今回はテニヌ要素は控えめ。
フェアリー・ダンス編 前編
2023年、11月7日
本来の時間軸とは異なり、このテニヌ軸では一年によって、ソードアート・オンラインはクリアされた。
クリア後、テニヌプレイヤーはメディアによって一躍時の人となった。
ソードアート・オンラインクリアの立役者。
魔王茅場昌彦を妥当した勇者。
現実、仮想の二つの世界最強のテニスプレイヤー。
様々な異名や伝説が連日報道された。
ソードアート・オンラインから帰還したプレイヤーからの証言から尾ひれ、胸ひれが追加された情報が錯綜した結果だ。本来の時間軸では犠牲者の関係から情報規制が強く行われていたが、このテニヌ軸は犠牲者が居なかったため、世間からのバッシングを恐れた関係各所がここぞとばかりにテニヌプレイヤーをヒーローとして持ち上げたのだ。
それについてテニヌプレイヤーは思うことは多々あったが、それどころではない事態に直面していた。
ソードアート・オンラインがクリアされて2ヶ月が経った、2024年、1月7日、水曜日。全国で未だに約1000人のプレイヤーが目覚めてい。
それは一つの真実。茅場昌彦がゲームクリア時にテニヌプレイヤーへ頼んだ事が、本当だったと言うことを指し示していた。
「たく……………面倒事を押し付けやがって」
驚異的な回復力で短期間で体力を取り戻したテニヌプレイヤーは自宅で壁打ちをしながら、今後の動きについて考えていた。
現状、茅場昌彦から教えて貰ったのは須郷が怪しいという情報が一つのみ。
その須郷とやらが何をして未帰還者を産み出したのか、どうしてそんなことをしたのか、そもそも犯人なのか。それら全てが分からない状況だ。
悲しいことに、テニヌプレイヤーは異次元のテニスの能力があっても、財閥の息子でも公的機関の重鎮でもない。ただのちょっと? 凄いテニスプレイヤーに過ぎない。
考えても考えても、解決策処か取っ掛かりすら掴むことができなかった。
最終的に、考えても思い付かないテニヌプレイヤーは壁打ちを止め、一つの答えにたどり着いた。
「一先ず……………和人やクラディール、フィリアを当たるとするか」
自分で無理であれば、知人を頼るのが、一番早い。
早速テニヌプレイヤーは近所で物理的に一番近い和人の元へと向かうこととした。
☆
「よっ、割りと元気そうだな和人」
「たった1ヶ月でテニスの練習しているお前程じゃねぇけどな。つーか、いきなり家に来てどうした?」
「少しな。そろそろ良い機会だから、話をしたくてな」
場所は移り変わり和人の家。
テニヌプレイヤーは和人へ二人きりで話したいことを伝え、和人の部屋へと向かう。
途中、和人の妹と出会ったテニヌプレイヤー。何やらそわそわして今度一緒に遊んでほしいと頼まれるも、額に人差し指と中指を突き当て「直葉(妹の名前)、また今度な」とやんわり断る。
直葉は風邪を引き始めていたのか、顔を赤らめて足早に去っていった。
そんな妹の様子に、和人はやんわりと注意をしてきた。
「おい、俺の妹をからかうなよ」
「そんなつもりは無い。というより、直葉は風邪でも引いたか? 顔が赤かったぞ」
「…………あぁ、それは大丈夫だろ」
「そうか。和人が言うならそうなんだろう。しかし、大事に至らなければ良いのだが」
「……………直葉、お前の道は険しそうだぞ」
「確かに、剣の道は険しいな」
「そっちじゃねぇよぉ」
風邪でなければ運動後だったのか。では身体を冷やさないようにした方が良いのでは? とテニヌプレイヤーが口にしたことで、和人は更に頭を抱え込むこととなる。
そんなテニス以外の洞察力がゴミであるテニヌプレイヤーを自室まで案内。無事部屋に入れてもらったテニヌプレイヤーは、早速事情を説明した。
「なぁ、和人。ソードアート・オンラインがクリアされて未帰還者が居るのは知ってるよな?」
「………あぁ。知ってる。アスナもその一人だった。今も病院に入院中だ」
「そうか…………アスナも未帰還者だったのか。他のメンバーは?」
「他? エギルはもう知っての通りだが、クラインも帰って来てたぜ。それからフィリアやクラディールもな。取材やらテニスの練習で忙しいお前の代わりに、総務省のお偉いさんが俺に接触してきて、見返りのつもりか親切に教えてくれたよ」
