IS×MGS - Another Solid -   作:No.20_Blaz

55 / 68
さてさて第五十三話です。


今回は鈴の過去篇…なのですが、かなり話長ったらいですしバトルとかMGSとかあまり関係がありません。
あと、話の大部分が自分の意味不明な価値観の話です。
今回、ある意味「反戦」っていうのに一番近いですけど、その分メチャクチャ面倒臭い話です。
それだけは絶対にご了承ください。


という事で、今回の過去篇でひと段落するはずです。
水着回はするにするんですが、何せラウラ居ませんしMGSのメンバーも居ますのでかなりカオスな予定になります(いろんな意味で)


ってなワケでそんな過去話の最後の一人、鈴の過去篇
その五十三話、お楽しみ下さい。


No.53 「分岐」

 

 

 

 

 

二年前

 

戦争経済に突入していた世界は各地に燻っていた火種が再燃。

当然のことながら、日本の隣国である中国でもその炎は巻き起こった。

長く民族問題や貧富の格差などが理由で軋轢が生まれていたが、それも辛うじて平和と呼べる世界だったからこそ保てていた事だった。

 

しかし。戦争が日常となった世界では次第に、その意識は薄れていき。遂には国内に建てられたPMC企業などを使いテロまがいの妨害工作などが発生。

これを機に、今までギリギリの所で止まっていた戦争への抑止が崩壊。

 

後に「中国内戦」と呼ばれる国内最大規模の内乱が勃発。混迷の世に引きずり込まれていった。

 

 

 

 

 

 

民兵、正規軍、PMC、義勇軍。呼び名様々な軍隊が国内の至る所で銃と兵器を持ち戦闘。

形式上では、今までの政府体制に異を唱えた者たちや格差などを強いられてきた少数民族などの「独立解放軍」と正規軍などの内乱・内戦が多くではあるが、実際は殆ど形のない食い荒らしにしか過ぎない。

 

独立解放軍も最初期から最盛期に掛けては練度と士気、そして結束力が高かったが、戦いが長引くにつれて組織内で分裂を起こしたりして、次第に自然消滅する。

これには正規軍や政府も喜んでいたが、同時に自分たちも同じ目に合うとは思ってもおらず、味方同士での消し合いや優劣の明確化などで目的が形だけになっていく。

 

内戦開始から半年が経過すると、その時期が内戦の最悪期で中国ほぼ全土だけでなく隣国にまで火の粉が舞い散る始末。

更に内乱の最中に自分の名声を上げたい者や地位、富、人材などを独占しようとするもの。果ては無法者としてただ虐殺を繰り返す者も。

一般人、民間人はこの餌食になり、虐殺や人質などに巻き込まれ多くの命を散らせた。

 

 

 

 

 

凰鈴音も直接の被害こそあわなかったものの、彼女も内戦の被害者となる。

国内の中でも数少ない戦火を受けない場所としてある自治区香港とマカオ。

その二つには戦火を逃れようと多くの中国難民が押し寄せ、連日受け入れ審査や居住地の確保で騒ぎ続けた。

いくら受け入れが可能だと言っても、難民の数は馬鹿にならず、マカオや香港だけでは到底全部を受け入れることはできなかった。

そこで国外である台湾やタイにいくらかを受け入れさせ、辛うじて内政を保たせていた。

 

 

だが。

最早無法となった世界では何を信じていいのか分からなくなってしまう。

それによって、火の手はついて香港などにも及んだ。

 

香港で内戦の中、逃げ込んだ元中国政府大臣が居るという信憑性の無い情報が噂が立ち、これを鵜呑みにした独立解放軍の青年らが乗り込んでいると思われる列車内で自爆。

表向きは事故と処理されたが、これを知られたくない独立軍は情報を隠蔽ないし回避。

 

これによって、列車に乗っていた乗客全員が死亡。

延べ約二百人と言われており

 

 

その中には彼女の両親も乗り込んでいたという。

 

 

 

 

数か月後。少しずつだが戦火に呑まれつつあった香港から、親戚の協力を得て脱出。

世界遺産に登録され、暗黙の了解のように無傷であった武陵源の近くに身を置くこととなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――朝か…」

 

朝の日差しが差し込むと、けたたましく鳴る音に顔を歪める。

既に目は覚めていたが、意識としてか体が動こうとせずにそのままの状態で固まっていたので、ほぼ直接と言っていいほど耳障りな音が入ってくる。

最近流行りのデジタル式ではない、少し昔のベル式だ。

 

