IS×MGS - Another Solid -   作:No.20_Blaz

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第五十七話です。

今回で横須賀基地での話は終わり。次回はまた別の話になります。
ちなみに次回のは既にサブタイと内容の大体は決まっているので後書きで予告します。
どんな話になるのかはお楽しみです。


…あと、唐突に書いてて思ったのが、ヒロインたちの動かし方を少し忘れているようで、書いてて自分でも酷いなと思いました…なんというか…今のキャラでここまで言うか…というか…スランプではないですけど、これって完全ど忘れ…

兎も角ッ!
また誤字とかあると思いますが、そこは遠慮なくご指摘して下さい!


それでは、第五十七話をお楽しみ下さいッ!!


No.57 「過去から」

 

 

 

 

重く圧し掛かる蓋がしばらく行く手を阻んでいたが、力を入れて押し上げると光が差し込んでくる。

 

「…やっとだな」

 

ようやく息苦しい地下から出られると安堵した一夏は大きな音を立てないようにしつつ横にマンホールの蓋を置くと、頭だけを除かせて周りを確認する。

なにせ港の近くとはいえ、道路のど真ん中にある所から出てくるのだ。加えて子どもがそんなところから姿を出すこと自体、可笑しいことに変わりなく不審に思われてしまう。

一応は任務の途中なので、気を緩めることはできないのだ。

 

 

「オタコン。しばらくジッとしてくれよ」

 

『分かってる。先に上げてくれ、直ぐにステルスで偵察する』

 

偵察機としての目的を果たすためか、それとも彼も地下の息苦しさに耐えきれなかったのかは分からないが頼まれた一夏は悪態をつかずに了解する。

片腕でMk-Ⅳ持ちあげるが、それだけに重さが腕に伝わってくるので腰だめ辺りで一旦止まってしまい、重さに根を上げそうになってしまう。

それでもあとは持ちあげるだけなので苦も言わずに地上のコンクリートの地面に置くと、一夏も追うように地下から這い上がった。

 

 

「っと…」

 

身軽な動きでマンホールから出てくると、直ぐに蓋を閉めて辺り一帯の様子を見ながら誰か居ないかと警戒する。しかし、辺りには野太い音が鳴り響いたりするばかりで人の気配は全くといっていいほど無い。

 

「…嫌に人の気配がないな」

 

『このあたりはドッグだからね…けど人っ子一人居ないのは気味が悪い』

 

「昼間の時間…しかもこんな日だ。最低一人二人はいても不思議じゃない」

 

『カメラにハッキングして調べる?』

 

「いや。気配だけで十分だ。やたらとハッキングしてたらバレる」

 

 

活気は感じられる。人が何処かに居るという感覚だ。

それに敵意を向けて隠れているというわけではない。何処か遠くで自分の仕事でも行っているという雰囲気だ。

なのに、彼らの居る辺りには人が居ないのだ。

 

「…なんでだろうな」

 

『まさか…僕らのことが…?』

 

「さてな。少なくとも…そういう感じじゃないってことだけは確かなんだが…」

 

『…取り合えず歩こう。マップデータは持ってるから、迷ったら言ってくれ』

 

「ん…分かった」

 

そろそろ合流しなければ変に思われるのも時間の問題だ。覚悟はしているが、もめ事だけは起こしたくない。

人気がないのも気になっていたが、それよりも先に学園の見学団と合流しなければならないので内心では少し急ぎながらも一夏は移動を始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――で」

 

「はい?」

 

「こんな広大な基地の中で探せるのか」

 

「…結論から言うならば………無理ですわね」

 

 

 

刹那。

紙が風によって吹き飛ばされるようにセシリアは振り下ろされた竹刀の一撃をかわした。

 

 

 

「あら。意外と短気なのですね。篠ノ之さんは」

 

「悪かったな、短気で…」

 

「まーアタシも同意見だし。それを代弁してくれたから、何もしないケド」

 

「二人とも…」

 

 

一夏の捜索を任されていた四人は廊下の一角で早くも仲間割れのようなことになっていた。

というのも、先頭を歩くセシリアに何か考えがあるのではないかと思い、アテにしていたのだが、いざ気になって聞いてみると先ほどのような言葉が返って来てしまった。

それには箒もキレるしかなく、鈴も怒りはしていたが同じ意見で同じ行動をしてくれていたためにあえて何もしなかった。

 

「まさか考えなしに動いてたとは知らなかったからな。怒りをぶつけるのは当然の至りだ」

 

「誰も無計画とは言ってませんわ。ただ出会い頭にであれば楽だとは思っていましたけど。無計画というのは行き当たりばったりのことを言うのでは?」

 

