ここはアリアハン大陸。
周囲を海に囲まれており、ここにはアリアハンという城下町に加えてレーベという村があった。
村の先にはいざないの洞くつがあり、その奥深くにはロマリアに行くための旅の扉があった。
そのおかげでかつては双方から人が行き交い、交流や貿易などが盛んに行われていた。
しかし、勇者オルテガが旅立っていった後、扉の向こうでは大きな争いが勃発し、戦火を逃れるために難民となってアリアハン大陸にやってくる人がいた。
当初、現地の人達は彼らを温かく迎えていたが、中には戦犯者や犯罪者などが紛れ込んでおり、悪事に手を染める人もいた。
このままではさらに深刻な影響がこの地に及ぶと思った人々は、いざないの洞くつの入口に壁を作り、外部の人達が入れないようにすることを王様に提案した。
(このままではわしの息子も帰れなくなってしまう。)
(夫の顔を見られなくなるなんて、耐えられない…。)
オルテガの父であるロベルトと妻のマドリガルは反対をしたが、住民投票の結果、大陸の人々を守る方が大事だという意見に押し切られてしまった。
そして、戦犯者達の武器や防具を没収して旅の扉で追放した後、正式に壁が建設されることになった。
「すまぬ…。こんな無力なわしらを許してほしい。」
「あなた…。どうか無事でいてください…。」
彼らは洞くつの入口付近に立ち、兵士達が作業をする姿を見つめながら、泣きたい気持ちをこらえていた。
「ねえ、これを作ったら、パパはどうなるの?」
まだ物心がつく前のレックは、首をかしげながら母親と叔父に問いかけた。
「きっとオルテガは帰ってくるわ。きっと、いつの日か…。」
マドリガルは肩を落としたまま、懸命に息子を励ました。
それから1週間後。壁が完成すると今度は洞くつの入口がふさがれた上に「立ち入り禁止」と書かれた看板が設置され、人が入れなくなってしまった。
この時からアリアハンは鎖国状態になり、外部とのやりとりが途絶えてしまった。
それから月日が流れ、レックはいよいよ一人前とみなされる年齢に達した。
「おはよう。私のかわいいレック。朝ですよ。」
息子の成長を誰よりも間近で見てきたマドリガルは、この日の朝、まだすやすやと眠っているレックに声をかけた。
「うーーん…。まだ眠いよお…。」
「今日はあなたが一人前の兵士になるための採用試験を受ける日でしょう。さあ、起きなさい。」
「あっ、そうだった…。」
母親から言われて大事なことを思い出したレックは、はっとしながら起き上がった。
「私はあなたをオルテガのような一人前の人に育て上げるために、色々な努力をしてきました。いよいよその成果を発揮する時ですよ。」
「うん、そうだね。母さん、僕、頑張るよ。」
レックは両手で自分の頬をパンパンと叩き、自分に気合を入れた。
その後。着替えて朝食を済ませた彼はマドリガルと一緒に城へと向かっていった。
入口の近くまで来ると、マドリガルは立ち止まり、ここから先は一人で行くように伝えた。
「えっ?母さんも一緒に来ればいいのに。」
「私としてはあなたの父、オルテガに合わせてみようと思ったのよ。そして、あなたにはそんな彼のようにたくましい人になってほしいの。だから、ここからは胸を張っていってらっしゃい。オルテガもそうやって堂々としていたから。」
「分かった。僕、父さんに近づけるように、頑張ってくるよ。」
レックは内心では心細さを抱えながらも、それを振り切り、胸を張った。
そして「母さん、行ってきます。」と一言伝えると城の方を向き、中へと入っていった。
(あなた。息子はここまで成長しましたよ。どうか、あなたに追い付けるように、そしてあなたを追い越せるように遠くから見守っていてください。)
マドリガルはレックの姿が見えなくなると、途端に何かが吹っ切れたかのように息を吐き、そして来た道を引き返していった。
城の奥ではこの地を治める王様がおり、彼はレックを見ると椅子からスクッと立ち上がった。
「よくぞ来た。勇者オルテガの息子よ。父の背中を追う覚悟が出来たのか?」
