IS×MGS - Another Solid - 作:No.20_Blaz
おまたせしました、第五十六話です。
少し弄ってからの再投稿ですので…特になにを話すべきなのか…
取りあえず今後のことについては後書きで書かせていただきます。
それでは第五十六話、お楽しみ下さい。
警備巡回をしている隊員の一人が他の警備員に、ふと考えていたことを問いかけた。
「…なぁ。俺たちは一体なんでこんなところ警備しているんだ…?」
「今更なに言ってんだ。ここの重要な物を守るために俺たちが居るんだろ」
「そうなんだけどさ…俺たち何を守ってるのか…何から守ってるのとか知らないだろ?
仕事だから口答えはしないけど…せめてなにを守ってるかだけは…」
「ああ、そういう事。諦めな、俺も前に一度聞いたけど上官が答えてくれなかった」
いや。答えてくれなかったというよりも『答えを持っていない』という方が正しかっただろう。脳裏に浮かぶ光景とそこに映る自身の上官の顔と声。あれは間違いなくそういう類の表情だ。
自衛隊員であるのに何を守っているのか分からないという彼の意見はここにいる大半の隊員が同じことだ。
巡回をしている者やシステムの監視を行っている者。奥にある巨大な扉を守っている者たちも、ここにいるほぼ全員が。
何も事情も理由も聞かされずただ命令という事で逆らえずに警備に参加しているのが実態だ。
「…だけど、本当にそうだよな。俺たち…一体何を守ってるんだ…?」
単なる物資か。それとも国家を揺るがす何かか。
両極端の可能性に頭の中がかき回されるが、それを振り払い隊員たちは再び警備へと戻った。
「…まぁ、当然か。奥にあるのがメタルギアだって知られれば自衛隊としての存在意義が危ぶまれる。そんな存在を守るために自衛隊が居るわけでもないしな」
『それにあれは上層部の独断って話だ。そんな危ない火種があるのは彼らも納得しないだろうに』
コンテナの影に隠れながら話を耳にしていた一夏は独り言のようにつぶやき、周囲の状況を確認する。本来オタコンが仕入れた情報と地図を頼りに進むのが当然なのだろうが、流石に警備の状況までは分からないのでそこは目視頼りだ。
実際の目で確認しなければ敵の位置だけでなく行動のパターンなども分かりはしない。
「バレたくないからって警備の隊員の数も少ないな。代わりに監視カメラがうじゃうじゃ居る…」
『僕がシステムにハッキングして映像を誤魔化そうか?』
「その方が利口かな。モニター室は」
『この上。近くに階段があるから、そこから登って入ればいいと思う』
「…なら、ステルス迷彩を使うか」
階段の位置を確認した一夏は、警戒しつつコンテナの影から姿を現し音と気配を消して進んで行く。
巡回している隊員たちは反対の方向に向いているので彼を見つける事が出来ず、まるで素通りするかのように侵入を許してしまう。しかもこんな場所に侵入者など来るはずがないという慢心から気が緩み切って、彼らは目の前のことだけしか気にせず後方や側面は微塵も気にもしていない。
これがもし実戦であれば、彼らは当の昔に死んでいるだろう。
(これじゃあ、民兵の方がまだマシだな)
目的地としてマーキングした階段へと向かい、もう一度周囲を警戒すると充電は完了していないがステルス迷彩を起動。多少足音は鳴ってしまうが極力音を消して一歩ずつ登っていく。
「…キャットウォークの上には一人…両側合わせて二人か」
一人であるならタイミングを見計らってと、面倒臭いように歩いて周囲に首を振る隊員の姿を観察し、欠伸をしながら後ろへと身をひねったと同時にキャットウォークの上に一気に駆け上がる。
少しは聞こえたのかもしれないが、それでも反応が無いように後ろに振り返らないのを見て口を閉じたままだがため息をつく。
警備の杜撰さというよりも警備システムの脆弱さに呆れるしかなかった。
「…オタコン。いいぞ」
