IS×MGS - Another Solid - 作:No.20_Blaz
そんな感じで始まったAct.3の二回目。第六十一話!
タッグマッチ戦は、あともう一話ほどお待ちを。
次回終えて、いよいよ開戦です。
さて。今回はAct.3から少しずつ活躍し始めるだろうモッピーこと箒がメイン。
残念ですが主人公は次回まで待ってください。
Act.1と2では出番が少なかった箒と鈴ですが、この後になっていくにつれて、少しずつ出番が増える…ハズです。
そんな感じで今後をお待ちを。そして第六十一話をお楽しみ下さい!!
一人の少女によって起こされた事件から約一か月。
ほぼ不眠不休の急ピッチ工事によって、IS学園は無事に復旧しその機能を再開させた。
予定通りの再開とはいえ、多くの民間会社を酷使したことなどの後始末が多く、それは政府、学園の上層部が揃って請け負うこととなった。
しかも、今回の事件のこともあってか学園内の建物の一部は改修され、緊急時における設備などを増設。
今回のようなテロまがいの事件が発生した時に備え無人機の増産配備も決定された。
そもそも国営であっても教育施設ということで警備システムは一応最小限にとどめられていた。それも、学園を完全に覆っているシールドがあってのことで、当然多くのIS至上主義者たちによって過信されていた。
シールドと多数のIS。そして水増しの無人機。これで落とされない訳がない。
確かにシールドシステムがあるというだけで難攻不落と称されても可笑しくはなかったが、今回はそんなシールド内部で起こってしまい、しかもシールド自体は殆ど何の役にも立っていなかった。
これはその以前に起こったメタルギア急襲の時でも言えた事で、しかもシールドを管理するシステムが一時的に掌握されてしまうという失点を更に増やすハメとなった。
その結果、そんな主義者たちが意味のない騒ぎ立てをするのだが、それはここで話すべきではない。
◇
時間はやや遡る。
まだ一夏がアリーナで射撃訓練を行っていた頃に、それを眺めるように立つ少女が居た。
少し蒸し暑い風が吹き、雲に隠れない太陽が照り付けるような日差しを向けてくる。校舎屋上ではそんな暑さの対策のためか日陰の場所や熱を籠らせないための人工芝が植えられている。しかし、やはりコンクリート仕掛けの足場が多いせいで、その場には熱がこもり遠目に湯気を昇らせていた。
早目に夏用の服装に変えたのは正解だったな。
横目で下の世界を眺めながら、制服の中を夏仕様に変えた篠ノ之箒は頷く。
きっと服装に無頓着な人間は今日は過ごしにくいだろう。なにせ気温は最近の中では高いほうで全体的に少し蒸し暑い気候なのだ。
そのお陰で少しでも長く外に居れば、燦々と照り付ける太陽に汗を滲まされて白い制服に水っぽい感じで一か所に溜まってしまう。
加えて水分が多くにじんでしまう服装であるのと気温がまだ完全に夏陽気ではないので服装選びも慎重になってしまったが、今回はそれが幸いして、そこまで暑さに苦しむことはない。
肌に感じる風は涼しさを感じないが、透き通っていく感覚に籠る熱が冷まされていくのは分かった。
…が。いくらそんな事で優越感を感じていても、体調管理に気を付けている人間なら当然のこと。
加えて今の彼女にはそんな事は些細な話でしかなかった。
考えすぎと言えばそうなのだろうが、箒はまるで全ての原因が自分であるかのようにある事を考え、それに自問自答を続けていた。
今まで感じていたもので、以前はまだ霞がかっていたことが最近になって彼女自身少しずつその色と姿を見せ始めた。
いや、分かってはいた事だが、それに現実味がなかったせいであまり考えたことがなかったのだ。なのに彼女は今になってそれが色濃く表れてきてしまい、その現実に自分がどういう考えなのかと問答を続けていたのだ。
(…そうだな。思えばずっと疑問は私の前に転がり続けていたんだ。
なのに私は、その疑問よりもと言って目を逸らしていた。本当は感じていた事なのに、知りたくないとばかり思って…避けてたんだな)
その疑問の始まりは、この学園に来たときから分かっていたことだった。
目の前で行われた模擬戦、クラス対抗戦。そしてメタルギア急襲。
それに抵抗するように乗る者たち。彼女らの経歴と価値観の違い。
そして自分と彼が握っている物の違い。
「―――なぜ、ISは兵器となってしまったのだろうか…そう言いたげですわね、篠ノ之さん」
「ッ………」
屋上に姿を見せた新たな来訪者の言葉に図星であると感じつつも、箒はいつも彼女が居る時に放っているオーラを出して警戒する。
別に相手の彼女はなにをする気でもないが、独り相撲をして自爆するのが面倒だと思っているのか敵意はないという事は今のところない。寧ろそれが自分への見方であるというのなら否定はしないと、態とそれを続けさせるように本意にもない笑みを作る。
