「号外だ号外!最近栄え始めた村で二つ名持ちが出たって話だ!詳しく知りてぇやつはこいつを持っていきな!」
ギルドに訪れてみればちょうど面白そうな記事の載せられていそうな新聞が配られている最中だった。溜まっていた連中が我先にとその話題に飛びついていく。
「またあそこの話題か?ここ最近結構な頻度で耳にはするが、今度はどんな奇天烈な話が飛び出してくるんだろうな?」
「本当に直近で勢いが増し始めてますよね……。漁業で少し栄えているくらいだと記憶していましたが、何がどうなっているのやら……。」
冒険者一人ひとりが様々な反応を示しているのを横目に俺はギルドのカウンターへと向かい、職員に声をかけた。
「すみません。運搬系のクエストって今あったりしますかね?」
「はい、ありますよ。名前とランクの提示をお願いします。」
「ショーマ・リンドウです。ランクはC。」
「ショーマさん……はい、こちらでも確認できました。あなたが受けられるクエストは、これとこれと……これですかね。どれがよろしいでしょうか?」
「この三つだったら、雪原バイオームの村のもので。」
「了解しました。少々時間がかかりますがよろしいでしょうか?」
「問題ないです。」
無事クエストの受注を終えると、俺は先程から永遠と騒がしいエントランスを振り返り、冒険者たちの手に握られている話題の記事をまじまじと見た。
「あらゆるバイオームを踏破したかと思えば、他ディメンションでも幅を効かせて大暴れか……。全くどんな凄腕冒険者だよ。」
「二つ名を得られたと同時に、A級への昇格も果たされたそうですよ。ほんとにすごいですよね。」
手続きの合間に職員がこちらにちらりと顔を向けてさらなるトンデモ情報を教えてくれた。
冒険者を初めてこの方長い方であるとは自負している。その上で運搬系のクエストのみをこなし続けて来た訳だが、つい最近C級に上がるのでやっとだった。やはりこのやり方だけで食っていくというのは厳しいのだということを再びひしひしと実感させられる羽目になってしまった。
「……はい、手続きが終わりましたので今から向かってもらって構いません。」
「ありがとうございます。それじゃあ。」
気を取り直して、俺は目的の村に向かうためにギルドを飛び出した。インベントリを開くとほうきを取り出して体重を乗せた。自分のような半端者が最低限使えるレベルではあるが、正直これに助けられてきた回数はそう少なくは無い。いつもの要領でマナを送りこめばすぐに飛び上がることが出来た。
「雪の中で上手く動いてくれるかどうかは分からないが……まぁ、なんとかなるだろ。」
俺は連なる家々の間から飛び上がって、目的の村へと一直線に向かっていった。
基本的に俺は、戦闘という面に関してかなり疎い。というか、全くもって戦闘に向いていないのだろう。 例にあげてみるとすれば、アルスの魔法はティア1のものしか扱えず、アイアンスペルの魔法も上手く使えてアンコモンまで。テトラの武器に関してはこれっきしで、自分でもこれほどまで才がないのかと驚いたほどだった。
それでも、冒険という言葉に魅せられて諦めきれずに運搬系のクエストだけは続けている訳だが。
「さてさて、そんなクエストの目的地ももうそろそろだな。偶然目についたからここにしたんだが、アイツは今日もいてくれるかね〜?」
いつ何時でも降雪が続く村"スタブーン"。度々立ち寄るからか、最近ではここの人と顔を合わせるとつい世間話をするくらいの間柄にはなっていた。
そんなこんなで少し情報交換をした後で、俺は今回の依頼人であるスタブーンの村長の家を訪れた。
「おぉ、よく来てくれたな。ギルドの人からショーマが依頼を引き受けてくれたと聞いた時は本当に嬉しかったよ。」
「こちらこそ。またスタブーンの人達に会えると思ったら、いても立っても居られなくて。今回もバッチリ解決してみせますよ。」
「おう。よろしく頼んだぞ。依頼の内容に関しては説明しなくても大丈夫か?」
「はい。村に隣接してるカタコンベにあるアイテムの運搬……ですよね?」
ここスタブーンは雪山の中腹にある林業を主軸とした村なのだが、その生産ラインである林中に問題のダンジョン、カタコンベというものが存在している。
墓地、と呼んだ方が正しいのだろうがここではダンジョンと定義しよう。
もちろん村の要になっている場所にダンジョンが存在しているというのは弊害以外の何者でもない。数年前にギルドに依頼を出して大勢の冒険者が攻略に乗り出し、今は安全が保証されているらしい。それでも、スポナーなどの関係で多少は敵MOBなどが湧くらしいが。
