そしてこんな駄作を思い付いて形にしてしまい申し訳ない。
SAO編 前編
テニヌ。
それはとあるテニス漫画から生まれた造語だ。
テニスとの共通点としてはコート内でラケットを使用してボールを打ち返すこと。
ルールもテニス同様であるが、過程が違うのだ。
打ち返したボールを相手にぶつけて観客席まで吹き飛ばす。
人体の骨格まで見通すほど目が良くなる。
一人で九人に分身する。
相手の五感を奪う。
気がつけば別作品に出てくるような巨人へと姿を変える。
果てには恐竜を絶滅させた一撃(イメージです)を繰り出す。
こうしたテニスと思われるが、テニスではない名状しがたいナニカ。それがテニヌであり、極める人々をテニヌプレイヤーを呼ぶ。
そんな現実を超越したテニヌプレイヤーの魂を待つ一人の人間が、とある世界に誤って生まれてしまった。
その世界にはテニヌは存在ぜず、代わりにフルダイブ技術が発達していた。
その最たる作品『ソードアート・オンライン』。
後に史上最大のデスゲームと称されるゲームに、テニヌプレイヤーが混入することとなった。
この物語は外史のひとつ。 濃密な冒険譚などない。緻密なサイドストーリーもなければ、心ときめくラブコメもない。
あるのはただ…………仮想世界でも異質なテニヌだけだ。
☆
「波動球ッ」
『ギァアッ?!』
蜥蜴を擬人化させたモンスター、リザードマンの眉間にテニスボールが突き刺さる。
リザードンは悲鳴を上げ、苦悶の表情を浮かべながら全身をポリゴン体へと変質させた。やがてパリーンとガラス細工のように割れて消滅した。
消滅と同時にリザードマンの眉間に突き刺さっていたボールは回転がかけられていたのか、地面に落ちると独りでに動き出す。
ボールの進行方向には一人の男がいた。
男は当たり前のような動作で右手を前に出す。するとどうだろか。まるでボールが意思を持ったように、或いはそうであるのが当然のような軌道で男の右手に収まった。
そのままボールをポケットにしまい、左手に持つテニスラケットで軽く肩を叩きながら男は歩き出す。
「ゲームセット。一撃でノックアウトとは、この層のモンスターも大したことないな」
「いやいやいや!!!! 74層の迷宮区モンスターだから!! さっきのリザードマンエースなんて普通に強いから!! ソードスキルどころか普通の一撃で倒せる相手じゃないからな?!」
男の後を、黒い服で染まった一人の少年(イキリト)が追いかけてきた。
少年の名はキリト。
別次元の世界であれば、イチャイチャしながらソードアート・オンラインをクリアして、後々のゲームでも女性プレイヤーとイチャイチャしながらクリアしていく少年だ。
しかし悲しいことに、この次元ではテニヌプレイヤーのツッコミ役と化していた。
そんなキリトの叫びに、テニヌプレイヤーは退屈な表情を返した。
「しかしな、キリト。俺の波動球は108式まで存在する。たった挨拶程度の1式波動球すら返せないモンスターに落胆するのは仕方ないだろ」
「えぇ…………今のより凄いのが107個も残ってるのかよ」
「その認識で間違いない。しかし、補足すると108あるのは表の話だ。俺の波動球は表と裏、そして真を含めて実際には324式存在する。ちなみに、さっきのは表の1式だ」
「……………ダメだ。脳が理解を拒んでやがる」
先ほどリザードマンを一撃で葬った波動球よりも威力の高い波動球が323個存在する。
軽くその324式波動球の威力を想像したキリトであったが、敵どころか空間すら壊すイメージが浮かび上がり、すぐさま霧散した。
完全にイメージするのを脳が拒んだのだ。きっと、キリトの持つナニカが壊れてしまうから。
受け入れがたい事実を前に両手で頭を抱え込むキリト。そんな彼を尻目に、男は先へと進む。
男はキリトが苦悩するのが理解できなかった。
それもそうだろう。男はテニヌプレイヤーなのだ。テニヌにおいてボールの威力が殺人級なのは当たり前。むしろ、相手を空高く吹き飛ばす威力にってようやく『テニスになってきたな』と思い始める。
そんなテニヌ思考ゆえに、男の感情をキリトは理解できなかった。
