IS×MGS - Another Solid - 作:No.20_Blaz
…まぁそのお陰で内容とプロットの大半を忘れるという大変な事態になったワケです(汗
あはははは…
…ハイ。スミマセン。ほってた自分のせいデス…
取りあえずこの後の展開の大体は覚えてたので再開は出来るのですが、やはりまだ
頭の中で一部が纏まって無かったり、セリフに違和感があったりするので
もし「前、こんなこと言ってなかった?」っていうのがあったら感想などでお願いします。
ちなみに今回再開一発目ということで短めですので…(汗
それでは、久しぶりの第六十四話。スタートです!
久しぶりなので、ここまでのあらすじ
『彼女』を追うため、日本に戻って来た一夏。カギを握る人物として挙げられたのはかつての幼馴染である篠ノ之箒だった。
数年前と違い、様変わりしてしまった彼に戸惑う箒、そして姉の千冬。一人背負い込む彼の前には自分と自分が関わった世界に通じる者たちが次々と集まっていく。
―――全ては『彼女』を見つけるために
矛盾を背負いつつも戦う一夏。長きにわたる蛇たちの意思を受け継いだ彼は、確実に近づくその日を待ち続ける。
そして一夏は今、IS学園で開催される裏のイベント「全学年タッグマッチ」に更識楯無と共に参戦する。無謀ともいえるトーナメント。違法上等、反則当然。ズルが常識の戦いに常識で挑む二人。
そこには彼らですらも予想しなかった事態が待っていた。
果たして、一夏たちは無事に優勝できるのか…?
◇
常識は常に「非常識」に破られる。それはいつの世も同じだ。
幕末に坂本龍馬が現れたように。彼が画期的ともいえることをしたように。常識とされていたものは、そういった異端者と呼ばれ後の世に「偉人」として呼ばれる。
だが、それは後の人が決めること。今の人間がすることはそれを異端と認め蔑むことだ。
こうして、今目の前で起こっている現実を、自分たちが折角築き上げきた現実を崩されるその様を。
竜馬の時代に幕府が否定したように、このアリーナでもまた。そう言った者たちを否定するのだ。
「ば、バカな…我が国の新兵器が…!?」
何処かでそんな言葉が聞こえた。何語か、どこの国かは分からない。だがここにそんな品物を持ってくるということは余程まだ戦いたいのだろう。
ならば存分に戦ってやる。お前たちが用意した新兵器を潰して、自分に着せられた罪を晴らすために。
『一回戦。勝者―――』
さぁ。常識を崩そう。
新兵器を乗せたISを倒し、一夏は小さく笑みを浮かべた。
「まずは一回戦ね」
「ん……ええ…」
一回戦をスピード勝利した一夏と楯無。互いに大して体力を消耗せずに済んだ試合だったので、二人とも特に疲労感は見られない。辛うじて一夏の頬から小さな汗がにじんでいる程度で、それでも疲労を次に残さないために、控室に入った一夏はスポーツドリンクを口にしていた。
念入りな水分補給はスポーツでなくても大切なこと。自然と身に着けていたことだ。
「思ってたよりも相手の反応が見え隠れしてたんで、一瞬は焦りましたけど、やっぱ性能と機体そのものに頼り過ぎてるから動きが鈍い」
「そりゃそうでしょうね。戦場だったり戦争経済当時とは違って、今は平和そのもの。
平穏の代価としては見合った物よ」
戦いに備える者たちは、常に生き残るために己を強くする。しかし、戦いそのものがなくなると生き残ることは容易いことになる。
そして、張りつめていたものは崩れ去り、やがてその崩れたものからは腐敗が漂う。
その結果がこの大会そのものと言ってもいい。戦いを経験せず、ただ機体に、ISに乗れるということだけが理由で自分の威厳を誇張させる。傲慢と強欲の権化となった者たちはそうして増えていくのだ。
「けど、貴方のような叩き上げの兵士相手だと当然の結果。練度とか、技術とか…そういう話じゃないの。それ以前の問題」
普通の人間と兵士の違い。それは危機感だ。
一夏が常に死と隣り合わせの世界に居たように、兵士たちは常に生死に怯え、それを払うために神経を尖らせる。生き残るため、勝ち抜くために。彼らは常に、全ての方向に気を放つ。
「それに、アイツらには腕がない。自分の手足、武器や機体を操れるだけの手綱。それを引くための
いくら機体が強くても。いくら性能がよくても。とどのつまりは人によるもの。
つまり、最後にその結果を出すのは人の手によってだ。
「で。その結果がこの光景。これならあと三回勝って無事に無罪放免、っていきたいでしょうけど…」
「………?」
「そうは、問屋が卸さないらしいわ」
『Bブロック、第二試合、勝者―――』
時間が経過する。既にAブロックの試合を終えた全学年対抗のタッグマッチ戦は例年とは大きく異なる波乱の幕開けとなった。
一夏、楯無のペアによる勝利。それは今まで基本であった違法装備による
二機とも専用機とはいえ、目立った改修はされておらず情報も全て開示されている。なのに、結果はその場に居た殆どの人間の予想を裏切った結果となった。
「…一夏君、貴方対戦カード全部見てないわよね?」
「……ええ」
「なら、今すぐ見てきなさい。というか今すぐ見なさい。でないと…」
「…でないと?」
―――貴方。
「………え?」
Bブロックの第二試合。時間こそ掛かってしまった物の、その結果は一夏たちのと同じで常識が崩された瞬間だったと言っていい。
今まで常識とされていた違法装備が基本の試合。それが通常装備のみの相手に惨敗したのだ。
それも。まだ
「……なんか、結構気張ったわりには拍子抜けしたわね」
「まぁ、相手は違法装備で慢心してるし、そもそもその装備に慣れてないからね。二年、三年っていっても動きさえ読めれば、そこまで苦労はしないと思うよ?」
