悲報 オバロ現地民転生とかいう罰ゲームwww   作:はんぺん大納言

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やってもいい内容なのか悩みましたが内なる練り物がGOサイン出したので投稿です
独自設定や捏造設定など多数ありますのでご注意ください



幕間 その頃の転生者以外の様子3+α

Case.6 竜王国の場合

 

 竜王国、王城内の執務室。

 多少の侘しさを感じさせるものの、品の良い調度品や美術品が置かれた部屋で女王ドラウディロンと宰相の2人が会話を交わしていた。

 

「──以上が本日分の報告書となります。左から順に優先度の高い物となっておりますのでご確認ください」

 

「うむ、ご苦労。五年程前と比べればモンスターやビーストマンの被害もマシにはなったが、やはり完全には無くならんか。近年は冒険者が頑張ってくれているとはいえ、やはり戦力が足らん。国軍に引き抜きたい所だが、応じてくれるかと言うとそうでもないしな……。ああー、その辺から我が国に仕えてくれる強者でも出てこんことかな」

 

「強者と言えば、二月ほど前に王国で行われた御前試合には白金級やミスリル級、オリハルコン級に相当する戦士が多数参加していたとか」

 

「景気のいい事だ。数人くらいこちらに分けて欲しいよまったく」

 

 比較的安全な内地に位置し、敵対的な亜人の国と接していない王国をドラウディロンは羨んだ。モンスターの脅威はあるだろうが、それはどこでも同じ事。人間を餌と見なして積極的に襲ってくる亜人──それも国家単位でだ──が居ない立地など羨ましくて仕方がない。

 そんなドラウディロンを励ますように宰相は言葉を掛ける。

 

「我が国も捨てた物ではないでしょう。何せアダマンタイト級冒険者が三チーム(・・・・)も居りますから」

 

 宰相の言葉にドラウディロンは自国のアダマンタイト級──"クリスタル・ティア"、"ジェダイ"、"ワイルドハント"の面々を脳裏に浮かべた。

 三チームと言うが、実際の所"ワイルドハント"は個人チームなので実質二チームだ。

 

「王国や帝国は四チーム(・・・・)居る上、英雄級や逸脱者が国に仕えているがな……。欲は言わんからウチももう一チームくらい増えないものかなぁ」

 

「アダマンタイト級を望むのは高望みかと思いますが? 例年から考えれば、我が国の組合に所属しているアダマンタイト級冒険者の数も異例と言っていい程ですよ。それに、取り込みたいのであれば、"クリスタル・ティア"の彼でしたら可能性は高いと思いますが?」

 

「奴に仕掛けるくらいなら"ジェダイ"の誰ぞかウェイド*1に粉をかけるわ! 全員が英雄級とかいうおかしいレベルの強さだからな! それに、毎度こちらに寄越す視線がねっちょりしとるんだよあいつ……。奴に比べて他のアダマンタイトはマトモで助かる。はー、冒険者全員あやつらのように強くて礼儀正しくなってくれんかなー」

 

「英雄級の強さを求めるのは酷かと」

 

「そこまでは求めとらん。礼儀だけでもいいんだがなぁ……特にセラブレイト」

 

「おや、彼はきちんと礼節を払っていると思いますが」

 

「表面上はな! あの舐め回すような視線が無ければまだマシになる」

 

 謁見の度にセラブレイトから向けられる視線を思い出し、ドラウディロンは身震いした。

 

「性根や性癖とは簡単に変えられるものではありませんから。陛下が満たして差し上げれば収まるかと」

 

「変えられずとも表にさえ出さなければよいのだ! あとそれは最終手段だ! それに先ほどお前が言ったように我が国にはクリスタル・ティア以外に二チームもアダマンタイト級冒険者が居るからな!」

 

「それで対ビーストマン戦線を回すのに足りますか? "ジェダイ"の魔法詠唱者(マジック・キャスター)が愚痴ってましたよ? そろそろ休みが欲しいって」

 

「うっ……今機嫌を損ねられるのは非常に困る。転移の魔法は各戦線を支えるのに必須なのだ」

 

「でしたらローテーションを考えて仕事を配分してください。"クリスタル・ティア"にもう少し振ってもよいのでは? それと、まだ多少の余裕はありますから"豪炎紅蓮"を雇うのも手ですよ」

 

「確かにあの人外集団とはいえ、流石に休息は必要だな。よし! しばらくはオプティクスを雇って穴を埋めるとしよう。あまり長く空けられると困るが、彼らには英気を養ってもらうとしようか」