五月蠅く鳴り響くベルを叩いて止めると、青年は薄い毛布の中から姿を見せて起き上がる。

まだ頭の中がぼやけている状態だが、夜遅くまで起きていた所為かあまりいい気分ではない。

だが時計の時間を見て、そろそろ起きなければならない時刻であるため嫌でも起きなければならない。

でなければ、そろそろ聞こえてくるだろう声に更に気分を悪くしなければならない。

 

 

 

(ヘイ)!何時まで寝てるんだ!」

 

「………。」

 

言われなくても分かっている、と悪態をついた黒は寝ていたベッドから降りると直ぐに着替えて外に繋がるドアから出ていく。

 

 

 

 

 

 

外に出れば快晴とは言えないが、青い空と薄い灰色の雲が空を覆い辺りには険しい断崖の数々が現れる。

アメリカのグランドキャニオンのようにそびえ立つその岩山は長い間、雨や洪水などによって浸食された事によって形成されたもので自然的に作られたものだ。

木々は生えているが、所々で雨や洪水の所為で流れたのか側面には一つとしてない。

そこに仙人でも住んでいるかのようなその場所は中国の自然遺産「武陵源」そのもの。

黒の家は断崖絶壁の上に立つ田園、世に言う空中田園を経営しているのだ。

 

 

「………寒っ」

 

肌寒いのか体をこすって温める。高度が高いからか外の気温は低く、立っているだけでも体が凍っていきそうに思えてしまう。

ココに来てから、なんとなしに母がここから離れた理由を分かったような気がした黒は、外にある石の階段を下りていく。

 

黒は元々北京に住んでいたが、戦火を逃れてココに逃げ込んできた一人で、母が元は辺りに住む民族の出で、彼の父はそんな彼女と結婚したのがこことの縁の始まりだ。

しかし父が革命だなんだという言葉に踊らされ、独立解放軍に参加。

彼の母はその戦火に巻き込まれたくないがため、黒を連れて祖母の居るというここに逃げ込んできた。

当然、ただで済むはずがないという事で祖母の農園の手伝いをするという事で家を借りてもらっているのが現状だ。

 

 

「あ、やっと来た…」

 

「おはよ、母さん」

 

ちなみに、黒の母はまだ若く。学生の終わりごろに父と出会って生んだと言う。

黒の歳が十五であるので大体の想像がつくのか、彼は時折それを考えると深くため息を吐く。

 

「遅いよ。私は向こうの仕事手伝ってくるから、アンタはあの娘(・・・)起こして朝飯食べてきな」

 

「…あいよ」

 

 

まだ眠気の冷めない黒はあくびを欠きながら一旦自分の部屋へと戻っていく。

母に呼び出された時にはまだ寝間着だったので、それを着替えてから頼まれた事を行う。距離が近いので寝間着のままでも問題はないが外が寒いので我慢できず、来る時に一緒に持ってきていたジャージを着て彼は洗濯へと放り出した。

 

「…さて、と」

 

着替えを済ませた黒に最初に与えられた仕事。自分の隣の部屋で寝ているだろう彼女を起こして、一緒にご飯を食べておけ。

言う事もやる事も簡単な事だが、彼はいざそれを伝えるためにと部屋の前に立つとどうしても入る前に手を止めてしまう。

そこに仕掛けが施されているわけでもないし、開けば彼が死ぬような事もありはしないが、一言で言うなら「面倒な」事がその奥にあったのだ。

 

「………。」

 

 

 

清潔感のある部屋だった。

と言っても、壁などは年期があるので多少シミなどがあるが、片づいているかどうかで言えばそうである方だ。

殆どどこにも手を付けていないという様な状態であれば。

 

「…朝だぞ」

 

低くもハッキリと聞こえる声で言う黒は、中心に置かれていたベッドの中で蹲っている誰かに呼びかける。

しかし、眠っているのか。それとも本当に寝ているのかと疑いたくなるほど静まり返り、微動だもしない様子には気味の悪さを感じる。辛うじて呼吸をする動きは分かるが、それ以外は本当に生きているのかと疑うほど動く気配がない。

 

 

「………オイ」

 

