ミレーユがハッサンの手当てをしている一方で、いざないの洞くつの奥に入っていったレック、バーバラ、リッカ、ルイーダは、忍び足を使った状態で先に進んでいった。
幸いモンスターと戦闘になることはそれ程なく、なったとしても先頭にいるルイーダのレベルが高いおかげでほぼ確実に逃げられたため、MPを温存することは出来た。
しかし、洞くつ内は暗いために辺りがよく見えず、しかも落とし穴がいくつもあったため、何度か下の階に落とされてしまった。
「いったあっ!お尻ぶつけた!」
「私はひざをぶつけたわ。」
バーバラやリッカをはじめ、4人は落ちるたびにダメージを受けてしまい、レックのホイミで回復をする羽目になった。
ルイーダ「それにしてもここは迷路かしらね。」
レック「出口は一体どこなんだろう。」
彼らの不安は次第に大きくなっていき、しかも唯一回復呪文を覚えているレックのMPはどんどん減っていった。
そして話し合いの結果、とうとう撤退をすることになった。
「分かったわ。じゃあみんな。外に出ましょう。」
バーバラはその場でリレミトを唱え、4人は洞くつから脱出した。
外ではミレーユが相変わらずハッサンの腰やすねのケアをしていた。
すると彼らの目の前にリレミトで洞くつを脱出したレック達が姿を現した。
「きゃあーっ!」
「わああーっ!!」
ミレーユとハッサンは思わず大声をあげて驚いた。
それはレック達も同じで、思わず武器を取り出して身構えてしまった。
しかし、すぐにお互い冷静さを取り戻したため、仲間割れにはならずに済み、4人はこれまでの経緯を話した。
「洞くつの中はそんな構造をしているのね。」
「これはマッピングをしながら進まないとな。」
ミレーユとハッサンはロマリアへの道のりが一筋縄にはいかないことを実感した。
「とはいえ、今はもう夕方だから、ルーラで戻りたいのよね。」
バーバラは一旦アリアハンに引き返すことを提案した一方、リッカとルイーダは壁の向こうからモンスターがやってくる可能性が考えられることを打ち明けた。
ルイーダ「そういうわけで、今夜は少し引き返したところにあるほこらで過ごしたいのよ。」
リッカ「確かにそこなら休むことも出来るし、いざとなったらすぐに立ち向かっていけるわね。」
「分かった。じゃあ、僕がここで見張りをするから、みんなはそこでゆっくり休んでくれ。」
「えっ?レック一人で大丈夫なの?」
「うん。僕にはブーメラン攻撃に加えてラリホーもあるし、いざという時にははがねの剣で火炎ぎりも使うつもりだから、多分何とかなるよ。」
「でも、それだとあたし…。」
バーバラはレックと離れ離れになることが気になってしまい、素直に提案を受け入れられなかった。
「それって、もしかしてだけど?」
「レックにアレってわけなのか?」
「……。」
ミレーユとハッサンにイジられ、彼女は思わず顔を赤らめてしまった。
それでもレックは彼女に無理はさせられないという思いから、みんなと一緒にほこらに向かうことを勧めた。
「…分かったわ…。レック、気を付けてね。」
「大丈夫。心配しないで。明日の朝、元気な顔で会おうね。」
「うん…。」
バーバラは心細さを感じながらも、最終的に同意をしてルーラを唱えた。
レックは段々姿が小さくなっていく5人の背中を見守った。
一人になった後、彼は魔法の玉で爆破をした部分に散らばっている石ころや岩などを集め、バリケードを築いた。
そして作業が一区切りした後に外に出ると大雨が降っていたため、彼は洞くつ内に戻って携帯用の食料と水で夕食を取った。
外で雨の音が響き渡る中、彼は剣のさやを枕にして横になり、HPとMPの回復に専念することにした。
一方、他の5人はほこらの前に降り立つと一人ずつ順番に中に入っていった。
その中で腰に加えてすねの状態が気になるハッサンは最後にケンケンで中に入っていき、倒れるように横になった。
バーバラとルイーダは持ってきた食材で夕食を作り、リッカは内部を整頓して5人分の宿屋として使えるようにしてくれた。
