昔々のお話に記された一人の聖女の物語……しかしそれが必ずしも聖女の全てを記したわけではありませんでした。書かれては都合が悪い出来事もあったのです。


私にとって初の聖女物です。書いたのは数年前ですが、読み返すと懐かしく感じられました。

これは以前入替モノ祭り in TSFesに投稿していた作品です。Pixivでも投稿しております。

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偉大な聖女の事実と真実

かつて一人の聖女がいた。聖女は一人の重装騎士と共に各地を転戦し、土地の穢れを浄化し、魔物を討伐し民に敬われた。その後、役目を終えた聖女は重装騎士と結婚し幸せに暮らしたという。

 

これはある聖女の記録を簡潔にまとめた物である。事実であり間違ってはいないが、これが全てではない。

 

どのような伝承や記録にも、描かれなかった真実が隠されているのだ。

 

「いやよ、絶対に行きたくないわ ! 」

 

白と青で統一された色調の城で女性の怒鳴り声が響き渡っていた。

 

「どうしてこの私が魔物討伐なんかに出なければならないのよ ! いやよ、そんなの騎士団の連中にやらせればいいでしょ ! 」

 

キーキー癇癪を起こす女性。彼女は女神の祝福を受けた、世界に数人しかいない聖女である。祝福を受ける選定基準は不明であるがスキルを見れば聖女とわかるようになっている。

 

聖女が祈れば穢れは浄化され、杖を振るえば怪我は癒され、自ら祝福を授ければ戦闘中に限り大きな力を得られるという……

 

では全ての聖女が物語に出てくるような聖人だったのかと聞かれるとそんな事は無く、俗っぽい感じの女性もいた。

 

現金狙い、名声狙い、イケメンの男狙い、可愛い男の子狙い等、笑ってしまえる人もいればシャレにならない人もいた。

 

今回の聖女も似たようなもので、他人にチヤホヤされたい、贅沢に暮らしたい、イケメン騎士と結婚したいと考える俗物であった。聖女が必ず城にいなければならないわけではないが、彼女は国からの要請に対しすぐさま飛びついた。その後は贅沢しまくっていたのである。

 

そんな彼女が怒鳴り散らしている理由は城に飛び込んできた陳情書である。

 

『郊外にある村が魔物に襲われている。穢れで強化されている為自警団では太刀打ちできないので騎士団を派遣してほしい』というものである。

 

騎士団でどうにかできるのなら既に派遣しているのだが、穢れで強化された魔物は通常の魔物に比べて非常に強くなっている。

 

この状況をわかりやすく例えるなら、新米冒険者が上級モンスターに戦いを挑むものなのだ。

 

そうなると、聖女が穢れを浄化した後で騎士が倒すのが定石。なのだが、汚らしいところへなど行きたくないと駄々をこねる聖女。

 

「聖女様お願いします。この窮地を救えるのは聖女様をおいて他にいないのです。村の住民の為にも、何卒力をお貸しください」

 

「いやって言ってるでしょ ! 」

 

文官達が陳情するが聖女は動こうとしない。これまでの聖女は文句を言いながらも務めは果たしてきた。だからこそ聖女は民から敬われるし、贅沢が許されるのだが彼女はその歴史を知りもしないし学ぼうともしない。この贅を享受するのは当然だと本気で考えている。

 

頭を振った文官達はついに最終手段に出た。

 

「では聖女様、こうしましょう『役目を果たすまでの間』だけ、別の神官と肉体を交換するのです。聖女の力は肉体に宿るので、他の神官でも穢れは浄化できるようになります。もちろんその間はあなた様への待遇は変えません……いかがでしょうか ? これならば聖女様は城から出なくてもよろしいですし、村からの要請にも応えられます」

 

「んー……その神官は美女 ? それなら受けてもいいわよ」

 

「ははは、心配いりません。歳はあなた様と同じ、胸も豊か、顔も良し、全ての注文をクリアできますとも」

 

文官からのセクハラ発言を聞き流し、聖女はこの提案を受け入れた。さすがにこれ以上駄々をこねたらマズいと直感的に理解できたから。

 

すぐに別の女神官が部屋に通された。

 

顔は童顔、年齢は確かに聖女と同じくらい、ボディラインも出ている所は出て、引っ込む所は引っ込んでいる。

 

文句なしである。

 

「まあいいわ。いい ? 聖女の役目が終わったら、さっさと帰ってきなさい。絶対にこの身体に傷一つつけちゃだめよ」

 

「は、はい……努力します……」

 

「ふん ! さっさと始めてちょうだい」

 

部屋の中にいる魔術師たちが呪文を唱える。二人の肉体から半透明になった魂が抜け出てくる。そして神官は聖女の、聖女は神官の肉体へ魂が入り込み、肉体交換の儀式は終わった。

 

「へえ、胸デカッ ! うんうん、イイ感じ。オッケー気に入ったわ、この身体」

 

「き、気に入って頂けて嬉しく思います……」

 

テンションが高くやや下品になった神官と、おとなしくなった聖女。ここに儀式は成った !