再度呼びかける。だが返答は同じ、無言しか戻ってこない。

遂には苛立って唇を噛みしめた彼は、堂々と奥へ進むと繭のようにくるまっていた毛布を無理やりにでも引きはがした。

 

 

 

 

 

「起きろよ、鈴ッ」

 

引きはがされた毛布の下には長い髪をベッドの至る所に散らした鈴が居た。既に目も開いており、口も呼吸のためか少し動いていたが本当にその程度でそれ以外は全く動こうともしない。

まるで植物人間のように『動く』ことをしない状態だった。

 

「ッ…」

 

生きているのか死んでいるのか。どちらかと言えば、当然、鈴は生きている。

だが、精神が死んだように生きる気力を失ってしまっていたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

モンド・グロッソが行われた日から二か月後。

未だ内戦の影響で外部との連絡が難しかった時に、その事件は起こった。

 

一夏が失踪した後の事、すっかりと気を落としてしまった鈴は今と同じように生きる気力を失っていた。だが辛うじて気を取り持っているという状態で、動いたり返事をしたりするが、そのどれにも覇気がない。

ただその時に既に彼に対する怒りのようなものが燃えていたのも事実だ。

しかしこれがまだ熱を帯びるかどうか分からない時期であり、後に千冬と再会して冷めてしまったのも確かだ。

 

だがこれは、そんな彼女に追いうちをかけるようになってしまった事で誰も意図せずにこうなってしまった、としか言えない出来事だった。

 

 

香港での列車爆破事件。

生存確率は絶望的と言われ、それでも尚彼女は両親二人の無事を祈った。

彼女だけに限った事ではない。皆、奇跡というべき確率を信じ、そして願った。

都合のいいといえばそれまでだ。それでも当時の彼女たちにはそれしかできなかったのも事実だ。

特に鈴はようやく生きる気力を取り戻そうとした最中にこの出来事に直面してしまったので願う意志は人一倍強い。

日本の情勢に浸っていた父がようやく決心し母との再婚、そして寄りを取り戻そうとしていたのだ。

戦争放棄という法の下が安全だと言い日本に残ってしまった父と、娘の将来を考えて離れる事を決めた母。

折れたという訳ではないが、父も考えを改めたと言い少しずつだが会って話し合ってを繰り返してきた。そして、それがようやく纏まり、再婚すると共に香港に居を構える事を決意。その為の最後の纏めと新居の確認のため二人は列車に乗り込んだと言う。

 

だが。そこに真意定かではない情報に踊らさせた独立解放軍の青年らが、体中に大量の高濃度アルコール酒を巻き付け乗車。中国政府打倒を叫び、一斉に自爆したと言う。

 

 

中国各地での内戦で爆発的に増加した中国難民が原因で、地元消防隊などの現地到着が遅れ、消火作業が始まったのは爆破から一時間近く経過した後の事だった。

 

 

 

 

 

 

結果は乗客乗員全員が死亡。また、独立解放軍が入手したと言われる大臣乗車の情報はデマだった事が発覚し、多くの憶測を生んだ。

 

 

これで済んだ筈がない。

乗車していた人々の遺族らは悲しみ、独立解放軍に対し説明の要求や謝罪等を求めるが、最早統制も取れず形骸化が始まっていた彼らには「これが事故である」と言い訳を言って逃れるので精一杯だった。

誰の目からも彼らの犯行であったのは明らか。しかし、言い逃れしか出来ない状態に支持者は激減、独立解放軍は国民にとって勇士から唯の賊軍へとなり下がってしまった。

もう誰も信じる事の出来ない時代。

 

そんな中で起こった事件に鈴は理由もなく泣き叫び、そして怒りを募らせた。

戦争の所為ではない。時代の所為ではない。

それに踊らされ、自分たちの事だけしか考えない奴ら。

一時の感情に身を任せて勇ましいと勘違いした自爆を行った青年たち。

 

泣き崩れた彼女の瞳には、そんな『人』に対しての激しい憎悪だけが爛々と燃え上がっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しかし、親を喪い、最愛の友も失った鈴にもうそれだけの怒りを爆発させる力も気力も、精神も意味も残っていない。

ただ死んだかのように伏せってしまい、生きることにさえも否定的になっていた。

 

親の居ない、彼の居ない世界に一体何の意味があるのだろう。

 

 

 

 

「………。」

 

