ガールズ&パンツァー 鉄脚少女の戦車道   作:流水郎

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夜明け前です!

「大洗が勝ったよ、だって」

 

 結衣が澪からのメールを読み上げた。澪を除く隊長車のメンバーはBブロックの、サヴォイア女学園と決号工業高校の試合を視察していた。結衣は澪が自分ではなく船橋たちに同行したいと言ったとき、驚くと同時に嬉しく思った。少しずつではあるが、彼女は着実に強さを得ているのだ。

 以呂波、結衣、美佐子、晴の四人は身を寄せ合い、冷たい夜風にココアで対抗しつつ観戦している。結衣の言葉に美佐子は紙コップから口を離し、「おおっ」と声を上げる。

 

「じゃあ次、あたしらと大洗女子が戦うの!?」

「美佐子、ルール忘れたの? 準決勝は共闘するのよ」

「あ、そっか!」

 

 AブロックとBブロック、それぞれ勝ち進んだ二校が連合を結成して戦い、勝利したチームで決勝戦を行う。『士魂杯』はそのような変則的なトーナメントで成り立っていた。戦車道連盟も全国大会ではなかなかできないような「遊び」をしてみたかったのだろう。

 千種学園はすでに二回戦を勝利しており、Aブロックチームは千種・大洗連合となることが決定した。対するBブロックチームはドナウ高校が確定済みで、それと組むチームはこれから決まるのだが……

 

「決号の勝利は確定だと思うかい? 我らが隊長」

 

 扇子を顎に当てつつ、晴が尋ねた。以呂波は巨大モニターに映る図をじっと見つめている。

 

「千鶴姉なら、この状況で仕損じるようなことはしないでしょう」

 

 最後の一両となったM15/42中戦車は倉庫に立てこもり、決号側はその周囲に陣地を展開していた。以呂波は布陣を見れば姉の目論見は分かった。

 まず、相手が倉庫から飛び出したところへ二式砲戦車『ホイ』二両、三式砲戦車『ホニIII』二両の計四両で集中砲火を浴びせる。その後方には隊長車である五式中戦車『チリ』、そしてフラッグ車を含む四式中戦車『チト』三両が待機していた。これらは敵が砲戦車の砲撃を避けて逃げようとした際、その先へ回り込んで蓋をするための戦力だ。

 

「プラウダが大洗に使った包囲戦術と似てるわね」

 

 結衣が言った。昨年の全国大会の映像は研究資料として何度も見てきたが、彼女は特によく研究していた。

 プラウダとの違いは家屋などの障害物を利用し、巧みに戦車を伏せてあることだ。一弾流の得意とする戦術であり、夜間ともなればなお位置が分かりにくくなる。たった一両で突破し、フラッグ車を狙うのは困難を極める。

 だがそんな状況下でも、サヴォイアの隊長・カプチーノは打って出る気でいるようだ。ただで負ける気はないのだろう。

 

「それにしてもお姉さんの戦車、どうしてあんなにボロボロなの?」

「ああ、相手に威圧感を与えるためって言ってるけど……」

 

 結衣の質問に、以呂波は苦笑しつつ答える。姉・千鶴の乗る五式中戦車は塗装の剥げや弾痕が数多く見受けられ、モニターに映る姿には不気味な凄みがあった。終戦に間に合わなかった車両ということを考えると、なおさら亡霊のように見える。プラモデルでもそうだが、こうしたウェザリングは無闇に行うものではない。みすぼらしさを出さず、威圧感を演出するよう計算して疵をつける必要があるのだ。千鶴はそうした『芸術』に関してこだわりを持っていた。

 

 だが以呂波は、これが単に姉の趣味の延長であることを察していた。

 

「千鶴姉、ボロボロのジーパンとか好きなんだ」

「……なるほど」

 

 結衣が納得の表情を浮かべたとき、観客席がどよめいた。サヴォイアの隊長車、M15/42が動き出したのだ。

 以呂波たちの視線も巨大モニターに集中する。M15が倉庫から飛び出した瞬間、隠れていた二式・三式砲戦車が姿を現した。三式砲戦車は固定砲塔ではあるが、九〇式野砲を転用した75mm砲を搭載し、日本戦車としては高い対戦車火力を誇る。二式砲戦車は短砲身だが『タ弾』と呼ばれる成形炸薬弾があり、命中すれば距離によらず100mmまでの装甲を貫通できる。

 

 四両の砲戦車が一斉に火を噴いた。まともに食らおうものなら、最大装甲厚45mmではひとたまりもない。だがM15は紙一重で急停車し、辛くも直撃弾はない。砲撃を見越していたのだろう。車長が砲塔に身を収めるのと同時に急発進し、回避運動を取りながら砲火の方向へ吶喊した。