そして食事が済むと彼らは大雨の音が響く中でゆっくり休んで体力を回復させることにした。
(レック、元気かな…。モンスターに襲われたりしてないかな…。)
バーバラは自分のマントを掛布団にして横になると、雨の音を聞きながら彼のことばかり考えていた。
一方、ミレーユは時間さえあればハッサンのケアをしていた。
彼にとってそれはうれしいことではあったが、ミレーユに負担をかけてしまっていることを申し訳なく思っていた。
「どうだ?俺は明日乗り込んで行けそうか?」
「正直、微妙なところね。腰の状態も無視できないけれど、すねはもしかしたらヒビが入ったかもしれないわ。このまま洞くつを歩いて抜けられればいいけれど、もしだめならそこで前進をあきらめてリレミトを唱えることになるわ。」
「そうか…。すまねえ…。俺のせいで…。」
ハッサンはガックリと肩を落とした。
「でも、対策が無いわけではないわ。」
「ん?何かいい方法があるのか?」
「ええ。この薬を使うの。」
「それは何だ?」
「痛み止めよ。これが効いている間は何とかなると思うわ。どう?使ってみる?」
「ああ。それで痛みが無くなり、戦力になれるのであれば、喜んで使うぜ。」
「分かったわ。でも痛くなくなるだけで、決して治るわけではないの。もし効果が切れたらどんな痛みに襲われるか、それは私にも分からないわ。それだけは忘れないで。」
薬の説明をするミレーユの表情は真剣そのものだったため、ハッサンは思わずしり込みをしそうになった。
しかし、アリアハンの運命を背負っている以上、ここで引き返すわけにはいかないため、彼は意を決して同意をした。
翌日。痛み止めの処置を施されたハッサンは、主にターンの最後に行動する武闘家という形で活路を見出すことにした。
5人が外に出て泉のところまで歩く途中では、スラリンに加えてアルミラージやバブルスライム、ホイミスライムといったモンスターがいた。
しかし、彼らはロマリア方面からの侵入者と戦闘になった時に備えてトレーニングをしているため、敵意は無かった。
「君達、ご苦労様。」
「トレーニング、頑張ってね。」
「あたし達、行ってきます!」
ルイーダ、リッカ、バーバラから声をかけられたモンスター達は「行ってらっしゃい。」と言いながら、手を振るなどのジェスチャーをした。
洞くつの入口付近では、レックがラ○オ体操で体を動かしており、いざないの洞くつを抜けるために気合を入れていた。
「あっ、みんなおはよう。」
彼は5人に気が付くと、笑顔で声をかけた。
「おう、おはようだぜ。」
「よく眠れた?」
ハッサンとミレーユが笑顔で返す一方、バーバラは心配でたまらなかったため、ようやくほっとした表情になった。
(さあ、いよいよね。絶対にロマリアに到着してみせるわ。)
(ハッサンが万全でない以上、私が貢献していかなければ。)
リッカとルイーダはこれまで以上に気合を入れた。
彼らが洞くつに入っていくと、ハッサン以外のメンバーで協力をしながらバリケードの役割を果たしていた岩を動かした。
そして先に進める状態になると、彼らは一人ずつその部分を通過していき、下り階段に向かって進んでいった。
地下2階に降りてくると、ルイーダは早速忍び足を使った。
すでに前日の探索で道筋はある程度把握していたため、彼らは昨日よりもスイスイ進むことが出来た。
しかし、少し進んだところでおばけキノコやキャタピラーに加えてこうもり男やさまようよろいなど、本来ならばロマリア以降にいるはずのモンスター達もうろついていた。
(彼らは見るからに強そうね。しかもアリアハンに乗り込もうとしているような雰囲気だし、通過してしまうわけにはいかないわね。)
嫌な予感を感じ取ったルイーダはここで忍び足を解除し、自ら名乗りをあげた。
「おっ!人間があそこにいるぞ。」
「もしやアリアハンの住人では?」
「これは人質にするチャンスだな。」
彼らはしめたと言わんばかりにこちらを向き、戦闘モードに入った。
(強そうだけれど、逃げるわけにはいかない。やってやるぞ!)