食事を取り、また自室に籠った鈴に頭を悩ませる黒。

一応、彼女の事を任され自らも買って出はしたが死んだかのように生気を失った彼女は、ここに来てからは殆ど誰とも言葉を交わさなかった。

最初にこの田園に来た時、そして彼女の母方の親戚であり子どもの頃から慕っている祖母との会話でしか、硬く閉ざされた口を開こうとしない。自分たちに対し、心を閉ざしていた事に苛立ちは持たなかったが心配でならない。

 

「はぁ…」

 

深いため息を吐く黒は、どうしたものか、と考え励ます方法を模索していた。

 

 

 

 

「黒」

 

「ん、何、婆ちゃん」

 

黒の後ろにある階段から登ってくるのは銀髪の髪をした壮年(・・)の女性。

彼女が黒の祖母で、彼の記憶が正しければ御年八十に手が届くはずだ。

なのに、顔つきはまだ二十ほど若く見え、本人曰く「秘訣がある」らしい。

その証拠に、黒が見た限り田園だったり近くの疎開村だったりにはどうにも年齢と顔が違って若く見える人が多い。特に老婆に。

 

「鈴は部屋かい?」

 

「…ああ」

 

「そうかい」

 

短く訊ねた祖母は、そう言って堂々とドアを開けると鈴の居る部屋に入っていく。

一応、ドアの辺りで自分が来たと言っているが、彼は母親からドアをノックしないと○されると言われているので、時折大丈夫なのかと心配になる。

 

祖母がドアの奥に消え、黒はしばらくは出てこないだろうと思い母親や叔母に手伝う事はないかと彼女たちの仕事場に向かう。

男手は彼ひとりなので、時々手伝う事になっていて、彼自身もそれを嫌う事はない。ただ、痛かったり面倒だったりと悪態付く事はかなり多い仕事なので内心ではぶーたれて作業しているが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

部屋に入った祖母は、ドアの前に立つとベッドに倒れている鈴に構わず、独り言のように話を切り出す。

 

「…決心はついたか、鈴」

 

「ッ…」

 

唇が僅かだが動く。

またその話か、とうんざりしていた鈴は無言を返し拒絶する。

話したい気も山々だが、本人の気持ちと話の内容から口を動かしたくても動かしたくない事であったので無視ではなく無言を決め込む。

 

「………別に今とは言わんくてもいい。じゃが、これはお前に課せられた事である。やるかやらんかだけでも―――」

 

 

「……………嫌よ」

 

 

低く沈んだ声が返ってくる。ようやくかと呆れる気持ちもあるが、今まで聞いた中でもかなり沈んだ、ドスのある声に祖母は目を細める。

 

「そんなのに興味ないし…なりたくもない…」

 

「…やらんのならハッキリと言えばいい。なのに、何故今の今まで言わんかった」

 

「………。」

 

平然と問いかけてくる祖母の言葉に苛立ってくる。

歯を噛み、全身に力を入れ始めた彼女は拒絶ではなく「拒否」の言葉を話し始めた。

 

「嫌なの…もう…嫌なのよ。

お父さんもお母さんも居ない…アイツも居ない、友達もいない。まともな人間が居ない…

 

こんな世界、もう嫌なのよ」

 

「―――。」

 

「戦争ばっかで、人殺しばっかで、弱い者いじめばっかで、殺し合いばっかで…

だからそんな所から出られると思った。外に行けると思った。

けど、それでも意味ないの。

誰も居ないのに、私だけ生きてても…意味ないの…」

 

「戦争なのは仕方ない。それで人が死ぬのも仕方ない。

弱い奴らを虐げなければ、そういう馬鹿どもは威張ってられんからな」

 

「………だったらさ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

戦争だから。死んだ人は「仕方ない」で済まされるの?」

 

 

「―――ッ」

 

 

「あの日。お父さんとお母さんが死んじゃった日に

他の人がなんて言ったと思う?

 

 

 

 

「ご家族の事は残念でしたね。ですが、貴方が生きててよかったです」???」

 

「………ッ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

毛布をかなぐり捨てる。

その時の事。今まで溜まっていた怒りが爆発し、鈴は大声で叫んだ。

 

 

 

「ふざけんじゃないわよ!!!!

アタシだけ生きてたって何の意味があんのよ!!!!

生きててよかったです!?いい加減や気休めも大概にして!!!!

 

なにが戦争だからよ!!!