「それよりキリト。今日はこのままフロアボスへ試合を申し込みに行くつもりだが、お前はどうする?」
「…………」
テニヌプレイヤーは今日の晩御飯を伝えるような軽いのりで、とんでもない事を口にする。
キリトは仮想世界故にあるはずのない胃痛が発生した気がした。
この男はマジでフロアボスへ挑むだろう。普通なら48人パーティーで挑むのが当たり前のボスを、こいつは一人で平然と対峙する。
それで倒してきたボスの数は50体を越えている実績もあるからこそ、本当に今日挑むのだろう。
そして分かる。分かってしまう。今日74層が突破されるという非常識な事実が。
キリトは無い胃のある場所を擦りつつ答えた。
「……………ついていくわ。フロアボス気になるし」
「そうか。まあ、大した試合にはならないだろうな」
「…………ははッ」
ボス攻略後の自身に降りかかるメッセージの数が頭をよぎり、キリトは無性に帰りたくなった。
しかし、ここで帰った方がボス攻略アナウンス後の対応が大変になることをキリトは知っている。
当の本人は知らぬ………いや、知ってて気にしない現実にキリトは無性に悲しくなった。
そんな男の背を追いつつ、キリトは一言呟く。
「なんで…………こうなったんだろうな」
ボス部屋へと向かう道中、キリトはどうしてこうなったのか。過去の出来事を思い出すのだった。
テニヌプレイヤーとキリトの接点はリアルまで遡る。
キリトとテニヌプレイヤーは幼少期から交流のある、所謂幼なじみという関係であった。
家が近所であり、日中はよく一緒にキリトの妹も含めた三人で遊んでいた。
本当に小さい頃は普通の子供と変わらなかった。
しかし、男がおかしいのに気づいたのは男が6歳となり、キリトが5歳の時だった。
男は5歳の時から始めたテニスの練習。初めはラケットの大きさに体が振り回される可愛いものであった。
しかし、1ヶ月と経たないうちにフォームが洗練され、3ヶ月経つ頃には一人前に壁打ちができるようになっていた。
そうして男が日課の壁打ちをし、キリトと妹の直葉が家のなかでトランプをして遊んでいた時だった。
ドガァアアァンッ!!
まるで近くで爆弾が爆発したような轟音が響いた。
直葉は突然の轟音で訳がわからず大泣きを始め、兄であるキリトは妹を守るために音の発信源に向かった。
発信源は直ぐに見つかった。
キリトの住む家の近所である男の家の庭からであった。
庭に立つ男。その男の顔の先にある蔵。そう、彼の日課の壁打ちをしていた蔵の壁が異様な光景を作り出していた。
なんと人が一人余裕ではいれる程の大穴が空いていたのだ。
キリトは直ぐに男へ尋ねた。
「なにがあったんだ? 爆弾か?!」
「いや。壁打ちしてたら壊れた」
「蔵にある爆弾か?」
「ん? うちの蔵に爆弾なんて無いぞ?」
「ん?」
「ん?」
話が噛み合わない。
お互いに首をかしげ、数秒後。男は「あぁ」と納得したように頷いた。
「違うんだ和人(キリトのリアルネーム)。壁打ちで蔵が壊れたんだ」
「は? ……………いやいや。だって、テニスボールでコンクリートの壁は壊れないって」
「ん? なにをおかしな事を言っているだ」
「だよな。まったく変なこと言いやがって」
「いや、変なのはお前だ和人。本気で打ったらコンクリートの壁ぐらい壊れるだろう」
「…………は?」
「しかし、スカッドサーブはコントロールに難があるな。これは今後の課題だな」
「お前はなにを言っているんだ」
その後、近所の大人たちが警察を呼んだ事でキリトと男の会話は御開きとなってしまった。
警察の事情聴取を経て、後日。キリトは男がテニスボールで蔵の壁を壊したのが真実だと知った。
そしてその日を境に、男はテニスプレイヤーからテニヌプレイヤーへと生まれ変わったのだ。
テニスの都内ジュニア大会に出場しては、
「一球──入ッ魂ッ!!」
「────────は?」
目にも止まらぬ時速194kmに及ぶサーブを繰り出した。
そして全国大会では、
「ふっ」
「ちぃ───」
「そこッ」
「ん? ────なぁ?!」
「まだまだ………だな」
相手の手の感覚を奪い、ラケットを弾き飛ばしていた。