ある程度階段を上ったMk-Ⅳを持ちあげ、キャットウォークの上に立たせるとステルスモードを再起動させ先に向かわせる。
ステルスの状態だが影が薄っすらと見えているのでそれが目印だ。
『ボックスはこの近くだ。どうする?』
「…眠らせる」
『どうやって?』
「―――まぁ見てな」
ステルス状態だが一夏が片目を瞑っているというのを声で感じたオタコンは、彼のそのアイディアを信じて周囲の索敵に入る。
そこからは自分ひとりで大丈夫。合図を出したら入ってくれと言う事で、それを信じ彼の行動を見守ることにする。
まず一夏は適当なところで拾って来た小石を取り出すと、軽く上へと投げる。
当然、重力に引かれた小石は自然と地面へと落ちていくのでキャットウォーク上の鉄板に落ちる。
それで第一段階は完了。予想が正しければとボックスの自動ドアの真横に待機する。
すると音に警戒心が触れたのか中でシステムの監視を行っていた警備員がドアから顔を出す。小石の音に無意識に警戒心と恐怖心が揺さぶられたのだ。
「………」
一体何の音だと怯えるように姿を晒した警備員に一夏はステルス状態ながらオタコンに行けと命じる。それを信じた彼はステルス状態でバレないようにと警備員の股の間をすり抜けて、ボックス内へと入っていった。
これでオタコンの内部への侵入が完了。後は彼に任せるというわけでもなく当然一夏も中に入る。
しかし単に後ろから付いて行けば内部で騒動が起きて何が原因で気付かれるか分かったものではない。
そこで。警備員を時限式で眠らせるようにするのだ。
(目の前で軽く振って…っと)
口元に手を当てて反対の手には同じくステルスで隠れた「ある物」を使う。
それはスパイの潜入と言えば持っているであろう物で最近まで使う事はなかったが今回初めてそれを採用し使う事にした装備品だ。
使い方によっては実に有効で自身もどうして今まで使わなかったのかと疑問に思うほどの有用性を持っていた。
「…気のせい…いや、小石が落ちて来たのか…」
目の前のキャットウォークに落ちている小石を見て、天井から落ちて来たのだと侵入者ではないことに安堵しホッと胸を撫で下ろすと再びモニター室へ戻る。
その直前に軽く眠気がしたので欠伸をすると全身にそれが生き渡り力が抜けていく。
「疲れが溜まっているのか…眠いなぁ…」
しばらくモニター室に籠り切りでモニターをずっと見続けていたから疲労していると思い体を伸ばすと、次に警備シフトで戻ってくる時には何か
「…これで良し。あとは」
そして頃合いを見て一夏も中に入る。
これであとは予想が正しければ中は安全なハズだと、M9を構えて奥へ進んで行く。
ボックス内なので部屋の面積はたかが知れているが、ここはそれでも二部屋に分割されているようで、モニター室と非常用回線と恐らく武器が内蔵されている部屋とに分けられている。
しかし一夏には関係のない事なので奥へと進みモニター室を覗き込んだ。
「………」
「…まだ起きてる」
しかし虚ろな目でモニターを見る姿はもう完全に居眠り同然だ。
予想通り「睡眠薬」の効果が効いていると分かった彼はトドメとばかりに警備員を眠らせる。
「―――しばらく寝てな」
まるで暗示でもかけるかのように『何か』をしたことで最後の踏ん張りが効かなくなり、警備員は睡魔に襲われて重くなった目蓋を閉じてしまう。
全身から力が抜けていき、前のめりに倒れた警備員がコンソールに触れないようにギリギリのところで受け止めると、眠った彼を起こさないようにと座っていた椅子に寝かせた。
「…よし。オタコン、もういいぞ」
他に警備員が居ないかと警戒しつつモニター室のカメラが弄られて映像が切り替わったのを見ると、一夏は堂々と声を出してオタコンにステルスを解除させる。
『随分と手際がいいね。どうやって眠らせたの?』
