IS×MGS - Another Solid -   作:No.20_Blaz

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大変です。六十二話を投稿するのを忘れていました。


という訳で今回は色々すっ飛ばして更新します。マジでごめんなさい!?!?


No.62 「開戦前」

 

過去。全学年でのタッグマッチ戦では、あることがこのイベントの中で恒例となっていた。

それはタッグマッチ戦を経験した人間なら一度は体験したことのあるだろう儀礼。いわば暗黙の決まり事だった。

 

 

―――各国からの極秘裏のバックアップ。

各国の代表候補は言うに及ばず、学園内つまり日本の生徒であってもそれは対象になったと言う。各国が世間に出さない違反スレスレの技術、武装、装備。それを参加者のほぼ全員は必ずといっていいほど勧誘され、その魅力に引きこまれてしまう。最終的には各国全員が知らない技術やら装備やらがジャラジャラと見せびらかされ、もはや新兵器の実験場のようなものになっていた。

アラスカ条約で技術共有が成されているとしても、それはあくまで表向きな話だ。アメリカが軍事的優位さを失った今、世界は軍事力による頂点を目指す群雄割拠の時代に突入している。この時代で頂点に立つため、国は自分たちの野心を燃やして独自開発を続けているということだ。

 

しかしやはり独自に開発した兵器であったとしても実戦で使えなければ意味がない。

だからといって紛争地帯などに出せば何時破壊されるか分からず、更には誰の目に着くかわかったものでもない。無闇にその姿を晒せば世間からの批判はもちろん、各国に自分たちの技術を見せびらかすことになってしまう。

そうなってしまえば、それに対するアンチ兵器が開発され、その上位兵器が作られる可能性が極めて高い。

なるべく目撃者は少なく、情報が漏えいしても誤魔化せたりすることができる場所。そうなればおのずとその場所は限られて来る。

 

自国の実験場。演習基地。人目につかないような僻地。そしてこの学園。

 

IS学園で新兵器の実験をすればいいという考えに至ったのはある意味での消去法だった。実験場、演習場でやる方がいいというのは最初は誰もが考えていた事だ。態々他国のそんな場所でするよりも、自国でした方がメリットは多い。だが、それが同時に現代では危険にもつながることを後になって思い知ることになった。

自国で開発、実験をすれば直ぐにでも改良や調整などが出来る。そうすれば完成度も高く、兵器としても有用なものになるだろう。だが一転して、それが定期的に繰り返される事は下手をすれば他国に新兵器を開発していると勘付かれてしまうことにもなる。自国の演習場や施設を行ったり来たりすること、更には予定にない実験や演習が行われていること。なにより、今ではスパイというのも存在しているし、情報化が進むことでその情報がどこから漏れるのかもわかったものではない。自国内で動き続ければ、潜ったスパイやその類の人間が気付いて情報をリークするかもしれない。

そういったことを理由に、自国内での動きを最小限にして国は独自の兵器を開発するのだ。

 

では残った僻地での実験はどうなのかと言われると、これはこれで当然ながら可能性から外される確率も高い。僻地であれば他国から見つかる可能性も低く、独自開発に専念できるのも確か。だが、自国から離れているからこそ、その場で何が起こりどうなっているのかというのが分からないことも多い。

映画のように、独自の災害兵器を開発したがそれが暴走して連絡が取れなくなった、というように独立性が高い事で自分たちの監視外でなにをするのか分かった物ではない。

そうなればそこにあった技術だけでなく、大枚はたいて行った実験、開発も全て水の泡となってしまう。そしてそこからも何が原因で情報、技術が漏れるかもしれないという危険性だってあるのだ。

 

 

結果。最終的に残されたのがこの学園でのタッグマッチによる実験だった。

それこそ人目に晒されて技術的にも他国に見られる可能性があるのだが、それを提案した者はそれを逆手にとって考えた。あえて自分たちが独自に開発した技術を出す事でそれに対抗する技術、つまり表向きは出せない独自技術を引っ張り出させるという強引なやり方をすると言い出したのだ。当然、そんな事をしても、もしかすれば自分たちだけが損するのではないかという反対意見もあったが、表に出させるということは独自技術ではないと思わせて更にその先があると錯覚させることも出来る。

だがこれはあくまで希望的な結果で、目的は当然各国が発表を控えている技術の公開。そして、それによる実践テストとデータの収集。更に他国技術の解析も可能。

加えて事情などを知らない他国の生徒に使わせることで技術の全容を隠す事。場合によってはその逆のフル活用された兵器のデータ収集など利点も多く存在する。

一歩間違えれば自国の大損では済まないことだが、群雄割拠である今だからこそ、技術は多くても困る事はないのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…ってなワケで。そんなことや洗礼とばかりに上級生からのいじめの様な技量差とかもあって、廃止を検討していたんだけど…」

 

「…軍事的技術が欲しいために存続させたいという意見が出て残った、と」

 

「加えて学園内なら決まり事で表立って他国が干渉する事はできない。暗黙の了解として互いに同意しているのであればバレることもない。余計な連中に情報漏えいする確率も低い。

そして、生徒たちには外で言わない様にと口裏を合わさせてハイ完成」

 

「俺たちの知る技術の中にはそういった違法ものも多く混じっている…と」

 

