ソードアートの王子様   作:あるく天然記念物

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一端物語は落ち着きます。
次回はアンケート結果を参照して開始時点を決めていきます。


フェアリー・ダンス編 後編

 再び世界樹のゲートへと入っていき、決戦の地へと向かう。

 テニヌプレイヤーにとって2日ぶり、キリトにとっては先ほどぶりの戦場に各員が降り立った。

 そして数秒と立たずにガーディアンの群れが湧き始める。

 それを見たテニヌプレイヤーが叫ぶ。

 

「各員、作戦通りに行動!!」

 

 テニヌプレイヤーの合図と共に全員が羽を広げ、一気に飛翔を開始した。

 目指すは天蓋の中央ゲート一点である。

 

「それじゃあ、フィリア頼む」

「えぇ。バンバンうちなさいよ、あんた達」

 

 フィリアは事前に託されたテニスボールをテニヌプレイヤーとクラディールの方へ投げる。

 

「行くぞクラディール。…………七十一式波動球!!」

「ウス…………バァッ!!!!」

 

 二人から放たれるフラットショットの一撃。既に放出されたガーディアンの群れに激突し、群れの一部に穴を生じさせた。

 切っ掛けは十分。後はこの穴を維持してキリトを上まで送ればゴールである。

 

「どんどん行くぞ!! 八十八式波動球ッ!!」

「バウッ!!」

 

 次々と繰り出される重爆撃と見間違うレベルの一撃に、キリトが放心しかけながら小さく呟く。

 

「相変わらずヤベェ……」

「お兄ちゃん。ボサッとしてないで行くよ」

「あっ、あぁ」

 

 リーファに背中を叩かれ、キリトは気を引き締める。

 いかんいかん。自分が一番ボーッとしてはいけない。

 今はテニヌプレイヤーとクラディールの攻撃に敵の対応が追い付いていないだけだ。しかし、それも長くは続かない。その刹那の時間にできる限りの高度を稼がなくてはならないのだ。

 キリトは加速し、上部を目指す。

 しかし、キリトの進路上の先からは確実に敵が出現しつつあった。

 

「少し、ペースと威力を上げるか。行けるか、フィリア、クラディール?」

「ウス………余裕、です」

「球を投げるだけなんだから、こっちの心配は無用よ。さっさとやっちゃいな」

「ならお言葉に甘えて…………裏二十一式波動球!!」

「ウス………裏二十一式波動球ッ!!!!」

 

 キリト達の進路を妨害させないため、テニヌプレイヤーとクラディールは懸命にパワーショットを連発していく。

 次第に撃ち漏らしが出てくるが、キリトが処理しながら進める量のため問題はない。

 キリトが鬼神のごとく進み、テニヌプレイヤーとクラディールが露払いを行う。

 着実に高度を上げていき、攻略に問題がないと思われた。

 しかし、攻略は着実に追い込まれつつあった。最初に気づいたのはテニヌプレイヤーである。

 

「……ダメだ。敵の増えかたが明らかに異常だ。秒間20なんてレベルじゃないぞ、これは」

 

 手を止めることなく、テニヌプレイヤーは現状を口にする。

 2日前の攻略時点、及びナビゲーターのユイからの情報から算出した結果、敵の放出量は最大秒間12体と見積っていた。それでもクリアさせる気がないレベルの放出量であるが、テニヌプレイヤーとクラディールが攻撃に専念すれば秒間15体は押さえ込めれる予定であった。

 だが、実際の敵の放出量はテニヌプレイヤーの予想を超えている事態だ。ここまで来れば、敵の放出量は上限を知らずに増える可能性もある。そうなってくれば、敵の物量にこちらが負けてしまう。

 しかし…………しかし、だ。

 テニヌプレイヤーはラケットを力強く握る。

 

「ここまで来て諦めたら、次の作戦なんか無い。だったら、最後まで足掻くしかねぇなッ!! 風林火山─────雷ッ!!」

 

 バチィイイイッ!! と。轟音を轟かせて一直線上のガーディアンの胴体に風穴が開く。

 

「うわぁ…………。いつ見ても雷はエグいわね」

 

 二度目となる雷の一撃にフィリアが軽く引いていたが、そんなことを気にする暇はない。即座にテニヌプレイヤーは風穴の先を見据えた。

 そうしてようやく、彼の《インサイト》はゴール地点を視認。テニヌプレイヤーはあらぬ限りの声で叫んだ。

 

「キリト!! 残りは後50メートル程だ!!」

「りょ──かいッ!!」

 

 ガーディアンを倒しつつ、キリトは答える。撃ち漏らした数も多くなり、キリトのスピードも落ちてきていた。

 残りの距離が異様に遠く感じられた。

(どうする………切り札を切るか? いやダメだ。下手なことをすれば攻略自体が終わる)

 テニヌプレイヤーには一応、奥の手が幾つか存在した。この状況を打開できるだけの攻撃は確かにある。だが、それは薄氷の上でブレイクダンスをするような自殺行為に等しかった。

 何しろ、実例がある。彼は一度ソードアート・オンラインでしでかしているのだから。

 だが、攻略の限界は確実に近づいていた。

 

「っ………このぉ!!」

 

 撃ち漏らしの敵が遂に球出しをしていたフィリアへ到達。幸い、フィリアでも数体であれば対処できる。だが、このままではかつてのドイツと同じように包囲殲滅されるのも時間の問題である。

 カードを一つ切るしかない。テニヌプレイヤーの決断は早かった。直ぐ様クラディールへと指示を出す。

 

「クラディール! フィリアの回りの敵を掃討に移れ!」

「ウス………! しかし、前線の維持が」

「安心しろ。俺一人でカバーできる」

「了解…………」

 

 クラディールがフィリアの援護に回る。これでフィリアの球出しを邪魔されることはない。

 後はクラディールの抜けた穴を一人で埋めるだけだ。

 

「フィリア、次の球は二つくれ」

「あんたねぇ、こっちのカバーはいいからクラディールを戻────はぁッ?!」

 