 

「ではすぐに出立を、必ず役目をはたしてくるように」

 

「は、はい……では行って参ります……」

 

こうして、元神官である聖女は城を出立し郊外の村へと向かった。付き従うのはやや恰幅の良い少年。

 

これは元神官からの要請であり、今回の儀式を受ける代わりに、一緒に行く騎士は自分で決めさせてほしいと言ってきた。

 

文官達もそれくらいならばと了承したが、連れて行くのは一人だけで、幼馴染で男の重装騎士だったのだ。

 

戦力的な不安もあったが、なによりも聖女は『純潔を失うと聖女の力が消えてしまう』のである。

 

万が一任務中に二人がやらかしてしまったら全てが台無しである。

 

城の者達からすればこれは賭けだったが、聖女を派遣しなければどうにもならない為成功を祈るほかなかった。

 

「遅い ! 何で戻ってこないのよ ! 村の浄化は済んで魔物も、あの頼りなさそうな重装騎士が倒したんでしょ ? なのにどうして戻らないの ? どこで道草食ってんのよ ! ? 」

 

城で働く男達にとって癒し的な存在だった神官が癇癪を起こす。理由は彼女が叫んだ通り、聖女と重装騎士が戻らないのである。

 

「それが、他の村でも似たような事態が多発しているようで、そちらの対処に回っていると」

 

「あの村の穢れは済んだんでしょ ? ならさっさと連れ戻しなさいよ ! 」

 

「いえ、まだ終わっていません。元に戻すのは我々や聖女様自身が儀式の前に双方とも『聖女の役目が終わったら』と申しました。まだ役目は終わっていないのです」

 

(……しまった ! ? )

 

これでは考え方によっては『ずっとこのまま』という可能性もある。確かにこの身体は『女として見れば』文句はないが、スペックは聖女である元の身体の方が圧倒的に上である。それに、聖女の身体を人質に取られている、と捉えるという事もできる。

 

では、この身体を人質にするか ? という考えも神官にはあったが無理だろう。世界に数人しかいない聖女とそこらへんにいる女神官では貴重さが違いすぎる。

 

神官は今になって自らが置かれている状況に気付いた。自由はありそうで無い。権威も力もない。さらに、この身体は男に好まれる身体だ。肉付きが良く童顔で且つか弱い。城の男性が性欲的な目で神官を見ている事には気付いていた。

 

だからこそ恐ろしくなった。今の自分は狼の群れにいる羊のようなもので、いつ餌食になってもおかしくないのだから……

 

「御心配には及びません。聖女様と重装騎士は立派に勤めを果たしております。この調子ならば年内にも穢れを浄化できるでしょうな…………何事もなければね……はっはっはっ…… 」

 

「そ、そうよね……は、ははは……」

 

神官には愛想笑いを浮かべる事しかできなかった……城の文官達の機嫌を損ねる事はできないのだから。自分の身を守る為にも……

 

「あ、あの……まだ戻らないの ? その……私の身体は…… ? 」

 

肉体交換の儀式からちょうど一年が過ぎた日、おずおずと神官が文官に尋ねる。

 

「おお、残念な事に……穢れは浄化できましたが、今度は魔物の集団発生が起きましてな。現在騎士団を動員して対策に当たらせているのですが、聖女様と重装騎士も戦いに参加するそうでして。まだまだ戻ってこれそうにありませんな」

 

文官は神官がこちら側の狙いに気が付いた事に気付いていた。だから最近は態度も変わってきて……否、本性を表し横柄になってきた。

 

(このままあの聖女と重装騎士を勝手に動かさせておけば国内の問題は解決する。後はこのガキをどう始末するかだ……)

 

文官にとって大事なのは『国を救ってくれる聖女』であり、今聖女の身体を動かしている神官本来の身体には価値が無いと考えていた。

 

神官の身体は病魔に侵され、闘病の末に元聖女様は亡くなった。そう答えればいいと考えていたのである。

 

現に文官は『聖女の役目が終わったら元に戻す』と約束したが、神官の身体を守り抜くとは言っていない。『元聖女の対応は変えない』と言っただけである。

 

屁理屈でも理屈は理屈、通れば正義である。したがって、目の前の神官を葬るあらゆる方法を何通りも考えた。それだけ元聖女には腹が立っていたのであった。

 

確かに文官は何通りも、何手先も展開を考えた。

 

しかし……どれだけ考えても、最初の一手を読み違えたら意味は無いのであった……。

 

「なぁにぃい ! 逃げただと ! あの小娘がか ! ? 」

 

文官のもとに届けられた一報、それは『聖女が重装騎士を連れて国外逃亡した』というのである !

