もできないし」

 

「うん」

 

拒否する気もなく、涼しげな夜の空気に触れながらシャルは一夏を背に冷たい地面に座り彼に釣られてか無意識に夜空を見上げ僅かに光る星を探しては眺めていた。

 

 

「………。」

 

「――見ないでね」

 

「…ああ」

 

背と背をあわせ、月を横目に殆ど星の見えない空を見上げる二人は、ただそう言って互いに振り向かないことを約束した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ぽっかりと穴の開いたかのように二人は空を見上げながら沈黙する。

しかし、やがてシャルが手を空へとかざすと呟くように話を切り出した。

 

「…イチカ」

 

「……なんだ」

 

 

 

 

 

 

 

「……ありがとう」

 

 

「………。」

 

 

唐突な感謝に言葉を詰まらせる。

その資格が自分にはあるのだろうかと口を詰まらせる一夏は、静かに話し始めるシャルの言葉に耳を傾ける。

 

「ボクを…二度も助けてくれた」

 

「ッ…シャル、お前…」

 

「うん。今まではナノマシンで意図的に記憶を封印されてたんだ。そして、イチカかボクら(ヘイブン兵)が使っていた武器を見た瞬間にそれがトリガーとなって一時的に記憶が解放される。そしてそれを媒介にナノマシンが精神を完全な戦闘マシンになる。

任務の記憶であれば忠実に。仲間が殺されれば報復心に」

 

「………だからあの時」

 

「本当は時々解放されていたんだけど、タイミングが悪かったりボク自身の意識が報復の時よりも残ってたからマトモな発動はあれっきりなんだ」

 

だから彼女が現れてからの数日、楯無の出現頻度が高くなったのか。

頭の隅に置かれていた疑問が晴れたことに納得と爽快を感じた一夏は声に出さず話を聞き続ける。

 

「報復の時には完全にボクの意識はシャットアウトされてナノマシンが戦闘能力とかのみを残して再現した人格…っていえばいいのかな。それがボクの身体を操ってたんだ。

言い訳がましくも聞こえるけど…」

 

「わかってる。お前の本意じゃなかったってことくらいは…な」

 

「…けど、自分でもどうかなって思ってる」

 

少なくとも、絶対に一夏に恨みつらみが無いかと言われれば嘘になる。

それは一夏もわかっていた事であり、シャルの台詞に「だよな」と心の中で呟く。

 

いくらナノマシンで精神が制御されていたとしても、目の前に起こる事を幻覚として見る事は出来ない。ありのままの事実、仲間の死に対して怒りや報復心を湧かせた方が効率的だ。仲間の死を利用し一時的に戦闘能力を向上させる。

それが二年前の彼女には色濃く出ていた。

無論、後で考えればそれが意図的であったのは明らかだ。

 

「ボクの場合はあえて意識を残していたんだ。他のみんなは普通にしているけど人形のように顔色を変えない。一目でナノマシンの所為だってわかったけど…それ以外になにかがあったように思える」

 

「…麻薬に大麻。そういったので身体のストレスを極力に減らしてたんだろう。戦場じゃストレスとの戦いでもあるからな。

けど、同時にそうしたらフィードバックが激しい。ある意味使い捨てってことを前提にしていたんだろうな」

 

「…できるの?そんなことって」

 

「別に不可能なわけじゃない。ただ薬物の投与は軍やPMCじゃ滅多に使われないものだ。特に戦争経済だったら尚の事な」

 

 

戦争だから何でも許されるという甘い考えがあるが、酷な事をいえば正にその通りだ。

強姦、略奪、殺戮、強奪。その中でいくつかか戦争経済で激減したと言われているが、あくまで減っただけで消えたわけではない。

ナノマシンが無い民兵やゲリラではそのような事が行われていたケースは多く存在している。

当然ながら一夏もそれを目撃した一人だ。

 

「…だから、なのかな」

 

「………。」

 

「わざと意識を残したのも、他の人と差別化させたのも…今までのことを考えればボクはある種の実験、その被検体として…」

 

「…さぁな。今となっちゃそれもわからねぇ。ことの根源は…もう居なくなっちまったんだし」

 

頭を掻いて答える一夏は、事実と共に逃げたげな言い方をする。

事件の発端。ヘイブン兵を組織したリキッドはもう居ない。彼が何故彼女をそうしたのか、恐らく本人と僅かな人間しか知らないことだ。

だがだからと言ってその他の人間に答えを聞こうとしても果たして答えてくれるか。いや、そもそも答えられるのかさえも怪しいものだ。

 

 

「死んだ奴に答えを聞くことはできない。もう居ないんだからな…」

 

「…うん」

 