戦争で失った人たちの事も考えないで、それが仕方ないで済むの!?

それでみんな納得したの!!?」

 

 

「鈴…」

 

 

「ねえ、どうなの!!!?戦争で関係のない、意味のない人か死んで「死んでしまいましたか、それは残念ですね、仕方ないですね」で済むの!!!?

みんな「ああそうですね」って泣いて納得したの!!!?」

 

 

安っぽい怒りだと分かっている。

だが、鈴にはそれがどうしても納得できなかった。

人が死ぬ事が、死が大切な事だと思っていた彼女に、理不尽な死はどうしても受け入れられない。それが赤の他人の死であってもだ。

精一杯生きて、そして死んでいく。なのに、いざ戦争だからと言って死んだ人間に「間抜けだ」「それまでだ」「仕方ない事だ」という事で本当に割り切れるだろうか。

少なくとも、それを深く思ってしまっていた彼女にそれは納得できない。

 

特に、その「仕方ない事」として片づけられた両親の死に対して。

二人の死を、いとも簡単に片づけてしまった戦争の火種の人間たちに。

 

 

 

「ねぇ教えて…教えてよお婆ちゃん…」

 

「………。」

 

「人間死んで、それが「仕方ない」の一言で片付いてしまうの?なんでみんなそう易々と割り切るの?

死んだ人にだって家族が居たりするのに。「仕方ない」とか「残念ですね」とかで片付いてしまうの?」

 

 

何故。何故。何故。

この世のありとあらゆる常識、成り立ちに異議を言う鈴に祖母の顔は次第に無情になっていく。

彼女のいう事が解らない訳ではない。事故や自爆テロで死んだ人にも、家族や友人、知り合いが居る。その人が死んだからという事で悲しむのは当然だ。

だが、彼女が納得できないのはその次。

赤の他人、第三者がその死を労わる時の言葉だ。

「残念でした」「良い人でした」「惜しい人だった」

 

 

 

そして「仕方がない」

 

 

人の死が、たったその一言で片付いてしまうのに納得はおろか認めることも出来ない。

まるで物のように一言で捨てられる人の命を、どうしてそんな軽々と言い捨てる事ができるのだろう。

だから彼女は思うのだ。

 

他人の死にその一言で済んでしまうのは、それが「他人」だから。

自分の血の繋がった者や、関係を持つ者ではない、何も知らない、顔も、存在でさえも知らなかった赤の他人だからこそ、聖職者だろうと軍人だろうと「仕方ない」の一言で済んでしまう。

 

そんな一言で片づけられるのだろうか。

鈴の親が死んで誰かが「仕方ない」「残念ですね」と言う。

 

だが、もしその立場が逆だったら?

 

その誰かの親や兄弟が死んで、鈴に「仕方のない事」と言われたらどう思うだろうか。

少なくとも、鈴にはその結果が容易に想像できた。

 

 

 

 

どちらも同じ。怒りや悲しみで泣き叫ぶ。

そして、そんな一言を投げた誰か(自分)を怒りに任せて怒号を浴びせ、殴ってしまうだろう、と。

 

 

 

 

 

「そうじゃな。確かに、お前さんのいう事は正しいじゃろう」

 

「なら―――」

 

「じゃがな。それはあくまで個人単位での話じゃよ」

 

「ッ…!!」

 

 

「お前だけがそんな悲しむわけではない。あの自爆テロで死んだ者の家族や友人とて同じ気持ちのハズじゃ。

なのにお前はそ奴ら一人一人に別々の労わりの言葉を投げさせろと言う。それは人間には絶対に出来ないことじゃよ」

 

「な…」

 

「残念じゃが人間もそこまで器用でもなし、言葉も無限にあるわけではない。たとえ心の底では別に死を労わっていなくても、本当に心の底から労わっていても、言葉は全て同じじゃよ」

 

 

言葉とは決められた意味を持つ存在だ。

無限の意味や、無限の言語があればそれはもう「言葉」という定義を超えてしまっている。

決められた意味だからこそ、人は言葉を理解し相手を理解する。

鈴が「仕方ない」の言葉に怒りを覚えたように。心の底ではなんとも思っていない人間が「残念ですね」と言ったように。

意味があるからこそ使うのが言葉だ。

 

 

「お前さんの気持ちも分からんでもない。そんな気持ちで聞けば、他の連中みーんなの言葉が上っ面だけに聞こえてしまうからのぉ

ま、中には絶対そう思っとる馬鹿モンも居るじゃろうがな」

 

「だったら…!」

 

 

 

 

「じゃがの。本当にそれを労わる奴はどうすればいい?

