目が醒める。
見覚えのない天井が視界に映る。
それと同時に声が聞こえた。
「凛! ……よかった……助かったんだ」
ヒカルが私の手を握る。
瞳からは涙が溢れていた。
どういうわけだ?
私は死んだんじゃないのか?
状況が理解できない。
「ヒカル、ここは……」
「ここは病院だよ。何とか凛の傷を
「…………」
ヒカルの言葉に絶句する。
ヒカルは回復魔法を使えるはずがないのに使ってみせたのだ。
とは言えそれでも傷の収まりが悪かったのか今こうして病院にいるわけだ。
……待てよ、あの蟲型のエネミーはどうなった?
ニュースだと日本各地に分散しているように言っていたがどうなった?!
「うっ……痛ぅ……」
「凛、無理に動いちゃダメだ傷が広がる!」
「そんなことよりあの怪物はどうなったの?! 病院が安全とは限らないじゃない!」
「それは……アイツらは一旦消えたんだ。まるで蜃気楼みたいに」
「消えた?」
私はここで確信したあの蟲型エネミー……
何らかのバグで発生したのだろう。
そうなると私の
さっきの戦いもバッドエンド一歩手前だったのだろう。
そうなると一気に困った。
私は平和に暮らしたいのに想定外のバグのせいでそれすら危うい。
しかも敵は神出鬼没だ。
おまけに今の私達で対抗できないほど強力な敵だ。
これからどうしたら……
「凛、安心してくれ。何があろうと俺は凛を守り抜く。約束だ」
「ヒカル……」
まっすぐな瞳でヒカルはそう言った。
そうだ、あくまで攻略は私1人でやるものじゃない。
私とヒカルで攻略して行くんだ。
なら、きっと何とかなるはずだ。
自身の身体に回復魔法をかけて傷を塞ぐ。
傷跡こそ残ったがこれでもう大丈夫だ。
「ヒカル、とりあえず情報を集めよう」
「情報っつってもあんな化け物のこと知ってる奴らなんているのか?」
「う……それは……」
いる事にはいる。
しかし
だが、それも少しの辛抱だ。
今回の事件は『フラク』と形は違えど大きく
そうすれば私達のことも勘づくはず。
そうなれば合流できるはずだ。
「とにかく、化け物を見たって人から手当たり次第に話を聞いてみようよ」
そんな回答でヒカルに応える。
ヒカルは少し考えた後に同意してくれた。
ヒカルはこういう事態に首を突っ込むタイプだ。
だからこそ誘導して事件に関わらせていく。
無論、私もその1人だが。
とにかくバグの存在は深刻だ。
バグの根源を取り除かないといけない。
そのためにも情報が必要だ。
◇◆◇
「蟲の化け物だろ、見たよ。けど襲って来なかった。まるで何かを探してるようだったよ」
何人かに聞いたが大体の回答はこれだった。
蟲は何かを探している。
そして襲われはしなかった、と。
推測だが蟲は魔法が使える者を探しているんじゃないか?
実際私達は襲われた。
となると
あとはただ待つだけだ。
そうして数日後、私の病室に
「伊月ヒカルくんに信条凛さんですね? 私は
斎賀と名乗った男はそう質問する。
ヒカルは怪しんで答えようとしない。
ここは私も答えないのが普通だろう。
そんな私たちの様子を見て斎賀は目を細める。
「あまり暴力的なことはしたくないのですが仕方ありませんね。貴方達を強制的に我々の施設に連れて行きます」
そう斎賀は言うといくつもの鎖を虚空から飛ばし私達を拘束する。
「何だこれ! 上手く魔法が使えねえ!」
ヒカルが叫ぶ。
「やはり魔法使いでしたか。ならば良し、早速我々の施設で働いてもらいましょう」
パチン、と斎賀が指を鳴らすと病室から一転して近未来的な研究室に周りの風景が変わる。
ここが彼らのラボだ。
「クソ! この鎖解けよ!」
「悪いですがそれは無理ですね。貴方達を収容室に一旦入れてからです」
そう言って斎賀は私達二人を鎖で引っ張りながらある一角の部屋に押し込めた。
瞬時に扉はロックされ部屋の中には私とヒカルしかいない状態になった。
「チクショウ! 出しやがれ!」
「ヒカル、今は従っといた方がいいよ。相手が何者かも分からないんだから!」
「けど!」
「大丈夫、私達を殺す気ならすでにやってるはずだわ。今はただ耐えましょう」
「……あぁ、わかった」
そう言ってヒカルを落ち着かせる。
私としてはここで亀裂は作りたくない。
今はただそっと耐え忍ぶ時間だ。
しばらくして部屋の扉が開く。
そこには斎賀ともう1人、年老いた老人が立っていた。
「いきなりですまんかったのう。ワシは
「誰がそんなことするかよ!」
「まぁ、話は最後まで聞いておくれ。君たちを襲った蜘蛛の怪物は異次元からの侵略者「バグラス」と言う生命態じゃ。奴らは魔法使いを好んで喰らう習性を持っておる。だから、私達は君たちに安全を与えよう。この施設に居る限りは「バグラス」から見つかることはない。だが、君たちには同時に「バグラス」とも戦って欲しいのじゃ。この間のは尖兵、次は本隊がやってくるじゃろう。そうしたら見境なく人間を喰らい始める。そうなれば人類は絶滅じゃ。だが君たちのような魔法使いなら奴らと戦える。どうか手を貸してはくれんかね」
そう言って世良は頭を下げる。
ヒカルは私に視線を向ける。
困ったときの合図だ。
「私達以外にも魔法使いはいるんですか?」
「無論いるとも、彼らも君たちと共に戦う」
「……わかりました。私はその役目を受けます」
「凛! ……あー! もう! わかったよ! 俺もやる! だけど凛を前線に出させないでくれ! こいつの魔法は回復魔法だけなんだ!」
「それは一旦は検討してみよう。しかし回復魔法の使い手は可能なら前線で傷ついた者を癒すため一緒に戦って欲しいんじゃ。そこだけは覚えておいてくれ」
そう言い残して世良と斎賀は部屋を後にした。
……回復魔法だけしか使えないのは正直キツい。
私もヒカルと一緒に戦いたいのに力になれない。
それがたまらなく悔しい。
とにかく、こうして私達は「シフト」に加入する事になった。
ここまで想定外の事があったが「シフト」に入るのは原作でも同じだ。
本来なら「フラク」と戦う組織だが今は「バグラス」と戦う組織に変わってしまっている。
物語が大きく歪曲し始めている。
次は一体何が起こるやら……