機動戦士ガンダムSEED レユニオン・アルカディア 作:虚無の魔術師
────声が聞こえる。
『何度言えば分かるの!?あの子達は生きているのよ!』
『分かっている!だからこそ、やらなければいけないんだ!』
朧気に浮かぶ光景、それは男女が言い合うものだった。白い服を纏う二人は激しい勢いで叫んでいた。厳密には、男性の方が宥めるような言い方で、女性が感情的に訴えていたのだが。
会話の内容は少ししか分からない。それは、いつもと同じだった。いつも同じ場面を見て、いつも同じ言葉を聞く。
『────待っていろ、■■■。必ず成功させてみせるからな』
物優しそうな、男性の笑顔。その光景が、夢から覚める時に見る最後の記憶であった。
「…………ン」
そして、彼はようやく覚醒した。
マトモに開かない瞼を擦り、大きな欠伸を漏らす。身体を伸ばした青年は、壁に当たったことで自分の居る場所を思い出す。
「あー、眠………今何時?」
欠伸を噛み殺し、青年はふと目の前の装置に手を添える。軽く操作すると、周囲の明かりがつく。辺りの景色を映し出すモニターに囲まれた操縦席、そこで寝ていた青年はふと通信を起動させる。
「はぁ~い、此方 フレスベルク。何用ですかぁ?」
『────遅い!何をしていた!?フレスベルク少佐!』
とろけた声で回線を開くと、聞き覚えのある怒声が鼓膜を突き破るかの如く響いてきた。自分が所属する新型戦艦の艦長を務める人物であり、一応上司である男だ。
言い訳を許さない剣幕を感じ取るが、未だ眠気が抜けない青年は呑気な声で口を開く。
「いやぁ、すみません艦長ぉ〜。ちょっと『ブレイド』の中で寝てたんですけど、今起きたトコですんでぇ」
『………!「ブレイド」の中だと!? なら、「ブレイド」だけは無事だな!今だけは貴様のだらしなさを有り難く思う!』
「そっすけど、何か問題が?」
不思議そうに問い掛けると、艦長の男は忌々しそうに歯噛みした後に、吐き捨てるように叫ぶ。
『ザフトの襲撃だ!奴等、他の新型を強奪するつもりだ!』
「………強奪って、バレてんじゃん。早く集めたパイロット乗せないと駄目じゃないスか?」
『……………テストパイロットは死んだ。全員な』
「────え、マジぃ………?」
流石に笑ってられる事態ではないと、青年も理解し始めた。今になってようやく、周りから爆発の音が響いてくることに気付く。寝ている間に外では襲撃が起きていたらしい。我ながら、随分と呑気なものだ、と肩を竦めてしまう。
『良いか!フレスベルク少佐!貴様は今すぐ前に出て、ザフトのMSを撃破しろ!絶対奴等に新型を────』
直後、艦長の声は爆音に飲まれて途切れる。
僅かに沈黙した青年は、深い溜め息を吐き出す。恐らくというより、間違いなく死んだ。敵の流れ弾を受けてまとめて吹き飛んだのだろう。
「グダグダじゃぁん。なぁにが、完璧な手筈だよ…………オレは寝てるだけで大丈夫って言ったのに」
自分を派遣したであろう上司より上のお偉いさんの言葉を思い出し、青年はそう愚痴を漏らす。だが、ここで言っても仕方ないと再認識する。深い溜め息の後に、青年は操縦席で姿勢を正し、指を鳴らす。
「ま、仕方ない。軍人としてのお仕事、始めますか」
────ヘリオポリス 格納庫付近
《ふん、大したことのない………ナチュラルどもの新型と期待してみれば、こうも簡単に済むとは》
《確か新型はクルーゼ隊の赤服が接収するんだったか?もし余ったら俺達も貰えるかね》
《無理だろうさ。例の新型は六機、エリート様の赤服は5人だが「黄昏の魔弾」もいる。俺達にゃあ夢の話だ》
地上で抗う兵士や戦車を破壊し、堂々と歩いていく巨大なヒト型兵器────
近くで避難する、ヘリオポリスの民間人を気にする素振りもなく。それは、彼等の意識が別の物に向いていたからだろう。
《…………?この格納庫、何かいるのか?》
《どうした?》
《いや、この格納庫に何か熱源が────》
直後、格納庫に近付いたジンの頭部が吹き飛ぶ。シェルターの内側から伸びた鋼鉄の塊が、シェルターごとジンの頭部を潰したのだ。
《な────》
メインカメラを破壊され、よろけるジンの胴体に鉄の塊が押し当てられる。ガガガガガッ!!と炸裂した音と共に、ジンの胸に風穴が開けられ、コクピットが抉られる。
転倒したジンを前にした、シェルターから手が伸びる。無理矢理鋼の壁を引き裂いたそれはゆっくりと、外部へと姿を現した。
《な、何だお前はァ────!!》
味方がやられたことに錯乱したジンが突撃銃を乱射する。ヒト型のMSはその銃弾に傷一つ受けない。それどころか、平然と顔を動かし、ジンを睨むように身体を向ける。
────二つの眼光の、ヒト型。見覚えのあるそのシルエットと姿に、ジンを操るパイロットは震えた声で漏らす。
《ま、まさか…………新型────!?》
恐怖の余り、悲鳴を上げて背を向けるジン。そんなジンを、ヒト型のMSは逃さない。ズン、と踏み込み、背中の備えていた大型のブレードで背後からたたっ斬る────!