「…それ、アンタの場合じゃないの?」
ピットへと戻っていく二機のIS。両機とも、機体には大したダメージはなく、片方も肩の上に浮く浮遊砲台が損傷した程度だ。しかも、その損傷も次の試合までには修理が可能と見積もられているので事実無傷といってもいい。
そして、その機体を駆るのが、一年であり、今回初めてタッグを組む二人。
一夏が彼女たちの姿を見た瞬間、思わず口を開けて言葉を失ってしまう。まさか、どうして彼女たちがと。そこに映る二人に対してそう思わざるえない。
「………オタコン。どうなってるんだ」
『いや…僕に聞かれても…ね』
まさか自分が参加すると聞いて、シャルロットと鈴の二人がタッグを組んで出場。しかも一回戦をほぼ余裕で勝利するという想定外の事態に、一夏はステルス中のMk-Ⅳから見ていたオタコンに言葉を投げかけることしかできなかった。
そうでもしなければ自分がどうかしてしまうそうだと、自分の目がおかしいのではないかと思い込み、発狂するからだ。
「マジかよ…」
『まさか、あの二人もコレに参加していたとわね…』
頭を抱え、深いため息をつく一夏は幻覚のような頭痛に頭を痛める。一番予想もしていなかった二人、彼女たちがまさかタッグを組んでここに現れるなど思いもしなかった。
「………。」
『けど、一体どうして二人も…?』
「分からん。だが…これじゃあな…」
彼女たちが加わったからといって、一夏がこの大会でやることに変わりはない。だが、二人のブロックが絶対に一夏たちと当たるようになっていることから、嫌でも彼女たちとの試合は避けられないものになる。
Bブロックの第二組。順に行って当たるとすれば準決勝だ。
『どうするんだい。このままいけば準決勝で二人と当たることになるけど』
「どうもこうも、俺のやることに変わりはない。けど問題はそこじゃない」
一夏の懸念は二人が上がって来て自分たちと当たる事が前提だが、そうなった場合彼の勝ち抜きにストップが出る可能性がある。最悪、負けるかもしれないと。
シャルロットと鈴は揃って自分の機体の特徴や特性を知っている。特に鈴は無効試合とはいえ一戦交えているのだ。一夏の動きやクセ、武器など詳細なデータを持ち合わせている。
そしてそのタッグであるシャルロット。元兵士である彼女も身体能力などもあるが、機体との相性はいい。しかも判断能力でいえば鈴の上を行く。鈴とは別の意味で強敵だ。
「二人は俺と白式を知っている。他のとは違ってデータだけじゃなくで実際に肌で感じ取っている。鈴とは一戦やってるから、絶対に対策を練ってるだろうし、そのコンビがシャルだ。対応策は二重三重にしてるだろうさ」
『それに、両機とも遠近どちらにも対応できる万能型。特に鈴って子の衝撃砲は今も厄介なのは変わりないからね』
「ああ。下手すりゃ負けるぞ…」
「番狂わせ。それがまさか一度にこれだけも現れると、やはりな…」
辺りが暗く殆ど光の照らされていない一室では、映像からの光だけが部屋を照らす。巨大なそのモニターには外で行われている試合の様子が映され、先ほどの呆気ない試合の結末に一人、部屋に居た千冬はぽつりと呟いた。
「デュノアと凰の二人。コンビとしては即席だが、同調までの時間が極めて短い。やはり二人の性格が理由か」
鈴は引っ張るタイプではあるが、相手との足踏みは合わせるタイプだ。しかし実際はどちらかといえば自分のタイミングなどが基本。そこに他人に合わせるのが多かったシャルロットが問題なく合わせている。それだけでなく、シャルロットが鈴を利用しているともとれる行動は所々に見え隠れしていた。
「恐らく、先導として凰の奴が立ってるのは確かだが、それを瞬時にデュノアが理解して合わせている…いや誘導しているか」
特に鈴はシャルロットとの確執というのを持っていないのでコンビの相性としても申し分ない。自ら前線に立つ鈴。そしてそれを制しつつその援護を行うシャルロット。
仮に一夏が当たるのであれば難敵であることに変わりはないだろう。
「……さて。しかしな…」
始まりは数日前だった。唐突にシャルロットが千冬に対し全学年対抗のタッグマッチに出たいと言い出し、まるで息子娘が無理難題を言い出したかのように千冬も目を丸くした。当然、内情を知っていた千冬は即断で拒否。出場は諦めろと言い切った。
しかし既にシャルロットはそれ以外の用意を終えて後は許可を得るだけという手際の速さで、それには千冬も思わず悪態づいた顔になった。
「………アイツが…一夏がか?」
その理由は最後まで彼女は言わなかったが、千冬が一夏の話題を出すと途端に反応して目線を逸らしたので、十中八九、彼絡みであるのは確実だ。
しかし、だからといってそれだけで出場する理由になるだろうか? 疑問に思う千冬はそれでも徹底して拒否を言い渡したが、最後には回り道をされて王手を打たれた。
副担任でなくても担任でいいではないか、と。
「クソッ…このままでは…」
「―――アイツの無罪が証明できない…か?」
そこの部屋には千冬一人のハズだったが、もう一人。誰かの声が聞こえて来た。
舌打ちをして悪態づく彼女は直ぐに後ろへと振り返る。
後ろに立っているだろうパンチパーマの男。ドレビンに、愚痴と八つ当たりをしなければ気が済まないという顔で睨みつけてだ。
「久しぶりだな。四月以来か?」
「その顔。二度と見たくはなかったぞ。武器商人」
「そりゃどうも。武器商人とは嫌われる職業だからな」
さも当然のことをと答え、悠々と近づくドレビンは片手にコーラの缶をもっている。
