悲報 オバロ現地民転生とかいう罰ゲームwww 作:はんぺん大納言
捏造・独自設定マシマシです。
2025/4/24追記
パワードスーツの速度に関する描写を修正しました
Case.11 竜王国にて
竜王国首都、王城内に幾つかある応接室の一つ。
そこでは二人の人間が対面していた。
片方は竜王国女王、ドラウディロン・オーリウクルス。もう片方は飾り気のない灰色のローブを纏い、身の丈程の長杖を携えた魔術師然とした風貌の男。アダマンタイト級冒険者チーム"ジェダイ"に所属する
互いに気負った様子も無く、比較的緩い空気の中ドラウディロンが口を開く。
「折り入って話がしたいと宰相から伝え聞いたが、今日はどういった用向きだ? 正式に我が国に仕えてくれるというなら大歓迎だが」
「急な申し出にも関わらずお時間を作っていただけたこと、感謝いたします。ご期待に沿えない答えとなりますが、士官の申し出ではありません。宮仕えをするにはどうにも自信が無く……。本日は別件についてご連絡したいことがありましたので、こうして尋ねさせていただきました」
力量に反し、妙に腰の低い態度で話すスコッチにドラウディロンは呆れたように言葉を返す。
「そうも謙遜されては我が国の騎士や兵達の立つ瀬がない。お前で、お前たちで務まらんなら誰にも務まらんよ。で、今日はどういった用件で訪れたのだ? そうだ、茶でも飲むか? 賓客用の茶葉はまだあるからな。必要なら淹れるぞ?」
そういってお茶の提案をする現在のドラウディロンは、以前と比べると心に余裕が出来ていた。ここ最近はこれまで積み重なっていた案件──大半がビーストマンとそれに関する問題だ──が片付き始め、ストレス源が減り始めていたからだ。とはいえ、財政面で考えると決して余裕があるとは言えない状態であったが。
「いえ、どうぞお構いなく。この後すぐ戻らなければなりませんので。単刀直入に申しますと、おおよそ半年後にビーストマンの軍勢が竜王国に攻め込んでくることが分かりました」
その言葉を聞き、ドラウディロンは疑問符を浮かべる。散発的とはいえ、ビーストマンは今もなお自国に攻め込んできているからだ。
「む? 以前よりは格段に落ち着いているが、今でも攻め込んできているではないか」
「ああ、あれらは戦士どころか兵士ですらありませんよ。精々腕自慢の一般人、あるいは猟師と言ったところですね」
「あれでか!? 熟練の兵士と同等の力を持つ者達が一般人と? ではビーストマンの兵士……いや、戦士はどの程度の強さなのだ?」
ドラウディロンはその言葉に動揺するも、すぐに思考を切り替えビーストマンの力量について尋ねる。兵士でなく戦士と言い直したのは、スコッチの例え方から戦士の方がより強さの格が上だと察したからだ。
「難度六十前後。冒険者で言えばオリハルコン級、この国の戦力で例えるなら最精鋭騎士と同等以上ですね。確か、国軍にも何名か居られたと思いますが」
難度六十。それは、ビーストマンやモンスターと最前線で戦い続けたごく一部の精兵と同程度の強さであり、軍全体で見ても六人──内二人は後遺症により短時間しか全力を出せない為、四人というのが正しいか──しか存在していない貴重な戦力だ。
彼らは各地域に配置され、現在も戦線を支えている。
「今は六人だ。ただ、その内二人は後遺症のせいで全力を出せぬゆえ実質四人だがな」
「なるほど。話を戻させていただきますと、半年後に侵攻してくるビーストマンの総数は約一万。内三百は先ほど挙げた最精鋭騎士と同等以上の強さを持ちます。そこには推定逸脱者級が一人と英雄に近い領域の者や、アダマンタイト級相当が合計で両の手指を超える程度含まれていますね。加えて、その他九千七百も難度で表すと四十強から五十弱で固まっています」
ちょっとした世間話のような口調で伝えてきた内容に、ドラウディロンの心は悲鳴を上げかけた。事実であれば、三度は竜王国を滅ぼせるといっても過言ではない過剰戦力だ。
「それは──いや、ははは! 冗談を言うでない! そのような戦力、国を空にしても出せぬだろう!」
目を逸らし口で否定するも、それは真実であるとドラウディロンの理性は判断している。短くない付き合いから、目の前の男は多少の冗談を言う事はあれど、洒落にならない事を言う質では無いと知っているからだ。
「するみたいですよ。流石に多少は残すようですが」
