「おはよう……おはよう……」
「うっ……ッ……ここは」
声がする。
それは男の声だ、具体的に言うなら香川県生まれ44歳、ゲーセンのあとに焼肉行ってゲーセンに行くような男の声だ。
虎杖悠仁は目を覚まし、辺りを見回した。
たくさんの札が壁一面に貼ってあり、足元には光源となる灯籠がある。
そして、床一面に刺さった割り箸。
「えっ、何この割り箸……」
「今の君はどっちかな」
「いや、割り箸……えっ、なにこれ……アンタ確か」
「僕の名前は五条悟。呪術高専で教師をしている」
「割り箸……呪術……伏黒!」
圧倒的スルーに困惑するも混濁した記憶が、ここに至るまでの道筋を思い出させる。
そうだ、俺は先輩達を救うために伏黒と学校に行って……そんで金髪のアフロが鼻毛で俺を包んだ。
いや、俺の記憶は何がどうなってるんだ?
「そして俺の名前はボボボーボ・ボーボボ」
「誰ェェェ!?えっ、さっきの人は!いつからアフロが」
「俺のことはボボーボと呼べ」
「えっ、ボボーボ……」
「気安く呼ぶなぁぁぁあ!」
「ぐえっ!?」
突如として現れた金髪アフロ、何を隠そう彼こそは本作の主人公である。
そして流れる、今までの記憶。
あれは確か……
ここまでの回想。
大地震によって発生した次元の裂け目に巻き込まれた虎杖悠仁と伏黒恵は呪術全盛の平安時代に辿り着く。
そして、両面宿儺という巨悪に挑むべく呪術師達と協力して……
「どういうこと!?存在しない記憶なんだけど!?」
えっ、あれ、おかしいな。台本間違えてるんじゃないの、第一話だよ。あっ、こっちね。頼むよ、虎杖くんも困惑だよ。
ここまでの回想。
両面宿儺の指という特級呪物を回収しに来た伏黒恵は、ひょんなことから虎杖悠仁と出会う。
虎杖悠仁が特級呪物を持っていると思い問いただしたところ、既に呪物は他人の手に渡っていた。
しかもそれは呪術も知らない一般人。
虎杖と伏黒は、学校で封印を解こうとしている虎杖の友人達を救うべく学校に乗り込むのだった。
「御札ってそんな簡単に取れるの?」
「いや、普通は呪力のない一般人には無理だ。だが年代物も年代物、今は封印なんて紙切れ同然だ」
「そうなんだ!右、こっち近道」
虎杖と伏黒は走っていた。
何を隠そう両面宿儺の指の封印を虎杖の友人が解こうとしていたからだ。
そして辿り着いた学校は昼間と違って、ちょっとした薄気味悪さがある。
それは呪霊の影響もあり、悪寒や息苦しさとでも言う重圧を感じさせた。
「わっ、なんだこのプレッシャー!」
「遅かったか、お前はここにいろ」
「なぁ、危ないんだろ!一月、二月の付き合いだけど友人なんだ……ほっとけねぇよ」
「ここにいろ、分かったな」
そう言って、校門を飛び越えていく伏黒。
虎杖はその後ろ姿を黙って見ているしかなかった。
そして学校に侵入した伏黒、そこには呪霊の気配がした。
「呪いが解き放たれた、相変わらずぐちゃぐちゃだ」
「ちゅーるちゅーる」
階段を登る伏黒、廊下には犇めくように溢れる呪霊達。
両面宿儺の指に呼び寄せられた呪霊達だ。
「邪魔だ!玉犬!」
「えっ、チュール?わーい、どこどこー」
そんな呪霊達の前にオレンジ色のトゲトゲとした何かが現れる。
伏黒はその姿を知っている、それは術式によって呼ばれた式神。
「まさか、来てるのか!あの人が」
「おっ伏黒じゃん、どうし……」
「グルルル……バウバウ!」
「待て!あっ……」
「ぐあぁぁあ!食われる食われる!ぎゃぁぁぁ!」
「首領パッチさん!」
その名も首領パッチ!アルプスに住んでる妖精(自称)の謎生物だ。
金平糖のようなオレンジの体に顔が直接ついており、顔から手足が出たような謎の生物だ。
「ふぅ……致命傷だったぜ」
「全然、大丈夫じゃない!?」
「肝っ玉がちいせぇなぁ、喰って良いぞ」
「いや、喰われてるのアンタだよ!」
頭から流血して、現在進行形で犬に噛まれてる謎生物だ。
ちなみに玉犬の黒い方は黙々と呪霊を狩っていた。
「離せ、玉犬」
伏黒の命令に、首領パッチに噛みつくのを止める玉犬。
話が進まないと思った伏黒の判断だ。
「やれやれ、困った子犬ちゃんだ――」
そして首領パッチの前で二足歩行になって顔をビンタした。
「えっ……打たれ、えっ?」
「黙れ小僧!森へ帰れ!」
「喋ったぁぁぁ!俺の式神喋れたぁぁぁ!」
そして何食わぬ顔して黒いのと合流する玉犬。
伏黒は呪霊による幻覚攻撃を疑った。