なぜ彼女が選ばれたのか。なぜ意識をあえて他よりも残していたのか。

それを知る人間はもう居ない。組織したリキッドは元の山猫に戻り、ナノマシンを開発したナオミもシャドーモセスで果てた。

今となってはもう知る事も出来ないことだがシャルにとっては知りたいことでもあった。

 

 

 

「―――正直、生殺しよりも酷かった。

感情そのままで身体と精神が本当に同じなのかって思いたくなる感覚で…人を撃ち続けたから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――地獄(殺戮)を見た

 

 

 

―――地獄(無慈悲)を見た

 

 

 

 

 

 

終わらないかもしれないという 地獄(永遠)を見た。

 

 

 

 

 

感情をそのままに身体は意思とは全く違うことをする。

人を撃ち、弾を込め、そしてまた人を撃ち殺す。

撃つ相手は殆ど男。だが。時折、女も居た。

そして子供も居た。

 

――撃ちたくない。殺したくない。

 

そんな意思は身体には届かず、身体は与えられた命令を忠実に実行する。

確実に、効率的に、最大限に

目の前に銃を持つ兵士たちを彼女は撃ち抜く。

 

 

気づけばいつも死体の山の中に独り

血の海の中に独りだ。

 

大人も、子供も、老人も

男も、女も

 

 

皆、等しく彼女の周りで息絶えていた。

 

 

意思は悲しむ。だが身体は悲しまない。

ただ命令に忠実に。目の前の兵士を撃ちつづける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もう死にたい。何度思ったんだろ、そんな事。

目の前に転がる人の様に、自分もああなりたいって…何度思ったかもう忘れた」

 

「…あの日もか?」

 

「…うん。いつからか、もう生きる気力も無くなって、頭の中じゃずっと死に方を考えていた。身体はそれとは逆に生き残って撃ち続けていたのに。

あの日だってそう。ずっとそう思い続けていた。

 

でも……」

 

「………でも?」

 

「ずっと報告はあったんだ。ボクらが君達と戦ったときにかなりの被害があったって

そんな時だよ。まだ希望があるって思ったのは」

 

 

シャルの言葉に疑問を感じた一夏は、直ぐに言葉の意味を察する。

希望という明るい言葉が彼女の口から出るが、それは他の人間とは、その時彼女にとっては意味の違う言葉だった。

希望。つまり望み。その時の彼女の望みは、ひとつだけだ。

 

 

 

「彼らがボクを殺してくれる。他の兵士(ヘイブントルーパー)のようにってね」

 

 

 

 

精も根も尽き果てた頃。現れたのは自分の死への希望だった。

牢屋にも等しい意識と、人形のように忠実に動くだけの身体。

解放される方法は死だけだと。

 

 

 

「だからボクは君たちの居る所へは殆ど出た。

南米、東欧、そしてあの戦艦。でもボクは死ねなかった。

他の人なら運が良かったで済むけど、あの時のボクにはそれは無かった。

 

――早く死にたい。

 

それだけだったんだから」

 

「………。」

 

 

 

 

死への急ぐ気持ちしかないシャルの言葉に、一夏は後悔の念に包まれ、自身に言う。

やはりあの時、撃てばよかったんだ。と

あの時に彼女を楽にしておけばよかったんだと。

そうすれば少なくともまたこんな事を彼女はせずに、ナノマシンから解放されていただろう。

自分が何故後先考えずに行った結果。

そう思い一夏が彼女の思いに答えられなかったと謝罪しようとした時、まだ彼女の台詞が終わって居なかった事に気づく。

一拍置いたシャルは、遠くを見るような目をしていたときから一変し小さな笑みを見せて呟いた。

 

 

 

「―――けどね」

 

 

その一言に一夏は小さく驚きの顔を見せる。

と言ってもシャルには反対側を向いているので見えはしないが、彼は見えない場所で小さくその表情を見せていた。

ポツリと呟かれた言葉が本当に意外な言葉で、まだ続きがあるというのを知っていながらも彼はそれにだけ驚き、そして続く言葉に本当の意味で言葉を失った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もう「死にたい」なんて思わないよ」

 

 

「――――。」

 

 

「あの時、イチカがボクを抱きしめてくれた時に…もう終わったんだから。そんな気持ちを思う、シャルロット(自分自身)が」

 

 

「それって…」

 

 

「―――あ……別にボクが幽霊とかナノマシンがどうのとかじゃないんだよ!?」

 

慌てて訂正するシャルは「ええっと…」と小声で呟きながら言ってしまったことをどう補うかと考えこむ。どうやら気持ちをそのまま言ったはいいが、語弊を生んでしまうと思ったようで、言った事しか思い浮かばなかった彼女はどうして補いとかを考えなかったんだろうと恥ずかしさに顔を赤くしていた。

