ロマリアでの武術大会での試合を終えた後、アリーナはホイミンからベホイミを唱えてもらい、傷をいやした。
「ホイミン君、どうもありがとう。」
「どういたしまして。これが僕の役割ですから。」
「でも、私負けてしまったから、結局何も得られなかったわね。どうしても優勝したかったけれど…。」
アリーナはHPこそ回復したものの、その表情は沈んでいた。
「そこまでして優勝したい理由って何ですか?良かったら、僕に教えてくれませんか?」
「えっ?君に?」
「はい。困っている人がいれば放っておけませんし、手助け出来ることがあれば協力します。」
「そう。君は純粋な目をしているし、話してもいいかしらね。」
彼女は気持ちを切り替えると、この武術大会に参加した理由を打ち明けた。
「じゃあ、アリーナさんはクリフトさんという男の人を助けたいんですね。」
「そうなの。でもそのためには旅費がいるし、私だけでは厳しいと思ったから、誰か一緒に行動してくれる人がいないかなと思って…。」
彼女の切実な思いを知ったホイミンはいてもたってもいられなくなり、この武術大会が終了したら一緒にパデキアの根っこを取りに行くことを提案した。
「いいの?多分危険な旅になると思うけれど。」
「僕は1匹じゃありません。テリーさんとチャモロさんという仲間がいます。1匹と3人で行けば、きっと乗り越えていけますよ。」
ホイミンは胸を張って言い切った。
その姿を見て、アリーナは彼を信じて一緒に行動することにした。
武術大会はマルティナが連勝を重ねていき、見事に優勝を飾った。
そして閉会式が終わった後、回復役の仕事を終えてアルバイト料をもらったホイミンはアリーナと一緒に会場を後にし、受付の会場で待機していたテリーに合流した。
「ん?その女は確か?」
「そうです。大会優勝者であるマルティナさんと勝負をしたアリーナさんです。そしてアリーナさん。この人が僕と一緒に旅をしているテリーさんです。」
ホイミンは2人を紹介すると、彼女がクリフトを助けるために北の方へと旅に出たいことを伝えた。
「なるほど、北か。それなら俺達と行き先が同じだな。分かった。協力してやる。」
テリーは不愛想な表情をしながらも、一緒に行動してくれることになった。
「ありがとうございます!では、力を合わせて頑張りましょう!」
アリーナは満面の笑みを浮かべて喜んだ。
その後。彼らは王様の地位を返上してメンバーに復帰したチャモロを連れて北の方へと向かうことにした。
ロマリアを後にするとテリーは即座に聖水を使用した。
幸い彼のレベルは辺りのモンスターよりも明らかに上だったため、本来はエンカウント率の高い山道もスイスイ歩けるようになった。
彼らは途中でカザーブに立ち寄ると、村人達にノアニールに向かうことを告げた。
すると、ここから先は北も東も危険度が2であるため、出来ることなら行かないでほしい。どうしても行くのであれば命を守ることを第一に考えるように忠告された。
「分かりました。では、聖水をもっと買っておきましょう。」
「そうね。用心を重ねて損は無いでしょうから。」
チャモロとアリーナの提案を受けて、彼らは道具屋で聖水を買い足した後、早速村の出口で使用してさらに北へと向かっていった。
その結果、ここでもエンカウントを避けることが出来、無事にノアニールに到着したが、そこで見たものはドラクエ1で何も知らずに初めてドムドーラに来た時のように衝撃的なものだった。
「ここの人達、みんな眠っているみたいですね。」
「ロマリアで聞いた情報は本当だったんですね。」
「しかも村がすっかり廃墟になってしまったな。」
「恐らく眠っている間に何かあったんでしょうね。」
ホイミン、チャモロ、テリー、アリーナは人々の異変だけでなく、村に天変地異でも起きたかのような光景を見て呆然としてしまった。
これだけでもショックを受けた彼らだったが、少し歩いていったところにはさらにショッキングなものが待ち構えていた。
「イヤーーーッ!女の人がこんな目に!私、こんなの見たくないわ!」
女性の姿を見たアリーナは途端に涙目になり、両手で顔を覆ってしまった。
「恐らく目を覚まさないのをいいことに、誰かの手にかかったんでしょう。これは僕にとっても見たくはないです。」
ホイミンは自身も耐えきれない気持ちになったため、外に出るように促した。
「分かったわ…。一緒に…、行きましょう…。」
アリーナは顔を覆ったままホイミンと一緒に歩き始め、彼の誘導を受けてその場を後にしていった。
現場に残ったテリーとチャモロはトラウマになりそうな光景を見せつけられながらも、誰か起きている人がいないか探し回った。
すると一人の老人がガックリと肩を落としながら村に戻ってきて、2人を見つけた。
「誰じゃ!もしかして泥棒か!?また何かを盗みにきたのか!?もうここには何も残っておらん!武器や防具はおろか、道具や食べ物も無い!それなのにこれ以上、何を奪っていく気じゃ!?」
