IS×MGS - Another Solid -   作:No.20_Blaz

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おまたせしました、第四十八話です。

今回は少し話が飛び飛びになって「えー…」と思ってしまう事もあるのやもしれません。
ですが、どうかそこを生暖かい目で見守っていただけると幸いです。

あ。あと、IS側のキャラ設定はもう少しお待ちを…


それでは第四十八話、お楽しみ下さい。



※同じサブタイがあったので修正しました


No.48 「現実(リアル)」

 

 

ラウラの起こした事件によって生徒たちは一旦学生寮から離れることになった。

日本に生家を持つ生徒たちは帰郷したりする者も居れば海外や遠くに家があり、簡単に帰れない場合学園が運営するニュータウン内にあるマンションに滞在する者も。

学園の中にある寮よりグレードは下がるが、自分たちの自宅のように扱えるスペースが広いため居心地は差ほど変わりはない。

 

 

そのマンションの近くに止まる一台の車両の中には数人の男たちが閉め切った窓からマンションの明かりを除いていた。

 

「………。」

 

外側からは見られない様な黒い窓の中から除く彼らは似たような服装を着ており、中に居るのは全員スーツ姿の外国人だ。

中を知ればかなり異様な光景だが、そんな恥には目もくれず彼らは所々に明かりが灯っているマンションの窓を監視する様子は物々しくも見える。

映画のようにマンションの中に重要人物がいる。誰もが見れば思う彼らの目的は正にその通りで、彼らは不確定な情報だがそれを頼りにマンションを見張っていたのだ。

 

 

「…いたか?」

 

「いや…」

 

だが、彼らが見張っているマンションには彼らが捜している人物がそこに居るという確証は無く、居るかもしれない(・・・・・・・・)という絶対性の無い情報からやらされた事だ。

根拠はなく、ただそこにいるかもしれないという曖昧な理由から駆り出された彼らは内心うんざりとしているが、仕事であるのには変わりない。だがせめて情報は確かなものにしてくれという事に頭に来ていた彼らは車の中で悪態をついていた。

 

「…全く…本社も確かな情報を出さないまま俺たちを駆り出すとは…」

 

仕事に不満はないがと付け足すように言う男に、運転席にすわるもう一人が厳しい口調で言葉を返す。

 

「無駄口を叩くな。仕事に集中しろ」

 

「だが…」

 

「情報に確証がないのは確かに俺も不満だ。だがそれでも確率がゼロというわけではない。その可能性を考慮して、俺たちはここにいるんだ…」

 

「………。」

 

仕事である以上は仕方ない。だがそれなら確実に完遂するために支援やバックアップ。準備は完璧にするべきではないか?

悪態をついていた方の男はそう言いたかったのだが、それは相棒たる彼には気付かれていたようで言い訳のようにも聞こえるが仕事はするべきだと言われ、軽くため息を吐く。

 

「…しかし流石は国営。ここ一帯の全ての建物が向こうの管轄なんだろ?」

 

「らしいな。生徒も教職員も、近くに生家がある奴らを除けば全員ここにいる」

 

「なら、俺たちもターゲットもここに居る…か」

 

確定しない事に頭を抱えるが、そんなことをしても何も変わりはない。

今はこんな当たるかどうかわからない事が成功するのを祈るだけ。目を凝らし男たちはそうやって自分たちが捜している相手が居るのを願うばかりだ。

 

だが。彼らの願いはアッサリと打ち砕かれ、更には最悪な方向に向いていた。

 

 

「…ん、連絡か」

 

マナーモードで動く携帯に肌で感じたのか、悪態をついていた男は直ぐに端末を取り出すと間髪入れずに応答した。

相手が誰とも知らずに応答するのは危険ではないかと思えるが電話相手は自分たちの仲間だけで番号も定期的に変更している。それだけの安心感があってこそ、彼は何も見ずに応答したのだ。

 

「もしもし」

 

『こちら学園班だ』

 

「ああ。それで?」

 

現在修理作業を行っている学園のほうに潜り込んだ仲間からの連絡に何か報告があったのか、変化があったのかという事を前提に話ほ進める。しかしどうにも話し相手の様子が可笑しいと思った彼は耳元で相手の呼吸を聞きとる。

 

『実は…』

 

「………。」

 