 フィリアの声が途切れた。《アルヴヘイム・オンライン》において何度目かになる驚愕によって顔が染まっている。

 それもそのはずだ。何故なら、彼女は初めて見たのだから。いや、フィリアだけではない。この場にいるキリト以外の全員が目を疑う光景だった。

 

「さーて、ここからは」

「ダブルスで行くよ」

 

 瓜二つ。いや、全く同じ顔が二人いた。それぞれが違う構えを取り、フィリアからのボールを待っていたのだ。

 しばし放心していたフィリア。やがて大きなため息を一つついたあと、テニヌプレイヤーへ向けて叫んだ。

 

「…………あぁもう!! あんたは、いつもいつもとんでもないことするわね!! いいわ、二人だろうが三人だろうが投げてやろうじゃないの!!」

 

 完全に呆れを通り越して、謎の対抗心に目覚めたフィリア。彼女は先ほどのペースを上回る勢いでテニヌプレイヤーへボールを投げ出す。

 

「そうこなくっちゃ、なッ!!」

「オラッ!! どんどん行くぜ?」

 

 それを楽しそうにテニヌプレイヤーは打ち返していった。

 

「ウォオオオオオッ────サイクロンスマッシュッ!!」

 

 竜巻の一撃が、ガーディアンを吹き飛ばし、

 

「一気に仕掛ける───あばれ球ッ!!」

 

 一瞬ぶれたかと思えば、五球に分身したボールを的確にガーディアンへと当てていく。

 クラディールが抜けたにも関わらず、先ほどよりもペースが上がり、ガーディアンの波が押されていく。

 

「行ける…………これなら行ける!!」

 

 どんどん道が切り開かれ、キリトの上昇スピードも上がっていった。

 50…………40………30。残りが20メートルを切った。

 あと少しで中央ゲートに辿り着く。ここが正念場だと、キリトは更に加速しようとした。

 そう…………した、である。

 キリトの羽は加速できず、逆にゴールまでの距離を押し戻されつつあった。

 その原因は天蓋を覆い尽くす白い壁であった。いや、壁ではない。絶え間なく蠢いているそれはガーディアンの群れである。

 既にガーディアンの排出スピードは秒間30近くに膨れ上がっていた。

 

「───嘘だろ?」

「こんな………事って」

 

 押し寄せる大群の壁に、思わず弱音が出るキリトとリーファ。二人だけではない。下で奮戦するテニヌプレイヤー達も追加させる圧倒的物量の壁に言葉を失いかけていた。

 最早ここまでか。

 誰も彼もが諦めかけ、テニヌプレイヤーが一か八かの奥の手を使おうとした。その瞬間だった。

 一陣の風が、全員の背中を押した。

 慌てて後方を確認するテニヌプレイヤー。そこにいたのは、出入り口のゲートから次々にチーム編成で突入してくる、銀の装甲を見に纏ったシルフの軍勢だった。

 いや、シルフの軍勢だけではない。テニヌプレイヤーの風林火山雷と同じような轟音を轟かせ、シルフ部隊の後方からドラゴンの集団が顔を除かせていた。ドラゴンの数は10体程度と少なかったが、一体一体がプレイヤーの10倍はある大きさをしていた。

 シルフ族の最高の精鋭部隊と、ケットシー族の最終戦力。協力な援軍の現着であった。

 

「おいおい、どっから呼んできたんだよ」

 

 絶望的状況でありながも、壮観足る光景に、ワクワクしながら呟くテニヌプレイヤー。

 二部隊それぞれの指揮官と思われるプレイヤーが、リーファへと話しかけた。

 

「すまない、遅くなった」

「ごめんネー、レプラコーンの鍛冶職人を総動員して人数分の装備を整えるのに時間がかかっちゃった。スプリガンの彼から預かった分と合わせて、うちもシルフも金庫はすっからかんだネ!」

「つまり、ここで全滅したら両陣営ともに破産だ」

 

 ケットシーの族長は耳をパタパタしながら楽しそうに笑い、それに続くようにシルフの族長も腕組みをしながら涼しげに笑った。

 スプリガンの彼から、と言うことは、キリトが何かしらの縁で支援した結果の賜物である。

 本当に、どんな人脈をしているのやら。テニヌプレイヤーはここ2日間のキリトの行動に少しだけ興味が湧いた。

 そこからは、戦況は一気に攻勢へと転じた。

 

「ドラグーン隊! ブレス攻撃用────意。放て!!」

 

 ケットシーの飛龍部隊のファイアブレスが、業火の壁となり、ガーディアンを羽虫のように焼き付くす。

 

「シルフ隊、エクストラアタック用意! フェンリルストーム、放てッ!!」

 

 シルフ部隊の一矢乱れぬ動作で長剣を突きだし、それぞれがテニヌプレイヤーのサイクロンスマッシュと同等の竜巻を産み出し、ガーディアンを切り裂いて行く。

 まさに殲滅レベルの攻撃である。しかし、ガーディアンの精製速度も追い付きつつあった。

 ガーディアンの壁が天蓋の方へ大きく窪むも、回りからどんどん押し寄せ、修復されつつあった。

 勝機はここしかない。

 テニヌプレイヤーはダブルスの構えを解くと、急ぎシルフとケットシーの族長のもとへと駆けつけた。

 

「助力を心から感謝する。今回の作戦の指揮を担当していた者だ」

「ほぉ、御主がキリトが言っていたあり得ない強さのテニスプレイヤーか。噂はかねがね聞いておるよ」

「ほへー。本当にウンディーネが戦場指揮してたんだネー。テニスで闘うってキリト君から話を聞いたときは嘘だと思ってたヨ。なんでファイアブレスと同じ威力でボールを撃てるノ?」

 

 どうやら既にキリトから族長へテニヌプレイヤーの説明はしていたようだ。

 であれば、長々と信用を稼ぐ必要はない。ケットシーには悪いが、テニヌプレイヤーは早速本題へと入った。

 

「俺はテニスプレイヤーだからな。それと、キリトから話を聞いていたのなら、話しは早い。既に気づいていると思うが、敵が対応しつつある」

「…………確かに、そのようじゃの」

 

 シルフの族長が視線を上に向け、目を細めた。

 ケットシーの族長は「テニスプレイヤーって?」と言って遠い目をしていた。

 