本当はお前ほどには及ばんが、その誰かの死を労わる奴が

赤の他人だというのに自分の友人であるように心から痛んでいる奴が居たら…

どう思うじゃろうな?」

 

「―――。」

 

「言葉とは意味が定められている。だからこそ難しいんじゃよ。

だからこそ、どう言えばいいのか分からないと人は苦悩するんじゃ」

 

人が対立するのも全ては言葉がもう一つの理由だ。

精神や考え、思想などの違いもあるだろう。

だが、その全てを纏めて示すには言葉と行動が必要となる。

行動は体を動かせばいい。だが言葉は自分の意思を正確に、正しく伝えなくてはならない。

それがもし失敗したりすれば、誤解を生んでしまい、いずれは対立えと発展してしまう。

もし、それを正しく伝えたとしても考えは結果は同じなのかもしれない。

それでも。自分の気持ちをハッキリと言葉で伝えるのと、伝えられないのと、どちらが苦しいだろう。

 

 

 

「肝心なのは言葉そのものではない。

言葉の意味じゃ。どっかの誰かがよく言ったじゃろ?

いくら偽善を振りまくかもしれん言葉を言ったとしても、肝心なのはその言葉の意味と、本人の意思じゃ」

 

 

「…意思」

 

 

「その誰かが「仕方ない」と言っても、本当はその言葉だけで済ませたくない奴も居る。本当は…ワシのようにお前さんのような気持ちを持つ奴もいる。

みんな、それは割り切っているんじゃよ。

 

「いつか自分の周りでもああなってしまう」

 

「何時かは自分もああなるだろう」と

 

自分の意識を保つだけで精一杯なんじゃよ。

 

 

 

 

戦争だから仕方ないんじゃない。

戦争を始めた連中が平気で人を殺す奴らじゃから仕方ないんじゃ。

死んだ奴が悪いわけではない。

戦争で人が死ぬのは、戦争を始めた奴らの責任じゃよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――――――――。」

 

 

 

 

 

 

 

―――それでも

 

 

 

 

 

「やっぱ納得できない」

 

「………。」

 

「戦争で人が死んで、仕方ないで済ませるのって皆力を持つ奴らじゃない。

弱い人たちが仲間を死なせて「仕方がない」「残念だ」で済むの?

 

 

―――私にはそうは思えない。

 

弱いからこそ、人は力を合わせて、団結して、一緒に居て頑張れる。

なのに、その頑張った人に対してそんな一言で片づけたくない。

大切な奴だから、大切な………好きな奴だから…」

 

「…それでもな。鈴よ」

 

 

 

 

人間、死ねばそれまでだ。

いつまでもその場に居るわけでもない。

死した人間を大切に労わることは確かに良い事だろう。

だが、だからと言って、いつまでも

 

 

 

「いつまでもソイツの事を、その男が居た過去に囚われていては、なんにも変わらん。

死んでしまった事実は変わらんし生き返る事だってない」

 

「そんな事―――――!!!」

 

「なら今のお前さんはどうだ?」

 

「ッ―――」

 

 

いつまでも死んだ親や彼の事を思い、未来と向き合う事を拒んでいる。

祖母は別に彼らが死んだことを悔やむなという訳ではない。

悔やむのはいいがそれは一時だけの事。

人は死ねば終わる。だが、自分が生きているなら、まだ終わりはしない。

 

だからこそ、馬鹿は言うのだ。

 

お前の分まで生きてやる。と。

 

人生をまねる事でもない。意識を似せることでもない。

その記憶を一片だけでもいいから忘れず、その誰かの事を覚えて、欠けた世界だとしても、またその欠けた場所を塗り替える(・・・・・)ような未来に生きればいい。

 

 

「ある哲学者が言った。

昨日という自分は「昨日(過去)」になった時点で死んだんじゃ。

そこに生きているのは「(現在)」の自分。

そして生まれるのは「明日(未来)」の自分じゃ。

一日経てば、今は昨日になって死んでいく。そして、明日が今になって生まれる。

 

何かが変わる。何かが起こる。

それは絶対に変わらない事。

 