妙に焦っている。呼吸が不規則で荒く何か伏せているように思えるその声は耳を済ませれば急に自分の気持ちさえも不安にしてしまう。一体なにがあったのかと思って聞こうとした刹那。電話相手から彼らにとっては悪い知らせが報じられた。

 

 

『シャルロット・デュノアが学園から消えた…』

 

「…何?」

 

『いや…正確には学園の関連施設から姿を消した…』

 

「…同義だ。どういう事だ!?」

 

荒げた声に運転席に座っていた男も思わず振り返る。

携帯ごしに驚きと怒声の合わさった声が響くが、周りのことも考えず彼らは話を続けていく。

 

『俺にも分からん…今、本社からもらった資料と書類で正式な手続きを踏んで確かめたが…シャルロット・デュノアは未だに病院に居るの一点張りで…』

 

「馬鹿な。彼女が病院を出たのはこちらの情報網で掴んでいる。嘘の情報をつかまされているじゃないか」

 

『ああ。だからその後、監視の目を潜って教員のPCにアクセスしたさ。だけど…!』

 

そこには何の疑いもなくシャルロット・デュノアは現在、総合病院に入院と書かれていた。

しかも期間は彼らが知るよりも長い間入院すると記されており、念のためにと配置していた病院側の方も同じ回答をした。

彼女は学園と病院のサーバーに記されている通りの期間、病院に入っている。

これが学園に潜った仲間からの報告だった。

 

『こちらが誤報をつかまされたのか!?』

 

「いや、そんな筈は…!」

 

「………まさかッ」

 

二人の会話に何かを察した運転席の男は、突然車から飛び出し監視していたマンションへと駆け抜けていった。

いきなり座っていた彼が飛び出したことに驚き、携帯を離してどこに行くんだと声を上げる。

 

「お、オイッ!?」

 

『どうした!?』

 

「急にアイツが飛び出して…!!」

 

 

 

 

それが正しい行動だった。

マンションに行き管理人の居るだろう管理室に駆けこんだデュノア社の諜報員は、管理人にある確認を取った。

 

――シャルロット・デュノアの入居記録は見れないか

 

一応デュノア社の人間であると言った彼は直ぐに入居記録が記された名簿に目を通し彼女が居るかどうかを確かめる。

殆どの生徒が事件後に一斉に入っているので日数を絞れば見つかるハズだ。

信じているようで信じていない。実は嘘なんではないかという予想が彼の脳裏を過りながらも細かく記されていた記録に目を流す。

そして。確かに彼女の名前を発見することができた。

 

 

彼らのつかんだ情報とも、病院や学園がつかまされた情報とも違う

丁度中間の日にここに来ると記されて。

 

ハッキリとした。

自分たちは裏まで読まれていた。

完全に自分たちは誤情報に踊らされたのだと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃。楯無が用意したという屋敷では二人の少女が匿われていた。

一人は先ほどのデュノア社の諜報員が追っていたシャルロット。

もう一人は篠ノ之束の妹であり今回の事件で彼女ないし彼女を狙う国家が接触を図るということで連れてこられた箒。

 

それぞれ離れの別室で過ごしているが、ただ一人シャルロットだけは用意された部屋とは別の場所に居た。

 

 

 

『―――――もう一度…言ってみろ』

 

「………。」

 

 

相対する二人。一人は画面越しから彼女にプレッシャーをかけている。もう一人はへたり込むように座りながらも真剣な眼差しでそれを受け止めている。

そしてその光景を見守るのか眺めている二人。

合わせて四人がある大間に集まり、一つの問題に決着を付けようとしていた。

画面越しに椅子に腰かける男はフランスに本社を構えるデュノア社の社長。つまりシャルロットの父。それに対峙しているのは当然彼女だ。

 

 

『自分が何を言っているのか、分かっているのか』

 

「…ええ」

 

 

対等な立場で渡り合おうとしているシャルと、一企業の社長として見ている父。

二人の静まり返った決戦は既に一時間を経過しようとしていた。

 

 

 

 

始まりは屋敷に入った楯無の一言からだった。

裏の手引きで屋敷に匿われた彼女は、持ち主である楯無に呼ばれある事を告げられたのだ。

シャルの立場と恐らく起こるだろう事態。揺るがない決断によって引き起こされる事は彼女の背に重くのしかかった瞬間。

自分の過去を知るからこそ、彼はシャルを必要としてどこまでも追い続ける。

自分の娘であるからという理由ではない。それは娘からでもわかってしまった事。

 

