「お姉ちゃん!凄いよ!周りの景色が凄い速さで変わっているよ!」「・・・」
俺がトライドロンに乗せてから十分。
ガキ共は、この世界ではおそらくは初めてだろう車の体験に胸を躍らせている様子だった。
弟の方は、周囲の景色に好奇心旺盛なのか、目を輝かせている。
本当の意味でガキらしくて、俺としてはかなり良い気分ではある。
反対に、姉の方は、どうやら呆気にとられている様子だ。
「こんなのが、本当に存在するのか」
「目の前に実際に起きているんだ、とりあえずは信じろ」
「・・・ディケイドと会って、一日なのに、自分の常識がひっくり変える出来事ばかりだよ」
「ガキが、未だに常識を知ったつもりでいるな」
俺は、様々な世界に回る最中で、自分の常識を疑うような出来事が数多くあった。
「まぁ何よりも」
こんなガキ共を襲っていた人間がいるとはな。
5歳の子供を殺さなければ、生き残れない世界。
人間の方が醜く、怪人の方が人間らしい世界。
それらの世界にもライダーはいたが。
「・・・嫌な事を思い出した」
そう、思わず呟いた。
「・・・その、ごめんなさい」
「あぁ、何を謝っているんだ?」
「だって、僕がはしゃいだから、その、気を悪くさせたんじゃ」
「別に、そんな事では気を悪くしてねぇよ、ガキが変な気を遣うな」
「ガキって、言うけど、ディケイドだって、私達と見た目、そんなに変わらないじゃないか」
「見た目に騙されるな、お前達とは人生経験が違うんだよ」
「人生経験が違うって、それじゃ、ディケイドは何歳なの?」
「だから、教えるか」
そんな会話を行っていた時だった。
こちらを睨む何かを感じた。
俺はすぐにブレーキを踏み、トライドロンを止める。
「ひゃぁ、どうしたの!」
「・・・お前らは、トライドロンから出るな」
「えっ」
「絶対に出るな、分かったな」
そう、俺は2人に告げると共に、トライドロンから出る。
こちらに向けているのは視線。
だが、この視線を辿りながら、俺は睨み返す。
その視線の先。
そこにいたのは。
「・・・またガキかよ」
そうして、俺が歩きながら近づくと、そこにはボロボロの格好をしたガキがいた。
見た目から、どうやら姉と同じ性別は女性らしい。
人間ではなく、獣に近く、こちらにうなり声を出すばかりだ。
「はぁ、おい」
そう、その一声を、ガキに呟いた。
その瞬間、ガキの様子は一変。
先程までの敵意がまるでないように、こちらに服従のポーズを行っていた。
「はぁ、本当に、この世界はどうなっているんだ?」
まともに話せたのが、ガキ2人だけというのは、これまで訪れたどの世界よりも謎が多い。
とりあえずは、こいつも、あの2人のガキと同じく悪魔憑きであるのは、分かった。
「じっとしていろ、分かったな」
こちらの言葉が理解出来たのか、そのまま微動だにしない。
生意気な口を開かないだけ、マシだな。
そうして、俺は、再びリプログラミングを行う事にした。
「おい、ガキ、痛みはないか?」
「えっ、あっうん」
まるで、自分に何が起きたのか分からない様子だ。
どうやら、治療は成功したようだな。
「そうか、ならば歩けるか?」
「がぅ、歩ける」
「そうか、だったら来い」
まさか、この二日間で、ガキを3人も纏めて世話をする事になるなんてな。
これまでの世界では、こんな経験、した事ないのに。
「・・・そう言えば、おい、ガキ」
「はいっ」
俺の言葉に、ガキは過剰に反応した。
ふむ、このガキはどうやら、あの2人に比べて、野生の掟を重視しているような感じだな。
見ると、あの2人とは違い、犬のような感じがする。
「名前は、あるか?」
そう言えば、あの2人には、聞いていなかった。
おそらくは賢い事もあり、すぐに答えるだろう。
「・・・名前は、そのぉ」
だが、このガキは、答えなかった。
「・・・そうか、名前が分からないか」
「あぅ」
「俺もだ」
「えっ?」
そのガキは、自分の名前をすぐに素直に出す事が出来なかった。
そういう意味では。
「俺も、俺自身の名前は、なかなかに思い出せないよ」
『悪魔』『世界の破壊者』そして『ディケイド』
それらの名を呼ばれ続けたせいで、俺は、自分の名前なんて、微かにあったぐらいしかなかった。
何よりも、ここに来る前に巡った二つの世界。
あそこには、人間の倫理観を捨てたような世界だったからな。
「・・・という事で、さっさと行くぞ、犬ガキ」
「・・・分かった!ボス!」
そう、耳の特徴から犬のように思えたから、犬ガキって言ったけど。
「ボスだと?」
「あぅ!?」
俺は、思わず反応してしまう。
この犬ガキ。
「分かっているじゃないか、偉いぞ」「はふぅ」
上下関係をしっかりと理解出来ているとはな。
とりあえずは、俺は、犬ガキの頭を撫でた後、トライドロンにいるだろうガキ共とも話すとするか。