あっという間にジュニアテニス界全国を制覇し、中学に入学後は一年生でありながら全国大会を優勝。
まさにテニスの申し子…………いや、あいつのしているのはテニスではないナニカじゃね? と世界中のメディアから注目されるようになった。
一方のキリトは男とは別の方向で才能を開花させていく。男のテニヌ化の翌年には自力でパソコンを作り上げ、10歳になるとインターネット上のプログラミング技術が高まり、自信の出生の秘密すら見つけることができるようになっていた。
スポーツと電子の道を進む二人の交流は年々薄まって────
「和人。データテニスというのに挑戦したい。だから相手の打ち返す球を瞬時に軌道計算できるツールを造ってくれないか?」
「えぇ…………いや、できるけど。そもそもデータテニスってなに?」
「データテニスとはデータを武器に相手の弾道を予測し、正確に弱点をつくテニスの事だ」
「…………それって、テニス関係あるのか?」
「あるから頼んでいる。親友のお前にな」
「…………時間をくれ。納得のいくソフトができたら連絡するよ」
「ありがとう。とても助かる」
いなかった。
男はテニヌプレイヤーになろうとも、キリトとの関係は良好であった。
むしろキリトが自身の出生について男に相談したときも、
「人との距離が分からない? そうか、不思議なものだな。俺はお前との友人関係において気にしたことはない。むしろボールとラケット、コート長さぐらいでしか距離を気にしたことしかないぞ」
と言ってキリトとの心の蟠りを取り除くこととなった。
また、キリトが祖父の影響で始めさせられた剣道を辞めたがったときも彼の祖父に対し、
「お爺さん。そこまで和人に剣道をさせたいのなら、俺とテニスをしませんか? 断る? これは異なことを。俺はこれでも全国一位の実力があり、精神的にもかなりの場数を踏んでいます。俺との試合や練習はお爺さんの精神修行にも繋がります。………テニスと剣道はちがう? それこそ違いますよ。どちらもスポーツだ。あるとすれば、それはお爺さんの好みだけだ。お爺さんにとって、剣道は好ましく、テニスは好ましくない。だからテニスを断る。同じスポーツでありながら。そんな嫌がるお爺さんをテニスに誘う俺と、嫌がる和人に対して剣道を続けるように言うお爺さん。さて、一体何が違うんでしょうね?」
お前は本当に小学生か? と疑問視される正論でキリトの祖父を諭し、円満にキリトが剣道を辞めることに尽力した。
そんなこんながあり、キリトとテニヌプレイヤーの仲は非常に良好だった。
そんな対照的な才能を持った二人は、15歳と14歳を迎えた年。あるゲームに参加することとなった。
「ソードアート・オンライン? あぁ、ナーヴギアを使用した仮想世界フルダイブ初の新時代ゲームか。確かこの前の大会の副賞で俺も貰ったな。それがどうした?」
「いやさ、お前が良ければ当日一緒にプレイしないか? 俺はβテスト経験者だし、色々教えれるからさ」
「ふむ。まあ、たまにはゲームに興じてみるのも悪くはない。それに、普段は引っ込み思案な和人からの誘いだ。断るわけにはいかないな」
「なっ?! ひっ、引っ込み思案で悪かったな」
「はは、冗談だ。テニスとは違い、ゲームでは和人が上手い。しっかりとしたレクチャーを頼むな」
「おっ、おう」
忘れもしない。
迎えた2022年、11月6日、日曜日。
午後1時に正式版がリリースされ、テニヌプレイヤーとキリトはソードアート・オンラインの世界へログインした。
後にそれが、いろんな意味で悪夢となるとは知らずに。
ゲームに無事ログインできたキリトとテニヌプレイヤーは、キリトがβテスターと気づいて引率を頼んだクラインの三人で、《はじまり町》から少し離れた草原フィールドで闘いに興じた。
クラインが序盤のモンスターである猪一体をおっかなびっくりな様子で倒し、和人がようやく戻ってこれた仮想現実世界に感傷に浸り、テニヌプレイヤーがどこで見つけてきたのかテニスラケットとボールで序盤モンスターの群れ相手に無双していた時。ついに事件が起きた。
気づいたのはリアルで宅配ピザを頼んでいたクラインだった。