彼はただ。兵器として兵士として。操縦者として優秀な彼女が欲しかっただけだと。

 

薄々と分かっていた事だったが、改めてはっきりと言われ彼女は自分の決断に揺らぎを持ってしまう。

もしかしてという可能性に僅かな希望を持っていたその手を棄ててしまえと楯無は言う。

光っていた筈の糸は手から離れた瞬間、真っ黒に染まってしまった。もとはその色だったハズが彼女の目には光って見えていた。

誰かによって手を離された時にやっと気づいたものだ。

 

 

 

 

 

「僕は…もう貴方の下には戻りません」

 

 

だから。決断は更に強くなった。

 

 

 

 

 

 

 

『…言っている意味が解っているのか。お前は』

 

「二度も言いません。それに…僕はもう貴方を信じることができない」

 

自分が夫人にナノマシンの調整をされている時。少なくともシャルが覚えている記憶の中彼の姿はなかった。会話も。姿も。声も。視線も。気配も。

知らなかったと言えば済む話かといえばそうではない。

彼も、デュノア社長も夫人と同罪なのだから。

 

『どういう意味だ』

 

「言葉通りです。もう貴方の言う事も…命令でさえも信じる事が…信頼できる根拠がない」

 

『誰も信用してくれとは言ってない。私はただ与えられた仕事を完遂しろと言っただけだ』

 

「…だからです」

 

『何…?』

 

 

「それが…あなたを信用も信頼も、信じるという事さえもできなくなった理由です」

 

 

彼女が社長を信じられなくなったのは今さっきの話だ。

切っ掛けは楯無がシャルの入院した総合病院から知り合いの医師によって見せてもらったデータから始まった。

楯無も言葉を失ったが、それ以上にシャルは深い絶望に包まれる原因でもあった事。

それは以前シャルの体内に大量に投与されていたナノマシンについて。しかしナノマシンに関することではなく、問題はその入手方法に問題があった。

事件後しばらくは楯無を含め全員が夫人の独断で秘密裏に行われていたのだと思っていたナノマシンの過剰投与とそれに伴う調整。

関係者等も全て彼女が集めたことからそれは明白だと思われていた。

が。彼女が秘密裏に動かした諜報機関からの報告はその仮初の事実を引きはがした。

 

 

 

「ナノマシン…僕に埋め込まれていたタイプにはある義務があった」

 

『………。』

 

「今の時代、戦争経済からの脱却に伴い感情統制を行っていたナノマシンは次々と廃棄、そして厳しい管理体制を敷かれた。現在、戦争経済の時に使われていたような感情統制・抑制するタイプには国からの許可が必要。もちろん、それは誰だって知ってる事」

 

『だから何だと―――』

 

「僕が言いたいのはこの後。国から許可をもらうにはという事」

 

『――――。』

 

 

 

一企業の夫人がそんな危険なものを簡単に手に入れられるはずがない。

戦争経済の時に使われていたものは全て廃棄されはしていないが一部残されたものや新しく作られたものには厳しい管理体制と使用時に絶対に必要となる申請手続きがある。

危険やものだからこそ、厳しく注意し正しく取り扱う事。場合によって使われる麻薬などにもあるケースだ。

そして、その申請を行う人物。それは使用者当人ではない。

使用者や申請者ではなく全く別の第三者。

 

 

 

言えば親族。夫。

思い当たるのは一人しかいない。

 

 

 

 

「国から許可をもらう前には絶対に第三者ないし親族のサイン。そして指紋が必要とされる」

 

『ッ………』

 

 

「―――――あったんですよ。貴方の指紋とサインが」

 

シャルの担当医であった男性は言った。

摘出したナノマシンは本来ほぼ絶対に使用することはできない物であると。

仮に国からの許可をもらうには第三者、それも親族や近しい親戚でなければいけない。

夫人にとって、もう親戚に類は居らず残る人物は一人しかいない。

たった一人。彼女の凶行を見て見ぬふりをしていた

 

 

たった一人の夫。

 

 

『………。』

 

「あなたはあの人(・・・)がナノマシンを使って僕を調整していた事を知っていた。だからあの場に居なかった。自分が同罪になりたくないと見て見ぬフリをして…!」

 

『違う。あれはパイロットへの痛覚抑制のために…』

 

「何が違うんだ。結局同じじゃないか。ナノマシンで意思を封じ込めて、僕をただの機械に仕立て上げようとしていた、そうでしょ!!!?」

 

『黙れ、違うと―――』

 

激情になっていく二人、しかし彼は次第に自分よりも彼女のほうがそして次第に負けじと自分も感情の抑えが効かなくなっているというのに気づけずに居た。

抑えられていた彼らの感情が、少しずつ外れ我を失っていくのを感覚で感じながら。

 

 

 

「だから貴方はあの場に、あの地下室に居なかった!!!!

