機動戦士ガンダムSEED レユニオン・アルカディア 作:虚無の魔術師
「────【死神】、それがアルテミスを落とした敵なの?」
「そっすね。奴本人がそう言ってました、実力的にも嘘じゃないと思います」
アークエンジェルの医務室で、僅かに体を打ち付けたレオは応急治療を終えた後に、マリュー達に報告をした。アルテミスの傘を撃ち抜き、要塞を攻撃し、自分達を狙った謎のモビルスーツ『死神』なる存在を。
「【死神】、ね。俺達を狙ってるってことは、クルーゼ隊ごと潰すのが狙いかねぇ」
「………どういうことですか?」
「【死神】には連合もザフトも関係ない。まとめて殺して、何もかも壊していく。それこそ、奴が介入した戦いで生き残った者は居ても、そこには敗者しか居ない。奴だけが、勝利者って訳さ」
【エンデュミオンの鷹】と呼ばれたエースのムウですら、【死神】の存在には怪訝気味であった。どうせ連合が自分達の敗北を隠すために作った噂に過ぎないのだろうと。
だが、【死神】は実在した。その噂が現実であったことを悟った一同の中で、ムウがふと語り出した。
「………もしかしたら、あの話も嘘じゃないのかもな」
「あの話とは何です?」
「ほら、少佐の相手した【死神】の機体見ただろ。アレ、俺達で言う天使のソレだろ?」
レオが乗っていた『ブレイド』の戦闘データに記録されていた、銀のモビルスーツ。ザフトのようなモノアイ式でもなく、連合の開発したG兵器とも違う、全く別種の兵器。しかしその姿は、誰もが天使のようだと言うであろう。
だからこそ、ムウはその噂が真実である可能性を、戯言であると理解しながら口にした。
「────【死神】は、神様の使いじゃないかって話さ。前に居た軍部の奴らも噂してたぜ。何時までも争い合う人類に怒った神様が、俺達を見定めようとしてるってな」
「………ッ!フラガ大尉!ふざけないで頂きたい!」
その発言に、遂に食い掛かるように声を荒らげるナタル。しかし当のムウはいつものように笑って謝るのではなく、真剣な顔のまま答えた。
「ふざけてないさ、連合にもザフトにも属さないモビルスーツ、それも新型のストライクやブレイドよりも高性能だって知れば、もしかしてと思うでしょ。まぁ、俺もただの作り話だと思うさ…………思いたいくらいだ」
「ザフトの機体でないと、何故言い切れるのかしら?」
「だとしたら、俺たちはこうしてないさ。クルーゼと一緒に追い込まれて、ズドン!………って、なってるはずだ。レオも、そう思うだろ?」
「ああ………奴はあの時、『イージス』をも巻き込んで攻撃した。ザフトの人間であるのなら、四機しかないGを巻き込むはずがない。明らかな、愚策だからな」
怪訝そうなナタルとは対照的に、レオとムウはそう確信していた。実際に接敵したからこそ、クルーゼと何度も殺し合ったからこそ、その可能性は無いと断言できる。
これ以上は不毛と判断したマリューは静かに一息漏らすと、三人に語りかけた。
「【死神】の件は一先ず置いておきましょう。今、我々の方針としては、連合の艦隊との合流になります────けれど、その前に一つ。問題があるわ」
「物資と水か。アルテミスから抜ける際も、大して補給できなかったですしね。ったく、あのクソボケ少将め………もっとボコボコしてやるんだった」
アルテミスから抜け出す際、自分達を拘留したガルシア少将たちを鎮圧した時を思い出したレオは、少将の顔面をフルスイングでぶち抜いただけでは済まない、と息巻く。
いつものようなマイペースな雰囲気を取り戻したレオは、ふと問い掛けた。
「………それで?皆さんの様子からして、何かアテがあるんすか?」
「…………少佐には離してなかったけど、物資と水が残されている場所が近くにあるの。キラ君とレオ少佐には、そこへの物資の回収に出て貰う必要があるわ」
「んで?その場所ってのは?」
「────ユニウスセブン」
その名前をマリューの口から聞いた途端、流石のレオも顔をしかめるのだった。何故ならそこは、この大戦の始まりとなった遠因とも言える場所────多くの一般人の生命を奪った、大惨劇の跡地なのだから。
◇◆◇
《よし、んじゃ一緒に行こうぜ、キラ。ユニウスセブンに近付いたら、別行動。それまでは後ろに着いててくれよ》