 

 "クリスタル・ティア"──というよりセラブレイトを候補から外し、ドラウディロンは宰相の第二案を採用した。仕事を振りすぎれば何を要求されるか分かったものではない。

 

「ナニじゃないですかね」

 

「お前分かってて言っただろ……。ああ、それと最近ビーストマンの攻勢が弱まっている地域があったな? 計画している練兵はそこで行うよう手配しておいてくれ」

 

 "ワイルドハント"が叩いて回ったお陰でビーストマンの襲撃頻度が下がった土地を実地訓練を行う場所に選定するようドラウディロンは指示を出した。

 念のために休暇前の軽い仕事として"ジェダイ"に調査依頼を頼むのもありかもしれない。冒険者に頼り切りの状況はあまり健全とは言えない事だったが、竜王国にとって仕方のない事でもあった。

 

「あー! あと一、いや三チームはアダマンタイトが欲しい!」

 

「強欲ですね」

 

「うるさい!そうでもなけりゃ国家は回せんわ!」

 

「それと、あと半刻ほどで陽光聖典の方々が参られますのでご準備を」

 

「うむ、分かった。はぁ……。法国の手を借りずに済むようになるのはいつになる事やら」

 

 いくら強い冒険者が増えたとしても相手は国家だ。本格的な攻勢を仕掛けられていない今は何とかなっているが、この状態もいつまで続くか分かったものではなかった。

 ドラウディロンは謁見の準備を進めつつ、今後の方針に頭を悩ませた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Case.7 冒険者達の場合

 

 今日の狩りを終え野営の準備を進めながら、冒険者チーム"漆黒の剣"の戦士、ペテル・モークはふと昔の事──といってもほんの少し前の事だが──を思い出した。

 そう、確かあの時は──

 

 

 冒険者チーム"漆黒の剣"は(アイアン)級に昇格してから数日ぶりにエ・ランテルの冒険者組合を訪れていた。昇格前の(カッパー)との階級差はたった一つ。されど一つ。

 真新しい冒険者プレートを首から下げ、自分達は新たな一歩を踏み出すのだと言葉に出さずとも気持ちを一つにしていた。

 組合に入ってすぐ、何かを見つけたニニャが疑問を口にした。

 

「あそこに人混みが出来ていますけど、なんでしょうか……」

 

 他のメンバーがニニャの視線を辿ると、何やら人集りが出来ているのを見つけた。そちらから流れてきた声に耳を傾けると、どうやらアダマンタイト級冒険者チームがここに訪れているらしい事が分かった。

 人間種全体で見ても極々僅かしか居ない、人類の切り札と言って良い存在だ。

 人集りの隙間から見える姿に一同は感嘆の声を上げる。

 

「あれがアダマンタイト級チーム、"鉄華団"!」

 

「あの強者だけが放つ気配。正に英雄というべき迫力であるな」

 

 メンバーは全員青年程度と年若いが、冒険者歴7年近いというベテランチームだ。現役の高位冒険者でこれ程若い者は同じアダマンタイト級の"蒼の薔薇"のリーダーくらいだろう。

 漆黒の剣の面々が入り口前で立ち止まって話していると、背後から苛立ち混じりの声が掛けられた。

 

「おい、出入り口の前で屯してるんじゃねぇ、邪魔だ!」

 

「あ! す、すみません!」

 

 脇に退けた漆黒の剣の面々に舌打ちをした男の首には日の光を反射して輝くミスリルのプレートが下がっていた。

 

(アイアン)……それに、見ない顔だな。新人か? 次から入り口を塞ぐんじゃねえぞ! ったく。あん? アイツら……!」

 

 冒険者プレートをちらりと見た男が怒りながら注意をしてくる。一瞬思うところがあったが、至極当然の内容だったため漆黒の剣の面々は素直に反省した。

 その後直ぐに漆黒の剣から視線を切り、イラついた様子の男が人集りを見つけると、中心にいる存在に気づいたのか迷いなく近づいていく。

 

「マズイ、止めないと!」

 

「落ち着けニニャ! 止めるったって、俺ら(アイアン)が何か言ってもミスリルの先輩が止まるかよ」

 

「離してくださいルクルット。僕だけでも止めに行きます」

 

「これは、もう間に合わなさそうであるな」

 