既に開けられて中身はある程度減ってしまっているが、まだ全部は飲み切っていないようで、口につけて勢いよく飲み干した。
「…飲むか?」
刹那。苛立った千冬は、いらんと一蹴する。それにはドレビンもケラケラと笑いながら、彼女から少し離れた場所に位置取り、モニターの映像を眺める。
すると、映像に映る次の対戦の機体に搭載、装備された兵器を見てドレビンが前触れもなく口を開いた。
「イラク原産の重火力大砲。IS用に小型化されたもので一発撃てば今の戦車や月光の装甲をぶち抜ける」
「ッ……」
「ただ、搭載弾数とリロードまでのタイムラグ、あとは弾そのものの値段から没行きなった代物だ。それを強引に接収したってのが大体の筋書きだろう」
「貴様…どうしてそれを…」
ハッ、と一笑するドレビンはそれほどまでに可笑しかったのか、その理由を笑い声と共に話す。
「俺は武器商人だ。それぐらいの情報をもってても不思議じゃないだろ?」
「………。」
今更な話だ。見透かしたような眼でふらつくドレビンは淡々と話していく。
「ここにある武器。俺はその大半の情報を持っている。もちろん、政府やお国が表には出せない代物のもな」
「…お前が仕入れた、の間違いではないのか?」
「まさか。まぁ、物によっては手を出したかもな。けど、そんな欠陥品を出すほど俺も無粋じゃないし、勇気もない。それに、俺はISに対してそこまでの執着はない」
そもそもドレビンは武器を民兵やPMC相手に売るのが基本的な生業だ。武器や兵器、装備を民兵に売りさばき、彼らからの金で自分たちの生計や新しい武器を仕入れる。
なので、現在は一種の兵器になっているISも当然彼らの商売道具の一つといってもいい。
しかし企業や大規模組織といった組織が開発する物に手を出すほど、彼らも赤字経営をしているわけではない。
「売るにしてももう少し値が張って、俺たちが仕入れやすい物でないと。でなけりゃ比例が合わないからな」
「比例…仕入れた物に対しての出費と値段。そして売れるかどうかか」
「当然。売れるかは俺たちの腕次第だが、そんな大層な物でも仕入れるまでに払った物と、それが釣り合うかどうか。結論で言うなら答えは出てるだろ?」
無論、いくらそんなものでも彼らの商売対象には売れる筈がない。仮に手に入ったとしても、それだけの出費をしたのならいくらかを手に戻すために値を張らせる。だがだからといって売れるわけがない。それは彼らにとって手に届くが買えるものではない高価な品なのだから。
「それに、開発がお国のものであるなら、取られただけでも大事だ。そんなことをしてまで俺は欲しくはないね」
そんなことで命を懸けてまで、手に入れたい品なのか。物によってはやぶさかでも無いが、そうでないのなら手を出す事も無い。ドレビンにとって肝心なのは需要と供給が第一だ。
「仮に売るのであれば、ちょっとレアな品ってぐらいだ」
「…いかにもだな。貴様の精神は」
「みっちり仕込まれたからなぁ…」
モニターでは次のCブロックの対戦が始まる。それは見事に出来た国同士の戦争の縮図そのもので、彼女たちはそれが代理戦争のようなものであると知らないまま、まるで自分の力だと錯覚しながら、彼女たちは借り物の機体を使い、舞い上がっていた。
「ここにある違法兵器は全て、戦争経済時代の名残だ。長期化、混迷と化していた戦争経済。そこで甘い蜜を吸うために国という力を利用して作り上げた兵器。だが、作られた時にはもう戦争経済っていうシステムが崩壊した後だった」
あの日、スネークたちが破壊した愛国者たちのシステム。それによって彼らが管理していたもの全てが砂の様に崩れ落ちた。ライフライン系をそのままにしたサニーのワームウイルスによって。それはあまりに唐突な出来事だったので、誰もその日に戦争が終わる、管理されていた世界から解放されたことを知らない。
彼らはただ、明日の戦争と利益のためだけに動いてたのだから。
「…だから、戦争に浸かり切った奴らがこんなことを考え着いた。そういいたいのか」
「人間はそもそも戦いを止められない生き物だ。戦争、政治、経済、運動、勉学。競争心に駆られた人間は次々と新しい存在を作り出していく。
だから人は忘れられない。戦争に対する客観的な結果をな」
彼らの精神はまだ戦争経済の時代に残っている。しかし、それは何か責任があってというわけではない。彼らは戦争経済という時代に起こった事実と結果だけしか目にせず、その時代であり続けたいと、いくら世界が戦争経済から脱却しても自分たちだけは終わりたくないと我が侭を言って残り続けているのだ。彼らはその時に出た莫大な利益と発展に魅入られてしまい、その為には自分たちが続ける必要があると自らの意思で過去の時代の雰囲気を残そうとしている。
「けど。それもいずれは終わる。戦争経済が終わったように、アイツらの考える戦争経済時代の結果だけを残すっていうこともな。終わった時代をいつまでも残すことはできない。時代は移り変わるんだ」
「………ッ」
「アンタだって分かってるハズだ。自分で時代を作ったように、自分でその時代の移り変わりを見て感じたようにな」
空き缶を手にふらふらと歩き出すドレビンは、自分が入って来た部屋の入口へと向かい足首を回す。モニターに空き缶を突き結る仕草は、誰かになにかを言っているように見えたが、その間に何か意を決した千冬に見る事はできなかった。
別の事で頭がいっぱいだった彼女はその決意が揺らがぬうちに行動を起こす。
「待て…!!」
「………。」
のらりくらりと歩き出していたドレビンに対し、千冬は隠していたハンドガンを突きつける。キチッと小さな音ともに出て来たのは女性が扱うことも出来る小型のタイプだ。