 

「突っ込む気だ!」

 

 大洗がプラウダの包囲網を破ったのと同様の戦術である。だが砲戦車の間を突破したとて、その先には四式・五式中戦車が伏せてあるのだ。力づくでの正面突破は不可能だろう。

 初撃を外した砲戦車は後退し、再び隠れようとする。しかし今度はM15が撃った。先ほどの一斉砲撃に比べると、47mm砲の発砲炎は貧弱だった。しかし。

 

「当てた!?」

 

 以呂波は思わず驚愕の声を上げた。暗闇の中、しかも走りながらの射撃だったにも関わらず、二式砲戦車を直撃したのである。命中したのは正面装甲だったが、最大装甲厚50mmでは耐えられない。間もなく撃破判定が出た。

 さらに、もう一両の二式砲戦車にも砲を指向する。次の瞬間には二度目の砲撃が放たれ、狙い違わず命中した。

 

「装填早っ!?」

 

 今度は美佐子が叫んだ。47mm砲弾は比較的軽量だが、それにしても素早い装填速度だった。恐らく初弾を込めた後、すでに二発目を手に待機していたのだろう。

 そしてM15中戦車は車長が砲手兼任、つまり隊長のカプチーノが砲撃を行っている。作戦の拙さから一方的に追い込まれても、戦車乗りとしての技量は乗員共々、かなり高いと見て間違いない。

 

 いつの間にやら、観客席にイタリア民謡『ベラ・チャオ(さらば恋人よ)』の歌声が響いていた。応援に訪れていたサヴォイア女学園の生徒たちだ。気品ある佇まいの令嬢たちが激しく手を打ち鳴らし、パルチザンの歌を高々と歌う。それに応えるかのようにM15が躍進した。

 

 カプチーノは撃破した二式に自車を寄せ、ハッチから顔を出して周囲を見渡す。残骸を弾除けに使うつもりだ。後方で待機していた四式中戦車二両が家屋の陰から出てくるものの、M15はすぐに残骸の背後に隠れてしまう。回転砲塔のない三式砲戦車は照準を定めるのに時間がかかる。残骸の周りを細かく移動することで、カプチーノは巧みに射線をかわしていた。

 

 そして次の目標へ狙いを定める。入り組んだ場所では必然的に交戦距離は近くなるものだ。47mm砲でも四式中戦車の正面なら貫通できる距離だった。

 残骸の陰から飛び出しつつ、M15が発砲。同時に四式も撃った。しかし75mm砲弾はM15の側面を掠めるのみで、撃破判定には至らなかった。M15が途中で減速したため、タイミングがずれたのである。一方、四式の片方には弾痕が穿たれていた。

 

《決号工業・四式中戦車、走行不能!》

 

 アナウンスが流れる頃には、M15はもう一両の四式へと肉薄する。このまま突破しようというのだ。そうすれば一度離脱して、フラッグ車を狙うことも不可能ではない。

 

 だが、ここで二人乗り砲塔の弱みが出た。照準を合わせるカプチーノは背後が見えない。

 そのため後方に回り込んでいた、一両の二式軽戦車に気づかなかったのだ。

 

 刹那、発砲音。二式軽戦車『ケト』の37mm砲が直撃した。ただし本体ではなく、左の履帯に。断裂した履帯は走行能力を失い、M15は行き足を止めた。

 

 そこで四式中戦車の後方から、傷だらけの巨体が姿を現した。五式中戦車『チリ』。一ノ瀬千鶴の乗車だ。

 カプチーノは尚も果敢に反撃を試み、五式へと主砲を指向する。しかし、今度は五式の方が早かった。

 

 高射砲をベースとした75mm砲が、闇夜に火を噴いた。M15の車体が大きく揺れ、装甲を繋ぎ止めるリベットが弾け飛ぶ。

 砲声の余韻が消え去った頃、M15の砲塔から白旗が姿を見せた。

 

《サヴォイア女学園フラッグ車、走行不能! 決号工業高校、勝利!》

 

 試合終了。

 観戦していたサヴォイア女学園の生徒たちは一斉に拍手を行った。カプチーノの奮闘を讃えるために。

 

「凄い腕前……というより、戦意が凄まじかったわね」

「……うん」

 