 これから起きるであろう事態(揉め事)が漆黒の剣の面々の頭に過った。そうなれば折角の昇格直後というめでたい気分が台無しだ。組合内も荒れるだろう。

 その間にも、鉄華団のリーダーらしき男の背後に近づいていたミスリル級の男は荒々しく鉄華団のリーダーの首に腕を回し、

 

「ようオルガ!! 久しぶりだな、元気そうじゃねえかよおい!」

 

 不機嫌そうな顔から一変、破顔して声を掛けた。耳元で急に声を掛けられた男──オルガも動じず声を返す。

 

「イグヴァルジ! 合同依頼ぶりだな。元気にしてたか?」

 

「当たり前だ。俺を誰だと思ってやがる! それに、あん時に比べれば何が来ても元気にやれるさ」

 

 親しい様子で会話を弾ませる2人に漆黒の剣の面々は安堵した。

 

「どうやら取り越し苦労だったみたいだ」

 

「だな。……にしてもあの人、アダマンタイト級と知り合いだったのか」

 

 アダマンタイト級にミスリル級という高位冒険者同士の会話に興味本位で漆黒の剣の面々は耳を傾ける。

 いつかその領域にたどり着くつもりではあったが、今はまだ遠い世界の話だ。気にならないわけが無かった。

 

「あー、ありゃお互い災難だったな。薬草採取のつもりがドラゴンの番と遭遇戦だ。何であんな所に居たんだか……。補給の為に街まで戻ってみれば、依頼は取り下げられてたし踏んだりけったりだ」

 

「災難なんてよく言うぜ。結局どっちも倒しちまったんだからよ」

 

「おいおい、片方のトドメを刺したのはお前だろイグヴァルジ」

 

「へっ。あんなおこぼれもおこぼれ、認められるかってんだよ。今度は俺だけで……いや、俺たち"クラルグラ"だけで倒して見せるさ! そうすりゃ俺らも晴れて竜殺しの仲間入り、アダマンタイト級の仲間入りだ」

 

 会話の最中に出てきたドラゴン、それも番と言う単語に漆黒の剣の面々は色めきたった。しかも、遭遇して生き延びるどころか倒してしまったというではないか。

 英雄譚の一幕とすら言えるソレに興奮を覚えない冒険者は居ない。

 それはそれとして、この場にクラルグラのメンバーが居れば無茶言うなと言っていただろうが。イグヴァルジは自信に満ちた表情で言い切った後、オルガに尋ねた。

 

「で、エ・ランテルには何の用で来たんだ? まさか前回のリベンジか?」

 

「いや、組合に来たのはただの顔出しで休暇だよ。コイツのな」

 

 オルガが懐から取り出したのは、掌に収まる程度のカードの束だった。

 

M&W(マジック&ウィザード)か! お前もエ・ランテルの店舗大会に出るみたいだな」

 

「おうよ。……ん? お前も、ってことは」

 

 イグヴァルジが懐から出した手には、同じくカードの束、M&Wのデッキが握られていた。その参加表明を聞いたオルガはニヤリと笑う。

 

「じゃあライバルだな。俺のゴーレムデッキに勝てるかな?」

 

「抜かせ、俺の大森林デッキは無敵だ。吠え面かかせてやる」

 

「なら負けた方が晩飯奢るってのはどうだ? 場所は黄金の輝き亭。散財してなきゃドラゴン素材の収入が未だ残ってるだろ?」

 

「乗ったぁ! あと金はまだ残ってるぜ。全額装備の更新に回そうとしたんだがメンバーに止められてな。お節介な奴らだぜ、まったくよ」

 

 聞き耳を立てていると、どうやら何かの依頼ではなく完全にプライベートだったようで、そのまま2人は趣味について語り合っている。

 納得する他の面々とは別にペテルが疑問を口にした。

 

「……M&Wって何だ?」

 

 その一言に他の面々は驚いた

 

「え、ペテルはM&Wを知らないんですか!?」

 

「マジかよ。農村とかなら兎も角、今時街に住んでて知らない奴初めて見たぜ」

 

「うむ。知らない方が珍しい、流行の最先端の娯楽である」

 

「そうだぜ。なんならこの街にゃ直営店があるくらいだ」

 

 ペテル以外のメンバーと、いつの間にか混ざっていた特徴的な前髪をした男が信じられないものを見たような表情を浮かべた。

 

「へー。そうなんだな、って!?あなたは、いつの間に!?」

 

「M&Wの話をしてるのが聞こえてつい、な。おっと名乗り忘れた。アダマンタイト級冒険者チーム"鉄華団"団長、オルガ・イツカだ。ホームはエ・レエブルだがあちこち移動して仕事をしてる」

