IS×MGS - Another Solid -   作:No.20_Blaz

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第五十二話です。




いつの間にか本編の年になってしまった件。

そして今年の運勢は「凶」。

…ああ。終わったな。自分…





…さて。今回はセシリアの過去篇ですが、案の定滅茶苦茶長いです。
そして多分誤字もあると思います。うんちゃんと見れてないので。あと意味的におかしいのではと思う所もどんどん言って下さい。

セシリアの過去篇は彼女が軍属時代の時の話です。
まぁその時にあった。というだけの話になってしまったんですがね…(汗
時系列は本編開始から二年と数か月前。
言えばMGS4がスタートする数か月前です。
…多分一夏もこの時スネークたちと一緒のハズです。

あ。そろそろキャラの設定出さないと…


では。長話もここまでにして。第五十二話、お楽しみ下さい。


No.52 「銃火」

過去の話をしよう。

飽くなき戦争がまだ続いていたころの話を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

戦争が日常となった時代。

人々は日々、それぞれの目的のために戦いを続けていた。

ある者は稼ぎで誰かを養うために。

またある者は戦場で知った刺激を追い求めるために。

そしてある者はただ生き残りたいがために。

 

全ての者たちに共通するもの。それは誰もが生きるため、ではない。

 

 

無意識を誰かという「システム」に支配されていた。

 

 

 

これは、ただ生き残るために戦った一人の少女の、過去の物語―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イギリス軍には米軍がモデルにした特殊部隊が存在する。

 

SAS

特殊空挺部隊

 

あのデルタフォースもモデルにしたと言われている部隊は、その時代でも最強の特殊部隊の名を守り続けていた。

要人警護、対テロ、人質救出。

戦争経済の当時では味方部隊の後方支援なども行っていた。

 

 

そのSASと対をなす部隊

同じく対テロとしてだけではなく、国境警備や麻薬取締り、更にはシージャックなど活動の場を選ばない部隊。

 

SBS

特殊舟挺部隊

 

 

いずれも世界最強とも言われるほど強力な特殊部隊で当時もその猛威を振るっていた。

 

 

 

 

そんな特殊部隊にある命令が英国政府から言い渡される。

 

 

 

 

 

 

―――即戦力となるように、IS操縦者たちを育成せよ

 

 

大まかな部分を除けば簡潔にそう説明された彼らは頭を悩ませることになる。

イギリスのISは他国と比べてやや上を行く技術等を持ち合わせている。しかしそれと貴族という形骸化した階級が拍車をかけ、国内では女性至上主義なども現れ始めていた。

 

女性たちが自ら引き起こした人種差別。

世界の先を行く国としてはとても黙って見過ごせることでもなかった。

 

 

 

そこで、当時の英国女王はある決断を下した。

 

 

 

 

 

―――主義や差別で戦争が終わるなら、それはもう戦争とも戦いともいえない

 

 

 

つまり。

女尊男卑を掲げる馬鹿はそのまま撃たれろ。

生き残りたければ俺たちの指示に従い、そして鍛えろ。

 

これが結果的に功を奏したのか。はたまた深い溝となったのか。

 

イギリスから排出されるIS操縦者は世界に名を轟かせることとなる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………は?」

 

「………。」

 

 

訓練用に仮設されたキャンプの中で、軍服に身を包んだセシリアは抜けた声を出す。

口をぽかんと開け、目を丸くする彼女の顔に座っていた指揮官は同情するとともに、その顔を見て少しだけ笑いをこらえていた。

 

 

「…ええっと…」

 

話は聞いていたが、あまりに飲み込みがたい話であった所為か未だまともに言葉も出せない彼女はどうすればいいのかと頭の中を混乱させていた。

 

「そんな顔をするのも無理はないかもしれんな。少尉」

 

「…ええ……その…」

 

「なんだ?」

 

信じがたい話であるのは事実だ。だが、それでも彼女は問わねばなるまいとして固まっていた口を動かした。

 

「本当…なんですか…それ?」

 

「…事実だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今から数時間前。

訓練所で演習を行っていたSBSだが、突如市街地の演習所で謎の爆発が発生。

それを皮切りにSBS他訓練に参加していたその他の女性(・・)兵士が一斉に蜂起し大量の武器装備などを強奪。市街地の中心部にある議事堂に立てこもった。

 

犯行声明などが発表されておらず、人質なども居ない事から一時は演習の一貫であると思った者も居たが、軍上層部並びに現地で指揮を行っていた隊長陣は「演習のプログラムには入っていない」と明確に答える。

 

結果、これは女性隊員たちによる一種のストライキではないかという見解がなされ、残った女性隊員の確認と監視、そして立てこもった彼女らの鎮圧が決定された。

 

 

ここまでならまだ呆れる理由すらないが、問題はその約一時間後に立て籠もった女性隊員の首謀者らしき人物からの犯行声明だ。

現在に至るまでに彼女らの経歴等を調べたことによると、彼女たちは典型的な女尊男卑主義者たち。過去にそれらしき事を冒していることから兵士たちの間では要注意人物として煙たがられてもいた。

 

 

 

そう。理由は本当に極シンプルだったのだ。

 

 

 

「IS操縦者である私たちが劣等種(・・・)である男どもに指図される筋合いはない。世界は全て女が取り仕切っている」

 

 

この意味不明且つあまりに呆れた理由からの蜂起に頭を抱えた彼らは即射殺か逮捕かを考えるが、時間が過ぎるほど人数などが膨れ上がっているのに気づき、一刻の猶予もない事を知る。

そこで、残った女性隊員の中で最も能力が高い彼女、セシリアが選ばれた

 

 

というのが事の次第だと言う………

 

 

 

 

 

「………はぁ」

 

これにはセシリアも呆れるのを通り越してため息しか出ず、これが本当に自分と同じ女性の考えることなのかと内心同類たる自分が恥ずかしく思えてしまう。

 

「他の隊員は正直言って使えん。未だ訓練中だったり入って間もない連中ばかりだからな。そこで…」

 

「…私に白羽の矢が刺さった、と。それについては文句は言いません。ですが…」

 

「あまりに呆れる?」

 

「としか言いようがないです」

 

もし自分がするとなって、それを今の自分自身が見ればどうだろう。

恥ずかしくて転がった挙句、それが頂点に達して自殺でもするんじゃないか、という程にため息をつくセシリア。

思考がまともなのか、それとも自分と彼女たちが違うという確信があるのか。いずれにしてもそう答えてくれるのは指揮官にとっても安心することだった。

 

 

「…で。私一人で交渉に赴けと?」

 