レックをはじめ、6人は気合いを入れて相手を迎え撃つことにした。
最初はレック、バーバラ、リッカがキャタピラーとおばけキノコ3匹ずつと勝負をした。
幸いこれらのモンスターはあまり強くないため、バーバラのムチ攻撃、レックのブーメラン攻撃、リッカのギラであっさりと決着がついた。
次はルイーダ、ハッサン、ミレーユがこうもり男3人とさまようよろい2人と勝負をした。
先制で行動したルイーダははがねのムチでこうもり男2人を倒し、残ったCにもかなりのダメージを与えた。
そのCはここでマホトーンを唱え、ミレーユの呪文を封じた。
(本来ならバギを唱えたかったけれど、仕方ないわね。)
彼女はとっさに通常攻撃に切り換え、Cを倒した。
さまようよろいAはハッサンに通常攻撃を加え、Bはホイミスライムを呼んできた。
(※ハッサンの攻撃はかわされてしまいました。)
次のターンではルイーダがウイングブロウでAをKO寸前まで追い込んだが、ホイミスライムがそれを見計らってホイミを唱えたため、せっかくのダメージをかなりリセットされてしまった。
(とはいえ、HPを削り切らなければ倒せないわけだから、やるしかないわ。)
ミレーユは通常攻撃をAにヒットさせたが一ケタのダメージに留まり、さらにAとBから集中攻撃を受けたためにHPをかなり減らされてしまった。
するとここでハッサンは待ってましたとばかりに薬草を使い、ミレーユを回復させた。
ターンの合間に入るとバーバラがミレーユに交代を申し出てきた。
「えっ?いいの?」
「うんっ!あたしは今魔力をためているから。」
「そう。それじゃ、頼んだわ。」
彼女の同意を得て、次のターンではバーバラが入ることになった。
すると彼女はMPを8消費してメラミをぶっ放し、さまようよろいBをHP満タン状態から一気に倒してしまった。
それに勢い付いたルイーダはホイミスライムを一撃で追い返した。
ハッサンは自分では攻撃をしなかった代わりにAからの攻撃を受け止めたため、両者はノーダメージだった。
次のターンではルイーダがウイングブロウを浴びせ、さらにバーバラに代わって入ったリッカがヒャドでAを倒したため、戦闘はようやく終了した。
「ふう…。なかなか手強い相手だったな。」
「どうやら向こうから刺客が送り込まれているようね。」
「ということはもっと強い相手がいるでしょうね。」
「それでも引き下がるわけにはいかねえな。」
レック、バーバラ、ミレーユ、ハッサンをはじめ、リッカとルイーダはこれまで以上に気合を入れた。
その後、少し進んでいくと今度はポイズントード7匹と戦闘になった。
幸い1グループだったため、ルイーダのムチ攻撃、レックのブーメラン攻撃、リッカのギラがかなりの威力を発揮し、結果的に毒を受ける前に決着をつけた。
すると間髪入れずにアニマルゾンビとぐんたいガニが4匹ずつ現れた。
「ここは私が対処するわ。」
先程はあまり活躍出来なかったミレーユは雪辱とばかりにニフラムを唱え、アニマルゾンビを一気に退場させた。
するとぐんたいガニ達は一斉に仲間を呼び、一気に8匹にまで増えてしまった。
「かえってちょうどいいわね。」
「私も同じ呪文で応戦します!」
バーバラとリッカはギラをダブルで唱え、ノーダメージで戦闘を終了させてしまった。
「よし。MPは消費しているけれど、ここまでは順調だ。何とかしてロマリアにたどり着ければ…。」
レックは確かな手ごたえを感じながら先頭に立って行動をした。
最深部までやってきた時、彼らはここで顔にファントムマスクをつけた2人に出会ったため、レック、ハッサン、ミレーユ、バーバラが迎え撃つことになった。
(手にほうきを持っているし、帽子をかぶっているから、いかにも呪文を使ってきそうだ。一体何をしてくるんだろう?)