「俺ではなく、近くに居た和人に接触するとは、そのお偉いさんは賢いな。間接的にメディアで時間のとれなかった俺とも接触ができている………やり手だな」
「あぁ。なーんか、裏の読めなさそうな大人だったよ」
和人が言うにはソードアート・オンライン事件が発生し、設立された《総務省SAO事件対策本部》の人間とのこと。
外部からの干渉は人命に直結することから、プレイヤーの入院手続きから解放後の事後処理担当を行っている組織であるとのこと。また、ゲームの様子はモニターできたため、クリアの立役者であるテニヌプレイヤーやキリトの様子も知ってる、と。
それ故に目が覚めた和人へあれこれ事情を聴取しようとして、交換条件でアスナを含めた帰還者の事を尋ねたことで発覚したとの事であった。
「お陰でアスナ達のことが知れたし、悪い人では無いと思う」
「そうか………。和人と交換条件ができる程の情報を求めたとなれば、俺との接触が無かったのは、ある意味幸運だったか」
「幸運? どう言うことだよ?」
「言葉通りだよ。これから話すことはお偉いさんには話さないでくれ。身動きが取れなくなる。それと和人、お前もゲームクリアした時に茅場昌彦に会っただろ?」
テニヌプレイヤーが問いかけ、和人は頷く。
しかし、その事がどうしたと和人はテニヌプレイヤーへと逆に問いかけた。
「確かに茅場昌彦には会った。でもそれと未帰還者の問題にどう関係するんだよ。…………まさか、まだソードアート・オンラインは終わってないのか?!」
キリトの答えに、テニヌプレイヤーは首を左右に振る。
「いいや。ゲームは確かにクリアされた。和人の後に俺も茅場昌彦に会ってな。その時にゲームクリアおめでとう、と言われたからな」
「…………そうか。俺やアスナだけじゃなくて、お前も会ってたのか。いや、会ってたから聞いてきたのか」
「話を続けるぞ。その時、茅場昌彦から事前に未帰還者がいるのとを伝えられたんだ。自分自身を含めたプレイヤーのな」
「はぁ?!」
テニヌプレイヤーの言葉に驚く和人。しかし、それよりも衝撃な事実が残っているため、テニヌプレイヤーは言葉を続ける。
かつての茅場昌彦と同じように。
「ちょっと、それ初耳───」
「さらに、茅場昌彦からは怪しいのは須郷という男だと教えられたんだが、その須郷ってヤツが誰なのかまでは教えてもらえなかった」
「だから待て────って、須郷? おい、今須郷って言ったか?」
テニヌプレイヤーは頷きを返す。すると、キリトの表情が険しい物へと変わった。
どうやら、なにか知っている様子だ。
「キリト。須郷を知っているのか?」
「アイツ………須郷伸之はアスナの結婚相手って言っていた。この前、アスナの見舞いに行った時に教えてもらった」
「須郷伸之…………そしてアスナの結婚相手か。しかし、その様子だと、あまり良い関係では無いみたいだな」
「あぁ。アイツはアスナが未帰還者であるのが都合が良いって言ってやがった。ついでにアスナから嫌われてるともな。………もしかしたら、その為に未帰還者を産み出したのか?」
「可能性はありそうだな。たが、疑問も残る。流石に嫌われている相手と結婚する為だけに未帰還者を産み出すなんて大がかりな事はしないだろ?」
「それは…………確かに。それだとアスナ以外のプレイヤーを捕えることにメリットがない」
「だろ? けど、有力候補ではあるな。他に須郷についてなにか知ってるか?」
「あっ、そう言えば。アイツ、ソードアート・オンラインの開発元であるアーガスについて色々言ってたな。フルダイブ技術部門の買い取りをレクトがして、SAOのサーバーはレクトが管理しているとか、なんとか」
「アーガスにレクト…………更にフルダイブ技術部門の買い取りにサーバー管理、か。こりゃ、なんかキナ臭くなってきたな」
ソードアート・オンラインの開発元であるアーガスからフルダイブ技術を引き立ったレクト社。そのレクト社に所属してサーバーを管理し、茅場昌彦が言い残した名前と同じ名前の男。そして未帰還者であるアスナに対する言動。
決定的な証拠こそ無いが、一切無関係だと言うのは難しい存在だ。
特にサーバーを管理していると言うのがキナ臭さ過ぎる情報だ。システム介入し放題ではないか。とは言うものの、これもテニヌプレイヤーが考える妄想にしか過ぎない。
