「え?ホントに着るの?」
「『制服なんだから着ないとダメでしょ?』」
「そうなんだけどぉ……」
目の前に広げた紐タイプのスカート。吊りスカートって言うんだっけ?と男物と違って柔らかい素材のシャツ。
「『ブラウスだよー』」
「うぅ……」
「『もう、"アリア"が着替えないならアリアがやっちゃうからね』」
「―――わぷっ!?」
痺れを切らした"アリア"が、ワンピースみたいなパジャマに手を掛けると、一気に頭から脱ぎさる。脱ぐときにミルクのような甘い匂いが鼻腔をくすぐり、これが女の子の匂いか……とドキドキした後、アリアはロリコンじゃない!と頭を振って煩悩を追い出す。
何も考えずに着替えよう。早く着替え終われば、この天国のような地獄から救われるはず……!……と、思っていたのだが。
「あ、あれ、ボタンが留まらない……」
「『ボタン逆だよ?』」
「ファスナーを閉めて……ってあれ?この紐、肩にかからないけど設計ミス?」
「『ファスナーは前じゃなくて横だよ?』」
「うぅ……!下がすーすーして落ち着かない……!」
「『スカートだからね』」
「……やれやれ、これから大丈夫なのだろうか」
アリアが着替えに悪戦苦闘していると、部屋の外で待っているセイアのそんな呟きが聞こえた気がしたのだった。
「『とうちゃーくっ!』」
制服に着替えた"アリア"は、その後セイアを背負って学校へ向かった。
「うむ、毎朝助かるよアリア」
「……もしかして、毎日こうやってセイアを運んでるの?」
呆れた目でセイアを見ると、慌てて弁明しだした。
「待ってくれ、違うぞ。これは、アリアが親切心で勝手にやってる事なんだ。だから、私がやらせてるわけではない」
「『えー、セイアが言ったんじゃない。『"学校に行く必要なんかないだろう。え?学校に行くことが重要?だったら君が運んでくれ"』って』」
「まて、それをバラすんじゃない!」
「『アリアと"アリア"は記憶も共有してるんだから、いつかはバレるよ』」
「あ、あはは……」
それにしても、いくらセイアが軽いからって、通学カバン二つとセイアを背負っても大した重さを感じないのはすごい……。それどころか、"アリア"はそのままの状態でアクロバティックな動きすらできる程に、体が軽かった。……背負っていたセイアは文句を言っていたけど。
それでも、背中から降りなかった辺り、本当に移動が面倒なんだ……。
その後、クラスが違う為、途中でセイアと別れ"アリア"の案内もあって無事アリアのクラスに到着する。
「お、おはよー……」
よし、ごく自然に教室に入れた。
「えーっとアリアの席は……」
「『窓際の席だよ』」
「あ、ここだね」
ふーっと息をついてカバンを机の上に置くと、前の席の子と目が合った。
「えっと、アリアちゃん?すごい自問自答だね?」
やばい、"アリア"と話してるの聞かれてた、どうしよう……。
「『ごめんね、"アリア"は生まれたばかりだから情緒が不安定なの』」
「ちょ、"アリア"!?」
「……あ、アリアちゃん……きっとものすごく辛いことがあったんだね。私にできる事ならなんでもするから、いつでも頼っていいからね?」
前の席に座っていたピンク髪の子は、瞳を潤ませながらアリアの手を両手で包み込むように握り、そのままブンブンと手を振られる。痛たたたって力が強いっ!?
ところでこのピンクの子は誰なんだろう。前の席ってことはそれなりに話す仲だろうし、"アリア"の記憶を辿れば思い出せるかな。
「……ミカさん、アリアさんが迷惑してるのでその辺にしたらどうです?」
「あ!ナギちゃん!聞いてよー」
名前を聞いた瞬間、思わずピシッと凍り付く。同時に"アリア"の記憶から二人の名前が口を突いて出る。
「えっと……ミカ、あとナギサ……?」
「?はい?」
「どうしたのアリアちゃん?」
えぇ……一学年に結構クラスあるのにドンピシャで普通当たる?
「あ、ううん。ごめん、なんでもないの。ちょっとセイアと話したこと思い出してただけで」
「あー、他組の百合園セイアちゃん?そういえば、二人は家が隣同士なんだっけ?」
隣……?東京ドームくらい離れてるんだけど……いや、たしかに間に他の家は無いけど……。……ミカの口ぶりからして、まだセイアとミカ達は出会ってないんだ。もし、今の時点でセイアとミカ達が知り合って仲良くなったなら……。
でも、そうした場合のリスクは当然ある。リターンも大きいとはいえ、本来の流れから外れて"未来"を、"運命"を捻じ曲げる様な事をしてもいいんだろうか……。
どうすべきか悩んでいると、ふと窓越しに"アリア"と目が合った。
「『何を悩んでいるの?』」
「それは、その……」
「『なーんて、"アリア"の記憶を見たから分かるよ』」
「……うん、こういうのってもっとこう、偉い人たちが何時間も頭を悩ませて結論を出すような物なのに、アリアが一人で決めちゃっていいのかなって」
「『―――ひとりじゃないよ』」
「え?」
「『アリアたちは、ひとりじゃない。ふたりなんだよ。だから、大丈夫。アリアだって未来が分かったら同じように行動するもん。だから、"アリア"だって同じだよ』」
「……うん」
窓越しに手を伸ばすと、"アリア"も同じように手を伸ばしてきた。冷やりとした窓越しに、たしかに"アリア"の熱が伝わった気がした。
「ありがとう、"アリア"」
窓越しに赤い瞳が優しく微笑んだ。
「ね、ねえ、ミカとナギサに紹介したい子がいるの。もしよかったらなんだけど、放課後時間空いてるかな……?」
アリアの言葉に、ミカとナギサは互いに顔を見合わせた後こう言った。
「「え?」」
というわけでルート分岐です。一体何が起こるというんだ……。
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