「御主はそう言うのであれば、何かしらの策があると見受けるが?」

「流石はシルフの族長。一刻の猶予もないので率直に申し上げます」

 

 テニヌプレイヤーはシルフとケットシーの族長へと視線を向けると、迷わず頭を下げた。

 

「どうか、俺の作戦に協力してください」

「………続けよ」

「現状は押しているように見えますが、敵の放出量は更に増えると予想されます。そうなれば、全滅は時間の問題です」

「それで、君はどうするノ?」

「当初の予定どおり、キリトによる一点突破を狙います。俺と仲間のクラディールだけでは天蓋までの道は狭かったが、ここにいる精鋭メンバー全員の力を合わせればプレイヤー一人分が駆け抜けられる道を作れます」

「ふむ………」

 

 シルフの族長が少し考えるように扇子を口許に当てる。数秒経ち、考えが纏まったのか、手のひらへ扇子を打ち立てた。

 パチン、と。小気味良い音を響かせ、声を出す。

 

「その策に乗った。これより、シルフ部隊は御主の指揮にはいる!! 皆のもの、この者の合図と共にエクストラアタックを仕掛けよ!!」

「サクヤちゃんがそう言うなら、私も異論は無いヨ。ドラグーン隊!! 我らもこの者の指揮に入る!! 急ぎファイアブレスの用意ッ!!」

「御二人とも………助力、感謝します!!」

 

 再びテニヌプレイヤーは二人へ頭を下げ、作戦のためクラディール達の元へと戻った。

 戻ってくると同時に、テニヌプレイヤーの胸元をフィリアは肘で叩く。

 

「このこの~。あんた、責任重大ね」

「心地よい位だがな。さて、クラディール。最後にもう一仕事、頼めるか?」

「ウス…………任せてください」

「ソイツは重畳。ならフィリア、俺の合図と同時にボールを頼む」

「任せて。特大のを頼むわよ!!」

 

 テニヌプレイヤーとクラディール、フィリアが定位置につく。

 最後に時間がないため、キリトとリーファに対しては大声で作戦を伝える。

 

「キリト、リーファ!! 最後の攻撃を今から仕掛ける!! 敵陣に穴が開いたら、振り向かず、一気に駆け抜けろ!!」

 

 キリトとリーファが片手を上げ、了承の合図が送られた。

 準備は整った。

 フィリアへテニヌプレイヤーは頷き、ボールが投げ込まれる。

 そして、あらぬ限りの大声で、テニヌプレイヤーは叫んだ。

 

「総員、総攻撃ッ!!!!!!」

 

 テニヌプレイヤーの指示により、シルフ部隊とケットシー部隊の攻撃が開始された。

 それにつづくように、テニヌプレイヤーは(やらかさない程度で)最大威力の一撃を放つ。

 

「さよなら満塁…………場外────ホームランッ!!!!」

 

 スーパースィートスポットを的確に捉えた一撃。嘗ては大型ボスすら一撃で天井に叩きつけることが出きる威力のボールは、あまりの速度と威力により黄色い彗星と化した。

 その彗星に追従する形で、フェンリルストームとファイアブレスが放たる。

 三つの特大威力の攻撃は巨大な円柱状の一撃と化し、天蓋までのガーディアンを一掃する。

 その一撃の跡は、天蓋までを見通せる穴と言う結果を写した。

 テニヌプレイヤーは叫ぶ。

 

「キリト、飛び込め!!!!」

「あぁ───任せろ!!」

「お兄ちゃん、これ!!」

 

 黒い流星が、天蓋までの穴を駆け抜けていく。リーファは兄に追い付けないと判断し、自身の武器を託す。嘗ての二刀流を振りかざし、キリトは天蓋までを突き進む。

 

「よし…………これで攻略完了だな」

 

 世界樹攻略をキリトへと託し、テニヌプレイヤーは一息つく。

 

「…………いえ、まだです」

「クラディール?」

 

 そこへ、待ったを告げられたテニヌプレイヤー。クラディールの方を見ると、彼はまだ攻撃をしていなかった。

 何故攻撃に参加しなかったのか。クラディールの性格から裏切り(並行世界のキリトは驚く事実)や怠惰は考えられない。

 ではどうしてか。

 理由は簡単であった。クラディールは主の命令よりも、主が望んでいることを遂行するためであった。

 

「…………貴方も行ってください。私の一撃で、貴方を上まで送ります」

「俺を送るって、クラディール。お前にはそのレベルの打球はまだ早い!!」

「………フィリアさん。ボールを」

 

 主から止めるように言われるも、クラディールは止まらない。

 フィリアへボールを要求。フィリアも止める気はなかった。

 

「まあ、クラディールさんがしたいことなら、私が止める権限も無いからね。さぁ、アイツと同じぐらいの一撃を頼みますよ!!」

「…………ウス!!」

「クラディール…………お前」

 

 クラディールの意思を無駄にするわけにはいかない。

 天蓋の到達という目的達成のため、テニヌプレイヤーはクラディールの策に乗ることにした。

 

「…………全力で行きます」

「あぁ、どんな一撃も受け止めてやる。だから安心して打ち込め、クラディール」

「ウス!!」

 

 テニヌプレイヤーは天蓋の方へ飛び、そこに向けてクラディールは自身の腕を超える一撃を放った。

 

「場外───クラディールホームランッ!!!!!!!」

 

 テニヌプレイヤーはパリン、という音を聴きながら、背面にラケットを構え、クラディール一撃を受け止める。

 振り返らずとも、クラディールの容態は理解できた。

 だから、せめて一言伝えよう。

 

「クラディール…………お前の犠牲は無駄にはしない」

 

 クラディールの一撃の勢いはテニヌプレイヤーの一撃と遜色なく、その体をキリトのもとにまで運んだ。

 

「イヤイヤイヤイヤイヤイッ?! お前なにやってんの?!」

 

 あまりの脳筋プレーに、思わずキリトがツッコンだ。

 その一瞬が、命取りであった。

 

「………あっ、しまった」

 