「はい。絶対に父さんのような立派な兵士になって、いつか立派な勇者になれるように、今日、この採用試験を受けに来ました。頑張ります!」
「良かろう。そうと決まれば、今から相手を呼んでくることにする。チャモロ、頼んでもよいか?」
「はい。王様の仰せのままに。」
城の職員として働いているチャモロは早速その場を後にしていった。
しばらくすると、彼はスライムのスラリンとホイミスライムのホイミンを連れてきた。
「王様、お連れしました。」
「ご苦労だった。では、レックよ。まずは彼らと勝負をしてもらうことにする。」
「それで、僕が勝てばいいんですか?」
「そうだ。そして勝負はこれを含めて3回だ。そのうち、2回突破すれば合格とする。それで良いか?」
「分かりました!絶対に乗り越えてみせます!」
「では、まずは1回戦を開始するぞ!よいか?」
「はいっ!では、お願いします!」
レックはそれを承諾すると、スラリンとホイミンに向かってお辞儀をした。
一方の彼らも「こちらこそよろしく!」、「負けませんよ!」と言いながら気合を入れた。
「では、始めっ!」
審判を担当することになったチャモロが威勢よく声をかけると、いよいよ試験が始まった。
彼はまずHPの低いスラリンをターゲットにしたが、一撃では彼に勝てなかった。
しかもそれを見たホイミンが即座にホイミを唱えて回復をさせたため、最初の状態に戻ってしまった。
(くっ!スラリンからのダメージは少しだけれど、これでは泥仕合になってしまう上に、こちらのHPがじわじわと減らされてしまうな。どうすればいいんだ。)
焦ったレックは時間を稼ぐ意味も兼ねて身を守った。
すると今度はスラリンとホイミンが両方とも攻撃をしてきたが、レックはスラリンの攻撃をかわした。
(こうなったら別のやり方を試してみよう。)
1ターン攻撃を休んだのと引き換えに落ち着きを取り戻した彼は、ターゲットをホイミンに切り換えることにした。
(これで自分を回復されたら仕方が無い。とにかくこれに賭けてやる!)
レックはスラリンから攻撃を受けながらも、次の瞬間ホイミンに会心の一撃を当てた。
(さあ、どうなる?)
彼が祈るような気持ちでいると、ホイミンは自分にホイミを唱えず、通常攻撃をしてきた。
(しめた!ホイミンは自分を回復しないのか!これならいけそうだ!)
思わぬ突破口を発見した彼は2匹の攻撃を受けながらもホイミンをもう一度攻撃し、見事に相手を降参させた。
するとレックは俄然勢いがつき、この後は薬草を使用した後、スラリンを2ターンかけて降参させた。
「そこまで!この勝負、レックの勝ちとします!」
「はいっ!ありがとうございました!」
「僕達もありがとうございました!」
「疲れましたが、いい勝負でした!」
レック、スラリン、ホイミンは大きく息をしながら深々と礼をした。
「では、みなさんを回復させましょう。」
チャモロは早速ホイミを繰り返し唱え、全員のHPを満タンにしてくれた。
そしてスラリンとホイミンはその場にとどまり、以降の勝負を見守ることにした。
2回戦の相手はフードをかぶった魔法使いだった。
王様「今度はこの人と勝負をしてもらう。良いか?」
「はい!絶対に勝ってみせます!」
「君も準備はいいでしょうか?」
チャモロの問いかけに対し、魔法使いは下を向きながら、何も言わずにコクッとうなずいた。
「それでは、よろしくお願いします。」
レックがお辞儀をすると、相手は少し迷うような仕草を見せながらも深々とお辞儀をした。
「では、今から2回戦を開始する!用意、始め!」
王様の号令とともに、魔法使いは先制でレックを攻撃したが、素手だったため、ほとんどダメージを与えられなかった。
一方のレックは反撃とばかりに相手を攻撃したが、かわされてしまった。
次のターンで魔法使いは両手を震わせながらも力をため、「メラ!」と叫びながら呪文で攻撃をした。
その火の玉は見事にレックに命中し、彼は2ケタのダメージを受けた。
(これはこたえるな!でも、この声はもしや!?)