自分も同じ目に合うんじゃないかって、自分もアイツのように罪を着せられるんじゃないかって!!!!!

だから見て見ぬフリをした、関係ないって嘘をついた!!!!!!!」

 

 

『違うと言ってるだろッ!!!!!』

 

 

「何が違うんだよ!!!!!」

 

 

 

刹那。その一言によって社長の表情が凍り付いた。否、何も言い返せなくなったのだ。

徹底的に否定した彼に涙を流したまま怒りの目で自分を睨む少女。その姿に、その威圧感に。いつの間にか社長としての威厳という形のオーラは彼の背から消え失せていた。

そこに立つのはタダの人間。

彼女も同じだ。一人の人として自分と言葉を投げ合っていた。

地位も血筋も関係ない。一人の人として。なのに、自分は―――

 

 

「自分の地位とか利益とかじゃない…アンタはタダ怖かった!世界が怖かったんだ!!

何時か殺される。いつか裏切られる。いつか別れる。いつか恨まれる!!!

だから見て見ぬフリをしていた!!!だから全てを棄てた!!!だから逃げた!!!!

アイツ(夫人)への想いも、気持ちも

私への想いも

 

 

 

 

 

 

お母さんへの愛も!!!!!」

 

 

『…違うッ!!!!!』

 

 

「じゃあ何が違うのさ!!!アイツの事も止められず、母さんも気持ちも分からず、私の想いも見ぬフリをして

 

これの何が違うって言うんだッ!!!!」

 

声の限り叫ぶシャルに男の声は空しくかき消される。

そして彼の築き上げていた砂の城も、逃げる場所であった理由という言い訳もその場にとってはタダの飾りでしかない。タダの砂でしかない。

だからもう崩れ去っていく。

彼女という波に。言葉という真実に何もかもがかき消されていった。

 

 

 

 

「ッ……ッ……ッ…………かっ…コホッ、コホッ…!」

 

喉も顧みずに叫んだシャルは思わずむせ返る。

何度もリズムを作りせき込み、冷たくなった体の腹と口に手を置くと喉の奥から何かがせり上がる。

これで息切れかと思い安堵したのか彼は息を整えて反撃の用意にかかろうとした。

だが、それも彼女の姿を見て止まってしまい、言葉を失う。

 

「ぐっ…ごほっごほっ!?」

 

「ッ!?デュノアちゃ―――」

 

「だ、だいじ―――ッ!?」

 

再びむせ返り喉の奥から溜まっていたものがあふれ出る。

端で見守っていた楯無は思わず声を上げて彼女にかけよるが、やせ我慢で止めた所為で再び第二波が吹き出した。

 

「なにが大丈夫なもんですか!!虚ちゃん!!」

 

「わかっていますッ!」

 

『――――。』

 

 

黄緑の色だった畳に赤い鮮血が滴り落ちる。

むせ返る彼女から滝のように出てくる鮮血は体から容赦なくあふれかえり、そして氾濫する。

さっきまで至って健康体だった彼女が突然どうしてそんなに血を吐くのだと驚く彼に、それを代弁するかのように背をさすっていた楯無が口を開いた。

 

「――ナノマシンについてはまだ続きがあります。それは投与されていたナノマシンのタイプについてです」

 

『ッ…』

 

「あなたは彼女の言う通り見て見ぬフリをして罪から逃れようとしていた。その結果。あなたの奥様がなにを求め、何をしようとしていたかまで知る事もできなかった」

 

口を強くかみしめて睨む彼に楯無は屈せずに話を進めた。

 

「投与されたのは全身への身体強化のタイプ。しかもそれは直接筋肉や血管。臓器に定着するタイプで身体機能の増幅器になる。

そして。長期間、定められた処置を行わなければナノマシンは次第に人体の一部にされてしまう」

 

『―――――!』

 

 

分かりますか。冷たい言葉であった一言は彼の胸に深く突き刺さる。

そんなことは馬鹿でもわかる。けど今まで自分は知らなかった。

後悔と自責の念がこの時初めて彼の背に姿を見せた。

 