どちらにせよ、調査は必要だった。
「一先ず、須郷伸之が関係者だと仮定して調べるか。元々手がかりが須郷という名前しか無かったんだ。しらみ潰しで行くしかないな」
「わかった。須郷についてはアスナも関係しているし、俺も協力させてくれ」
「安心しろ。元よりそのつもりだ」
それからテニヌプレイヤーと和人がレクト社について調べようとしたときだった。
その《通知》だ届けられたのは。
ポーン、と。テニヌプレイヤーと和人の携帯にメッセージが同時に届けられた。
二人が宛名を確認すると、それは同一人物の『エギル』と記されていた。エギルについては和人経由でテニヌプレイヤーも連絡先を交換していた。特に連絡のやり取りはしておらず、二人ともエギルからの連絡はこれが始めてだった。
受け取ったメッセージ名も共に同じ『これを見てくれ』。
かなり急いでいたのか、本文はなく、添付ファイルが一つのみ。これは何かあったのだと、二人は添付されたファイルを開く。
ファイルは一枚の画像であった。
だが、その写真が大きな問題を抱えていた。
「あっ────アスッ?!」
「ほぉ…………これはいよいよ、何かあるな」
その写真はどこかのゲームで撮られたのか、大きな籠が写されていた。
画像は無理やり拡大加工しているのか、非常に荒いドット表示となってしまっていたが、二人の人物が居るのが確認できた。
長い栗色の髪の少女と、白衣を着た男性。
アスナと、ヒースクリフと思われる二人の姿が、そこにはあった。
☆
和人とテニヌプレイヤーは急ぎエギルの店へと向かった。
幸いにも、和人の家からエギルの店までは自転車で行ける場所であったため、そこまで時間がかかること無く辿り着けた。
エギルの店はバーであるが、昼も喫茶店として営業しているため、俺たちは特に問題なく入ることができた。
カラン、と音を立てて木製の扉を開けると、カウンターの奥に見慣れた巨漢の男が居た。
「よぉ、エギル。写真の件聞きに来たぜ~」
「エギル!! あの写真は何なんだよ!!」
「お前ら二人はテンションの差が激しいというか、相変わらずキリトは落ち着きがねぇなぁ」
一先ず落ち着け、と。エギルは二人に水を差し出した。
和人は水を受け取り、勢いよく飲み干し、テニヌプレイヤーも軽く水分補給を行う。
一息ついたことで、和人がようやく落ち着いた。
これでようやく本題に入れると、エギルは二人をカウンター席へ座るように促した。
席に着くと、早速和人はエギルへ問いかけた。
「で、あれはどういうことなんだ」
「ちょっと待ってな」
エギルはカウンターの下へ潜ると、一つのパッケージを取り出した。
それをカウンターに滑らせ、和人へと渡す。
和人が持つそのパッケージをテニヌプレイヤーも一緒に確認すると、それはあるゲームのパッケージであった。右上の対応ハードには《アミュスフィア》と書かれており、エギルからは《ナーヴギア》から安全面を考慮された後継機だと説明があった。
その《アミュスフィア》対応ゲームと言うことは、ソードアート・オンライン事件後に発売されたゲームということになる。タイトルは《アルヴヘイム・オンライン》と記載されていた。
エギルの話ではプレイヤーは妖精の種族を選択して遊ぶのであるが、プレイヤースキル依存であり、PK推奨。グラフィックや精度はソードアート・オンラインに匹敵するレベルとの事であった。
そんな一見さんお断りなゲームでありながら人気のタイトルらしく、人気の理由は飛べるから。飛行時間に制限があるものの、文字通り空を自由に飛べるのを売りにしているとの事であった。
「それでエギル、結局あの写真は何だったんだ?」
「それがな、そのゲームで撮られた写真なんだよ」
「アルヴヘイム・オンラインで撮られた……ねぇ」
もう少しエギルの説明を詳しく聞くと、アルヴヘイム・オンラインのパッケージの裏を見るように進められた。
そこには一エリアと同じ大きな木が描かれており、世界樹と命名されているようだ。何でも、この世界樹の上に設定されている城に辿り着いたプレイヤーの種族が、飛行時間制限が無くなるグランドクエストが用意されているようで、いつの世にもいるバカな連中が肩車して挑戦したところ、最高到達点を記念して撮られたいくつかの写真を撮った。