真っ二つに両断され、爆裂するジン。本来であれば、大型兵器であるMSが真っ二つにされるなど有り得ない光景だ。だが、それを為したのはザフトが強奪しようとした『新型』、その一機。
「────『ブレイドガンダム』、レオ・フレスベルク。これより敵を殲滅する」
大型のブレードと同じような大型の盾を装備した重装甲のMS。新型の名を冠するそのモビルスーツは、燃え盛る爆炎の中を突き進む。此方に気付いたであろうザフトのジンに狙いを定め、前進を始めるのだった。
◇◆◇
《クッ!なんだコイツは!》
《コイツ、まさか取り逃した新型かよ!?》
────地球連合軍の新型機動兵器を強奪した三人のザフトのパイロット達。彼等がそれに気づいたのは、地球連合軍の相手をしていたジンが撃墜されていっている事実の直後だった。
何とか突っ込もうとするジンをコクピットごと切り捨て、建物に身を隠した機体を建物ごと刺し貫く。仲間の悲鳴を受け、新型を操るザフトの若い兵士達は青ざめながらも機体を操る。
《対艦刀に大型のシールド………まさか、隊長が警戒していた………!》
《『ブレイド』………!パイロットは、話に聞いていた連合のエースか!》
GAT-X 104 『ブレイド』。『剣』と『刃』の名を冠するそのモビルスーツはMSとしての白兵戦に特化した機体である。全身を追加装甲で覆っただけではなく、ビーム兵器や実弾への耐性を持つ大型シールドも装備したことで防御力を格段と飛躍させていた。
だが、鎧や盾を身に着けているにも関わらず、動きはザフトが鹵獲した三機────『デュエル』、『バスター』、『ブリッツ』よりも素早い。スラスターの数はその三機よりも多く、近接戦に於いては『ブレイド』の方が一段上である証拠であった。
《どうした? 動きがノロイぜ────隙だらけだ!》
何より、『ブレイド』を操る青年────レオ・フレスベルクは地球連合でも類を見ない天才であった。連合でも数少ないMSを、容易く操作できた逸材。試作型であった『ブレイド』を駆り、実践でも成果を示した彼の実力はついさっき乗ったばかりである三人は兎も角────ザフトのジンではマトモに相手にならない。
突如盾を構えた『ブレイド』、シールドに内蔵された大型機関銃が火を吹き、薙ぎ払う。撃ち込まれた弾丸の雨は『ブレイド』を囲もうとしたジンの手足を吹き飛ばし、爆裂させた。
《────そこの三機のパイロットに告ぐ》
半数のジンが撃墜され、立ち尽くすザフト勢。そんな彼等を睥睨した『ブレイド』から余裕に満ちた声が、通信越しに響く。
《死にたくなきゃ機体を捨てな。大人しく尻尾巻いて逃げるんなら見逃してやるぜ》
《────ッ!馬鹿にしやがって!》
《忠告はしたよ────途中からの命乞いは聞かないから》
気さくな声から一転、無機質なものへと変わる声。
此方を殺す気で来る、そう判断した三人を含めた全員が身構えていると────『ブレイド』の背後から閃光が煌めく。
「ッ!イージスもかぁ!」
『ブレイド』を操るレオの目の先にあるのは、手のような形から一転してヒト型へと変形してきた真紅のMS────GAT-Xシリーズの一機、『イージス』である。隊長機として扱われるはずのその機体すら奪われていたことに、レオは舌打ちを隠せない。
四機同時の相手は流石に厳しいと彼が考えていたのも束の間。
「…………撤退する気か?」
此方を睨みながら、『イージス』や『デュエル』等が距離を取る。このまま逃がすのも命令に反する、一か八か一機でも潰しに掛かるべきか、そう決断した直後────
《────そこのモビルスーツ、応答せよ》
「………アークエンジェル? 船は無事だったのか」
てっきり艦長と共に潰れてたと思ったが、運の良い事だ。視線を向けると、ヘリオポリスの付近に大型艦が残留していて。自分が配属され、今日から乗り込むはずだった戦艦『アークエンジェル』。その戦艦からの通信に、レオは応じる。