 

「その、自殺願望をしていたボクが終わったっていうか居なくなったっていうか…」

 

「………別にそれで伝わるよ」

 

「あ……」

 

「…つまり。あのミズーリの上で、今まで「死にたい」って思っていたお前の意思は、もう無くなったんだな」

 

「…そう言うこと、だと…思う」

 

ぎこちない言い方で肯定するシャルは、恥ずかしさで頭を膝に当てる。

上手くいえなかった自分が彼女にとっては恥ずかしいことだったのだろう。しかし一夏は彼女が予想した呆れや苦笑とは違い、その言葉を真に受け止めまだ整理の付かない頭の中でただ一言、返答として呟いた。

 

「…そっか」

 

「…イチカ…?」

 

「………。」

 

 

 

「意味…あったんだな」

 

 

 

自然と見上げた空が歪んで見える。

目頭が熱く、何かの気持ちがこみ上げてくるような気がする。

何故だろう。こんな気持ちは久しぶりだなと、忘れていた何かを思い出した一夏は笑みを見せた。

 

 

 

「……うん。意味はあったんだよ」

 

同じく笑顔を見せたシャルは、あの時の自分を思い出す。

そしてあの時の感覚を再生する。

 

死にたいと思い、仲間の死に怒りを湧かされ、痛みの中で、これでやっと楽になれると思い。

 

 

 

 

 

 

 

―――でも、やっぱり「生きたい」と願った瞬間

 

 

 

 

 

そんな世界へと、彼が手を差し伸べてくれた。冷たい世界から、暖かい光のある世界へと連れ出してくれた、あの暖かな温もり。

 

嬉しかった。「どうして」と思いながらも、心の底から「ありがとう」と言った。

 

生と死をどちらも願った彼女は、それでも生を願った。

その場に居た誰もが、未来の為に戦った。その最初の証拠として、彼らの知らぬところで一人の少女の未来が繋がれたのだ。

 

 

「確かに、その後でもボクは地獄みたいなのを経験した。ナノマシンによって再びね。

けど、もしあの時イチカが撃っていたら、ボクはそんなことにはならなかったし、こんな場所には居ない。

絶対に楽なことなんてない。苦しいことばかりだったけど…それでも生きてて良かったと思うよ」

 

 

「………。」

 

生きることは楽ばかりではない。思い通りにならないこともあるし、辛い事だってある。

彼女の場合、それが人より多く伸し掛かっただけで絶対に幸福が無いと保証も決定付けられたわけでもない。

ただそれが先払いになっただけ。

彼女の幸福は、恐らくココからだ。

 

 

「それが、地獄のような日々でも…これからもしかしたらそれ以上の事が起こっても、か?」

 

全てを纏めた最後の問いが一夏の口から放たれる。

しかしその台詞自体にもう意味は込められていない。

ちいさく頷いた少女は、本当にこれでよかったんだと、迷い無く答えた。

 

「それで今までの記憶が無くなるワケでもないし…これからは、もう大丈夫。なんとか頑張れるよ」

 

「…そうか。そうだよな」

 

「うん。だって、もう一人じゃないから…ね?」

 

「まぁ。必要な時は居てやるよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、二人の間に妙な間が開いてしまう。

話す事を話しきったシャルは満足げな様子ではあるがこの状況をどうにかせねばと話す話題を考えている。

それは一夏も同じで、以前自分の事を話すとは言いはしたが何処から話すべきか。またこれで聞きたかった事は全部かと自身に確認を取る。

 

しかし二人の間に何故このような空気が流れているのか。

いたって簡単な事だ。

 

 

 

二人とも後から恥ずかしくなったからだ。

 

 

 

徐々に赤面になるシャルは思えば、と冷静に今の状態を考え一夏は一夏で話そうにも色々と話しにくいことがある所為で堂々と話しにくい。

淡々と進んでいたはずの二人の会話がココに来て頓挫してしまい、揃ってどうするべきかと戸惑っていた様子で相手の出方、そして相手が何か変化を起こしてくれると信じていた。

が、どちらも相手である自分が何か起こさなければ変化はない。わかってはいる事でも迂闊に手が出せないという気持ちから、二人の間では腹の探りあいのようなものが展開されていたのだ。

 

 

「………。」

 

「………。」

 

 

このままでは朝になってしまうと危機感のようなものを感じた一夏は、覚悟を決めて重くなった口を開く。

 

 

 

「…シャル、あのさ」

 

 

「え、うん…何…?」

 

 

「これから…どうするんだ」

 

 

「………。」

 

 