その撮られた写真の一つに鳥籠のようなオブジェクトが写り込んでおり、限界まで拡大すると、アスナと茅場昌彦二人の姿が見えるものとなった。これが件の写真の正体であった。
「でも正規のゲームで撮られた写真だろ? しかもソードアート・オンラインじゃない別の。どうしてアスナが写って………」
「ん────っと。コイツは…………なるほどねぇ」
テニヌプレイヤーがキリトの持つパッケージを隅々まで見てみる。
すると、面白い事実に気づいた。それは、このゲームの開発元であった。
気づいたテニヌプレイヤーは早速キリトへと伝える。
「和人、あながち理由が無いわけでは無さそうだぞ」
「えっ、何か分かったのか?」
「あぁ。裏面の開発元を見てみな」
「裏面? ────ッ?! この会社って……」
「あぁ………レクト社。今現在ソードアート・オンラインのサーバーを管理している会社だな。ついでに、どっかの誰かさんが所属している、な」
「どっかの誰かって、なに言ってるんだ、お前らは」
「まぁ、色々とな。んじゃ、早速行ってみますか、妖精の国に」
テニヌプレイヤーはそう言って席を立つと、続くように和人も立ち上がる。和人はそのままエギルと交渉し、ゲームを受け取った。どうやらゲームは一本しか無かったようで、テニヌプレイヤーはどうするのかとエギルは尋ねるが、テニヌプレイヤーは帰りに買って帰ると言い、この場は解散することとなった。
全員が戻ってこれたら、ここでオフをしよう。そう三人で約束して。
エギルの店を後にした二人は一旦各々の家に帰り、アルヴヘイム・オンラインで落ち合う事とした。が、その前にテニヌプレイヤーは二人のプレイヤーの連絡先を和人に尋ねた。
帰還者全員が現実世界で忙しくしているため和人はあまり言い顔はしなかったが、今は一人でも多くの手が必要だとテニヌプレイヤーは和人を説得。
結果として、テニヌプレイヤーの説得に折れた和人によってテニヌプレイヤーは二人の連絡先を獲得。
和人と別れた後、テニヌプレイヤーは連絡を行い、一人目はワンコールで繋がった。
「…………よぉ、俺だ。少しだけ手を貸してくれないか?」
『…………ウス。連絡を待っていました。直ちに………向かいます』
「あぁ。頼む」
二人目は10コール程で繋がった。
「よぉ。面白いゲームがあるんだが、一緒に遊ばないか?」
『貴方ねぇ。ナンパみたいな誘い方は無いんじゃない? …………で、助けに行くんでしょ。ソフトは用意してくれるの?』
「勿論。自分の分買うついでだ。直ぐに用意する」
無事に二人の協力者を獲得。
二人へソフトを購入する必要があったが、幸いにもテニヌプレイヤーの懐事情は大分暖かい物であった。その為、人手のための出費はさほど痛くは無い。
それよりも心強いメンバーが揃った事で、テニヌプレイヤーは足取り軽く、《アルヴヘイム・オンライン》のソフトを三つ買いに向かうのであった。
☆
協力者二人へゲームの引き換えコードを送った後、テニヌプレイヤーは早速《アルヴヘイム・オンライン》へログインすることとした。
幸いにもテニヌプレイヤーの両親は海外赴任中。現在は擬似的な一人暮らしをしている。その為、家のガスの元栓や扉の施錠さえしっかりしていれば、時間を気にすること無くゲームをプレイすることができた。
エギルの話によれば、ナーヴギアでも《アルヴヘイム・オンライン》は問題なく起動できるとの事。テニヌプレイヤーはナーヴギアを被り、布団へと寝転ぶ。
そして、世界を繋ぐ一言を告げた。
「リンクスタート」
ナーヴギアが起動し、テニヌプレイヤーの意識は仮想現実へと接続された。
初回のダウンロードや感覚器官の接続テストを経て、《アルヴヘイム・オンライン》は無事に起動。
女性のシステムボイスを聴きながら、テニヌプレイヤーは初期設定を行う。
プレイヤーネームを入力し、次は種族の選択。種族毎に得意武器や魔法、特性が割り振られていると説明があったが、テニヌプレイヤーはテニスができれば問題ないため、どれでもよかった。とりあえず好きな色から選ぶことにしたテニヌプレイヤーは青と白を基調とした装備をしている《ウンディーネ》を選択。