一転させれば、その技術を知っていることで外に出れば優位に立てる場合もあるということだと、廊下を歩いていた一夏は楯無の話に耳を傾けていた。

改めてタッグマッチのことについて聞いていた彼は、その背景にどんなことがあるのかと訊ねたので、楯無はそれを隠すことなくため息交じりに応えていた。どうやら彼女にとっても、タッグマッチを復活させることは納得できなかったらしい。

 

「私が入る前、タッグマッチでその技術を使った上級生の一方的な試合があってね。その翌年には叛逆とばかりに今度は下級生が上級生を一方的につぶす、なーんてことがあったらしいの。当然、原因は彼女たちのバックにあった国家からの技術、装備等の提供。表立っては公表されなかったけど、裏では結構話題だったらしいわ」

 

「それは知ってます。確か、米国やロシアのような大国にもみ消されたんでしょ?」

 

「そっ。技術的に先を行く国。アメリカやイギリス、ロシアといった先進国は必然的に政治的、国際的にも地位は高いし、それを維持するだけの組織も持ち合わせている」

 

「CIA、FSB、MI6…」

 

「情報戦は今の時代では最重要。情報を制すればなんとやら…」

 

情報を消せば事実が消えたのも同然。あとはその事実を知る人間を消せば真実は迷宮入り。それが今の時代では当たり前になっている。大方、そういったやり方で今まで情報をもみ消していたのだと、変わらないやり方に一夏はため息をついた。

無論、それは情報隠蔽についてのため息だが、それと同時にそれを実行した組織に対しての呆れでもあった。

 

「頭脳プレイに見せかけた実力行使…ですか」

 

「結果そうなっちゃうわよねぇ」

 

やり方はどうであれ、最後には証人を消すのであれば、それは実力行使と変わりはないのだ。それを実行犯は実力行使ではないと否定するかもしれないが、物理的な力に訴えたのであればそれは十分に実力での行動だ。

 

「つまり。自分たちにとって都合のいい場である実験場を残しておきたいってこと。表向きのように堂々と、しかし本当は出せないようなものを…自国なら国内の民間企業に気付かれる可能性が高く、僻地であれば隠蔽は可能でも反乱や緊急事態での連絡途絶による計画漏えいだってありえる」

 

「だったら、最後に残ったのが民間企業が気付くことが難しく、場合によっては口封じも簡単な…そして僻地でもなければ影響力も高く、緊急事態が起きても情報漏えいが心配されにくい、ここが選ばれた…」

 

「本当に消去法よねぇ…そういった都合のいい場所って認知されてるんだから」

 

そもそも何故自国の民間企業に自国独自の技術を隠すのか。それは最終的な情報隠蔽のしやすさと、それに至る漏えいの危険性。そしてなにより、企業と国との価値観の違いだ。

仮に民間企業に技術を見せるようにすると、当然利益として更なる可能性を秘めた技術を彼らは欲する。それを了承すれば直ぐにでも企業は解析、理解、発展をして世間にその技術を持ったものを排出する。

そこが問題なのだ。そうなってしまっては何時か、誰かが発展する前、すなわちオリジナルである国の技術とほぼ同じようなものを作ったりする。場合によっては「どうしてそれが出来た?」と疑問にもって遡ることだって考えられる。そうすれば自ずと根である国による独自のものと知る可能性だってなくもないのだ。

そうすれば国という大組織相手に揺さぶるスキャンダルとしては絶好のネタであり、それを利用して更なる利益を求める可能性もある。それがなくても、国に対し優位な立場を保てるということで極めて慎重になるのだ。

 

もし違法すれすれの技術を世間に出すような真似をすれば、国のトップとしての地位、立場、優位性。そして最悪の場合、国外に漏れて国としての立場も危うくなることもあるのだ。

利益を求めての企業だからこそ、見えない立場を重視する政府、つまり国との考えが大きく違ってくるのだ。

 

 

「…で。今までの生徒はよくそれが違法ものだって気付きませんでしたね」

 

「そりゃそうよ。だって彼女たちはそれを知る機会なんてないんですもの」

 

「………そっか。仮に知っていたとしても、入った組織によっては意味のない事。「知っているだけ」じゃ意味がなさない…」

 

加えて戦場に彼女たちのようなのが出ればどうなるのか。それは当然知っての通り、慢心に気を取られて破滅へと至る。例外は確かに居るのだろうが、それでも一夏の言う通り「知っている」だけでは信憑性も低いので価値は極めて低くなる。

情報というのは「知り」そして「話せる」ものであって初めて意味を成すのだ。

 

 

「―――――ま。それともう一つ…実は問題があるのよねぇ…」

 

「………え?」

 

そして。ココからが楯無が呆れる理由。その根幹であるもう一つのワケで、それを話すためにはと楯無はある提案を一夏に投げる。

 

「…エメリッヒ君。あとで一階ラウンジに来て。先生には私から話しておくから」

 

「………はぁ」

 

一体なにがどういう意味か。彼女の表情の意味を一夏はその時になって改めて理解することとなった。

いや、今から思っても分かっていたはずだが、この時すでに眠気が襲ってきていたので、そこまで頭が回ることができなかったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

十分ほど経って、寝間着の私服ジャージに着替えた一夏は、言われた通りに一階にあるラウンジに足を踏み入れた。念のために腰には麻酔銃とコルトが供えられ、スモークとスタンもそれぞれ二つずつ携帯されている。