お前は今…いや。まだ昨日のままでいたいとごねているだけじゃ」

 

 

昨日であり続けたいと願うばかり、鈴は明日(未来)の自分を殺してしまった。

もしかしたら変わっていただろう未来を、彼女は自分の手で殺し、死んだはずの過去にすがりついていた。

この先、それを続ければ鈴は一生未来を殺し続け進むことはなくなる。

たとえ時間が容赦なく進んでも、彼女自身の中ではずっとその時のままなのだから。

 

だから、死んだからこそ

もう居ないからこそ

手を離さなくてはならない。

 

死した人間たちがこれから生きる者たちに背中を押せるように。

生きている自分が、前に振り向いて進めるように。

 

 

 

 

 

「大人になれとは言わん。割り切れとも言わん。

 

ただ、進むために

 

もう手を離してやれい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

仕事がなかった。

あの後、黒は働いている母親の所などに行って手伝う事はないかと聞いたが、「手が足りている」「大丈夫」「邪魔だ大食い」とまで言われ、追い返されてしまった。

最後の親戚の姉の言葉には頭にきたが、結局事実は事実なのでなにもやることがない彼は、一人武陵源の見える高台で耽っていた。

 

「………はぁ」

 

今まで散々仕事から逃げていた黒だが、いざ行ってみるとなると仕事が無いと追い返される。自分の事とはいえ、自分勝手すぎたかと今更だが思う彼はどうやってこの後親などと顔を合わせればいいのかと頭を悩ませていた。

 

 

 

「…黒」

 

「ん…」

 

後ろから名前を呼ぶ事がしたので振り返ってみると、気弱そうな表情で自分を見つめる鈴の姿が居て思わず目を開く。

今まで死んだような彼女か元々のあの明るく喧しい姿しか見たことがなかった彼は、始めて、少女らしい表情の彼女を見たので改めて彼女が普通の女の子であると認識した。

そう。思えばあそこまでふさぎ込んだ理由でさえもそうなってしまうには十分な切欠だった。彼女もまた人であり、親の死でちゃんと悲しむ少女なのだ、と。

 

 

「なんだ…?」

 

「………。」

 

唐突に現れたはいいが、どう言葉を投げればいいのか分からない鈴は口ごもった様子で黒の顔を見る。

一方、一体なにがしたいのか、何を言いたいのかと彼女の切り出しを待つが、それがしばらく続いたので苛立った黒は自分から話を切り出した。

 

「…何を言いたいんだ」

 

「………その、さ」

 

馬鹿らしいとは思っている。それに恥ずかしいとも思ってしまう問いに、鈴は言いだすべきかと戸惑っていたが、元々自分の中にあった気の強さが後押ししたのか。

無意識の内にするりと口に出せた。

 

 

「…黒は…戦争をどう思ってるの?」

 

「………は?」

 

「…上手くは言えないけどさ。こう…客観的っていうより主観的にどうなのかなって…ああ…ホント上手く言えない…」

 

「………。」

 

自分自身はどう思っているのか、それを聞きたいのだがどう表現すればいいのか分からない鈴は頭を抱えてしまうが、何を言いたいのか大体を察した黒は一拍置くとぽつりと呟いた。

 

 

「…俺は…まぁ戦争は嫌いだな」

 

「ッ…!」

 

「戦争って敵と味方に分かれて殺し合うって思ってるけど、実際誰が決めた訳でも無し、それを守る義務もない。

だから戦争をする奴らは平気で武器を持たない人間でさえも巻き込んで犠牲者にする。

今回の自爆テロのようにな」

 

「………。」

 

「戦争を一つの手段として取ってる奴らが居るけど、それって極論言えば力を見せつけたい奴らがやっている事だ。

 

「私たちは力を持っている。逆らえばどうなるか」

 

ってな。いわば、そんな事を平然と行えるのは自分たちにその力があるって自負してる奴らで、更にいえば力を持つ自分たちだからこそ出来ることだって天狗になってる。

だから人を撃てる。だから平気で殺せる」

 

「そう…なの…?」

 

「人間が普通は人を殺せないのと同じだ。誰だってその気になれば首を絞めたり、ナイフで心臓を刺したりって簡単に殺せる。なのに、それが出来ないのは自分が弱いからと自負してるからだ。守るすべも力もない。だから、自然と成り立っているルールに従って人を殺さないと感情で抑制している。

