二回目の冒険はあえなく失敗し、結局序盤で終わってしまった。
「……思ったより、楽しかった」
角野さんが、敗北後のリザルトを見て呟いた。
「よかった。……あたしも」
陽香が言う。これ僕は一歩引いたほうがいいかな。
「うまく言葉にまだできないけど、私が少しだけ自分を縛らなかったからといって、反応がわかる程度には変わらないって体験ができたのは、私の中で重要なことだと思う」
「桂介、翻訳お願い」
「素直になってもいつもみたいに接することができて楽しかったって言ってる」
「結局楽しかったんならよかった」
そう言って陽香は笑う。笑顔はかわいいんだよな。けっこういい性格をしている時もあるけど。
「……桂介くん、それは少し省略し過ぎでは?」
「陽香の水準に合わせるとどうしても削れるところは出る」
「あたしはそういうのぜんぜんわかんないから!ごめんね!」
「私も陽香さんの感情的な要素をきちんと把握できているわけじゃないから、相対的なものだよ」
「おあいこってやつ?」
「そう」
角野さんはなんていうか、楽しんでいる感じがするんだよな。新しく人間関係を作るのは苦手でも、馴染んだ人間関係に対して愛着とか落ち着きとかはあるのだろう。
「……あと、桂介くんもかなり落ち着いたね」
「落ち着いた?」
角野さんに言われて僕はそう言って記憶を探る。そんな角野さんの前ではしゃいでいたことがあったっけ。角野さんがいつもスローペースとまでは行かないけど落ち着いていたから、僕もそれに引っ張られてそんな早口になったり騒いだりとかにはなかった気がするけど。
「……陽香さんとのこと」
「ああ……」
三人でいるし、陽香の部屋とはいっても長いこと来ていなかったから陽香と記憶が繋がっているわけでもないし、とそういう感じだ。別に今はもう陽香に対しての恐怖とかみたいなものはかなり抑えられている。たまに思い出して嫌な感じがしたりはするけど。
「……あと桂介も、今日は来てくれてありがと」
「二人じゃなければもう別に大丈夫だよ」
二人きりだと、正直まだどうなるかはわからない。動けなくなるか、あるいは手が出てしまうとか。わからないから、動けない。
いや、そもそもまだ完全に元通りになったわけではないんだよな。というか元通りになるのだろうかこれって。そもそも陽香の家でステラ・コルセアやったことはなかったよな。
「……また来てほしい、二人とも」
陽香が言う。こういうのを言葉にするのって恥ずかしいし、相手に察してもらえるならそれで済ませたい。でも僕と陽香の間でそれができても、角野さんが入るとどうしても言葉にしなくちゃいけなくなる。
「でもこの流れだと次は僕の部屋になるのでは?」
「桂介の部屋あんまり片付けられてないでしょ」
陽香に返されて僕は自分の部屋を思い出す。ちょっと雑に机にプリントとか手紙とかケーブルとか置いてあるな。うん。整理されているとは言えない。気分転換というか一旦リセットするために片付けをしたほうがいいかもしれない。
「そういえば、陽香さんはあれ以降桂介くんの部屋には行ってない?」
「……うん」
角野さんの質問に、陽香は小さく頷いた。
「もし行くとしたら、怖いって思いそう?」
「……怖くはない。でも、自分がしたことを思い出すし、嫌……には、なる」
陽香の言う嫌っていうのは、たぶんいろいろなものが混ざっているのだろう。罪悪感とか、僕に対して謝りたいけどどうしようもない矛盾の苦しみみたいなものとか。
「その気持ちは、辛いなら一旦置いても大丈夫だから。また必要な時に、きちんと持てばいい」
「……うん」
言われてはいそうですかと置けるようなものじゃないのは、僕も角野さんもわかっているだろう。それでもこういう言葉があると、置かなくちゃいけない時に少しだけ楽になる。結局は自分でやるしかないのだが、そのときの辛さを軽くするみたいなことは周りの人にもできる。
「……あの、つまり僕は片付けをすることになる、と?」
「別に私は気にしないよ、陽香さんだって気にしないだろうし」
角野さんがそう言って陽香を見ると、陽香は気まずそうな顔をした。
「前はちょっと、あまり考えてなくて、桂介しか見れてなくて……」
この言葉って喜んでいいものなのだろうか。いや嫌なわけじゃないですよ、幼馴染からそういう視線が向けられていることは少なくとも言葉ではきちんとわかっていますし、次はちゃんと自分にできる範囲で受け止めることができたらいいなって思っています。
でもそれができるかどうかはまた別だし、汚い部屋を好意を持った人に見られたくないというのもある。いや確かに角野さんみたいに自分のあまり好きじゃないところを多少見せたところで二人が僕に対して大きく態度を変えることはないとはわかってますけどね。
「……必要なら、手伝うから」
「そうしたら意味がないよ……」
「わかってるよ、冗談だから」
そう言って角野さんは小さく笑う。
「……角野さん、なんか笑うの上手になったね、上手って言っていいのかわからないけど」
「笑っていいかどうか、考えなかったのもあるかも。二人の前ならそういう集中を切ることができるようになってきた」
「じゃあ、まだ他の人と話す時はその……固い感じ?」
陽香の質問に、角野さんは頷いた。
「陽香さんだって真面目に話す時と私たちと話す時では切り替えるでしょう?」
そう聞かれた陽香は、なんか納得できなさそうに首を傾けている。
「……もしかしなくても陽香ってその切り替えを意識してないとか?」
「ありそう……」
「そんなことないって!ほら、前にやったバイトの面接とかめちゃくちゃ緊張したし!落ちちゃったけど」
「逆に言えばそれぐらいのことじゃないと切り替えを意識しないと」
「僕もそう思う」
角野さんと僕が話すのを見る陽香は不満そうだ。まあいいか、三人いたらどうしてもこういうことは起こる。だからころころ誰を一人ぼっちにするかを変える必要がある。そういう意味で、僕は陽香とも角野さんとも共通点があるし、二人にも共通点がある。そういう意味でいい感じの集まりなのかもしれない。
ただ、それを安易に肯定していいものかどうかは正直悩む。それは僕と陽香の間に起きた面倒なことすら肯定してしまいかねないし、それは陽香をなんとなくで赦してしまいそうで、僕は嫌だ。