「可能であるならな。だが向こうは装甲車を始め、ヘリなども強奪して自軍戦力として組み込んでいる。加えて武器装備もそのままの状態。

―――丸々私たちを相手にしているようなものだ」

 

「………。」

 

「兎も角、オルコット少尉」

 

 

セシリアに与えられた任務は一つ。

ストライキ戦力の武装解除ないし戦闘放棄を促すこと。ただし、これはあくまで可能であればという事で、もし不可能であるなら本隊に連絡、勢力の鎮圧に乗り出すこともやぶさかではない。

尚、任されたのは確かに彼女一人だけだが、演習に参加している隊員の中からなら誰でも連れて行っていいと言われている。

 

そうなれば当然。彼女が連れていく隊員は一人だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…で。私はお嬢の後方支援をやればいい、と」

 

「ええ。流石にソレじゃ走ることはできても長時間耐えることはできないでしょ」

 

「おっしゃる通りで」

 

 

隊員たちが集まるキャンプの一角でセシリアは自分に仕えてくれる事を約束したSASの隊員アリスを早速だが呼び出し、与えられた任務について話し始めた。

自分ひとりではどうにもならないので後方支援だけでもやってもらいたい。それが彼女からの頼み事だ。

数か月前に負傷したアリスは立ち姿こと平然としているが、また完治していないのでセシリアと同じく走ったりすることは難しい。なので、今回は後方からの援護に回ってもらったという。

 

「で、具体的には?」

 

「私は単身で彼女らの指揮官に会い、武装解除の交渉を行います。一応、手順としてそれをしてくれとお達しがあったので。

で、確実に無理だと思いますから、議事堂から出て来た直後から私が安全圏まで撤退できるように援護をして頂戴」

 

「OK。でも相手機械化部隊も居るんでしょ。大丈夫なの?」

 

「それについてはこちらで何とかします。貴方は追ってくる敵を狙撃したりするのに専念して。敵はそれなりの数だろうから」

 

「あいあいさー」

 

 

 

そう言ってセシリアは軍の中で自分が愛用するM14EBRをアリスに手渡す。

サプレッサーやスコープを遠距離用に改良しているもので連射性なども相まって使いやすいものだ。

対テロや人質がとられている時、サプレッサーなどの静穏性が高い武器は有効な手段となる。今回の場合でも後方支援の銃撃を奇襲で行えば少なからず相手の追撃を遅らせることも可能だ。

 

弾倉を確認し状態を確認する。よく手入れが行き届いており触っただけでもそれを感じられ、所々自分で使いやすいようにカスタムされた個所も直ぐに分かる。

他の支給された物とは違う、明らかな心地の良さだ。

 

 

「弾薬などについては既に申請し終わっています。弾薬の確認と最終準備ができ次第、任務開始よ」

 

「了解。ついていきますよ、お嬢様」

 

軽い返答だが、絶対的信頼感のある言葉はセシリアを信用させ「きっと助けてくれるだろう」という気にさせる。

昔から人に信用はされやすいという彼女の特徴でここぞという時に発せられる言葉は自然と受け入れられるのが彼女の強み。だからこそ、セシリアは彼女を受け入れた。

 

 

 

 

 

たった二人で行うストライキ鎮圧にアリスは肩を回して気だるそうに後ろに付く。

こういった無茶無謀は毎度の事で、特にセシリアとはそうなる確率が高い。

その所為でもう慣れ始めている彼女は、さてどうするかな、と作戦中の相手の行動やその時の行動などをシミュレーションし始めた

 

が。

 

 

 

 

 

「あ、あのオルコット少尉でしょうか」

 

 

「…ん?」

 

「あら。貴方…」

 

突如声を掛けられた二人は、自分たちの側面からおどおどとしながらも寄ってくる少女に目を止める。

装備一式を身にまとう彼女は眼鏡をかけた東洋人のような顔立ちで、他から見ればさながらサバイバルゲームを行う少女だ。

しかし体から匂う火薬のにおいや装備などを入れるバッグではなく機材らしきものを詰めていたりしていることから通信兵などを連想させるが、今の時代に通信兵は時代遅れでしかない。

だが、彼女の担当は通信ではなく、その大元であるデータ解析などがメインだ。

 

 

「はい。今回の演習に参加していました、陸軍歩兵部隊所属のノエル伍長です」

 

「知り合いですか?」

 

「今回の演習で組んだ小隊の一人で、随分と怯えて引っ込んでいたみたいですが…」

 

セシリアに出会って早々に図星の事を言われたノエルは唸り声をだしながらもぐうの音も言えず黙り込むしかなかった。

事実であり、言い訳の一つも話さねばずっとそのままな気がしたのだ。

 

「まぁ…それは確かですが、どっちかというと前に出ようとしても他の人たちが邪魔というか…」

 

「随分と大きくでましたね。まぁ…あの喧しい三人なら納得ですが」

 

はっきりと本音を言うという彼女の性格に少しだけ見方を変えるセシリアは彼女の話を聞くことにする。

ノエルから話を持ちかけて来たのだ。しかもこの場合だと考えられることもただ一つ。

 

 

 

 

 

「…で、ですね。実は―――」

 

 

「今回のストライキ鎮圧の参加ですか?」

 

「え…」

 

露骨に嫌そうな顔で見るアリスと、平然とした顔でノエルの予想を言い当てるセシリア。

二人のそれぞれの表情にどう反応すればいいのかと迷ったが、とりあえずはセシリアの方から対応し始める。

 

聞けば、どうやらノエルを除く三人全員ともあのストライキに参加したらしく、独り残された彼女はどうするのかと迷っていた。

元々小隊内でもほぼ論外のように扱われていた彼女も彼女らの事を快く思っていなかったといい、「邪魔」という言葉もまんざら嘘ではなかった。

正直、自分よりも腹黒い事を言っているという自覚があるセシリアは更にどうして参加するのか。どうやって知ったのかを訪ねる。

 

「それについては後で。まずはどうして参加するか、どうやって知ったかです。この話、私と彼女(アリス)、あとは指揮官だけしか知らない話ですわよ?」

 

「えっと…実は前から使っているウェアラブルコンピューターが調子が悪かったので訓練終わりに修理をし終わったら偶然…」

 

「…参加理由は?」

 

「…善意とかなんとかって言ったら絶対に納得してくれません。だから本音でいうなら…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あの三人が前々からムカついていたからです。五月蠅いし上から目線でしかないですし」

 