宅配時間が過ぎていたクラインは急いでログアウトをしようとした。
だが、できなかった。それも仮想現実でありながら物理的な方法で。
「あれ? ログアウトボタンがねぇぞ?」
「なんと。それは本当か?」
クラインの言葉を確かめるようにテニヌプレイヤーもメニュー画面を開き、指を下へスライドさせる。
だが、望む項目は見つからなかった。
事実を確認したテニヌプレイヤーは事実を受け入れ、有識者へ確認を行う。
「ふむ…………確かに無いな。キリト、このゲームはログアウトボタンがメニュー以外別に存在するのか?」
「いや、βテスト時にはメニュー画面にログアウトボタンがあった。それ以外に自発的なログアウトは無かったはずだ」
「とすれば、これはバグと言うやつか。クライン、残念ながら運営が動くまでピザはお預けだな」
「おいおい。俺のピザの為にも早く修正してくれよぉ」
クラインがピザを受け取れない現実に悲しむ。
この時までは、三人にとってソードアート・オンラインは最高のゲームだった。
直後だ。
このゲームはあり方を変えた。
ゴーン、ゴーン、ゴーン。
「ん?」
「んな………っ」
「なんだ?!」
突如として鐘の音が響いたと思えば、三人の体が宙へと浮かびだたのだ。
それが《転移》の合図だとキリトが気づく頃には、三人は強制的に《はじまりの町》の広場へとテレポートしていた。
彼ら三人以外にも人々が集められていたことから、キリトは直ぐにプレイヤー全員が集められたのだと気づいた。
集められたプレイヤーは口々に「何がどうなっている」「意味が分からない」「運営対応はよ」「侘び石よこせ!!」「定期メンテキタ━(゚∀゚)━!(゚∀゚ 三 ゚∀゚)」などと声を上げ始めた。
やがて誰かが叫んだ。
「上を見てみろ!!」
集められた全プレイヤーが上空を見上げた。
そこには顔の無い大きなローブの化け物が佇んでいた。
そして化物ローブから衝撃の事実が告げられた。
『わたしの世界へようこそ。プレイヤーの諸君。私の名前は茅場晶彦。今やこの世界のコントロールができる唯一の人間だ』
それから茅場晶彦と名乗ったローブは次々に驚きの事実を語った。
ソードアート・オンラインでゲームオーバーとなれば、現実でも死ぬ。
外部から助けは来ない。
もし外部から干渉を受ければ、一定時間でゲームに復帰しないと死亡する。
現実世界に戻るためには、生きてゲームをクリアするしかない。
怒号が広場に広がる中、茅場晶彦は最後にプレイヤー全員へプレゼントを渡した。
それは《手鏡》と呼ばれるアイテムだった。
使用することで現実世界の身長と顔へプレイヤーの姿を変えるものだった。
そう……………テニヌプレイヤーの姿形も元に戻してしまったのだ。
『以上で《ソードアート・オンライン》正式サービスのチュートリアルを終了する。プレイヤーの諸君の──』
「ふんっ!!」
『健闘────ふげらっ?!』
パァンッ!! という乾いた炸裂音がしたのと同時に、不安に駆られるプレイヤー達の真上で、黄色の流星が流れた。やがて流星はローブの化け物の腹辺りにめり込んだ。
そのまま苦悶の叫びと共に、ローブの化け物が消えた。
急な出来事に、静まり返るプレイヤー達。
もしや、と思いキリトがテニヌプレイヤーの方を向く。
そこにはラケットを振りかぶった後の、元の姿に戻っているテニヌプレイヤーがいた。
キリトは思わず尋ねた。
「…………何してるの?」
「いや、あれが茅場晶彦って言うからラスボスかと思って倒そうと」
「テニスボールとラケットで?」
「ん? テニスボールとラケットがあれば十分だろ? それに自分で作ったアバターとは違い、現実世界と同じ姿になったお陰で体が動かしやすくなった。お陰でコントロールもバッチリだ」
んなバカな事があるかよ、と思ったが、相手は6歳でコンクリートの壁を破壊したテニヌプレイヤー。こいつならあり得ない話ではない。
「ところでキリト。あの茅場晶彦と名乗ったローブを倒したのだが、ゲームクリアにはならないな」
「…………みたいだな。倒したかどうか怪しいが……多分、真面目にクリアしろってことだろ」