「今はお昼休みですわよ。私がここに居てなにかご不満が?」
「…てっきり、お前もアリーナに居ると思ってな。ここに居るということは自信はあるらしいな」
明らかになれ合いをするつもりはないと言うかのように言葉を返す箒に、まるで遊びに付き合っている大人のような表情でセシリア・オルコットは見ていた。
「それはどうでしょう。アリーナが他の上級生に取られて使えない…なんていう事もありましてよ」
「どうかな。確かにタッグマッチへの調整として候補生が居るかもしれないが…別にアイツの所に行けば問題はないだろ。お前なら自分の手の内を隠すのは差ほど苦でもないと思うがな」
「そうは言いますが、相手はあの一夏さんですからね。彼は鋭いですからなにを拍子にバレるのかわかったものではありません。私的にはそれは避けたいことですわ」
「………。」
彼女との何度かの会話で少しだが話の返し方や言葉の選び方などを覚え始めていた箒は、未だ余裕という顔をするセシリアに対し顔色ひとつ変えずに次の言葉を考えていた。今までの自分なら少し焦ったり感情を漏らしたりとしているが、逆に冷静な相手とこうして言葉の攻防をしたお陰で多少は隠せるようになった。
「…さて。話を戻させていただきますが…私の予想は当たりでしょうか。それとも…」
「………。」
口元を硬くして目を細めた様子に、セシリアは当たりであったことを察し小さく微笑む。まだ少し甘いな、と面白みを感じていたかのような顔をしていたが、やがて話に入ろうとしていくと元の冷たい無情の顔に戻っていく。
「別にISが兵器となることに不思議はありません。むしろ、それが必然であることは…貴方は分かっているはずです」
「………。」
「当時、学会で夢物語として発表されたIS。ですがそれは白騎士事件を境に世界最強のものとして認知されるようになった。………無論、兵器として、ですが。
なにせその為のデモンストレーションが弾道ミサイル等の破壊だったのですから。それがもしレスキューなどであるなら、あるいわ結果が多少変わっていたのかもしれません」
「…それは―――」
「ですが、現代の社会…特に人間社会で上位に立ちたいと願う人間にとっては、あれはどう見たって兵器にしか見えない。なにせ、彼らはそう見ることしできないのですから。兵器でなくても、技術が転用できればいい。それで戦争に役立ち、自国のひいては自分の利益につながるのであれば使う。
世の中の物の考えというのはそういうもの。人は絶対的に利益を求める。結果を求める。そして絶対的な安全を求める」
「それが人の生業であるのだから否定はしない。だがISは兵器になれるという可能性があっても、それを恐怖し、抑止力として使うという道だってあったんじゃないか…」
「…分からない話でもないですわ。事実、ISによる抑止力は現在世界中にある核に匹敵する影響があるといわれています。なにせ、核のように全てを無に帰すようなものでもないですからね」
「ならば…」
「ですが。それだからこそ、ISは抑止力成り得ない」
「ッ………」
核は全て破壊する兵器として完成しているため、使えば人類の全てが滅ぶのは誰もが知っている。ひとたびそれを使えば、中にあるエネルギーが解放。通常の火薬のみの爆弾とは違い、放射線などの二次災害を引き起こす。当然、そのものの威力も凄まじく、最後に開発された核でも地球を簡単に覆いつくせるだけの衝撃波を持つ核が製造されている。
一度そのボタンを押してしまえば最後。核はその中のエネルギーを全て解き放って破壊しつくす。
核は使わないか使うかの両極端なのだ。
しかし対してISはあくまで人が使用する兵器であり、その戦闘能力は搭乗者によって左右される。搭乗者がビル一つだけを破壊したいのなら可能。逆に平原ひとつを焼野原にすることだって造作でもないことだ。
使用する武器によってISは任意にその被害範囲を変えられる。場合によっては人ひとりに抑えられることだって可能だ。
核が両極端なのに対して、ISは使うにしても使用者次第でその被害範囲を変えることができ、場合によっては文字通り最小限に抑えることもできるのだ。
この二つを比べるのであれば、抑止力として優位なのはISであると錯覚しがちではあるが、実際はISよりも核が抑止力たり得てしまう。
その理由は二つ。それぞれの使用前後、そして使用時の被害範囲。
ISは被害を調整することが可能で基本抑止のためでなくても動かすことは差ほど問題でもない。
だが核の場合はどうだろうか。ひとたび使えば核は全てを破壊しつくす。使ってしまったら最後、世界は文字通り終結してしまうのだ。