ありきたりに言ってしまった台詞に今更と思う一夏だが、事実それは問いたい質問でもあった。

今回の件で日本に居られる事も怪しくなってしまった彼女はどうするのか。

国に帰るか、それとも残るのか。薄々とどちらを選ぶかと察していた彼ではあるが本人が別の方を選ぶかもしれないということで今後の事を含めて訊ねることにした。

 

 

「…そう、だね…」

 

聞かれたシャルは答えにくそうに返事をしたが、本人の決心がついていたのか思いのほか簡単に答えられた。

もう一人ではない。それだけで彼女の答えは決まっていた。

 

 

 

「ボクは…残るよ。ココに」

 

「…本気なんだな」

 

「…うん」

 

 

確かに戻れば相応の対応もある。しかし対してモルモットのように扱われる。

シャルにもそれは解りきっていた事だった。だが、彼女が決断に踏み切ったのはそれだけではない。

誰が居るか。自分の周りにどんな人が居るか。それが彼女の決断の大きな決め手。

変わる事の無い理由であった。

 

「一応、カウンセリングは受けるし機体(ラファール)の方も正式な手続きを踏んで受領するつもり。それに…」

 

「それに?」

 

 

「…ボクの身体にあったナノマシン、あれを除去してもらったんだ」

 

「ッ…」

 

「今まではナノマシンのお陰である程度無茶なことだったり出来たけど、完全に取り除いたからもうあんな事は出来ないしID銃だって握れない」

 

「けどそんなことしたら機体のほうも無理なんじゃないか?」

 

「なんだけど…昼に変な黒人の男の人が来て、その人から「それについては気にするな」って……」

 

「…あの893(ドレビン)……」

 

「…?」

 

「いや。こっちの話だ」

 

 

どこまで彼らが予想していたのか、一夏にはもうそれを知ることは当分ない。

ドレビンは姿を消し、キャンベルも用が済んだらアメリカに戻るだろう。

一応まだ入院中である彼は簡単に外には出られないということで、見舞いに来る時にしか聞くことは出来ない。携帯端末もココでは使用禁止だ。

 

だがまたいずれタイミングがあれば聞くことは出来るだろうと、その次の機会を待つことにする。急ぎのことではないのだ。時間があればゆっくり聞こう。

 

 

 

 

「…じゃあ…今度は一夏の番だよ」

 

 

「……ああ。俺も腹を括るよ」

 

 

今は、彼女との約束。それを果たすだけ。

一夏は腹を括り、彼女に始めて全てを打ち明けた。

自分がどうしてココに居るのか。どうしてあそこに居たのか。

自身に何があったのか。

 

白い月がゆっくりと動く中で、ゆったりとした時間の中。一夏はただありのままに全てを語りきった。

その後ろでは矛盾しつつもそれが事実なんだと、悲しげな顔をする彼女が居たとしらずに

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いつしか、少女は眠りについていた。

夜遅くに話をしただけというが、薄々と湧き上がっていた睡魔と泣き疲れなどが重なり、自然と彼女の目蓋は下がり、意識も夢へと旅立ったようで背中からはすやすやと規則正しい呼吸音が聞こえる。

今までの不安や重圧が無くなり、幾分か楽になったのだろう。落ち着いた寝息を立ててゆっくりと眠っていたのだ。

 

 

「………。」

 

それでもまだ眠れない少年は夜空を眺めて眠気を誘おうともせず、排気ガスで見えなくなった夜の星を探し続けていた。

 

 

 

 

―――だがそれももう終わり。

 

 

その証拠とばかりに、一夏は空に話しかけるかのように口を開いたのだ。

 

 

「そろそろ出てきても良いぜ」

 

 

星に言った言葉か。否、彼は分かっていたのだ。

その場にもう一人、影に隠れて話を聞いていたのを

 

 

 

あの日と同じく、夜の光に銀色の髪を輝かせる少女がもう一度自分の前に姿を見せるのを

 

 

 

 

 

「シャルはもう寝た。後は、俺たちだけだ」

 

 

「………。」

 

 

「…言いたい事、あるんだろ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――話がある」

 

 

それは、彼女の行く末を決める言葉だった




後書きという名のまぁ色々とした何か。

次でAct.2も終わりの予定。今回と同じくかなりの長さになる確率が高いと思います。
何せ書くべき事がまだ色々とありますからね。
そしてこの後にはIS原作同様にタッグマッチ戦。そしてAct.3として臨海編を始めます。多分それ一つとMGS寄りのオリジナルストーリーが展開される予定です。

ちなみに次回の予告の一つとして。作中のイメージBGMが付きます。
ヒントはラウラの使っていた専用機の武装。そこから連想すればかなり簡単です。
っていうか、ぶっちゃけそっちによりつつあるというか…



というかこんな中途半端な作品なのに既にお気に入りが700を突破…夢でも見ているのか?
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