 

「馬鹿な ! あのいつもオドオドしていたガキがか ! しかも重装騎士ではなくてか ! ? 」

 

「ああ……すごかったぜ。あの魔物の集団発生が解決した日の夜、聖女様が重装騎士に夜這いをかけてな、お楽しみをした後にすぐ町を出たんだ。あれは捕食者の目だったぜ。いやぁ、女は怖いねぇ」

 

聖女達を見張っていた盗賊は、うんうんと何度も首を縦に振っていた。

 

「関心しとる場合か ! 盗賊よ、貴様は何をしておった ! こうならないように貴様を雇ったのだぞ ! 」

 

ぜぇぜぇと息切れを起こしながら唾を吐く文官。それに対し盗賊は飄々としていた。

 

「まあ、任務失敗だからな。諸経費を引いて残りは返すぜ。あと文官さんよ、女の情念は舐めないほうがいいぜ」

 

そう言うと盗賊はすぐに姿を消した。

 

「ちょっと……どういう事。私の身体が行方不明 ! ? どうしてくれるのよ ! 」

 

「ええいやかましい ! わしはこれから対策を講じなければならん。貴様のようなガキの相手などしていられるか ! 」

 

「そう言ってあんたも逃げる気ね ! もうどうなろうと知ったこっちゃないわ。あんたぶん殴ってから逃げてやるわ ! 」

 

文官と神官の醜い争いは、見張りに立っていた護衛兵が止めに入るまで続いていた。

 

その後の文官、神官がどうなったかは記録に残っていない……。

 

本当はイヤでした。生まれてからずっと苦楽を共にしてきた自分の身体を、一時的でも他人に貸し出すなんて。

 

他の神官様や文官様からの命令には逆らえませんでした。聖女様が言った肉体交換の儀式の要望に応えられそうなのは私の身体だけなのだと。

 

本当は重装騎士のピートと一緒に暮らしたかった……先日、幼馴染のピートから告白を受けて私はすぐにOKの返事を出した。その矢先にこれ。女神様なんてこの世にはいない……神官失格の考えだが、私はどうしてもそう考えてしまいます。

 

だから交換条件を出しました。身体を貸す代わりに重装騎士のピートを私の護衛にしてもらうように。

 

他の護衛はいりませんでした。男の人は聖女様の身体を狙うだろうし、ピートはマイペースながらもたよりになる。女性から隠れた人気があったのは知っていた。ピートと離れ離れになりたくなかったから。

 

出立の日、私はお城から過剰なほどの装備品を貸し出されました。

 

魔力増幅の杖、守備向上のローブ、ローブに隠せる小型の盾、疲れを大幅に減少させるサンダル。

 

聖女様の身体を守る為なのだから当然と言えば当然ですけど。

 

一方でピートには何も与えられませんでした。武具一式はお城で使っていた古びた物、私はピートの装備も強力な物にしてもらうように言えばよかったと後悔しました。

 

だけどピートは「最初から強い物だとそれに頼ってしまうから。それにパティが無事ならそれでいい」そう言ってくれました。ちなみに、パティとは私の名前です。身体は取られても、名前だけは私の物です。

 

最初に訪れた村はもう壊滅寸前で、すぐに私とピートは魔物に攻撃を仕掛けました。

 

神官も有事の際には戦えるよう、戦闘の手解きは受けています。そして私とピートのコンビネーションがあれば大抵の魔物には遅れを取ることはありません。

 

村の人からはお礼を言われましたが、ピートはすぐに立ち去ることを提案してきました。

 

聖女様は村の人を待たせすぎた。脅威が去った今、村人が何もしてこないという保証が無かったためです。

 

それからしばらくして、今度は別の村でも穢れが生じたという話しを聞きました。

 

ここで無視してしまえばまた同じことの繰り返し、私とピートは次々と穢れの浄化と魔物退治に明け暮れました。

 

国内の村のほとんどを回ってちょうど一年が経過しました。その間ピートとはデートができませんでした。

 

今の私は聖女様の身体を使っています。元に戻った後で、ピートと私が付き合ったら、ピートが二股をかけたという噂が出かねませんから。だから私は必死に我慢しました。聖女様の身体は純潔を失ったら力も失う。だから私は『ピートとの男女の営み』も我慢しました。