本音を恥ずかしそうにブチまけたノエルの表情は話しにくいという顔ではあったが、後悔や悪意といった自分が言っていることが悪いという認識は欠片もなかった顔で答えた。

どうやら本当に彼女自身鬱憤などが溜まっていたらしい。

それには同感し納得するアリスだが、その平然と言う顔と性格には少し身震いを感じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ストライキを起こした女性集団と部隊のボーダーライン。

そこはイギリス軍の装甲車や戦車などが防衛線を張り、彼女たちが何かアクションを行際かと警戒している。

 

通常ならそこを堂々通るなど愚の骨頂だが、指揮官から話が通っていたセシリアは、そこから堂々と歩き始める。

交渉のためにという事で両手をあげ、ライフルなどは全て外しているので残った腰にあるPPSとナイフ、そして閃光弾が唯一の武器だ。

 

堂々正面から向かってくるという彼女の姿に警戒を行っていた女性兵士たちの間では僅かだがどよめいた声が聞こえてくる。

正面から向かってくるセシリアが一体何のために来るのかという事で意見が分かれていたのだ。

交渉のため、降伏のため、それとも離反のため。いずれにしても彼女が自分たちのもとへと向かってくる事には変わりなく、丁度中間地点までに差し掛かるとセシリアは声をあげて女性兵士たちへと言う。

 

 

 

―――私は交渉のために来た。貴方たちの司令官と会いたい

 

 

 

その後、三分ほど問答していた彼女たちだが、その場の指揮を任されていた指揮官らしき女性がセシリアを通すように命令されたと言い、警戒はされていたものの予定通りセシリアは内部へと入ることに成功した。

 

 

 

 

「…お嬢…もとい、少尉の敵陣地への侵入を確認。ノエル、そっちは?」

 

『今、各部隊から強奪された武器装備などの集計、並びにストライキに参加した女性隊員たちの身元情報を確認。

強奪された装備、車両につきましては…

装甲車八台、戦車六台、戦闘ヘリ六機、輸送ヘリ九機。軍用ジープが十一台。

そして訓練機として持ち込まれていたIS「ラファール」が三機。

そのほか、訓練用に持ち込まれた迫撃砲が二十余………

あとは軽くゲリラ戦は行えるほどの量の弾薬・爆薬、修理機材等々…』

 

「軽くゲリラ戦…か。ストライキを起こした兵士の情報は?」

 

『部隊構成や組織的役割はご想像にお任せしますが、少なくとも私たちの第七十七期生を筆頭に第七十六期生、第七十八期生、第七十九期生の四年クラスから約二十人から二十五人。

中でも七十七期生から下の新人クラスはほぼ全員が参加して残っているのは三つ合わせて六人。

七十六は現時点で既に半数近くが過去の作戦で死亡したので恐らくはその全員が。そして彼女たちが主犯格ではないかと。七十七期生は半々といった感じですね』

 

 

装甲車たちの少し後ろにあるビルの屋上ではアリスがM14を構えて配置につき、その同じビルの三階にある空き部屋では地べたに座ってノエルが三台のノートPCを開き、データを収集、更にはレーダーなどの役割を担っている。

それぞれ自分たちの役割を行っているが、アリスはなんだか自分が何もしていないという感覚に襲われている気がし、ノエルの報告を聞く傍ら、自分の何もしていないという実体にため息をついていた。

 

 

『…曹長、何かあったんですか?』

 

「いや…別に…」

 

『…???』

 

 

 

聞けばノエルは訓練プログラムに入る前には電子科専門の学校に入りたいと思っていたが、自分にISの適性があると言われ、半ば渋々プログラムに参加したのだという。

入隊する前の頃、六歳のころからPCを触り始め、十歳の頃には簡易的だがデータを組み上げられるようになっていた。

そして軍に入ってからは通信、データ解析などを主に担当し戦場でも後方支援やヘリでの偵察に同行するのなどが専らの役割だった。

つい最近になるとハッキングや探知などもできるようになったと言い、電子系に関してはある程度の実力はあると自負できるようになったと言う。

 

つまり。本当にただの気弱な少女ではなかったという事だ。

 

 

『総数は約二百五十人。その内の八割がISへの素養持ちですね』

 

「機体の方はどうだ?ここからは見えないけど…」

 

『反応などから逆算して………あ、ありました。議事堂の敷地内にIS専用の補給修理専用車両が駐車。恐らく少尉のほうも嫌でも視認できるかと』

 

耳に付けた無線機から聞こえるノエルの声を入れ、アリスはスコープから防衛線を守る兵士やその奥に微かに見える敵陣地の様子などを捉えていく。

 

 

「全く…本当に戦争でもする気か?………いや」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「本当に戦争を始める気なんですね。大尉」

 

その一言だけが議事堂の中にある本会議所に響く。

室内にはセシリアを含め四人の人間が居る。警備のための兵士二人、そして今回のストライキの首謀者であるエリザ大尉が我が物顔で議長席で足を組んでいた。

 

 

「ええ。私は本気。皆、本気よ」

 

「………。」

 

歳はもう二十一だろうか。スタイルも整っており、顔立ちも良い。

髪も軍に入っているというのに金髪のロングを腰まで伸ばしている。

とても優れた美貌のある女性、それが不適な笑みと共に自分の手元にあるM9を弄っていた。

澄んだ青い目は見透かしたかのようにセシリアを見つめ、その動作の一つ一つはまるで彼女を誘惑しているようにも思える。だが当人にそんな誘惑は通用せず、無情に近い顔で上機嫌に語る彼女の言葉を耳にしていた。

 

 

「―――貴方だって薄々とは分かっているはずです。これが軍や政府にとってはタダの茶番劇としか見られていないのを」

 

率直に事実を語るセシリアは直ぐに彼女のふざけた態度と妄想を崩そうと畳みかける。

だが、それを予期していたのかエリザは軽く一笑すると淡々と語り始めた。

 

 

「―――ええ。分かっているわ。けどね、私たちは戦争をする。それは誰も避けられない現実になるの」

 

「ッ―――」

 

 

 

「ええ。そう。そうなのよ。この国は他国と同じく戦争へと転げ落ちる。私たち(・・)によってね」

 

彼女らの戦力でどうにかなる戦いでもないし、そもそも彼女たちにそこまでの事を起こせる鍵も無いはず。

だがそれは一般的な見方。本当にそれを持っているのであれは、そうだからこそ彼女らはストライキ、否、決起を起こした。

 

 

「…なるほど。引き金を起こしたのは貴方だけではないのですね」

 

 

僅か二百五十程度の戦力では地方軍に抵抗するだけで精一杯。それはISがあっても同じこと。

 

 

「当然よ。群に個が勝てるようにあるには、それ相応の()でなければいけないの」

 

 

だが、それが一か所だけではなかったら。

一つの個ではなく、多くの群であったらどうだろうか。

 

 

「…軍人のような風格でなくても、人脈だけはあるようですね」

 

「あら。あらあら、酷いわ。私が独りぼっちだと貴方は言いたいのかしら?」

 

「………。」

 

 

「これは私だけの決起ではない。女であれは誰だって…頂点を取りたいものよ?

