一度で二歩は進めない   作:小沼高希

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091 前提の関係

なんか遅くなる前にと流れで解散して、両親にあの二人とどういう関係なのかを優しく問い詰められて同級生だし陽香については知っているでしょうと説明した。もちろん二人の知っている陽香とは色々違うかもしれないけど、思春期って変化の多い時期ですからね。それでなんとか昨日の夕食は乗り切れた。

 

「……桂介?」

 

そしてその後ちょっと寝付きが悪かったので寝る向きを変えたり布団をひっくり返したり布団に丸まった状態で床に寝たりした結果なんか身体が微妙にだるくて寝不足です。どうして。

 

なので一限の終わりからうとうとして机に突っ伏しています。一応授業は聞いていたから。最後のほうが少しだけ怪しい気もするけれど。

 

「……疲れてる」

 

「……あたしの、せい?」

 

「そうかも……気にしないでいいけど」

 

陽香は心配性だし、どうせ僕の不眠がトラウマ由来だってことも察しているのだろう。別に気にされてもどうにもならないし、自分が寝れないことを陽香のせいにするほど僕も歪んではいない。いや、きちんと考えたら陽香のせいではあるんだけど、陽香を責めても何の意味もないとわかっているからしない、みたいな。

 

「話しかけられて、大丈夫?」

 

角野さんが隣から言ってくる。そういえば昨日はなんか暴走とまでは行かないけど少しリミッターが取れていたな。あれが意識的に抑えていない状態というなら、確かに暴力的なところはある。もっと意図的に開放されたら、どれぐらいになるのかは正直見当もつかない。

 

自分の言いたいことを、相手の心に引っかかるような形で言う。自分があまり考えないでいいように、相手に負荷をかける。別にそれが悪いとは言いたくない。僕だって陽香にそういうことをしているし、陽香だってしてくるし。

 

でも、それを抑えようって努力を僕はちょっとしている。陽香は無意識にやってそう。このあたりはちゃんと確認できないからわからないけど。何の話だったっけ、そうそう陽香だ。

 

「大丈夫だよ、昨日は二人といて楽しかったし」

 

声の届く範囲を考えるのを忘れたが、まあいいやと思おう。別に聞いている人もいないだろうし、聞かれて困る内容でもない。友達の一人や二人いたっておかしくないだろ。それに陽香は友達というよりも長年の付き合いから来た幼馴染だし。

 

「……本当?」

 

心配そうに聞いてくるのは角野さん。やっぱり昨日帰ってから自分の言ったことを思い出したりしたのだろうか。わからなくはないよ。

 

「うん、昨日ぐらいなら気にしないでいいから」

 

「……陽香さんは?」

 

「待ってなんの話?」

 

あ、わかってなかったんだ。というか陽香には自分の言ったことを思い出して反省するという感覚が薄そうだなと思ってしまう。いや、それはたぶん人間としてはそれなりにいいことだと思うのだけど、苦しんでいる僕側から見ると妬みの対象になってしまうのだ。

 

「……昨日の私が、かなりきついことを言ったでしょ?」

 

「中学の頃の桂介に比べればマシだよ?」

 

「ごめんなさい……」

 

思わぬところで流れ弾を喰らってしまった。顔を伏せたいが机にもう突っ伏しているのでどうにも落ち着かずに足首を絡めるように机の下で入れ替える。

 

「その頃の桂介くんって、どういう感じだったの?」

 

「ええとね……一緒のクラスだったのは三年生の時だったんだけど、なんていうか今より暗くて、友達なんかいらないってタイプっていうか、壁を作ってた」

 

「はい……」

 

「別に壁がなくても友達少なかったとは思うけどさ」

 

「はい……」

 

なんか昨日の角野さん以上というか、陽香がすごい勢いで僕を殴りに来ている。何か恨みを買ったかな。あとでお菓子とか奉納したほうがいいかな。でも昨日クッキー食べてたでしょ、あまり荒ぶらないでほしい。

 

「陽香さんは、容赦がないね」

 

そして角野さんが冷静になってしまった。

 

「……本当に危なかったら桂介は言ってくるし、あたしもそうしたら止める」

 

「桂介くんが言い返さないんじゃなくて、言い返せないとは思わないの?」

 

「なんで?」

 

「……そう。いや、他人を傷つけないようにって桂介くんは思っていると思うから」

 

「それって……なんていうか、相手のことがわからないからでしょ?わかってたらここまでは大丈夫、ってならない?」

 

「それで失敗したよね?」

 

あっ角野さんの言葉が強い。陽香がしばらく黙っているあたり結構効いたな。まあ、陽香はたまにこうやって思い出してほしい。別に思い出すだけで良くて、傷ついてほしいわけではないがこのあたりはちゃんと陽香は大丈夫なのだろうか。見たところ大丈夫だと思うが、僕の目は信用できないからな。

 

「一応僕から補足。このくらいの陽香は大丈夫だよ、あれより前は普通にこれぐらい言ってたし、僕もたまに返してた」

 

「……どういうふうに?」

 

「陽香にまともな友達いないくせにとか言ってた」

 

「それはちょっと私も擁護したくないな……」

 

なんだよ、昨日の強めの言葉を流してあげたのに。とはいえこれはあくまで僕と陽香の間でだけ成立するような言葉の話なので、それを角野さんに向けるのはよろしくない。別に強い言葉を使ったら仲良くなるわけではないし。

 

ああ、角野さんはこのあたりを間違えてしまったのかな、と思う。心を開いていい相手は信頼している相手であって、勝手に信頼して勝手に心を開かれたらこっちだって困るのだ。そう考えると、僕や陽香と角野さんの関係が変わってから角野さんが自分で自分のことに気がつけたのは良かったのかもしれない。

 

「……だからさ、角野さんがちょっと変なこと言ったぐらいでも大丈夫だよ」

 

「……別に意図的に傷つけたいとか、そういうわけではないからね?言葉が強くなると攻撃性が出るだけで」

 

「でも嫌な相手って、なんか言い負かしたくならない?」

 

「否定は、したくないけど……」

 

「それを抑え込みすぎるのも良くないよ」

 

陽香が角野さんになんかよくわからない指南をしている。やめておいたほうがいいと思うよ。そこにいるのは中学校の三年間を孤独の裏で誰かと話したくて、それでも自分の言葉の暴力性みたいなやつとずっと付き合ってきた僕よりも強い人だ。そんな人が相手を気にしないで振る舞いだしたら、陽香につけられたのと同じぐらいのトラウマを僕と陽香が負いかねない。

 

「……ほどほどの範囲で、色々言ってみる」

 

「それがいいよ」

 

ただ、角野さんの中ではどうにか折り合いがついたようだ。悪い方向になっていないことを祈るしか僕にはできないが。

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