中に入ると、そこには呼び出した本人である楯無と、付き人である虚の二人が居た。楯無は堂々と座っているが、流石に使える人間だからか虚は座ることを控えて横に立っている。

そんな光景に改まって真剣な眼差しになってしまう一夏は、気を引き締めて第一声を開いた。

 

「…言われた通りに来ましたけど…」

 

「ああ、心配しないで。そんなに硬い話でもないから」

 

「………。」

 

妙に真面目な態度を見せる楯無と、あまり気分が良くないのか曇った顔をする虚に、なにかあったのかと心配に思えてしまうが、その前に楯無に手招きをされたので疑うこともなくゆっくりと近づいていく。

そして、一夏と彼女たちがテーブル一つ分の間合いなった時に、重いため息をついて虚が口を開く。

 

「…話すには簡単だったが、ああいった所で話しては誰に気付かれるはわかったものではなかったんでな。こちらの都合で場所を指定させてもらって済まない」

 

「…いえ。で、話…いや、問題って…何なんですか?」

 

「………。」

 

扇子を口元に当てて沈黙をしていたが、楯無は言葉にすることもなく一枚の封筒をテーブルに置いた。中には何十枚と写真が入れられており、それが一体何なのかは一夏も大よそでしか分からなかった。ただ分かることは一つ。それが彼女の言う「問題」と関係しているということだけだ。

 

「…中身は過去のタッグマッチ戦での写真。そしてその開催前の学校内の一部の写真。どこで撮ったのかは聞かないでちょうだい」

 

「………。」

 

いくつかの写真を手に取ってみた一夏は、その一枚目から眉を寄せて不快さを顔に出す。

そこには彼にとって、いや最低彼のような比較的マトモ(・・・)な考えを持つ人間であれば、同じような顔をするだろうものがそこには収められている。

しかも、二枚目以降をずらしてみれば彼にとって異常としか思えないものが、そこには延々写っており、今にも腹立って怒りにしてしまいそうな感情が沸き始めた。

 

 

「なんだコレ…」

 

「…呆れるのも分かるわ。私だって最初見たときに同じ顔だったもの」

 

「こっちも…どれもあからさま過ぎる…」

 

「これだけの事が、過去に堂々と行われてきたのよ」

 

そこに写っていた写真は大きく三つに分けられている。

一つは違法兵器を堂々と乗せた当時三年生と思われる代表候補生とその専用機。

見るからに違法的な兵器はISに対して戦略兵器としての価値を大きく高めたもので、その姿は誰から見ても兵器そのものだ。

 

「軍事的な価値も高いISだけど学園内ではあくまでスポーツとしてに留められていた。それゆえに出力や火力なども制限されて厳しい規制があってこそ、今までその境を明確化させて守られて来た」

 

「けど、これは軍用を前提とした兵器に見える…」

 

ISの軍用と競技用との違いは、一言で言うならば「威力の差」。ダメージが機体で留められるか、搭乗者にまでダメージが影響するかの違いだ。機体にダメージを負わせ、尚且つ搭乗者にも負傷を負わせるのが軍用で採用されている火薬、弾薬のレベル。そこから機体までにダメージを留められるよう調整した弾薬を、競技用では使用することが義務付けられている。

 

「…まるで闇のギャンブルかなんかですね」

 

「…そう。ギャンブルなのよ」

 

「………。」

 

 

残る二種類は似たような物。ただ違いがあるとすれば、場所がそれぞれ違うくらいか。

ギャンブルであれば絶対に行われること。しかしそれはあくまで賭け事であればのことで彼女たちが参加しているのは競い事だ。物を賭けるのではなく、自分の力を賭けるもの。だがそれもこの写真の前では形骸化したといってもいいだろう。

 

「本人たちはファイトマネーといって嘘をついてるけど、実際は契約金ね。あとは成功報酬。国が望んだデータや結果が出れば出るほど、報酬額はアップするらしいわ」

 

「結果、報酬は自分の活躍次第…か。ますますひどいな」

 

「ああ。仮にも国営で運営されている場所でこんな行為が平然として行われてるんだ。当然、それも理由の内に入っているが今回はあえて気づいてないフリをすることにした」

 

「何故ですか。こんなことが行われているのなら、それも踏まえて―――」

 

「そりゃそうだけど、知っていれば向こうは絶対にこの事実を隠してくるでしょうしね」

 

こんな違法行為が平然として行われている。それなら当然、それを知っているという事実を直ぐに突きつける方が得なのかもしれないが、その場合はそれまでに相手側に「この事を知られている」と勘付かれて何等かの対策を取られてしまう。口裏を合わせたり証拠隠滅を行ったりと、突きつける前に隠されることが高いのだ。

 

「だから、あえて野放しにすることで明確な証拠を引っ張り上げるってこと。相手は私たちという小娘なんだから、所詮はって思って気を緩めるでしょうし」

 

「…ワリとえげつない考えをしますね」

 

「そう? 私も虚ちゃんも妥当だと思ってるけど」

 

「どの道、こんな不正行為だらけのものを正当化するなど、あってはならないことだ。特に私たちの居るこのような場所では猶更、な」

 

「………。」

 

そして、中から滑り出させた写真を眺めていると、自然と彼の拳は強く握りしめられていた。

 