「…それ、遠まわしにアタシのこと言ってるでしょ」

 

既に箒と鈴からの攻撃を受け始めていたセシリアは一笑して返す。

勝者の余裕か、それとも見下しているかと彼女の行動や言動が一々癪に触っていたので顔を引きつらせていた二人に手を付けられないとシャルは後ろで深いため息をついた。

 

 

「さて。では本命の場所に行くとしましょう。このままではお二人が納得しないというのであれば尚更に」

 

「本命だと…?」

 

「ええ。確かに偶然ばったりと彼と出会えればよかったのですが、もう距離も近いですし諦めてそちらの方に向かう事にします」

 

指を立てて任せてくださいと言わんばかりに説明するが、信用と不安が半々である二人にはどうしても信じられないという疑う目で見られていたことに呆れて、仕方ないとぼやくと

 

「…分かりました。何処に行くのか、お教えします」

 

と言って納得できる説明をする。

だがそうは言っても彼女がどこに行くのかを説明するだけであるが。

 

 

 

 

 

「普通に警備室にお邪魔させていただくのですよ」

 

「な―――」

 

「えっ…」

 

「あー…」

 

 

普通に。と復唱するが、どう見てもセシリアの顔が笑っていないのに気付いた三人。

そんな場所に人を探していますと言って、はいそうですかと協力して貰えるとはその場にいる誰もが最初から思っていない。

基地の警備を担う施設、それだけに重要な場所なのだ。単なる人探しであるなら自力で探せと言われるだろう。

 

ならば、彼女がやる事はひとつだけ。

 

 

「どの道、しばらく私たちの班は足止めされています。時間はじっくりとありますから」

 

「物理的な事はするなよ…」

 

「私はそこまで野蛮でも過激派でもないですわよ?」

 

笑顔でか弱い女のフリをするセシリアに段々と不安になっていく。

このまま何をしでかすのかと言うより、「何」をするのではないかという恐怖のようなものが脳裏を過り不安にさせていた。

 

「一応、私たちにはそれなりの地位と情報があります。それを説明してならば…」

 

「………」

 

あとはこのまま目的地に向かうだけ。そう言って移動を始めようとしていた彼女たちだったが、ふと鈴が何かに気付いた様で窓の外にある物に声を出して関心していた。

 

 

「へぇ…日本ってあんな戦艦持ってたのね」

 

「何…?」

 

彼女のセリフに妙な違和感を感じて同じ方へと振り向くと、確かにそこには一隻の旧式の戦艦が港に鎮座していた。だが直ぐにそれが自衛隊のではないと直ぐに察する。

その見た目は現存する船よりも巨体で、前後には大きな三連の主砲が備わっている。自衛隊の保有するイージス艦等よりもその体格の差は明らかだ。

華奢なハイテク装備を備えただけの船ではない。巨体による強い耐久力とそこからなるペイロードによって搭載された強力火力の兵装の数々。

恐らく、他の艦と戦わせれば間違いなく木っ端みじんに吹き飛ばすだろう。

 

「…いや違う」

 

兎も角。結論から言えば、あんな船は自衛隊も持っていない。

というよりももう無いはずだ。

それが一目見ただけで浮かび上がった彼女の最初の答えだった。

 

「アレは自衛隊…というより日本のではない」

 

「そうなの?」

 

「そう…らしいね。星条旗掲げてるし」

 

星条旗が掲げられているという事は間違いなくアレは米国の艦だ。

だがあんな艦を建造したという話は聞いたこともないし、見た事も無い。

 

「アメリカの戦艦…? けどあんなのは…」

 

「…ああ。アレはミズーリですわね」

 

「ッ…!」

 

横から簡単に正体を口にしたセシリアにそれぞれの驚き方で声を漏らす。

ミズーリと言えば一度は歴史の授業で聞いたことのある戦艦だからか、全員の頭の中で「あのミズーリか」と直ぐに問いたかった。

 

「…太平洋戦争終結時に日本とアメリカが調印したっていう…あの?」

 

「ええ。大戦後は朝鮮、湾岸戦争に従軍しその後ハワイに記念艦として置かれていた…近代の化石…」

 

「けどミズーリって調印の記念艦としてハワイで停泊していたハズ…なのになんで日本に?」

 

「さぁな。いずれにしてもあんな古い戦艦が居ること自体おかしい…」

 

どうして古い戦艦がここに停泊しているのかと考えるが、それは自分たちが関知することでもないし、今の自分たちの目的には関係のないことだ。

直ぐに浮かび上がっていた疑問を割り切って終えると、また彼を探すために移動しようと窓から目を離した箒だが

 