それから身長や髪型を選択する画面へ移ろうとした時だった。
バチッ、と。初期設定のメニュー画面にノイズが走った。
「ん……?」
最初は何かの不具合か? と思ったテニヌプレイヤーであったが、ノイズは収まることはなく、やがて───プツン。今は殆ど無くなってしまったブラウン管テレビの電源を消したかのような演出と共に、メニュー画面が消えた。
「……………マジか」
多少のバグならいざ知らず、まさかメニュー画面が消失するとは思っても見なかったテニヌプレイヤー。とりあえずできることはしてみよう、と色々試してみることとした。
何度か腕を上下に動かすもメニュー画面が再び現れることはなかった。
音声認識について試しても見たが、テニヌプレイヤーの声に答えてくれる存在も居なかった。
「ふむ。………ダメか」
これはいよいよ詰んだか? とテニヌプレイヤーの脳裏に諦めの感情が芽生えかけた。
まさにその時だった。
テニヌプレイヤーの足元に穴ができ、身体が落下を開始したのは。
「………えっ? ────ッ?!?!」
強く重力を感じたテニヌプレイヤー。
風を全身に感じ、下を見れば青々とした湖が広がっていた。
わー、すっごーい。ひろ~い。なんて幼児退行めいた考えが頭をよぎるが、そんなことを考えている場合ではない。
このままでは湖へ激突してしまう。飛行が可能となる精密な
物理エンジンが《アルヴヘイム・オンライン》では組まれているため、現実世界の自由落下と同じ衝撃が襲ってくるだろう。
そうなれば、コンクリートの上に落下するのと同じである。先ずもって、助からないだろう。
「ふむ…………水面まで残り3000メートルといった所か」
テニヌプレイヤーは目測で高さを計り、残りの猶予時間を算出。現実世界と同じ重力であれば、凡そ1分で激突となるだろう。
「PK推奨のゲームとはいえ、ゲームスタートがゲームオーバー直結とは斬新な設計だな」
ここにキリトが居れば『んな分けねぇだろッ!!』とツッコミの声が上がるのだが、残念なことに現状はテニヌプレイヤー一人のみ。
テニヌプレイヤーの言動にツッコミをいれる存在は居なかった。
そんな一人寂しいテニヌプレイヤーを《アルヴヘイム・オンライン》の神様は見捨てなかった。
「きゃぁあああああああああッ!!??」
「……………ウス」
テニヌプレイヤーが落下時間の計算を行ったその刹那。新たに二人の自由落下メンバーを遣わせてくれたのであった。
というのは物の例えであり、実際には偶然同じタイミングで三人が《アルヴヘイム・オンライン》へログインしてしまうと言う奇跡の産物である。
テニヌプレイヤーは新たに落下してきた懐かしい顔と頭上に浮かぶ名前を確認し、少し嬉しそうに挨拶をした。
「よぉ、クラディールにフィリア。こんなところで会えるなんて幸先が良いな。合流する手間が省けた」
「どこがよッ?! バグで落とされた上に、絶賛デスペナルティ確定じゃない!! どこも幸先良くないわよッ!!!!」
「ウス………お久しぶりです。皆さんとお会いできて………嬉しい、です」
「あぁ。俺も会えて嬉しいぞ、クラディール。今回も頼りにしている」
「ウス………」
「そこッ! 落下しながらほのぼの会話しない!!」
危機的状況にも関わらず、何時もの調子で会話する二人へフィリアの怒りが炸裂した。
実際問題、フィリアの言うことはもっともである。何しろ三人は絶賛パラシュート無しのスカイダイビング中。水面激突まで30秒も残されていない。
さて、どうするべきかとテニヌプレイヤーは思考を回す。
…………あぁ、それがあったか。
この世界が現実ではなく《アルヴヘイム・オンライン》であり、その特徴について思い出した。
「よしっ、お前たち。俺の手を握れ」
「手を? それでどうやって助かるのよ」
「良いから握れ。クラディールはもうしているぞ」
「…………はいはい。全く、死んだら許さないわよ」
「安心しろ。このゲームはPK推奨だ。死んでも多少のロスで済む」
「だとしても落下死は怖いの!!」
騒ぎながらも、フィリアはテニヌプレイヤーの手をしっかり握る。
扇状に広がり、少しでも空気抵抗を増やす。
そして左手にクラディール。右手にフィリアがいることを確認したテニヌプレイヤーは、精神を集中させた。