 

 唐突に現れた存在に目を白黒させながら、ペテルは名乗り返す。

 

「鉄級冒険者チーム"漆黒の剣"のペテル・モークです。こっちがレンジャーのルクルット、ドルイドのダイン、魔法詠唱者(マジック・キャスター)のニニャです」

 

「よろしく!」

 

「よろしくお願いするのである」

 

「よろしくお願いします」

 

「おう、よろしくな! 初々しくていいな。俺も昔を思い出す……。何かあったら頼ってくれ。この街に居る間くらいは相談に乗るぜ」

 

 オルガが何かを懐かしむような表情を浮かべた後、漆黒の剣にとって有難すぎる申し出をしてきた。

 

「え、いいんですか!?」

 

「それはとても助かるのである!」

 

「さっすがアダマンタイト。器が違うぜ!」

 

「ちょっと皆!」

 

 すっかりその気になった漆黒の剣をニニャは諫めようとするが、それをオルガは制した。

 

「いいっていいって気にすんな! エ・ランテルには1週間ほど居る予定で、黄金の輝き亭って所に宿を取ってるから用があるならそこに尋ねて来てくれ。じゃあな!」

 

 

──なんてこともあったな。あの後ちょっとした手ほどきをしてもらったりとお世話になったし、あの人たちには頭が上がらない。

ホームはエ・レエブルと言っていたので、今はその周辺で活動しているのだろうか。そんな事を考えながら手を動かしていると、いつの間にやら野営の準備を終え食事の前という段階だった。

 食事の前に最近のお楽しみを始めようと背嚢を漁っていると、ニニャがジト目でペテルに声を掛けてきた。

 

「……で、ペテルはまたカードを買ったってわけ?」

 

 ビクリと肩を跳ねさせたペテルは釈明を始めた。

 

「違うんだニニャ。いや、違わないんだけど。品切れだった新弾が丁度入荷してたんだ。これはもう買うしかないだろ? ニニャだって欲しかったマジックアイテムが手の届くところにあったら買うだろ?」

 

「それはまぁ買いますけど、趣味の物を買うのに装備の更新費用を当てるなんてしませんよ……。確かにユニ=クロ製の装備は値段以上の性能ですけど、最低ランクの物なんですからもう更新する頃合いでしょう?」

 

 使い込んで愛着の湧いた装備達を思い、ニニャの言葉にペテルは反論する。

 

「いや、こいつはまだまだ現役だ! なんせ魔法の装備なんだ。俺たちの等級で考えたら、効果が弱くても魔法の装備で揃えるなんて考えられない事だぞ?」

 

 ペテルの言葉にルクルットとダインの二人も反応した。

 

「ま、そう言われりゃそうだな。俺も銀級で全身魔法の装備で揃えられるなんて考えてもなかったぜ」

 

「ルクルットの言うとおりである。ニニャの(くじ)運に感謝であるな」

 

 照れた様子でニニャは当時を思い返す。店内での最低等級の物とはいえ、魔法効果を抜きにしても質の良い物だ。

 あの後破落戸(ごろつき)まがいの連中に絡まれたことも、今となっては思い出の一つになっている。

 

「ははっ。僕もまさか、たまたま引いた籤で魔法の装備一チーム分なんてすごい物が出るとは思ってませんでしたよ。あの後やっかみが凄かったですし……」

 

「運も実力の内っていうし、気にしない方がいい」

 

「……はっ! ニニャ、ちょっとこのパック俺の代わりに開封してくれないか?」

 

 名案を思い付いたような様子のペテルに、ニニャは再びジト目を向けながら呆れたように言葉を返す。

 

「そういうのは自分で開けるから楽しいんだ、って前に言ってませんでした?」

 

「なら俺に開けさせてくれよ!新弾買い込んだんだろ?」

 

「なら私も1パック開けてみたいのである!新規の植物系モンスターのカードが封入されていると小耳に挟んで以来気になっていたのでな」

 

「それならもう、皆で開けませんか?ペテル、ちなみに何パック買ったんですか?」

 

「そうだな……。よし! 4パックあるから1人1パックで分けようか」

 

「いいねぇ。誰が一番レアなカードを出せるか勝負だ!」

 

 そうして漆黒の剣は、普段よりもちょっとだけ賑やかな夜を過ごした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Case.8 転生者達の場合

 