 

我慢したのです……。

 

ピートに強力な装備品を買いそろえることができたその日、魔物の集団発生が起きたという話しがありました。当然私とピートにも救援要請がありました。助けないわけにはいきません。

 

街の自警団や傭兵、城からの応援部隊を加えての激戦でしたが、何とか勝つことができました。

 

祝勝会での出来事です。

 

私も浮かれてついついお酒を飲んでしまいました。ピートは生まれつき飲めませんでしたが、それでも食べ物で宴に参加していました。

 

そこへ一人の女戦士が現れました。彼女はピートが気に入ったそうで、彼氏にしたいと言ってきました。

 

聞き逃せませんでした。お酒に酔っていた筈なのにすぐに酔いが覚め、私はすぐにこう答えました。

 

「ピートは私の夫です ! 」

 

ですが女戦士はこう返しました。

 

「冗談言っちゃいけないよ。あんた噂の聖女様だろ ? 聖女様は城でイケメン侍らせてるって噂じゃないか。この坊や、顔は悪くないけどイケメンって程ではないね。ただの護衛騎士ならあたしがもらってもいいじゃないか。あたしは強い男が好きだからね。それとも ? あの噂は間違いだったとでも言うのかい ? 」

 

「そ……それは…… 」

 

私は何も言い返せませんでした。聖女様が多数の男性を城に招いているのは事実だったから。

 

私が他の男性と関係を持ったわけでもないのに言い返すことができない。

 

聖女様の身体と入れ替えられているせいで……とても悔しかった……気が付けば私は強く拳を握りしめていました。

 

そして女戦士は豊満な胸をピートの頭に乗せてきました。

 

ピートの顔がだらしなくなったのを私は見逃しませんでした。

 

「わ、私だって…… ! ? 」

 

「私だって ? 聖女様、失礼ですがそんな慎ましやかな胸ではね……ククっ 」

 

「う、うぅ……」

 

……今の私には胸が無い……いつも男性に見られて不快だった私の胸、それが今になって欲しくなるなんて……。

 

ピートは、お付き合いしている女性がいますから、と女戦士の誘いを断ってくれました。

 

嬉しかった……それなのに悲しくなりました。聖女様の身体では、ピートと結ばれる事はないと再認識してしまったから……。

 

私は宴の後でピートの部屋を訪ねました。要件は一つ、国へ帰るためです。私たちは十分役目を果たした筈です。そろそろ帰っても問題ない筈なんです。

 

でも見てしまった……ピートが自分の……その、自慰をしていたのです。

 

彼は悪くありません。そもそもピートだって健全な男性、セックスにだって興味があるでしょう。私ももちろん……早く元の身体に戻ってピートと……。

 

ゴホン ! とにかく私はピートに要件を伝え、明日にでも帰路へ着こうと決めました。

 

「おっと、それは考え直したほうがいい」

 

どこからか声が聞こえる……。ピートはすぐに私を抱きかかえ周囲を警戒します。

 

「俺は重装騎士のファンさ。惚れた女の為に命を懸けて戦う、いいじゃねえか……おっと、すぐにここを去るから要件だけ聞いてくれ。国には帰らない方がいい。さっさと聖女様の身体のまま国外へとんずらしちまいな。文官さん、最初から聖女様と神官の嬢ちゃんの身体を元に戻す気なんてないぜ。ずっとあんたらを使いつぶす気でいるのさ。要件はそれだけだ。じゃあな」

 

一方的に言うと、声の主の気配が消えました……。

 

どうしようか迷っていると、廊下から他の女性の声が聞こえました。

 

『あの重装騎士様、かっこいいよね。ちょっとくらい味見しちゃおっか。聖女様はペチャパイだし、あんなんじゃ満足できないって……』

 

酔っぱらって出た声なのはわかっていました。でも、もうごめんです……我慢しません。

 

ピートはわたしのもの……ずっと、ずっと、ずっと好きだったんだから ! !

 

ピートは、出発は朝まで待とうと言いましたが私は拒否しました。

 

ここにいたらピートが狙われます。私は自分でも信じられないほどの力を発揮し、ピートを引きずりながら夜の街を出ました。その時の私はどんな顔をしていたかわかりません。

 

ただ、酔っぱらった人が悲鳴をあげた事だけは記憶に残っています。

 

それから数年後、隣国へ渡った私たちは結婚し、子どももできました。私は聖女の力を失いましたが、まだ神官の時の経験や知識があります。ピートは町の自警団の隊長、私は主婦兼司書として働いています。

 

私達がいなくなった後の国がどうなったかはよくわかりません。今はピートや子どもの事で手一杯なんですから。


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