Mk-Ⅳの液晶画面に顔を出してオタコンは不思議そうに訊ねる。普通なら麻酔銃で眠らせるところを、彼は銃を使わずに警備員を眠らせたのだ。
まるで魔法でも使ったかのように眠らせたことに驚くオタコンに、一夏は得意げになった顔でポケットに手を伸ばしてタネ明かしをする。
「これだよ」
『…ハンカチ?』
「ただのハンカチじゃない。睡眠薬の粉を塗したヤツだ。これを警備員の前で軽く振って、睡眠薬の粉を少しずつ吸わせた。けど即効性があまりないから、こうやって二回に分けて使ったんだ。そうすれば、自然と眠くなって最後にはトドメで眠るってワケだ」
まるでスパイ映画のような事をするなとオタコンは言うが、それが実はスネークのオリジナルであるビッグ・ボスが実際に使用していたというのだから驚くことだ。
敵地での潜入が多かった彼はこういった偽装した麻酔武器を使う事が多く、ハンカチもその中に入っていたと言う。
(ソリッド)スネークもそれを使用してみたが、使い方にクセがあること意外は使いやすいと答えている。場所も人気の多い場所で使えば特に問題はないし、何より水で洗えば殆ど落ちていく。そうすれば睡眠薬入りのハンカチであることには気づかれないし、もう一度塗して使う事も出来る。
何事も物は使いようだという事らしい。
『なるほど。ハンカチなら即席の麻酔武器になるし、偽装も可能だ。よく思いついたね』
「でもこれもあんまり使い続けるのは難しいんだ。使う事に麻酔薬は減るし、今回ストックも小さな瓶一つだけ。実際あと七回ぐらいが限界だ」
『それでも、使える事に変わりはないさ』
「だな。早く済ませようぜ」
Mk-Ⅳから伸びたマニピュレータが接続され、オタコンのPCにデータが入ってくる。
警備システムのデータ。監視カメラの映像。配置状況などの警備システムに関するものが読み込まれ、一部のロックされたデータは解除されていく。前もって入手していたデータと解除コードが自動的にそのロックに入力される仕掛けだ。
そのお陰でパスワードを入力するところや指紋認証の所も全てパスされ易々と入れるという事だ。
『…よし。監視カメラの映像にはダミーを走らせた。これで君が侵入した事に気づきはしないだろう』
「乾ドッグ内のシステムは?」
ちょっと待っててと得意げにキーを打ちこむが、直ぐにある問題に突き当たる。
『―――アレ…無い?』
「無い…?」
画面の中でキーボードを弄るオタコンはあると思っていたものが無いことに首を傾げた。
侵入したシステムには確かにこれまで来た道やドッグ内の監視システムが管理されていたのでそこに関しては抜かりはないし、先ほどの言葉にも偽りもない。
しかし乾ドッグの奥のシステムは別系統なのかシステムそのものが無い。今まで来た道と乾ドッグとでキッチリとシステムが区切られてしまっているのだ。
『ここも別系統か…随分と細かいシステムセキュリティだな…』
「三系統…? いや、重要な段階で分けてるのか」
『そうだと思う。でなけりゃご丁寧に分割する事も可笑しいからね』
「…参ったな。兎も角入れる場所だけでも見つけるか」
『それに関してはちょっと待ってくれ…』
ドッグ内の構造が記録されたデータを見つけたオタコンは乾ドッグに入れる進入路を探す。一夏が入って来た時に見つけた扉には警備の隊員が居たので簡単に入ることができないからだ。
『ええっと…大型兵器搬入ゲート…違う…通常経路…これはさっきのか…あとは…』
「…非常用自動ドア…これか」
隊員たちが警備していたのとは反対側の自動ドア。災害や緊急時に脱出できるようにと作られた独立式の自動ドアはキャットウォークの位置にあった。
それなら多少気づかれても入れると見た二人はそこから進入する事にする。
『独立式だからドアの前でハッキングしないと…それまで敵に気付かれなきゃいいけど』
「確かステルス状態じゃダメだっけか」
