走るのをやめたら死ぬ系転生馬   作:名無しの権左衛門

7 / 8
7:Preakness Stakes

 あー、なんていうんだ?

Baltimore/Washington International Thurgood Marshall Airportに到着し、

馬運車とは別に移動を開始する。

 次にピムリコ競馬場で行われるプリークネスステークスは、

ケンタッキーダービーの2週間後に行われる。

この中ニ週の鬼畜日程は、かの有名な松国ローテと比肩する。

 

 松国ローテというのは、いわば種牡馬としての勝ちを高める行為だ。

成し遂げられるかはともかく、皐月賞・NHKマイルカップ・日本優駿は

非常に価値があるグレードレースだ。

 これらに馬が勝てば、その馬の種牡馬としての生活は保証されたも同然である。

それは馬やソレに携わるあらゆる人の懐を温めるだろう。

 

 しかし短期間の出走というのは、人間の労働と同じように休みがなければ

身体は休まらないし疲労骨折もありうる。そう、非常に危険な行いなのだ。

最悪その馬が予後不良からの安楽死もありうるのだ。

 今回の米国三冠も同じだ。

流石に馬体がガレるものがおり、その結果惨敗することもある。

惨敗から競走能力がないとか軽率な判断に走るところもある、と

Carl Nafzgerはいう。

 

「American horse racing is a business.

I can't say that it's box office.

In fact, it is slowly becoming less popular with one-horse stands and illegal drugs.」

(アメリカ競馬はビジネス。金を得るため、レースへ出走しなかったり

ドラッグを使ったりする。そのせいで、人気に陰りが出ている始末だ)

 

「I have heard that Japan is quite strict because the country is at the base.

However, since the USA is the property of a company that was rented out as a racetrack,

money is required for maintenance and lending.」

(日本は農水省が高い資金で補助したりと、利権を守るために施策していると聞く。だがアメリカ競馬は全て自己責任。競馬場もスポンサーの持ち物で、

それの維持にお金が必要だ)

 

 アメリカ競馬は国民的行事とは言えなくなってきた昨今、新規開拓のため動き出さなくてはならなくなった。

しかしそれを遮る問題がある。

自由を免罪符に競馬に関する統制された機関がなく、

ドラッグを制限しようとしても馬を走らせる側がボイコットする。

 競馬場側も馬主側もビジネスなので、win-winでなければならない。

そういうこともあってあらゆる試みは、利権の前に崩れていった。

結果。

競馬を楽しめない人が増え、競馬離れが発生する。

 

 自由、平等、勝利。いかにもアメリカ国民が好きそうなワードだ。

これを満たせない後進的な文化は、滅ぶのも早いのだろう。

 

「トバ!」

【!】

 

「Frisky!」

【Run as fast as you can!】(かっ飛ばす!)

 

「Sum!」

【Don't mess with it, okay?】(加減はしない)

 

「Brid!」

【The next victory is mine!】(勝利は俺様のモンだ!)

 

 2戦目のプリークネスステークスは、狂気の逃げ馬と押出し先行という実質逃げが上位を争う。いつものアメリカ競馬だと思ってはいけない。

ここには本来いない日本からきた雑魚血統がいる。

 サンフェリペハンディキャップで米国初勝利を飾ってから、

サンタアニタダービーで三着。ケンタッキーダービーで三着とブロコレになっている。ただのブロコレではない。

 連戦連勝をしまくっているサマースコールやアンブライドルド、ミスターフリスキーらの間に入り込んでいる割とやべーやつだったりする。

 

 厩務員だけでなく他の騎手達も気づいている。

異国の地アメリカで全くガレず、調子も平行線で歩様も問題ない。

ドラッグを感じ取る鼻も舌もあり、アメリカの常識を覆している最中であるのだ。

 ただそれは奉先くんの周囲にいる人だけの認識であるという事は、念を押す必要がある。

まだまだアメリカは血統主義。サンデーサイレンスは成績は良いが、歩様もなりもクソ。観客に人気でも利益として還元しなくちゃならない。

その利益こそ馬産であり血統そのものであるのだ。

 

【うめー!まじうめー!】

【Is it delicious?】(うまいのか?)