否定してほしかった言葉を、スコッチは事も無げに肯定する。降ろしたはずの重荷を再び背負う事になって挫けそうになるも、何とか立ち直る。
ドラウディロンは一呼吸入れて心を落ち着かせ、改めて情報の真偽を問いかけた。
「……その情報は確かなのか?」
「複数の情報系魔法とそれを基にした潜入調査の結果、まず間違いないかと。こちらが偵察写真……現地の風景の写しと補足資料になります」
手渡された数枚の資料に目を移す。視界をそのまま切り取ったかのような、詳細すぎるその絵には無数のビーストマンがどこかの都市近郊に集う様子が描かれていた。見慣れぬ場所だが、ビーストマンの国のどこかだろうか。
「暫しお時間を頂ければ、追加の調査資料をお出し出来ますが?」
「いや、いい。お前たちの事は信用しているからな……。それで、これを私に伝えてどうしたい? この規模を相手に防衛線を行うなど、無謀どころではないぞ。お前達"ジェダイ"は勿論、他の冒険者全員やワーカーを動員してもだ」
現実的に考えると、軍と冒険者・ワーカーで何とか足止めし、その間に可能な限り民を逃がすといった所だが、自殺と同義の行為に付き合ってくれる冒険者など居ないだろう。ワーカーにしても、金だけ受け取って逃げるだろうから時間稼ぎなど大してできないのは目に見えている。派遣されている陽光聖典も死なない程度に多少は削ってくれるかもしれないが、焼け石に水だ。
足止めに成功し民を逃がせたとして、竜王国の総人口は約四百万人。仮に百分の一を逃がせたとして四万人──避難中の食糧問題やモンスターの襲撃等を考えると、実際はその十分の一でも達すれば御の字か──だ。それ程の膨大な数の難民を受け入れる国など、まず無いと断言していいだろう。
仮定を重ね、受け入れられたとして民の扱いはどうなる? ごく一部の腕利きの職人や冒険者といった者らを除き、財を持たず、頼るべき縁者も居ない他の者はどうなる?
詰み。二文字の言葉がドラウディロンに重く圧し掛かる。
「どうしろと、どうしろというのだ……。なぜ、なぜ──!」
「失礼、<
耐え切れず、
「軍の派遣については考慮されなくて結構です。この件については
「我々? "ジェダイ"による転移の魔法での斬首戦術という事か? だが、それをしたところで万の軍勢が統率を失い雪崩れ込んでくるだけだぞ。どちらにせよ結末はほとんど変わらん」
「すみません、こちらをお見せするのを忘れていました。どうぞ」
訝しみながら、スコッチから差し出された数枚の紙に目を通す。何らかの名簿らしく、自国の者のみならず他国の有名な冒険者やワーカーも名を連ねている。
「……これは?」
「仮称、対ビーストマン戦線の参加者名簿です」
「……"ジェダイ"、"ワイルドハント"、"鉄華団"、"サティスファクション、""楯無"、"サンドリヨン"、"六武衆"、"トリコロール"──」
ドラウディロンは、ぽつりぽつりと名簿を読み上げていく。それぞれ王国、帝国、聖王国の冒険者チームだ。そして、読み上げたチーム全てがアダマンタイト級を冠している。それら以外にも、オリハルコン級を始めとした高位冒険者も複数チームが名簿に書かれていた。
冒険者以外も多数──否。むしろ、冒険者以外の方が圧倒的に多い。知った名があり、知らぬ名がある中読み進め、最後に書かれた文字を震える声で読み上げる。
「"ヴァディス自由都市同盟"──あの、英雄都市が……?」
「英雄都市……? 基本的には今お見せした名簿の人員で事に当たるつもりです。私の不手際で混乱させてしまい申し訳ありませんでした」
「!? 頭を上げてくれ! 取り乱した事については全面的に私が悪い!」
頭を下げるスコッチに対し、ドラウディロンは慌てて顔を上げるよう声を上げた。八方ふさがりの状況で見えた活路だ。少しでも心象を良くしておきたかった。
「感謝してもし足りないが、ここまでしてもらっても見合う物は出せないぞ? それでもいいのか?」
「そちらにつきましては、こちらの事情もありますので構いません。それと、報酬よりも協力していただきたいことがございまして」
「何でも言ってくれ! 私にできる事なら何でもしよう」
「ありがとうございます。つきましては、万が一撃ち漏らしが戦線を通り抜けた場合に備え、大規模演習という形で後方に軍を展開していただきたく思います。それらの詳細については後日書類を持ってまいりますので、しばしお待ちください。では、失礼します。<