息を荒く、険しい表情で小さな銃と銃爪に指をかけるが、その照準は正確に定まっていない。実際、彼女は今まで人間相手に撃ったことは殆どないと言っていい。しかし後ろを獲ったことによる優位さはたしかなものだと、彼女は現状での有利を確信していた。
現在、ドレビンは彼女に背を向けたまま立っている状態で、反応どころか微動だもしない。まるで人形であるかのように突っ立っている彼に、千冬は言葉を投げかける。
「今の物言い…お前が色々と知っていることはわかった。ならば…」
「………。」
「ならば、お前は知っているのか。アイツが…一夏がこの数年でなにをしてきたのか…!」
戦争の話になると、何処か遠い目をしていた一夏。それは先ほどのドレビンも同じだった。特に戦争経済が終わった瞬間。その時には何か思い出に耽ったかのように懐かし気な顔をしていた。それに他人事のように思えなかった千冬は、今までのことから彼が一夏について、自分たちが知らない二年の間の事を知っていると思い、こうして聞き出そうとしていた。
「……で、そのために銃で脅しか。随分と手段を択ばなくなってるな、ブリュンヒルデ」
しかしドレビンはまるで気にも留めていないという雰囲気で、言葉を返しゆらりと千冬の居る方へ体を捻らせた。
それには動くなと言ってはいないが銃を突き付けて警告していた彼女も両手でしっかりと、その小さな銃を握りしめる。
「知ってるといえば知ってる。けど、俺が知っているのは最後辺りだ。それ以前は知らないな。なにせ、坊主と俺はビジネスパートナーみたいなものだ」
「ビジネスパートナー…?」
「そ。戦場での武器をアイツが拾って、俺がそれを売る。当然、持ってきた銃や武器の品によってサービスを行う。いわゆるショップの店員と仕入れ先さ」
事実、一夏との関係は確かにその一言に尽きる。ただしそれは彼の場合であるだけで、彼の師である老兵とは商売相手という関係ではないとも言える。
内心ではそう呟きながらも、ドレビンはあえてそれを口にしなかった。
「それに俺のモットーは顧客第一。残念ながら、商売相手の情報を教えることはできないな」
「ッ……ならば…お前に腕付くにでも聞くまでだ…!」
「それでか。なるほどね。けど9mmじゃあ…果たして俺を止められるかな?」
刹那。ドレビンがそういって軽く右手を振るうと、そこには一つの銃のマガジンが姿を現す。小さな9mmの入ったマガジンに最初はなんのマガジンかと思っていたが、千冬はそれを見て少しの間を開けた時に、ようやく気が付いた。
「なっ…?!」
いつの間にか、千冬の銃からマガジンが抜かれていたのだ。しかも代わりとして丁寧に空のマガジンがダミーで入っており、自分が今まで突きつけていたのが弾無しの銃であることにようやく気が付いた。
「隠すならせめて袖口にしておきな。そのために装備もあるから、安くしとくぜ?」
くすねたマガジンを彼女に向かい放り投げる。今度は本物のマガジンだと確認した千冬は直ぐに空のマガジンを取り出し、実弾のものと入れ替える。
だがその間にドレビンは再び後ろを向き、今度こそ扉へと向かっていた。
逃げようとする彼に、マガジンを入れ替えた千冬は叫ぶ。
「ッ…待てッ!!」
「最後に行っておいてやるよ。お前の弟たちはもっとしっかりと銃を握っていたぜ? いついかなる時、どんな感情ででもな」
パシュッ、と自動ドアが開きその戸口に腕を置くドレビン。その言葉に千冬は挑発されたように思えたが、事実であり突きつけられたかのように刺さる言葉に向けていた銃はゆっくりと下に下がって行った。
「EYE HAVE YOU!」
そして。すっかりと別れのあいさつとなった言葉と共に右手の人差し指と中指を彼女に突きつけると、逃げるようにその場を後にした。
◇
波乱の幕開けとなった全学年対抗のタッグマッチ。その番狂わせは、例年通りだと思っていた彼ら仕掛け人たちの思惑を完全にぶち壊していた。
一回戦の初戦、一夏と楯無による宣戦布告に始まり、それに続く様にシャルロットと鈴が撃破し勝利。両ペアとも次の試合に駒を進める。
例年であれば新兵器のコンペのように互いに出場した自国の兵器を見て批評をしたり他国のを分析したりして愉しんでいた、まさに権力者たちの道楽同然になっていたが、今年はまるで自分たちが出場しているかのように、自分たちの兵器が倒されないかと緊張が続くようになっていた。
「なんてことだ! 我が国の新兵器が…?!」
「クソッ、私たちのが破壊されただと!?」
どこかでそんな言葉が聞こえてくる。椅子に座りながらも整えた髪をグシャグシャにして彼らは目の前の光景に絶望する。自分たちの技術の結晶。これを使えば莫大な利益が出るというシナリオでの重要な道具。絶対に勝てる存在などいないという慢心の塊。
ゆえに、崩れた瞬間の現実への逃避は計り知れない。
出来レースとなっていた大会そのものが、まさかここまで狂い予想外の事態ばかりになると誰が思っていただろう。
「せ、折角巨費を投じたというのに……!?」
「そんな……私たちの………切り札が…!?」
「あんな……ただの子どもに…専用機というだけのただのガキに……」
そもそも自分たちですら彼らの出場に反対はしなかった。どうせ私たちの開発した新兵器にやられるのがオチ。それを肴にして愉しもうではないか。
だが結果はどうだ。
初戦の第一試合から番狂わせ。しかもBブロックでは兵器は破壊される始末。
「クッ……くううっ……!」
「だ、誰だ! あんなイカサマのガキどもの出場を許したのは!!」
「そうだ! 大会運営者…いや、学園長を呼べ!! 直接抗議してやるっ!!」