彼は声の主が女性だったことに加え、しかも聞き覚えがあったため、思わずはっとしてしまった。
「ちょっ、ちょっと、すみません!降参します!」
すっかり動揺したレックは途端に戦意を失い、後ずさりをしながら負けを認めてしまった。
王様「本気か?それは。」
「はい。この勝負は捨てます!」
「そうか。分かった。ではこの勝負、魔法使いの少女の勝利とする。」
チャモロ「とはいえ、レックさん。試合放棄はいけませんよ。」
「だってこの人と戦えるわけが無いじゃないですか!」
レックが敗北の弁解をすると、魔法使いは「あらそう。まあ、あたしは勝てたけれど、とても喜べないわね。」と言ってフードを外し、正体を現した。
「ほらやっぱり!バーバラ!どうして僕と勝負を!?」
「だって生活費が欲しかったんだもん。だから応募してみたのよ。」
「でも君は畑で野菜を栽培して生活をしているはずでは?」
「確かにそうなんだけれど、今年は猛暑のせいで不作だったのよ。だから副収入が欲しくて…。ごめんね、レック。あたしだってメラを唱えたくは無かったんだけれど…。」
バーバラはうつむきながら申し訳なさそうに謝った。
「いいよ、そんなの。それより、僕に勝ったってことは、賞金が出るんだよね?」
「うん。参加費も合わせれば、しばらくの間は生活出来そうね。これで何とか頑張っていくわ。」
「そうか…。」
レックはバーバラが夏バテと闘いながら懸命に水やりをしている姿を間近で見てきただけに、それ以上はかける言葉が浮かばなくなってしまった。
一方のバーバラは王様のところに歩み寄っていき、賞金を受け取った。
そして彼女もかたわらで次の勝負を見守ることにした。
レックがチャモロにHPを回復させてもらった後、次に登場したのはハッサンだった。
「ええっ!?今度は君と!?」
「ああ。今年は猛暑のせいで大工の仕事が中止になる日が多かったからな。俺もバーバラと同じ理由で応募したぜ。」
「みんな、大変な思いをしているんだね。」
「まあな。」
彼らが会話を交わした後、王様はフェンシングで2人に勝負をさせることにした。
そして、レックとハッサンが装備品を身に付け、審判はチャモロが担当することになった。
「では、今から5本勝負をして3本取った方を最終的な勝者にします。よろしいですね?」
「はい、分かりました。」
「了解だぜ、チャモロ。」
彼らは返事をした後、お互いが幼なじみの親友であることを忘れたかのようににらみつけた。
チャモロ「2人とも、プレ?」
2人「ウィ。」
「アレ!」
試合開始の号令がかかると、いよいよ1回戦が始まった。
(※プレ=prêtは英語のready、ウィ=ouiはyes、アレ=allezはgoにあたるフランス語です。)
その頃。アリアハンの沖では、ゲルダが率いる海賊船がまるで漂うかのように海上を進んでいた。
「お頭。申し上げたいことが…。」
「何だ、ヤンガス。」
「食料も水も残りわずかになってきたでがす。ルイーダやリッカをはじめとする船員達の元気も無くなってきておりますし、このままでは…。」
「分かっている。あたしも早く陸地を見つけて上陸したい心境だ。当初はランシール大陸に向かっていたが、先日の台風のせいで方角がくるってしまったようだな。すまない。あたしの判断ミスのせいで…。」
「お頭のせいではないでがす。あの台風が偏西風に乗って猛スピードで来られては逃げられないでげす。とにかく沈まなかっただけでも良しとしましょう。」
ヤンガスは自責の念に襲われるゲルダを懸命に励まし続けた。
そのおかげもあって彼女は気持ちを立て直し、懸命に冷静さを保ち続けた。
一方、船内の一室ではリッカとルイーダがいたが、リッカはが空腹と心細さのあまり、メソメソと泣き出してしまった。
「私達かろうじて助かったけれど、このまま飢え死にするのかなあ…。お腹がすいたよお…。」
「大丈夫。絶対に天は私達を見捨てたりはしないわ。」
「でも私…、もう限界よ…。」
「あきらめてはだめ。気を確かに持つのよ。」
かたわらにいるルイーダは、自身もかなりの空腹と闘いながら、何度もリッカを励まし続けた。
船のマストでは、カミュが双眼鏡を使いながら、遠くの場所を見渡し続けていた。
(もう帆もボロボロだ。何とか早く陸地を…。無人島でもいいから、陸地を見つけて食べ物を手に入れなければな…。)
彼もまた精神的にギリギリの状態だった。
そしてすがるような気持ちで景色を眺めていると、ふと遠くに半島のようなものが見えた。
「あれは、もしや?」
彼がコンパスと地図を見ながらその場所を確認すると、そこはアリアハンの南の半島にそっくりだった。
(しめた!当初の目的地とは違うけれど、ついに見つけたぞ!)