それを元にして考えるのであれば、ISは抑止力というより既存兵器として考えられ、その絶大な効果範囲と威力を持つ核こそが、世界の抑止力となってしまう。
「まぁ、ISを使って核を破壊する…ということも不可能ではありません。ですが、だからといってそれが絶対に成功するという保証もないですし、核はその場で自爆させるという使い方だってある。そうなってしまえば、いくらISであっても…核からは守り切れない」
「…その前に全て破壊する…なんてヤツが現れたらどうする」
「その場合こそ自爆を選択するかでしょうね。それに、全世界にある核の総数と現在確認されているISの総数とでは、いくら電撃的な奇襲であっても確実に数発は生き残ってしまいます。そうなってしまえば…」
「…どの道、ISは核に勝ることはない…か」
「ISというのはそもそも戦略兵器ではなく、一種の汎用兵器。つまり幾多の状況をこなせることをコンセプトに開発されたものです。概念自体、ISと核とでは違いがありすぎます」
「だからISは抑止力に成り得ない?」
「…現在での結論を申したまでです。もしIS技術がこれより更に発達するのであればあるいわ…」
「………。」
近年。ISの技術は様々な分野での技術的恩恵を受けて進化をしている。
その代表格として、現在開発先進国ではISへのサイボーグ技術の転用を検討されている最中で「愛国者達」によって流出したCNT筋繊維の技術がサイボーグでの活用に大きな意味をもたらしたことを理由に、それを同じ人型であるIS、そして現在一部国家で保有が確認されているメタルギア(この場合は多くがRAYのことを斥す)への転用。そしてそれによる能力の向上を目的とされている。
特にメタルギアは既にISとサイボーグの登場で旧世代の遺物と化してきており、そのための近代化改修も兼ねて検討されている。保有国の中には未だメタルギアの戦力を
ISは現在判明しているだけでドイツとアメリカ、そして遅れてイギリスがCNTの転用を検討しているが、既にドイツは他の国よりも先駆けてCNTを採用。第三世代機にデータ収集を兼ねて搭載したことが彼女たちの間では判明している。
しかし、実際はドイツの機体のみにCNT筋繊維が搭載されたワケではない。現在無所属で世界で唯一の男性IS操縦者である一夏の機体が、それと双璧を成すようにCNTを搭載。更には一定の成果を上げていた。
特にメタルギアとの交戦記録は過去に例のないことで、サイボーグだけでなくISであってもメタルギアに対して優位に立てることが立証された。
だがこれは表立っては発表されていない記録で、その理由は当然ながら彼の立場にある。
「―――その内、ISが指からビームでも出すか?」
「かもしれませんわね。なにせ、現代での科学技術の発達は凄まじいものですから…」
「………。」
一瞬。セシリアの目が遠く、なにか悟ったかのように見えたが、それはいつもの事だと思い箒はその僅かな間しか気にすることはなかった。
(そう。本当に歪…まるで誰かがそうなる事を知っていたかのように…この世界の科学技術は歪んでいる―――)
「…だからなのかな。人が力を求めるのは…」
「ッ―――」
「科学が発達し、人の手によってさらなる力を持った兵器が生まれ続ける。けど、それがやがてまた次の、より強力な兵器への欲求になる…」
「………確かに、それは歴史が証明していますわね。強い武器を、強い力を求め国で争い、人は戦う。多くの血を代価にして人は成長し、同時に力を強めて来た。その過程でメタルギアもISも、今世界中にある兵器が生まれた」
「………。」
「これからも人は力を求め続ける。誰かのためではない、自分のために。それは絶対に変わらないことですわ」
科学は発達し、文明は栄え、人は進化していく。いや、人の欲望が進化していくのだ。
だからこそ人は今の生活、今の時代を持っている。
しかし、だからこそと箒は反した。
「だが。発達はいずれ止まる…いや終わるんだ。だから…」
「………。」
「人類の科学文明が無限に成長するという根拠はない。いや、それよりも文明や今のこの世の中にあるもの自体、いずれは朽ちてなくなっていくんだ。
いくら科学が発展していって、最後には憤ってしまう。進むことが出来なくなってしまうんだ。
進むことだけが絶対の回答じゃないんだ」
「…では停滞もまた一つの答えだと?」
「延命というわけではない。ただ、答えを急ぎ過ぎれば過ちを起こすというだけ」
「知ったような言い方ですわね。今までそんな事を貴方が言った事がありましたっけ?」
「…ないだろうな。自分でもそんな事をいうとは思ってもなかった」
「……………。」
それが自分の本心なのかは自身でも分からない。だが自然と口が動いてしまい、彼女の口から本来なら出ることもないだろう言葉が語られた。