現実世界やソードアート・オンラインと違い、ここではあることが可能だ。
後は自分自身が明確にイメージするだけだ。幸いにもテニヌプレイヤーにとってイメージトレーニングは得意であるため、理想の姿をイメージすることは容易い。もしかしたら本来はメニューで操作するものかもしれないが、そんな事を確認する暇はない。
一発本番且つ、失敗の可能性がある賭けに、テニヌプレイヤーは全額ベッドした。
「飛べぇええええええッ!!!!」
テニヌプレイヤーの叫びと共に、彼の背中に2対の半透明で薄い青色の羽根が展開された。
やがて落下速度が少しづつ遅くなるのをクラディールとフィリアは感じた。
「────すっご…………スゴいじゃん!! いきなり飛行できるようになるなんて!!」
「ウス…………!!」
「…………いやー。落下した時は焦ったけど、こうして飛べるのは感動レベルね」
フィリアとクラディールの二人は笑顔で賞賛の声と、空を飛んでいる感動を上げていた。
「………………そうか。それはよかった」
そんな二人とは対照的に難しい表情を浮かべていたテニヌプレイヤー。
彼はこの飛行の真実に誰よりも先に気づいていた。決して、高度が上がっていないという悲しい事実を。
二人に対して水を差すようで申し訳ないが、知るのが後か先かの違いだと考えたテニヌプレイヤーは、二人へ語るのだ。
「まぁなんだ。残りの数秒だが、楽しんでくれ」
「うん!! ………えっ、残り数秒って..……」
「端的に言えば…………重量オーバーだな。残り、5秒といったところか。なぁ、クラディール?」
「……………ウス」
「へぇ────いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」
積載量を超過したことによる飛行時間と飛行能力に制限を受けたテニヌプレイヤーの羽根は呆気なく力を失い、ゆっくりだった落下速度が元に戻り始めた。
それからテニヌプレイヤーの目算通り、5秒の時間経過と共に、
「ぎゃっぷぃ!!」
「ウ…………」
「ハグゥッ」
三人は変な声を上げるのと同時に、ザバーンッ!! という轟音を響かせて水面へ落ちた。
☆
「…………ホント、死ぬかと思った」
「確かにな。しかし、そんな冗談が言えるようになったのは、ソードアート・オンラインから帰ってきたのを実感するな。なぁ、クラディール?」
「ウス…………」
「………死にかけたってのに、アンタ達は呑気ねぇ」
「実際問題死ななかったからな。それより、これからどうするか、だな」
水面へ落ちた三人はどうにかこうにか岸辺へと上がることに成功。これからの事について話し合いを始めた。
テニヌプレイヤーはメニュー画面を操作し、マップを表示。現在地点はウンディーネ領の湿地帯を指し示していた。
「現在地はウンディーネ領か。一先ず、近くにウンディーネの首都があるみたいだな。行って世界樹について情報を集めるか」
「首都って……アンタねぇ。アンタはウンディーネだから問題ないでしょうけど、私とクラディールさんの安全は保証はできないわよ?」
「ん? ──あぁ、そうか。このゲームはPK推奨だったか。完全にソードアート・オンラインの感覚だった」
「はぁ、だと思った。私はスプリガンだから、下手したら境界線でバチバチしてるかもしれないし。クラディールさんは…………何の種族を選んだんですか?」
「ウス…………プーカ、です」
「…………なんで?」
「彼の…………応援のため、です」
「あっ、そう」
フィリアはクラディールの従者ッぷりに何とも言えない表情を浮かべていた。
しかし、それも仕方なだろう。クラディールは彫りが深く、且つゴツい見た目をしている。そんな姿で陽気な歌を披露する姿など、誰も見たくは無いだろう…………彼を除いて。
「流石だなクラディール。お前が応援してくれるとなれば、俺たちは百人力だな」
「ウス…………!」
「そこ、夫婦漫才しないの」
「おおっと、悪い悪い」
フィリアに注意され、テニヌプレイヤーは話を戻す。
「首都が危ないとなれば、山勘で世界樹へ向かうのが一番確実か。道中であれば中立エリアになるだろう」
「そうね。あっ、ここからだと虹の丘ってエリアを通って行けば、世界樹の所に行けそうね」