《此方、応答した。失礼ながら貴官の所属を問いたい》
《────私は、第五特務師団所属 ナタル・バジルール少尉。貴官は?》
《第一機動艦所属 レオ・フレスベルク少佐。地球軍の開発した新型GAT-X104 『ブレイド』の正式パイロットです》
《フレスベルク………!?まさか、『獅子王の剣』か?》
《んー、まぁ………間違いじゃないっすね》
弾んだその声は、明らかな期待と歓喜が込められていた。
無理もない、客観的に見れば自分は連合内でも凄腕のエースとして数えられている。そんなエースが居ると分かれば、彼等の安心感も相当なものだろう。
《ひとまず、此方に合流してもらいたい。貴官がいれば心強い限りだ》
《そうさせて貰いますよ………ふぁわ〜》
通信を切ってから、ようやく深い欠伸を吐き出す。
眠そうに目を擦りながら、レオは自身の駆る『ブレイドガンダム』と共に、アークエンジェルへと着艦するのだった。
◇◆◇
「────君、コーディネーターだろ?」
アークエンジェルの格納庫にて、一人の男性の問い掛けによって空気が一瞬で切り替わった。そう問われ、表情を硬くした少年に対し周囲の兵士が銃を構え、同行していた他の少年が、庇うように前に出た。
「な、なんなんだよ!コーディネーターでも、キラは敵じゃねぇよ!さっきの見てなかったのか! どういう頭してんだよ、お前らは!」
恐らく、友人であろう少年の言葉に兵士たちの態度が軟化することはなかった。銃を身構えた彼等の態度に、問い掛けた男も難色を示したのか声を掛けようとした、瞬間。
「────銃を下ろしなよ、子供相手にみっともない」
そんな声が、上から聞こえる。先程この艦に着艦したばかりのモビルスーツ。少し前に、ストライクというモビルスーツを動かしたキラは、その機体がストライクと似たものであることを確信していた。
鎮座した重厚な騎士の見た目をしたモビルスーツのコクピットから、とある青年が降りてくる。特殊なパイロットスーツを身に着けたその青年は、ヘルメットを外し────肩まで伸びた金髪を払った。
「ふぅ…………ここがアークエンジェルか。まぁ、空気は良いんじゃないかな。後は寝心地の良いベッドがあれば文句は無いけど………」
「れ、レオ・フレスベルク………!あの、『獅子王の剣』じゃないか!」
「知ってるの?サイ」
「ああ、連合が誇る最強のエースパイロットだ!単身で基地を占拠したザフト軍を壊滅させたって噂の!」
彼の名を表すのは、かつて宇宙で起きたある戦い。前線基地の一つをザフトが配備したジンにより制圧された。敗戦一色であった現場を変えたのが、その場に居たレオである。
一瞬の隙を突き、強奪したジンを何とか操り、その場に居たザフト軍を返り討ちにした。その後、新型の試作機を預けられたレオは獅子奮迅の活躍を示し、遂には連合最強のエースとして連合の兵士たちからは称賛と敬意を向けられ、対してザフトには畏怖を集めた。
「それより、何してるワケ?オレ、下ろせって言ったはずだけど」
「で、ですが、彼は………」
「コーディネーター、ってだけでしょ? 君達を助けてくれた相手じゃん。それなのに敵意なんか向けるなんて、恩知らずって言われても仕方ないよ…………ほら、分かったら下がりなって」
呆れながらも、そう促したレオの言葉に渋々といった様子で兵士たちが銃を下ろして離れていく。立場としては上官、連合の英雄の言葉を無視できず、仕方がないといったところか。
当の本人は退屈そうに彼等を見届けると、同じように肩を竦めていた男を見据えた。
「ムウさんも、余計なことを言わないで。他の奴等が殺気立ってるのも分かるでしょ?」
「いやぁ、悪い。俺も純粋に気になっただけなんだ。別にコーディネーターだからって、どうもする気はないさ」
「はぁ………俺よりも『年上』なんだから、もっとちゃんとして欲しいねー」
「年のことを強調するんじゃないの!………全く」