「ふむ。それは少し面倒だが、サーブの一撃すら耐えられないボスであれば、余裕か」
「そう思えるのはお前だけだよ。まあ、お前ならマジでやりそうだけどな」
「よし。そうと決まればさっさと攻略するか」
「この状況でそう言えるのはお前だけだよ。でも、不思議と不安がねぇわ」
後にソードアート・オンライン内において《黄色い閃光事件》と語り継がれる出来事を起こしたテニヌプレイヤーは、キリトへの宣言通りにゲームクリアへ乗り出した。
それも破竹の勢いだった。
一層攻略時、ディアベルと呼ばれるプレイヤーがボスに倒されそうになった瞬間も、
「避け──「波動球ッ!!」──る必要ねぇな、うん」
ボスの眉間にボールを打ち込み、ゲームセット。犠牲者を一人も出すことなく、ボスをポリゴン体へと変えた。
ボス戦後、キバオウを始めとした多くのプレイヤーから「チートだ!!」「ありえないだろ!!」「お前、茅場晶彦だろ!!」といった非難が上がったが、その誰もがテニヌプレイヤーの顔を見て、正体を知って納得した。
そうだよな。キリトと違ってテニヌプレイヤーは全国大会の化物っぷりをお茶の間で放映されたのだから。
リアルで出来ない動きを仮想現実ではできる。
なら、リアルで出来る動きは仮想現実では問題なく出来るのだ。
皮肉なことに茅場晶彦が現実を求めて配布した《手鏡》によって、テニヌという異物すら仮想現実で可能となったのだ。
それからはテニヌプレイヤーの独壇場。
立ち塞がるボスは大抵サーブかフラットショットの一撃で完封。
時々2体のボスに囲まれても、
「よし、こちらも────」
「ダブルスでお相手しよう」
「…………なんでお前は二人に分身してんだよぉ」
一人でダブルス? という意味不明な動きで完封した。キリトがテニヌプレイヤーにどうやれば一人でダブルス出来るのかと訪ねても「一部のプレイヤーだけだが、テニスならできて当然だ」と、なんの答えにもなってない回答を得ることとなった。
そうしてボスを一撃で葬り去る姿に、下層部のプレイヤーはテニヌプレイヤーを英雄視、あるいはファン活動を始める始末。
しかし、これを面白く思わないメンバーもいる。
トップ層のプレイヤー。通称攻略組と呼ばれるプレイヤー達だ。
彼らはテニヌプレイヤー一人がボスリソースを独占することに抗議し、テニヌプレイヤーへ直談判した。
普通のプレイヤーであれば交渉は難航するだろう。誰だってレアなアイテムは惜しいものだ。それがゲーマーであれば尚更だ。
しかし、テニヌプレイヤーは一味違った。
そう、彼はゲーマーではなく、テニヌプレイヤーなのだ。
直談判した攻略組へ彼は一言。
「ん? ラストアタックボーナスやドロップ品が欲しいなら譲ろう。俺はラケットとボールさえあれば十分だ。けど、喧嘩を避けるために、各ギルドに公平に配分するとするか。そこは了承してくれ」
まさかのドロップ品フルオープン。
これには普段βテスターやテニヌプレイヤーへ噛みつくキバオウも両手で拝むレベルの行動であった。
最終的に、まともにソードアート・オンラインを攻略しようとするプレイヤーやギルドへと配布されることとなった。
また、これを期にテニヌプレイヤーの動向や、急なボス攻略の情報を知るためにテニヌプレイヤーの友人であるキリトへ白羽の矢が立つこととなる。
これがキリトがハーレムではなく、テニヌプレイヤーのツッコミ役に落ち着いてしまった経緯だ。
デスゲームと化した《ソードアート・オンライン》が正式リリースして一年。現在の攻略層は74層。
テニヌプレイヤーの手でしても、未だにクリアには至っていない。
☆
「ふぅ…………これで74層も無事にクリアだな」
「はは…………マジでボス単独攻略しやがった。まあ、いつもの事だけどさぁ。あぁ、聖龍、軍、血盟の人たちに何て報告しよう……」
「そんなもの、ボスの《グリームアイズ》に対して場外ホームランを叩き込んでノックアウトしたって、ありのまま報告すればいいだろ」
「テニス用語に場外ホームランなんて物はねぇよ。つか信じてもらえるかよぉ……いきなりお前が『場外ホームランッ!!』って叫びながらボールを打ち込んだら、《グリームアイズ》をボス部屋の天井ぶち当てて倒しました~