『いや。このMk-Ⅳならステルス状態でも最低二分はハッキングが出来る。けどそれ以上はコイツの動力にオーバーヒートがかかるから自動的に冷却が開始てしまう。そうなれば当分ステルスは出来なくなる』
「二分か…やれるのか?」
『内容によるけど、非常用だし大丈夫なハズだ』
非常用なのに十七桁とかのふざけている様なものは絶対に無いだろうと軽く笑うオタコンに、一夏は本当なのかと多少心配になりつつも彼の言葉を信じ行動を開始する。
◇
僅かな時間だがステルス迷彩の充電ができた一夏は再び迷彩を起動する。
姿が消えているので多少不自然にも思うが、それを不自然と思わせない程度に動き、慎重に進んで行った。
奥の乾ドッグへと続くキャットウォークを歩き、目的の非常用ドアにたどり着くとMk-Ⅳがハッキングしやすいように持ちあげてコンソールの近くに寄らせる。カメラアイでコンソールとほぼ同じ位置につくと、左側からマニピュレータを出しプラグに接続。独立式である自動ドアの解除を始めた。
「…どうだ?」
小声で一夏が訪ねてくると、オタコンはバレないようにとボリュームを下げて返す。
『大丈夫』
短く返すとドアの中でロックが外れる音が聞こえ、自動ドアが開く。これで中に入れ事になったが、その音に不信感を持った隊員たちも居る筈だと見て彼は直ぐに奥へと入っていく。
それには今まで怠けていた隊員たちも気付いたようで、キャットウォークの上の警備をしていた隊員がなにか聞こえたとドアに近づいていく。
そして。しばらくそこに立つと、隊員はまた元の警備に戻っていった。
「…どうやったんだ?」
『少し、中を弄ってね。誤動作で動いたことにさせるのとタイムラグでもう一度ロックするようにした』
「じゃあ入っては来ないんだな」
『ああ。それよりもいそ―――』
刹那。二人は揃って、目の前に映った光景に言葉を失った。
そこが乾ドッグであるなら当然、それが安置されている事は理解していた。
だが、いざ実際にとなれば感想が違ってくることもある。
例えばそう。
目の前に目的のメタルギアが佇んでいれば。
「…まさか、こうも間近とはな」
『ああ…』
メタルギアRAYが確かに、二人の前に姿を見せ、未だ起動しないその眼で彼らを見ていた。
乾ドッグがそこまで広くないのか、ドアを抜ければすぐにRAYの頭部とほぼ同じ位置に居て、しかも頭部までは三メートルほどの間合いしかない。
彼らとRAYとの間にはそれ以上の間があるが、それでもその巨体の威圧感というものが一気に襲い掛かり、彼らに言葉を吐かせることを封じてしまっていた。
「起動していない…それに、照明もあまりついてないっていうか…」
『非常灯だけだ。これじゃあ見つかりにくいけど見つけにくくもある…どこかで主電源を付けないと…』
足場に下してステルスを解除したMk-Ⅳは直ぐにどこかに乾ドッグ内部の電源などを管理している場所があると見て索敵を行う。
手前のドッグでは別系統になっていたので、こちらでも別の部屋で管理をしているはずだからだ。
「…青色…そうか。海中での迷彩色代わりか」
『青色か…けど、それなら黒か灰色の方が効率的だと思うよ?』
「日本だからなぁ…」
RAYの全体像を見て愚痴る一夏は、先頭を進み電源を管理する場所がないかと探すMk-Ⅳに索敵を任せ、目視での索敵と警戒を行う。腰からはM9ではなくコルトを構えいざという時の牽制とホールドアップが出来るからだ。
と言っても、電源がほとんど落とされて非常灯だけが至る所で光を発しているだけなので、出来るかどうかも分からないものだが。
「けど、青の方があまり敵意がないっていう心理的な意味合いもあるんじゃないか?」
『どうかな。そういった効果があるかって言われればそうなのかもしれないけど、どうにもその期待はできなさそうだよ?』
「なんでだよ?」
