一度で二歩は進めない   作:小沼高希

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077 協力の結果

ステラ・コルセアは終盤に向かい、敗北回数も増えてきた。一応一区切りとなるボス討伐ができればいいのだが、そのための船体耐久は少し心もとない。

 

「いつもあたしが使うようなやつとは違う感じで、不思議な気がする」

 

「まあそうだよね」

 

結局できた宇宙船は攻撃を最初に通せれば勝ち、しかし失敗したら辛い消耗戦になるみたいな構成になった。途中でいい武器を買うために副装備捨ててその上で勝てるように組み上げた結果こうなったのである。

 

シールドや回復にもそれなりに資源を割いているので消耗戦もなんとかなるのだが、それでもその方向に特化したものに比べれば性能は低い。

 

「たぶん、これが最後のストアだと思う」

 

僕が言う。まもなく最終決戦だ。ちなみに僕でもここまで行ける確率は半分ぐらいなので、今日の陽香の運がいいのでなければ三人の協力の力だと言っていいだろう。問題は結構陽香の運のような気がするところだが。

 

「……今の構成を進めるなら、ボスへの対策を取っておくべきだと思う」

 

「特異点兵器シリーズとか?」

 

角野さんの言葉に僕はストアの画面をみて言う。最近のアップデートで追加された終盤用武器だ。

 

「あれはコストのわりに見返り少なくない?」

 

「最終決戦なら資源コスト考える必要ないと思う」

 

「あー……」

 

僕の指摘に角野さんは考え込んだ。これが序盤で出たら主武装にするのは難しいと思うけど今なら十分ありだと思う。ただこういうものって欲しいときには出てこないから難しいんですよね。今の船の装備である一発最初に当てれば勝利みたいな構成だって最初からそれを目指しても手に入れるのが難しい武器使っているわけで。

 

「あたしの両側で議論するのうるさいからほどほどにして」

 

「はい……」

 

「ごめんね、陽香さん」

 

注意されてしまった。そのとおりだと思う。しかし陽香も陽香で楽しそうなんだよな。両側から色々指示をされているという状況はそこまでいいものだとは思えないが。いや、僕も角野さんもまだ大丈夫だと思っていますよ。

 

「……桂介の案を採用。こっちでいく」

 

「いいの?もし次にストアがあったら後悔しない?」

 

「なかったほうが後悔しそう」

 

「わかった」

 

角野さんは陽香の戦略を理解したらしい。こういうゲームだと思考と行動が直結するからいいよね。その判断の結果もすぐに出るし。

 

だから僕はステラ・コルセアが好きなのかな、と考える。やり直せるし、自分の間違いの理由がわかるし、間違っていても誰にも怒られない。悔しくはあるけど。

 

マラソン大会なんて、一度しかないし、その結果は永遠に残るし、練習したところでそんなに記録が良くなるわけでもないし、遅いと嫌な視線を感じる。

 

最後のワープが終わる。逃げるためのボタンが灰色に染まって選択できないことを示している。

 

「さあ、クライマックスだよ!」

 

角野さんがやけに感情的な、興奮したような声色で、ゆっくりと言う。きっとこれは角野さん流の楽しみ方で、ある種のロールプレイなのだろう。ロールプレイといえば角野さんってTRPGとかするのかな、僕はしたことがない。誘われたことが前にあったけど残念ながら参加できなかった。

 

というわけで一時停止。トリプルチェックで確認していく。もうこの船の設計からして戦略は決まってしまっているので、あとは行動するだけだ。

 

「……動かすよ」

 

陽香の言葉に僕と角野さんは頷く。

 

スペースキーが押される。転移直後から発砲可能な本来チャージが重い武装が火を吹く。ボスの構造は固定だから、ある程度の攻略パターンがある。

 

僕がWikiにまとめただけでも七通り。そう考えるとデザイナーは本当にうまく調整するよな。ボスはただ単に強いだけのエネミーというよりも遊んでいて楽しいようなエネミーに近い。しばしば入り、そしてプレイヤーによってスキップされる通信も相まってこの船の艦長のキャラクターは結構人気だ。

 

今回狙うのはコアの誘爆による右側武装の破壊。他にも例えばリアクターを直接狙ったり、ハッキングで内部システムをぐちゃぐちゃにしたりと攻略方法は多様だ。それでいて、どの攻略方法も確実と言えるほどではない。

 

「……これ、当たったらよくないよね?」

 

一時停止の状態で飛んできたスウォームドローンを見ながら陽香が言う。

 

「とはいえ回避できる?」

 

そう言うのは角野さん。このゲームはプレイヤーが操作できる要素が少なくなっている。だから一度船の設計が固まってしまえばさくさくと進められる。

 

逆に言えば、眼の前で起こる惨事は基本的に見ることしかできないのだ。もちろん、操作できる要素を増やしてフルマニュアルで遊ぶこともできるけど、一般的にはバフの乗るAIコアに切り替えて自動操作にしたほうがいい。

 

ただ、今回の船では主武装は狙う場所を決めたいのでAIコアによる強化をしていない。あとはせいぜいスラスター出力を変えて回避ブーストするとかだろうか。これはAIコアを買えなかった。

 

「……回避しないのは?」

 

「どういうこと?」

 

僕が言うと、陽香が確認してきた。これは説明しないとわからないだろうが、どうやって説明するかが悩ましい。

 

「回避のクールダウンをこのスウォームで使うのはもったいないから、ここはスラスターを落として船体の耐久値で受けて、その後の攻撃の前にスラスター出力を上げる」

 

「リスクはある」

 

角野さんはすぐに僕の計画を理解したようだ。

 

「私なら、それはしない。スラスターを攻撃されたらその後の回避もできなくなる。そうなる確率は低くない」

 

「ここで回避できるかも怪しいし、回避してしまえばむしろ後がないのでは」

 

「桂介も角野さんも言いたいことわかったから、少し黙って」

 

やけに落ち着いた声で、陽香が言う。集中しているようだ。言葉で考えていないのに集中することなんてできるのかと僕は思っているのだが、陽香の言葉を使うとじっと画面を見つめるとなんとなくわかることがあるのだそうだ。

 

正直昔はオカルトか何かだと思っていたが、今になるとなんとなくそういう事があるのもわかる気がするようになっていた。

 

陽香の指でスペースキーがリズミカルに押される。スウォームドローンの狙う場所を確認した陽香が、タイミングよくスラスターを切り替える。

 

表示されていた回避率が0になる。船体に一気にダメージが入る。もし次を喰らったら、僕たちがここまで運んできた船はデブリになるだろう。

 

「……ここ」

 

僕も角野さんも理由がわからないが、理解はできるタイミングで陽香はスラスターを起動する。相手の次の攻撃が来る前に、主武装が敵の武装の根本を切り離し、相手の攻撃力を失わせた。

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