社会であれ力であれ…ね?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あっ…キャロル曹長ッ!」

 

『どうしたの?』

 

「たった今、軍のデータベースにアップロードされた情報があって、どうやらこのストライキ…いえ、反乱は英国内各地の軍事基地で起こっているようです…!」

 

『は…!?』

 

ずれた眼鏡をかけなおし両手でキーボードを叩くノエルは、正規のIDでログインした軍のデータベースから流された情報と映像を手に入れ、それを別のPCで再生する。

映像は基地内の兵士が録ったもののようで、スピーカーからは兵士たちの生の声が流れて来る。

銃声に驚く声、銃撃があったと叫ぶ声。反乱が起きたと警告する声。

そして二分後には基地内に警報が鳴り響いた。

 

『どこで…いや、どうして?!』

 

「今日は他四か所の基地でも私たちの様なプログラム生が合同演習を行っていたようで、その付近の基地や施設などが連続的に襲撃ないし内部で発生。主用兵器を多数奪取し、そのほかの物を爆破したりと…」

 

『全部計画済み…初めから仕掛けようとしていた事か』

 

「の様ですね。そして…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「この演習所での反乱はその篝火。狼煙だったわけですね」

 

「そうよ。実に賢い…いえ、単純な事…!

聖女、ジャンヌ・ダルクが旗を持ち先陣を切ったように、私たちがその役割を担った。

多くの女たちが屍となるこの世界から彼女たちを救うために…!」

 

「ミュージカル気取りも大概にしてください。貴方が行っているのはただ世間や国を混乱に導いているだけです。

聖女が戦争を終わらせられなかったように、貴方も終わらせることの出来ない戦争へと落とし込むつもりですか」

 

まるで劇場に自分が立っているように振る舞うエリザに苛立ったセシリアは腰のPPSのロックを外し待機させる。

しかしそんな彼女の気持ちも知らず、エリザは一人椅子から立つと役者のように叫び回りだす。

 

 

「しかしそれは必然ッ!勇ましき革命のためには赤き鮮血は絶対の糧である!

 

―――そう。私たちの偉大な功績のために散る少女たちの血と、愚かな蛮族たちの血。これは必要な事なの。

私たちの、地に落ちてしまった女たちの栄光を永遠のものとするための…!」

 

 

「…狙いはなんですか」

 

 

 

「…言わずもがな。私たちの目的はイギリス社会を解体、再編させる事」

 

 

曰く、エリザの目的はイギリス社会、というより政界の解体と再編。

結論だけを先に言うならば、女性のみの政府、中心組織というのが彼女らの最終目的らしい。

随分と子供じみた考えをよく成就させる気だなと呆れるセシリアだが、その行動についてはそうとは言い切れない。

本懐はそれを広める事。そして男性の粛清。

完全な戦争状態へと転げ落ちさせ、戦火の中で立てた武勲を口実に政界の重要ポジションを確保する。

その為の足掛かりとして彼女たちは二つの切り札を用意したという。

 

一つは軍のデータベースなどで手に入れた汚職、賄賂等のもみ消した情報。

いわば彼らにとっては絶対に見られてはいけないパンドラの箱だ。

 

そしてもう一つ。データとして、電子的に精神的に倒せたとしても戦争状態であるため犠牲は増えてしまう。

だから、それを抑制するための兵器(・・)が必要だ。

 

 

 

「精神的に彼らを疲弊させても、戦争となってしまえば機械的に動く兵士たちによって世界は埋め尽くされる。そうなれば後は歯車の如く―――」

 

 

「戦火は広がり、人は死に絶えていく…当然の結果です」

 

「ええそう。だからこそ…私たちは絶対的な矛と盾を手に入れる意味がある。

全てを滅ぼすような…神のような力をね」

 

 

 

 

 

セシリアの耳元から無線機を通じノエルの声が響く。

コール音に反応した彼女のエリザのふるまいに目もくれず、腰につけていた無線機の応答ボタンを押した。

 

「伍長?」

 

『あ、少尉!よかった…繋がって…』

 

「何かあったのですか?」

 

 

『実は…!』

 

 

息苦しくなるノエルの声に何か焦りのようなものを感じる。

それは彼女だけではなく、聞いているセシリア本人も感じてしまい、心臓の鼓動が段々と強く、そしてきつく感じ始める。脳裏に予期する予想。それが正しいのか、それとも違うのかと、言葉にしないが顔がそう訴えていたのだ。

 

その彼女の顔を読んだのか。

唾を飲み込むと、ノエルはハッキリとした声でセシリアに告げた。

 

 

 

 

 

「今、核ミサイル保管所が占拠されて、更には弾頭の発射用意が完了したという声明が…!」

 

 

「なっ―――」

 

 

 

核保有国であるイギリスは当然ながら核弾頭を厳重に保管している。

それは各主要基地よりも厳重且つ強固で、更にはISなども配備されていた。

 

それが今回、保管所が占拠されたもう一つの理由だ。

 

反乱と同時に配備されていたISが操縦者たちに奪われ、その後増援戦力と共に防衛設備が破壊、機能停止させられる。

その後、制圧が完了した彼女たちは弾頭の一発を発射段階に移行させ、同時にある声明をイギリス国内全てに言い放った。

 

核弾頭を手に入れた私たちはいつでも、英国政府を潰す覚悟でいる。

もし、核を撃たれたくなければ我々の用意した条件全てを飲むこと。

さもなければ、この島国は廃土と化すだろう、と。

 

 

 

「自国を滅ぼして、何が救国ですか…!」

 

「救国よ?悪しき者たちが蔓延ったこの世界を粛清するための第一歩。

かつノアやソドムとゴモラがそうであったように。

悪人たちが住まう場所を一度、無に還す必要がある」

 

「それではイギリス本土は全て焼野原、向こう十数年にわたって私たちの国は…!!」

 

「それが何だっていうの?」

 

『え…』

 

『は…』

 

「――――――あなた、それ…本気で言ってるんですか」

 

 

 

 

 

 

「フッフフフフフ…何をいまさらな事を言っているのかしら…?

 

私たちの目的は女性のための社会。それはイギリスだけではいずれできなくなる。

だから…それは世界の全てで行われなければならない。

例え、向こう何十年と核放射線が広がろうと…それが何?