《はい、分かりました》
《良い返事、もっと声を張れるようにしたらモテモテだね》
アークエンジェルから出た『ブレイド』と『ストライク』の二機が静かに動く。目の前に浮かぶ無数のデブリを退け、ユニウスセブンのコロニーの残骸の元へと進んでいく。
周囲の警戒に全力を尽くしたレオの『ブレイド』が先行する中、追随していた『ストライク』を操るキラが通信を繋げた。そこからポツリ、と呟くように言葉を漏らした。
《レオさん………やっぱり、納得は出来ません》
《………キラ》
《だってそうでしょう!?ユニウスセブンは、あそこは何十万人も亡くなった場所じゃないですか!あそこしか資源が無いからって、こんなの…………!》
このユニウスセブンは、多くの生命が途絶えた居場所であり、一つの悪意が引き起こした大虐殺の有り様である。
大戦の開始直後、ザフトのMSに大敗を喫した連合であったが、一部の将官が独断で持ち出した核兵器を農業用プラントであったユニウスセブンへと撃ち込み、そこに住んでいた一般人数十万人を容易く虐殺した悪魔の惨劇────『血のバレンタイン』事件。
この事件はザフトや、プラントに住むコーディネーター達の心に強い怒りと憎しみを残した。この惨劇を連合が自作自演と唱えたことで、その報復として『ニュートロンジャマー』を打ち込まれたことで、地球上の人類の多くが死に絶え、連合とザフトの間に、断裂を残すほどのことになったのだ。
このユニウスセブンの残骸は、連合にとっても罪の証明である。凝り固まった過激思想の者を除けば、連合はここに立ち入ることは滅多にない。────コーディネーター憎しと唱える者であっても、この件に関しては同情を禁じ得ないとされている。ここは墓場であり、多くの人々が死に絶えた無念に満ちた残痕であるのだ。
故に、キラの抵抗は激しかった。
ユニウスセブンの残骸に残された資源は豊富である。元々居住用のプラントにある資源や水は、あの惨劇の時からずっと残されている。それを回収するのは、墓暴きにも等しいと思う彼からすれば、嫌悪感は尋常ではないはずだ。
《きっと、キラの考えが正しい。いや、むしろそれが普通なんだ、当たり前のことなんだろう》
《なら………!》
《でも、あそこの資源を貰わなきゃオレ達は死ぬだろうね。オレやキラだけじゃない、あの艦にいる皆が苦しむことになる》
それはそうだ。だからこそ、キラは乗り気ではなくとも、レオに着いてきたのだ。本心では納得しきれずとも、そうしなければならないという自分も確かに居た。
歯噛みするキラに、レオは肩を竦めて軽く笑う。
《ま、オレは言い訳なんてするつもりはないし、正当化するつもりはない。オレ達はまた一つ、業を背負うだけの話さ。だが、それが人間ってもんだろ?》
《レオさん………》
《この事が間違ってる、悪いことだと思うなら、それでいい。それを忘れずに、間違ってると思える心があるのなら、大丈夫だ。その分、誰かを守って助ければいい。これが間違いだと、思うんなら────それが答えにもなるんじゃないか》
今だけは我慢して欲しい、ただそう思えるキラの心は大切なものだ。それだけは忘れてならないし、今回の事を正当化してはいけない。自分達のやるべきことを受け入れた上で、無理に背負いすぎるな、とレオは端的に言ったのだ。
《レオさん………少し、聞いていいですか》
《んー、何?》
《────レオさんのお父さんって、ブルーコスモスなんですよね》
一瞬、顔を引き攣らせたレオは、失言をしたと後悔するキラの様子を察し、穏やかに答えた。
《安心して、親父はコーディネーターアンチじゃないよ。まぁ、コーディネーターもナチュラルなんて気にしてない………人類を見放した人さ》
《人類を、見放した………?》
《ほら、『血のバレンタイン』とか『エイプリル・フール・クライシス』とか、色々嫌なものを見たらしくてね。元々はコーディネーターとか差別はしない人だったんだけど、他人が嫌いになって隠居したんだよ。オレがこんな感じになったのも、親父の遺伝かもしれないなー》
そう言って笑うレオは、隠居した父親の事を思い出す。
父親は何もかもが嫌になり、全てを捨てて屋敷に閉じ籠もった。逃げたという者がいるであろうが、レオはそうとは思えない。父は、耐えられなかったのだ。戦争の狂気に、命の奪い合いを繰り返す人類の業に。