レックが胸騒ぎを感じている中で、ミレーユはラリホーを唱えたが、運悪く外してしまった。
「これはただの魔法使いではなさそうね。」
「それならあたしはこれで対抗するわ!」
バーバラは試しにギラを唱えてみたが、これも威力を大きくそがれてしまった。
続いてレックは気合いを入れて相手を攻撃したが、かわされてしまった。
「あら、あんた達の攻撃なんてその程度のものなの?」
「ではあたし達が今から反撃するわ!火傷しないでね!」
彼女達が不気味にほほ笑むと、何とダブルでベギラマを唱えてきた。
「ぎょええええっ!!何だこの威力は!!」
ハッサン達はこれまで見たこともない強力な攻撃呪文を浴びてしまい、一気にパーティーが壊滅状態になってしまった。
「だらしないわねえ。こんなにあっさりとやられるなんて。」
「それともあたし達が超ド級に強いってことなのかしら?」
「強くって、すみません。」
「強いって、罪なのね。」
彼女達は自分達の能力に酔いしれながら不気味な笑いを浮かべた。
「君達、ただの魔法使いじゃないな。」
「正体を見せろ!そして名前を名乗れ!」
レックとハッサンがそれぞれKOされたバーバラとミレーユをケアしながら問いかけると、2人はつけていたマスクを取って素顔を見せた。
すると彼女達は20歳前後の年頃の顔をしており、自分達を魔女だと名乗った。
「というわけで、次のターンではもう一度ベギラマを唱えてあげるわ。」
「あなた達には6のストーンビースト並みの恐怖を見せてあげるからね!」
明らかに場違いな強さを見せつけている2人に対し、ルイーダとリッカは交代で入ろうとしたが、レックとハッサンはこれ以上被害を大きくしたくないという思いから、逃げることにした。
しかし、リレミトは逃走に成功しないと使えず、ルーラやキメラの翼で緊急脱出したくてもここは洞くつであるため、一見すると万事休すの状態だった。
(頼む、バーバラ!僕に力を貸してくれ!)
彼が祈るような気持ちでキメラの翼を使うと何とここでリレミトの効果が発動したのか、全員の体が光に包まれた。
(えっ?どうして?)
(何がどうなっているんだ?)
思わぬ事態に驚くばかりのレックとハッサン達だったが、ここで回り込まれたら本当に危ない状況になってしまうため、これに賭けるしか方法は無かった。
「逃がすもんですか!」
「くらえ!ベギラマ!」
魔女2人はとどめとばかりに呪文を唱えたが、間一髪でレック達が目の前から姿を消したため、結果的に空振りに終わってしまった。
「くっ!勝てたと思ったのに。」
「本っ当に惜しかったわね。」
彼女達はレック達打倒まであと一歩だっただけに、顔をしかめずにはいられなかった。
「お頭!とにかく後を追いましょう。」
「そうです!突撃と行きましょう!」
「援軍を呼ばれる前にやっちまいましょう。」
部下のモンスター達も悔しい気持ちは同じだったが、素早く気持ちを切り替えて声をかけた。
「確かにそうね。」
「では、突撃!」
魔女2人は再度気合を入れ直し、自ら先頭に立って洞くつの出口目掛けて進撃を開始した。
すると部下達もその勢いのまま彼女についていった。
ひとまず敗北だけは免れたレック達だったが、果たして彼らはアリアハンを守り切れるのだろうか…。
今回登場した魔女2人ですが、老婆では読者にウケないと思ったため、若い女性にしました。
魔女を選んだ理由としては、ゲームで海賊のお頭が女性であることに加えて、僕が敵が使うと嫌な呪文の代表であるベギラマを取り上げたかったためです。