すっかりやせ細ってしまった老人は2人を新手の泥棒と認識したのか、途端に怒りの表情になり、震える手で持っている杖を振り上げて威嚇した。
「ちょっと待ってください。私達は村を荒しに来たわけではありません。」
「俺達はこの辺りで取れるというパデキアの根っこを手に入れに来たんだ。」
チャモロとテリーは老人をなだめ、持っていたパンを与えることにした。
老人は最初こそ、睡眠薬や毒でも入っているのではないかと疑っていたが、テリーが少しちぎって食べるのを見ると、考えを改めてくれた。
「分かった…。では、いただくことにしよう…。」
老人はパンを受け取ると震える手で一口ずつ口に入れていった。
食事を済ませた後、彼は自身をノワールと名乗り、事情を打ち明けることにした。
彼の話によると、このノアニールは冬が来るたびに厳しい寒さに襲われながらも、平和に栄えた村であったが、ある時息子の男性とエルフのアンが禁断の恋に落ちてしまったことで、エルフの隠れ里に住んでいる女王の怒りを買ってしまった。
その結果として自分以外の村人が呪いをかけられて全員眠らされてしまい、しかも彼は何度女王のところに行っても許してもらえなかった。
これだけでも十分に悲劇だったが、さらに自分が留守にしている間に泥棒が入るようになり、色々な物を盗まれるようになってしまったが、自分ではどうすることも出来ないまま、村が荒廃していく光景をただ見つめるしかなかった。
そして最終的に自分の命以外の全てを失ってしまい、孤独感と自責の念、そして絶望の中で過ごしてきたことを打ち明けた。
「そういうことじゃ。何とかしてわしの息子を連れてきてほしいし、村人達を目覚めさせてほしい。そうでなければわしは死んでも死に切れぬ…。」
ノワールの目からはとうとう涙があふれだし、声を上げて泣き出してしまった。
「分かりました。私達がエルフの隠れ里に行って、女王様を説得してきます。」
「本当かね?」
「はい。出来るかどうかは分かりませんが、とにかく行ってみます。」
「それはありがたい。ぜひお願いしたい。」
ノワールはわずかな可能性にでもかけてみたい気持ちだったため、チャモロの提案にすがりついてきた。
(フンッ!行きたきゃ勝手に行ってこい。俺はパデキアの根っこさえ手に入れればさっさとキメラの翼で撤退するつもりだけれどな。)
テリーは口にこそ出さないものの、乗り気な気持ちではなかった。
外に出てアリーナとホイミンに合流した彼らはノワールにホイミをかけた後、彼を連れてエンカウントを避けながら歩いていき、エルフの隠れ里の入口に到着した。
そしてチャモロはノワールと一緒に女王と面会に行くことにし、テリーはアリーナを連れて湖の洞くつに向かっていった。
残ったホイミンは単独で隠れ里の中を歩くことにした。
すると老人とチャモロが歩いていった先で「ヒーッ!人間だわ!さらわれてしまうわ!」、「人間と話したらママに怒られちゃう!」といった大声が聞こえてきた。
(どうやらエルフのみなさんは今でも相当根に持っているようですね。村人達をみんな眠らせた上に、人間自体をこんなに憎むなんて。果たして僕は大丈夫なんでしょうか…。)
不安を感じたホイミンは恐る恐る里の中を歩いていった。
するとその先にお店らしきところを見つけたため、彼はドキドキしながらその場所に向かっていき、お店の人に話しかけた。
「ここは道具屋です。ですが、人間に物は売れません。あなたはモンスターに化けた人間ですか?」
「えっ?違います。僕は純粋なホイミスライムです。信じてください。」
ホイミンは自分が持っているアイテムを見せてアピールをした。
「確かに変身出来るようなものは持っていませんね。分かりました。あなたを信じることにしましょう。今回だけ取引を許可します。では、ここは道具屋です。商品をご覧になりますか?」
「はい。お願いします。」
「分かりました。」
店主の女性は渋々ながらも扱っているアイテムを一式見せてくれた。
するとそこには眠りのつえや祈りの指輪、天使のローブといったアイテムに加えて、何かの薬草らしきものがあった。
「これは何ですか?」
「パデキアという名の植物です。この根っこをすりつぶして飲ませれば、ありとあらゆる病気を治せますよ。」
「えっ?本当ですか?」
ホイミンは思わぬ形で目的の品を見つけたため、思わずビックリだった。
「これ、ぜひ欲しいです!お願いします。」
「では、代金はこうなります。」
店主は値段を見せてくれたが、所持金のほとんどをチャモロに持たせていたため、到底買えない状態だった。
「僕、今から仲間のところに行ってお金を工面してきます。」
「それはダメです。ここを離れたら以降の買い物は禁止にします。」
「えっ?そんな…。」
驚いたホイミンはその場で固まってしまった。
(どうしよう。ここを離れるわけにはいかない。自分で何とかするしかない。こうなったら…。)