慎ましく、誰も区別せず、平等を見据えていた父の心を殺したのは、連合でもありザフトでもあり、この世界の人間の罪深さなのだ。
《ここにも多くの人が住んでいた。それを奪ったのは、連合の人間だ。それにザフトは報復した、犠牲になったのはユニウスセブンに核を撃ち込んだ人間じゃない────どちらの事件も、巻き込まれた全く無関係の人達だ》
彼等はきっと、自分の正しさを信じてソレを実行したのだろう。そして、今も正しいと代表者たちが厚顔を晒した上で宣言している。自分達が殺した相手が、手を汚したこともなく────日常を謳歌していただけの、民間人ばかりであると、自覚すらしていないのだろう。
《核を撃ち込んだ将官は、ニュートロンジャマーを落としたプラントの議員達は、殺された同胞達の事を想っても、殺した人々の事は想ってないのかもしれない。自分達はやられたから、やり返してもいい。そうやって繰り返して殺し合う────怒りに酔った、獣のように》
《…………獣》
《オレ達は、罪を自覚しなきゃいけない。命を奪うことを、慣れてはいけない。オレ達は人間だ。弱肉強食を是とする、怒りのままに命を貪る、獣で在ってはならないんだ》
悪いことだと自覚し、迷うからこそヒトは人であるのだ。それを忘れ、自分が正しいと信じて相手を殺すことしか考えない者は、最早人ではない。怒りに蝕まれ、人間であることを捨てた獣だ。そうなる者が少なからずいるからこそ、自分達はそうなってはならない。人間として、迷いながら歩んでいかなければならない。
そう言い終えた時には、キラは何も言わなかった。レオとしては自分の思うところを語っただけだが、キラにとっては無意味な話ではなかったのだろう。別れる際にキラが口にした返事には、先程までの抵抗感はあれど、拒絶した雰囲気はなかった。
◇◆◇
ユニウスセブン残骸付近を捜索していたレオは、資源の回収を続けていた所で、妙なものを見つけた。
《…………これは》
それは、地球連合所属の軍艦であった。
撃沈されたであろうそれは、見たこともない破損を負っている。周囲に浮かぶ連合のモビルアーマー────メビウスは色んな状態で損壊していた。
或るモノはグシャグシャにひしゃげており、或るモノはコクピットを引き千切られており、或るモノは機体ごと焼き尽くされた黒焦げになっていた。軍艦ですら、何か巨大なモノに押し潰されたように捻れ、艦橋の破壊痕は────何故だか噛み砕かれたように見えた。
《────此方、『ブレイド』。アークエンジェル、応答せよ》
《此方アークエンジェル!………レオ少佐、どうしました!?》
アークエンジェルへの通信に応じてくれたのは、最近CICになることを望んだミリアリアであった。キラ一人を戦わせることに思うところがあったのだろう、少し前に志願した彼女は恋人のトールやサイやカズと共にアークエンジェルのクルーとして尽力することを選んだのだ。
《ラミアス艦長に伝えてくれ………連合の艦を確認した。撃沈された様子から見て、つい先刻だ。近くに敵が居る可能性がある》
《っ!分かりました!回線を切り替えますので!》
息を呑んだミリアリアが迅速に動き、通信が艦橋内のものへと切り替わる。モニタリングされた惨状を目の当たりにしたアークエンジェルの艦橋に沈黙が響く中、いち早く自身を落ち着かせたマリューが問い掛けた。
《フレスベルグ少佐、撃沈した軍艦に生存者は?》
《…………絶望的だ。メビウスのパイロットも、確殺している────いや、艦橋の設備が一部無事だ。撃破された時の記録が無いか探ってみる》
《…………許可します。敵が付近に居る可能性は考慮するように》
破損した軍艦を掴み 、コロニーの残骸に隠れるように運ぶ『ブレイド』。そこから降りたレオは壊滅した軍艦の艦橋へと入り込み、その中の設備を弄り始める。見た通り、ブラックボックスは所々に損傷はあるが、メインの部分は無事であり、記録の再生は可能だ。
《………撃破されたのは数時間前、か。よし、再生するぞ》
そうして録音を再生させると、途切れ途切れの会話が聞こえてきた。
『────ザフト………艦………!』
『────我………要求────クライン………わたせ』
