一度で二歩は進めない   作:小沼高希

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085 時間の無駄

椅子と机の関係から、色々と問題が起こっている。山札は僕の机に置いているが、陽香と角野さんからはアクセスが難しい場所だ。

 

「角野さんって引いたもの全部覚えてるの?」

 

陽香が少しきつめの目線を向けながら言う。大富豪をやったのは中学校の修学旅行以来だろうか。人数合わせで参加したが悪くなかった記憶がある。

 

「いいえ」

 

あくまで角野さんは落ち着いた態度だ。ただ陽香が今の手札をなかなか出せていないあたり、たぶん推測みたいなことはしているんだろうな。

 

ちなみに今回は大富豪とはいっても共産主義ルールを採用しております。これは最初に上がった人が次の回では最下位の人に手持ちのカードの中でいいものを渡すことで適度にハンデを付けるというものです。経済とかよくわからないけど大富豪という名前に反していることだけはよくわかる。

 

そしてローカルルールについてですが僕があまり知らなくて角野さんは遊んだ経験が少なくてゲームソフト付随のやつの知識しかなく、陽香の知っているルールが三パターンぐらいあったのであまり複雑ではないシンプルなものにしています。

 

「こういう遊びってなかなか友達としないよね」

 

角野さんの計画を崩そうと僕は少し努力してみる。手札の中でも強めの同じ数字二枚を出して無理やり場を流す。よかった、二人とも持っていなかった。というわけで弱いカードを今のうちに処分してしまおう。

 

「あたしは中学の頃にこういうの卒業したつもりだった」

 

そう言う陽香が僕にカードを渡すので山札に積む。

 

「……私はそもそも、こういう遊びをする友達がいなかったから」

 

話しながらもゲームは普通に進んでいく。こういうゲームって手札管理に集中して勝ちに行くよりも雑に会話しながら適当に出すほうが面白いよな。そしてゲームは結局は時間を面白く過ごすためのものなので楽しいのが一番。

 

「ところで、桂介くんは今のところ問題ない?」

 

「たぶん」

 

角野さんに聞かれて、僕はそう答える。

 

「手のひらに汗をかいたりは?」

 

言われて触ってみると、少しだけしっとりとしている気がした。いつもこんなものではないかという気もするが、緊張はしているのかもしれない。そもそも普通の男子高校生が同級生の女子を二人も部屋に連れ込んで緊張しないほうが無理があるのではなかろうか。

 

「……少しだけ」

 

「適度に部屋を出てリラックスとか……いや、むしろ私たちが出るべきかな?」

 

「あまりそこまで気にしなくていいよ、リラックスしてほしいし」

 

「ゲストがホストを緊張させたら意味がないんだけれどもな……」

 

僕たちの会話に陽香はカードを睨んで入ってこない。入る資格がないとかそう言う面倒なことを考えているわけではないと祈ろう。

 

「……で、陽香はどうするの?」

 

「……パス」

 

「私もパス。桂介くんは……あと一枚。一抜けか」

 

「お先に」

 

そう言って僕は残していたあまり強くはないカードを出す。これでおしまい。次は苦戦を強いられることになるわけだ。

 

時間を無駄にしているなとは思う。別に大富豪ってそこまで面白いものではない。ステラ・コルセアのほうが好きではある。もちろん飽きとかはあるし、それはそれとして友だちと何かを遊んで過ごす時間はいいものだけど。

 

ただ、この無駄が僕や陽香には必要なのかもしれない。場合によっては角野さんにも。挨拶とか毎回出す宿題とか、意味がないように思えても積み重ねることで特別な役割が生まれるっていうものは結構ある。一番わかりやすいのは僕と陽香の関係だろう。

 

別に僕と陽香はそんなにもともと性格とか相性がいいほうじゃない。小学校の頃からの積み重ねがない状態で高校で同じクラスになっていたら、言葉を交わすことはまずなかっただろう。それに、陽香のことを僕はあまり好きになりそうにない気がする。

 

ただ、十年以上の付き合いがあって、僕は陽香のことを諦め混じりに好きになっている。どうせ向こうもそうだろう。それはそうとやり方ってものがあっただろうという怒りが今後なくなる日はこない気がする。思い出さなくなることはあるだろうけど。

 

「……まさか、これを狙っていた?」

 

そんな事を考えて二人の間の戦いに意識を戻すと陽香が自慢げに胸を張っていた。6のトランプが四枚あるところを見るとこれを隠し持っていたのだろう。

 

「角野さんを騙すために苦労したんだよ?あたしは嘘つくの上手じゃないからさ」

 

「……表情を見る意味がないと思ってブラフの一つもしていなかった私が悪いと言えばそうか」

 

「あたしも角野さんもっと見とけばよかったな、考える方に頭使ったせいで桂介に先越されたし」

 

なんか知らないうちに高度なゲームになっていないか?こうされると適当に出して勝った僕がなんか申し訳なくなってくる。

 

「じゃあ桂介、角野さんに一枚渡して」

 

「はい……」

 

陽香に言われたようにジョーカーを差し出す。いやこれぐらいなら偶然の範囲内か。

 

「桂介くんは、こういう時間は嫌い?」

 

僕の態度をどう見抜いたのかはわからないが、角野さんがカードを受け取って言った。

 

「嫌いじゃないよ」

 

嘘ではない。言葉はさらりと出た。気心知れた相手と、色々と考えて何かをするのは楽しい。余計なことを考える必要も少ないし。

 

普通の同級生との会話だと、例えば自分がクラスの中でどういう立ち位置をしなくちゃいけないかとかそういう事を考慮して、でもそれを反映できるほどのコミュニケーションの能力がない自分を恨んで、みたいなことになるのです。

 

「はい、三枚出し」

 

だから僕はちょっと最初から飛ばしていく。

 

「私も持ってる。陽香さんは?」

 

そして流されることを想定していたのに角野さんが返してきた。何がまずいってこれで一気に角野さんはカードを消費できたってことです。

 

「……ない」

 

「桂介くんは?」

 

「……ない」

 

「じゃあ、私から」

 

そして次は二枚出し。出せないので僕と陽香は首を振る。そして確かまだ角野さんはジョーカーを持っているはずだから一枚出しの時ならいつでも自分から始まるようにできてしまう。

 

「……陽香、角野さんを狙わない?」

 

「勝手にすれば?あたしは二人とも狙うから」

 

交渉は失敗したので、場合によってはこれ僕が次に狙われるな?ただ、こういう追いつかれている時にあがくゲームというのは結構楽しいのだ。勝ち負けじゃなくて、どう勝ったり負けたりするかで一喜一憂できる人間になりたいと思っている。

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