一度で二歩は進めない   作:小沼高希

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013 余暇の娯楽

目を覚ます。胸に当たるのは固くて冷たい床の感覚。うつ伏せの状態で寝ていたのもあって、身体が変な感じになっている。

 

昨日は結局あまりうまく寝ることができなくて、色々と試して床が一番落ち着いたのでそこで夜を過ごした。身体が固くなっているが、いつもみたいに寝ようとするとぞわぞわするというかあの時のことを嫌でも思い出してしまうのだ。

 

そしてなんていうか、思春期の男子高校生らしくというか、その、欲求不満みたいなものは溜まるわけです。でもこういう時に限って陽香の顔が思い浮かんでしまう。

 

別に嫌いじゃないし、正直あの陸上やっていてしっかりと筋肉のついた肉体は僕とは違って魅力的だと思うけど、その、幼馴染にそういう感情を向けるって嫌じゃないですか。別にそれは同級生の仲の良い女子にだってそうだけど。でもそういう目で見てしまう自分はいるわけで。

 

昨日吐き出してしまったせいか、眠りが浅くてまだ脳がぼんやりしているせいか、頭の中が変な方向に回っていってしまう。やめよう。

 

「……もうお昼前だ」

 

時計を確認して呟いた。両親はそれぞれ自分の休日を過ごしている。一家の中で僕だけ趣味がインドアなのだ。朝ご飯なのか昼ご飯なのかわからないものを少し多めに食べて、今日はゲームをするとしよう。

 

ステラ・コルセア日本語版公式Wikiは毎日数千アクセスを誇るサイトである。アクティブ編集者は三十人ぐらい。とはいえ、ちゃんとこまめに編集している人はかなり少ない。メインメンバーと呼べるのは僕を含めて片手で数えられるぐらいじゃないだろうか。

 

大きな荒らしや対立もなく、僕が編集長に就任してから半年程度、それなりに安定した運営ができている。だから、検索すれば一瞬で欲しい情報が出てくる。他の言語版だとそうではないことも多いらしいので大変そうだ。

 

シールドの耐久値。武器の相性。交易ストーリーの分析。ゲームをしながら記憶だけに頼ることなく色々確認できるのは便利だ。もちろん、これらを見ないほうが楽しめることもある。ただ、僕も陽香も角野さんも結構Wikiを見るタイプだ。

 

僕は純粋に、色々な情報をまとめたものが好きだから。陽香は効率よくプレイしたいから。角野さんは普通のプレイや渡された翻訳文だけではイメージが掴めないことが多いから、とのこと。

 

今日も今日とて作った船で私掠稼業。手に入った資源は基本的にはその周回でしか使えないのだが、僕はどうしてもアップグレードとかを後回しにしてしまう。そうして使わない資源を抱えたまま死んでいくのだ。きっと対戦で多様な資源が手に入るのは、相手もそういうタイプだからに違いない。

 

そうやってゲームをしていくと、脳の中がそれだけに集中できる。終わった後に時間が過ぎていたことに驚いて折角の日曜日をもう少し有意義なことに使えなかったのかと後悔するのはいつものこと。

 

部屋の片付けとか、詰まった所をカバーするための映像教材とか、買ってからろくに開いていない単語帳とか、そういうものがいろいろあるけど触れていない。

 

だから成績伸びないんだよと言われればその通り。陽香みたいに真面目じゃないし、角野さんみたいに天才でもない。

 

いや、角野さんって勉強しているのかな。総合点では基本的に角野さんが一番上。ただ、教科によっては僕も勝てる。理科とか。なぜ知っているかというと陽香経由で角野さんの成績を以前教えてもらったからです。勉強教わったこともあったようで。

 

うん、思い出せている。陽香のこと自体は、少しずつちゃんと見ることができるようになっていた。たぶん教室では目をそらしてしまうけど。

 

そんな事を考えながらも一応クリアができたので、大きく息を吐く。最近はめっきり勝てない。僕のいるランクに強い人がいっぱいいるからで、そのランクの中で僕の実力は高くないから、と言ってしまえばそれまでのことだ。

 

なので、この勝利は結構嬉しい。問題はこれが四回目か五回目かの挑戦で、もう二時間ぐらい溶けてしまっているところだが。おかしいな。

 

でもまだ、ゲームに飽きた感じはしない。あるいはゲームに逃げたがっているのかも。やることが多いから、それから目を背けるために、とか。

 

余計なことを考えてしまって、後ろめたさでゲームを楽しめなくなりそうなので今日はこれでおしまい。ちょっと名残惜しいぐらいがちょうどいいんです。

 

ベッドに行って、寝っ転がることはできなくて、スマートフォンを見てなにか面白いものがないか探す。実況動画を見ながら、このあたりの情報ってWikiになかったななどと思いつつそれを書くべきかを悩む。

 

英語版と中国語版がかなり記事数が多くて、初心者向けのチュートリアルも充実している。ただ、対象としている層が違うせいで日本語版では別の方法に進むべきなんじゃないか、と今チュートリアルを書いている人が言っていた。ちなみにどちらも角野さんが翻訳してくれています。本当にありがたい。

 

今は自動翻訳があるから読みに行けばいいんじゃないかと思うかもしれませんが、例えば武装の名前とかはけっこう意訳が入っているのできちんと対応させてやらないといけないし、向こうのネットスラングや言い回しも入っていたりするのでそのあたりをしっかりとわからないといけない。角野さんは本当に何者なんだよ。

 

深呼吸。はい。あの人は同級生で、ちょっと人の感情を見るのが苦手だけどとても誠意のある人で、丁寧な対応をしてくれているわけです。勘違いをしてはいけない。どうせ思い出すなら陽香のほうがいいんじゃないかとも思うがそれはそれで嫌だ。嫌だっていうのも違うな。思い出すのが怖い。

 

わかってる。陽香は反省しているし、ここは僕の部屋で、もしもう一度ああいうことがあっても、きちんと対応すればいいって。でも、そんなのとは関係なしに心だか身体だかは知らないけど嫌がってしまう。ただ、これまでと同じように寝ることすら。

 

面倒なこと考えるのはほどほどにしよう。明日から普通に授業だ。宿題はやってないし、先週の授業はあまりついていけていないけど、きっとどうにかなるだろう。そう考えてやっぱり不安になってきたので、ちょっと角野さんに難しいところとかつっかかったら後々響くような場所がないかどうか確認しておこう。

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