ここはトバの厩舎。来週が米国へ出立する日であるが、何故か関係者一同が集まっている。
理由はただ一つ。アメリカの競走馬はドラッグにまみれているという事に関してだ。
「会議は後でもいいだろー? ポール・マッカトニーの再放送だぜー?」
「ユウジ! お前は勉強していなさい。わしらは喫緊の問題を片付けてんだ」
「はぁーい」
ドラッグに関してだが、これは厩舎側の調教師か馬主が画策するとなっているので、よそ者である我々の場合なんともないか、経済関係的にいたずらをされるかだ。
そこで通訳者を雇い入れ、騎手の奉先・獣医の正一・調教師の馨<カオル♂>・牧場主の代理が、厩舎の粗相を全力で防ぐことにした。
また外国は90日間居留すると、検疫が100日とある。
これも非常に宜しくないので、米国三冠への挑戦が終わったらすぐに帰国し、
これからも外国への長居は禁止とする訓示になる。
「なあ奉先、結局参戦できるのか?」
「おう親父、向こうに電話してみたんだが、ぼっこぼこにしてやんよだってよ」
「どういうことなんだ?」
「恨み骨髄って感じっすね」
「うぃ~、ここに居たか米国殴り込み部隊」
「臭い! 酒臭い!」
「よう、三鷹の伯父」
「伯父”さん”だろ!? さんをつけろよ後退野郎!」
「今踏み越えてはならない一線を越えたな!?」
厩舎内の藁を敷き終わったと伝えに来る厩務員。
トバは相変わらず針葉樹をむしゃむしゃしている。
暫くの間むしゃむしゃさせていると、新しい調教師の馨が訪れ会議に乱入さられることになる。
トバは人の言葉を理解しているので、変に会議するより
直接話したほうが早い。
「お、よぉやっときたな!」
『酒臭い』
「馬もわかるんか!」
トバは黒板・チョーク・黒板消しの伝達道具を、厩務員に持ってもらって意思疎通をする。彼に話すのは米国三冠へ挑むことと、ずっと走りたいということを叶えさせるためにレースが終わったらすぐに帰国するということ。
三ヶ月も外国にいると、100日間検疫で隔離されるという。
それを聞いてトバは猛烈な速度で頭を振る。
関係者一同は、本当にトバはレースが好きなんだなあと感想を抱き、今後は日本競馬に注力するかと結論が出る。
『外国も見て回りたいから、たまには世界へ行きたい』
「わがままなやつめ」
「外貨を稼ぐのは良いかもしれんの」
「東京の新聞が、なにやらきな臭いらしいぜ? 今のうちに勝っていれば、交換レートの旨味が出るかもな」
交換レートの話を聞いて、牧場主がアメリカの銀行を作ることを失念したいたことが判明。
後日向こうに渡りをつけて、銀行口座を作るらしい。
「なあ、トバ。いちおう黒板は持って行くけど、たぶん変なやつと思われるから
意思疎通の事は内緒な?」
『わかった』
「あと、飼い葉に変なのが紛れ込んでいたら避けてくれよ?
牧場配合の飼い葉を送るのも結構大変だから、在庫がなくなり次第向こうのやつ食べてくれ」
『農薬ばかりでまずそう』
「なんでそんな情報まで知ってんだ?」
『親父の新聞』
「勝手に持っていったんだろ? 知ってるよ、それくらい」
厩舎のドアにトングがかけられている。それを使って郵便受けから取るくらい
トバにとって、お茶の子さいさいだ。
また頑丈に取り付けられていた鍵も、ガキンチョどもがロックピックして解錠してしまい使い物にならなくなっている。
さて朝の新聞が終わったらすぐに訓練となる。
雪が積もって寒いのにもかかわらず、温ま池のおかげで大量の積雪となっていない。
ここにトバを入浴させてスタミナトレーニングを行い、ザバッと出たら身震いをして蒸散させ、
ランニングコートへ赴かせる。
そこにはポニーアニキのダイキが居て、鼻息荒くして待っていた。
【じゃりんこ! お前、来週アメリカなんだってな!】
【はい、アニキのぶんも走ってきますね!】
【吉報を待ち望んでるぜ! じゃあ、駆け足!】
ポニー兄貴は何も背負っていないが、トバは鐙と人の代わりである土嚢をぶら下げて走っている。ジョッキーである奉先くんは、中央競馬でお手馬とともに走っている最中だ。いくら牧場があったとしても、食い扶持は自分で稼ぐと豪語して支援を全く受けずに走り込んでいるぐらいだ。
またフリー騎手として登録しているが、もっぱらトバを優先して騎乗している身である。
地方上がりの馬であるが、まだまだ新馬。走る機会が少ないので、今は他の馬にも乗っている。
徐々に増やすかどうかと悩んでいる頃合いで、もしもトバが走る馬なら専属でいいかもしれないと思っている。
「やっぱこれから外国語がいるんだってさ」
「ほう、アメリカ語がひつようなのかい?」
「うん。競馬はイギリス発祥だから、レースがアメリカや香港にもあって条件さえ合えば、そっちにも出走できるんだって」
「なら、アメリカ語は習わんとな」
「獣医のじーさん、今は英語、イングリッシュっていうんだとさ」
「ほーん、倅よぉ、お主も仇敵アメ公かぶれか?」
「今はもう国際貿易に巻き込まれてんだから、仇敵だろうと利用するしかないよ。