親しげに話すムウと呼ばれる男性とレオ。当のムウは年齢のことでイジるレオに呆れたように息を吐いているが、慣れたことであるらしい。
そんな最中、レオの目がふと戸惑っていたキラと呼ばれていた少年を捉えた。そのまま近付き、警戒する様子も気にせず、語りかけ始めた。
「やっ、君があのストライクを動かした学生?」
「は、はい…………」
「へぇ、凄いじゃん。アレのOSを書き替えて、そのまま戦闘なんて、オレにも出来るかどうかってものだし。まぁ一番凄いのは、『ストライク』を守り切ったことだね」
そう言って肩を叩いたレオは、キラの顔を間近で見た瞬間、目を見開いた。ぽかんと、キラを見つめたレオの様子の変化に戸惑う中、レオはある疑問を口にするのだった。
「………君、名前は?」
「キラ、キラ・ヤマトです…………」
「────そっか、じゃあキラって呼ぶけどいいかな。オレのことは、まぁ好きに呼んでいいよ、君達もね────ふわぁ………そんじゃ、オレ少し寝てくるか」
すぐに先の調子に戻ったレオであったが、すぐに大きな欠伸を零した。眠そうに目を擦ったレオはそう口にして立ち去ろうとして、ムウに呼び止められた。
「オイオイ、戦った後なのに眠いなんて………少尉から呼び出されるだろうが、良いのかい?」
「でも、オレちょっと頭使いすぎたんですね………仮眠で十分取ってくるから、そう伝えといてくれます?」
「分かったよ………ったく、どう説明するべきかねぇ」
「ふわぁ〜、そんじゃおやすみ〜」
周囲の目など気にせず、連合最強のパイロットは船の中へと進んでいった。少しでも頭を休め、眠れるようにするために。
レオ・フレスベルグ
とある団体の幹部でもある一族、フレスベルグ家出身のエースパイロット。試作機としていち早く開発された『ブレイド』を重宝しており、何度もザフトの軍勢を退けている。
本人の実力はトップクラスだが、致命的な欠点としてモビルスーツでの戦闘をした場合、脳が疲弊する為休憩を要する。その為、戦闘中であっても眠気を漏らすこともしばしば。
『ブレイド』
GAT-X 104、機体名のコンセプトは『剣刃』。第一期GTA-Xシリーズでは3号機になるが、運用されたのは他の機体よりも早い。
多数の敵との戦闘及びモビルスーツとの接近戦を想定して開発されており、本機最大の特徴は全身を覆う堅牢な強化装甲とビーム兵器を防ぐ複合武装シールド『アンタレス』であり、攻守一体の機体である。
この強化装甲はオーブからの技術を使用されたものであり、ビーム兵器や実弾への強い耐久性を持つ。装甲の増強によりスピードが低下するという問題点が懸念されたが、大型スラスターやサブスラスターを複数搭載したことで低速問題を解決したところか、今までよりも機敏になった。
武装
75mm対空自動バルカン砲塔システム「イーゲルシュテルン」
ストライクにも搭載されているバルカン砲。頭部を覆う追加装甲にも増設されており、ストライクより弾切れの心配性は落ち着いている。
『ビームサーベル』
ストライカーパックにも取り付けられている武装。ブレイドは腰に二つ装備している。対艦刀を触れない状況での際、使用される。
対艦刀『シュベルトゲーベル』
ストライカーパックにも取り付けられている武装。両肩に二本マウントしており、状況に応じて運用できる。モビルスーツ戦で良く使用することが多い。
ビームブーメラン『マイダスメッサー』
同じくストライカーパックにも取り付けられている武装。シールドに格納しており、射出することで相手を切り刻む。格納数は四つ。
ロケットアンカー『ランツァアイゼン』
同じくストライカーパックにも取り付けられている武装。本機の場合は右腕部に装着されている。
複合武装シールド『アンタレス』
ブレイド限定の主要武装。大型機関銃二門や小型ミサイルなどを内蔵しており、防御しながら相手への攻撃を行うことを想定した装備。シールドの下部に大型テールランスを内蔵しており、射出することで敵機を貫通して破壊する。