『戦場に出ればまず第一印象になるのは当然見た目。つまり目で見るものだ。RAYの場合は巨体と軟体のようなボディ。そして目。それだけで十分相手に威圧感を与えられるさ。色や状態はそういった事に成れている奴や同等の力があると認識している人間くらいさ』
「…なるほどな」
言葉を交わしていると、オタコンはカメラアイが先ほどのモニター室と似たボックスの部屋を見つけ、そこに行こうと言う。一夏も流石にこれだけ暗くては何も見えないのでそれに同意する。
「―――――。」
だがその瞬間。一夏は少しずつ、ある事に気づき始める。
ふと足を止めて、自分の目の前の地面を注視した彼に、どうしたのかとオタコンが訊ねる。
『…イチカ?』
「………」
声は届かない。彼は今、思考の海に潜り切っているからだ。
ここに入ってからRAYに注目していた所為で一夏はある事に気付けていなかった。本来の彼ならすぐにわかることを、ここに入ってからは何一つとして気づくことができてなかった。それは自分が気付けなかったという事が悪いというよりも、どうして気付けなかったという疑問に満ちていた。
声を出して歩いていた自分。
ドアが開き、光が差し込んだというのに気づかない警備。
鼻に入ってくる入り交ざった独特の匂いたち。
矛盾だけがそこには満ちていた。
そして。その切欠が彼らの前に姿を見せる。
「………!」
小さな火花の音に気付き、彼の顔は直ぐにその音の方へと向く。
そこには、一か所だけ集中的に破壊された監視カメラがある。
それだけではない。そこから出る焦げ臭い火花の匂いに紛れ、機械の油と一緒に生臭い匂いが鼻を刺激する。
それには一夏も覚えがある。それも嫌と言う程に。
火薬、火花、異臭。
全てがつながった刹那
一夏の背筋に死の警告が走り抜ける。
「ッ―――――!!!」
上からの襲撃。一夏は顔を上げると直ぐに前に転がる。
彼の居た場所には鉄と鉄が強く叩きつけられ、甲高い音と僅かに火花が散っていた。
『なっ…』
「下がってろ!」
巻き込まれないようにと叫んだ彼は、直ぐにコルトを構えて引き金を引く。
外に聞こえるかもしれないが、そんな事を気にしていられるほど彼に余裕はない。足元へと更に二回引き金を引き、足を止めようとする。
だがそれよりも早く相手は動き、後ろへとバク転し銃弾を回避。再び姿を消す。
『一体なにが…?!』
「足元よく見な!」
バックパックから暗視ゴーグル式のバイザーサングラスを取り出し、iDROIDの暗視モードを起動。直ぐに視界が薄い緑色と白色の世界に変色し周囲の状況を彼らの前に曝け出す。
それには今まで上しか見ていなかったオタコンも言葉を失うしかできない。
『ッ…!』
目の前に転がる数人の死体。それも首元を正確に切り裂かれた暗殺のように方法で、絶命していた。
首だけではない。心臓の後ろなどの急所という急所に的確に攻撃され、見るも無残な姿にされている。暗殺のプロであれば感服するのだろうが、一夏は暗殺とは真反対の基本殺さずだ。
『こいつら…兵士…!?』
Mk-Ⅳの後ろから発砲音が響く。一夏のコルトがまた銃弾を吐き出したのだ。
今度は長く相手を捉えられたようで、何発も連射している。しかし相手には一向に当たらず、弾は壁やキャットウォークなどに当たる音しか返ってこない。
「速い…!」
空のマガジンを取り出し直ぐに新しいのに交換すると今度はどこに行ったと目で索敵を行う。まるで風のように速く動いていたので恐らくMk-Ⅳの索敵レーダーなどでは簡単に捕まりはしないだろうし、仮にできたとしても動きの速さに翻弄されるだけだ。
いずれにしてもレーダーに頼るより己の目と感覚が唯一の頼れるものだ。
すると再び研ぎ澄ましていた神経に殺気と気配を感じ銃と共に振り向くと、今度は背後をとって肉薄される。気配を探知していたがその間合いは思っていた以上に短い。
牽制と威嚇程度にはと思い引き金を引くが、はじめから当てる気のない弾だとバレてしまっていたことで額に汗を滲ませる。
だがそれで終わったわけではない。