今回の任務はこのカタコンベに取り残しのアイテムがないかの確認作業、といっても差し支えないだろう。もし隠しチェストなどが残っていれば村にかなり貢献ができることとなる。そして、こちらにも少なくない報酬が……。
「おーい、ショーマ?顔がニヤついてるぞ。」
「あ、あぁ、すみません……。久々に攻略済みとはいえダンジョンに入れると思うとワクワクしてしまって。」
「……ホントかぁ?」
「ホントですよぉ。ホントホント。……ふぅ、危ねぇ。」
この村長妙に目ざといからこっちのこと見透かされてそうで怖いんだよなぁ。こうなるとさっさとカタコンベに向かいたくなってくる。
と、ここで村長が手をパンと叩いて話を切り替える。
「よし、こんなところだ。あんまり浮かれすぎて漏れて湧き出たMOBなんかにやられるんじゃないぞ?お前にはリスポーンがあるとはいえ、やられたって話を聞くだけでこっちも気が気じゃないんだからな。」
「わかってますよ。俺の危機回避能力、舐めないで頂きたい。」
「もっと戦闘面とかそっちの方に自信持てるようにしろよ……。」
村長との話し合いを終えて、俺はスタブーンでダンジョンに入る前に準備を整え始めた。この村、冒険者に対するサポートに関しては他から抜きん出て手厚いのがありがたい。
醸造台を見ればいつも奇妙なポーションが入っているから作りたいポーションをすぐ用意できるし、普通村には無い鍛冶場だってあるからテトラの武器をある程度自分で造ることだってできる……まぁ、俺はほとんど無縁に近い状態ではあるんだが。
おそらく林業で資材が円滑に回っているからこそ、スタブーンの特異性は顕著に見られるのだろう。いつも本当に助かっている。
「よし、こんなところだな。そろそろダンジョンの方に向かっても……。」
と、ここで後ろから右足をつつかれる感触がして後ろを振り向いた。その時点では誰もいなかったから、案の定アイツだろうなと思い目線を下に下げる。
そこに居たのは、小さな白い狐だった。淡く水色がかったような毛並みが特徴の幼狐。服の裾をグイグイと引っ張ってきたから、それを制して彼女を持ち上げる。
「今日もやんちゃしてるなぁ。そんなに俺に会いたかったのか?」
「キュイ。」
こっちからもちょっかいをかけてみたのだが、不評だったらしい。プイとそっぽを向かれてしまった。こいつの扱いは難しいが、可愛いから仕方ない。指のひらで顎の辺りをかいてやった。
彼女はこの辺にあるカタコンベとはまた別のダンジョンにいる敵MOBのはずだったのだが、なんやかんやあって今はこんな風に可愛がれるくらいの仲にはなった子である。
愛嬌のある見た目に反して、油断して近づくと一撃で死にかねない氷のブレスを放ってくるからそこは履き違えたらダメだぞ!!
「……そういえば、お前ヤバい攻撃できたよな。非常時の戦闘要員とか頼めたりするか?」
「キュ……?キュイ。」
言葉は分からないが、しっぽをピンと立てて振っているのを見ると了承してくれた……のだろうか?一度地面に降ろして離れてみると、ダッシュで駆け寄ってきたから多分いいのだろう。
「よし、それじゃあそろそろ行くぞ。」
「キュー!」
村の敷地にギリギリ届くか届かないかくらいのところにあるということもあって移動時間はさほどかからなかったが、"そこ"に入った途端、雰囲気が一変する。薄暗く足元のおぼつかない石造りの廊下、苔むした部屋に残る数々の遺物、中央に広がる聖堂のような空間。その全てに何かの面影が見えるような気もするがそれは過去の幻影でしかない。空白で覆い隠されてしまったダンジョン、それがカタコンベである。
「まぁ、今は人の手も入ってるからそんな物々しいって感じでもない、か。」
カタコンベの壁に手をつきながらゆっくりと一歩ずつ前へと足を進めていく。今回の順路は先に遠くの方にある部屋から宝箱を開けていき、最後にボス部屋を確認すると言った感じだ。
部屋を一つ一つ物色していくと、どうやら前にここに来た冒険者がいらないと判断したのであろう物資が少なくはあるが残っていた。全く。この物資たちだって数を集めれば立派に価値を持ってくれるというのに。不貞腐れながらそれらを回収する。
「それこそ、言い伝え勇者だったらひとつ残らず使い尽くすと思うんだけどな〜。」
「……キュ?」
俺のこぼした愚痴に対して、珍しく狐が反応してきた。何が気になったのかズボンの裾をつまんでチョイチョイと何度もつついてくる。
そんなに気になる話だっただろうか?