―――これを彼女()はどこまで知っているのだろうか。

ふと、そんなことを考えた一夏は目の前に散乱する写真の数々を目にしながら、いくつかの可能性を考えた。

ひどく驚くのか。それとも冷静を装って返すか。

ただ。恐らくは彼女も知らないのかもれしないと、そのどちらもの先に彼女がするだろう反応を片隅で再生させる。

ああ見えて立場の苦しい彼女のことだ。象徴として祭り上げられるために、いくつか知らされていない情報があっても不思議ではないだろう。

 

 

「…さて。呼び出したは当然、これを見てもらいたいだけじゃないわ」

 

「今回、実はもう一つ…これは君に頼みたいことだ」

 

一通り見たのを表情を見て確認した楯無は、改めてというように話を切り出した。

一応こんな事で終わるはずはないと思っていた一夏も、それを分かっていたかのように言葉を返すこともなく、俯いていた顔を持ちあげた。

 

「といっても…もうこの話が出た時点で大体の予想はついてるわよね?」

 

「…多分。考えが同じであれば」

 

 

 

不正行為の数々。分かりきった実力差による格差。そしてそれに介在する列強国家たち。

その為の彼女たちを買収する行為。

薄々とは分かっていたが、彼女の言葉を聞いてそれが初めて確信となった。同時に、内心では、ため息交じりにもう一つの事実に呆れるしかなかった。

 

―――ここはまるで無法地帯だな

 

 

「不正行為によって成り立つのなら…それを無意味と理解させる必要がある。

 そこに正当行為で対抗するっていうんだから、目的は一つだけよ」

 

「…正当行為のみで…か」

 

そう言われると、自分の機体についてはどうなのかと思ってしまう一夏だったが、今はその言葉を信じて承諾するしかない。どの道、自分の疑いが晴れるわけではないので、選択肢がないということもあるが、今更それを拒否する理由もない。

目には目をというが、今回はそうはいかない。不正行為には正当な行為を。違法行為が当然であるなら、それを正しい行為、つまり違法なしで勝てばどうなるか。

それが正しいとされていた違法行為が敗北する事実と屈辱が、それを行った者たちに振りかかるのだ。

 

つまり。違法兵器を一切使わずに優勝しろというのが、改めて彼女から告げられた頼みだった。

 

「大義名分が正しくても、やっていることは違法。だからそれを真っ当な連中に潰されればどうなるか。少なくとも、絶対的に勝てる自信があったのにも関わらず敗北するという事実と結果が残されるわ」

 

「他国の政府、軍は元々条約を違反してまで開発した装備で参加させて勝利をしてきた。その前提が覆されれば、絶対的にと幻視されてきた勝利が揺らいでしまう…

 加えて、俺は入ったばかりの一年だからその新入生に経験者たちが破れるという結果も残る」

 

「でも、だからといって一回、二回だけ勝利するってことで済む話でもないわ。一回であればただのマグレ。二回であれば偶然の重なり。

 …なら最後まで勝ち残って優勝すれば? 身の潔白を証明してトップに立てば、一体誰が「彼らは不正行為をした」って言えるかしら」

 

もし仮に誰かがそういって訴えても、自分たちの身の潔白を証明していれば後は相手の自爆へとつながる。一夏たちは何も違反はしていないので問題ははなく、逆にそれを訴えた相手が違反しているのだ。

「ならばお前はどうなんだ」と返されて、人の事を違反と非難することはできないだろう。

違反者を違反と訴えることは正しくても、違反していない者を違反だと訴えても理由と証拠がなければ意味はない。訴えた当人がそれを犯しているのだ。

 

「けど、俺にはあの弾薬の疑いがある。もしそれをダシに使われたら…」

 

「それは事前に資料提出をすれば問題ないわ。実際の弾とその成分表、中身や使用口径等々…記述は多いけれどその分、信憑性だって上がるはず。こっちは最初にそうやって自分たちの手の内を明かすんだから、それだって正しい行為のはずでしょ」

 

「その分、俺たちは機体スペックを知られたりとハンデを負う…加えて相手は違法装備のオンパレード…」

 

「無理にするな…と言いたいが、この人がこうもノリノリだとな」

 

虚からの諦めろという宣告に頭を掻く一夏。いずれにしても、かけられた疑いを晴らさなければいけないという事で、それが確実になるのであれば、やらない理由にもいかないだろう。

 

「せめて、対戦相手の機体の情報とか、渡してくださいよ」

 

「善処するわ。ま、違法装備については諦めてね。流石にそこまでは難しいから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『…世界各国が違法行為をこぞって行う…隠蔽の意味があるか疑わしくなるね』

 

「少なくとも、一般人や企業に対しては効果はあるし、外部に漏れてるっていう国は今のところ聞いてない。それに、IS学園でならテレビの中継が入ることは絶対にないし、生徒に対して「知る」の効果も効きやすい」

 

『…で。そんな危険なギャンブルステージに招待されたイチカ君。感想はどうなんだい?』

 

「…取り合えず…

 

 

 

 

 

 

 

マドカ。帰ったら覚えてろ」

 

数少ない男子トイレである職員用トイレに入った一夏は、久しぶりにiDROIDを使い連絡をとっていた。近況報告もあるが、今回の参加の原因となった弾のことや、今自分たちの周りの状態を聞くべく、夜遅くではあるがこうしてかけていたのだ。

 

『それについては僕も申し訳ないと思ってる。まさかその所為でこんなことになるなんてね…』

 

「ああ…それに、向こうも向こうで、ご自慢のものが悉く潰されたから、その腹いせと復讐に躍起なんだろうな」

 