彼女曰く、自分でもそんな事を言うとは思っても無かったと言うが、聞き手側であるセシリアには本気で思っており、それを実行しようとしているように思えた。
「…本当に…危険な考えをお持ちですわね…」
「え―――?」
「人類の停滞、それに準ずる考えを持つということは今の人のあり方を否定する。貴方は止まるもひとつの答えだと言いますが、既に停滞を拒んでいる人類にとっては全てを否定することに変わりはありません」
「―――。」
「人は進化し続ける。それは誰が望んだことでもなく、時代という怪物がそうさせているのです。もはや人類が望んで進化し、停滞する時代はなく。ただ飽くなき進化と発展だけが続く。止まる事はもうできないのです」
「…人類は止まれない…か。確かにな」
だが箒の顔はそんな事を一笑するようなもので、その不敵な笑みに思わず息をのんだ。
「ならば私は停滞ではなく、減速を選ばせる」
「減速…?」
「そうだ。進むことしかできないというのなら、その進むスピードを遅らせるだけ。そうすれば…人は進化はするが、その時間を遅らせることができる。
進化することが絶対的な条件であるなら、その歩む速度は誰が決めたものでもない。ならば遅らせることだって可能だ」
断言した箒の言葉にセシリアの表情は曇りを見せ始める。
それが彼女が本気で思っているのかでさえも分からないことだが、それ以上に彼女が口にしていることが彼女の中に戦慄を感じさせていた。
もし、それを本当に実行するというのなら、それは
「…
「異を唱えるだけだ。人類にはまだまだ時間はあるんだ。それを有用に使えばあるいは…」
「貴方が言っていることが正しくても、果たして今の世界がそれを受け入れるのでしょうか。少なくとも私は―――」
「―――なら、起こせばいい」
「ッ―――」
「人が進化だけしか望まないのであればそれでいい。だが早すぎた発展は破滅に追いやる。そして、今は時代遅れと称したものが
この時、否。まだその時だけ。セシリアは僅かな間だけ、目の前に居た箒が恐ろしく思えてしまった。それを本気で言っているのかということもあったが、それ以上に彼女の目が、表情が、それを実現させてやろうという顔になっていた。
たかがと言って笑い捨てる、そんな笑顔を浮かべた人間は、恐らくその瞬間は彼女ただ一人だっただろう。
「篠ノ之箒…貴方は…」
「――――――。」
◇
自分でも分からなかった。
気が付けば自分でも思っていたのか分からない言葉を口にして返し続けていた。
それがどうしたと、だか何なんだと、そんな事は些細なことだと吐き捨てるように自分が笑っていたのだと、箒は後になって感じていた。
だが既に頭の中ではその時に言ったことの大半が消え失せており、自分でも何を言って何を返したのかは分からないようになっていた。
「―――――。」
あの後に屋上から離れた箒は一人、人気のない場所に隠れるようにしゃがみ込んでいた。
自分でも何を言っていたのか分からないということもあるが、それよりも何故そうなったのかという自分自身への問いに意識を向けていたのだ。なので誰かの邪魔が入らないようにということで、彼女はあえてそんな場所を選んでいた。
「…何なんだろうな」
あまり覚えていないということは過去に何度もあった。
だがその時は決まってなにかトラブルがあった時のことで、今回のような会話中にというのは例がなかった。
自身に身の危機が起こった時に最後は記憶が散漫になるというようなもので、人に言わせれば都合のいい証拠隠滅方法だともいえる。それは箒自身も分かっていたが、事実そうなってしまったことに変わりはない。だからといって記憶が戻るわけでも再現されるわけでもないのだ。
最近は可笑しい。最近になって自分の身の危機に直面した時にはそういった記憶の曖昧はなく、むしろ普通に鮮明に覚えていることが多い。特にあのメタルギア急襲の時も記憶も彼女の中では今でも感覚と共に完全再現が可能だ。
しかし今度は今回のような何もない日常で記憶が曖昧になることが増え、自分でも思っても無かった事を言ったり、動いたりすることがあったのだと言う。
まるでもう一人、自分の中に誰かがいるかのような感覚で気がつけば何かが終わっていた。以前は目の前に死屍累々が広がり、今度は目の前で本気なのかと訊ねる人間がいる。まるでその部分だけでいいから体を動かさせてほしいと頼んでいる自分がいるかのように、彼女の記憶は曖昧なものになっていた。
「本当に二重人格でもないだろ…私は…」
だが。だったらあの時はどうなんだ。そう返すように自分の覚えている記憶の中からひとつ、その法則に矛盾する出来事を呼び起こし、自分へと問い詰める。
過去に自分の身に危機が及んだわけでもなく、無意識の内に何を言ったというわけでもない。
