一度で二歩は進めない   作:小沼高希

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097 再演の予感

「……いや、困るんだけど」

 

夕食の時、僕は両親にそう言った。三人で囲む焼き魚は半分ぐらいが身をばらされていた。

 

「何かあるの?」

 

「受験だろ」

 

母さんの問いに父さんが言うが、まあ確かに受験生で一年後に試験を控える身であることは事実ですがそうじゃないんですよ。

 

「年末に出かける予定があるって言ったよね」

 

そうやって僕はステラ・コルセア関連の予定を思い出す。開発スタッフがこちらに来る機会だから会いに行くというもの。ちょうど年末だから、両親が行こうとしている温泉で年越しをするプランは飲めない。

 

いや、実際そこまで興味あるかって言われたら微妙ですよ。何をやるんだって話ですし。温泉に入るのとスマホでゲームをするのを交互に繰り返すとかになるのかな。パソコンがないと作業はしにくいだろうし。もともと旅行好きってことで意気投合して結婚した二人だけど、僕にこのあたりは遺伝しなかったらしい。

 

そうしてしばらく議論をした結果、僕が普通に残ることになりました。別に残ること自体は以前からも多くあったんですが、前のやつは半年ぐらい前のことだな、と思い出せてしまう。

 

ただ、それには嫌な感じがそこまでしない。怖かったな、とかびっくりしたな、とかは思うが、たぶん相当注意して思い出さない限りは大丈夫だろう。今にして思えばどうして自分があれだけ無意味に怯えていたのか、と馬鹿らしくなるときはある。

 

もちろん、それがあまり良い考え方ではないこともちゃんと理解している。このあたりも角野さんといろいろ話せるようになった。なんていうか、生々しい話でも角野さんとはできてしまうのが本当にいけないと思う。

 

一方の陽香は、そういう形で僕を独占できずに角野さんに委ねる必要があるということを憎く思ってしまうことがあるらしい。角野さんの分析によれば、複雑な嫉妬というよりももっと単純な独占欲とか執着とかのほうが近いらしいが。

 

ただ、それを許せないということではないようだし、角野さんと陽香の関係も悪くない。なんか僕を誘った罰みたいな事を言って角野さんを遊びに誘う陽香とかがいるらしいが、このあたりはまだ角野さんもうまく言語化できていないらしい。少なくとも、楽しんでいるかどうか確認してくれる人が復讐みたいな口ぶりでいるのはちょっと混乱するそうだ。

 

ご飯を食べ終わって、お皿を洗って、お風呂に入って、とするともういい時間になっている。今日はちょっと三人で面白いことをしよう、としていたのだがそれにはちゃんと間に合っている。

 

椅子に座る。ヘッドホンをつける。ゲームを起動すると同時にトークアプリに入る。まだ見慣れない陽香のアイコンと、見慣れている角野さんのアイコンがボイストークのチャンネルに並んでいる。

 

「桂介、遅い」

 

「予定時間より前でしょうが」

 

「……楽しそうで」

 

陽香と僕の会話に呆れたような声色をする角野さん。どういうことかっていうとステラ・コルセアのマルチプレイですよ。

 

そういうMODを導入すると、三人のカーソルが色分けされて表示される。顔と空気はわからないけど意思表示をちゃんとしないと三人の行動が混乱して大変なことになるやつだ。

 

「桂介くんのほうはリアクター調整終わった?」

 

「この状況だと、僕なら多少無理してでもやりくりしやすくしたほうがいいと思う」

 

「角野さんならなんとかならない?」

 

「一時停止ないから難しいと思う」

 

そんな会話をしながらプレイは進んでいく。三人でいるとやっぱり意思疎通のデメリットはあるけど一人じゃできないことができるな。

 

「だからさ、結局一人で年越しするわけ」

 

僕はそう言いながら攻撃が狙った場所に当たるように祈っている。そして祈りは通じてくれた。やはり日頃の行いがいいからだな。

 

「……ねえ、桂介」

 

「なに?」

 

「遊びに行っていい?」

 

「いいよ」

 

あくまで軽く。こういう話を第三者の前で平然とするのってなんか変な気がするが、ふたりきりで会話するよりはよほど健全だと考えるしかない。角野さんのカーソルはどの武器を買うべきかポップアップの情報を悩ましげに行ったり来たりしている。

 

その意味ぐらいは、わかっているつもりだ。

 

「同意なければ何もしないでね」

 

「……わかってる、失敗したくないから」

 

前の問題の一つは僕が明確に断らなかったから陽香が誤解したことだ。もちろんあの場合は誤解しようがなんだろうが手を出したほうが悪いのは間違いないのだが、だからといって誤解を減らす努力が否定されるものじゃないだろ。

 

「それはそうと桂介くんが年末に体力残っているかは保証しないからね」

 

角野さんが言う。雰囲気を壊そうとしてきているのかな。それはそれでいいけど。

 

「あれだっけ、このゲーム作った人が来るんだっけ」

 

「そうそう。そのおまけで大規模オフ会も開催するし」

 

「大変だね……」

 

角野さんはインターネット上ではそれなりに真面目な人物で通っているので僕と裏で手を組んで何かをすると大抵通る。一応未成年なのでオフ会の幹事はやっていないがそれでも支援とかに回っています。

 

「だから、桂介くんは年末疲れていると思う。あまり無茶なことはさせるべきじゃないし、寝正月でもいいと思うよ」

 

「そっか……」

 

角野さんが陽香をうまく説得してくれたおかげで、僕は楽しいだらだらとした年末年始を約束されることになった。退屈すぎないかと心配になるが、もしやろうと思えばやることは山ほどあるからな。具体的には受験勉強とか。

 

ああ、嫌でもあと一年ぐらいすればそういうことをやらなくちゃいけなくなるのだ。高校受験の時にそれなりに頑張った記憶があるが、大学受験ってそれより上なわけだよな。陽香は推薦とか行けるかもしれないが、そもそも真面目に授業を受けていない僕には難しい話だ。

 

つまりは勉強をしなくちゃいけいない。目標をそろそろ確認してもいいかもしれない。共通テストとか過去問とかいうものは噂には聞いているが実際に見た記憶はない。授業で大学入試の過去問からの引用を出してくる先生はいるけど、それって試食みたいなもので試験全体とは別だよな。

 

そもそも志望校とかも何も考えていない。高校生活はもういつの間にか半分終わっていたのだ。もう半分終わるのは、たぶん一瞬だろう。

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