放課後。帰ろうと思っていたらなんか騒いでいるグループが教室の前の方にいる。陽香もその中にいるし、メンバーはクラスの明るくて友達が多いような集団。あれ、学園祭実行委員会の委員ってあの二人だっけ。
「あれ、なんだろうね」
角野さんが鞄に色々としまいながら僕に聞いてくる。
「さぁ、どうせ今更購入しなくちゃいけないものを忘れていたとかそういうところでしょ」
「ああ、ありそう」
「やってみないと何が足りないかってわからないからね」
「でも、やってみたら案外足りなくてもなんとかなるとわかることもあるよ?」
「それは終わるまではわからないでしょ」
「そうかもね」
そんな会話をしていると陽香の目があう。帰りたいんだけどという表情をしたらこっちに来いって視線を向けられた。
「じゃあ僕は帰ってWikiの編集しなくちゃいけないから」
「アプデ更新のためのやつは先週終わったって言ってなかった?」
「ほら追加パッチの分が」
そこまで言った時にはもう陽香がこちらに歩いてきていた。諦めよう。
「……角野さん、巻き込んでいい?」
「お願いしてくれるなら、いいよ」
「お願いします」
というわけで、どういうわけか僕と角野さんが僕たちのクラスの学園祭中心チームに巻き込まれることになった。大丈夫だろうか。僕も角野さんも比較的クラスのはぐれものな気がするのだが。
仕切っている男子が、少し呆れながらももう一回説明をしてくれるようだ。なるほどね、来週に迫った学園祭のための冷凍唐揚げが近所のスーパーからなくなっちゃったわけか。
「通販は?」
小声で角野さんが僕に聞いてくる。
「業務用だとあまり普通のサイトにはないんじゃない?」
「ならそういうサイトを探すか」
さっと角野さんがスマートフォンを取り出して素早く両手で文字を打ち込んでいる。
「……ところで、買おうとしていたものの写真とかありますか?」
僕が聞くと、女子の一人が画面を見せてくれた。見るからに業務用の透明な袋と青色の文字。なるほどね。
「これじゃなくちゃいけない理由があるの?」
僕の言葉に、彼女は首を振って驚いたような顔をする。まさかそういうことを思いつきもせずにどうにかならないかとか言っていたのだろうか。
「桂介、どうにかするアイデアあるの?」
「冷凍で買って……保管しておく冷凍庫は?」
「それは家庭科室のでかいやつ使えることになってる。当日はもっと増えるから冷凍庫レンタルするけど」
「そのあたりは参考になるやつが?」
「去年唐揚げやった先輩が企画書書いてた」
「わかった」
他の誰かが話すよりも、陽香が口を開くほうが早い。
「見つけたよ、これなら相当の数をまとめて注文できる」
角野さんが出してきた通販サイトはなんか見るからにみすぼらしいというかあまりお金がかかってないことを感じさせるものだったが、確かにその商品だった。
「……大丈夫なの?これ」
失礼にならないように気を使っているのか、女子が角野さんに聞いた。
「これを売っている会社がやっているやつだから」
「じゃあ、大丈夫そうだね」
そんな感じで、話が進んでいく。なんていうか調査を代行されているような感じだな。方針もすぐに決まって、流れで解散となった。
「……ありがと、桂介も、角野さんも」
「いいのいいの。……大変そうだね」
「あたしも別に頭いいわけじゃないからあれだけど、角野さんから見ると変なことしてるように見えるんじゃない?」
「……否定はしないよ」
角野さんは、少し冷たい声だった。
「でも、別に私が頼まれたわけじゃないし、手を貸さなかったら後で後悔するようなことでもないでしょ」
「ごめん、怒ってる?」
「そう聞こえたなら、意図していなかったものだからごめん」
角野さんがなんていうか疲れているというか、ストレスを感じている時の口ぶりに近いな。最近大丈夫だろうか。
なんていうか、自分から大変なところに突っ込んでいる気がする。杞憂だといいけど。
「……私もさ、桂介くんや陽香さんに憧れるんだな、って最近自覚したんだよ」
「自覚?」
陽香さんは不思議そうだ。
「そう。別に、二人が変わったのがいいことばかりじゃないのは良くわかってる。それでも、私は……」
角野さんが言い淀んで、口を閉じた。
「ゆっくりでいいよ、角野さんのペースでいいから」
陽香が言う。そういうこと言うタイプじゃないと思うのだが。
「……私の、模倣?」
「バレた?心配しているのは本気。前にこうやって言ってもらった時に助かったから、こう言えばいいのかなって。ダメだった?」
「いや、正しいよ。ただもう少しだけ声を落としたほうがいいかも」
「わかった」
なんか演技指導が入っているぞ。とはいえ陽香がこういうことできるようになるというのは意外だったが、それぐらいはできるよなという納得がある。
「あたしはさ、まだ変わりきれてないし、たぶんずっとあの時のことは引きずると思うんだけど、それでも進んできたい。角野さんに変わったって言ってもらえて、嬉しかった」
「……そう」
「あと角野さん、あたしが最初に声かけた時に比べたら変わったでしょ。無理しなくていいと思うよ」
「……高校一年生の、時?」
「そうそう」
「あの時の陽香、失礼だったからね」
「別に桂介みたいだなって思うのは失礼じゃないでしょ、ほら真面目そうで、自分の世界にこもってるけど、できたらちょっと外に出てみたいけど、手を引いてくれる人がいたら嬉しいみたいな」
僕と角野さんは顔を見合わせて、微妙な表情をする。そのあたりをぼかしてくれたら陽香は本当にいい子に見えるけど、ちゃんと言われると自分たちの浅ましさみたいなものがかなりはっきりと出てしまう。
「……もしかしてさ、言葉にしないほうがいいものもあるんじゃないかな」
僕の言葉に、角野さんは小さく首を振った。
「私の場合は、それでもちゃんと言ってくれたほうがいいかな。それもちゃんと受け止められないといけないから」
「そっか……」
角野さんは大変だ。なんていうか、僕はまだ陽香のことを雰囲気としてわかるけど、そういうものがないというか意図的に切っているとなると微妙な気遣いとかを受け止められなくなる可能性もあるんだよな。それをちゃんと真正面から見るっていうのは、たぶん僕には辛すぎる。