《……………?ザフトと衝突したのか?だが、周りには何もない。全滅させられたのか》
ザフトの攻撃部隊に襲われ、蹂躙されたのかと思うレオ。しかし、何処か違和感が拭えない。艦橋に響き渡る声は高圧的であり、相手を下に見たような雰囲気が拭えない。何より、何かを要求しているような言葉が、所々に漏れている。
怪訝そうであったレオは、次の録音を聞いて────相手がザフトではないことを察した。
『────な、なん………この、怪物────!』
『メビウス、部隊………全滅────敵………急接近』
『ッ!ザフトの艦────逃がすな!あの『歌姫』さえ捕らえれば────ッ!?ば、化けも────』
恐慌に満ちた悲鳴と絶叫の中、司令官と思わしき断末魔は破壊音に巻き込まれて消えた。ふとモニターに浮かび上がったのは、艦橋から照らされた光景を記録した録画であった。画面を引き裂くようなノイズの中、写し出されたのは────光を放つ巨大な影。
《…………これが、この軍艦を墜とした奴か?だが、これは………》
────モビルスーツなのか、とレオは零した。
砂嵐の中で浮かんだ影は、モビルスーツ特有のヒト型ではなく、蛇────いや、竜に見えた。最後の攻撃はビーム兵器だと思うが、この軍艦を破壊し尽くすほどの威力は相当である。
だが、司令官の最期の言葉に気になる単語が聞こえた気がした。
《『歌姫』………?いや、まさかとは思うが────》
そこまで詰まった所で、答えを出そうとしたレオの元にアークエンジェルからの通信が届いた。
《────フレスベルグ少佐!先程、ストライクが偵察兵のジンを撃墜した!付近にザフトの艦があると思われる!急ぎ戻ってきて欲しい!》
《…………っ!了解した!すぐ戻る!》
報告を聞くや否や、すぐさま『ブレイド』のコクピットに戻るレオ。付近にいる敵に襲われる可能性を考慮したわけではない。それ以上に、レオにとってはある事実が気に掛かっていた。
《────キラ………!》
◇◆◇
「キラ………大丈夫か?」
「………はい。僕は、大丈夫です………レオさん」
とてもだが、そうには見えない。アークエンジェルの格納庫に戻ったレオは急いでストライクのコクピットを覗き、そう答えを返すキラを目にした。
彼の顔は、ほんの少しだが青く、小刻みに震えている。気丈に振る舞おうとしている少年の姿に、レオは言葉を失いながらも、拳を握り締めることしか出来なかった。
(分かってはいたが………流石に応えるなぁ)
キラは偵察型ジンを撃墜したという。今までマトモに戦闘したことはあれど、敵を撃墜したことは一度もなかった。つまり、キラは始めて人を殺したのだ。自分自身の意志で。
最初、キラがストライクに乗らないと宣言した時、レオはそれを肯定した。それは人を殺す必要性がないからであり、キラのような優しい少年に、人殺しという咎を背負わせたくはなかった。
「…………オレからとやかく言うことはないが、あんまり背負いすぎるなよ。慣れないように、少しずつ向き合うんだ」
「………はい」
偉そうなことを宣っておいて、そんなことしか言えない自分に腹が立つ。キラと共に降りたレオ、二人を出迎えたのは半ば呆れた様子のナタル達であった。
「つくづく君達は落とし物を拾うのが好きなようだな」
「…………はい」
「そう?オレ的にはアリだと思うよ。落とし物を拾うのは立派なことだし、人助けが駄目って訳でもないでしょ?」
返す言葉もなく項垂れるキラを、いつもの調子で庇うレオ。そんな彼等の視線の先には、帰還する際にストライクが回収した救命ポッドがあった。
話によると、付近には撃墜されたプラントの民間船が漂っていたらしい。恐らく、救命ポッドはプラントのもの。開閉して中にいる人物を救うことになったわけだが、クルー達の空気には緊張が漂っている。一応敵であるプラント側なのだから、それは当然と言うべきか。
マードックがハッチを開けようとした所で、不意にハッチが開かれる。身構えた連合の兵士達の前に、何かが飛び出してきた。
『ハロ、ハロー。ラクス、ハロー』
「ありがとう、ご苦労さまです」
機械的な声を発した球体型のロボ。可愛らしい見た目をしたソレは転がっていき、ポッドから出てきた少女がロボを追う。綺麗な桃色の長髪と透き通ったような瞳が目立つ、おっとりとした雰囲気の漂う少女だった。ふらついた少女の近くに居たキラが、咄嗟に彼女を受け止める。