そう言って、スコッチは転移の魔法により何処かへ去って行った。絶望から一転、何とかなるかもしれないという思いからドラウディロンの心に希望の光が差し始めた。
椅子に深く腰掛け、天を仰ぐドラウディロンに何故か再び転移してきたスコッチが声を掛けた。
「すみません……先ほどお渡しした名簿、機密資料だったので回収に参りました」
「!? う、うむ。ほれ。……もう忘れものは無いか?」
「この資料だけですので大丈夫です。お騒がせしました……。では、今度こそ失礼します」
名簿を回収して再びスコッチが転移した後、ドラウディロンは苦笑いしながら一人ごちる。
「……何と言うか、締まらんなぁ」
◆
Case.12 レイヤードにて
王国某所、地下300メートル。
常人では決して到達する事の叶わない、地の底。
広大な地下空洞の中、廃ビル群が立ち並ぶその都市には今まででは考えられない程多くの人間が集まっていた。
「テーマパークに来たみたいでテンション上がるな~。いや、マジでテンション上がるわ」「元はVRゲーのマップだから、実際テーマパークといっても過言ではないな」「DMMOだ二度と間違えるな」「原理主義者おって草」「ビバ現代文明!! うおおおPCが俺を待っているぅぅう」「どう見てもポストアポカリプスな件」「お前の思い出風化しすぎて物理的にボロボロになってるヤンケしばくヤンケ」「あまりにも唐突なトダー、俺でなきゃ見逃しちゃうね」「団長の手刀を見逃さないマネモブとか、なんかやだなぁ」
興奮する人込みの中、レイヤード施設案内第三班と書かれた旗を持つ女性が声を張り上げる。
「定刻となりましたので、ただいまよりパワードスーツのデモンストレーションを開始します!! ステージの方をご注目ー!! あ、仕切り線から先に出ないようご注意してください。何かあっても自己責任ですので」
案内役を務める女性の声を聴いた人々の視線が仮設ステージに向けられ数秒後、舞台袖から一機のパワードスーツが姿を現した。
全高約三メートル。フルフェイスヘルメットを思わせる丸みを帯びた頭部。よく言えば実用的、悪く言えば遊びの少ないスリムな肢体。帯剣し、ライフルを構えるその姿は正に量産機と言った風貌の灰色の機体だ*1。
空中に複数の疑似標的が浮かび始めると、何らかの連絡が入ったのかパワードスーツが一度頷き、背部スラスターを点火させ宙へ飛び立った。その姿に、観客は色めき立つ。
「おお! 飛んだぞ!!」「マジでパワードスーツあるやん! やるじゃん製造班」「あの造形、作った奴は分かってるな」「ターンピックが冴えてるな」「ターンしてないしピックも付いてないが???」
「えー、現在我々の頭上を飛行している機体はガラテア
地上でのやり取りをよそにガラテアRはバレルロール、コブラ、インメルマンターンとその運動性能を見せつけるよう複雑な軌道を描きつつ疑似標的を撃墜していく。
ライフルで撃ち抜き、剣で斬り捨て、ミサイルのような挙動をする光弾を放って爆散させるその光景に大歓声が挙がる。
「一気にSFになったな。こりゃ世界観ぶっ壊れるってユグドラシルでも言われるわ」「あれ、そんなん言ってたっけ?」「分からん。そこまでは覚えてない」「つーかあの機体早くね? 俺32レベルの純戦士職なんだけど、俺より早そうに見える件」「むしろレスラー体系の癖にそんなに速い事にビックリしたわ。まぁ、最悪逃走用に使えなくはないって感じ?」「あんな機動したらワイは酔う自信しかないわ」「禿同」
「基本武装は物理弾頭の自動小銃、実体剣、魔力式誘導弾の三点となります。魔法装填は左右の手に一つずつ、合計二枠で込められる位階は最大で六位階となっているそうです」
カンペを見ながら解説をする案内役の言葉を聞きつつ、観客がパワードスーツの性能を評価していると全ての疑似標的を撃墜し終えたガラテアRがステージに着陸する。
プシュッという短い音と共に後部ハッチが開かれ、搭乗者が姿を見せる。そこから現れたのは、雪のように白い肌と深海の如き青い瞳をたたえる切れ長の目、黒曜石を思わせる艶のある黒髪をミディアムヘアに整えたパイロットスーツ風の装備の女だった。
クールビューティーという言葉が相応しい彼女がステージに降り立って最初に取った行動は──
「おrrrrrr!!!」
嘔吐であった。