「ッ…!!」
「―――!」
銃とは反対の手を相手に向かい振り上げるが、どうやら危機を察知していたようで紙一重でかわされてしまう。だが彼の手には確かに手ごたえを感じており、その感覚に無意識に表情を緩めた。
反射的に行ったことだからこそ恐らく功を奏したのだろう。
「―――――ッ」
「掠ったけど…当たりはした…!」
振り上げた方の手には一本の短く鋭いナイフが握られている。しかしそれは先ほどまでは一夏の手元にはなかった物だ。それがどうしていつの間にか手に握られていたのかと言われれば答えは一つだ。振り上げる瞬間にナイフが現れたのだ。
彼の腕にはスリーブガンのように付けたところからナイフやマガジンが現れる仕組みになっており、それを利用してカウンターを仕掛けたのだ。
ちなみに右手にはマガジン。左手にナイフを仕込んでいる。
スネークはあまり実用的ではない、と断じていたが私服などの服装の活動が多い一夏にとっては魅力的でもある。
「…が、奇襲で掠り…こりゃ骨が折れるな…」
「―――――。」
逆手に持ち替えてCQCをいつでもできるようにすると、脳裏では次にいつ攻撃のチャンスが訪れるだろうかと機会を窺う。ナイフでの奇襲はもう通じず、右手には予備のマガジンしか入っていない。
スネークがスリーブガンを実用的ではないというのはそう言った一度きりである事や服に引っかかること。そして服装が制限されたりとデメリット面が多くみられるからだ。
特に今回のような足の速い相手には当たるかどうかも分からない攻撃だ。ならば奇襲よりも手数や技術で追い込むしかない。
「ッ…!」
引き金を引き、止まっていた相手を無理やり動かす。弾の弾道を読んだ相手は軽々と回避し、一旦距離を取るが直ぐに接近を図る。
しかも動きが変則的で一夏の目には距離感がつかみにくくなっている。
距離感がつかめない事に苛立ちながらも一夏は左手に力を入れ、牽制の弾幕を張った。
「………!」
(来る…!)
動きが大きくなったのを見て攻撃が来ると予想し応戦に入る。
足を踏み蹴りジャンプしたかと思った彼は銃口を上に向けるが既に相手はそこには居ない。
いったい何処だと焦りながら気配を探ると、相手が既に攻撃と肉薄の体勢に入った状態の姿が彼の目に飛び込んだ。
壁に張り付き、弾丸のように壁を蹴って接近してきたのだ。
「なっ…!?」
死角からの攻撃に反応が遅れた彼にもう防御と反撃は出来ない。このまま攻撃が当たると覚悟した瞬間。一夏の勘が無意識に体を動かす。
目で追って体をひねっていたが、それをそのまま使い攻撃を受け流す。片足だけで立っていた彼の体は風に揺られるように動き質量である相手をそのまま素通りさせた。
「ッ…?!」
(見えた…!)
一瞬だが相手の全体的な姿が見えた一夏は、そのまま受け流されて落ちていく相手を見続けることはできず、片足だけで重心を保っていたが倒れてしまう。
「って…!」
その間に相手はRAYの足元に着地し体勢を整える。攻撃が受け流された事には驚いたようだが、それで崩すほどでもないようだ。
しかし先ほどの接近で相手である一夏に少なからずの情報を与えてしまったのは痛手だったのか小さく舌打ちする。
「黒いマントに…アレは…」
鋭利な刃物と黒いマント。まるで暗殺者のような姿に少し驚愕しつつもまたすぐ攻撃が来ると見て立ち上がった一夏は、落ちただろう大体の場所に顔を出すと一瞬だが横目で見えた動くものに気付き牽制攻撃を行う。
適当な乱射であるので命中などはハナから論外だがそれを回避するために何等かの
「近接の武器だけなら、足と手数稼ぎが定石…なら…!」
マガジンを交換し移動する一夏は何処に隠れたのかと思いつつも出来るだけ場の有利な場所を探す。キャットウォークの上ではいつまでも四方からの攻撃に耐えられる筈がない。
一か八か。勝負に転じる。
「典型だが、地面あった方がマシだ…!」