 王国某所、とある施設の生産職用研究棟の一室。

 それなり以上の広さの部屋は様々な機材や各種素材、製作したアイテム類や試作品で溢れており、混沌としか言いようのない様相を呈している。鍛治師や錬金術師達が忙しなく動く中、一つの箱──蓋のない簡素な作りで、中には鉄のように見える金属と水晶のように透き通った金属が詰まっていた──を抱えた男が室内に入ってきた。

 

「おーい、追加のイシルディンと神珍鉄持ってきたぞー」

 

「そこ置いといてくれ!」

 

「うーん……やっぱ強度が足りんな。守護者級想定だとまだペラいぞこれ」

 

 素材の選定に悩んでいたツナギを着た男に対し、資材の山に頭を突っ込んでいた白衣の男がある物を引っ張り出して声を上げた。

 

「あったよガルヴォルン!」

 

「「「でかした!」」」

 

 思わぬ希少金属の登場に、室内で作業していた者全員が手を止め歓声を挙げた。

 少し前に生産職内での希少金属獲得ドラフトで得たものだ。廃品からの抽出に変成魔法やタレントを駆使して何とか作り上げられたそれの素材性能は、アダマンタイトなどとは一線を画す。

 

「うちの研究班のクジ運は世界一いいいいい!」

 

「ナイスゥ!じゃ、この子はブラックサレナ用の資材として持ってきますね。──?」

 

 何食わぬ顔でインゴットを持ち逃げしようとした男は転移魔法を発動させようとするも、上手く起動せず首を傾げた。その様子を煽りつつツナギの男は通報の指示を出す。

 

「入室許可証に次元の杭(ディメンジョナル・アンカー)掛かってるの忘れてる奴おりゅ? 横領の現行犯だ、警備部に連絡しろ!」

 

「草。おお、無様無様」

 

「耐久値バグニキのお墓を立てるウラ……」

 

「ちょっとした出来心なんよ、許してクレメンス♡」

 

 窃盗未遂を咎められた男が軽い口調で謝っていると、間を置かず軍服に似た服を着た女が入ってきた。

 

「ほい現着っと。<過去視(パストシーイング)>──うーんこれは反省の色無し。ニキは一応戦えるビルドだしアレ持ってるでしょ? レベリング用アグレッサー役の刑1日で」

 

「……うおおお!レベリング地獄行きはいやじゃあああ!究極暗黒剣ヒューキリダバフィズ〜季節の野菜を添えて〜ver1.15改フルバーニアン(高速詠唱)、変身ッッ!!!」

 

「危険物持ち込んでんじゃねえええ!? 変身バンクの爆発に巻き込まれるぞ全員離れろおおおお!!!」

 

 周囲の人間が避難した直後、変身と叫んだ男を中心に人間数人を優に飲み込める規模の爆発が発生する。逃げ遅れた者も居たが、奇妙な事にその人物は派手に吹き飛ばされるだけでそれ以外のケガを負うことはなかった。

 爆炎が晴れた後、そこには黒い全身鎧に身を包み赤いマフラーをたなびかせる男が立っていた。

 

「明日って今さ!」

 

 何故か取っていたポーズによる硬直が解除された瞬間、意味の分からない捨て台詞を言い残し男は走り去って行った。

 女は慣れた様子で次の行動に移り始める。

 

「うーん、器物損壊と公務執行妨害も追加で1週間は堅いかな。完全修復(パーフェクト・リペア)持ち派遣してもらうんで現場保存お願いします。<魔法上昇(オーバーマジック)物体発見(ロケート・オブジェクト)>──成程成程」

 

「<全体伝言(マス・メッセージ)>──こちらフェリセット。ホシは倉庫エリア方面に向かって逃走中。いつも通りホシは例の強化スーツを展開中なので注意されたし」

 

 連絡を受け取った面々から了解の意を示す応答が返ってきた事を確認して女──フェリセットも逃げ出した男の確保に向かうべく動き始め、残された生産職の男たちはある雑談板に祭り宣言の投下を行った。

 

 一方、研究棟から脱出した男は都市内を全力で走り抜けていた。廃ビルの群れの中を駆けつつ後方を確認すれば、追手の姿が確認出来る。

 半透明な光の翼を生やした者、飛行に適した生物に変身した者、召喚モンスターに騎乗した者、マジックアイテムで飛行する者と個性的な面々──男にとってはいつものメンバーだが──だ。