彼は考えた末に自分の持っている装備品を売ってお金に変えてもらえないか、お願いをした。
「分かりました。何を置いていきますか?」
「では、この武器にします。」
ホイミンはこれまで装備していた鉄の槍をカウンターに置いた。
「では、それと(根っこ付きの)パデキアを交換することにしましょう。いいですか?」
「えっ?交換ですか?」
「そうです。もし断るのであれば、ここから出ていっていただきます。」
店主はやはり彼の正体が人間なのではないかと疑っているのだろう。明らかに自分に有利な条件を持ち掛けてきた。
(パデキア1個と引き換えに武器を失うなんて…。)
ホイミンは厳しい選択を迫られ、ますます迷ってしまった。
しかし、早く決めてくださいという雰囲気が漂っていたため、迷っている状況ではなかった。
(こうなったら、いさぎよく交換することにしましょう。パデキアはどうしても欲しいものだし、武器はまた買い直せば済みますから。)
彼は覚悟を決めるといさぎよく同意をした。
「分かりました。では、どうぞ。」
店主は鉄の槍を自分の足元に置くと、パデキアをカウンターの上に置いてくれた。
「ありがとうございます!」
ホイミンはそれを受け取ると、逃げるように里の外へと駆け出していった。
その後。彼は女王や住人達から罵声や誹謗中傷を浴びせられ、精神的にまいってしまったチャモロとノワール、そして徒歩で洞くつを脱出してきたテリーとアリーナに合流した。
「わあっ!パデキアの根っこを手に入れたのね!これでクリフトを治療出来るわ!どうもありがとう!」
彼女は洞くつ内でマタンゴの群れに遭遇してテリーもろともコテンパンにされてしまい、結局アイテム探しを途中で断念せざるを得なかっただけに心の底からほっとした。
テリー「じゃあじいさん。俺達はひとまず目的を果たしたから、キメラの翼でここからおさらばするぜ。」
「えっ?ちょっと待ってください!めざめの粉はどうなるんですか?村人達はどうなるんですか?」
「私もその点に関しては何とかしたいです。でも今はあなたの命を守ることを最優先に考えるべきです。」
「どんなことがあろうと、命が無事ならきっとチャンスは巡ってきます。ですから一旦ロマリアに避難しましょう。」
「私からもお願いします。一刻も早くクリフトを治療しに行きたいですし、そこで対策を立てましょう。」
チャモロ、ホイミン、アリーナはノワールの気持ちを理解しながらも、切実な表情で説得をした。
それを受けて、彼は重い腰を上げて一旦この地を離れることに同意をしてくれた。
「じゃあ、じいさん。今からキメラの翼を使うぜ。くれぐれも途中で落ちるんじゃねえぞ。」
テリーはそう言うと早速そのアイテムを大空に放り投げ、彼らは一斉に空へ飛び立っていった。
その頃。とある場所にいるグランマーズは、水晶玉越しに一部始終を見つめていた。
(ふう…。村人達を起こすことは出来なかったが、とりあえず最悪の事態は避けられた。あの老人にとってはつらいじゃろうが、もしここで夢見るルビーを手に入れ、さらに目覚めの粉を手に入れていれば、もっとつらい現実に直面していたからのう。)
彼女は次のようなことを事前に把握していただけに、心の底からほっとしていた。
ちなみにもしこの時点で村人が目を覚ましていたら…。
『何と、俺達が眠っている間にノアニールがこんなことに!』
『イヤーーーッ!私のこんな姿を見ないで!!』
『一体誰がこんなことを!もしやエルフ達のせいなのか!?』
『許さん……!許さんぞ!エルフども!』
『たとえ俺達の身がどうなろうとも、一人残らず根絶やしにしてやる!』
『さあ、泣け!泣いて、ルビーの涙を流すんだ!』
『う…。うう…。』
『くそっ!強情な奴め!これでもか!』
『人間に物は売れませんわ。お引き取りあそばせ。』
『ならば俺達が奪っていくまでだ!』
『おやめください!泥棒は許しません!』
『それ、あんたが言うセリフじゃないわ!』
『エルフの女王!覚悟!道具屋で奪ってきたこの眠りの杖でおねんねしなさい!』
『私を誰だと思っているんですか!人間達など見たくもありません!さあ、立ち去りなさい!』
『うっせぇ、うっせぇ、うっせぇわ!あなたの言うことはうんざりです。』
『2度とうろちょろ出来ないよう女王をバラバラに引き裂いてくれるわっ!』
(このような悲劇の結果、人間とエルフまたはドワーフ達の間には修復不可能な亀裂が生じ、終わりの見えない争いが勃発して危険度が3、もしくは4になっていたじゃろう…。これを避けるためには商人達に町を再建してもらい、何事も無かった状態に戻してから住人を目覚めさせなければな…。)
その後、彼女はトルネコのところに飛んでいき、彼をはじめとする商人達にノアニールの再建を依頼することにした。
次回から再びレック達の話に戻ります。
名前の由来
ノワール:このサイトでやり取りしている方に名前を決めていただきました。どうもありがとうございます。