ただ暴れた。それだけの記憶が、彼女の中には薄っすらとだが残っていた。
あの日。数年越しにやっと彼と話すことのできたあの時のこと。
刀をもって暴れた自分が、最後には彼を抑えていた。そして段々と意識が戻って来たときには、自分の中にあった思い全てが吐き出されたこと。今でもその時の涙はしっかりと覚えていた。
「―――――どうなっているんだ、私は…」
あの時は嬉しかった。なのに今となってはその時の記憶でさえも不安材料と化してしまい、更なる不安と疑問へと繋いでいく。今までの不安、そしてこれからへの恐怖。答えの見つからないというのがここまで恐ろしく思った事は過去にない。
一体自分の体はどうなっているのか。そう思うことでさえも恐怖となってしまう。
「…助けて―――」
現実から逃げたかった箒は、やがてポツリと呟くと重たくなった目蓋を下げて意識を手放した。
―――昼休みのチャイムが校内のスピーカーから響き渡る。
ようやくの昼休みに生徒たちは体を伸ばしたり、この時を待ってたとばかりに教室から姿を消す。残った生徒は自分の机の隣に下げている鞄をあさり、親や自分が手作りした弁当箱を取り出す。長く暇のある授業が終わったので
「ふぅ…」
小さく息を吐いた箒は、昼休み前の授業の疲れを吐き出し、他の生徒と同じように昼食に対する希望に胸を膨らませた。
今日はなにを作ってくれたのだろう。監視下に置かれながらも数少ない心を打ち明けられるような人物が作ってくれた昼食に、今日も小さく微笑みをこぼしていた。
幸い。今日は自分のことを怪しんでみる人間はいない。鞄の中から弁当箱をすくい上げると同時に横目で残った生徒たちの視線を窺う。なにせ今の自分には謂れのないレッテルが張られているのだ。そのこともあってあまり揉め事を起こしたくないと思っていた彼女は、誰も見ていない事を確認すると、音もなく教室を後にしようとしたが
「―――箒ッ」
「ん…カンナか」
箒と同じく黒い髪を腰まで伸ばした少女が一人、手に小さな弁当箱をもって近づいて来ていた。窮屈に感じていた学校の中で箒がただ一人、親しんでいる友人で、その性格、価値観は彼女から見ても少し変わっていると言う。
だが、それでも関係なく自分に親しくしてくれているというだけで箒は素直に嬉しかった。
「また一人で行く気なの」
「いや。カンナが絶対に誘いに来るとは思っていた」
「にしては直ぐに出ようとしてた気がしますけど?」
「偶には先取りの優越感に浸りたいと思ってたのでな」
「―――ケチ」
「なんでそうなる。行くんだろ? あの場所に」
勿論とばかりに笑顔で答えるカンナ。その笑顔は何度見ても心安らぐもので、箒はその笑顔に何度救われたかわからないほどの感謝を感じていた。
中学に入ってから監視下であったり妙な噂であったりと様々なレッテルや虚実を張られてしまった彼女は、その証拠もない根拠から虐めの対象になることが多かった。
特に、本人の予想に外れて女子からの陰口や虐め(当然物理的なもの)が多く、典型的なものから過剰なものまで多種多様。兎も角、彼女を視界から消し去りたいということが虐めを行う理由だった。
戦争に引きずり込んだ女の妹。その次いで。暴力魔。サディスト。
身に覚えのないことや、自分のせいではないというのに虐められる理不尽さ。そして、それを更にエスカレートさせるように虚構虚実を混ぜた噂を流して孤立させていく。
本人たちはそれで優越感に浸っているのだろう。
しかも、それが教師も加わってとなればいよいよ極みに達する。
本来なら、当然警察案件だ。
「今日は晴れでよかったね」
「向こう一週間は晴天が続くらしいからな。悪くても曇りぐらだ」
だが。そんな時にカンナが現れた。
最初こそ箒は同じ虐めが目的であると思っていたのだが、彼女の第一声は箒でさえも驚かせた。
―――なんで言い返さないの? 別に悪いのは向こうなのに
正直、箒はその時馬鹿にしているのかと、嘲笑っているのかと思っていたが、彼女の目はどうにもそんな事を考えているというものではない、本当に疑問に思ったことを口にしただけという表情をしていたことに思わず目を丸くした。
彼女のことは時折耳にする「天然」だというのは知っていたが、その言葉が正しく当てはまっているのかと思うほどに彼女の言葉は正確に、鋭く箒の心へと突き刺さった。
「さてさて…今日の箒のごはんは何かな?」
「お前…私のよりも自分のをだな…」
にひひと笑って見せるカンナに呆れるが、もういつもの事だと割り切った箒はそれ以上いう事はない。最初こそ弁当の中身を奪われると警戒していたが、今となっては彼女におかずを渡すことに抵抗感を持っていない。
「…ま。お前のはそこまでの量でもないか」