形はどうであれ、ドイツが誇っていた機体を倒してしまったのだ。おまけに、過去に一度破壊していることもあって、彼が向こうから恨みを買われるのは十分ありえることであり、納得のいく理由だ。

一度目は違法システムを破壊したこと。ただこれは次いでの話で、本来は別の事が目的だった。それがついでに破壊しようと言う彼らの判断で完膚なきまでに壊された。

そして二度目は今回の事件。いくら向こうにも非があるとは言え、結果的に機体を打ち負かしてしまった事に変わりはない。

 

『世間が知ればスキャンダルの嵐は確定だ。向こうはそれを承知で仕掛けるワケだね』

 

「元々、ドイツは違法行為に手を染めていたからな。今更、同じことをしたって罪悪感はないんだろうさ」

 

『罪悪感がないっていうのも、恐ろしいものだね』

 

「ああ。罪の意識が無ければ、人間、枷が外れたのと同じだからな。それこそ怖いぞ」

 

『一応、こっちでも参加国がなにを使ってくるのか調べてくるよ』

 

「頼む。何もなしだと、目隠しされてるのと同義だからな」

 

『了解…っと。話をしていると何とやら、だ』

 

 

イヤホンの向こう側から、幼い少女の声が聞こえてくる。今は音声のみの通信を行っているので向こうがどうなっているかは、詳しくは分からないが、様子から見るに偶然通りかかって呼び止められたのだろう。

 

『…元気?』

 

「元気だよ。今のところは至って」

 

『ん…そりゃよかった』

 

「…眠たそうだな」

 

『今から寝るからね…』

 

向こう側から聞こえてくる眠たげな声に、気楽なものだなと呆れる一夏。元々、そうやって眠たそうにしている彼女の所為でこうなったのだと責めたいところだが、相手が幼いことと態とではないこともあって、言うに言えず自分の中に押し留めることしかできなかった。

 

『…ゴメンね。手、抜いて』

 

「ッ………」

 

しかし、向こうは自分の考えを読んでいたのか、何も言わずに謝罪だけを口にする。

向こうからの一言に、一瞬だが心を読まれたかのように思えた一夏は、驚きに呆気に取られて返す言葉もなかった。

 

『…最初はさ、迷ったんだ。書くべきかそうでないかって。けど、それだと詐欺してるって責められると思って…書けなかった』

 

「…マドカ」

 

『…本当にゴメン。兄ぃが面倒ごとに巻き込まれたの…アタシの所為だ』

 

淡々と、誰も聞いてもいないのに真実だけを語る彼女に、返す言葉どころか申し訳なさを感じていた彼は、思わず口を開けたままの状態で聞いてしまう。何も言い返せないというよりも、先に行く場所に回り込まれていたようで、一夏の返す言葉は、謝罪だけでなく切り出しの言葉でさえも消えていく。

 

「………。」

 

『ホント。感情に任せて、ロクでもないことしちゃった。どう言えばいいか―――』

 

「…マドカ」

 

ふと、彼女の言葉を遮るように低くも聞こえる声を、いつの間にか自分は発していた。気が付けばそうしていたことに名前を呼んだ時から気付いていたが、一夏はそれを止めることはせずに考えないままに思ったことだけを口にした。

 

「俺はもう、お前のことを悪くは思ってないよ」

 

『………。』

 

「感情に任せてやることは、別に悪いことじゃない。それがマドカのような歳であれば猶更だ。感情を豊かにして、その感情の赴くままに行動する。それが絶対に悪いことだって誰も決めたことじゃないしさ」

 

『でも…』

 

「どの道、それを作って送る時には結果はそれしかなかった。それに、今じゃもしかしたら、ソレがあるお陰で俺が生き延びれるのかもれしない。可能性がまだあるのなら、摘みとるより使ってみたほうがいい」

 

マドカが何を思ってあの弾丸を作ったのかは、一夏には分からない。単に遊び半分だったのかもしれないし、何か考えがあって作ったのかもしれない。だが、いずれにしてもそれを送るという事をマドカは既に決めていた。

それが一夏の役に立つはずだと、自信を持っていたのだ。

 

「それが悪用されて作られたものでも、人によっては良い使い方をするヤツだっている。物は使いよう。そうだろ?」

 

『………兄ぃ』

 

「…どの道、今回のタッグマッチは違法満載のデスマッチなんだ。これくらいのズルをしてた方が、俺も満足に戦えると思うぜ」

 

『なにせ、相手は平気でズルする兵器(平気)を持ってるからね』

 

 

この瞬間。オタコンの一言に、一夏もマドカも一瞬、身を凍らせた。

 

「『………………………。』」

 

 

『……………。』

 

 

向こう側でオタコンが大きく息をする。今頃、向こう側で恥ずかしそうに赤面して目を逸らしているのだろう。

 

『兎も角。相手はズル承知のチート兵器を使ってくる。なら、こっちはそれスレスレの武器を用意しないとね』

 

「………ああ。アイツらに、ひと泡吹かせてみるさ」

 

『…ああ…うん』

 

 

そうして。しまりの悪い終わり方で、彼らの会話は終わったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

iDROIDの通信を切って、ついでにとトイレを済ませた一夏は、念入りに手を洗ってトイレを後にする。少し予想していたよりも長めになってしまったので、変に残したくないという気持ちから、強めに水を流した。