てかさ、これからおいらたち、そこに乗り込もうとしてんじゃん」
牧場の者たちの競馬界へのコミュニティはまだまだ狭い。
しかしこの頃になってくると、とある騎手が外国へ渡航し国際G1を取るという偉業を叶えている。
ルドルフの背と言われる、中々重いものを綴っているが先駆者として称えられている偉人だ。
彼という存在のおかげで、アメリカかぶれやフリー騎手という概念、営業だけでなく騎乗のためのコンサルタントも発生しているので、影響は大きすぎる。
というか競馬界の意識が一新したと言っても過言ではない……ハズ。
奉先も少なからず彼を意識しているところがあるので、外国挑戦はむしろ
起爆剤に近く本人の心は湧き上がっているようだ。
「パスポートヨシ、宿泊準備ヨシ、外貨準備ヨシ、その他諸々ヨシ。
じゃあ行ってくる」
「留守は任せた!」
「おー、いってらっしゃーい!」
「良い土産話、期待してんぞ」
「なにかお土産買ってきてねー!」
飛行機で一気に飛ぶのは、サンフェリペハンデキャップの開催地サンタアニタ。
ここに出走できるのはサラブレッドしか許可されていないが、種牡馬側が
ミスターシービーというちゃんとしたサラブレッドであるおかげで認可されている。もしも種牡馬の方がサラ系だと出られなかった。
そういう面もあるので、牧場主の判断は非常に良かったといえる。
またサンフェリペが開催される競馬場は、あの悪名高いサンタアニタパークである。
かの七冠馬シンボリルドルフが怪我をしたところだ。
今回はダートレースなので、横切ることはないが多くの馬を壊してきたので
今後最も懸念すべき点である。
「トバはスタミナがあると同時に、非常に身体が丈夫だ。
コレが終わったら、サンタアニタダービーに出すぞ」
「出れんのか?」
「もともとアメリカ競馬は娯楽性と利益性を追求している。
なんでも去年はやばいのがいたらしく、5頭立てとかあったらしい」
「日本じゃ考えられんな」
「仕方ねーよ。日本は元締めが国だけど、アメリカじゃ州ごとに独立して存在してんだから。馬の勝利が収入なんだ。連戦連勝している奴のところへ、馬を投入する必要はないさ」
アメリカへ到着したらまずは競馬場へ赴いて、責任者と顔合わせをして引き継ぎを行う。
牧場主は肉牛の畜産に関して聞くために、早速別れて行動する。
トバを管理する厩務員の仲間たちは、サンタアニタパーク競馬場の調教師や厩務員と通訳者を仲介として、朝連準備を整えることになる。
「HELLO!」
「は、ハロー!」
「What's your name?」
「I'm TOSHIBA!」
「that's a good name.」
「Thank you.」
「Tomorrow rhe strongest horse in Santaanita will be born. Do your best.」
「I understand.I'll do my best.」
中学英語でも中々できるもんだと義務教育に感謝するトバ。
ここで色んな競走馬を見て回るが、名馬といえる馬が居ないことに不思議を覚えるがアメリカ競馬が総括されず好き勝手に動いているため、こういうこともあるよなと達観した。
しかしサンフェリペハンディキャップが開催される前日、新たな馬運車が到着する。
トバはなんのことかと奉先を乗せながら、確認しにきた。
「おいおいおい、なんであいつがここにいるんだよ」
その馬は本来別の所で走る予定であった。
しかし早めに仕上げられたため予定を変更し、この地に来たという。
奉先が初見でその馬を見抜いたのには理由がある。
なぜなら同期である若き天才が、めちゃくちゃやべえ奴を調教したことがあると言っていた。
そいつのなまえは、アンブライドルド。
史実で、フロリダダービー・ケンタッキーダービー・BCクラシックを勝利している。
いわゆる名馬だ。
トバは馬運車から降りてきた馬が、アンブライドルドであると理解するのと同時にどのように勝つかを考えてしまう。
やるのは先行抜けしかないと。
「どうした奉先、こんな裏に」
「しかもトバもかい」
「話がある。あの馬、古馬に匹敵するやつだ」
「わかった。ちょうどここに、サンタアニタパークのレースコース模型がある。
これで作戦を練ろう」
「と言っても、やることがほぼないな」
「ああ。雪解けでドロドロな牧場を走らせていたこともあるから、小回りもできるし力強い競馬もできる」
「ルドルフが壊れたいやらしいコース配置でもないし、どうするかね?」
「ふむ……わかった。作戦が決まったよ、ありがとうございます」
「役に立ったなら良いさ」
さて高速馬場と化しているアメリカ競馬だが、実はトバには重大な欠点がある。
最高速度とパワーだ。これをどうにかして、掲示板入りを目指さないといけない。
トバ本人は奉先を見て、未来のサンフェリペで行う騎乗がわかってしまう。
やはりこれしかないと腹をくくるのだった。