夜の街。仕事を終えたサラリーマン、買い物帰りの主婦、様々な人々が行き交う中、その活気を引き裂くように複数の女学生が、人々の間を縫って駆け抜ける。
「―――邪魔だ!どけッ!!」
焦った表情で駆ける少女の手には、制服姿に似つかわしくない無骨な銃が握られていた。
「くそっ……アイツらからガラクタを奪うだけの簡単な仕事じゃなかったのかよ!」
「だからやめておこうって言ったんだっ!どう考えても怪しいって―――うわっ!?」
文句を言う少女たちに向けて、発砲音が鳴り響くと同時に複数の銃弾が少女たちの横を通り過ぎる。音のした方を見るとシスター服を着た集団が、銃を握り締めて少女たちに迫っていた。街中で突如始まる銃撃戦に、住民たちは戸惑うことなく、いつものことのように散り散りに離れていく。
「おい!こっちだ!」
不利と感じた少女たちの内の一人が、路地裏を顎で示し入っていき、他の者もそれに続いて路地裏に逃げ込んでいく。
少女たちが路地裏へ逃げ込んだ後、シスター服の集団が路地裏の入り口を包囲するように集まる。そして、集団の一人がおもむろに耳に手を当て話し出す。
「こちら"S"。ネズミは路地裏を通り南下しています」
『こちら"A"。了解』
「……確認したよ。"A"はこれよりネズミを駆逐します」
ビルの屋上。シスター服を着た銀髪の少女は、耳に付けているインカムのマイクをオフにすると、太もものガンホルダーから二挺の大型拳銃を取り出す。
眼下にある路地裏を走る少女たちを見据えると、ひとつ深呼吸をした。
「……ふぅ―――月読アリア、行きます」
アリアと名乗った少女は、とん―――と階段の段差を降りる様な気軽さで、ビルの屋上から飛び降りた。
◇
「はぁ……はぁ……あいつら、追って来てないよな……?」
少女の一人が後ろを確認し、誰も来ていない事が分かると大きく息を吐く。
「……他の奴は逃げ切れたっすかね……」
「……」
元々少女たちは二十人ほどのグループだった。それが今や、たった六人程度。他の者は散り散りになってどうなったかも分からない。
―――コツン……
「……ッ!?」
自分達の来た方向から音がして慌てて振り返る少女たち。
コツ……コツ……と靴の踵がアスファルトを叩く音が響く。夜闇に閉ざされた路地裏で姿は見えないが、もうすぐそこまで来ている事は音の反響からすぐに分かった。先程話した仲間か?あるいは追手か?
そして、足音が近くが止まる。少女たちは各々が持つ銃を構え―――る前に発砲音。三発続けて放たれたソレは、仲間の一人を吹き飛ばしその体を横倒させる。
「―――ッ!?」
夜の帳を開くように、雲間から月が顔を覗かせ、襲撃者を明らかにしていく。
カラン、カラン、と空になった薬莢が足元に転がってくる。―――50AE弾、大口径ハンドガンに用いられるそれを見て、ゾッとした。襲撃者は歩を進め、銃を構えたまま月の光の当たる場所まで出てくる。
まず見えたのは編み上げのブーツ、次に特徴的な意匠の黒いワンピース……シスター服とも言うそれに身を固くする。その手には彼女達の組織がよく使う大口径ハンドガン、デザートイーグル。黒いヴェールから覗かせる白銀の髪が絹糸のように揺れる。そして金色に輝く両の眼が少女たちを捉える。
「―――こんばんは」
少女たちより頭一つ小さい銀髪の彼女は、鈴の音のような声を響かせて挨拶をした。服の裾を一つまみ。可憐で清楚、という言葉が似合いそうなほど、あまりにもこの場においては場違いすぎる彼女。
「あなた達が盗んだ、アリアたちの大切なものを返していただけますか?」
だが、すでに仲間が撃たれたのだ。はい、そうですかなんて言えるはずも無く。
「―――ふざけるなッ!!」
当然のように銀髪の少女へ銃を向けると、躊躇なく引き金を引いた。狭い路地裏、避ける場所なんて無い。銀髪の少女はふっと息を吐くと、高く跳躍し銃弾を回避する。
「な―――!?」
月明りに照らされながら飛び上がった彼女の背には、羽が
「銀の……片……翼……ッ」
空中に飛び上がりながら、銀髪の少女は二挺のデザートイーグルを構えると数発、地上に向かって発砲する。彼女に撃たれ、また二人悲鳴を上げて倒れる。
「くっ……!?」
軽やかに着地した彼女に向けて発砲を繰り返すが、銀髪の少女は常人とは思えぬ速度で銃弾を回避すると、こちらに距離を詰め一気に肉薄する。
「こ、こいつ、速すぎるッ……!?」
「『ふふっ、何言ってるの?アリアたちが速いんじゃなくて、あなた達が遅すぎるんだよ!』」
いつの間にか手にしていた真紅の大鎌を、銀髪の少女は躊躇いもなく振り下ろす。
「なん―――ぐぁ!?」
「『アハハっ!』」
「これで終わりだよ」
トドメと言わんばかりに、銃を持ち直した彼女は少女たちを撃ち抜いて行く。そして、立っているのは彼女だけになった。
「……うぅ」
「……っ」
一方的な殺戮と言っても差し支えなかったが、誰ひとりとして死んではいない。銃で撃たれたり、刃物で斬りつけられても"ちょっと殴られた"程度で済むのが、この世界の常識だ。この銀髪の少女も少女に倒された者たちも、それが"当たり前"の世界で生きている。
「『アリアたちの勝ちー』。それじゃあこれは返してもらうね」
地面に落ちた四角い匣のような物を拾い上げると、それを懐に仕舞う。
「こちら"A"。無事遺物を回収したよ」
『こちら"S"。お疲れ様です、後のことは任せてください』
「うん。『これなら、アリアたちが出るまでも無かったね』。どうだろう?万が一もあるかもしれないし。『"アリア"は心配性ね』」
『ふふ、ではまた後ほど』
通信を終え、インカムを外して仕舞うと息を吐く。あとは他のシスターたちに任せて帰っていいだろうと、足を踏み出そうとした時だった。
「お……思い、出したぞ……」
まだ気絶して無かった少女が、倒れながらこちらを見て声を上げる。
「二挺の大型拳銃……紅い聖銀の大鎌……銀の髪に、銀の片翼……お前―――"白銀のアリア"!!」
「……『ふふっ』」
妖しい笑みを浮かべたアリアが、真紅の大鎌を振り上げる。
「『正~解~♪』」
振り下ろすと同時に鈍い音が辺りに響き渡り、少女の意識はそれっきりだった。
「もう……やりすぎだよ"アリア"。『えー、ちゃんと峰打ちで済ませたでしょ?』そういうことじゃないよぉ……。何か言われるのは"アリア"じゃなくてアリアなんだからね。『ふふ!何言ってるの、アリアたちは―――一人で二人の
『アリア』とは、アリアがこの世界に来た時からの付き合いだ。……いや、"来た"というのは語弊があるかもしれない。正しくは、引っ張られて来たというべきだろうか。
「アリアたちは、ふたりぼっちのアリア、だもんね」
そう言いながら、アリアは近くの窓を覗き込む。彼女の
思い返すはこの世界に来た時の事、『アリア』に出会ったのもその時だった……。
久しぶりに書いたから鈍ったかもしれない。
続きの2話目は夕方か夜ぐらいに上がるかも。
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