「いわばこの子は今、体を半分に引き裂かれたような状態。夫人が処置をせずに身体と同化させてしまったためにナノマシンは彼女の体の一部となってしまった。

それを引きはがした所為で、それ込みで支えていた体はいまガタが来ているんです。

別にあなたにに全て罪を背負わせる気もありません。ですが、私は自分が目をそらしていた結果どうなったのかというその現実を見てもらいたいのです」

 

言葉をどう言おうと結論は同じだ。逃げずに直視しろ。

言い換えようと、回りくどく言おうとその結論、理由には変わりない。

彼に非がないのは分かっているが、どうしても感情が勢いをつけてしまい冷静さを失わせてしまう。

 

 

 

 

しかしそれでも彼は言い続けるだろう。

 

 

 

『……だからなんだと言うんだ』

 

「ッ―――――!」

 

『それを私が行った理由でもあるまいし、今更それで涙を流せとでも?』

 

「貴方は………!」

 

『事実、行ったのは私ではなく彼女だ。法や関係として私が罪に問われるのには問題はない。だが、だからと言ってたかが(・・・)社員一人(・・・・)のためにどうこうしろと言うのか』

 

「ッ…!!」

 

 

 

 

 

 

『――私が逃げた?………笑わせる。私は逃げたのではない。

見る事もできなかったのだ。

彼女が何をしているのか。何を行おうとしていたのか。その全てを知る事が出来なかっただけで、知る事をできたのに見ようとしなかったという逃げではない』

 

「―――――。」

 

『私のことも知らず、ただ自分の言い分ばかりを押し付ける輩に知った風な口をきくな………!』

 

冷たく、見下した目で社員(・・)である彼女に言い放った彼はもう二度とシャルを娘とも血のつながった人間と見るような事はしなかった。

 

―――これが親の言う事か。

 

あまりに無情な言葉に楯無は唇を強くかみしめ鋭く目を細めるが、向こうは微動もしない。

ただ一人の小娘の言い訳としてか、彼は見ていなかった。

 

彼女の父としてではなく、その血の繋がった人間としてではない

彼は結局、一企業の社長という立場を選んだのだ。

 

 

 

(―――――ああ…)

 

 

 

 

―――そうなったのか。

地面と目を合わせながら思う少女の脳裏は不思議と落ち着きに満ちていた。

悲しいとは思っている。辛いという事も、あまりに酷い現実であることも。極端に言えば恨んでさえもいる。親としてではなく、彼は一人の代表という立場を選んだのだ。

 

 

 

だけど、「やっぱりか」と達観した自分がそこに居た。

 

 

 

 

 

「…そっか。なら、仕方ないね」

 

「………ッ」

 

『何…』

 

 

 

 

 

酷く冷静に。納得し。呆れかえり。笑いたくもある。

果てのない怒り。それと混ざり合う冷たい何か(・・)

 

 

 

 

「―――なら。私は貴方(お前)に従う理由はない」

 

 

 

 

 

『ッ―――――!?』

 

その言葉を最後に、通信は強制的に切断。

行ったのは楯無ではなくシャル自身だ。ただ言いたいこと全てを一つに纏め、言い放った彼女はその一言を最後に全てを終わらせた。

彼との関係も、フランスとの縁も、過去の自分とも

それでいいのかという疑問を残し、それを直視しようともせずに。

 

 

「………。」

 

「………歪んでる。歪みがあり過ぎる。この世界は」

 

「―――そうね」

 

「ずっと自分の事だけしか考えなかった時には分からなかった事だよ」

 

「―――そう」

 

 

 

「―――――――辛いね。こんなの」

 

 

「…それが現実よ。辛いこととか、酷いことが平然と行われる世界。それが真実なのだから」

 

 

 

 

 

そう。世界は辛い事だらけだ。

自分が思ったようなこともできないし、都合よくいくわけでもない。思ったようにいかず都合よくもいかない事がザラとしてある。

ただそれが人によって様々だと言えばある種それまでともいえる。

都合の悪さ、思ったようにいかない事を逆手に取ることもあれば想定内として取る者たちだっているはずだ。

だけど、結果としてそれは悪い事でしかない。

 

思ったようにいかない

知る事もできない

知る必要がないと言われる

 