 

 

 

 

 

「―――――あ。アレって…イチカじゃないかな?」

 

 

「あ。ホント…だ…」

 

「なっ、どこにい、る…」

 

 

シャルが遠くからだが一夏を確認したので直ぐに振り返ると今までの捜索よりも簡単に彼の姿を見つけられたことに驚き、そして絶句した。

 

 

「…あらら」

 

 

 

なにせ。若い女性の仕官がひとり、彼とイチャイチャしていたのだ。

 

これを目撃した三人はその瞬間セシリアでも若干背筋が凍るほどの殺意と怒り、そしてそれら全てをまとめた負の念を纏っていた。

これにはセシリアも

 

 

 

「…一夏さん。お花はお供えしますから」

 

 

思わず彼の死亡宣告を受け入れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時を少しだけさかのぼらせ、場所はミズーリ近くにうつる。

学園の一団と合流しようと歩いていた一夏だが、目の前にミズーリが現れたことに驚くとともに改めてその船体の巨体さに圧巻を覚えていた。

 

 

「ミズーリ………!」

 

二年前にはこの船の甲板で銃撃戦をしていたというのに、改めて下から眺め上げると他の船とは違う、戦艦としての貫禄のようなものに目を奪われる。

三連砲、側面には多くの副砲を備えその見た目だけでも十分な重火力さを見せつける。戦艦は火力と強固さが取り柄であるから当然ではあるが、今まで見たのが自衛隊のイージス艦や空母というだけであり、戦艦というひとつのカテゴリーをこうして眺めるのは初めてだったのだ。

 

 

『どうしてここに…』

 

「分からない…けど…」

 

そびえる艦橋。目の前を向き、砲口を突きつける主砲たち。

これが第二次世界大戦中には世界中に存在していたのだ。

子どもであれば誰でもその巨体さと火力に憧れるものだ。

以前、確かに乗った事はあったがヘリから後部甲板に下されただけで全体的に見てはいない。事件後にはスネークを連れて運んだので船体を全て見る暇もなかった。

 

だが。今はこうしてその悠然とした姿を見る事が出来る。

 

 

「―――やっぱ…凄いな」

 

『………ああ』

 

まるで子どものように憧れた目で見つめる彼の姿は、オタコンから見れば年相応の青年の姿でありそれは一瞬だが彼も同じような顔で戦艦を見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――暇だった。

 

艦を日本まで運び、イベントのためにと準備をしていたが、今はそのために手伝っていたクルーたちは非番ないしある事に夢中であった。

 

誰が知ったのか、世界的に有名な人物が基地内に居るというタレこみが艦内のクルーたちに伝わり、それが理由で次々と離脱。最終的に準備が終わった時には約半数となっていた。

最初に一人。次は二人と、艦内から姿を消して見に行く女性士官。中には男性もいた。

 

上官としての指揮能力が低かったというわけではない。

単に彼女と自分との差というものが、確たる原因だったのだろう。

 

 

 

「………はぁ」

 

斯くして。私はそんな現実に直面したのであまりの辛さにその場から逃げ出してしまった。

いや、単に嫌だっただけだ。そんな空気になったしまった艦内が。

それでも逃げたことには偽りはなく、私はどうするべきかと考えながら艦の近くを彷徨っていた。

…そんなときだ。ふと目を上げると、懐かしい空気が鼻でなく目から入ってくる。

 

 

「………。」

 

なんだろう。不思議だな。

昔感じていた感覚に口元が緩む。

まるで世界を救うヒーローの手助けをしていた時のように。

一緒に戦っているという充足感があった。

それもその筈だろう。なぜなら

 

 

 

 

 

 

 

「…あれ?」

 

 

懐かしい顔が、懐かしい表情で船を見ていたのだから。

 

一瞬、嬉しさのあまりに頬が緩んだ。

 

そして。私は年端も無く彼のもとへと駆け寄っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いーちかくーん!!」

 

「なっ!?」

 

突然側面からの襲撃と声に驚き顔を振り向かせると、そこには黒い服が自分を覆いかぶさるように迫って来ていた。一夏は回避する暇もなくその黒服に捕まえられ、奥の肌から伝わる温かみに包まれた。

 

「むっ…!?」

 

いきなり抱き着かれたことに最初は何事かと思っていたが、直ぐに声と一瞬だけ見えた表情に答えを導き出した。

 

「め、美鈴…さん…」

 

「久しぶりね! 二年ぶりだね一夏君ッ!」

 

「ええ…けど、だからってここまでアクティブでなくても…」

 