「………君は?」
「…………あら、ありがとうございます。失礼ですが、ここはザフトの艦ではありませんのね」
「ちょっと!ラクス様!」
世間離れしたのか、不思議そうに首を傾げた少女。しかし、次の瞬間、慌てたような声がポッドの中から響いてきた。すぐさま出てきたのは紫色の髪をした少年であった。中性的な見た目ながらも、何処か幼い少年のような雰囲気が目立つ────服装からして、たぶん少年で違いはないだろう。
「勝手に飛び出して、駄目じゃないですか!こういう時は僕が先に出るって言ったのに!ラクス様に万が一があったらどうするんです!」
「あらあら、そう怒らないでくださいまし。テオは先走って無茶をしてしまいますから、こういう時こそわたくしに任せて良いのですよ?」
「ん、んもぉー!僕はラクス様の護衛なんですよ!?弟みたいに扱われるのは嬉しいですけど、公然では控えてください!護衛が心配されてちゃ、意味ないでしょお!?」
プンスカと憤慨する少年であったが、ラクスと呼ばれた少女はクスリと笑って嗜める。対する少年は怒っているのか泣いているのか分からない様子でラクスへと詰め寄るが、見た目からして覇気が感じられない。それが可愛らしいと思うのか微笑むラクスは少年の説教が届いてる様子はない。
キラやレオも、殆どのクルーがそんな空気に戸惑うしかなかった。そんな最中、銃を構えていた兵士がハッと正気に戻ったのか、慌てたようにラクスに銃を向けた。
その瞬間、可愛らしい雰囲気を漂わせていた少年から殺気が漏れたことに気付いたレオは咄嗟にクルーを止めようとするが、遅かった。
────誰よりも早く、少年がクルーの手にしていた銃を掴み、そのまま引き寄せる。引き金に掛けられた指を押さえながらクルーの手を打ち、彼を地面に叩きつけた。そのまま銃を奪い取った少年は、機械的な程無機質な顔で吐き捨てる。
「────誰に銃を向けている。部を弁えろ、愚か者」
銃を奪われたことにクルー達も慌てて銃口を向ける。しかし、少年は複数の銃口に怯えることなく、逆に銃を向けて威嚇するように構えていた。
激しい緊張が、空気を支配する。何時でも殺し合いになりかねない状況であったが、それを止めたのは他ならぬラクスと呼ばれた少女であった。
「────お止めなさい、テオ」
「………申し訳ありません、ラクス様」
少女の制止に対し、テオと呼ばれた少年は大人しく引き下がった。手にした銃を下げはするが、手放さない様子からして警戒を捨てたわけでは無いのであろう。
「テオが失礼しましたわ。ただ、悪く思わないで下さい。テオはわたくしを守ろうとしてくれただけですので………」
「えぇ、こちらこそ申し訳ありません。一つお伺いしたいのですが、貴女は…………」
ラクスと言う名前を、この場にいる全員が知っている。もし、その通りであったとすれば、彼女はザフトの人間ではなくとも、プラントの重要人物であることは確かだ。
半信半疑であったレオ達の疑惑は、少女自身の名乗りによって明らかになった。
「わたくしはラクス・クラインと申します。皆様にはお世話になりますわ」
「僕は、テオ・エスタール。ラクス様の護衛もとい側近です。よろしく以前に、ラクス様に危害を加えるのであれば一切の容赦はしませんので」
ラクス・クライン。
彼女はプラントで知らぬ者はいない歌姫であり、平和の象徴。連合と対立するプランに於いて穏健派のトップであり、プラント最高評議会の議長 シーゲル・クラインの実娘。プラントにとって、重要な一人の少女がレイたちの前にいるのだった。
テオ・エスタール
ラクス・クラインの護衛を務める少年。ラクス・クラインの母親に拾われ、彼女の護衛となるよう育てられ、共に過ごしてきた経緯を持つ。当のラクスとの関係は良好で家族同然(ラクスからは弟として見られている)に思われており、テオ本人は表では否定しているが心中では嬉しく思っている。
いつもは子供らしく、ラクスの護衛として振る舞おうとしているが、上手くやりきれていない。ラクスの安全を第一としており、彼女に危害が加わると感じた時には、冷徹なまでに相手を排除しようとする。