 それに加え、さらに後方には飛行(フライ)らしき手段を使って追従している集団も見えた。

 普段よりも逃走難易度の高い状況に高揚しつつも追手を撹乱するべく男は路地裏に飛び込み駆けていく。

 高速飛行にリソースを割いた者ではこの狭く入り組んだ路地に入ることは出来ないが、まだ油断は出来ない。そこそこ距離は稼げたが、恐らくまださとりネキ*2物体発見(ロケート・オブジェクト)の射程圏内だ。

 

 更なる撹乱を行うべく下水道へのマンホールを探していると、目の前を半透明の鷹が高速で通過して行った。

 一瞬視線が合ったのは偶然では無いだろう。まず間違いなく捕捉されたと考えていい。

 

「透過──いや、霊体化か!仕方ない……オラァ!」

 

 (追手)がこちらに戻ってくる前に対処すべきと判断した男は最短ルートで逃げる事を選択。強化スーツの補助を受けた一撃で地面を破壊し、下水道に逃げ込んだ。現在は生産職に転向しているが、当時探索者(シーカー)を担っていた男にとってこの都市内の構造は勝手知ったる庭のように知り尽くした物であった。

 

 偽装用に周囲の風景と同じ物を一定時間投影する使い捨てアイテムで入ってきた穴を隠し、下水道を進んでいく。チラつく電灯と用水路を流れる水以外何も無い事を確認し、<沈黙(サイレンス)>と<透明化(インヴィジリティ)>、マジックアイテムによる探知阻害を起動し男は人心地ついた。

 さとりネキの情報系魔法による探知は防げないので気休めだが、移動距離を考えると射程外に逃れられたと判断していいだろう。

 表向きには問題児である男の暴走──実際、逃げ切れた場合はお咎めなしかつ報酬もあるので間違いでも無い──として処理されている抜き打ちの緊急出動(スクランブル)訓練ももう何度目か。本気でやるからこそ身が入るもので、事実最初期のグダグダっぷりからは考えられない成長を彼らは見せていた。自分達逃走役もまたその恩恵に与っており、同格かそれ以上を相手にした本気の逃走はレベルが上昇するほどの経験値に加え、逃走ルートの選定眼、撹乱・偽装手段の確立、突発的な事態に対する判断力等といった純粋な経験も積めている。正直、ここまでやっても逃走限定とはいえ対ナザリックを想定すると心許ないが、やらないよりはマシだろう。ぶっちゃけ外に出ずここに引き篭もってたい。

 

 男がつらつらと考えながら迷路の如き水路を進んでいると、目的地に上がるための通用口が見えてきた。

 マジックアイテムで生み出した幻影を先行させ10秒数える。

 異常を示さない幻影を下水道に戻らせてから解除した後、警戒しつつ外に出るが周囲に人影は無い。念の<不可視化視認(シー・インヴィジリティ)>で確認し、本当に誰もいない事を確認した男は無事逃げ切った事を確信した。

 

「残念だったな明智君。どうやら今回は私の勝ちのようだ! 装備解除っと。お、ちょうど演習場で上位勢が模擬戦やってるし見てから帰r」

 

 強化スーツを解除した瞬間、運悪く流れ弾として飛んできた溶岩流(ラヴァストリーム)が直撃した男はジュッという音と共に蒸発。

 その後、登録した者の生死を示す名簿によって死亡を確認された男は医療班により蘇生され、無事懲役1週間の刑に処された。

 

 此処はある時期から本部機能を移された転生者達の本拠地。現在も拡張と改装を続ける、地下300メートルに存在せし大深度地下都市"レイヤード"。

 或いは、かつてとある世界で廃棄都市"ヴリヒルドリア"と呼ばれていた、主なき地下遺構であった。

*1
5歳児ニキの本名。フルネームはウェイド・スペイア

*2
フェリセットのあだ名。情報系魔法の阻害を無視するタレント持ち。スレではただの名無し




上層部「自由都市? モモンガさん向けの観光都市兼外向けの見せ札です」
上層部「アーキバス領? 表向きの本拠地です。やだなぁ探そうと思えば見つけられる所に本拠地なんて置きませんよ」
上層部「知ってるのはこっちで教えても大丈夫だと判断した人員だけです。別に、こんな事もあろうかとってやりたいからとかそんな事ないですよ?ワタシタチウソツカナイアルネ」
上層部「まぁコレは避難所兼本部としてジャブローでも作ろうぜって掘ってたらヤバい物掘り当てた結果なんですけど。なんでこんなヤベーもん地下に埋まってるの??????」