いい歳した女性が子どものように飛びついてきたのだ。別に嫌悪はしないが、年齢も考えろと言わんばかりのセリフに美鈴は嫌がることもなく言葉を返す。

 

「なにを言うかなぁ。私だってまだ若いのよ? それに、偶にハメを外さないと仕事は長く続けられないし」

 

「…だからって俺に抱き着くか?」

 

「いやぁ…久しぶりに貴方の頭を撫でたくって…」

 

「なんでさ…」

 

「だって弟みたいだから」

 

本当にまるで弟を愛でる姉のようにしている美鈴に、しばらく動けなくなってしまう一夏。

自分のほぼ真下にはその状況から逃げたいがために現在ステルス中のMk-Ⅳが居るが、どこにいるかは正確につかめない。

そこで、こうなれば破れかぶれと言わんばかりに最後の悪あがきに出た。

 

「オイオタコン。居るの分かってるんだぞ」

 

『………!』

 

「え。エメリッヒ博士居るの?」

 

「Mk-Ⅳ、小型の無人機を操作してる。今ステルスしてるから…」

 

兎も角巻き添えを喰らわそうとオタコンの名前を出した一夏は手あたり次第に足元を探っていくが、既にオタコンは被害から避けようとその場から撤退し始めていた。

変なことわざを教えられるのもゴメンだと昔の記憶を思い返し、彼を置いて逃げ出そうとするが

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――一夏」

 

「なんだ。今、探し物してる。あとにしてくれ」

 

「へぇ…探し物してるんだ」

 

「ああ。ちっこいロボットなんだが…」

 

「…なら、ボクらも探すの手伝おうか」

 

「いや、別にいいから待っててく―――――――れ?」

 

 

画面の向こう側でオタコンが小さく声を出す。

潮風に吹かれているというのに、一夏の背から悪寒の汗がにじみ出る。

その瞬間。一夏の動き、その全てが制止した。呼吸も若干だが弱まった。

あまりの恐怖と空気の淀みに、今やっと気づいた彼はまるで錆びた機械のように小さな塵をふるい落としながら動くように顔を持ちあげた。

三色それぞれ違うが、聞き覚えのある声。

 

 

 

箒、鈴、シャルは揃って視線を一夏へと向けていた。

笑顔だ。が、目の色は三人揃って赤色だった。

 

 

 

 

「――――――あ…えっと…」

 

気まずい。三人の目線から最初に浮かび上がって来た言葉はそれだった。

背筋は凍り、顔は固まり、動きは硬直する。

事の発端である当人は平然としているのが地味に苛立つ。

だが今はそんな事はどうでもいい。

取りあえず彼は急いで目の前に立つ彼女たちに対し、どういった言葉で、どういった言い方で説明すればいいかと必死に考えていた。

それも直ぐに意味のないものに成ってしまうとは思わずに

 

 

「―――――――一夏」

 

「………はい」

 

「今から、私たちが選択肢をやる。選べ」

 

「せ、選択肢…」

 

 

 

 

「一つ。男らしく腹を切って介錯」

 

箒がどこから持ちだしたのか打鉄の刀を持つ。しかも生身で。

 

「二つ。今すぐコンクリートに詰められて溺死」

 

鈴は何処からか生コンと型用の大型バケツを用意。

 

「三つ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今すぐ僕らのものになってくれるって約束するなら助けてあげてもいいよ。ああでも五体満足なんてする気はないよ。だってイチカだもん。まずはお腹を切り裂いて臓器を全部綺麗に洗ってあげる。それで心臓と肺以外は全部ミキサーにかけて(自主規制)してあげるよ。

それで残った頭と心臓と肺は繋げてそのままにしておくね。心配しないで、生命維持はしてあげるよ。頭に電気信号を送って肺にはしっかりと空気を送って心臓も一生動くようにしてあげる。それからだよ、イチカはずっとそのままボクのものになるんだからフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シャルは没収されたハズのマチェットをもっていた。

しかも目が笑っても無ければそれが正常ともいえない。

オタコンはアレがリアルで初めて見るヤンデレかと関してしていたが、何処か自分も無関係ではないと思い戦慄して動けなかった。

 

 

 

 

以上三名からのこの後の彼の選択肢兼弁解方法である。

この三つの選択肢から導き出される答えは一つ。

 

…どの道、死ねという事だ。

 

しかも番号が下になるほど恐ろしい事になる。というかシャルのだけは尋常ではない。

下手をすれば事件物だコレ。

 

 

「………」

 

 

(イチカ。骨は拾うね)

 

オタコンは完全に一夏の死を受け入れていた。

 

 

 

 

 

「…一夏君」

 

「…なんでしょ」

 

「…友達?」

 