それが今の彼女の辛い事。苛立つ原因だ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

用意された部屋に戻った箒は、一人縁側に座り頭を抱えていた。

少しずつ痛みの増す自分の頭の中には、これまでの負の念が溜まりに溜まって混沌の渦を巻き起こしていたのだ。

怒り、悲しみ、辛み、恨み。

宛てのある感情は彼らに向けられることもなく、彼女の中に押し留められ開けてはいけないという窯の蓋によって封じられていた。

自身という意志が重しになってそれを抑え込んでいたのだ。

向ける相手は居る、ぶつける者は近くに居るのに、ぶつけられない。ぶつけてはいけないという感情が抑えとなり阻害にもなっていた。

言えば彼女の意志の最後の防衛線。篠ノ之箒(彼女)篠ノ之箒(自分)であるための命綱。理性もと言えるものが必死に止めていた。

 

 

しかしそれも次第に膨れ上がり、少しずつだが限界が見え始める。

黒く煮えたぎった窯の蓋は揺らぎ始め抑え込まれていた存在が見え隠れを始め、外へと手を伸ばし始める。

欲求であり憎しみでもある感情が日に日に手を見せ顔を見せる。

どす黒い何かが、自分でもわからない何かが彼女の中から吹き出ようとする。

 

 

「――――――ああ」

 

 

あといつまでコレを抑えられるだろう。

もしコレを抑えられなかったらどうなるのだろう。

ifの感情が脳裏を過り、無意識に彼女の中に可能性を見させる。

自分が抑えられなかった時、その時自分がどうなるのか。

 

―――あの時のようになるのだろうか

 

 

 

 

 

「―――――――――ぁはっ」

 

 

恐ろしくもある可能性を思い浮かべた箒

しかし、それとは反し彼女の口元はこの上ないほど悦に浸っていた

 

 

 

 

 

 

 

歯車が狂い始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『しののん~いる~?』

 

 

「ッ………ああ………」

 

 

咄嗟に聞こえてきた楽天的な声に意識を引き戻した箒は慌て気味に答えると、襖の奥で待っていた本音を部屋に招く。

静かに開けられた戸の向こうからは少しはだけた和服を着る、と言って正しいのだろうか。角にも纏った本音が変わりない笑顔で入って来たのだ。

当然、初見でそんな姿で堂々としている彼女に箒は驚き、直ぐ服を直すようにと注意するが…

 

 

「…え、どうかした?」

 

本人はそれが当たり前なのかさして気にしていないという顔で首を傾げ、まるでそれが常識であるかのような目でみつめていたので、箒は自分が間違っているのか疑問視してしまいそうになった。

 

「…色気でも出したいのか?」

 

「…?どうして??」

 

「いや…別に…」

 

故意ではないにしろ、流石に目のやり場に困るもので彼女も同性として恥ずかしいものだと認識できるものだ。

 

「兎も角ッ。その服装をどうにかできんのか?」

 

「コレ?」

 

「そうだ」

 

「ダメ?」

 

「だめ」

 

「………。」

 

残念がる本音に本気でそのままでいるつもりだったのかと思う彼女は、それをさせまいと彼女の服装を直すのを手伝う。といっても本音が頼んだ事でもないので本人は嫌がった風ではないが口を結んで剥れた顔をした。

 

「むぅ…しののんってお母さんみたい…」

 

「母親でなくても指摘すると思うがな…」

 

慣れた手つきで裾や袖口などを直し、結び帯を締める箒は五分とかからずにそれを全て終わらせる。

きっちりとした服装になった本音は自分の整った和服を目を輝かせて回り、子どものようにはしゃいで喜び、素直な顔で感謝を言う。

 

「おお~!ありがとうしののん!」

 

「次からはあんな格好するなよ?」

 

「………うん」

 

「オイ、その間はなんだ」

 

明らかに守る気のない返事に箒は軽く怒りを覚え、次やったら縄でも括りつけてやろうかと仕置きのようなものを考えていた。

尤も、その場合堂々巡りになりそうな気もしてならないと思いもしたのだが。

 

 

「…というか。どうしてここに来た?」

 

「あ。そうだった」

 

「………。」

 

そもそもの話を思い出した本音は本来の用事を彼女に告げた。

 

「えっとね、もししののんが外に出たいっていう時は絶対におねーちゃんか誰かに言ってねって。しののん、今狙われてるから」

 

「………。」

 