RAYの全長は大体でも建物の二階ほどある。現在の位置が頭部と同じだという事は
(階段を下れば一階…つまり地上と同じだ。ハッキリいってそこでないと勝ちは薄いかな…)
別段一階でなければ勝てないというわけではないが、四方からの攻撃の脅威に晒されるよりはどこか一面だけでも攻撃が来ない場所であった方が良いだろう。特に壁や地面であれば警戒する場所が少しでも減って他の場所に気配を探らせることができる。
一階のRAYの足元にたどり着いた一夏は暗視ゴーグル式のバイザーを通し、敵の姿を探す。
降りる事に一心だったので索敵を怠ってしまい、またも相手が何処にいるのか分からなくなってしまった。
もう一度探すにも相手の足の速さは今まで散々見て来たので簡単に見つけることはできない。
「ッ…こりゃヤバいかも…」
何処にいるか分からない敵に驚異を感じつつ、どこか地形的に有利な場所はないかと辺りを見回す。
一階に降りてきて地面に驚異は無くなったが、まだ周囲からの攻撃が制限されたわけではない。RAYの足元だからといって危険性が薄れるのはバラ撒くだけの銃撃だけだ。
相手の得物がナイフなどの刃物で、しかもヒット&アウェイであるならどこからでも攻撃は可能。それも足が速いのならそんな事はいくらでも出来る。造作もない事だ。
「こうなりゃスタンG使うか…?」
自分の視界も見えなくなるが、一瞬の光で相手が何か行動を見せるかもしれない。あくまで可能性の話ではあるが、それに賭けてみようかとバックパックの中からスタングレネードを探す。
地味に破れかぶれにも思えてきたが一夏に選択の余地はない。
相手が足にアドバンテージを持っている以上、埋められない差はそうやって埋めるしかない。
バックパックからスタングレネードを見つけた一夏はその可能性に望みを託しピンを抜く
しかし刹那。一夏の背筋に殺気の冷たさが走りぬけ全身の動きが僅かな間だけ硬直。
その間にどこから気配がするのかと探ると、その場所に思わず顔を
上からの奇襲。しかもほとんど気配は消され、気付いた時には既に上を獲られていた。
背筋に走った悪寒に反応が遅れた一夏は上を取られ、そのまま刺殺されると思っていた。
だが相手との距離が近く、更に彼が振り向いたせいなのか相手は手に持つナイフ物で刺し殺そうとはせずにそのまま組み合った。
これには一夏も驚き、そのまま落ちてくる相手の重さに押しつぶされて地面に倒れた。
また上を取られた。それが馬乗りにされてから一夏が思った最初の感想だった。
「くっ…!」
上を取らた一夏は無理にでも引っぺがそうとナイフを使うが、相手の方が分があったようで軽くあしらわれてしまう。
このままではいずれやられる。優劣が完全に決まってしまった中でも諦めず抵抗を続けるが、それもいずれは戯れと取られトドメを刺される。
完全に動きを封じられた中で、一夏は何か手はないかと考えた。
「―――――フッ」
「ッ…」
すると上に乗っていた相手のフードの奥から僅かに見えた口がつり上がって笑みを浮かべているのが見える。勝利の確信をしたのだろうと思っていたが、次の瞬間にその考えは覆される。
喉元の隣に刃物を突き刺すと、それに合わせて体を寄せて来たのだ。刃物の反対側に顔を近づけさせると掠れたような声で口を開く。
「―――貴方、国連の依頼で来たのね?」
「ッ…!」
「フフッ…安心して。私も同じ。ココの施設のメタルギアの調査と破壊が目的なの」
「何っ…」
「私たちの組織も無為な軍拡には反対。だから、私が送り込まれたの」
甘い声で誘惑するように話す女の言葉に耳を疑う。
何処の組織なのかと典型的な事を訊きたい一夏はそう口にしようとするが、それよりも先に彼女が話さないようにと人差し指を口元にあてる。
「ここに居る隊員が自衛隊員でないのは分かってるでしょ? ここに居るのは全員在日米軍。つまり米兵よ」
「………」