【Let me eat it too!】(俺様にも食わせろよ!)

【It makes diarrhea worse, so it's better not to do it.】(絶対腹壊すって)

 

 青森県産のりんごの後に、実家の牧場に生えてある針葉樹のハッパをもっしゃもっしゃ食べる。

何故トバが針葉樹の葉を食べるのか。これは奉先くんや牧場主ですらわからない。

トバ本人も癖になるお味ということで、大量というわけではないがおつまみ感覚で食べる。

 深層心理では、食べ過ぎるとお腹を下す事がわかっていたのだろう。

消化不良になるわけではないが、針葉樹の葉が競走馬の肉体に合わないと思われている。

それでもやめさせることはしなかったのだ。

なにせ今まで何も起きていないからだ。

 

【Hey, let's groom each other】(グルーミングさせて)

【……Hold on to yourself】(ご勝手に)

【よっしゃ!】

【…………Are you new to grooming?】(ド下手か?)

【えぇ……? ルールマンさんは、これがいいって】

【I don't understand Japanese. But I'll teach you how to groom.】

(何を言っている? とにかくだ。グルーミングを教える。覚えろ)

【Yes,sir】(おけまるー)

 

 正一獣医師は来たるべき日に備えてトバの馬体を、専属騎手の奉先くんと調教師の馨と共に検査する。

穴に体温計をぶっ刺す。

 

【おおん!?】

 

「体温平熱。蹄の割れなし。体重も変わってない。飼い食いよし」

「歯磨きするからの。じっとするんだの」

「正一じいさん、骨はどうだ?」

「骨は大丈夫。明日は少々寒いと言われているから、クルミ付けとくぞ」

「わかった」

 

 検査が終わると馴致が始まる。

まずは走るダートに散水し稍重にしている間、引き運動を行う。

動的ストレッチを施しつつ歩様を確認するのだ。

変な歩き方になっていると、蹄や骨格等に問題があると発覚するので大事な場面。

 ここで何も問題なかったら乗り運動。

重心がへんじゃないかとか、筋肉痛などで身体にコリが出ていないかを確認する。

しなやかな筋肉を確認できたら、キャンターを申し出る。

 

 トバは必然的に逃げ馬なので、差し馬にさせるとやる気を……落とすことはないが普通の馬だったら少々やる気を削いでしまう。

逃げ馬になってしまうトバにやる気を出したミスターフリスキーが、

本気を出す前の速度で追い越す。

 トバも本気を出さないように、一定速度で走る。

彼に駆け足とか襲歩とか言ってもわからないので、タコメーターを取り付け

そこにでた速度で計測する。

 

 たまにサマースコールやアンブライドルドが爆走するが、事前に申請してあった

重馬場よりの稍重ダートコースのおかげでなんとか足を守ることができた。

 

【……?……?】

【ミスフリ!? What's wrong? Is it not even in good shape?】(どうした? 具合悪そうだけど)

【My throat is weird. I don't know what it is, but I feel uncomfortable.】(喉がおかしい)

【奉先くん! 奉先くんいるか!】

 

 真夜中。低所得者が少ないおかげで、夜中に響き渡る銃声が2,3時間に10発しか聞こえない。

比較的静かな真夜中、馬房内でガンガンと壁を蹴り上げる。

中途半端なトタンも使われていた御蔭で、鳴らせる音も多彩にできるものだ。

 

ガンガンガン ガシャーンガシャーンガシャーン ガンガンガン

ガンガンガン ガシャーンガシャーンガシャーン ガンガンガン

ガンガンガン ガシャーンガシャーンガシャーン ガンガンガン

 

「トバ!」

「黒板もってきたんだの!」

「中々やかましいわ、マジで」

 

 うるさすぎて馬達が起きてはヒヒンとわめき出すが、それさえも消してしまう大音量。

 普通なら無視をするのだろうが、情報伝達の多彩さを知らしめられている奉先くんたち。そして緊急性の高さから黒板やチョークを開放。

馬房内に明かりがぼうっと灯され、トバは差し出される黒板とチョークを使って伝達する。

 

『ミスフリ 喉 腫れ 危機』

「腫瘍か!?」

「Laz Barrera !」

「すぐに治療だ」

「What happened?」(夜更けにどうした?)