完全に想定外。全ての予定が狂わされた彼らは、たったこれだけで怒りの頂点に達したようで、アメリカの席からも二人ほど立ち上がり怒声を上げる。
散々自分たちで貶したというのに自分たちの思惑通りにならないと、まるで子どもが駄々をこねるように周りへと当たり散らす。これには、座っていたアームストロングも無言ながら他人のフリをするしかない。
「黙れ! そもそも貴様らだって出場を許可したではないか!!」
「ッ……!!」
「直ぐに兵器が壊されれば直ぐこれだ! これだからアメリカ人は自分勝手で困るのだよ!!」
「喧しい!! 貴様らロシア風情の玩具と我が国の兵器を一緒にするな!!」
「何だと!!!」
「何をッ!!!」
完全に想定外の事実にトップたちは慌てふためき、やれ誰のせいだお前のせいだと罪を擦り付け合い、それは次第にVIPルーム間で広がって行っていた。
アメリカとロシアから始まった言い合いは、中国とフランスに広がり、更にイギリス・イタリア・ドイツ…といった具合で言い合いの内容は直ぐ様他国の貶し合いになっていた。
これだから政治家どもは。他人のフリをしてアリーナの方を見ていたアームストロング。普段は平静を装う彼も、この状況には嫌気がさした顔をするしかない。
「……子どもの駄々ですな」
「黙っておけよ。巻き込まれるのはゴメンだ」
「分かっています」
(…思っていた以上に過敏な反応だな。まぁ自国の面子もあるから当然か)
罵声と怒声という子どもの口喧嘩が聞こえるようなVIPの席を影から監視する虚。長距離の監視カメラを使い、影に隠れてモニター越しにその様子を窺う。
場所は丁度VIP席の対面、つまりVIPルームそのものが見える所に陣取っている。学園の生徒が基本、VIPルーム近くをうろつくことは禁止されている。警備にはSPたちが居るというのもあるが、賄賂や横領などで彼女たちが他国に靡かないようにしているのだ。
(今年は特にアメリカとロシアの兵器が多い…戦争経済でのガタガタな体勢の補強として戦力の調整と整備が進められているという話、本当だったらしいな)
BIG5と呼ばれたリキッドの子飼い企業が倒産したことで、多大な被害を受けたアメリカ。殆どの戦闘や軍事行動がPMCに委託されたことで権威すらもなかったが、倒産後には新しい大手PMCであるワールドマーシャルが台頭するまで、再び世界最強の名をとどろかせていた。その一環として殆どPMC頼りだった軍備を再調整し軍事力を整えることとしてISの新兵器開発が行われたという背景もある。
「冷戦ではないが…やはりPMCの抜けた穴を埋めることと、軍事力の誇示が目的か」
小型のノートPCを使い、片手で操作しつつ並び立つ、というより立ち上がって罵詈雑言の言い合いをしている歴々の政治家たちを流しで見ていく。殆どの政治家たちが苛立った様子で口を開いているのは、二回だけとはいえ自分たちの新兵器が悉く倒されて、しかも相手が無傷であることに対してだろう。
「流石に今の政治家たちは短気だな。たった二度の敗北で苛立つのなら、この先何を言うかわかったものではないか」
その内子どもの様な駄々を記者会見で言いそうだな、とぼやきつつ操作していた虚だが、ふと彼女が何かに気付いて手を止める。
それは、VIP席の中で熾烈化している中、冷めきった態度でフィールドを見つめる一人の政治家とその護衛らしき男の姿。当然、その人物はアームストロングだ。
「…流石…といったほうがいいか。政治家の野次は興味なしか」
一人冷静なアームストロングに対し、カメラを拡大させる。政治家だというのに引き締まった体と、盛り上がった筋肉は彼の経歴であるアメフトや在軍を自らの体で体現していると言ってもいい。
「隣の男は……サイボーグか?」
そしてその隣に立つ巨体の男。全身を黒いコートで多い、同じく黒い帽子を被っているので顔までは分からないが、その体格と服装からまともな人間ではないのは確か。しかも可能性としてサイボーグが考えれるのは、肌の露出を極力避けているような姿をしているからだ。
すると。
「………ほう。私に気付いたか?」
「ッ―――――――!?」
刹那、まるで虚が見ていることに気付いたかのように、顔を見上げるサンダウナーはカメラに向かって微笑みかけていた。白い歯を見せて笑ってくるその顔に虚は背筋が凍り付き、思わずその場から逃げ出したくなる衝動に駆られた。
アリーナの反対側、しかも隠れているというのにサンダウナー、あの男は気付いたのかと。
現に、男はそれに気づいたように顔を向けて表情を返してきた。つまり、彼は視線だけで見られていると読んで、更に視線から彼女の位置を割り出したということになる。
仮にサイボーグだとしてもそこまでの技術はないハズ。だが、見られたという感覚は虚の頭と心臓が確かに認識していた。
(………見ら…れた……? まさか…)
マズい。何がとは言えないが、自分の中で確かにその言葉が浮かび上がっていた。
何がマズいか。どうしてなのか。詳しい理由はまだ纏まっていない。だが、あの視線は何か嫌な予感がしてならないと、無意識に息を飲み込んだ虚は持っていたノートPCを閉じた。これ以上はしてはいけないと、誰かに言われたかのように。
「………下手をすれば命にかかわる、か?」
虚はぽつりと呟くと、上着の中から携帯を取り出し、どこかへと連絡を入れた。
彼女が連絡を入れた先はもちろん、仕える相手である楯無だ。彼女からの指示でそこから監視していたが、先ほどの視線からの率直な感想と結論だけをまず単刀直入に切り込んだ。
『お嬢様、無理です。多分、下手を踏めばヤバイです』
「…でしょうね。声色でわかるわよ虚ちゃん。そこはもういいから、引き上げなさい」