そこに男どもを置いて、私たちは新たなフロンティアを作るなりすればいい。

 

大地がダメなら海へ。海がダメなら宇宙へ。

 

 

全ては人類である私たちのため。犠牲など幾らでも穴埋めは可能よ?」

 

段々と素顔を見せ始めるエリザに、本当にそれが正気であり、本気で、本当に成し遂げようとしているのかと疑う。

そんな事ができるには何十年、いや何百年という年月が必要となる。

なのに、彼女たちはその百年も先の事を実現できると断言している。

 

『なに、を…』

 

「誇大妄想にしては随分と馬鹿げてますね。そんな事をすれば地球だけではなく、貴方たちは全てを破壊するんですよ」

 

当然、セシリアは現実的観点から不可能であると言い返す。

彼女たちが今現在行っている事と同じことを永遠繰り返せば、いずれ彼女たちが全てを食いつくす。

地球の環境だけではない。資源も、神秘も。そして人の命も。

だが。

 

「そんなに馬鹿だと思う?私たちには知恵がある。私たちだけが安全に暮らせる世界を作ることなど幾らでも出来るわ」

 

「現代の技術で人々を住めるコロニーを宇宙に創ることなど不可能です。それは誰の目からも…」

 

「それは今の話よ」

 

「ッ…!?」

 

 

「いずれ、人類は母星から飛び立ち、宇宙へと生活圏を移動させる。それが少し早まっただけ。なら、それに合わせて私たちは適応するだけ。

生きるため、栄光のため、私たちは全てを擲る覚悟はある」

 

 

「馬鹿げた話を…!」

 

「それに。いずれ世界が滅びれば嫌でも彼女が出てくる。もうこの世界に、男に用はない、とね」

 

「…篠ノ之束博士ですか」

 

「ええ。彼女だって女。私たちが匿う理由もないし、条件を提示されればそれを飲むことも構わない。

ただし、絶対に言葉通りとはいかないけど」

 

本当に子どものような甘い考えだ。

しかし、それでも本気で行おうとするその姿勢が崩れない限り、笑い話で済むことはない。

もしこのまま黙ってしまえば、確実に世界は破滅する。

彼女たちの何も考えていないに等しい、子どものような考えによって。

 

もう我慢の限界だ。

セシリアは銃を抜き、エリザの額に突きつける。

焦りもある。だがまだ冷静さを失っていない彼女は冷や汗を垂らしつつも問うた。

 

 

「御託はもういいです。今すぐに降伏し、核発射を止めさせなさい。上官や階級は関係ない。これは命令です」

 

「お断り…というより無理よ。私にはできない」

 

「ッ…指揮系統ですか」

 

『このクソアマ…!』

 

『少尉、向こうのデータベースから首謀者が判明しました。イギリスの議員です。

しかも、ご丁寧に彼女の根回しで王室のほうにも手の者回してるって…!』

 

「…全部、貴方たちの独断ですか」

 

当然。と陽気に答えるエリザ。どうやら銃を突きつけられても冷静さは失っていないらしい。

その理由の一つとしては恐らくセシリアの後ろに待機させている女兵士たちだ。

彼女たちが自分が撃つよりも早く射殺するはず。

仮に撃たれたとしても指揮系統の一つが落ちるだけで組織的ダメージは軽微。

後の組織関係については他の者任せだろうが、それでも彼女は自分の命に保険があると思いきっている。

 

 

「…随分と、本気で…それであなたたちはどうなると言うのですか?」

 

「しいて上げるなら英雄。私たちは新たな社会を作る創始者となる」

 

「…本気なんですね」

 

顔でそう答えるエリザにセシリアは沈黙する。

答えは変わらない、元から曲がらないのだ。

聞いたところで無駄であるのは分かっていた。

 

だから。セシリアは静かに銃を下げた。

 

 

「私たちは私たちが望んだ社会を作る。だから、貴方にもその気があるのなら…」

 

 

ゆっくりと伸ばされる手にセシリアは呟く。

それも悪くないか、と。

エリザは小さく微笑む彼女の表情に勝機と喜びを感じた。

彼女もまた女であると。

 

 

 

しかし。それ以前に、彼女が人間であるという事までは分からなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…で。結果私たちはどうするか、よね。黙っているワケにも行かないし、かと言ってここで戦端開くのもね…」

 

『少尉との回線はさっきのを最後に切れましたので、後は向こうが応答してくれませんと…』

 

しかし、このまま黙っていればいずれは彼女たちの思惑通り戦争へと転がり落ちてしまう。そうなってしまえば確実にイギリスという国は滅びる。そしてそれが連鎖となり、いずれ世界をも滅ぼしてしまう。

あくまで可能性の話であったとしても、戦火が広がりイギリス国内もそのダメージを受けるというのは変わらない。

まるでゲームでもしているかのように、彼女たちは世界を壊し、多くの人間を犠牲にしようとしていた。

 

並みの人間であれば絶対に躊躇することだ。

誰も世界を破壊した人間として後世に語り継がれたくない。

そしてただ子どものような理由のためだけに何億という人間を犠牲にするのもだ。

しかし彼女たちはある意味それを恐れていない。

世界の破壊者として語られず、英雄として、功労者として語られると楽観視しているのだ。

自分たちは絶対に成功するという理由も分からない根拠を胸に、彼女たちはそれをやろうとしている。

 

 

「…ノエル。アンタのそのPCで…」

 

『む、無茶言わないでください…私でも流石に核弾頭の信管コードなんてハッキングできませんよ…アレ滅茶苦茶分厚いんですよ!?』

 

無理難題を押し付けられたノエルは慌てて彼女の言葉を止めに入る。

核弾頭の信管コードは確かに外からのアクセスで止めることは可能だが、それまでの道のりが長い。仮にできるという自信があったとしても、時間的に、機材などの問題も含めて解除は難しい。

 

『弾頭打ち上げまでの期限は半日。ですが、まだ時間はあるので―――』

 

「…ノエル?」

 

するとノエルの口がぴたりと止まり、無線越しにそれを聞いていたアリスは何かあったのかと問う。

 

『…曹長。十二時の方向からIS。しかも三機小隊です…!』

 

 

すぐに後ろに上半身だけを振り返らせ双眼鏡で確認すると、確かにこの演習所に向かう所属不明(・・・・)のISが三機、真っ直ぐと向かってきていた。

 

「ゲッ…!」

 

『今も少尉の方からの応答はない…このままでは…!』

 

「チッ…ノエル、こうなったら…!」

 