「米兵が警備している理由はひとつ。自衛隊員からの漏えいを防ぐため。いくらなんでもこんなデカブツを知られては何の弾みでバレるか分かったものでじゃないわ。だから、彼らはあえて、メタルギアについて知っている米兵に警備を任せた…ってワケ」
「…米国の社畜はゴメンか」
「そういう事。けど、今のこの国ではそんな事は無理な話よ。だから私たちは今はこうするしかない…」
一夏の目的はあくまで戦力の調査。破壊活動は目的ではないが、破壊できるのであれば越したことはない。仮にRAYを残してしまえば、その強力な力を使って何をするのか分かった事でもない。特に現在の日本の情勢では猶更だ。
「…いいぜ。破壊するのには目ぇ瞑っとく。けど、もしそれ以上の事をするなら…」
「しないわよ。爆薬もそうするようにセットしてるし。破壊できればメインコンピューターと機体の重要部が壊滅。軽く二年は再生不可能でしょうね」
顔を遠ざけ、体を起こした彼女に早くどいてくれと言う一夏は一応は敵ではないという事を信じる意志表示としてナイフを腰に戻す。
だが、まだ完全にという訳ではないのでコルトだけはしっかりと握りしめられていた。
「貴方、これからどうするの?」
「…俺の目的は自衛隊の戦力調査。これだけの施設と戦力が確認されればいいが…あとは何か証拠でもありゃな…」
「ああ。なら、コレをあげるわ」
彼女の手から投げ渡された物を受け取ると、一旦コルトを戻してiDROIDを取り出す。
渡されたメモリは一応端子に差し込むことが可能なので、それを入れて中身を確認する。
投影式のモニターが浮かび上がり、そこからいくつかのデータが表示されるとその中身を大雑把に見ると、一夏は小さく声を漏らした。
「無人兵器の搬入リスト…」
「それに武器装備、弾薬といった兵器類のリスト。それも全て極秘裏の物ばかりよ。裏で防衛省が手引きして…いえ、戦争に参加したい人が手を回してやったようね」
リストが手に入った事に素直に喜ぶ一夏だが、それでも釈然としないこともある。こんな大切なものを堂々と自分に渡していいのだろうか。何か裏があるのではないか、と余計に目の前に居る彼女の事が疑わしくなってくる。
「―――アンタは一体…」
細く鋭い目で自分の事を見る一夏に、余裕の態度を崩さずに女は答えた
不適に笑みを浮かべ、まるで狐のように
「―――我々は『御所』古来よりこの日の下を影から守る組織
影であり、闇であり、夜である
しかし我らもまた月の光に照らされた者
異端に非ず
悪にも非ず
しかして実態は…影なる者の集まり―――」
「…御所…」
「―――――また会いましょう。織斑一夏。その時、我らが味方である事を願って」
◇
「…オタコーン?」
『…終わった?』
「ああ。今やっと。で、いまどこだ」
『ボックス内に居る。君の戦いが怖かったからちょっと退避して…』
「………」
『イチカ。データの方なんだけど…』
「心配するなよ。ココにある」
『え…?』
「…さ。用件は済んだんだし、さっさとズラかろうぜ。もう直ぐここ、爆破されるらしいから」
『え…ええ…!?』
その後。オタコンのMk-Ⅳを回収した一夏は、もう一つの進入路であり脱出路へと向かい、薄暗い乾ドッグから早く帰りたい一心だった。
結局としては証拠品であるリストを手に入れられた事で良い方向に終わったと言えるが、彼の中では未だ分からない事への苛立ちと不満にあふれていた。
同じ目的で現れた彼女。その組織と目的。一体どういう実体なのか。
それを知ることは先なのかもしれないと思いながらも、今は早く日の当たる場所に出たいと思って歩き出した。
後書きと言う名の色々と…
取りあえずは、この後書きで書いていた後日談と一部文章の修正を行いました。
流石にそれいいのか、って感想でも聞かれましたので自分も改めてそれへの考えを変えた次第です。
…うん。勉強ダメな人間丸出しだな…(涙