 キリトの攻勢が止まり、その一瞬を埋めるようにガーディアンの群れがリポップ。

 その数、100は越えていた。

 自分の突っ込みに深く反省したキリト。だが、希望は残っている。

 おそらく、クラディールはこれも見越していたのかもしれない。

 今回はたまたまキリトの突っ込みによるものであったが、テニヌプレイヤーが予測できなかった不足の事態を防ぐためにも、クラディールは身を賭して彼を天蓋へと送り出したのだ。

 そして先ほど自分は言ったではないか。彼の犠牲は無駄にはしないと。

 テニヌプレイヤーは流れるように体を動かし、ラケットとボールを前の方へ構えた。

 そしてテニヌプレイヤーの体に白銀のオーラが纒だし、そのオーラはテニヌプレイヤーの右手1本へと集中する。

 オーラにより回転数が増幅されるクラディールホームラン。テニヌプレイヤーは声高々に叫び、ガーディアンへと撃ち込んだ。

 

「これはクラディールの………魂の一撃だ!! ────百連自得の極みッ!!!!!!」

 

 再び、黄色い彗星が産み出された。

 最後の足掻きとして産み出されたガーディアンの壁は、クラディールとテニヌプレイヤーの一撃により、押し返され、貫かれ、その全てが天蓋のゲートへと叩きつけられた。

 それに続く形でテニヌプレイヤーとキリトが天蓋へと辿り着く。遂に全妖精達が憧れた試練のゴールである。

 

「はぁ………世界樹の試練も、まだまだだな?」

「本当に………おめぇにはかなわねぇなぁ」

 

 巨大な円形のゲートを前に、テニヌプレイヤーとキリトは一息つく。

 数秒待つ───なにも起こらない。

 

「……開かない……?!」

「ちぃ、まさかそこまで性根が腐っていたかっ!」

 

 キリトは驚きの声を上げ、テニヌプレイヤーは蔑みの言葉を吐いた。

 ゲートは万物を拒絶するように、ピッタリと閉じられていた。

 キークエストが足りない? んな訳がない。それであれば挑戦そのものが制限されているはずだ。つまり、この扉は………

 テニヌプレイヤーの脳裏に最悪の答えが浮かぶ。

 

「大変です!」

 

 テニヌプレイヤーの思考を遮るように、キリトの胸からユイが飛び出す。

 そして、テニヌプレイヤーの懸念に対する答えを告げた。

 

「この扉はクエストフラグによりロックされていません。システム管理者によってロックされています!」

 

 やはりか。ガーディアンの調整といい、どこまでもプレイヤーを嘗めた対応だ。

 

「ど───どういうことだ?」

 

 未だに混乱し、答えに辿り着けないキリトに対してテニヌプレイヤーは答えを教えた。

 

「要は、絶対に開かないんだよ、この扉は。………初めから運営が開けるつもりもない、ただのオブジェクトって事さ」

「な………」

 

 キリトの顔が絶望に染まった。テニヌプレイヤーも信じたくはなかった。

 しかし、ユイからの情報である。嘘ではない。本当にシステム管理者によってロックさているのだ。

 ヘカトンケイルの守る門どころではない。初めから用意されていない蜃気楼である。異常な数のガーディアンといい、運営は初めからクリアさせるつもりなど無いのだ。

 万策尽きたか。いや、まだ手はある筈だ。

 考えろ………考えるんだ。

 テニヌプレイヤーは顔に手を当て、思考を進める。

 何かあった筈だ。この世界においての不具合。この際バグでもいい。正攻法ではないアクセスの仕方が………あった。

 そして一つの答えに辿り着く。

 

「キリト、お前が手に入れたカードキーを使え! この場所でないところで使用されているなら、本来の使用先のコードが乗っている筈だ!」

「そうか! ユイ、これを使え!!」

 

 テニヌプレイヤーのアドバイスを受け、キリトは急ぎカードキーを取り出す。

 それをユイに渡し、コードの確認を行う。そして、一つのエリアを発見した。

 

「──転送されます! パパ、お兄さん、捕まって下さい!」

 

 ユイが両手を伸ばし、キリトとテニヌプレイヤーはそれぞれ片手で掴む。

 開かずのゲートが発光し、三人はゲートの中へと転送されていった。

 

 ゲートが発光するのを下で見ていたフィリアは、腕が欠損しているクラディールへ肩を貸しつつ、テニヌプレイヤーへ言葉を贈る。

 

「しっかりやりなさいよ」

「…………御二人とも、御武運を」

 

 

 ゲート内部へと転送されたキリトとテニヌプレイヤー、そしてユイは真っ白な空間にいた。

 いや、空間というよりは通路であった。左右にどこかへ通じる光を感じる。

 

「二人とも大丈夫ですか?」

「──ああ。ここは………」

「先ほどの光景から察すればゲートの内部。設定ではアルフと妖精王が住んでるらしいぞ」

「………どこに空中都市があるんだよ」

 

 キリトが怒りに手を震わせる。確かにキリトの言う通りだった。クリアさせる気の無いクエストに、用意されていないクリア報酬。どこまでプレイヤーをバカにすればいいのだろうか。

 しかし、裏を返せばレクト社が見せたくないものを置いているのかもしれない。もしかすれば、未帰還者についての情報があるのかもしれない。

 ここは、二手に別れるべきか。

 

「キリト。お前はアスナを探せ。うまく行けば一緒にいる茅場昌彦もいる筈だ」

「そう言えば、茅場昌彦も囚われていたな。でもお前はどうするんだ?」

「こんなに何かありますって状況なんだ。ソードアート・オンラインと無関係です。とは、もう言えんだろ。だから未帰還者について調べてみる」

「分かった。何かあったら直ぐに逃げろよ」

「あぁ、そっちもな」

 

 そらからキリトはユイの案内の元、アスナの捜索へと向かった。

 対する俺はキリトと反対方向へと足を進める。

 やがて白一色であった通路は灰色を取り戻し、近未来を彷彿とさせる機械が立ち並ぶ部屋へと辿り着いた。

 

「完全に何かありますって、言ってるようなもんだよな、これ」

 

 ご丁寧にフロアの見取り図も壁に飾られてあり、《データ閲覧室》、《主モニター室》、《仮眠室》、そして完全にレッドカードを出される《実験体格納室》と書かれた部屋もあるみたいだ。