「うん。だから箒のお弁当もついでに貰おうって…前にも言ったよね?」
「ああ。前にも聞いたよ」
そんな二人が昼休みの間だけ静かに食事を行う場所は人気のない非常階段の最上階は、人気のないというよりも人が寄り付かないほどに離れた場所だった。
そこで彼女たちは今日のこと昨日のことを話し、誰にも邪魔されることなく会話を弾ませる。私生活のこと、学校の先生に対する印象。授業の内容。
そして。
「―――なぁ…カンナ」
「んむ?」
「…馬鹿な話だと思って…聞いてくれないか?」
唐突に改まった態度で話を切り出した箒に、一体どうしたのかと不思議がるカンナだが、彼女の口には現在ほど良い塩が効いたおにぎりがくわえられていた。だがその時に限って味は薄く、なにか味のないものを食べているかのようだった。
「―――なるほどね」
自分のことについて話すのには抵抗感はなかった。だが、こんなバカな話を、ましてやこんな話をしてマトモに信じてくれるのだろうかという不安が彼女の中を過って中々口にする事ができなかった。それでも矢張り聞きたい、願わくば知りたいと思っていた箒は、やっとの思いでそれを打ち明けた。
「今まで流れてた噂にはそんな事情があったと…」
「………。」
「信じてもらおうにも、確かに原因がそれじゃあね…病院とかに行った時に聞けなかったの?」
「行きはしたが、精神科は何処も廃れててな。遠くに行けば居るには居るそうだが…」
「ああ…そっか…」
ありのままに自分がどうなったのかを話した箒を見て、小さく相槌をうって返す。
余計な表情や感想を言わず、ただそうなったのだと言うのを聞き入れていたカンナは普段の姿からは予想もつかないような表情で話を聞いていた。
「二重人格…ってわけでもないのよね」
「ああ…多分な。聞いてた感覚とはかなり違いがある」
二重人格の場合はかなしばりの様に自分の体が動かず、もう一つの意識、というよりも人格が現れて体の主導権を乗っ取る。その間、自意識はまるで窓の外を眺めているように目の前の状況を生中継で見ることになる。いわば、よくある漫画での「俺の中にはもう一つの意識がある」的な感覚。
ひとつの入れ物に二つの意識。それが所謂、二重人格の基本原則だ。
しかし窓の向こう側から眺めているように感じる自意識の感覚は、むしろそれ以上に遠く感じてしまう。
曰く、風景として俯瞰しているように見えるらしく、薄っすらと覚えている記憶も自分の記憶であるという感覚がほとんどない。まるで自分の動き、現実での動きが他者の動きであるかのように希薄で、関心もない。
そして本人の自意識も二つあるというよりは二つに「別れている」というのが正しいようで、それが辛うじて彼女に「自分がそうなった」と認識させる理由となっていた。
箒の場合はそれとは全くと言っていいほど違っていた。いや、そもそも二重人格という言葉自体、彼女の症例には合わないのだ。
「…確かに、それじゃあ二重人格ってことにはならないよね」
「だよな…」
「箒はさ、それを感覚でいうならどういう感じなの?」
「どうって…今話した―――」
「まぁそれもあるんだけど意識的に」
「………。」
難しい質問を投げられた箒はどう説明すればいいのかと迷い、唸りを上げていた。
今までその感覚を文字通り感覚的に捉えていた彼女は改めてそれを言葉で示せと言われても上手く表現をすることができなかった。
それほどに彼女が感じていた感覚は不思議かつ説明し難いものだった。
「…なんて…言うべきだろう」
だがそれでも上手く言葉をつなぎ合わせることが出来ないなりに説明しようとした箒は、ようやくにその時の感覚に対する説明を喉の奥から絞り出した。
「―――――ズレ…かな」
「…ズレ?」
「そう。意識の
「…意識は二分されてて、自分の意識が「ある意識」と「無い意識」がある…って事?」
「…まぁ…多分そうかもしれん」
具体的に話せない箒は悩んだ末に出した言葉に、あまり納得がいかなかった。
言葉ではなく、それを物を使って現すのであれば彼女の説明はある意味簡単なことだった。
例にするならば、彼女の自意識は焼き立ての餅を二つに割って、その間に細い餅の糸を引かせているという状態だ。
そこに自分の意識だと認識できるほうと、自意識ではあるが他人のように感じる自意識とに分かれている。箒が自意識であると認識したほうに餅であるなら醤油やらなにやらをかけて、もう一つのほうにはかけないでおく。
こうすると、かかっている方が自身の認識がある意識、かかっていない方が認識が希薄な意識となる。
「どっちも私だというのに…どっちも私じゃない…」
「………。」
「…哲学的なのは性に合わないんだけどな。どうしてしまったんだろ、私は」
自分でも分からない自身の体の状態に乾いた笑いをする。