フィリアが言うように、マップを確認すればウンディーネ領のエリアから世界樹までの最短距離は虹の丘を通るルートだ。
テニヌプレイヤーもそのルート攻略に不満はなかった。しかし、一つだけ懸念点があった。
「問題は…………装備が初期装備しか無いことと、揃えるだけの所持金が無いことだな」
テニヌプレイヤーの懸念に、フィリアとクラディールの二人も同意を示した。
「そこよねぇ。何でか私とクラディールさんも、他種族に関わらずウンディーネ領に来ちゃうし、整えるのも難しいわね」
「…………ウス」
事実、中立エリアで揃えるとしても所持金が無ければ買うこと自体が困難である。
さらに言えば、現在地のモンスターや他種族に狙われる可能性もあるため、できれば装備は万全にしたい。
というより、テニスラケットが欲しいと思うテニヌプレイヤーは何か無いかと、メニュー画面を細かく見ていく。
「ん? 何だこりゃ」
メニュー画面からアイテム欄を確認したテニヌプレイヤー。そこにはびっしりと文字化けした何かで埋め尽くされていた。
意味が分からない、と思うと同時にテニヌプレイヤーは強く疑問を感じた。
「うっわー。アイテム欄がスゴいことになってる………」
「……ウス」
見ればテニヌプレイヤーだけでなく、フィリアとクラディールも同じような状況。
原因として一番に考えられるのはゲーム起動時のバグ。しかし、それだけでアイテム欄が埋まるバグまで起きるとは考えにくい。
何かを見落としている気がする。
再びテニヌプレイヤーはフィリアとクラディールの方を見る。
ソードアート・オンラインのホロウ・エリアで共に闘った二人。その見慣れた顔がそこにはあった。
そう…………見慣れた顔が。
瞬間、テニヌプレイヤーの脳裏で情報のピースが綺麗には嵌まる感覚が訪れた。
「…………そう言う事か」
「えっ、何か分かったの?」
フィリアの問いかけに、テニヌプレイヤーは肯定を返す。
「あぁ。召集のバグについては原因が分からないが、アイテム欄についてのバグ、そして俺たちのキャラ外見の理由について原因が分かった」
「えっ、キャラ外見?」
絶賛バグが発生しているアイテム欄だけでなく、急に言われた外見と言う要素に、フィリアは首をかしげた。
そんな彼女へ、テニヌプレイヤーは先ほど気づいた事を伝える。
「フィリア。今もそうだが、最初の空で俺たちがであった時、何で直ぐに俺やクラディールの事が分かったんだ?」
「なんでって、そりゃ名前表示と一緒に闘った仲間の………顔ぐらい────あっ!」
言葉の途中で、テニヌプレイヤーの言いたいことにフィリアは気づいた。
「そうじゃん! なんで私たちのアバターがソードアート・オンラインの時のヤツなの?!」
フィリアの言う通り、テニヌプレイヤー、フィリア、クラディールの三人は一目で気づけるレベルでソードアート・オンライン時代のアバター外見をしていた。
だからこそ、空中で出会った三人は気づくことができたのだ。同じ名前とは言え、見知らぬ外見でなかった故に。
そしてソードアート・オンライン時代のアバター外見が生成されたと言うことは、アイテム欄のバグについても説明ができた。
前情報として知る、レクト社がソードアート・オンラインのサーバーを管理しているという事実によって。
「フィリアとクラディールには伝えてなかったが、《アルヴヘイム・オンライン》の開発元のレクト社だが、今現在ソードアート・オンラインのサーバーを管理している会社になる。そしてこのゲームはソードアート・オンラインに引けを取らないグラフィックと感度精度を誇るとされている。そして俺たちがソードアート・オンライン時代のアバターになるというバグの発生…………無関係とは言えんだろう。なぁ、クラディール」
「ウス…………」
「それってつまり…………」
クラディールとフィリアも気づいたようだ。二人を代表するように、テニヌプレイヤーは答えを口にした。
「あぁ。この世界はソードアート・オンラインをコピー、或いは下地にした世界だな。多分、スキル関係もそのまま残ってる可能性があるぞ」
「………可能性じゃなく、みたいね。ほら、私の短剣スキルが初心者にはあり得ない数値になってる」
「ウス。自分の両手剣も………です」