「今それ聞く!?」

 

完全に空気を読んでないというより屁でもないという感じで訊ねる美鈴に、思わず声を荒げる。本人は完全他人事なので関係はないと思いきっているが、元を辿れば彼女にもこの状態に対する責任はある。

特に現状彼女との関係を誤解されているのであるから、せめて説明のひとつはしてもらいたい。だが自分の立場を理解していないのであれば誤解を生む発言をしてしまいそうで恐ろしいとも思いながらそこは一旦美鈴の発言に賭けてみることにする。

 

「え。じゃあ三人揃って…」

 

「違う違う…友人だって…内二人は幼馴染」

 

「へぇ。一夏君の私生活あんまり聞く機会なかったけど…花が多い生活しているのね」

 

「まぁ…知り合いに女は多いですけど…」

 

「………」

 

溜息をつく一夏に、美鈴はなにかあったのかと思い顔を上げて再び彼女たちの様子を観察。

そして、そこから自分の経験と知識を元に現状を予想。幾つかの仮設から答えを導き出した彼女はああ、と声を出して納得する。

 

 

「そういう事ね」

 

「…なにがだよ」

 

「今、貴方が置かれてる状態。なるほどなるほど。人事を尽くして天命を待つと…」

 

美鈴のことわざにどういう意味があるのかと分からず眉を寄せていた一夏だが、三人の中でただ一人、鈴だけがその言葉に反応して視線を持ちあげる。

そして、美鈴は軽々とあいさつするように―――いや、彼女たちに挨拶代わりの自己紹介をし始めた。

 

 

「初めまして。私は美鈴、この船…ミズーリの艦長で一夏君の友人です」

 

「…艦長職、まだ続けていたのかよ」

 

それでも残り二人の反応があまり変わってないことから、まるで主婦が話すようにやーねーと恐らく現状で一番効果的な言葉を突きつけた。

 

 

「私、実は年下って興味ないのよね」

 

「…え」

 

 

「…なに?」

 

「…はえ?」

 

「………。」

 

 

「私は別に年下が嫌いってワケでもないけど、恋愛でいうなら年下より年上が好みなの。だから、彼にはそういう感情もないし、そういう関係でもないから」

 

 

実に素直に吐かれた言葉だが、一夏はそのセリフが妙に心に刺さり立ち眩みした。

いくら知っていることだとしても、自分に対してそう言われると精神的に来るものがあって耐えれそうにもなかったのだ。それも堂々と平然とした顔で言われれば猶更。

何を馬鹿なことを言っているのと、言わんばかりの言葉は彼女も知らない間に彼にとっては凶弾として放たれていた。

 

「………」

 

そんな彼の表情を見てか互いの目を合わせる三人。アイコンタクトでどう思っているかと話し合っているようで、それが一分ほど続き沈黙していたが、やがて彼女らの間に結論が出る。

 

 

 

 

「…なるほど。貴方と一夏との関係は了解しました」

 

「嘘を言っているという感じではないですからね」

 

といって素直に物騒な物を下ろしていく三人に、一夏は理解してもらえたと思いホッと胸を撫で下ろす。あとは自分からの詳しい説明を加えれば誤解は解けて許してもらえるだろう。その後のことを考えていた彼はそう思い計画を立てていたが

 

 

 

「けど。一夏は貸してください。ちょっと用事があるので」

 

まさか自分への追及がまだ終わっていないとはと、目の前で部分展開されたISの様子を見て彼は世の理不尽さを呪った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――斯くして。一夏への制裁が終わったところを見計らい現れたセシリアは未だ追及が終わってないのか体を揺さぶって罵詈雑言を吐く鈴たちを素通りして美鈴と言葉を交わした。

 

「みなかった顔ね。貴方も友人さん?」

 

「ええ。イギリスの代表候補、セシリア・オルコットと申します」

 

「………ミズーリ艦長、美鈴よ。よろしくね」

 

一瞬、口元を締めたが直ぐに平静となって返す。笑顔でありながらこそから吐かれた言葉が、彼女の中で小さな揺らぎとなって襲い掛かった。だが記憶の奥から呼び起こされた情報が処理され、彼女の中で沸き上がっていた感情が抗体によって抑えられた。

精一杯、普段通りの顔でいるがそれも彼女(セシリア)を相手にでは一分ともたないだろう。

 

「ええ。随分とお若いですのね」

 

「…まだ若いわよ」

 

皮肉を返すように言うと少しだけだが落ち着きを取り戻して固まっていた顔も和らいでいく。

そして、何なら世間話でもと言わんばかりにセシリアから切り出された話に乗り始めた。

 