どうするべきなのか、一体どうなっているのか。それが分からない彼女にとって、それは悩み以上のものに膨れ上がっていた。
「哲学的…ね。確かにそうかもね」
「―――。」
「多分だと思うけど…箒のその感覚って、自分じゃ意識していない自意識があるってことじゃないのかな」
「…意識していない意識?」
「簡単に言えばよかったかな…認識していない意識。だからさっきのあるないみたいに、本当は自分の中に自分でも知らない意識領域があるんじゃないのかなって」
「………!」
「例えば、その快楽のためだけに動くっていう意識…つまり―――」
◇
「…殺意の意識…か」
寝汗をかいた様に額に汗を吹き出していたのに気づいた箒は、目が覚めたばっかりの顔でポツリと呟いた。息は荒くないが、妙に体に疲労が沸き上がってダルく感じるのは今までの疲れのせいか。お陰で彼女の体の動きは鉛のように鈍くなる。
「気分が悪い…」
上着の中に入れていたハンカチを取り出して汗を拭きとったが、体の中は変に熱がこもって渦巻いている。まるで閉め切った部屋に大量の暖房器具だけを置かれた部屋に居たかのような感覚だった箒は、よろめくように立ち上がりながら壁に寄りかかる。
悪い夢でもないというのに感じた吐き気に少しずつだが息を荒くしていたが、それでも動くことには問題はないと大きく深呼吸をして体調を整えた。
「後で水でも買うかな」
午後の授業は一時間だけだが、体がそこまで持つのかは分からない。兎も角、気休め程度にはと思い、箒はその場を後にした。
その間。更衣室では楯無たちによる騒動が発生し、なし崩し的に一夏が彼女とタッグを組むこととなったのを知ったのはその日の夜のこと。しかも彼女たちが寮に戻ってからだった。
「…は?」
「…だから。エメリッヒ君が、生徒会長に言われてタッグを組んだってワケ」
話しにくそうに答える相川に目を丸くする。
本人も信じられないよりも信じたくないという気持ちのほうが強いらしく、返って来た言葉の中には小さく唸るようなのも混じっていた。
更に彼女の言葉がより現実になるように、彼女たちの周囲ではその話で持ち切りとなり、中にはそこから発展した根拠のない噂までも立ち始めていた。
やれ彼のほうから持ちかけた。やれ実は彼女も狙っている。
中には相思相愛だという者も居たが、それは直ぐに否定される。
「………だが…」
「うん。エメリッヒ君は元々一年限定の方に出るって言ってたけど、掛け持ちは本人の体力とかからダメだって織斑先生にNG食らった」
「いやそうじゃなくて…なぜそっちをNGにするんだ!? アイツは一年のほうに出るんだろ!?」
「それはそうなんだけど…なんか織斑先生には策があるとかなんとか…」
「………。」
「当人も気が滅入ってるようで、部屋に入ってから一歩も出てこないって調子。噂の大半は捏造かもしれないわね」
相川からの話を聞いていたが、箒にとって後の話はどうでもいいことだった。
問題は一夏の参加をあの千冬が許可したこと。互いに警戒し合う関係であるというのに、千冬はそれに同意したのだ。本人に策があり、何の意図があるのか分からないが、それをアッサリと了承したことに驚くしかない。
「で。みんな噂になってたエメリッヒ君との付き合いができないことにショック受けてたり、タッグになった彼女に恨んだりっていうのが現状…わかった?」
「ああ…」
斯くにも、自分の知らない間に起こっていた出来事に衝撃を受けていた箒は呆けたように口を開けて答えることしかできず、意識もどこか遠くへと飛んでいくように抜けてしまっていた。
「…織斑先生、何考えてるんだろうね」
「…さぁな…私も時々あの人の考えにはついて行けない。視野も広いが、回転も速いからな」
とてもではないがついて行けない。頼もしくも感じるが、それが彼女と周囲とを一線画す理由の一つなのだろう。
(…タッグマッチ…か)
すると。まるでその話を聞いていたかのように、話題の人物となっていた千冬が姿を現し、廊下で雑談をしていた生徒たちに向かい部屋に戻るようにと言う。
気が付けば、もう既にそんな時間になっていたらしい。
「お前たち、そろそろ就寝時間だ。雑談はまた明日にして早く寝ろ」
「うおぅ…噂をすれば…」
「…だな。相川、すまなかったな」
「ううん。多分、みんなこの事に不安とか不満持ってるの同じだろうし大丈夫だって」
それじゃ、と声をかけて別れの挨拶で区切った相川は千冬の言葉に従って、かけ足で部屋へと戻っていく。
一直線に部屋に戻る姿を眺めていた箒も、そろそろ戻るかなとドアを閉めようとするが
「―――待て。篠ノ之」
「………ッ!」
こっちに来いと手招きをする千冬に、半分ほど閉めていたドアを再び開けた箒は警戒するように彼女を見つめる。相川からの話を聞いたばかりで半信半疑になってしまい、更にはなにを考えているのかと変に疑ってしまっていた。