捕捉
本作でのヴリヒルドリアはサ終前にあるプレイヤーが運営お願い系WIでギルドホーム化した物となります。どうせ3日もすれば消えるしええやろと要望を通した結果転移条件を満たしてしまい、地下にあった大空洞に転移してきました。
ソロギルドかつ実行したプレイヤーがギルド拠点化した時点で満足してしまったため、NPCも生産設備も一切ありませんしマスターソースをいじる手段が無いので追加もできません。
モンスターの自動湧き機能はありますが、金貨不足で機能停止しています。
また、ギルド拠点化に伴ってマップ内に存在していた宝箱等のアイテム類が多数削除されており、オブジェクト扱いの建物や廃材、一部の採取ポイント(金貨不足で機能停止中)が残るのみとなっています。
それらの設定が反映されていたのか、金属ゴミの中にはアダマンタイト以上の金属が混ざっていることがあるため転生者達は現在廃品回収してリサイクル中です。
ギルド武器はありましたが、適当に耐久力系のデータクリスタルを突っ込んだ物で性能は聖遺物級(レリック)伝説級(レジェンド)の中間程度。
攻撃性能はそれ以下というギルド武器(笑)でした。当時の探索部隊がこのギルド武器(外装はマスケット銃。内部データは物理打撃用の杖なので発砲機能は当然無い)を発見した際は大層喜びましたが、実際の性能を知った後はキレ散らかしました。

書き忘れてたので追記。いくつか運営のガバが残ってたりする。


捕捉2
・イシルディン
ミスリルの上位互換金属。非常に透明度の高い水晶に似た外見。魔法系のデータクリスタルを詰めると補正が乗り、同レベル帯の金属と比べると軽量。転移後の世界ではまだ発見されていない。

・神珍鉄
下位互換の金属は無し。強いていうなら鉄の超上位互換。一見すると普通の鉄にも見える外見。物理系のデータクリスタルを詰めると補正が乗る。
一つ上のレベル帯の金属と比較してもかなり重い代わりに物理攻撃力と耐久力の補正値がかなり高い。転移後の世界ではまだ発見されていない。

・ガルヴォルン
ユグドラシル基準での高位金属。輝きを放つ黒い金属といった外見。強いて言うならアダマンタイトの超上位互換。非常にバランスのいい金属で幅広い用途に使用可能。転生者内だとジェバンニニキ(タレント込み)くらいしか素材として使用できない。転移後の世界では存在しないので必要な場合は何らかの手段を用意する必要がある。




見なくても問題ないおまけ

 ビーストマン国"ワンナ"、六大都市の一つである"グラディア"から外れた場所。そこに、隠れるようにひっそりとたたずむ小屋があった。
 住人の名はアンダル・イグザリオン・グラディア。
 本来、都市内において下にも置かれぬ扱いを受けるはずであるグラディア氏族の一人たる彼が何故このような侘しい暮らしをしているのかと言えば、ある戦いから無様に敗走したが故であった。
 勇猛なる戦士を貴ぶビーストマン──これはビーストマンに限らず、戦士系の亜人種全般に言えることだが──にとって、戦い……否。狩りからおめおめと逃げ帰った輩など恥でしかなく、ましてやそれが人間などという弱小種族相手であればなおの事である。
 都市グラディアにおける支配者層の一員であったアンダルも例外ではなく、その扱いはかつてとは比べるべくも無かった。
 では、そのせいで文明的な都市の外で暮らしているのかと言えばそれは違った。氏族からの侮蔑の視線に耐えられるのであれば、都市内で生活すること自体はできたのだ。
 アンダルは難度にして70ほどの実力を持つ。これはビーストマンの戦士階級の平均値より少し上程度の実力だが、平均的な市民よりは圧倒的に強い。
 無様に敗走した事実はあれど、力をこそ貴ぶビーストマンの市井で暮らすには十分な強さであった。
 では何故アンダルはわざわざ都市の外で、隠れるように暮らしているのか?
 巻き込まれたくなかったからだ(・・・・・・・・・・・・・・)
 かつて己が遭遇した嵐に。全てを吹き飛ばし、平伏させ、殺し尽くす冷たい嵐に。
 理性の上ではアンダルも分かっている。アレがこの国に、それも大都市まで来ることは出来ないと。それでも心は別だった。アレがもし、この国に攻め込んできたら?まず間違いなく街々を襲うだろう。そうなればこの都市も嵐に飲まれ、住民は無様に死に絶える。抗う事も逃げることも出来ず、名誉無く屍を晒す。
 刻みつけられたトラウマから来る被害妄想でしかないが、一度考え始めるともう止まらない。今はマシになったが、帰ってきた直後など酷い有様で、夜の闇にすら怯え常に篝火を焚いていたものだ。
 アンダルが就寝の準備をしていると、戸を叩く音が小屋の中に響いた。
 ごく限られた者しか知らないはずのこの場所に訪れた尋ね人を警戒し、聞き耳を立てる。アンダルの身体能力は通常のビーストマンよりも優れており、中でも聴覚と臭覚には自信があった──嵐の前にはそんなもの役に立たなかったが──。小屋の周りの音からして数は一人で臭いはビーストマンの物。嗅ぎなれたその臭いに意を決して扉を開けると、そこには想像通りの人物が立っていた。