一矢報いるという訳ではないが、このままでは自分たちも巻き添えを食らってしまう。

そうなってしまえば援護どころの話ではない。撤退を考えるがまだ完全に治っていない足でどこまで逃げ切るのか分からない。

ならばせめて最後まで抵抗するしかない。

アリスは覚悟を決め、M14の狙撃銃を動かした。

 

 

 

 

だが、その刹那。前方の議事堂から爆発が起こり、二人は反射的に顔を振り向いた。

議事堂の敷地内。それもIS専用の補給車両などから火の手が上がっている。

突然の爆発に敵陣地の女兵士たちは驚き、何があったのかと叫んでいる。スコープを除けば、そのほかにも爆発に巻き込まれた兵士の死体が転がっていたりと、どうやら中で何かがあったらしい。

 

「ッ…何があったの!?」

 

『わ、分かりません!どうやら敵陣地で爆発があったというのは確かなんですが…どこからか…あ!』

 

何かに気付いたノエルに再び訊ねる。

敵陣での爆発は誰かが意図的に行った物。しかも彼女たちが大切にする設備、施設などを集中的に狙ったのだ。防衛線と違い内部は無警戒に近いものだったので急な爆発に慌てふためく声が殆ど。内部では既に混乱が広がっていた。

そんな事が起こる理由。起こす人物は一人しかいない。

 

『曹長ッ!』

 

「ッ…!」

 

再びスコープを除くと、正面から誰かが防衛線に向かって一直線に走っている。

混乱のドサクサに紛れて敵陣から逃げ出すセシリアが、見えているだろう彼女に向かい手を振っていたのだ。

私は大丈夫。ここに居る。と

 

「あの人生きてた!」

 

『どうやら防衛線の方から真っ直ぐ撤退してくるようですね!』

 

「…けどそれって絶対に狙われるじゃん!?」

 

案の定、セシリアは後ろから追撃を受けることになり、混乱の中で確かな事をたぐい寄せた彼女たちは爆発の犯人がセシリアであると言い叫び、とりあえずの目的として彼女を撃ち殺すように命令した。

 

 

『アリス、援護よろしくてよ!!』

 

「よろしくてよじゃないって!?」

 

『少尉、そのまま真っ直ぐに逃げてください!今、防衛線にいる部隊にも攻撃命令が降りましたので!』

 

「戦火に紛れて戻ってこれると?」

 

『え。いやだって…少尉、いつもそうだったでしょ?』

 

「………。」

 

(いやそこ否定してよお嬢)

 

 

混乱の中よく余裕だなと感心するアリスはそれでも冷静に判断する彼女を捉えつつ、指示通り彼女の撤退の援護を始める。

後方から迫るIS部隊に焦りを迫られるのも事実だが、それでも落ち着いて、呼吸を整えて狙いを定めていく。

 

『後方のIS部隊は現在空軍基地から上がった戦闘機と交戦。足止めで最大二十分は可能です』

 

「戦闘機部隊が勝つって選択肢は?」

 

『…なくはないです。』

 

 

 

 

 

自分の背に向けて放たれる銃撃にセシリアは寒気を感じながらも全力で廃墟の中を駆け抜ける。

運悪く足や肩に撃たれることだってあるかもしれないが、それはその時に考えればいいと捨てて逃げる事を優先する。武器装備が殆どない彼女にとって、現状正面から牽制するのは無謀に等しく、頭の中では論外と罵倒されている。

牽制する暇があるのなら、逃げて体勢を整えるなり安全を確保したりが最善の策だ。

 

それが彼女がこの二年で身に着けた生存方法だった。

 

 

「敵陣に逃げ込もうとしている女を撃てッ!アイツは我々の裏切り者だ!!」

 

「エリザ大尉に報告しろ!全部隊スクランブルだ、敵が押し込んでくるぞ!」

 

「ここで守り切れば他のみんながやってくれる!そうすれば私たちの勝ちだ!」

 

勝手に盛り上がる女兵士たちの声を耳に呆れた顔で走ると、前方から機械化部隊が編隊を組んで進撃を始めていた。味方の兵士が逃げているのにも関わらず問答無用に迫ってくる彼らに、当然といえば当然かと冷たく受け入れていた。

だがこのままでは自分はあの機械化部隊に引かれ煉られてミンチになるのやもしれん。

たかが兵士一人が死ぬだけだとアッサリ切り捨てる指揮官の顔を脳裏に浮かべ、タイミングを見てセシリアは横にあった建物へと飛び込む。

 

「ッ…!」

 

『お嬢ッ!?』

 

「近くの建物に逃げ込んだだけ。このまま建物を通じてそちらに戻りますから、援護を続けて!」

 

 

 

 

「援護つっても、本人がどこにいるのやら…」

 

兎も角援護射撃を始めるアリスは最後にセシリアを見た場所から位置を逆算し、追撃と反撃に乗り出す彼女たちを確実に撃ち始める。

 

「まずは…」

 

最後に彼女が逃げ込んだ建物に入ろうとする二人組。その一人をスコープに収め、アリスは静かに銃爪を引く。

サプレッサーによって音が消されてるので向こうも気付けず、中に入ろうとしていた女兵士は頭を撃たれ絶命する。仲間が撃たれたのに気づき、狙撃されていると分かったもう一人も直ぐに次の弾が来るとは思わず、周囲を見回している間にヘッドショットを決められた。

 

「次っと…!」

 

 

「狙撃ッ!?不用意に顔を出すな、向こうの鷹の目に―――」

 

次の瞬間。叫んでいた小隊長らしき人物の頭の肉が抉られる音が響き、彼女は頭部から赤い鮮血と僅かな肉を巻き散らして地面へと引き込まれる。

今さっきまで声を出していた隊長が息絶え、地面に倒れたのを見て恐怖した兵士は先ほどまでの戦意が少しずつ消え失せていき、次第に恐怖へと変化していく。

恐れずに戦っていた筈なのに、いざ目の前で人が死んだのを見ると怯えて腰が引けてしまう。

 

これが彼女たち反乱者たちと正規軍の軍人たちの決定的違いであり、敗因でもある。

人の死を見慣れない彼女たちは次第に死んでいく人の姿を見て戦意をそがれ、それがやがて恐怖へと変わってしまう。

まともに戦場にも出ず、ただ上から振る舞っていただけの者たちはもっとひどく、先ほどまで一緒に戦っていた友軍の兵士が死に、鮮血を出したのを見るとまるで汚物を見てるかのように蔑んで後ずさりを始めたのだ。

 

 

「あ…あああ…」

 

「ひ…!?」

 

「い、いや…死にたくない…」

 

