大火のあとに罪を背負って 作:その辺の残骸
廃棄された軌道ステーションに核パルス推進エンジンを接続し、質量弾として地上に落下させる大規模テロを目論む、ヌーベル・ブランチなるテログループ。
それを阻止するべく出撃した二人の傭兵、ステラ・イェッドとAA。
衛星軌道で繰り広げられる戦闘の最中、経済特区都市ミハシラの夜空を紅蓮が焦がしていた。
陽動なのか便乗犯なのかは分からない。とにかく、戦闘MTとパワードスーツを持ち出した暴徒が破壊活動が行われていた。
ステラを宇宙港に送り届けて、研究所に戻っていたリンネは救援要請を受けてある病院に車を向かわせることに。
爆発による負傷者が多数担ぎ込まれ、人手が足りなくなった病院に勤める知り合いの頼みである。
渋滞でにっちもさっちもいかなくなったので、現在は車を降りて全力疾走している。
同乗していたプルネラはそれより先に途中下車して、暴れ回るテロリストを退治しに向かっていた。
身一つでビルからビルに飛び移り、外套の下から取り出す銃火器、刀剣、爆発物の数々で武装した暴徒相手に無双しているのだろう。
病院の方向に向かっていた戦闘MTが不意に崩れ落ちた。炎に漆黒の外套姿が躍るのが見えた気がする。
プルネラのことだ。
どうせ「わたしは死、お前達に終わりを告げる黒き標だ!」とかなんとかカッコいいセリフを吐いて独りで盛り上がってるんだろうなぁ。
とりあえず、治せる程度の怪我で帰ってきて欲しいリンネだった。
「はー疲れたぁ」
息を切らせながらも病院にどうにかたどり着く。色素の薄い金髪を整える余裕もないくらい走った。
「リンネ先生お早く! 患者さんの数も負傷も凄くてもう大変なんです!」
応援にきたリンネに気付いた病院のスタッフが大きな身振りで呼ぶ。院内は大変な惨状らしく、元気が出てきた。
「今行きまーす!」
息を整え、もう一度駆け出す。
非常事態での手術なので好き勝手に切り刻んで繋げられるじっけん……おっといけない。テロの犠牲となった無辜の人々を救うべく、リンネは急いだ。
火に誘われ、飛び込む虫のようでもあった。
核パルスエンジンのノズルに銃口を向け、レーザーライフルをチャージするアッシュテイルに、ヌーベル・ブランチの最後の一機が突進。
その機体にはカラスのエンブレムが描かれていた。ヌーベル・ブランチのレイヴン。
真新しい白い装甲の二脚ACだ。シュナイダーと今は亡きエルカノの混成フレーム。
ルビコンに戦乱と民の苦境を招き、滅ぼしたレイヴン。
その名を騙る者がルビコン企業のパーツを使ってACを組んでいることも、模倣の一部なのかとステラは考えた。
アッシュテイルへの突進をブロックするコースにグラフィアカーネを侵入させている。
空力を活かし、大気圏内で自在に空中戦を繰り広げるであろうレイヴンの機体を睨んでいると、かつて彼女を戦友と呼んでくれた"彼"のACの姿が重なった。
(嫌だな)
ステラはそんな幻覚を視る己を嫌悪した。
己を罰するべく、グラフィアカーネを加速させ、重圧に歯を食いしばる。機体の管制AIであり本体ともいえるグラフはステラの操縦をキャンセルすることなく、補助していた。
苦痛によって霞のような幻影は消え去り、ステラは疾走と暴力の化身になった。
真っ直ぐに白い敵機を捉え、グラフが絶え間なく流し込んでくる戦術情報を飲み干す。
『あいつは私がやる。チャージが終わったら遠慮なくノズルを撃って』
『言われなくてもやる!』
AAに伝えながら、ステラはスピードを殺さない動きでレーザーライフルの連射を避け、敵と距離を詰める。
ベイラム製の火力型リニアライフルを通常モードで連射。プラズマミサイルも併せて発射する。
撃ち合いながら接近しているので、被弾により衝撃が蓄積している。
間合いはクロスレンジ。お互い、近接武器の一撃でスタッガーに陥る状態。
白いレイヴンが先に仕掛けた。左腕がブレる。速い。
パイルバンカーが突き込まれる。
多くの敵を屠ってきたのであろう、必殺の一撃。
だが、ステラからすればこの程度という攻撃だ。
強烈なG。グラフィアカーネはサイド・クイックブーストでパイルバンカーの刺突を避ける。
ノズル破壊用に左背部に三連レーザーキャノンを背負ってきたのが無駄にならずに済んだ。
撃たなくとも重りとして役立つ。