「…少し、話がある」
「………。」
千冬に呼び止められた箒は、彼女に連れられて人気の少ない階段付近に立った。どうやらあまり人には聞かれたくない話のようで、なにかあるらしいと見ていた箒はその間を見計らって訊ねることはできないかと考えており、僅かだが彼女の口から語られる言葉を聞き逃しそうになっていた。
「お前、今回のタッグマッチ戦のこと…聞いているな」
「…ええ。学年のとは別に、旧来通りの全学年対抗戦のが行われる…と」
「そうだ。一応、以前から行われてはいたが、学年での実力差や格差、性能差などが原因で一時期は見直しを考えられ、今回から廃止にしようと決められていた。
…しかし、各国企業などの圧力もあって今回、条件付きで存続が決定された」
「………。」
「…大方、お前は「なぜそこにアイツが入っているのか」と思ってるのだろ?」
「ッ…!?」
突然、自分が考えていた事を軽々と言い当てた千冬に驚く箒。目の前に立つ彼女は後ろを向いて窓を眺めている。お前の考えなどお見通しだ、そう言わんばかりの言い方に呆気に取られていたが、すぐにならばと思い切って千冬へと食い掛かる。
「―――なぜ了承したんですか」
「………。」
「噂やほら話は関係ない。でも全学年でのタッグマッチなんてアイツに何の得があるっていうんですか」
「…得…か。まぁそれはそうだな」
「だったら…!」
しかし、箒はまだ一夏にかけられた、ほとんど根も葉もない容疑のことを知らず、それを話てなかったなと面倒にも思っていた千冬は変に疑われたりすることを承知で話し出した。
「実はな、今あいつにはある容疑がかけられている」
「…容疑?」
「アイツの武器弾薬の補給申請でちょっとした手違いがあったらしくてな。それがなんの理由になったのか、ドイツ政府から殺害犯まがいの疑いをかけられている」
「なっ…!?」
「で、その疑いを晴らすために指定されたのが…」
「…全学年でのタッグマッチ」
「そうだ。そこでアイツが疑いを晴らすことをすればドイツ政府も納得する。という算段だ」
実際はそこまで簡単に納得してくれるのかと疑ってしまうが、どの道彼にかけられてしまったこの容疑はそうして晴らさなければ延々と尾を引くことになる。
変に残してしまっていた火が気が付けば大火災になってしまうかもしれないのだ。
斯くして、仕様もないことではあるが晴らさねばならない疑いであることは事実なので、千冬は渋々と了承した。というのが本人の口から語られた理由だった。
「ドイツ政府も前の事件での仕打ちの仕返しに躍起になってるそうだからな。オマケにどこで知ったのか、アイツの機体のことについても嗅ぎまわり始めている。そうなってしまうとどんな言いがかりをつけられるか分かったものではない。
本人にしても、我々にしても。厄介ごとは早々に消すべきだ」
「…それは分かりました。ですが…」
それでもまだ訊きたい事はあると彼女に次の質問を訊ねようとしたが、またそれを読んでいたかのように千冬は先に口を動かし、話のペースを持って行った。
「…でだ」
「ッ…」
「ここまでの話で分かっていると思うが、要はアイツの疑いを晴らすようにすればいい。つまり、問題のものを晒せばあとは自然とこの疑いも晴れる」
「…それが…一体…」
少し、千冬の口元がつり上がったように思えた箒は妙に彼女が上機嫌であることに気付く。
「―――分からないか? 要は問題のものを出すだけで、別に戦い自体に意味はないんだ。
つまり。アイツらに「問題を晒してまで優勝しろ」などと言う制約は存在しない」
「……………ッ!」
ああ。そういう事か。
全てを察した箒は、彼女が子どもの悪だくみをしているかのように笑みを浮かべているんだと気づき、それに呆れながらも反することはしなかった。
それは箒であっても同じ顔だからだ。
「…ここまで来ればもうわかったろ」
振り向いた千冬は近くの壁に彼女を追いやると、片腕で退路を塞ぎ顔を近づける。まるで誘惑しているかのような仕草だが、既に箒はその誘惑の内容を知り、同意していた。
言わなくても分かっている。ただ、これはどうなんだと。
「お前だって、あの女狐を快くは思っていまい。アイツの疑いを晴らす手伝いをすれば…あとはどうとでもすればいい」
「………。」
「他の専用機持ちより、お前のほうが納得してくれると思ったんでな。
…頼めるな?」
「…顔、近いです」
「うむ…すまんな」
―――問題のものを出せば、後は
ここに二人の契約は完了した。
後書きという名の何か。
最近、ライダースーツの女性が良いなと思い始めた。
スタイルが良いと…ね。
ちなみに対象はセシリアにしています。