 

 

「…なんか、向こう可笑しくないか?」

 

『恐らく、仲間の死を見て怯えているのでしょう。所詮、戦場に出ない軍人というのはそんな奴ですわ』

 

「…かも、しれませんね」

 

だからなのだろうか。

アリスは逃げ始めた女兵士たちの姿を見て、心苦しくは思ったが、それが銃爪を引かない理由にはならず、容赦なく撃ち抜いていく。

哀れみや呆れ、苛立ちや怒り。思う事は様々だが、それでいて酷く冷静な彼女は、ただ静かに銃爪を引き、スコープの先に居る女たちを撃ち殺していく。

 

「………。」

 

 

一方でセシリアは穴の開いた場所をくぐり建物から建物へと移動。少しずつだが遠のく銃声に一先ずはと軽く息を吐く。

既に外では戦闘が始まり、その情報が逐一彼女の無線に伝わってくる。

敵防衛線の崩壊。陣形の総崩れ。ISの出撃と牽制。部隊の損耗率。援護の要請。

その中から必要な情報だけを頭の中に入れ、建物の中を移動する。

 

「安全圏に移動するまえに例のポイントに向かいます。伍長、敵は?」

 

『半径十数メートル圏内に敵のナノマシン反応なし。ですが先ほど挟撃をする部隊なんでしょうか、二人ほど確認したので注意してください』

 

「…了解」

 

残弾を確認しマガジンを装填する。

差ほど撃ってはいないのでまだ余裕はあるが、無人機などが現れればハンドガンなどでは戦える相手ではない。

また向こうも自分の事を追跡し、迫っていることもあり、ココからは一気に駆け抜けずに慎重に進むことが大切だ。

 

「…ふー…」

 

呼吸を整えたセシリアは一歩ずつ静かに歩いていく。今いる部屋の中には階段と瓦礫でふさがれた扉。そして先ほど通った穴しかないので、彼女は嫌でも階段から登って自陣に戻る必要がある。

迂回や駆け足で行くのも別に問題はないが、迂回の場合は敵に出会う確率やトラブルに会うこともあり、駆け足では敵に気付かず接近を許してしまう事もある。そして何より周囲への警戒が疎かになって敵の接近、それも無人機「月光」などとの遭遇を許してしまう。

 

ならば、敵を警戒し、尚且つ安全に最短距離を向かうのであれば慎重に、隠れて移動するのがいい。

つまり。スニーキングだ。

 

 

「…戻るだけでも精一杯ですわね」

 

階段の直ぐ近くで足を止め、顔を僅かにだが除かせる。日差しが差し込み、階段一面が土色の砂とコンクリートが日に当てられている。上から来るのであれば影でわかるが、逆に彼女が通ればバレてしまう可能性だってある。

行くのを断念するべきかと躊躇してしまうが、上へと昇らなければ目的の場所や他の場所に移ることも出来ない。

もう進むしかないと決めた彼女は足を踏み入れる。

一歩、また一歩と慎重に、そして静かに。足音だけが響くのを耳に入れ、神経の全てを尖らせる。

敵はどこから来るのか。どこに居るのか。その全てを把握して。

 

 

 

 

階段を上り切ると長い廊下をしゃがんで進み、ドアの壊された一室に転がり込む。

中はビジネス用の部屋を再現したもので、少し前の机やデスク。そして棚やロッカーなどが鎮座していた。

 

「………。」

 

ここがセシリアの言っていた「例のポイント」。

軽装だった彼女がいざという時のために置いてきた銃とマガジンが全てココに隠されていたのだ。

周囲が安全であると確認した彼女は立ち上がると、室内にあるロッカーを開けて中に隠していたライフルを手に取る。

FN FALのカービンモデルと、そのマガジンセットだ。

 

嫌でも増える女性兵士というのに対応するため、用意された小銃は過去に使用されたものや現役から降ろされたものを使い回すといういわば「お下がり」を彼女たちが使うことになっていた。

それは今戦っている女性反乱者たちも同様で、今は強奪した新型の銃などで反撃しているが元は彼女と同様に使い回しだったりお下がりの銃で訓練をしていた。だが、それでは不公平、いや納得いかず、不満しかない彼女たちは自分たちは常に最新を行くなどと言って今回装備も奪ったということだ。

 

 

「さて。直ぐに戻ると―――」

 

刹那。

 

 

 

 

 

「まて、この裏切り者ッ!!」

 

自分の背から聞こえる声に舌打ちする。別段聞き覚えのある声ではないが、震えた声とカタカタと音を鳴らすのは、怯えた新兵などでしかない。

そんな状態でよく追ってこられたな。と感心するが、だからこそかと直ぐに逆転の意味を考える。

逆に怯えているからこそ、恐怖心に駆られ神経が尖り過ぎているからこそ、逃げることを最前に考え生きることに縋りつく。

 

 

「………。」

 

立ち上がり振り向けば、そこには予想していた通り震えた少女が銃を腰だめに構えおぼつかない顔で見ていた。

歯を鳴らし、脂汗を滲ませ、小刻みに身を震わせる姿を見て、セシリアはただ悪態をつくしかない。

よくそんなのでここまで来れたな、と。

 

「…震えてますよ。新兵さん」

 

「だっ黙れ!!私はお前のように平然と裏切る奴とは違うんだッ!!」

 

噛みあっていない話に救いようのなさを感じ、セシリアは堂々と彼女の前で深いため息を吐いて目をそらす。

完全に舐められていると、呆れられていると分かった新兵は怒気か何かも定まらない声で反論する。

 

「な、なんだよ!!貴様ッ!!」

 

「…何って…何がですか」

 

「女でありながら男に味方し、あまつさえ私たちの指揮官さえも手に掛けた!!