『そうさせてもらいます…が、その前に一つ』
やはり主であるからか、虚は余計なこととは分かっていたがそれでも言うべきだろうと思い、一拍置くと落ち着いた様子ではあるが汗を滲ませたかのような声で忠告をした。
『あの上院議員たち、今回
「ええ。だって、あのおじさま。腹の底は真っ黒でしょうからね」
楯無がその言葉を最後の区切りにして携帯の通話を切った。さてどうするか、と虚からの報告を聞いてダビデ像のように考え込む。彼女も生徒会として、今回の大会の運営に関わっているので、その辺の対応も当然しなくてはならない。代わりに誰を行かせるかと考えていたその時。
『Cブロック、第一試合―――』
丁度彼女が携帯で話し終えたと同時に、控室にある観戦モニターではCブロックの第一試合が終了し、次の試合などが表示されていた。
ココではどうやら番狂わせが無かったのか、各国の思惑通りというべきか新兵器を乗せたIS同士が戦い、決着をつけた。しかし結果に興味がなかった楯無は直ぐに目線をモニターから外すと、また考え始めた。
◇
全学年対抗タッグマッチ。その一回戦は現在Cブロックを除いて波乱の幕開けとなった。
初戦の一夏と楯無の最速圧勝。Bブロックでのシャルロットと鈴の活躍と勝ち抜け。今までは新兵器もコンペのようになっていたハズの大会は、予想もしない方向へと舵を切りつつあった。
『続いてCブロック第二試合…』
「………。」
一回戦を終えて、一旦機体と共に整備室に入り、機体の調整を行う一夏。来るのはもう少し後でもいいと思っていたが、シャルロットたちが参加することを知らなかった彼は急遽予定を繰り上げて隠れるように整備室へと入り、武器装備の整理と入れ替えを行う事にしたのだ。
『まさか、彼女たちもコレに参加していたとはね』
「ああ。鈴は参加するかもって思ってたが…そもそもタッグのパートナーがいなかった」
『実力的に…機体的にもか』
人当たりのいい鈴の性格からしてタッグ自体頼むことには困らなかっただろう。しかし、通常の学年別のものとは違い、高いレベルを要求される大会なので相手もそれなりのレベルでなければならない。一年でそれだけの実力を持つのは、その殆どが専用機持ちのメンバー。
しかし一夏は楯無と組んでしまい、セシリアとは折り合いは悪い。箒に至っては犬猿の仲だと聞いたことのある。組む相手すらいないことには参加することも出来ない。
「…それに、シャルはもう少し精神的にも回復を待つかと思ってた。アイツ、事件からまだそう時間も経ってないからな。無理に戦えば何が起こるかわかったモンでもない」
シャルロットを除外していた理由は正にそれだった。ラウラとの事件からまだ数週間ほど。少しはいい傾向を見せていたが、やはりまだ本格的な試合などには出にくいと判断した一夏は、彼女自身もそれを理解して自重するかと思っていたが、結果は真逆。むしろ喜んでとばかりに彼女も出場していた。
『けど、彼女も分かっていた…いや、分かっているからこそ…あえて出場したんじゃないかな』
「試合で強引に精神を安定させようって? どんな根性理論だよ」
『そうでもしないと、自分を安定させることができないから。じゃないかな、それが自分の日常の一部として定着してしまった彼女にとって』
Mk-Ⅳから伝わるオタコンの声に、一夏の作業の手はピタリと止まった。
まるで自分のことのように言われていたからだ。
『似たようなものだと思う。生活の一部としてその行動を、その行為をするとがすっかり「やらなければいけない」という義務感に変わっているんだ。戦わなければならない。戦場に立っていなければいけない。銃を持ってないと意味がない』
「そんなこと……!」
『無い、と言い切れるかい? 君もその一人だ。戦場に立ってから、戦いが銃を持つ生活が日常となった君にとって』
「ッ………それは……」
『彼女にとって、戦場…いや、今回のタッグマッチ戦は無意識に「立たなければいけない」という義務感があったからだろう。強迫観念といってもいい。そうしなければ、自分が自分ではなくなってしまうという感覚。そこでなら自分が一番落ち着くという中毒性。
イチカ。君だって分かる筈だろ。戦場を渡り歩いてきた君。そして僕ら』
そうだ。スネークに拾われて、彼の居る世界に留まりたいと願った一夏の生活。それは常に戦場、戦いがつきものだった。愛国者達との戦いも、その後の戦場も。形や内容が変わっただけで、大本は変わらなかった。
戦場に居たい。戦場で一番、生きている充足感を得られる。
その感覚を打ち明けた時、スネークはこういったのだ。
―――それが、かつてビッグ・ボスが願っていた世界の一つだ。
「――――。」
『……だから、彼女もまだ戦場から離れられない。離れたくないんだ。自分が自分でなくなってしまうから』
「…かもしれないな」
けどな。一夏はオタコンの言葉に力を振り絞るように口を開いた。
まるで言ってはいけないというような言葉。それでもそれが自分の思う事だと。
「けど、戦争だけが充足感を得られる場所じゃない。アイツにだって、いつかは戦場以外で自分の居場所を見つけられる筈だ」
それがいつの話になるかは一夏も分からない。だが、それでも何時かはそうなるだろうという根拠のないが自信はあるという考えで、そう断言した。
具体的にはと聞かれても分からない。しかしその日は絶対に来るという自信はある。その自信がどこから出てくるのかは一夏も分からない。心のどこか、自分の中でそれは確かなことだと叫んでいるのだ。
「スネークが少しだけ、戦場から離れられたように…な」
『…ああ。戦うばかりが生きる意味じゃないからね』