そのお陰で手持ちのハンカチがかなり湿気てしまったが、後日洗濯すれば問題はないだろうと、あまり気にはしていなかった。

 

「…さて…寝るかな」

 

そろそろ就寝時間も近いので、部屋に戻ろうと帰路につく。生徒たちも、既に寮の廊下には数える程度しかいないので、殆どが寮の管理人の言う事を聞いて部屋に戻ったのだろう。

自分も彼女たちのようにではないが、特に用事もないのでもう眠るとしようと、歩き始めた一夏だが

 

 

「一夏さん」

 

「ん…」

 

ふと、呼び止められ、後ろへと振り返る。

そこには、今から戻るつもりだったのかセシリアの姿があった。

いつもの制服姿ではない、寝間着の服なのか、いつもより広がりがないように思えてしまう。

 

「…セシリア?」

 

 

「―――少し、付き合ってくれませんか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夜風が、月明りが照らす屋上に吹く。

朝から少し強めの風が吹いて、暑さにはありがたいものだったが、こうして太陽が姿を隠し代わりに月が現れると、どうにも肌寒さを感じてしまう。

今はそんな肌寒さをと思い、我慢する一夏は、セシリアと二人、誰も居ない屋上に立っていた。

 

 

 

「…ふぅ」

 

晴れていたこともあって、殆ど電灯などのない屋上でも二人の顔と姿だけは、しっかりと見ることができる。特に、金髪であるセシリアの髪は周りの風景と同化することがないので、どこからどこまでが彼女の髪なのか一目で分かってしまう。

 

 

(…って。こんなシチュエーション…前にもやった気が…)

 

確かあの事件の直後だったかな、というデジャブ感に気難しそうな顔で頭を掻く一夏は、一人屋上を歩いて風を感じている彼女に、今更で悪いがと思いながらも問いを投げる。

 

「…で、俺を誘った理由は?」

 

「―――。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――たん。

 

 

その一歩を踏み出すと、セシリアは踊り子のようにくるくると回り出す。バレエのような優雅さや動きはないが、楽し気に回るその動きに一夏は呆気にとられる。

自分の話を聞いていないこともあるが、唐突に踊りだしたことに驚くしかなかったのだ。

 

「………。」

 

踊り子のように、華やかに、そして激しく動くものではない、ただ風のように回るその姿は踊りというよりも、子どもがはしゃいでいるかのようだ。

動きも右へ左へと回るだけ。風を感じているのか、目はつぶっている。

ただ違うのは、動くたびに鳴らされる足音だけ。

二拍子、三拍子、一拍子。ステップもバラバラ。タイミングだってズレることもある。

しかし、それでもどこか魅せる魅力を感じてしまう。

 

それを約一分。一夏に見せるように踊ったセシリアは、最後には本当にそれが踊りであったかのように一礼をした。

 

 

「………。」

 

「…ふぅ」

 

「………まさか…俺にそれを見せるために?」

 

「だけだと思いますか?」

 

ようやく開いた口からは、まさかという様な言葉が返ってくる。セシリア自身も、単に先ほどの踊りを見せるだけのために彼を呼んだわけではないのだ。

 

 

「―――子供の頃。こうやって、庭でただくるくると回ることが好きだった。何の理由も意味もないのに、こうして回っていると、全身が風になったかのように感じて、鳥のように飛べそうで」

 

「………。」

 

「父や母は、いつもそうやって回っている私のことが分からなかったようで、直ぐに止めなさいって言ったのだけど、私は直ぐには止められなかった。

 もしその瞬間に止めたら、風が何処かに逃げてしまいそうだから」

 

だから、理由も法則性もない踊りをするのだ。風を感じる事の出来るタイミング、それが気ままに吹く風と一体になれる瞬間であるということ。強くもなれば弱くもなる。自由に吹く風と一緒になれるのは、その風と合わせることだ。

 

 

「―――風…か」

 

「………でも」

 

「………!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――今は、昔のように風を感じることは出来なくなってしまった」

 

 

小さな風が何処かから吹く。それは、二人の後ろから吹く風で優しく髪を撫でるのだが、セシリアはどこかその風をうっとおしく感じ、今さっきよりも笑顔が消えていた。

 

 

「あの日。両親が事故で死んでから、私はこの肌で風を感じる事が出来なくなってしまった」

 

「―――。」

 

 

 

セシリアの家系はイギリスでも続く貴族の一族だった。

現代でもイギリスでは貴族は存在しており、有名人の中にもそういった出身の人間は時折居るのだ。

ただ、今では殆ど名ばかりなものが多く、中には貴族であっても没落、衰退の一途をたどる家も存在すると言う。多くは現代の社会の在り様に馴染めない、旧体制を貫いた結果だというが、彼女の家系の場合は政治的な理由からだった。

ノブリスオブリージュ。所謂「高貴なる者の責務」と呼ばれるそれを、頑ななまでに貫いた一族。故に、自分たちが不利になることもあり、それは政治的にもなることはあった。

その為、セシリアが生まれた時には、既に緩やかな衰退は始まっていたのだと、今も使えている執事が言っていたという。

 

「世間では事故として処理された列車事故。けど、あれはどう見たって第三者の起こした事件だった」

 

「…当時、イギリスは戦争経済への介入とIS技術の先進国として進み始めたことで、女性優位の社会という風潮が一番強かった国だからな。自分たちの地位と権力を無為やたらと使っていたり、ガキのような理由で采配したりもしていたって聞く」