何故私たちの理想に賛同しない!!何故平気で同じ人間を殺すッ!!」

 

「………。」

 

この時点で聞けば誰もがあの新兵に賛同するというわけではないが正論さを少しは感じてしまうのだろう。

だが、話の全貌さえ聞いてしまえば、彼女たちのセリフには全て矛盾しか残らない。

だから、セシリアは平然とした顔で切り返した。

 

 

「―――あなたの言う人とは何ですか」

 

「…は?」

 

「戦場で戦う人間?それとも普通の営みを行う者たち?あるいは―――

 

 

 

 

ただ”女”であるだけ?」

 

 

 

「な、なにを…」

 

 

「当然。貴方は三番目の「女であるだけ」という意味でその言葉を口にしたのでしょう。ですがね。それが納得できないのではない。貴方たちのいう「人」の定義は矛盾でしかない。

私には。女であるからというだけで「人」と定義し、男であるから「蛮族」と呼ぶ理由が理解できないのですよ」

 

 

彼女たちの女性至上主義には矛盾しかない。

何故自分たちが優れていると断言できるのか。どうして女であるから優位であり、男であるから劣等なのか。

彼女から見れば全て同じだ。男には男の優劣があり、女にも優劣は存在する。

それは二種を比べても同じだ。女には男より劣ることがある。男には女より優れたものがある。

なのに、どうしてそれを知らず。ただ「女であるから」という理由だけで自分たちが優位であると言い切れるのだろう。

 

 

 

「私は、自分の言い分ばかりしか押し付けず、赤子のように騒ぐ人は嫌いなんです」

 

それがセシリアの答えの全て。

そして。銃爪を引く理由だ。

 

過去に何度もそんな人間を見て来たから。

自分がなにをしたのでもないのに、誰かの威光に縋りつくだけしかできない人間を大勢見て来たから。

 

金持ちの家。政治家の息子娘。ISへの適性が極めて高かった(一般的に)。etc etc...

 

 

思い出すだけで反吐が出る。思い返すだけで苦痛がよみがえる。

再生するだけで怒りがこみあげてくる。

 

全部私がやった。私のお陰。私の物。

けど全て自分のものではない。

 

身を守るのは警護の人間に。

身の回りの事は使用人に。

身のための金は奴隷に。

 

全部私がやった事。

 

そういう人間は。

 

 

 

 

 

 

 

 

「みんな。きらい」

 

迷いも呆れも慈悲もない。

そんな奴らは消えてしまえ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………!」

 

ふと目が覚めると、重くなった目蓋を開けて目の前に広がる世界を見つめる。

暗く満点の夜空とも言うべき世界が広がっているが、生憎と排気ガスの所為か星は数える程度しか見えない。

だが、辛うじて空気だけはマシなもので、それを鼻から吸うとセシリアは体を起こす。

 

 

ラウラの起こした事件からそろそろ四週目。

生徒たちが代わりに入ったマンションではなく近くにある高級ホテルのスイートを借り、彼女はバルコニーで仮眠をとっていたはずだった。

だが、疲れの所為か長く眠ってしまっていたしらく、昼下がりだったはずがいつの間にか夜になっていた。

 

「…今」

 

首元からぶら下げていた小さな時計を取り出すと、刻まれた時刻を見てホッと胸をなでおろす。

時刻はもう直ぐ八時を回る。寝すぎたようではあるが、別に問題の時刻ではない。

寧ろ、久しぶりに昼寝というのを行えてよかったという喜びが彼女にはあり、夜風に吹かれると小さく頬を緩ませた。

 

 

 

「お目覚めですか、お嬢」

 

「…ええ」

 

後ろからバルコニーに出て来たアリスは見慣れたメイド服を着て歩み寄る。

長いスカートとブラウンのブーツは本人曰く「お気に入り」のようで短いスカートや靴は色々と面倒だったり恥ずかしかったりするらしい。

あと、寒いと付け足したこともある。

 

「久しぶりに随分と長く寝てましたね」

 

「睡眠時間も最近は削り気味でしたから…いい気持ちで寝れましたわ」

 

何も言わずに紅茶を差し出され、礼を言うと受け皿と共に手に持ち暖かい状態のまま口へと入れる。

口に合わせてなのか多少ぬるく感じるがそれは彼女なりの配慮だろう。

目線をアリスへとずらし微笑むとまた一杯、口へと入れていく。ほんのりと暖かい紅茶は体を少しながら温め気分を柔らかくさせる。

それを見て、セシリアはふと頭で思っていなかった事を口にする。

 

 

 

「そういえば、随分と淹れるのが上手になりましたわね」

 

「…ええ。お陰様で」

 

「それはどっちに対して?」

 

「…まぁどっちも」

 

苦笑気味に答えるアリスの脳裏には厳しかった日々と、それ以上に厳しい執事長の事を思い返しており、今となっては笑い話に思えるが当時はワリと洒落にならなかったと答える。

当時厳しかったことも今となってはというのはよくある話だが、彼女の場合、職よりも命の危機である事がとても印象深かったという程で、その原因の一人が今のんびりと紅茶を飲む彼女でもあったりする。

毒舌の毎日、罵倒の毎日。乱射の毎日。

お陰で何度半殺しにされただろうか、と。

 

 

「………いいでしょう。今の言葉、ルイスに報告しておきます」

 

「いやぁぁぁぁぁ!?」

 

 

その後。アリスが叫んだのが給料と命を減らさせるぅぅぅ?!

と、死んでは元も子のないものを言っていたので帰国した後が怖くなったという。

 




オマケ。
事件のその後。

核弾頭を手に入れた女性反乱軍でしたが、実はこの時スネークに潜入されており核弾頭発射は無効に。
その後イギリス軍の一斉攻撃で鎮圧され、首謀者は全員射殺。残る幹部は一部射殺され、残りは終身刑(有無もなく)
下位の兵士は一部がプログラムから強制排除。裁判による制裁。残る僅かな人数のみはプログラムに戻されたという。ただし生き残ったという記録はない。

またセシリアが交渉に言った指揮官はセシリアの手で射殺。他、IS操縦者たちも全員逮捕されて重刑を負わされた。
ちなみに最後に出た新兵は刑は軽かったがプログラムから外され、別の道を歩んだとか。理由の一つに彼女に足などを撃たれ、当分まともな運動もままならなかったからだと言う。


ノエルのその後…
ノエルは事件後セシリアと同じ隊になるも足を負傷。戦線離脱を余儀なくされ、後に訓練プログラムから外される。
しかし本人のスキルが高かったことと反乱に加わらなかったことからISのプログラム関係の職についたという話を最後に聞いたらしい。



・ちなみにSASとSBSは当然仲悪いが、今回は渋々合同訓練したトカ。理由は…女王が「お前らこんな時ぐらい喧嘩するな」と言ったらしい。しかも語弊なく。

・この事件を教訓にIS操縦者訓練プログラムは更に修正が加わり軒並み参加者の死亡率も上がったと言う。代わりに叩き上げの連中ができたのだが。

・訓練プログラムにも期生があり、セシリアたちは七十七期生。
ちなみに五十期生までまともな人間が集まらなかった、というかそもそも選別や募集方法がまだ定まっていなかったので失敗も多く、第六十四期生から本格的に整備され人数が集まった。
ちなみにイギリスの代表というが募集者は国外でもよかった。これは過去の出来事の所為で国内の募集者やそもそも少女というべき子どもが激減したから。
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