「ところで、ミズーリと言えばハワイで記念艦や仮想訓練の標的としてしか動かされてないと聞きましたが」

 

「………そういや、聞いてなかったな」

 

「ああ…ミズーリがここに居るのはイベントの為よ。現役じゃないけど旧式艦で動くのはもう彼女だけだし、今回は自衛隊との合同イベントで駆り出されたの」

 

ミズーリは第二次大戦で使われた艦で、もう何十年も昔の戦艦だ。

内装は一応整備されているとはいえ、そんな艦が堂々と国外に居ると誰だって警戒や驚愕を隠せないだろう。

 

「…終戦日はまだ先だ」

 

「それ込みで…内容は言えないけど、日米合同で行うから。日にちになったら見に来てね」

 

「…気と命があったらな」

 

現在進行形で命が危ういのだから、と付け足した一夏。

なにせ現在も目の前で鈴とシャルからの熱い視線を受けていたのだ。

 

 

「―――さて、そろそろ一夏さんを連れて戻らないといけませんわね」

 

「…そうだな。一夏」

 

「俺は犬か…」

 

「何か言ったか?」

 

「…いえ」

 

まるで不良少女に絡まれる青年のような光景がその場にあった。立場的か、それとも実力的かは分からないがしばらくは黙って従おうという彼の姿が。

 

「…織斑先生が今も絡まれてるかは分からないが、私たちはそう言われて来たからな」

 

「…分かったよ」

 

オタコンには別の方法で帰ってもらおうと思い、了解すると一夏を犯人扱いするように鈴が後ろから彼の尻を蹴ってじゃれ合う。

シャルと箒も美鈴に一礼して後を付いて行き、セシリアはでは、と別れのあいさつをしてそれに付いて行こうとした。

が、突如なにかを思い出したかのように美鈴が声を出して一夏たちを呼び止める。

 

「あ。一夏君ちょっといい?」

 

「…はい?」

 

「あのさ…犬…飼える?」

 

「………え?」

 

唐突にペットが飼えるかと問うてきた美鈴に振り向いた一夏は何を言っているのだという顔で反応を返す。学園といってもペット禁止は当然のことだ。なのにペットを飼えるかと聞くことに正気なのかと疑ってしまうが、彼はもしやオタコンたちにそれを押し付けてくれと遠回しに言っているように思え、彼女から詳しいことを聞く。

 

「いえね。愛護団体にでも渡そうかなって思ってたけど…一応聞いてみようと思って」

 

「…まぁ…(オタコン居るから)別に飼えなくはないけど…」

 

『えっ…』

 

「何言ってるのよ。学園はペットNGよ?」

 

「家だよ。そっちなら、知り合い(スネーク)が居るし、問題ないと思うから」

 

「…あーそっか…けどどうするかなぁ…」

 

言い出した美鈴も任せるべきかどうかと考えてしまい、腕を組んで悩んでしまう。

一夏は許可しているので渡せばいいが、他の面々がどう言い出すか分からない。少なくとも、彼女が知るなかでスネークだけは喜んで引き受けそうではあるがと。

 

「大きいんですか?」

 

「大きいっていうより…数が多いかな。二匹」

 

「二匹なら、別に問題はないでしょう。引き受けたらどうだ」

 

「………俺と若干数名はいいと思うが、問題は…」

 

『………』

 

「………。」

 

恐らくオタコンは機材的に受け入れるかどうかは分からないだろうと予想する二人。

彼にとって機材は大事なものであるから、それを弄られたりしてはたまったものではない。ネックは他にもあるが、具体的に上げるとすればオタコンからOKが出るかどうかだ。もし彼が駄目と言えばそれで確実に道が閉ざされてしまう。

唯一の悩みである彼も今はとても話せる状態ではない。

さてどうするか、と頭を掻いていたが

 

 

 

 

 

 

 

「―――!」

 

小さな鳴き声が港に響いた。元気で張り合いのある声だ。

どこから聞こえるのかとその場にいる全員が辺りを見回すと、美鈴の後ろからその声の主は姿を現した。

小さな足で必死に走るその姿は、元気そのものを見せている。足の爪が地面のコンクリートとぶつかり合って小石が落ちたような音を鳴らすが、やがてその音の中に何度とも呼吸する音も混じり始めた。

 

「ん?」

 

「あら」

 

「あれ…どうしてここに…?」

 

 

小さな子犬が二匹。元気に駆け寄ってくると一目散に目標である一夏へと飛びついた。

 

「っとと…」

 

「子犬だぁ…」

 