 完全に非合法な実験をしていると小学生でも分かった。ソードアート・オンラインのサーバーを管理していると言う情報と組み合わせれば、その実験体と言うのが誰を指す言葉なのか、想像するのは容易かった。

 

「とりあえず、実験体格納室をぶっ壊せば未帰還者は帰ってくるだろうか」

「それは止めた方がいい。君がやれば最悪、《アルヴヘイム・オンライン》中にソードアート・オンラインのプレイヤーが放出される事となる」

 

 突然テニヌプレイヤーへと語り掛けられた声。

 普通であればこの非合法施設に置けるスタッフか、研究者であると思われる。つまり敵だ。

 しかし、声をかけられたテニヌプレイヤーは落ち着いていた。

 何故ならば、ここまで来ることになった原因の声と同じ声だったからだ。

 テニヌプレイヤーは溜め息と共に、声をかけてきた方へ振り向く。

 そこには合いたいようで、合いたくなかった人物がいた。

 

「はぁ………んじゃ、どうすればいいんですか、茅場さん?」

 

 両手をポケットに入れたまま、不敵に立つ男がそこにはいた。

 ソードアート・オンラインの産みの親であり、テニヌプレイヤーへ爆弾発言を残した男だ。

 茅場は大した問題でもないかのように、テニヌプレイヤーへ答えを告げた。

 

「そうだな。先ずはシステム権限を取り戻すのがいいだろう。そうすれば、プレイヤーの操作からログアウトまで自由に行える」

「へー。となれば、ここがソードアート・オンラインを元にしているのは確定として、茅場さんが権限取り戻せるんじゃないんですか?」

 

 茅場昌彦は名実ともにソードアート・オンラインの開発者。その管理者権限は一番高い。《アルヴヘイム・オンライン》がソードアート・オンラインの上に存在する世界だからこそ、可能だとテニヌプレイヤーは考えた。

 しかし、テニヌプレイヤーの提案に、茅場は首を横に振った。

 

「それは無理だな。私がここに囚われた時点で、アカウントは須郷君が好き勝手に使っている。私は間一髪でアスナ君とは違いアバターの権限と認識阻害を行うことができたが、結局は幽霊のようなものだ。須郷君から隠れて観測や干渉できたとしても些細なものだ。精々会話と写真に写るくらいしかできない」

「はぁ…………。てことは、あの写真は俺に対するメッセージでもあったって事ですか?」

「その通り。実に分かりやすかっただろ?」

「とってもな。けど、茅場さんのアカウントを取り返すのが一番手っ取り早いとして、問題はどうやって取り戻すかだよなぁ」

 

 テニヌプレイヤーは顔に手を当て、深く考える。

 現状はトイレに流す紙よりは使える茅場昌彦。権限を取り戻すような力も、アインクラッド流テニスを行えるチートも無い。そんな状況でいかに管理者権限を、引いては茅場昌彦のアカウントを取り戻すのか。

 考え込むも、答えが浮かんでこない。これはゲートの件といい、発想の転換が必要だ。

 逆に、強固な茅場昌彦のアカウントを須郷がどうやって手に入れたのかについてテニヌプレイヤーは考えた。

 ソードアート・オンライン終演の時、茅場は俺のテニスによるバグでシステムに支障を来したと言っていた。それによる隙を付かれ、囚われる事となったとも……………あっ、そうか。だから、なのか。

 

 テニヌプレイヤーが一つの答えに辿り着くと、それを見計らったように茅場昌彦が語りかけてきた。

 

「どうやら、策を思い付いたようだね。そして、私がどうして君を待っていたのか」

 

 その問いかけに、テニヌプレイヤーは首を縦に振って答えた。

 

「あぁ。これは俺が始めた物語………いや、試合か。なら、俺がゲームセットに持ち込まないとな」

「理解が早くて助かる。君がソードアート・オンラインで起こしたことをこちらでもしてくれれば、私がしかるタイミングでアカウントを取り戻そう。起こす場所については………おや、いいタイミングだ」

 

 茅場は指を縦に動かしてシステム画面を開くと、とある映像をテニヌプレイヤーへと見せてきた。

 見てみるとそこには、金髪のプレイヤーがアスナとキリトを苦しめていた。

 …………えっ、アカンやん。

 

「ちょっと?!」

「どうやら須郷君が調子にのってキリトくんを苛めているようだ。ちょうどいい。アスナ君が囚われていた場所はエリアとして独立している。そこであれば君が暴れても未帰還者達に影響はない。存分にやってきたまえ」

「あぁ、もう。言いたいことが山ほどあるのに~!! とりあえず今はキリト達を助けるのが優先か。茅場さん、しくじらないで下さいよ!!」

「あぁ、勿論だとも。では、急ぐといい」

 

 テニヌプレイヤーは茅場昌彦との会話を終えると、来た道を戻り、キリトが向かった方へと駆け出した。

 道としては一本道であったため、迷うことなく問題のフロアへと辿り着けた。

 須郷と思われる金髪のプレイヤーがキリトを足蹴にしている。夢中になっているのか、テニヌプレイヤーが来たことに気づいていない様子だ。

 テニヌプレイヤーはボールを取り出し、上へと投げた。

 もう、手加減する必要はない。寧ろ今回は逆だ。本気を出して、システムへの干渉が目的だから。

 落ちてくるボールへ、テニヌプレイヤーはあらぬ限りの力を込め、思い切り撃ち抜いた。

 

「ここでは僕こそがか──「バーニング波動球ッ!!!!」───ミイイイイイイイイイイイイイイッ??!!」

「「なっ?!」」

 

 打ち出されたボールは寸分違わずご高説賜っていた須郷の頬へとめり込み、彼の体を十数メートル吹き飛ばす。

 その様子にキリトとアスナが驚く。

 そしてやってくるテニヌプレイヤーの姿をみて安堵の表情を浮かべた。

 

「ははっ………来てくれるって信じてたぜ」

「選手交代だ。そこで安心して見てろ」

「………悪いが、頼む」

 

 視線をキリトから吹き飛んだ須郷の方へと向けるテニヌプレイヤー。

 そこには少しよろめきながら、立ち上がる須郷の姿があった。

 