────なんてあり得んだろ?!」
「だがキリト、実際に起きたんだから嘘じゃない。それに若干スーパースィートスポットからズレていた。本来であれば天井にめり込ませていた筈だ」
「やだぁ、この幼なじみ、殺人マシーンになりかけてるよ。てかなってるよ、もう」
「失礼な、誰が殺人マシーンだ。まあ、テニスプレイヤーには処刑人もいるし、探せば殺人マシーンもいるのか?」
「いねぇよ!!!!」
ボス攻略の帰り道、何時ものようにキリトとテニヌプレイヤーは漫才を繰り広げていた。
場所は75層をアクティベートさせ、《転移門》を使って二人の拠点である五十層の《アルゲード》。
二人仲良く街中を歩き、今回のボス攻略、並びにその道中で得たアイテムを捌くべく、馴染みの店へと向かった。
その人物の店は《アルゲード》の主要区から少しだけ離れた位置に店を構えていた。
店にはいると、店主は取引の最中だった。
「あっ、あなたは?!」
終わるまで待とうとしたところ、取引をしていた槍使いのプレイヤーはテニヌプレイヤーに気づいた。
そして疾風のごとく「ファンです!! 握手してください!!」とテニヌプレイヤーへと近づき、握手を求めた。
テニヌプレイヤーはリアルではあまりファンサービスはしない。何しろプロではないのだから。しかし、ここはデスゲーム内。プレイヤー達の心の安定もかねて、テニヌプレイヤーは求められれば答えるぐらいにはサービスをするようにしていた。
「あぁ、構わないよ。これからも応援よろしくね」
「はい!! では失礼します!!」
満面の笑みを浮かべ、槍使いは店を去った。
その様子を見ていた歴戦の戦士の風格を持った店主は「はぁ」とため息をつきながら二人へと近づいた。
「全く。キリトはともかく、お前は来るときは連絡をしてくれって何時も言ってるだろうが。お陰で商談成立前にお客さんが帰っちまっただろう。お前は自分が有名人というのをそろそろ自覚しろ。キリトはともかく」
「すまんな、エギル」
「おい、何で二回も言ったんだよ。つーか、ともかくってなんだよともかくって」
「言葉通りだよ。さて、今日は何のアイテムを売りに来たんだ、お二人さん」
店主の《エギル》はキリトをからかったことで、取引中止の溜飲が少しだけ下がったようだ。
機嫌がいいうちに、と。テニヌプレイヤーはメニューウィンドウを開き、アイテム欄を表示させた。
エギルも体を寄せてテニヌプレイヤーのウィンドウを覗き込むが、途中で思い出したかのように語りかけた。
「そういや、まだ言ってなかったな。74層攻略おめでとう。今回はどんな一撃で倒したんだ?」
「場外ホームランだな。だが、少しだけスィートスポットからずれていたから、天井にボスを当てるだけに留まってしまった」
「……………キリト。コイツ何を言っているんだ?」
「事実だよ。マジで『場外ホームランッ!!』って叫んで撃ち込んでた」
「はは…………さーて、今日も誠心誠意高値で取引させていただきますよ、お客様」
「まっ、そんな反応になるよなぁ」
キリトの説明で顔がひきつったかと思えば、テニヌプレイヤーに対して営業スマイルを向けてくるエギル。
恐怖したのだろう。人間兵器となりつつあるテニヌプレイヤーに。
自分はからかい、強者であるテニヌプレイヤーには媚びを売る。その気持ちが凄くわかるキリトであった。
「?」
もっとも、そんな悲しい弱者の現実をテニヌプレイヤーは気づく様子はなかった。
「ところでエギル。今回のアイテムが少しだけ特殊なんだが、買取りできるか?」
「特殊なアイテム? うちはこれでも何でも安く仕入れて、安くで提供するがモットーだ。ちょっと見せてみろ」
「後半が非常に怪しいモットーだな」
「聞こえているぞキリト………っと、コイツは」
テニヌプレイヤーのアイテム欄から前置きを受けたアイテムを見つけ、エギルは声をつまらせた。
「《ラグー・ラビットの肉》。S級の超レアアイテムじゃねぇか。俺も実物は初めて見たな。お前ら、どこで手に入れたんだ?」