足元でくるくると回る子犬が二匹、迂闊に身動きがとれなくなった彼は仕方なく腰を下ろして彼らの相手をする。

小さな二匹は白と黒の毛を全身に生やし、白い尻尾を勢いよく振っている。まだ幼い顔からは薄い桃色のベロを出して呼吸を整えているが、それよりも速く彼らは一夏にひっつき離れようとはしなかった。

 

「…こいつらか。話のは」

 

「ええ。ある場所から、ついでに愛護団体にでも連れて行ってくれって…」

 

「へぇ…」

 

「もふもふだぁ~」

 

「ちっちゃいなぁこの子たち」

 

シャルと鈴に撫でられている二匹の姿に箒もその輪に加わりたそうな顔で見つめる。しかし逆にセシリアはそれとは別に興味深そうな顔で彼らを見ていた。

 

「………。」

 

「…こいつら」

 

遅れて一夏も少し違和感を覚え、彼らの顔や体格をよく観察すると何かに気付いたようで小さく声を漏らして反応した。

 

「もしかして…!」

 

「どうかしたの…?」

 

「…美鈴。こいつら…」

 

「…ウルフドッグよ」

 

『………ッ』

 

刹那。静かに口にされた犬種に一夏とオタコンは反応した。そして、同時に全てを悟ったのだ。

 

狼犬(ウルフドッグ)…なんですか?」

 

「言われてみれば…ちょっと犬っていう顔でもないわね」

 

「ええ。実はその子たち、ある場所から保護するようにって頼まれて乗せて来た子たちなの。他の子らはアラスカとかに送り届けたけど、どうしてもこの子たちだけ残ってね」

 

「………。」

 

ある場所。それはオタコンにとって忘れられない、明確に言われなくても直ぐに察することのできた場所だ。

 

 

 

アラスカ沖、フォックス諸島。

核ジャック事件の起こった地、シャドーモセス島。

全ての始まりであり、オタコンとスネークの出会いの地だ。

 

そこで彼は多くを経験し、そして成長した。

ウルフドッグは、その中のひとつだ。

 

 

 

二年前、ガンズ・オブ・ザ・パトリオット事件で再びモセスを訪れた時、彼女自身の口からこう語られていた。

モセスは温暖化の影響を受けて少しずつ沈没していると。一夏は現地に行ったことはないが、現在と過去の衛星写真を目にしたことはあった。

温暖化の影響で沈んでいたモセスだが、更に二年。それによって着々と海中へと没しようとしていた。

恐らくそこに残っているのは野生の動物と鴉。そして今目の前に居るウルフドッグたちだけだろう。核廃棄施設は閉鎖され、もう人間は誰一人として残っていない。

 

「で。動物の愛護団体がその場所を調べて、回収してきた子たちを誰かに預けてくれって…」

 

「…アンタが頼まれた、と」

 

完全にたらい回しをする標的としてロックオンされたようで、困り果てていた彼女は最後の頼みか、それとも思い当たるアテとしてなのか日本へとはるばる連れて来たということだ。

 

「飼えないんですか?」

 

「ううん…私独り身だし、親にもねぇ…クルーも全員無理だっていうから…」

 

「最後のアテに俺を選んだと…」

 

「アテってうより押しつけ―――」

 

「それ言っちゃダメだって…」

 

問答無用に事実を吐こうとする鈴を止めるシャルを他所に、一夏は二匹をどうするかと考え頭を撫でながら考える。

一夏たちは一応寮住まいなので飼う事はできない。

スネークたちもオタコンが首を縦に振るか怪しい。

他にアテの無い彼は、さてどうするかと悩み苦渋の決断を迫られる。

 

「飼ってあげなよイチカ」

 

「…若干一名、異議唱えるヤツが絶対に居るからな。難しいぞ」

 

「なら、預けるのか?」

 

「………。」

 

容赦のない問いに頭を抱えていた一夏はもはやそうするしかないかと諦めかけ、最悪のといえる結論を下そうとした。しかし、その瞬間に彼らの目の前で状況が動いた。

先ほどからなにか匂いを嗅いでいた犬たちが突如動きだしたのだ。

 

「おっ…!?」

 

「わっ!」

 

「どうしたの?」

 

「なんか突然…」

 

「………。」

 

箒が二匹の動きを上からの目線で追っていく。一夏たちの下を潜り抜けた彼らは鼻から入ってくるニオイを頼りに新たな目的地へとふらふらと駆け寄っていく。右へ左へ、前に後ろに。そして、たどり着いた先には…

 

 

 

「あらあら…」

 

スカートの下に入った彼らがどこにいるのかと慌てるセシリアが回っていた。

 

「え…」

 

「な…」

 