 結衣の言葉に、以呂波は頷いた。勝利したのは千鶴だが、カプチーノは最後に大立ち回りを演じ、母校の面目を保ったのである。M15の装甲なら二式軽戦車の主砲、五式中戦車の副砲である一式三十七粍戦車砲でも貫通できただろう。それを敢えて、五式中戦車の75mm砲で倒したのは千鶴なりの敬意だ。妹である以呂波には分かっていた。

 

「サヴォイア女学園って所は、そりゃもう上品なお嬢様学校さ」

 

 モニターに向けて拍手を送りながら、晴が口を開いた。

 

「だから生徒を狙った犯罪だのストーカーだの、そういうのが増えた時期があってね。生徒は自分たちの身を守るために自警団みたいな物を作った。戦車道もその自警団が中心になって始めた、言わば示威行動さね」

「なるほど、それで……」

 

 以呂波は腑に落ちたように頷いた。あの粘り強さはチームの結成理由に起因しているのだろう。パルチザンの歌を応援歌にしているのも、おそらくそのためだ。

 

「お晴さん、詳しいですね」

「はは。ま、ちょっとね」

 

 笑いつつ、晴は残りのココアを飲み干した。

 

 サヴォイアの奮闘は讃えられるべきだが、戦略的には千鶴の方が優れた指揮官だった。試合結果も決号の勝利に変わりない。

 しかしこの結果を、姉はどう捉えているだろうか。以呂波はそれが気になっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「鶴、そろそろ帰ろうや」

 

 五式中戦車の砲塔に腰掛ける千鶴に、亀子が声をかけた。ん、と一言返し、千鶴は尚も腕を組んで考え込んでいる。亀子は彼女の心中を、何となく察することができた。決号工業高校で廃部となっていた戦車部を復活させたときから、彼女は千鶴の側にいたのだ。

 

「一両仕留めるのに被害三両、高くはついたな」

「……ん」

 

 千鶴は頷いた。所詮はワンサイドゲームだったが、最後の一両の反撃がすさまじかった。それでも序盤に九対一という状況に持ち込んだのだから、千鶴の作戦指揮は明らかにカプチーノより優れていた。だが千鶴はこの結果に、思うところがあった。

 

「西住流は一弾流のやり方を邪道だって言うけど、それは正しいんだわ」

 

 千鶴は副隊長の方を振り向いた。亀子は少し眠そうな表情だった。

 

「戦うからには相手より上の質と量、それを支える兵站を整えてからやり合うのが王道だ。それができないなら、戦争を避けることを考えなきゃな」

「鶴、それは戦車乗りの分を超えてらぁ」

 

 亀子の意見が正しいことを、千鶴は認めた。実際の戦争における前線指揮官の役目は、与えられた条件下で最大限の戦果を上げること。王道の戦を行う基盤を整えるのは軍上層部、そして政治家の領分である。そういった連中があまりにも頼りなかった大戦末期の日本で、一弾流は生まれたのだ。

 前進も後退もできず、それなのに国は戦争を続けようとしている。そんな状況下で一日でも一時間でも踏みとどまり、一人でも多くの敵を道連れにする。そのために結成された戦車隊が、一弾流の基だった。

 その邪道の戦車道こそ、千鶴は自分に、そして決号工業高校に最もよく似合っていると信じている。そして邪道の戦いで多くの勝利を重ねてきた。しかし。

 

「この大会は相手もまた邪道……一回戦の赤島農業高校との試合もそうだった。そんで次は以呂波と、かの西住みほをまとめて相手にするときた……」

「今の一弾流じゃ足りねぇってか。そのためにアレを注文したのかい?」

 

 副官の言葉に、千鶴は微笑を浮かべた。すでに兄との商談は成立し、準決勝までに新兵器が決号へ届く手筈になっている。一弾流の戦闘教義にその車両が加われば、より幅広い戦略が可能になるのだ。

 

「……帰るぜ、亀」

「総員、撤収だ! 戦車をトランスポーターへ乗っけろぃ!」

 

 亀子が威勢の良い大声で、クルーたちに指示を伝える。星のまたたく空を見上げ、千鶴は妹のことを考えていた。

 

「『あたしの一弾流』と『以呂波の一弾流』……ぶつかったらどうなるかな」

 

 

 

 

 

 

 

戦車道『士魂杯』

準決勝

 

Aブロックチーム

千種学園・大洗女子学園

 

 

Bブロックチーム

ドナウ高校・決号工業高校

 

 




お読みいただきありがとうございます。
どうも最近、幼い頃から悩まされてきた腹痛が悪化しております。

原作キャラの登場を期待していた皆様、申し訳有りません。
次回までお待ち下さい。
今後も頑張って書いていきますので、応援していただければ幸いです。
ご感想・ご批評などお待ちしております。
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