「まぁ別に減るもんでもないし、聞きたいんだったら話してやってもいいけどよ……。言うてつまんないぞ?」
そこから俺は俺の知る勇者の冒険譚について色々と話した。
と言っても、それらしい功績などは一つか二つあるかどうかくらいなのだが。その理由は、勇者がとても臆病であったからである。強い魔物に出くわしては逃げ、複雑そうな政界はいやいやお断り。とにかく面倒くさそうなことからは必ず逃げていたのだ。
そんなダメ勇者だが、勇者だと言われる所以はもちろん魔王を倒したからである。
こんなのがどうやって魔王を倒したかって?そりゃもちろん他力本願に全力を注いだのさ。発言力を高めるために貴族の領土をスタンピードから死守したり、魔王軍駐屯地を攻め落とすために国のお偉いさんにお茶菓子を手渡しに行ったり、自分に出来る些細なことは何でもしていた。
その結果が魔王討伐に身を結んだというのがこの話の巻末である。
「……って、お前ほんとに凄い食い付きようだな!痛え痛え!服はまだしも体に噛み付くな!痕が深くついたらどう責任とってくれるんだよーっ!?」
「キューキュー!!」
狐の表情はとてもにこやかで、それだけだったら別に構わなかった。ただ、ダイレクトに足の肉に噛みつかれるとはたまったもんじゃない、いい加減痛い。助けて。
「……はぁ〜。このボス部屋で探索は最後だよな?基本歩くだけだってのにこの疲れようは全くどうなってんだか。なぁ、犯人さんよぉ?」
「キュ〜?」
散々な道中で正直もう帰りたいくらいなのだが、今回の依頼はこの中央のだだっ広い部屋、ボスの居た空間を探索し終わるまでなので、結局見回らなければならない。
ここまで結構な数の部屋を回ってきて、漁り残りはキッチリと回収してきた。ここも合わせれば帰ってくる利益はかなりのものになるはずだ。
「頼むからスカだけはなしにしてくれよ……?」
そう懇願しながら今回の明暗を分ける大部屋に足を踏み入れようとした時だった。
「ここに住み込みすればかなりの成果が……きゃっ!?」
「ちょ、えぇえぇ!?人っ!?」
俺は前から女性が来ていたことなんて露知らず、思い切り正面衝突してしまったのだ。
お互いに尻もちをつき、自分の腰あたりをさすりながら様子を伺っていた。
女性は、桃色に白の差し色の入ったロングヘアで特徴的な赤いローブに身を包んでいた。俺と出くわしたことがそんなに衝撃的だったのか目を白黒とさせとても驚いていた様子だった。
ここは俺がフォローするべきだと思い、先に立ち上がって手を差し伸べる。
「大丈夫か?こんなとこで人と会うことなんてないと思ってたから注意が散漫になってた、悪いな。」
「あ……えぇ、大丈夫なのだわ。私の方こそ、自分のことに集中しすぎてたみたい。許してくれると嬉しいわ。」
俺の手をとって立ち上がった女性は、にこやかに笑顔を浮かべてなんともなかったことを示してくれた。
さて、二言目に続けるべきはどんな言葉だろうか?身の上の説明?ぶつかってしまったわけを話す?確かに相手とのあと少しのわだかまりをとくためには的確ではあるだろうが、今はそれどころではなかった。
長い間叶わなかった夢、パズルのラスト一ピース。そう表しても過言でない"人"が目の前にいるのだ。
俺はただただ待ちきれずにその二言目をすぐに発してしまった。
「あの、おまえってもしかして……"魔女"だったりするか?」
「……はぁ?」