「全く!! 神であるこのぼくに、こんな仕打ちをするとは。テニスプレイヤーとは名ばかりのゴリラ風情がよくも!!」

「そうか。鍍金の神にはよく響いただろ? ほら、お寺の金も青銅性で叩けばよく鳴るじゃないか」

「なっ、なぁにぃッ?!」

 

 須郷の顔が真っ赤になり、テニヌプレイヤーを睨み付けた。

 その表情は怒りに染まっている。でもな、怒りたいのはこちらの方だ。

 須郷は素早く指を動かし、システムコンソールを開こうとした。しかし、その瞬間を見逃すテニヌプレイヤーではない。

 

「この僕に楯突くとは!! システムコ────」

「六十八式波動球ッ!!!」

「トオオオオオオオオオッ?!!!」

 

 パワーショットを受け、再び吹き飛ぶ須郷。その時、テニヌプレイヤーの上空に異変が生じていた。

 ピシッ、と。亀裂が走る音がした。

 

「ほら立てよ。俺の攻撃ターンは残ってるぞ?」

「ここっ、こんなゴリラごときにぃっ?!」

「そのゴリラごときにぶっ飛ばされるお前は何なのだろうな。────クラディールホームランッ!!!!」

「ギィヤァァアアッ!!」

 

 三度目の吹き飛ばし。須郷も慣れてきたのか、立ち上がるのが早くなっていた。

 システムコマンドで自身のダメージを消したのか、服の汚れと顔の傷が無くなっていた。

 しかし、それをテニヌプレイヤーは全く気にしていなかった。

 既に仕込みは十分。上空の異変は着実に進んでいるのだから。

 

「ははっ。お前がいくら僕にボールを撃ち込もうとも無駄だ。この世界において僕は神だ。だから、貴様はゴリラのように地へと這いつくばれ!!」

 

 今度はテニヌプレイヤーが撃ち込むよりも早く、須郷はシンテムを操作した。

 テニヌプレイヤーは、身体が数倍にも重く感じた。思わず膝を付きそうになるが、根性で耐える。心なしか全身に痛みも感じるが、日々の練習の方がキツいため何とか耐えれそうである。

 

「ほぉ、立っていられるか。そこのゴキブリは耐えられなかったんだけどね」

「ゴキブリ…………キリトの事か?」

「そうだよ!! この妖精王の庭にコソコソ入り込む虫けら!! 同じ羽が生えているだけのゴミムシなんて、ゴキブリで十分だろ?」

「………そうか。安心したよ、須郷さん」

 

 テニヌプレイヤーは自分の頭の上で数回ラケットを振るう。

 すると、初めから何もなかったかのように、テニヌプレイヤーの身体を地面へと叩きつける重力が消えた。

 ゆっくりと、須郷さんの方へとテニヌプレイヤーはテニスラケットを構えた。

 

「はぁ?! 人体に影響が及ぶペイン・アブソーバと重力魔法だぞ!? なぜ動ける!!」

「あぁ、重力の操作なら、俺もできるのさ。今の俺の頭の上には俺が産み出したブラックホールが存在している。それが、俺へと干渉してくるお前の重力魔法を防いでるんだよ」

「………はぁ?!」

 

 テニヌプレイヤーのとんでもない説明に、須郷は驚愕の声を上げた。

 ついでに、

 

「エェッ?!」

「うっ、嘘でしょ?!」

 

 キリトとアスナも驚愕していた。

 しかし、実際に攻撃を防ぐブラックホールがテニヌプレイヤーの頭上には存在していた。

 

「さて、説明は十分だろ。コイツは………キリトを含め、お前に遊ばれたソードアート・オンラインプレイヤー、そしてこの世界で騙されたプレイヤー全員の分だ!!」

「まっ、待て!! 僕に逆らうと未帰還者の命の保証はでき──」

 

 須郷の命乞いは、そこまでだった。

 須郷の言葉を途中で遮るように、テニヌプレイヤーはボールを思い切り撃ち込んだ。

 

「………滅びよ。デストラクションッ!!!!!!!」

 

 スーパースィートスポットを的確に捉えた一撃は光輝き、空間に亀裂を幾つも発生させながら須郷の胴体へと突き刺さった。

 

「ぎぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!??」

 

 撃ち込まれた須郷は壁へと激突し、その壁もあまりの威力に大きくヒビが入る。

 とんでもない一撃である。最早人間業ではない一撃を受けながらも、流石は神と言うべきか、須郷は再び立ち上がった。

 

「もっ、もう許さないぞ。システムコマンドッ!!」

 

 現実を改編できる管理者権限。それを行う起動の言葉を須郷は叫ぶ────何も起こらない。

 

「システムコマンド!! 言うことを聞け!! 神の命令だぞ!!」

「いや、もう君のシステムではない」

「っ?!」

 

 突如として掛けられる声に、須郷は目を大きく見開いた。

 その声………その声の主こそ、須郷にとってのトラウマそのものだった。

 まるで壊れたブリキ人形のようにゆっくりと、須郷は声のした方を振り向く。

 そこにはいた。須郷が一生合いたくない、生涯に渡って勝てないと分からされた相手がそこにはいた。

 

「かっ、茅場昌彦ぉおおおおおっ!!」

「すまない、須郷君。彼ともう少し早く出会えていれば、このような事は無かった。システムコマンド。iDヒースクリフ。iDオベイロンの権限をゼロに設定し、ソードアート・オンラインメインサーバーの紅玉宮へ隔離」

「お前がああああああああ──────」

「少しだけ待っていたまえ、須郷君」

 

 須郷の身体が光ったかと思えば、一瞬で何処かへ転送された。

 紅玉宮という名称に聞き覚えがないが、ソードアート・オンラインと言われていた以上、ソードアート・オンラインのゲームサーバーに作られたステージの一種だろう。

 須郷を排除した茅場昌彦はシステムコンソールを操作し、キリトとアスナを解放させた。

 