 

「そのお陰で、今では我が国は最悪の女性至上主義国家に変化してしまった。女王陛下を女性の象徴として祭り上げ、自分たちはその後ろ盾を理由に権力を振るう…

 だから父も母もそれを嫌った。だから反逆した。多くの同志と共に、抵抗した」

 

「…英国の反女性至上主義運動」

 

「世界ではまだ女尊男卑の風潮が広まり切ってなかった時代、なので他人事のように見られることもありましたわ。でも、あくまで国内でのいざこざだという事で、国内の人間は誰も相手にしませんでしたけど」

 

 

しかし。だからこそ、セシリアの両親が死んだ事件はそうやって軽く見られ、捨てられてしまったのだ。

自分たちの国と、他所の国とは違う。そういった考えが重大な事件を軽視してしまうことだってある。自分には関係のないことだから、知っていても得もないから。

だって、だからといって自分がその事故を受けるわけではないのだ。

 

 

「議会による至上主義者たちへの抗議。それを行うために向かっていた列車の中で、私の両親は死にました」

 

「俺も、薄っすらと覚えてる。何処か他人事のように思えない事件だった」

 

「……………。」

 

 

その日からだ。

セシリアが、子どもの時に感じていた風を感じることのできなくなってしまったのは。風のように、まるで何かが飛ばされたかのように透き通ってしまった、あの日。残されたのは自分だけで、後は全て無くなってしまった。風と共に、何処かへと行ってしまったのだ。

それ以来、彼女はもう風を感じることができなくなった。

 

「両親が死んで、家督の全てを残された私が受け継ぐことになった。

 遺産、土地、地位、権威。

 たかが知れていたものもあるけど、当時子どもだった私にとって、その数はあまりにも膨大に思えた。両手だけで収まりきらない物が一度に流し込まれたかのように、容赦なく私のもとへとやって来て、そして背に乗った」

 

「…跡継ぎ…か。後見人は居なかったのか?」

 

「残念ながら。都合よくは居なかった…というより、下手に味方すれば自分たちも危ういという事で、手が出せなかったというのが本音だと…信じたいですわね」

 

「表立って、支援すれば非難の的…か。そうなればどうなるか、考えたくもないな」

 

 

ただでさえ女性主義の社会が広まっていたのだ。何を理由に、どんないちゃもんやいい加減な理由を、それこそ理由にして責めてくるか分かった物ではなかった。

当時破竹の勢いで勢力を増していた女性主義者はイギリスだけでなくても手に負えない存在だった。今までの男性社会への復讐心に駆られ、呉越同舟として組んだ彼女たちが一斉に襲い掛かってくるのだ。

そうすれば、自分だけでなく自分の家や親族にまで被害が及んでしまう。その前例があったこともあり、迂闊に男たちは動けなくなっていた。

そんな中で起こったセシリアの両親の事件。その所為で彼女は実質的に孤立無援の状態となった。

 

「誰も頼る人間が居なかった私は、日々怯えました。目に見える人間全員が、私や、両親の遺産を目的に近づいてきたんですもの。

 それは、父や母の代から親しかった家も同じ。そして、何の縁もない女性主義者たちも。

 

 ―――その日から、私は周りの人間が全て信じられなくなった」

 

「―――。」

 

 

周囲の人間が休む間もなく彼女を攻めたのは、まだ幼かったというのが大きな理由だろう。

誰か信頼出来る大人に任せれば、自分は安全になる。しかし実際はセシリアはそれなりに精神は出来ており、更には彼女が今も信頼している知恵袋(・・・)が存在したことで、大人たちの安易な考えには当てはまらなかった。

当然、それは後々の彼女の精神形成に大きく関わる事となり、この時に「風を感じていたセシリア・オルコット」は姿を消したのだと、彼女自身思っていた。

 

休む暇もなく続く、親縁者たちの裏切りと懐柔。そして誘惑。

大人の恐怖というよりも、人そのものに対する恐怖に怯えきったセシリアは少しずつ、その心を傷つけ、そして再構築(・・・)していった。

 

力づくもあった。誘惑もあった。悪知恵と呼ばれるものもあった。恐怖もあった。

そして、今でも鮮明に思い返せるのは、年端もいかぬ少女だというのに犯そうとしたこと。

それは今も、彼女の記憶の中に存在し、色鮮やかに残っていた。

 

 

 

 

 

「―――一夏さん。二つ、私の質問に答えてくれますか」

 

「………!」

 

「入学して間もなく、私が貴方に問うたこと。貴方が何人、人を撃ったことがあるのか。

 そして、何故貴方は戦場に立つのか」

 

最初は同じ目だからという興味だったのだろう。もしかしたら同類なのかもしれないという好奇心が、彼女を動かしてそうさせた。お前も人殺しなのだろうと、彼に問いただした。

もしかしたらという可能性に、無意識に賭けていたのだ。

 

 

「………。」

 

改めてその問いを投げられた一夏は、間をあけて考える。変に口答えすることもなく、ただ小さな溜息のようなものを吐き、頭の中でそれらしい記憶をかき集めていた。

彼自身、正直のところ撃った人数を覚えていない。ただ、それは大勢撃ち殺した、という意味ではない。師であるスネークの引退後、後を継ぐように戦場に飛び込んだ彼は、不殺を貫き、それに徹していた。