回避と同時にキャノンで偏った重心を活かして、素早く左にクイックターン。
そこから右にカウンターをかけるためのブースト噴射。
グラフィアカーネはラリアットの要領で敵機に左腕を叩きつけると、そのまま抱き抱えるように組み付いた。
最大出力でアサルトブースト。事前に全兵装へのエネルギー供給をカットしてブースターに回してある。
絶大な推力によって機体が押し出された直後、強力なエネルギーを持った青い光帯がグラフィアカーネの背中を掠めた。
アッシュテイルのレーザーライフル、その最大出力照射だ。ノズルに着弾、破壊している。
ステラを巻き添えにするつもりで撃ったのではないと理解している。
むしろ、絶妙なタイミングでの発砲だった。
プラズマ噴射を背負い、黒色と暗赤色に彩られたACはとてつもないスピードで空間を飛翔していく。
ステラはもがくレイヴンのACのコア装甲が可動するのを見た。
アサルトアーマーを起動させ、組み付いているグラフィアカーネは弾き飛ばし、同時に大ダメージを与えようしているのだ。
好きにさせれば形勢は逆転してしまう。無論、予期していた動きだ。
パルスエネルギーの薄緑が生じる前に、トドメを刺してやればいい。そのために武器は要らない。
ブースター推力を偏向させ、急降下。
「ぐっうぅ…おぉぉぉぉぉ……!」
慣性荷重の強烈さがステラを苦悶させた。
骨格、臓器などを徹底的に強靭な人工物に置き換えた頑強な強化人間の肉体であっても、深刻な負担がかかっている。
あえて危険なマイナスGがかかるよう、急降下しているのだ。
爆発的な速度で頭に送り込まれる血流を強化手術で埋め込まれたインプラントで抑制、さらに精神力で発狂しそうな苦痛に耐え抜く。
進行方向には大型デブリ。
目に見えて動かなくなった敵機を手放し、離脱。
急上昇に伴うプラスGで強引にレッドアウトから復帰する。
慣性に従い、ヌーベル・ブランチの最後の一機はデブリに突き進む。
アサルトアーマーが起動し、パルス放射が発生する前に白いレイヴンはデブリに激突。
高速での衝撃で機能停止する。
ステラは通信回線を開き、動かなくなった敵機に呼び掛ける。
機体は戦闘不能、パイロットは会話できる程度の大怪我に留める。
望みの結果になるよう、ステラは戦いの流れを組み立てたのだ。この魔術めいた技はステラ・イェッドの本気の片鱗だった。
『おーい、生きてる? よね? 何でこんなことしたのか教えてくれるとお姉さん嬉しいな、レイヴンくん?』
白いACのパイロットが少年であると直感していた。
刃を交えることで相手を識る。
異能としか言いようがない力が彼女にはあった。問い質すのは答え合わせのためだ。
沈黙の後に返答。
『復讐だ。父さんを、母さんを、みんなを苦しめて、死なせた企業の奴らに思い知らせてやりたかった。けど、できなかった。お前らのせいで』
啜り泣きながら、ヌーベル・ブランチの少年はまっすぐに憎悪をぶつけてきた。
『なるほど、教えてくれてありがとう。憎むなら私だけにしといて』
予想通りの答えだった。
どこかの惑星で、どこかの企業に搾取され、力を得て復讐に臨んだ。珍しくもないドラマ。
警戒態勢のアッシュテイルを見つめ、灰の魔女は問う。貴女もそうかな?
黒と暗い赤色、真っ黒に燃え尽きたようなACを見下ろす位置にAAはいた。
褐色の肌の下、心臓が鼓動し、血管に熱い血が暴れ狂うのを感じる。
(間違いない。ステラ・イェッドは……)
彼女が見せた魔技で確信した。
それはAAがルビコンで目にしたもの。ルビコンの自由のために欲した力。
見紛うことは決してない。
あの女こそ、かつてルビコンを焼き尽くした者。
大火を招きし灰の魔女。偽りであり真のレイヴン。虐殺者。
父も母も友も殺した悪魔に復讐するためにAAは傭兵になったのだ。
本物のレイヴンを探して、宇宙を渡り歩き、戦ってきた。
だから、今こそが本懐を遂げるべき時だ。コンソールに指を奔らせ、敵味方識別信号を変更する。
これでグラフィアカーネをロックオンできる。
レーザーライフルの銃口を向けても、レイヴンは微動だにしない。
(終わらせる。そのためにアタシは生きてきたんだ。見ていてツィイー)
勇猛果敢な闘士であった友人の顔を思い描く。AAは、エア・アクエリウスは、トリガーに指をかけた。