使用する武器の調整をする一夏は、大型化したことで幾分かアクセサリーの取り外しが楽になったが、代わりに取り付けに通常の大きさより時間を要してしまい、苦戦を強いられていた。それでも、手馴れた手つきで何とかできたと、完成した物を見て小さく息をついた。
「よし。これでOKだ」
『今回はショットガンにしたのか』
「ああ。サイトは中近距離だから、今回は近距離重視だな」
M4カスタムの銃身下部に取り付けていたアクセサリーをグレネードランチャーからショットガンに変更。至近距離で威力を発揮する武器なので万が一接近戦になった時には、これを使用する機会があるかもしれないと踏んだので、変更したのだという。
その他にダットサイトは中・近距離のものを使用。余計なゴテゴテとしたものは取り付けていないので純粋に近距離に対応したものになった。
「その他に今回固定のスパス。グレネードと…手数が居ると思うからMP5」
『想定は彼女たちかい?』
「それ以外、居るか?」
恐らくシャルロットたちは余裕で次の試合も勝利してくると踏んだ一夏は、武装を全て対シャルロット・鈴戦に合わせて調整。万能型のシャルロットと接近戦型の鈴。二人を相手取るなら威力よりも手数と弾数、しかも鈴の接近戦を考えれば遠距離で挑むのは自殺行為だと予想できる。相手は格闘や剣戟に成れた機体と乗り手。しかもパートナーがそれを補塡してくれるのだから、下手に距離を取っても縮められるのがオチだ。
その点で言えば、一夏は近距離戦を得意として、しかも対応策があるのでマシな方だろう。
『あ。そうだ、イチカ今更だけど、あの衝撃砲の構造解析、出来たよ』
「マジか。っていうか俺はあの砲台がどうやって浮いてるかが知りたいけどな」
『それは後で。取りあえず構造だけど…』
衝撃砲の攻撃原理は前にもあったが空気圧縮された弾丸であることに変わりはなかった。砲台の後部から使用する空気を吸引し貯蔵。使用時にはため込まれた空気が、砲口のところで圧縮されて弾丸として撃ちだされるという仕組みだ。
ただし、鈴の機体の砲台は元々一門ずつの予定だったらしく、強引に二門に増設したことから廃熱が追いつかなくなり、一門の時より威力は増したが、廃熱時は更に時間を要することになった。
『元々機体に固着して使用する予定だったけど、砲台の射程や射角を取るために今の浮遊台にしたらしい。
ただ、その所為で機体との間に磁力を展開したり、光信号で本体からの指示とかの送受信の装置を付けることになったから、廃熱のためのスペースはあまり確保できなかったって言うオチらしい』
「戦時の緊急改修ってやつだな。RAYの時はそれが仇になったようだけど」
『本人もそろそろ使い慣れて、放熱には気遣うハズだ。特に今回、君にも彼女にもパートナーがいるから使用する場面を選ぶと思う』
「俺もそう思ってる。けど、鈴の場合はそれをどの距離で使うかが問題になる」
相手は近距離を得意としている。しかも、クラス対抗の試合の時には近距離で衝撃砲を撃ってきたのだ。絶対にある程度の距離を、というような安易な考えをしてはならない。
『彼女、肉を切らせて骨を切る戦法、やりそうだもんね』
「実際されて壁に激突しただろ…」(※No.14参照)
『けど、それならかえって近距離で挑むのは危険じゃないかい? M4とかがあるなら…』
「その場合はシャルが出てくる。多分先輩が仮に抑えたとしてもだ」
その為のシャルロットと言ってもいい。近距離を得意とする鈴に得意レンジでの戦いを常に行わせるという支援行為。彼女ならやりかねないと。
一夏のパートナーである楯無が仮にシャルロットを抑えたとしても、何かしらの形で数分に一回はという勢いで横槍などを入れてくる可能性もある。
頭数が同じであるから。楯無が実力者であるからといって侮っては確実に敗北する。
「なら、一番ダメージの期待できる。期待されている距離で戦うしかない。相手が得意な距離で戦うなら、無理せずにこっちも得意の距離で相手するだけだ」
『で、その結論が…』
「これまた単純。正面からのカチコミだ」
『それって結局、無策と同じじゃないの?』
「……そうとも言う」
それでも注意すべき点があるだけでもマシだと言えるだろう。無理に広い距離を取ったりしようということはむしろ相手にチャンスを与えるのと同義。相手は近距離戦を得意としており、オールラウンダーに戦えるパートナーがいるので嫌でも近距離にされる可能性だってある。
であれば、捨て身の覚悟で近距離戦に持ち込んで一対一で潰すのが一夏の考えだ。
「あとは、自分の直感頼りだ。正直、鈴相手に下手に頭だけで動けばやられる。アイツ、剣戟戦は多分、型はあるがほぼ無心だ」
『我武者羅ってことかい?』
「…かもしれない。鈴は元々セシリアや先輩みたいに作戦立ててっていうのは苦手なタイプだ。悪く言えば単純って思えるけど、あの日の拳骨で少し印象が変わった」
ふむ、と調整を終えて後始末をしている一夏の言葉に、画面越しに聞いていたオタコンは手を顎に着ける。
一夏にとって、そこからが重要なことだ。そう言いたげな心境がトーンとして声に現れていたのだ。
「―――本人がビビッてたし、まだ人間的だったから確信はなかったけど、スネークやメリルさん以上に、あれ喰らう時に「あ、俺やられる」って思っちまったんだ。ただの拳骨、それも殺す気なんてサラサラない一撃だ」
『殺意があった、というかそれだけの怒気だったってことは?』
「ない。アレは多分、スネークでも同じ意見だと思う。アレは―――なんかヤバイ」