「こんな夜更けに、俺みたいな負け犬になんのようだ? 氏族長さんよ」

「……お前ほどの男がこのようなあばら屋で過ごしているとはな。話には聞いていたが、信じられなかった。何故都市に戻らない?」

「そりゃ買いかぶりってもんだ。もう俺は折れちまった。戦士としての誇りなんぞ、欠片も残ってねぇよ。あそこにそんな軟弱物は要らない。そうだろ?」

「そうだな。我がグラディアは力ある者、そして誇りある者こそ尊重される。その点から言えば、お前は落伍者だろう」

「そういうこった。こんな所に居たら負け犬の臭いが移っちまうぜ? そら、帰んな」

 かつての憧れを前にしても、アンダルの心に火はつかなかった。
 氏族長に言ったように完全に折れてしまっていたからだ。

「だが」

「あ?」

「だが、かつてのお前は誇りある戦士だった。お前にいったい何があったというのだ。何と遭ったというのだ」

 氏族長の問いかけにアンダルはぽつりとつぶやく。

「……嵐だよ」

「嵐?」

「そうだ。嵐だ。俺は人間の国で嵐と出会った」

 氏族長は無言でアンダルに続きを促した。

「なんて事の無い狩りになるはずだった。部下との楽しい人間狩り(ハンティング)だ。だが、唐突に現れた嵐に全て壊された」

「俺を含め、叩きつける暴風で身動きが取れない中、大声でやり取りをしていたんだ。酷い勢いの雨のせいで視界も鼻も利かなくてな」

「吹き飛ばされないように耐えながらジリジリと移動していたが、一人、また一人と声が減っていった」

「俺を含めて残り二人になった時、俺は足を滑らせて吹き飛ばされちまった。運良く川に落ちなけりゃ地面の染みになってただろうよ」

「打ち所が悪かったのか、気絶していた俺は気づけばかなり離れた場所まで流されていた。だがそれはこの後を思えば幸運だった」

「慌てて戻ると、そこには心臓を突かれ、首の無い同胞の遺体が野ざらしにされていた」

「俺は心底怖くなった。そして、昔ある人間の都市で起きた嵐の話を思い出した。俺は参加して居なかったが、その攻め落とした都市で何もない所から嵐が起きたって話だ」

「俺は思ったよ。あの時の嵐がやってきた。ビーストマン(俺たち)に復讐しようと動き出したんだってな」

 アンダルはひとしきり語った後、氏族長に短く尋ねた。

「行くのか」

「ああ」

 氏族長もまた、短く答える。

「あんたが生き延びる事を願ってるぜ」

「俺は死なんよ。それに、俺が死ねば誰が都市を取りまとめる」

「さぁな。バルバロスあたりじゃないか? 対立派閥の長だが、あんたに引けを取らない強者だ」

「余計に死ねんな。あの戦バカが実権を握れば国内の安定化がさらに遅れる」

「くはっ! あのバルバロスを戦バカなんて言えるのはお前くらいだろうよ」

 懐かしいやり取りに、アンダルは久しぶりに楽しい気持ちになった。
 自分から送れる言葉など意味は無いだろうが、言わないよりはマシだろうと口を開く。

「忠告だ。嵐に遭ったら逃げろ。運が良けりゃ助かるだろうよ。……死ぬなよ、ベイオール」

「そうだな。なら、最初は軽い調査に留めるとしよう。では、達者でな」

 アンダルは去って行くベイオールを、その背が見えなくなるまで見送った。
 英雄が嵐を踏破する事を願いながら。

 その後、アンダルがベイオールの姿を見ることは、終ぞ無かった。
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