それはもう見事な、嘔吐という行為の見本として教科書に載っても申し分ない程見事な吐きっぷりであった。雪のように白いと評した肌は、どうやら吐き気で蒼白になっていただけらしい。
駐機しているパワードスーツを目立たせる為の照明の光を反射し、吐瀉物が七色に光り輝いている。あまりにもあんまりな光景に、観客は言葉を失い案内役を務めている女性は目を覆っている。
「七彩のゲロ女……!」
誰かが呟いたその言葉を皮切りに、観客がそれぞれの感想を口にし始める。
「大丈夫かアレ?」「あんな酔うんだパワードスーツって」「そらあんな動きしたらこうもなるよねっていう」「もしかして対G機能とか無い感じ?」「美少女のゲロゲロキタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!」「貴公……」「性癖終わってる奴が紛れてるな」「美少女のゲロゲロは貴重品。イルヴァでは常識だぞ」「ゴミ箱にダンクしてこいそんな常識」
ざわめく観客の目をステージから逸らすべく、案内役の女性が声を張り上げる。ヘイト集中効果を弱め、注目を集める程度に落としこんだマジックアイテムすら使う徹底っぷりだ。
「多少! 多少のアクシデントはありましたが! 先ほどご覧いただいた機体が、我々の用意した量産機となっています! 改修型や専用機もございますので、興味のある方は施設案内の後、お手元のパンフレットに記載してある区域に足を運んでみてください!! では、次の施設に参りますのではぐれないよう付いてきてくださいねー!」
観客達は興奮の冷めぬまま、指示に従い次の施設へと向かっていく。その先に、この都市に、この先訪れる破滅に抗う術があると信じて。
おまけ
【修復されたボイスレコーダー】
『(ノイズ音)日、晴れ。この日記──愚痴も今日で最後か』
『セカンドモデルは我々によく尽くしてくれているが、もはや限界が近い』
『情報汚染を避ける為に中央データサーバーとの接続を断っているせいで、その強みを生かし切れていない。現存する無事なガラテアⅢをかき集め、指揮運用を任せてはいるが、汚染機体共の数が多すぎる』
『修理用の資材も残りわずかだ。第二隔壁が破られるのも時間の問題だろう』
『(せき込む音)……もしも、この録音データを聴いている者が居るのなら、どうか私の、我々の願いを聞いてほしい』
『研究棟最奥部、秘匿開発工廠に対終末兵器を残してある。それを使ってここ、機甲都市ヴリヒルドリアを襲った災厄……』
『忌まわしき世界喰らいの尖兵を討ち滅ぼしてほしい』
『既に離れた者達のように、我々もこの都市を棄てるのが正解だったのかもしれない』
『だが、既に一度、喰われゆく世界を見捨てて逃げ出したのだ。二度目など、この都市に残った我々には耐えられなかった』
『いや、言い訳はよそう……。全てを棄てて、
『(深呼吸の音)……すまない、感傷的になっていた』
『先ほど伝えた対終末兵器──G.R.A.Mは、実の所未完成だ。今も作業用
『これで未完成のまま君、あるいは君達の手に渡るようなら我々はとんだ道化だな。まぁ、優秀な作業員達を信じるとしよう』
『G.R.A.Mの始動キーは保管室の金庫にある。金庫の鍵はこのボイスレコーダーだ』
『(せき込む音と床に液体が零れる音)……願わくば、良きものの手に渡る事を祈る』
おまけ2
バルバロスが丘の上から広場を眺めていると、背後からやってきた一人のビーストマンが横に並び声を掛けてきた。
「全氏族から集まった選りすぐりの戦士達が一つの軍として纏まるこの光景。私が生きている間に実現するとは思いませなんだ」
「……ガリスか。三年前の小競り合い以来だな」
短く答えつつ自身の横に視線をやれば、壮年のビーストマンが一人、静かにたたずんでいた。
ガリス・グレイル・バルカン。ウルタール本家に仕える重鎮の一人であり、国内では"千里眼"の名で知られる軍師だ。加齢による肉体の衰えで第一線を退いているものの、本領たる知略にはいささかの陰りも見られない。
「やはり、後を託せる者が居るというのは良い物ですな。お陰で憂いなく余生を送れるというもの」
「老人を気取るにはまだ早いだろうに」
「この国を統一せしめた貴方様を始め、英雄の芽が多くおり他の若い世代も粒ぞろい。であれば、この老骨がいつまでも地位にしがみついても仕方ありますまい。オエリエ様から時折感じる
