結局はステラ・コルセアをやることになった。三人の共通の趣味が少ないのが悪い。そういえば年末の開発チームが来る話はあまり陽香は乗り気じゃなかったな。それもそうか。僕だってWiki編集の過程で開発ログ読んでなかったらそこまで親近感もないだろうし。
「何この画面」
陽香が言うように、僕のゲーム画面は相当複雑なことになっている。通常のGUIに加えて操作ログとダメージ量表示MOD、それに内部パラメータ参照用のデバッグツールも入れてある。一応は公式の範囲内です。
「……知らないものが入っている」
右側から角野さんが覗き込んでくる。確かにそうだよな。
「MODとかだよ。いくつかはWikiの前の編集長さんが作ってくれたやつを使わせてもらっている」
「前の?」
左側の陽香が不思議そうに言う。両側から挟まれるのは正直言ってちょっと怖い。この前に陽香にこれをしてしまったのはちょっと反省しないとな。
「……陽香はそっか、僕の話あまり知らないんだっけ」
「聞いてない。角野さんは知ってるの?」
「引き継ぎのログは読んだから」
そっか、角野さんは前の冬にあったWikiの編集長委任の話をリアルタイムで見ていたんだったな。意識的にオンライン上の角野さんと現実の角野さんを一致させないようにしているので思考がワンテンポ遅れてしまう。
「なんか桂介がWikiやってるのは知ってるけど、編集長になってたんだ」
「前の人が生活環境が変わるから辞めるってなって、何故か僕が選ばれたんだよ」
そう言いながらゲームの方の初期設定を済ませていく。ランダマイザに介入して任意の武装を出せるようにするみたいなこともできる改造は便利なのですがどうしてもゲーム独特のバランスを失わせてしまう気がする。
ゲームバランスは変えない範囲で、攻撃範囲とかを追加で表示するようなモードに切り替え。そしてこういうチートを使うとノーランクモードしか選べなくなります。厳密には内部データに触れるようなものだとアウトってことらしいんだけどのそのあたりの詳しい仕様はじつは知らない。
なんていうか、所詮は全部制作者の手のひらの上で転がされているみたいな感じ。もちろん作った人の想像を超えたパターンを作り出したりすることはできるけどさ。
「……桂介ってさ、やっぱりそういうところ真面目なんだよね」
陽香に言われて少し嬉しくはなるが、一息ついて社交辞令というかただの評価だなと思考を切り替える。
「面倒事をこつこつとやってきただけ。嫌いじゃなかったから」
「でも別にゲームもそのWikiもさ、やらなくちゃいけないものじゃないでしょ?」
「それを言ったら世界にやらなくちゃいけないものなんてないよ」
「ほら、勉強とか宿題とか」
「やってないよ」
「桂介はそうだった」
陽香に言われると腹が立つよりも諦めるしかない感じが来る。いや確かに常に全部やっているわけじゃありませんけど最近は追いつけるぐらいには頑張って手を動かそうと努力はしているんですよ。している努力が形になっているかどうかは別だけど。
「私から見てWiki編集長の桂介くんはかなりしっかりと仕事をしているよ」
「そうなの?」
陽香が角野さんの発言に驚いている。そこまで驚くこともないだろ。
「桂介くんは落ち着いて状況見ることができるし、それにあまり問題も起こさないから」
「他の人が争いがちなのと僕がそういう意思表示が苦手なだけ」
「そういうところが評価されているっていうの、認められない?」
「……うーん」
認めたいか認めたくないかで言えば、たぶん認めたくないんだろうな。やっとそのあたりを直視できるようになってきた。
僕は正直自分のことが好きじゃないし、頼りにならないと思っているし、信用なんてしていないし、陽香と角野さんに挟まれて楽しくゲームをやっている自分を不相応な状態にあると思っている。
ただ、その裏で自分のことをできるだけ冷静に見てみようとすることもできている。多少は真面目で、それでいて怠け者。幼馴染からは間違いなく好かれているし、きちんと楽しい話ができる親友もいる。
それで満足とか十分だと思うときもあれば、欲張りにもっと欲しいと思うこともある。たぶん欲張らないといけないのはわかる。それはちゃんと目標を持って、成長するべきだって意味で。
「なんで桂介はこういうときに弱気になるのさ」
「私もさっきの選択はリスク回避を重視しすぎてこの先の問題解決には繋がらないと思うけど」
そういうものはどうしてもゲームの選択にだって現れる。いいじゃんシールド増やす分には足りたんだから。
「こっちのほうが安定すると思うけど」
「シールド強化はいつでもできるけど、購入はストアでしかできないよ」
角野さんに理詰めで言われると苦しいよな。別にこれだけのシールドが必要になる場合は今の時点では多くないし、単純に確率的に見れば無駄な投資になりがちだ。
「……でも、こういうときには役に立つよ」
そう言って、強敵マーカーが出ている宙域に飛び込む。普通はリスクが高いのでまず進むことはない場所だが、今の状態なら行ける。
「キツくない?」
陽香が言ってくる。うん、確かに多少のシールドを固めたところで楽に勝てる相手ではない。正直言って耐久値だけで見れば赤字だろう。でもこの敵はレアドロップを落とすんですよ。
画面を一時停止。初弾の回避にエネルギーを注ぎ込む。確率は五分と五分。
「やれるって」
そういって時間を進める。そして相手の攻撃は綺麗にこちらのサブリアクターを撃ち抜いた。
「やっべ」
「……桂介くん、ここから生存できるルートはある?」
「可能性がないわけじゃないから……」
そう言って使えなくなった武装の電源を切って余剰分をオーバーライドかけて主武装に回す。船体耐久値を犠牲にチャージ速度を加速させる浪漫装備で基本的にはコストが重すぎて使わないのだが、売り忘れていて助かった。
結果としてなんとか相手を倒すことができた。
「……これ、見たことない武器なんだけど」
陽香が言うように、相手がドロップしたのは正直マイナーなやつだ。使いにくい武器ランキングを作ったら三人に一人が上位に置くようなやつ。このあたりは結構プレイスタイルによって影響を受けるのですがね。
「強いよ、桂介くんのプレイスタイルには向いてないから売り払ってしまおう」
「修理抜いたら赤字か……」
そう言いながら宙域を離脱。ああ、結局無理に背伸びするとあまりいいことないね。着実にゆっくり行かなきゃ。