理性が強まれば怒りと激情に呑まれて簡単に人を殺す事だって決断するからな。

力を持つ者。銃を持っている奴らはそれから脱している。いつでも感情一つで人を撃ち殺せるから。そういう考えを銃を持ってる奴らは無意識に持ち合わせている。

本当に自分が気付かないうちに感情と考えの中に仕込まれている」

 

 

戦争とは力によって全てが決まる。

力を持つ者は感情が弱ければ、その一時の感情で無関係の人を殺し、逆に感情が強い者はそれを抑制してそういう奴らを殺すけど、それは単に立場とかが変わっただけで感情制御の出来ない戦争狂と同じだ。

 

つまり、黒が言いたい事は

 

 

「戦争が人を変えるとか、人が戦争を変えるとかじゃない。

 

 

人が変わるから戦争が変わる。

 

 

初めから、「戦争」っていうシステム自体が間違ってる。

人を傷つけるとか、人を巻き込むからとかじゃない。

 

全部、そのシステムが起動した時に絶対に起こる確定事項だからだ」

 

 

別に正義の味方のように戦争はよくない。弱者は守るべきだ、という安易な考えではない。

弱者を守ろうとも、戦争はよくないと言おうとも

「戦争」が始まってしまえば、もう全て手遅れなのだ。

戦争はよくないと言って終戦を促した人も、弱者を守ろうと言い出した奴も

全ては戦争を経験し、戦争を知ったからこそ言い出せる事だ。

知らない奴らからいえば、戦争で被害を最小限にするということが「被害ゼロ」にすると豪語したのと同義なのだ。

 

誰もが知らなければわかる事はない。感じることもない。

初めからそれを起こそうとする事自体が間違えているのだと。

 

 

 

「多分。この先も、こんな内戦ほどじゃないけど戦争は続く。

知らない奴らが平気で戦争を起こして、人を殺すんだからな」

 

「ッ…永遠に…戦争が続くっていうの?」

 

「…そうなのかもしれないし、そうとも言い切れない。それを知った誰かが戦争を止める事もあるかもしれないし、戦争を知ってても失う事を知らない誰かがそれでも戦争を続けるかもしれないから」

 

「―――――。」

 

「俺は戦争がよくないって言うんじゃない。戦争というシステムそのものが嫌いだ」

 

 

黒の言う言葉の意味をなんとなしに捉えた鈴はその向こうにある武陵源の景色を眺めながら沈黙する。

そして。

 

 

 

 

「―――なら、止められるほうが良いわよね」

 

 

「…鈴?」

 

 

 

 

 

―――戦争というシステムが起きる前に、戦争を起こす奴らを…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後。数週間ほどたち、立ち直った鈴は台湾のほうに退避した臨時政府(ほぼ自称に近く機能や権限の殆どを失っているが)が管理する専門の養成校に進学する。

翌年には内戦は一応の終結となり中国は南北に二分され、戦場となった街や施設などには多くの戦死者や破壊の傷跡が残った。

 

そんな中、列車での自爆テロの事件の傷跡が消えつつあった日、同じ自治区であるマカオに建てられた中国のIS専門の養成学校に移動。そこで必死の甲斐あり彼女は中国の代表候補としての座を勝ち取った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夜風が吹くマンションの屋上。そこにはガーデニングされた場所もありいくつかベンチも置かれている。

その一つに腰かける鈴は、臨時の学生寮としてここに来て直ぐに渡された手紙を手に、星の少ない空を眺め考え込んでいた。

 

 

「………。」

 

送り主は武陵源の近くに今も住んでいる親戚の叔母から。

内容は短く、要件のみが書かれているだけだった。

 

 

 

 

――もし。お前さんがその望みを叶えたい、と思う時は戻って来なさい。

その為に戻って来たのだという事で、私が知っている事を全て、貴方に授けます――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…だからって…人殺しには…」

 

最後の鎖に辛うじて繋がれている鈴だが、それが解かれるのも

 

もしかすれば、そう遠くない事なのやもしれない。

 

 

この先、彼と共に居るという事は願わずともそういう道へと引きずり込まれるのだから




後書きと言う名の色々。

そういえば四十七話で書きましたが水着回のほかにも色々と話を追加する予定です。
他の出ていないメンバーやちょっとした幕間の話とか。


カズラジ。?

ああ…そろそろ更新しないと…
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。