「さて、これで大丈夫だ」

「………茅場昌彦。本当にあんたなのか?」

「あぁ。そうだとも、キリト君。ソードアート・オンラインの開発者であり、かつてのヒースクリフだ」

「そうか……やっぱりあんたか。なら、もっと早く助けてくれよ、アイツが来る前にさ」

「すまないが、それは不可能だった。寧ろ、彼がここまで来てくれたから、私はシステム権限を取り返せたのだ」

 

 茅場昌彦は語る。

 バグによって付け込まれた火事場泥棒に対しては、同じ火事場泥棒をしなければ取り返せなかった、と。

 

「彼へ伝言を残したとは言え、彼自身がこの世界に気づいてここまで来てもらえなければ、私はただの幽霊同然だったよ。精々アスナ君へ話しかけて困惑させたり、写真に写るぐらいしかできなかった」

「んー、なんか色々言いたいのに、多すぎて言葉にできねぇ」

「ふっ……。彼と同じことを言う。やはり君たちは親友同士のようだな」

 

 キリトとテニヌプレイヤーを交互にみて、茅場は楽しそうに微笑んだ。

 

「さて、積もる話も多いだろうが、先ずは帰ると良い。囚われている未帰還者は私が責任をもってログアウトさせよう」

「分かった。そっちは頼みます」

「団長……いや、茅場昌彦さん。お願いします」

「ここまでしてやったんだ。最後の最後でしくじるなよ、茅場さん」

「勿論だとも。それと、キリト君にはこれを」

 

 茅場昌彦は植物の種のようなもの取り出すと、キリトへ渡した。

 

「………なんだ、これ」

「それは世界の種子だ。どう使おうが、君の自由だ。私には、もうそれを使う権利は無いからね」

「世界の種子? 相変わらず分かりにくい言葉を使いやがって……まあ、貰えるもんは貰っとくよ」

「そうしてくれ。では、一時解散だ。キリト君、アスナ君、そらから君も。また会うとしよう」

 

 茅場昌彦を除く全員の身体が光り始めた。

 やがて三人の視線には放射線上の光が走っていき、意識は黒色一色となった。

 

 こうして、ソードアート・オンラインから始まった仮想現実の事件の幕は、静かに下ろした。

 

 

 あの後の事を少しだけ語ろう。

 キリト………いや、和人君はログアウト後、急いでアスナ君の入院している病院へと向かった。

 本来の時間軸では駐車場で待ち伏せていた須郷君の襲撃を受ける筈であったが、この世界では私によってソードアート・オンラインの世界へ隔離させて貰っていたため、和人くんは無事に現実世界でアスナ君とは再会することとなった。

 未帰還者についても全員が無事に現実世界へと帰還を果たした。一部、厄介な種を握ることとなるが、それは和人君や彼が後々解決をすることとなるだろう。また、須郷君に捕まっていた未帰還者については幸いなことに人体実験していた頃の記憶は一切無かったことだ。もしあったとしたら、事態の一端を担う私の心が少し痛むからね。

 また、総務省は未帰還者の中学、高校生を対象とした《学校》を設立。遅れた勉学と青春を取り戻していくのであった。最も、和人君を取り合う青春活劇はこれからと言うわけだ。

 彼についても私が知る情報を少しだけ語ろう。早々に社会復帰した彼も《学校》に通うこととなるが、テニスプレイヤーとして飛躍した。国際的な大会やイベントにも参加し、その類い稀になるテニススキルで人々を魅了した。風の噂では、近々豪華客船でテニスの試合をするとの事であるが、それは後々の話だな。

 最後に、私の話となる。ソードアート・オンライン………いや、今は《SAO》事件だな。事件を起こした私であるが、実は重い罪には問われなかった。その証拠に────須郷くんの事件から数ヵ月経った今に繋がる。

 

「そう言うわけで、改めて自己紹介だ。元血盟騎士団団長のヒースクリフである茅場昌彦だ。色々言われることもあるだろうが、今回は純粋に楽しみたいと思う」

「いや、確かにヒースクリフも攻略の立役者だけど………。なんで黒幕の茅場さんもオフ会に参加してんだよ」

 

 エギル君の店《ダイシー・カフェ》には本日貸しきりの看板が立て掛けられており、ソードアート・オンライン帰還者の中でも和人君や彼の関係者達によるオフ会が開かれていた。

 事件の黒幕でもある私だが、参加できていること事態が、罪には問われなかったことの証拠である。

 カウンター席でカクテルを飲んでいた私に対して、彼は呆れた表情を浮かべながら隣の席に座ってきた。

 

「で、なんで参加してんだよ茅場さん」

「まあ、先に飲み物を頼むといい」

「………なら、カフェオレを頼む」

「エギル君、彼にカフェオレを」

「あいよ」

 

 店主であるエギル君は私から事前に話をしていたため、複雑な表情を浮かべながらも、私のオフ会参加を認めてくれた。

 エギル君から差し出されるカフェオレを受け取り、彼は一口飲む。そして私に対して早く話せ、という視線を向けてきた。

 

「さて、理由についてだったね。確かに私は《SAO事件》を起こした。しかし、その後で須郷君が事件を起こしたせいで事情が拗れてしまった。何しろ、非合法な実験をするために彼が捉えていた未帰還者の中に、私が含まれてしまったからね」

 

 あれから須郷くんはいくつかの罪状により裁かれた。私と会ったのが決定的だったのか、非常に憔悴した状態で全ての罪を語ったとのことだ。

 本来であれば《アルヴヘイム・オンライン》での罪だけ問われるのだが、それを良しとしないもの達がいた。

 事件の対応に追われる総務省と、これ以上傷を広げたくないアーガス社とレクト社だ。

 三者は被害を減らすべく、一つのカバーストーリーを作った。それは……………。

 

「私も被害者として扱い、全ては須郷君が悪い、とね」

「………うわぁ、大人って汚いなぁ」

 

 彼は少し引いた表情を浮かべるが、それも無理はない。保身のためには人は何処までも汚いことができるからね。

 話を戻そう。須郷君には大変申し訳ないが、彼には余罪が多すぎた。私の起こした《SAO事件》よりも世間は人体実験の方がより理解しやすく、世間からのバッシングは凄まじいものになる。だから三者の思惑が一致したのだ。