「ゲイリーさん! Mister Frisky has a throat problem.」(喉に異常がある)

「What!? You must immediately prepare for treatment!」(なんだと!? すぐに治療だ!)

 

 あれやこれやとてんやわんやになって、ミスターフリスキーの治療が開始されることになる。

しかしレーザーが必要なほどのものでなく、抗生物質などの薬剤投与で治る事が判明した。

 今回の投与は禁止薬物ではないので、出走に問題はないこともわかっている。

プリークネスステークスに出走する二日前位には、だいぶ改善したとトバに報告されるのだ。

 まあトバに言わなくても、ミスターフリスキーの競走馬人生を見つめた彼は、

すでにお見通しである。

 しかし、それと同時に問題があった。

それはこの腫れ自体プリークネスステークスに出走した数日後に発見されるものだ。これを早急に手当てしてしまったがために、アンブライドルド・サマースコール・ゴーアンドゴー以外に敵ができてしまうのだ。

 

【ま、元気だったらなんでもいいんだよな】

【アリガトウ】

【You are welcome!】(どういたしまして!)

 

 そうしてプリークネスステークス当日のゲート入り前、

ミスターフリスキーがトバをグルーミングし、少し遅れてしまう以外何も問題はない関係となる。

 

【It's good to be a good friend, but I'm going to get the G1!】

(仲睦まじくて涙が出るな! だが、G1は俺様のモンだ!)

【I don't groom myself until I put aside the important game】(はよレースさせろ)

【Wait a minute, 15 minutes to go】(もうちょっとで終わるよ)

【My mane got wet with saliva】(たてがみがグッチョグチョやんけ!?)

 

「Hey, make it quick!」(はよせい)

「Wait a minute, Pat Day」(ちょいお待ち)

 

 誘導馬から競走馬紹介も終わり、だぼつきながら10頭の馬がゲートに入場する。

トバの馬番は1番の最内枠。これこそ逃げにとって最適な最内枠だ。

こんな場所を貰って優勝をいただかなければ、今後一生三冠レースで1着を取ることは夢のまた夢になるだろう。

 

<and they're off and Fighting notion broke quickly.

and takes the early lead Kentucky Jazz toward.

the inside is second and Misterfrisky on the

outside is as they pass the stands for the first time.

it's Toshiba in front by three length Fighting notion.

on the outside is second roaring up Kentucky Jazz .

along the inside is third Mister frisky for Summer Squall.

for Unbridled at the rail is in fifth position.

Music Prospecter on the outside six. Jr's Horizon in seventh.

Land Rush at the rail is eighth.

and at the back of the pack nineth and last is Baron de Vaux. >

 

<The final straight line. The usual beginning of "Toshiba" ends.

"Summer Squall" and "Unbridled" overtake them, and "Mr. Frisky" follows them.

"Summer Squall" on the inside. "Mr. Frisky" is pushing in.

Push away "Unbridled" and "Summer Squall". Lined up, lined up.

Which horse will win the Preakness Stakes? This is a photo judgment.>

 

(第四コーナーを回り最後の直線だ! サマースコールとアンブライドルドが上がってきた!

名馬の一線、トーシバラインを飛び越しゴールへ駆けていく!

おっとここでミスターフリスキーのエントリーだ! これはものすごい猛追!

ケンタッキーダービー勝利馬か彼に勝ち続けた夏の雨か、サンタアニタの刺客か!

三者並んだ並んだあ! ゴールイン!

わずかにミスターフリスキーか!? これは写真判定です!)