フィリアとクラディールのステータス画面を見せてもらうと、共に初心者とは思えないスキルの取得率となっていた。
これはもう、何もないと言い逃れできない証拠である。しかし、悪いことばかりではない。早めに調査をしたかったテニヌプレイヤーにとって強くてニューゲーム状態は有難い状況。レクト社がどんなズルをしたかは定かではないが、利用できるものは利用させてもらおう。
「とりあえず、アイテム欄を隅々まで確認するぞ。アイテムの文字化けがソードアート・オンラインのデータ上書き、もしくはコンバートによる同一化のバグによる物なら、同一アイテムはバグらずに残っている筈だ」
「えぇ!!」
「ウス!!」
テニヌプレイヤーの提案どおり、二人はアイテム欄の確認を開始。
テニヌプレイヤーも同様の作業を始め、使えるものを探した。
時間にして約20分位経った頃だ。
テニヌプレイヤーとクラディールは彼らにとっての伝説の剣を手にしていた。
「武器類は全滅。防具類も全滅。消耗品もダメだったが………通貨と戦闘に関係の無い装飾品関係がそのままのデータで使用しているのは助かったな、クラディール」
「ウス…………!!」
「あぁ、この世界終わったわね」
喜ぶテニヌプレイヤーとクラディールの二人はとは相反して深く絶望した表情を浮かべているフィリア。
なぜ彼女だけが絶望しているのか。それはテニヌプレイヤーとクラディールの格好と装備にあった。
ファンタジー世界でありながら、場違いなレベルで近代的である半袖半ズボンのスポーツウェア。黄色い片手でつかめる大きさのボール。極めつけは格子状に紐が張られている道具を方に乗せて構えていた。
それらのフル装備をした人間を、人はテニスプレイヤーと呼んだ。
悲報。ソードアート・オンラインを破壊したテニスプレイヤーの降臨である。流石のレクト社もテニスで攻略するバカがいるとは想定していなかった。
しかしそのお陰で、テニヌプレイヤーの抱えていた問題点が一気に解決した。
「よし。ソードアート・オンラインでの通貨がそのまま両替されているから、装備が一切ないフィリアについても道中の中立エリアで交流すれば問題ない。俺とクラディールは万全な状態。行けるか、クラディール?」
「…………ウス。そのつもりです」
「それは結構。では、最短最速で世界樹へ向かうとしよう」
「まあ、心強いのには代わり無いか」
驚きや呆れを大きく通り越したフィリアは、攻略がハードモードからイージーモードへと変わったことを喜ぶ事で自分を納得させた。
「ところで、世界樹に向かう前にキリトとは一度合流しないの?」
フィリアは本来の攻略メンバーとなる筈だったキリトについてテニヌプレイヤーへと訪ねた。攻略においてテニヌプレイヤーがフィリアとクラディールを誘ったように、人手は大いに越した事はないのだ。
しかし、フィリアの問いかけにテニヌプレイヤーは苦い顔を返した。
「その事だが、合流は難しいだろうな」
「どうして?」
「俺たちがバグに遭遇したのであれば、キリトも間違いなくバグに遭遇している筈だ。更にフィリアとクラディールとは違って、この場に集合できていないとなれば、どこに出現しているのか予想がつかない。キリトの事だから初期装備が黒で統一されているスプリガンを選んでいると思うが、スプリガンのフィリアがここにいる時点で首都には居ないだろう。なら、下手に時間をかけて合流するより、先にゴールで待っていた方が確実且つ早い」
「成る程ね」
「だからこそ、俺たちこのまま三人で世界樹へ向かう。それに、キリトもスキル値は引き継がれているだろうから、一人でも問題ない筈だ。というか、キリト自体も落ち着いて待っているとは考えにくい」
「アハハッ。それは確かに」
こうしてキリトは一人で問題ないと判断し、三人は現状の人数で世界樹へと向かうのであった。
しかしまぁ、実際にキリトはスプリガンを選択し、ウンディーネ領とは真反対に位置するシルフ領近くに墜落。そこから攻略を開始することとなっていたため、テニヌプレイヤーの判断は間違ってはいなかった。
次回からテニヌ要素マシマシでお送りします
次のテニヌは何処から始める?
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