 結果、須郷君が干渉したことによって《SAO事件》が発生。いち早く気づいた開発者の茅場昌彦はヒースクリフとしてゲームに参加し、プレイヤーと共にゲームをクリアするも、人体実験の対象として囚われていることとなった、というストーリーが作られた。私の罪も上乗せとなってしまったが、須郷君は実際に人体実験をして、尚且つ諸外国へ逃亡、或いはデータの売買履歴があったのが致命的だった。アーガス社、レクト社、そして総務省にとってこれ以上ない蜥蜴の尻尾となってしまったというわけだ。

 

「無論。世間は別として、裏では私も犯罪者として総務省からはマークされている。ある程度の自由を認められるが、今後は仮想現実技術発展に寄与すること、そしてこれからの仮想現実における事件が起こった際のアドバイザーとして活躍することが条件として総務省から提示されたよ」

「成る程な。そこまで来ると、逆に須郷が可愛そうに見えてくるな。………全く同情しないが」

 

 酷い言われようである。しかし、どの口がと思われるかも知らないが、私も同じ気持ちだった。

 

「けど、これからの仮想現実の発展を考えると、二人とも裁くよりも、茅場さんが世間的にも自由に動けるようにした方が世界のためか」

「和人君が、あの世界を恨まず、《世界の種子》を芽吹かせたからね」

「だからって、ソードアート・オンラインの根幹を形成するパッケージを無料公開したのは大きな決断だな」

「一種の御祓だよ。それに、アーガス社としても好都合だったみたいだからね」

 

 私がキリト君へと託した《世界種子》。それは仮想現実を作るための作成ツールだ。私がソードアート・オンラインを産み出すために作り上げたプログラムであり、これを使用すれば知識があれば誰もが普通のゲームを作る感覚で仮想現実を作ることが可能となる。

 和人君がそれを公開したと同時に、アーガス社は世間体を考えて使い方のレクチャーを無料公開。結果としてアーガス社とレクト社株は最悪の事態を回避することとなった。

 説明が一段落したところで、私は気になっていることを彼に訪ねた。

 

「私からも一つ、いいかい?」

「ん? 何かあるのか?」

「純粋な質問だよ。これから数多くの仮想現実が芽吹くが、君はどんな世界に行きたい?」

 

 かつて私はソードアート・オンラインの浮遊城がこの世界の何処かにある。現実に見つけたいと思い、あの事件を起こした。

 そんな私の望みによって作られた世界。その世界を現実を越えたものに変えてくれた彼が、行きたい、見たい、触れたいと思える世界はどの様なものなのか、気になった。

 

「そうだな…………」

 

 彼は口に手を当て、少しだけ考えた。

 やがて思い付いたのか、一度頷き、私へと答える。

 

「自由にテニスが満足行くまでできる世界だな」

「そうか………。それは、これから作る人間は大変だな」

 

 何処まで行っても彼らしい答えだった。

 しかし、彼のテニスが満足行くまでできるとなれば、少なくともソードアート・オンラインを越えた世界を作る必要がある。これから世界を作る人日の苦労が目に浮かんだ。

 

「というか、茅場さんはもう作らないのか?」

「なに?」

 

 事件を起こした私に対し、彼は何気ないことのように訪ねてきた。

 

「いや、ソードアート・オンライン作った茅場さんなら余裕で作れると思ったからさ」

「かもしれないが、事件を起こしてしまったからね。私にはもう資格がないよ」

「………いや、俺は違うと思うぜ。そりゃ、茅場さんはやり方を間違えたとは思う。でも、作ることは間違いなんかじゃない。そりゃ、爆弾とかなら話は変わるが、ソードアート・オンラインは違った。ソードアート・オンライン自体には罪はないんだよ」

「しかし…………」

「それにさ────」

 

 彼は私を真っ直ぐ見つめ、そして笑った。

 

「憧れは止められない………だろ?」

「…………ははっ」

 

 まさに心中を捉えた言葉だった。たしかにそうだ。資格がないと言いつつも、私は次の世界が──あの日彼と試合をしたときに語ったように、彼とのテニスが充分にできる世界が作りたいと思った。もう一度、作って見たいのだ。

 

「答えは得たか、茅場さん?」

 

 私の心を見透かしたように、彼が訪ねる。

 答えは決まっていた。

 

「あぁ。完成したら、是非ともテストをして欲しい。今度はちゃんと帰れるように設計しよう」

「頼んだぜ。んじゃ、俺はフィリアとクラディールに挨拶してくるわ」

 

 そう言い残し、彼は席を立った。向かう先は、ソードアート・オンラインとアルヴヘイムを共に世界を救った仲間のもとだろう。

 いつの日か………。そこに私も入りたいと思ったのは、私だけの秘密だ。何しろ、テニスは一人でしても面白くないからだ。

 何だか今日は、気分がいい。

 

「これは、美味しくお酒が飲めそうだ」

「なに言ってるんだよ、茅場さん。あんたはもう楽しそうに飲んでるじゃないか」

「いやいや、これからもっと楽しく飲める、という話さ。そうだエギル君。会計は全て私が持つから、君も好きなように飲むといい。他の方にも伝えてくれ」

「えっ、いいのか?」

「あぁ。本当に今日は、気分がいいんだ」

 

 こういう日は、喜びを分かち合うに限る。

 私の言葉通りエギル君がメンバー全員へ通達し、店中が歓喜の声で溢れた。

 その声を聴きながら、私は次の世界に必要なデータを考えつつ、お酒を飲むのであった。

 本当に、今日はお酒が特別に感じる。

 

 

 テニヌプレイヤーは今日も何処かでテニスをする。

 

「さぁ、どんどん行くぜ?」




一端物語は完結になりますが、新テニスの王子様のようにもうちょっと続くのじゃ。
具体的にはアンダーワールドで暴れさせたい。
次回も別の仮想現実で暴れます。

次のテニヌは何処から始める?

  • ガンゲイル・オンラインで試合
  • ユウキたちとの試合
  • オーディナルスケールで試合
  • アンダーワールド(幼年期)で試合
  • アンダーワールド(整合騎士)と試合
  • アンダーワールド(暗黒騎士団)と試合
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