オエリエ。オエリエ・レムス・ウルタール。ウルタール氏族の長であり、ビーストマンとしては珍しい魔力系
余り目立って動くことは無いが、ベイオール亡き今、自身に次ぐ国内二番手の強者でもある。
「確か、奴から感じる気配が濃くなったのはあの小競り合いの前後からだったか。原因は別の何かだろうが、まぁいい。で、何の用だ?」
「ほほ。出立前のただの世間話ですよ。この大軍勢……実に壮観ですな。おお、"巨獣"殿は流石に目立ちますな。あちらには"黒鉄"殿と"炎爪"殿、向こうには"激震"、"音無し"、"精霊憑き"。他にも多くの押しも押されぬ強者達! ……しかし、この場にベイオール殿が居られないのが残念でしかたありません」
芝居がかった様子で頭を振るガリスにバルバロスは鼻を鳴らし、短く答える。
「ふん。妙に感傷的だな。死期でも悟ったか?」
「さて、どうでしょうな。これ程の大戦力を前に、年甲斐も無く興奮しているのやもしれません」
記憶にある頃よりも饒舌なガリスから眼下に広がる軍に意識を戻す。
いつの間にやら異名持ちが一か所に集まっていたらしく、なにやら話しているのが見えた。出立前に軽く顔合わせをしておくか、とバルバロスは丘を降って行った。
兵が自身の為に空けた道を進んでいると、丘の上から見えていた集まりの会話が耳に入り始める。どうやら何か揉めているらしく、黒い体毛のビーストマンと巨躯のビーストマンが言い争っている。
「ふぅ……やはり僕は美しい。見たまえ、この黒鉄の如き我が体毛を!それに比べ、グリフォール。なんだいそのボサボサの毛並みは? 図体はデカい癖に身だしなみに気を使う余裕もないのかい?」
「喧嘩売ってんのかクソナルシスト……! ご自慢の体毛、全身残らず毟り取ってやろうか? あ゛?」
「お? 喧嘩か? いいぞおやれやれ! 俺ァグリフォールに銀貨一枚賭けるぜ」
「なら私はドミティアに銀貨二枚だ」
「(無言で銀貨を取り出しグリフォールを指す)
「ドミティアもグリフォールも、こんな所でおっぱじめようとするんじゃない。ダリウスとガリア―ド、イサムも賭けを始めるな。収拾を付ける私の身にもなってみろ」
「"炎爪"殿はお堅いねえ。なぁ、"音無し"殿、"精霊憑き"殿?」
「うむ。折角こうして集まったのだ。多少羽目を外しても罰はあたらない」
「(無言の肯首)」
熱中しているのかバルバロスが来たことに気づかぬまま茶々を入れる異名持ち達に声を掛けようとした瞬間、割り込むようにのんびりとした声が入ってきた。
「いやぁ、昼寝日和のいい天気ですねぇ」
ゾワリ。
その場に居る、バルバロス以外全員が総毛立った。
例えようのない悍ましき気配はしかし、瞬きの間に霧散する。白昼夢か、もっと言えば単なる気のせいだったのではとすら思うほど短い時間。
だが、それがただの気のせいではない事を異名持ち達は知っている。
各々、商業都市たるウルタールとは何らかの形で関わりがあったため、この男、オエリエから時折発されるこの気配を経験しているからだ。
一見何も考えていないように見える表情だが、このような気配を発する者が何も考えていない筈もない。
緊張の走る中、唯一自然体を維持しているバルバロスがオエリエに話しかけた。
「お前は軍に招集していない筈だが? また気分転換の散歩か?」
「そうですねぇ……。仰る通りの散歩です。どうにも、最近は夢見があまり良くなくて」
「ふむ……。香は焚いていないのか?」
「焚いているんですけど、変なんですよねぇ。雑音……悪夢……うぅん。なんと言うべきか。まぁ、今までと同じようにしばらくすれば収まると思いますよぉ。少々寝つきが悪いだけですので」
周囲が固唾をのんで見守る中、二人にしか通じない内容で話した後、満足したのかオエリエは都市の方向へ去って行った。
姿が消え、気配が消え、ようやく口を開くものが現れる。"炎爪"ラクエルだ。
「ボス。何故、アレを生かしているので? 頭は働きますが、やはりアレは今のうちに始末しておくべきです」
「俺も賛成だ。気色わりぃぜ……ったく」
「癪だが僕もそこのでくの坊と同意見だ」
「あいつ自身には何も問題無いから心配すんな。何かあったら俺が始末をつける」
口々に出る意見に、バルバロスは面倒くさそうに答えるも、異名持ちの面々はどこか不満そうにしている。唯一、"精霊憑き"だけが身振り手振りすら抑え込み、縮こまっていた。