一度で二歩は進めない   作:小沼高希

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072 遊戯の価値

一週間が過ぎた。角野さんはまだ回復していない。

 

部活のない日だというので、僕は陽香に誘われてボウリング場に来ている。そういえば高校生になっているから結構夜遅くまで遊べるんだよな。

 

値段とかを知らなかったが、かなり安かった。そう考えると前のお出かけってかなり予算がかかってたんだな。

 

周囲には近隣の高校の制服を来ているらしい人達もいる。カップルは見ないな。意外だ。もしかしたら男女混合のグループの中にいるのかもしれないが。

 

陽香に促されるままにボールとシューズを借りていざ投げる。僕の第一投はガター。その次には三本も倒せた。というかボウリングなんていつぶりだろう。昔どこかでやった記憶があるけど、誰と来たんだ?家族かな。そんな気がする。

 

「……まださ、角野さんって良くなってない?」

 

そう言って投げた陽香は七本のピンを綺麗に倒す。上手だな。やはり経験だろうか。

 

「うん、ずっと悩んでいる」

 

「……あたしより、めんどくさいね」

 

「そうかも」

 

こうやって陽香と二人きりで出かけても、特に嫌な感じは今はしない。これは本当に精神的に助かる。少なくとも陽香は僕のことが嫌いじゃないってわかっているだけで、面倒に気を張ることをしなくていい。他の人だと、こうはならない。

 

相手が自分を嫌っているんじゃないかとか、実際のところその笑顔は愛想笑いじゃないかとかそういう事を考えてしまって、きっとゲームに集中できない。いや集中したとしても倒せるわけじゃないんだけど。

 

点数は明らかに僕が負けている。とはいえ、別に勝負をしているわけではない。

 

「角野さんってさ、こういう遊びをするの嫌いなんだよね」

 

「そうだね」

 

「……なんでだと思う?」

 

言われて考えると、言葉にしにくい。いや、僕も角野さんと同じ側の人間だから雰囲気は掴めるけど。

 

「身体を動かすってわけでもないし、別に少人数でも参加できる。移動とかお金だって、決して遊びとしては多い方ではないのに、って言いたい?」

 

「そんな感じ。あたしが思っていて、その中にないのがあるかもしれないけど」

 

「……わかった。陽香ってさ、遊びで疲れるのってこういうボウリングならボウリングでだけ、って思ってない?」

 

「他にあるの?」

 

陽香が言った間が悪かったのでボールが変な方向に曲がったかと思ったが、おもったよりすんなり真っすぐ行って右奥と左奥だけが残る形になった。

 

「話すこと。一緒に来ている人の関係を確認すること。自分の点数に一喜一憂しないこと。相手の点数を羨んだり蔑んだりしないこと。そういうのを、全部考えてやらなくちゃいけない」

 

「……そこまで、やるんだ」

 

「僕も多少は気を使うから、角野さんならもっとしているはず」

 

例えばここで陽香に点数で負けていることを割り切るというのは、できるし、慣れているけど、それはそれとして大変なのだ。このあたりが陽香にはわかりにくいのだろうか。

 

「……あたしは、そういうのあんまし気にしないよ。気にすることもあるけどさ、そういうの関係ないっていうのが友達じゃないの?」

 

「友達でも相手を殴ったらいけないし、暴言を吐くべきじゃないし、噛みついて良いわけじゃないから」

 

「……うん」

 

最後の言葉は当てつけだった。ほら、僕だって制御できていない。

 

「……ごめん。僕だって我慢できないことがあるのに、角野さんが我慢しなかったら、何を言うかわかる?」

 

「……角野さんが言いたくないこととか。そっか、言っちゃ駄目なこと、角野さんは考えられるんだ」

 

「それに考えが止まらないような人だから、もし思考がそっちに傾いたら相手に何を言ったら一番効果的かを考えるよ。僕みたいな衝動的なものだったとしても、きっときついものになるはず」

 

「それでもさ……友達なら、それぐらい受け止めたい」

 

「受け止められなかったら、友達じゃないの?」

 

「……そういうわけじゃ、ないけどさ、あたしの覚悟の話」

 

僕も幼馴染としてもう少し覚悟とか持っておくべきだったのだろうか。そうしておけば、身体が固まらずに済んだのだろうか。角野さんからそう言う事は考えても意味がないし、考えるべきじゃないとは言われているが、そこから思考を完全にそらせるかと言うと話は別だ。気がついたら別のことを考えるようにはするけどさ。

 

「うん。そして、角野さんはボウリングでの楽しさがないと思う」

 

僕はまあ、楽しくないわけじゃない。プラスかマイナスで言えば、かろうじてプラス。陽香という気心のしれた相手と、勝敗を考えなくて良いというプレッシャーの軽さと、あと相当久しぶりなはずなのにガターもあまりないってところだろうか。

 

まあ陽香は普通にストライクとか取ってきているけど。羨ましいとは思う。でもそれは陽香なりに時間を使ったからで、そこで張り合うのは間違っていると思う。でもそう考えるのも疲れるのだ。陽香の前でだって、ここを解放しようとは思わない。

 

「……そう、だよね」

 

「ボウリング自体が楽しくないわけじゃないよ。いや、相対的に他のものより楽しくないかもしれないけど、角野さんにとっては誰かと何かをするっていうこと自体が、ストレスだから」

 

そんな話をしながら、ゲームが進んでいく。今日は一応角野さんを誘うときの予行演習みたいな形だが、僕と陽香の間の空気を見てデートだなんて言える人はどれぐらいいるのだろうか。もしいたとしてもそんな節穴な観察眼を持ったやつにとやかく言われたところで特に気にもならないな。

 

「ところでさ、この丸のついてるやつって何?」

 

「スプリット。っていうか桂介、点数の付け方とかわかってるの?」

 

「全然わかってない。いっぱい倒せばいいのは知ってる」

 

「いやまあそうなんだけどさ……こういう点数の計算とかって桂介の得意なところじゃないの?」

 

「倒した本数……の合計じゃないっぽいよね」

 

最初のうちはそうで、僕の場合は純粋にその和らしいのは理解できる。ただ、陽香の場合は点数がおかしい欄がある。

 

「うん」

 

「ストライクだっけ、一回で全部倒すの」

 

「そう。二回で全部やるとスペア」

 

頭の中で考えていく。何倍かするってわけじゃないよな。それだと点数が素数なのがおかしい。そこで今の陽香の表示を見ると、直前のスペアのところの点数が空白になっている。

 

「その場合って次の二回分の点数も入るとか、そういう感じ?」

 

「わかるんだ」

 

「なんとなく」

 

というかあまりそれ以外の候補がないからね。推理と言うほどのものじゃないし。

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