「って、そうだどうしてこんなところに」
「そう、あれは俺がコーラを買いに行った時の話だ」
「あっ」
「えっ?」
伏黒の眼の前でガラスが割れて、何かが廊下に入ってくる。
それは、途中で別れた虎杖だった。
なお、窓の前には首領パッチがいて、窓ガラスが全部刺さってる。
「助けに来たぞ!オラァ!」
「ブッ!」
「首領パッチさぁぁぁん!」
虎杖に蹴られて吹っ飛んでいくオレンジの物体。
まさかの間違いにより、攻撃されてしまったのだ。
残心、蹴り上げた姿勢で伏黒の顔を見た虎杖は何かを間違えたのを察した。
「俺、なんかやっちゃった?」
「あぁ、いや、まぁ、あの人は不死身だ」
「待って人?人なの、呪霊じゃなくて」
「手足あるし、多分人だ」
正直、伏黒も分かってなかった。
だって、何か顔が歩いてるし。
「小僧!貴様ぁぁぁ!」
「わぁ、なんかごめん、間違えちゃって」
「許さん!許さんぞぉ、メケメケメケ」
「どういう鳴き声!」
首領パッチの手には宿儺の指が握られていた。
それを見せつける首領パッチ、一体何をするつもりなのか。
「俺は人間を辞めるぞ小僧!宿儺の指を食って、人間を超越する!」
「人間なの!?てか食ってどうするの!?」
「喰って強い呪力を得るんだよ!」
「冗談はやめてください!」
うるさい、と首領パッチが指を飲み込もうと口を開けた瞬間。
首領パッチが天井を見上げたまま固まる。
「ちょ、ちょうううだい」
「ぎゃぁぁ、呪霊ぃぃぃ!」
「逃げろ!?」
首領パッチごと宿儺の指を取り込もうとした呪霊による奇襲だ!
それは首領パッチを殴り飛ばし、飛んできた首領パッチにぶつかり伏黒が体勢を崩す。
「伏黒!」
「くっ……鵺ッ」
「か、返せよ!僕の宿儺の力がぁぁぁ!」
式神を出そうとするも、そのまま壁に叩きつけられて校舎を壊してふっ飛ばされる。
ふっとばされた先は校舎の屋上だ。
「畜生、頭……回らねぇ」
「大丈夫か、伏黒!」
巨大な呪霊、でっかいイモムシのようなそれが伏黒を2本の腕で殴り潰そうとする。
その瞬間、人間離れした身体能力の虎杖が呪霊を殴った。
だがしかし、呪力のない打撃が効くわけもない。
「ぐおぉぉぉ!」
「ヨコセヨー!ヨコセヨー!」
「虎杖!寄こせ!呪いは呪いでしか払えない呪力のないお前じゃ勝てないんだ!」
「ヨコセヨー!ヨコセヨー!」
呪霊に捕まる虎杖、呪霊は口を広げて食べようとする。
そう、宿儺の指ごと食おうとしているのだ。
何かないかと考える虎杖、その瞬間閃きを得る。
そうだ、首領パッチさん、さんでいいのか。
今もなんか食べようとしてる。
あるじゃねぇか。
「みんなが助かる方法、あるじゃねぇーか!」
「まさか、やめろ!やめろ!」
それは、両面宿儺の指を食べるという閃き。
呪力を得るという発想、一般人にとっての毒であるため、無駄死にになるはず……だった。
瞬間、呪霊がチリのように破裂した。
「クフッ、フフフハッハッハ!素晴らしい!光は生で感じるに限る」
「素晴らしい!稲荷は腹でワンキルに限る」
「女も子供も蛆のように湧いている、素晴らしい、鏖殺だ」
「秋刀魚もそぼろも串のように焼いている、素晴らしい、速達だ」
それは受肉した両面宿儺によるものだった。
なお、何故か横で首領パッチが同じポーズで何にやら変なことを言っている。
見つめ合う両面宿儺が受肉した虎杖と首領パッチ。
「なんだ貴様は、失せろ」
「ぎゃああああ!?」
吹っ飛ぶ首領パッチに、宿儺は首を傾げた。
それもそのはず、術式の行使により首領パッチは細切れになるはずだったのだ。
……どういうことだ、確実に殺したはず。効いていないのではなく、効いてないことにされている。現実を改変する術式か。
「酷いよ、スッくん!冷めたのね!速達で送ったのに冷めたのね!」
「何を言っている……誰だ!?」
なにか途轍もない気配を感じて、宿儺は振り向いた。
しかし、背後には満身創痍の伏黒しかおらず、気の所為としか言いようもない。
だが、視線を戻した先には首領パッチの横に立つ、黄色いアフロに青い服と黒いズボンを履いた男がいた。
「私の愛情と一緒、冷めたのね!」
「まだ?」
「もう少し……」
「1話は長いよ」
溢れ出る呪力、コイツは只者ではない。
「貴様、何者だ」
「俺か、俺の名前はボーボボ」
「そして、俺は漬物」
「…………」
「…………」
次回、ボーボボVS両面宿儺