それまで半ば絶望的だったカミュの表情は一気に変わり、思わず飛び上がって喜びたい気持ちになった。
「お頭!ヤンガス!陸地だ!陸地が見えてきたぜ!」
「何?本当か?」
「どの方角でげす?」
ゲルダとヤンガスが聞き返すと、カミュはその方角を指さした。
「分かった!今すぐ操縦係に連絡することにしよう。ヤンガス、頼んだぞ!」
「ガッテンでがす!」
ヤンガスはとっさに敬礼のポーズを取ると、一目散に操縦室に駆け込んでいった。
その頃。ナジミの塔の最上階にいるテリーは、塔に住み着いたさそりばちとじんめんちょうなどのモンスターを退治していた。
「フンッ!何匹かかって来ようと、所詮はザコだな。まあ、依頼された害虫駆除につながるだけでなく、経験値も稼げるから悪くはねえな。とにかくお前ら、さっさとここから消え失せろ!」
彼はモンスター達が命からがら退散していくのを見届けた後、ふと海の方を見た。
すると南海上で何かがが見えたため、はっとしてその方角を見た。
「何だ?船か?まさか、海賊船じゃねえだろうな。」
彼がじっと目を凝らすと、どうやらそのまさかで間違いなさそうだった。
「これはちょっと嫌な予感がするな。よし!だったら!」
テリーはキッとその船をにらめつけると、のろしの場所へと向かっていった。
時を同じくして、アリアハンに向かう馬車にはミレーユの姿があった。
「もうすぐ目的地ね。私がレーベで作った薬草や毒消し草。それに咳止めや解熱剤を早く届けたいわ。さあリューラ。もう少し頑張って!」
彼女はリューラという馬につながっている手綱をしっかりと握りしめながら、ふとナジミの塔を見た。
すると、屋上からもくもくと煙が上がっているのが見えた。
「何かしら?火事?」
彼女は思わず手綱を引き、リューラを減速させた。
そして馬車が停車すると、その煙を注視した。
「どうやら火事ではなさそうね。ということは、あれが意味することは…。もしや!」
ミレーユは思わずはっとすると、再び手綱をしごき、馬車を走らせ始めた。
(これはちょっと嫌な予感がするわね。争いごとにならなければいいけれど…。でも、もしそうなってしまったら、私達は勝てるのかしら?)
彼女の脳裏には最悪の状況を含めて、色々な場面がよぎっていた。
というのも、アリアハン大陸で使用されている武器は銅や青銅製が主であり、昔、追放された兵士達から手に入れた鉄製の装備品はもうボロボロの状態だった。
そのため、まともに戦えばたちまちやられてしまうことは目に見えていた。
果たして、ゲルダ率いる海賊が上陸したら、鎖国状態のこの国はどうなるのであろうか。
この作品を読んでいただき、誠にありがとうございます。
以前、ドラクエ6のキャラクターが3の世界を冒険する読み切り作品をこのサイトに投稿しましたが、その後、アイデアがたまってきたため、新たにこれを作ることにしました。
最初はその作品の前日談にするつもりでしたが、結果的にかなり内容を変更しました。
その結果、今回は6のキャラ以外にリッカとルイーダもメンバーに加えることにしました。
(代わりにアモスとターニアがモブになります。)
また、テリーは旅立ち後にまもの使いとして活動することになりますが、第1話執筆時点(2024年9~10月)でまだこの職業に関して不明な点が多かったため、自分なりの解釈で書きました。
HD-2D版と異なる点もあるかと思いますが、何卒ご了承ください。
キャラの名前の由来
・ロベルト … 主人公の祖父ということで、ドラクエ11のロウの海外版における名前からこれを選びました。
・マドリガル … 別サイトに掲載した僕のオリジナル作品に出てくるヒロインキャラの名前です。
・リューラ … ドラクエの呪文「ルーラ」をフランス語っぽく発音したものです。SNSでやり取りしている人と相談して決めました。