実感は小さなものだった。だがそれでも、一夏はそれを思い出すと、そうする度にその時は感じなかった、考えもしなかったことを後から感じてしまい、その恐怖に思わず息を飲んでしまう。
「下手すりゃマジで殺されるかも…」
◇
VIPルームでは、Cブロックでの予定通りの試合のお陰か熱狂していた政治家たちVIPの怒りは少しずつ沈静化していた。いつも見ていた試合がやっとここで戻って来たという安心感と、未だその原因たる者たちが勝ち残っているという油断が出来ないということからの緊張感が、彼らを落ち着かせようとして口を塞ごうとしていた。
「Cブロックは難なく終わったか…全く、余計なことの所為で心臓に悪い」
「心中察するよ。私もCブロックで邪魔が入ると思って冷や冷やしたからね」
とある国の大臣と政治家は、事なきを得たCブロックの戦いに冷や汗を流し、大臣は何事も無かったと安堵したのか、腰がズレ落ちそうなほど椅子にもたれかかっていた。
生気が抜け取られるかのように沈む姿は、隣に座っていた政治家も同情して流れ出る汗を拭きとり、腰に力を入れる。
「全くだ。今年はなんて不安定な大会だ…あの男もこの大会のことを理解してないのか…」
「さて。彼にそこまでの考えがあるとは思えないがね」
「…クッ。それより、今回の邪魔者たち。情報は集まったのか?」
「ああ。思いのほか簡単に。しかも一人はあのブリュンヒルデの弟と聞く」
手渡されたタブレットに目を通す大臣。そこに写されていたデータには確かに一夏たちの情報が書かれており、家族関係でも千冬の弟であることが明記されていた。
その他、学園入学時の詳細データ全てがそこには記されていたが、大臣は先ず自分たちの邪魔をした者が千冬の弟であることに目が向いた。
「あの女の…? だが情報ではドイツで死んだと聞いたぞ」
「だったのだが、どうやら偽装工作されていたらしい。弟は生存、二年間ほど息をひそめていた」
「それが今になって現れた…? しかもこうも公然の場でか」
「それが解せんのだ。彼が一体どうして現れたのか…そして彼の機体は一体どこの国が作ったのか」
形式上かアメリカではあるが、実際は押しつけに近い形になっているのが一夏の経歴だ。しかも、機体もアメリカが作ったとホラを吹いているが、当然アメリカにはそんな記憶はなく、だからといって自分の手柄にすることもできない。社会的地位が危うい現在、下手に嘘を並び立てれば、自分たちの立場がさらに崖っぷちへと落ちることになるのだ。
社会的な立場、軍事的な頂点を取り戻したいアメリカにとって、今は非常にデリケートな時期ともいえる。
つまり。必然的にここでアメリカが嘘をつけば「またアメリカが嘘をついた」という噂が広まり、それを火種にまた新たな問題が発火しかねない。
「現状で考えられるのはイギリスとドイツ、そして日本だが…」
「ドイツは技術的に問題ないでしょうが、少し前に揉め事を起こしましたからね。今は穏便にしておくのが最適でしょうから、動くのは後でしょう」
実は一夏が出ていること、そもそも大会がここまで荒れたのはドイツが遠因であることは、この時まだ彼らは知らない。何せまだドイツが学園内で騒動を起こしたというのが一番記憶に新しいのだ。
彼の言いがかりに近い疑いを晴らすための出場。これをけしかけたのがドイツだと知れれば、確実に非難される。であれば、時間稼ぎとして口を噤み、言い訳やらを考えるしかないというのが、非難される国のとった考えだ。
「イギリスは…難しいな。技術的にはドイツに勝るとも劣らないが」
イギリスはイギリスで未だ内輪揉めが絶えない状況が続く。というのも形式的な階級社会が誇張されて事実的なものへと変化していたからだ。
機体や兵器の生産、開発に問題はないが、それを認可する組織が現在、自分たちの地位と立場の奪い合いで他所を圧迫している、というのが現状だ。
となれば、残ったのは日本一国になる。
「しかし、自衛隊と第九条を抱える国が、そう易々と兵器開発をして表に出すとは思えん。やるにしても、精々アップグレードか…」
戦争放棄と憲法第九条からのこじらせで曲りなりにも軍隊が存在している国。であれば、兵器一つを作ると言い出した瞬間に国内からの批判の雨と嵐は避けられない。もはや戦争の傷跡を忘れた若者や偏見者たちによる戦争放棄のデモや反戦運動。誇大妄想に耽った挙句、ありもしないことを信じる者たち。加えて、ドイツ、イギリスにも言えた話だが日本にも国力というものがあり、それはアメリカなどと比べると非常に低い。
技術大国として名をはせた国だが、だからといってそうホイホイと新しい兵器を生み出す余裕も、それを許可することも難しい。
頑張って粘ったとこでも既存機体のアップグレードがいいところだというのが大臣の見解だ。
「では、一体どこが…?」
「うぅむ…」
なら一体どこが? 誰が? どうやって?
尽きない謎、そもそもという点に至った時、大臣は改めて一夏の経歴に疑問を持った。
実際。彼のバックに国は存在しない。形式的な国と呼べる場所に居る組織が作り出した機体、というのが正しい言い方かもしれないが、それではあまりに現実味がなく信じてもらえない。
ならば、この一言が彼の機体。そして今の彼に対しての答えだと言えるだろう。
―――国無き国。国境のない組織。国境なき兵士。
◇
「―――さて。では、行きましょうか」
「………ああ」
そして。波乱は更に混乱へと向かう。
一夏・楯無ペア Aブロック一回戦突破。
後書きと言う名の何か。
一応Act.3は前にも言った通り臨海までは予定通りします。
が、それ以降はオリジナルでストーリーも完全新規に移行。こっからMGS色が強くなると思います。
予定としては一夏を……おっと。これ以上は流石に…