殺せばバレるというものではない、本心では殺したくないという感情があったからだ。

 

だから。殺しもした、殺しもしなかった。故に、一夏の返答は

 

 

「…よく、覚えていない」

 

 

誰を殺したか、誰を生かしたか。顔は覚えていても、人数までは分からない。殺しもしたが殺しもしなかった。そんな曖昧なことを、一夏は今まで続けていた。

故に。多くを殺したという意味での「覚えていない」ではなく、多くを殺し、生かしたからそこの「覚えていない」だったのだ。

 

「………。」

 

「俺は、今までずっと曖昧だったんだ。今も昔も、ずっといい加減で、適当で、必死で。

 矛盾だらけの戦いを続けて来た。ちゃんとした理想も、理念もない。借り物の生き方で戦う、機械のような矛盾の塊。それが…俺だと思う」

 

「戦場に立ったのも…そんな曖昧な理由だったから、ですか?」

 

「それは違う…それだけは…」

 

彼が戦場に立つのは、曖昧なだけではない。その中に唯一と言っていいほど、確かな覚悟があった。傍から見れば子どものような理由。しかし、一夏はそれを本気で目的とし、自分の戦う理由だと言い切れる。

 

「―――だから曖昧なんだ。確かなものがあっても、確かじゃないものがある。

 けど、それは本当に確かなもの。確かな…俺の覚悟なんだ」

 

「………。」

 

 

―――だから、彼は彷徨うのだ。確かな、自分だけの生きる目的を見つけるため。

もう一つの、確かな戦う理由を見つけるため。

借り物でも、矛盾したものでもない。自分の目的を。

 

 

 

 

「―――笑いのネタにしかならねぇよな。本当に…」

 

自分でも馬鹿だと思っていた。だが。

 

「…いえ。それが当たり前なんだと…私は思います」

 

少しキツイ言葉が返ってくると思っていたが、一夏はセシリアの返答を聞いた瞬間、その言葉に思わず彼女の方へと振り向いてしまう。

当人は、特に笑った様子もなく、いつもと変わらないポーカーフェイスのような笑みを浮かべていた、ように思えた。

見た瞬間まではそうだったが、僅か数秒、もしくはそれ以下の間に、彼の中で何かを察したように思えた。

どことなく、その顔が素顔に近しいものだと、思わざるえないような表情に。

 

 

「………えっ?」

 

「私たち。意外と似た者同士だったんですね」

 

まだ少し呆けていた一夏は、ペースを彼女に捕まれたと知らず、どういう意味なのかと訊ねるような顔で見ていたが、その顔にセシリアはクスクスと笑うだけで何も答えはしなかった。笑うだけで答えないセシリアに、一夏の頭の中は段々と真っ白になり、疑問符しか浮かび上がらなくなった。

 

「…? …??」

 

「そろそろ戻りませんと、織斑先生が睨みつけてきますから。私は先に戻りますわね」

 

「えッ……ああ……」

 

 

最後はセシリアに持っていかれた一夏は、マトモに答えられずに返事をした。結局、彼女の最後の言葉の意味を理解できなかった彼は、その後しばらくその言葉の意味を考えることになるが、それは今語るべきことではない。

 

斯くして、二人の会話はお開きとなってセシリアは先に戻ると階段へと向かうが、何かを思い出したのか、数歩歩くともう一度振り返った。

 

 

「―――一夏さん」

 

「………なんだ?」

 

答えでも教えてくれるのか、と思っていた一夏は是非そうして欲しいと望んでいたが、当然セシリアがそれを教えるはずもなく、何も言わずに間合いを詰めて来た。

そう間近で言われなくても聞こえるぞ、と言わずに思う一夏だが、最後の最後まで、彼の思い描くような結末にはならなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――――。」

 

小さく口を開くセシリア。その足は途中から空気のようにふわりと浮き、まるで風船が地面については跳ねたかのように柔らかいものとなる。

その向かう先には、未だ頭の中が混乱している一夏が居て、その足は止まることなく彼へと向かい跳ねていく。

一歩、また一歩と近づく彼女の姿に、彼の中では何となく、その後の結果を察していたかのように思えてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

既に、何人かと行ってしまった接吻。

今までは互いに無意識にそれを了承して行っていた。

だが。今回は違った。

 

気が付けば、彼の口は彼女によって奪われていたのだ。

 

空気が触れるように。水の中に居たように。

潤った柔らかい感触の唇が、気付けば青年の唇と触れ合い、その熱と潤いを渡していく。

 

彼女の熱は、彼の知らぬまにその乾いた唇へと渡り、その肌を潤していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――その間、約数十秒。

 

何も言わず、何も動かず。ただ時が止まったかのように思えた、その瞬間。

セシリアがゆっくりと目を開けて唇から離れていくと、再び笑みを浮かべて止まっていたように思えた時が、針を動かした。

 

「―――。」

 

言葉もない。息すらもできない。本当に動きを止めてしまったかのように動かなくなった一夏は、最後、彼女の言葉によってやっと動き出した。

 

 

「二週間後。楽しみにしていますわ。互いに頑張りましょう」

 

 

そういって微笑みを浮かべた少女は、離れていき、やがて階段の奥へと姿を消していった。

呆けてしまった青年は、その後。動けるようになったにも関わらず、相変わらず動きを止めていた。

 

 

 

 

 

 

「―――――――――え?」

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