自分の行動の監視。念押しでもしたいのだろうと思っていた箒は、またも自分の行動に制限と監視が付くことにうんざりし、ため息を吐いてそれに了承した。

大方政府のバックがあるのでその類の人間が警戒したりするのだろうと考えていたようだが

 

「でないとおねーちゃんが守れないらって」

 

「…あの人が?」

 

意外にもその人物が知り合いである虚である事に驚き、目を開いて本音に問うた。

うん、と首を縦に振った彼女に嘘をつく意味もないと見た箒は小さく頷く。今までと違い身近な人間であるからと、警戒しようにも出来ないようなできない相手。いえば心許せる相手だからだ。

過去にも彼女は私生活を監視させられたりすることがあったがその時は見知らぬSPなどか私服で警護したりするのが殆どで自由に過ごせるというのをできなかった。自分のやりたいという事が何が切っ掛けか、それともどういう理由かで止められるかもわからなかったからだ。

 

「そう、か…」

 

今回はそれから一転し、顔を知り面識もある人物で、ある程度自重するというのは変わりないが、心なしか前よりは自由にできるという予感があった。

 

 

「…わかった。外出時はそうする」

 

「うん。あ。あとでしののんにお客様が来るって」

 

「私に…?」

 

唐突に言われた事に誰なのかと思う箒。しかしそれを聞こうにも本音は既に襖に手を置いて帰る直前だった。

本音も詳しく誰が来るとまでは聞かされていないと言い、どうやら客人は会うまで分からないようだとすっかり諦めた。しかしこんな状況で一体誰が来るのだろうと考え、せめてできる事として相手の予想をする。

が、それも刹那の間に興味をなくしてしまう。

 

「…あ。そうそう」

 

「ん…?」

 

 

 

 

「言いたい事はキッチリ言った方がいいよ」

 

「―――――。」

 

「鈍感さんだからね。かいちょーが言ってたよ。女は行動で示せって」

 

「…それが…」

 

「あとね。そこの床の間にある刀は絶対に抜いちゃダメって。真剣だから」

 

 

 

一瞬。彼女が何を言っているのかさっぱりわからなかったが。床の間の話を言った刹那、箒の心臓が見えない手に鷲掴みにされたように感じ、血の流れが止まったように思えるほど血の気が引いた。

掴まれた心臓に痛みを感じたのか思わず手を当てる。悪魔のような手にしっかりと握られた手はまるで自分の全てを見たかのように思え、次第に息苦しくなる箒は薄っすらと見える手がどこからか伸びているのに気づき、その腕の先をたどっていく。

そして。その先にたどり着いた瞬間

 

 

 

箒は何かを見た。

 

 

 

 

 

 

 

 

「言いたい事は言う。その方が楽なんだよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そういえばさ、スネーク。実はちょっと面白い話しがあるんだ」

 

「なんだ。またアニメとかか?」

 

「違うよ。ただ純粋に面白いって思ったことでね」

 

PCを操作しその「面白い話」についてを乗せたサイトを表示させたオタコンはそれをスネークに見せびらかす。

画面を拡大しているので一応は見えるが、彼もなんだか年寄り扱いをされているようで素直に喜べることではなかった。

それを口には出さず、スネークはサイトに大きく書かれた一文を読みだす。

 

「…忍者?」

 

「ああ。それも最近」

 

「コスプレ衣装とかじゃないのか」

 

「それがそうでもないんだ。コレ、海外の旅行客が偶然街の風景を取っている時に発見してね。今じゃ国内外でも一部のマニアとかじゃ大騒ぎの話さ」

 

「んー…」

 

「場所は決まっていてその辺りを夜な夜な動いてるって話が多くって一部の観光客はこれを探すのが本音らしいよ」

 

「いるかどうかもわからん奴を…よく探すなぁ」

 

ある意味つきものだからね。と笑うオタコンは興味津々な顔でそこに書かれている文章を読み続ける。スネークも個人的に面白そうだなと思い興味本位で彼と共にその記事を読んでいたが、やはり実在するのかと最後には笑っていた。

 

『夜の街に浮かぶ影、これが日本のスパイ!?』

 

『ビルの上を飛ぶ姿はまさに”忍者”』

 

 

こうして、自分たちの目的にも何も関係のないことに興味を持ち。語り合っていた二人は夜が更けるのを顧みず話に花を咲かせていた。




オマケという名の軽い後書き。

また短編を計画しています。イマイチ短編は話がまとまってない感じがありますからね…
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