それには鈴と箒は信じられないと言う顔で見ていたが、やがてその考えを裏返す事実が現れる。

足元に隠れていた二匹を見つけたセシリアは見えるところによって来たのをチャンスにスカートを纏めて足の筋を見せると二匹を集めて抱き上げる。傘のように広がっていたので視界が遮られていた彼女には今の服装の不便さが浮き出てしまう。

 

「スカートですから見えにくいですわね」

 

「い、いや見えにくいというか…」

 

「凄い…二匹とも…」

 

彼女の腕の中ではその原因である二匹のウルフドッグが収まっている。普通なら多少バタついて抵抗したり多少落ち着きがないが黙り込んでしまうが、彼らの場合、居るべき場所に居るような安心感があるのか、落ち着いた様子で腕の中に包まれていた。

 

「…アンタなんかズルしてる?」

 

「失敬な。私はなにもしてませんわよ」

 

鈴が何かニオイで寄せることでもしたのではと疑うが、美鈴と箒が彼女のことをしっかり捉えていたのでその容疑は否定される。

では他にと今度は箒が問う。

 

「なら、昔犬を飼っていた…か?」

 

「…いえ。生まれてこの方、ペットを飼った事はないですわ」

 

家庭の事情から変えなかったと理由も説明し、過去にペットを飼っていたという説も消滅。

違ったかと残念がる箒はではどうしてと唸りをあげてまた考え始めるが、それよりも先に今度はシャルが自分の思い当たることを口にする。

 

「じゃあ…ニオイ…なのかな」

 

「…ニオイ?」

 

「………」

 

「ニオイ…かぁ」

 

「ほら。親のにおいと似ているっていうか…この子たちが安心する匂いに似ているっていうか…」

 

全員が子犬に目を向ける。

確かに、親のにおいというのは嗅覚が発達した彼らにとっては重要な判別方法でありそれが親であれば安心するのは納得がいく。

しかし匂いといえばと思い考えるオタコンはひとつだけ思い当たることがあり、それがどうしてと直ぐに理解から疑問に変化する。

 

『………。』

 

「…それはつまり…私は彼らが安心するような犬のにおいを出している、という事ですか、デュノアさん」

 

「え゛っ…あ…いや…その…」

 

(地味に地雷を踏んだか…)

 

遠回しに自分のことを馬鹿にしていると言わんばかりの事に反応し、それに気付いたシャルは汗を滲ませてそのつもりはないと否定する。

直球でいうならば彼女が犬臭いといわんばかりの言葉は貴族であり学園の中でも恐ろしい部類であるセシリアにとっては死語にも等しい。これには援護もできないと諦める箒はシャルを切り捨てる覚悟で口を噤んだ。

 

「…そんなに怖いの?」

 

「…黒いです」

 

「ああ…」

 

と、外側では鈴と美鈴がまるで防空壕から砲火を免れているように見ていた。

自分もとばっちりは受けたくないと振りかかる火の粉に警戒していたが、それも場合によっては無力になってしまう。なにせ自分が彼女の視界に入り、存在を認識されているのであれば少なからず巻き込まれる確率だって存在する。

 

「えっと…」

 

「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………!」

 

 

一瞬。奥底から見せた表情に、全て忘れてしまった。

幼く、そして心から喜んでいたかのような笑顔が、僅かに零れ落ちたのだ。

それが一体どういう意味なのかは、その一瞬を見られた者たちには理解できなかった。

まさかその瞬間にそんな顔が現れるとは思ってなかったのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…一つ、いいですか」

 

「ん…なに?」

 

 

 

 

「―――この子たち。私が預かってもよろしいでしょうか」

 

 

 

 

その日。セシリアに小さな家族が二人増えた。

両手に抱えられるだけの命だが、いずれはその腕から離れ、共に野を駆ける者たち。

彼らがその後、どんな生活を送っているのかは、話をした時の彼女の表情でわかるようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれっどうした、柳田」

 

「…伊丹か…いやなにっ………世の中、女狐とはいるものだな、とな」

 

「は…?」

 

「一日に二匹も出会うと…俺も笑うことが難しくなるよ」

 

「…お前…どうしたんだ?」

 

 

 

 

「―――今の女は…別の意味で恐ろしい…ということだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オマケ。

 

「………お嬢。その子犬は…」

 

「貰いました」

 

「なんで!?」

 

「という訳で、私が不在の間は世話をよろしくね、アリス」

 

連れ帰ったその日。アリスの誰も知らない苦労がまた一つ増えたのだと言う…

 

 





次回予告。




…これは。私こと、更識簪が書き記したひとつの物語。その記録―――





次回 「更識簪は傍観する」
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