エギルが言葉をつまらせるほどの超レアアイテム。《ラグー・ラビットの肉》。そのアイテムはプレイヤー間での取引で10万コルは下らない代物となっている。このアイテムは別にステータスが上がるわけでも、協力な武器になるわけではない。
ではなぜそんなに高いのか。
それは味である。
娯楽の少ないソードアート・オンラインにおいて、食は大事だ。そんな中、ラグー・ラビットの肉は最高クラスの味と設定されている。故にプレイヤー間での取引で高値が付く代物であった。
当然、肉をドロップする《ラグー・ラビット》も簡単に倒せるモンスターではない。単純に強いわけではないが、その速度が異常なのだ。
その俊敏値、この世界最速のモンスターで最速と設定されている。
「迷宮攻略後の帰り道にたまたま見つけてな」
「ほぉ、そいつは運が良かったな」
「あぁ。見つけた直後に気づかれて逃げられてしまったが、速いと噂さされるモンスターだから腕ためしに丁度よかった」
「へぇ…………ちょっと待て。逃げられた? 倒したんだよな?」
「そうだ。今思い返しても物凄い逃げ足の速さだった」
「でも倒した………のか?」
「さっきからなにを言っているんだエギル。倒したからアイテムがあるのだろうが」
「…………おいキリト」
テニヌプレイヤーとの会話に致命的なすれ違いを感じたエギル。事実を確認すべく、その場にいたと思われるキリトへ尋ねた。
「《ラグー・ラビット》はその俊敏値故に不意打ちでしか倒せないって情報があるのは俺でも知っているんだが」
「安心しろエギル。俺も知っている」
「だよな。逃げられたら倒せないよな、普通」
「そうだな。普通は無理だな」
「………アイツは何をしたんだ?」
「知ってるか、エギル。世界最速の攻撃って……………音を置き去りにするんだぜ」
「…………お前もなに言ってるんだ?」
「脚色無しの事実だよ。詳しく説明しても嘘だと思われるから簡単に説明するぞ。俺とアイツはラグー・ラビットを一緒に見つけた」
「でも逃げられたんだよな」
「あぁ。ちょうどアイツとあれこれ話している最中だったからな。カーソルに気づいた時には向こうはもう駆け出していた。俺もラグー・ラビットだって気づいて逃げ出したことに後悔した…………その時だったよ。いつものようにアイツがいきなり『タキオンッ!!』って叫んだと思ったら、遠くの方でラグー・ラビットが砕けたんだよ。んで、砕けると同時にパァン!!!! って轟音が────」
「まてまてまて!!」
「どうしたエギル?」
「どうしたもこうしたもねぇよ。すると何か? アイツはこの世界最速のモンスター相手に後からボール撃ち込んで倒したってことか?!」
「そうだよ。ついでに言えば、音が後から聞こえたから、あの時の一撃は音速を超えてたな」
「音速……………キリト、74層のボスの件といい、アイツは本当に人間なんだよな?」
「今回ばかりは俺も心配になったが、怪我をするところも見たことあるし、少なくとも血は赤かったから、人間…………の筈」
「……………」
「……………」
二人は揃ってテニヌプレイヤーの方を見た。
「ん? 二人とも俺の顔を見てどうした?」
「「何でもねぇよ」」
「?」
二人の視線の理由に気づかないテニヌプレイヤーは、終始頭に?をうかべていた。
ちなみに、その後の《ラグー・ラビットの肉》の行方については、キリトの手に渡ることとなる。
エギルの店にやって来た優秀なシェフをキリトが確保し、テニヌプレイヤーはそのシェフとキリトの関係を眼力《インサイト》で見抜いたことで二人にアイテムを譲ったのだ。
そしてテニヌプレイヤーとエギルそして何故か店の外で取り残されたクラディールの3人で夕食を食べに行くこととなるのだった。
「あぁ、俺も《ラグー・ラビットの肉》食ってみたかったな」
「仕方がないだろう。出歯亀みたいなマネをしてまで趣向品を求めるのはマナー違反だ。なぁ、クラディール?」
「うす…………」
次のテニヌは何処から始める?
-
ガンゲイル・オンラインで試合
-
ユウキたちとの試合
-
オーディナルスケールで試合
-
アンダーワールド(幼年期)で試合
-
アンダーワールド(整合騎士)と試合
-
アンダーワールド(暗黒騎士団)と試合