 

 案の定高速時計になり、レコードタイムになる。

しかし観客はそれどころではない。競馬に熱心な観客は、

ミスターフリスキーが喉に腫瘍を飼っていた事を知り心配していた。

そしてそれを見抜けなかったことが、ケンタッキーダービーでの不甲斐ない

走りにつながったと見ている。

 更にそれに気づいたのは、トバだということを。

もっともありえないのが、SOSのモールス信号を送ったことだ。

あまりにも賢く称賛の声もあったが、ライバルだったり日本から来たクソ血統だったりするので、陣営が作った嘘かミスターフリスキーへの失態を消すためのフェイクとうがった見方がされた。

 

 少々競馬新聞が炎上したが、馬券に影響が出ることはない。

当然上位5名は選ばれる。

 

<The results are in.

The winner of this year's Preakness Stakes is Mister Frisky!>

(結果を発表します。今年のプリークネスステークスを勝ったのは、ミスターフリスキーだ!)

 

 続いてアンブライドルドが2着、サマースコールが三着の結果となった。

 

「よーしよしよし。掲示板に入れたな!」

【!!】

「Hey, boy」(よ!)

「Congratulations to Gary and Mister Frisky」(二人共おめっとさん)

【Thanks to you, I was able to run comfortably】(トバのおかげで、気持ちよく走れた!)

【It was a really fast run.】(めっちゃ速かった)

 

「This time it was lackluster」(騎乗をミスったか?)

【I feel sluggish. Dizziness.】(身体がだるいわ暈がするわで散々だ)

【なんだと!? 奉先くん!】

「ん? どうしたんだ、トバ」

 

 アンブライドルドがミスターフリスキーにちょっかいを掛けに行った時、

トバがサマースコールの不調に気づいて近寄った。

すぐに手綱を引いて騎手達を驚かせながら、トバはダートに爪で”H2O”と書く。

これにこの場にいる騎手は、トバに驚愕し賢すぎる事がわかってしまう。

 すぐに馬体検査をしたら、サマースコールに馬用の生理食塩水を与える。

更になんかドラッグを使っているのかということで、公的機関からしめつけは

ないのかと奉先くんや正一獣医師から問いただした。

 

 残念ながら使用薬物のラシックスは風邪薬と同じく、常用剤として日常的に使われるようだ。

つまりラシックスを使っていない競馬は競馬ではないという見解らしい。

そもそもの話、アンブライドルド・サマースコール・ミスターフリスキーがいなければ、トバがこのアメリカレースの1着を取っていたのだ。

 温帯日本生まれのクズ血統でも、走るやつは走る。

ここにいるちゃんとした調教師はわかっているはずなのだが、

まだまだドラッグに頼る輩がいるのは悲しいところだ。

 

 そしてサマースコールは、ラシックスが原因で鼻血を出すに至る。

これによりサマースコールがベルモントステークスに出走するのは絶望視されるのだ。致し方ない。調教師の責任ではあるが、彼の不明が原因で有望な競走馬を失墜させた。

 調教師が黙っていないということも、将来的に競馬協会の重鎮を務める

パット・デイ、ゲイリー・スティーヴンス、クリス・マッキャロンらによって、

是正されることが決まった。

 

 

 

【サマースコール! サマースコール!!】

【Shut up. It's not like I'm going to die Even if I don't see you again, I'll continue to live. Goodbye.】

(うるさい。死ぬわけでもないのに大げさだな)

 

 馬運車が迎えに来る。

応急処置を施しただけで本格治療ではない。すぐに用意されたということは、副作用を知っているのだろう。

トバは怒る。競走馬人生を見ると、ラシックスの副作用で苦しむサマースコールが見える。

将来は種牡馬になれたそうだが、副作用のせいであまり馬を残せなかった。

 しかし、トバの未来視では見えない未来では、サマースコールの子どもたちは

かなり良い成績を残している。

勿論種牡馬生活ではラシックスを使っていないので、そのまま長生きし老衰の後に安楽死させられた。

 

【Don't run away】(俺様から逃げるな!)

【That's why I'm just going back to the ranch】(牧場で養生するだけだ、バカ)

【I hope we can run together again】(また一緒に走ろうな)

【When the race is over, his personality will change too much.】

(いきなり落ち着くな!?)

【It was fun. See you soon.】(楽しかった。じゃあな)

 

 こうしてまた一頭の名馬が、観衆目線の表舞台から姿を消した。

 

 

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