ナジミの塔の最上階にいるテリーは海賊船がこちらに向かっていることに気が付くと、のろしのところへ行き、煙を上げて合図をした。
そして、馬車に乗っているミレーユはそれに気が付くと、急いでアリアハンの城へと向かっていった。
その頃、アリアハンの城内でフェンシングをしているレックとハッサンは、2勝2敗の状態で5回目の勝負に挑んだ。
すでに両者の表情にはかなり疲れが見えていたが、それでも彼らは気力を振り絞って勝負に挑んだ。
チャモロの「アレ!」という掛け声に続いて勝負が始まると、両者は前進したり後退したりを繰り返しながら、隙を狙い続けた。
そして武器を突き出すと、ほぼ同時に相手にヒットした。
これを見たチャモロはレックを有利と判断したが、バーバラが手をあげたため、ホイミンとスラリンも含めて協議をすることになった。
(頼む。このまま僕の勝利になってくれ。)
(どうか判定が覆ってくれ。もう疲れたぜ。)
彼らは祈るような気持ちで2人と2匹による話し合いを見つめていた。
それから1分後。協議が終わり、バーバラが説明役をつとめることになった。
「ただいまの協議について、説明しまーすっ!チャモロの判定はレックを有利と見たということでしたが、両者の攻撃が決まるのが同時ではないかと思ったので、手をあげることにしましたーっ!そしてみんなで協議した結果…。」
彼女が緊張感の漂う表情をしながら間を置いた後、突如「次回に続きます!」と言い出したため、全員が思わずずっこけてしまった。
「コラコラ!ちゃんとやりなさい!まだ始まったばかりですよ!」
「はーい。分かったわ。」
王様から注意を受けたバーバラは今度こそ真面目に判定を下すことにした。
そして口を開けてしゃべり出した瞬間、突然部屋の扉が開いた。
「王様!王様!」
声の主はミレーユで、彼女は息を切らしながら兵士と一緒に入ってきた。
「ちょっと!なんじゃそりゃ!」
「このタイミングで来るか!」
ハッサンとレックは思わずツッコミを入れ、バーバラは思わず吹き出してしまった。
「一体どうしたんですか!」
「何か、一大事ですか?」
ホイミンとスラリンが問いかけると、ミレーユと兵士達は船がこちらに向かってくることを伝えた。
「何だと!それはどういう船だ?商業船か?」
「それが、王様。のろしの煙の色からすると、海賊船ではないかと…。」
「何!?海賊船だと!本当か?」
「はい。こういう時にテリーが間違えるとは思えません。」
「それは一大事じゃな!」
ミレーユの報告を受けた王様は、いてもたってもいられなくなり、早速兵士達に準備を命じた。
バーバラ「これはもう勝負どころじゃないわね。本当は同時ということでもう一度勝負のつもりだったんだけれど…。」
ハッサン「ええっ!?取り直しだったのかよ!」
レック「もうそんな体力残ってないよ!」
ミレーユ「とにかく、大変なことが待っているかもしれません!一緒に外に行きましょう!」
結局2人のフェンシング対決は決着がつかないまま、ミレーユ、バーバラ、チャモロは兵士達と一緒に外へと駆け出していった。
一方のレックとハッサンは装備品を外し、タオルで汗を拭いてから城を後にしていった。
「おい!てめえら!何しに来たんだ!」
のろしの火を消した後、キメラの翼で塔を脱出して船の前にやって来たテリーは、一角ウサギの角を加工して矢じりにした弓矢を構えながら叫んだ。
「あんた、あっしらと張り合う気でがすか!?」
「ああ。ここは事実上の鎖国状態なんだ。王の許可なくして海賊船なんかを上陸させるわけにはいかねえ。」
「なるほど。だが、こっちには鍛え上げた鋼鉄製の武器や防具があるでがす。そんな武器であっしらにかなうわけがないでげす。」
大かなづちを装備したヤンガスは空腹と懸命に闘いながらも、威勢よく声をかけた。
するとそこに海賊の頭であるゲルダが出てきて、「待て。」と言いながら彼を制止した。
「あたし達は戦いに来たわけではない。まずは食事をさせてほしいんだ。」
「食事だと?フンッ!そんな言葉にだまされるものか!」
テリーは彼女をキッとにらみつけた。
そんなにらめっこ状態はしばらく続き、双方はこう着状態になった。
すると、町からミレーユ、バーバラ、チャモロや何人かの兵士達がやってきた。
「テリー、大丈夫?」
「姉さんか。今のところは大丈夫だ。ちょっとあいつらとにらみ合いはしていたけれどな。」
2人が会話をしている中、バーバラとチャモロはゲルダやヤンガス、そしてマストから降りてきたカミュを見つめた。
するとそこにレックとハッサンも合流し、一見すると援軍が駆けつける形になった。
「これは厄介でがす。」
「やべえな。どんどん人数が増えてきたぜ。」
「落ち着けヤンガス、そしてカミュ。まずは事情を話すことにしよう。」
ゲルダは大金を手に入れた状態で別大陸の港を出た後、なかなか陸地にたどり着けず、さらに台風に巻き込まれたために、これ以上の航海が不可能な状態になってしまったことを打ち明けた。
「というわけだ。どうか食料と水を分けてほしい。たとえ店の売れ残りや、売り物にならん規格外の野菜でもかまわん。定価で買い取ってやる。あたし達は金なら十分に持っているから、その点は心配無用だ。」
彼女が話をしていると、そこにルイーダとリッカがよろめくような足取りで姿を現した。
「私達からもお願いします。このままでは本当にもちません。」
「私ももう限界!飢え死になっちゃうよおっ!食べ物ちょうだい!」
彼女達の表情や口調は明らかに切実なものだったため、乗組員達が弱り切っていることは火を見るよりも明らかだった。
レック「どうする?彼らを助けるか?」
ハッサン「俺達じゃ決められないよな。」
チャモロ「ここは王様に判断してもらいましょう。」
「では、私が一部始終を伝えて来るわ。」
ミレーユは駆け足で町に駆け込んでいった。
一方、バーバラはわらにもすがる気持ちで泣き叫ぶリッカのことや、しかも食べ物を定価で買い取ると言ったゲルダの発言を気にしていた。
「あたし、自分で育てた野菜であの人達を助けてあげたいな。」
「おい、いいのかよ!ワナだったらどうするんだ!?」
「でも、あの人達、本当に困っているみたいだから…。」
「そうか。まあ、俺もお金がもらえるんだったら大歓迎だがな。」
バーバラとハッサンは生活費が欲しい状態だったこともあり、何とかしてあげたい気持ちだった。
しばらくするとミレーユが戻ってきて、王様からの伝言を伝えた。
その内容は、食料や水などの必需品を与える代わりに、検疫も兼ねてしばらくナジミの塔で隔離生活をしてもらい、さらに最上階での見張りもしてもらうというものだった。
「分かったわ。じゃああたし、今から急いで野菜を収穫してくるからね。」
バーバラは迷うことなく畑に向かうことにした。
「僕も手伝うよ。」
「俺も協力するぜ。」
「ありがとう、レック。そしてハッサン。」
バーバラがお礼を言うと、3人は駆け足で町に向かっていった。
「それじゃ、私は自分で作った薬をみなさんに渡すことにするわ。」
「おおっ!これはありがたい!ちょうど治療が必要な人がいたんだ。ありがたく買い取らせてもらうぞ。」
「分かりました。」
ミレーユはゲルダから了解を得ると早速船に乗り込もうとしたが、チャモロから制止されたため、リッカに船を降りてきてもらうことになった。
「じゃあ私、今からそちらに行きます。」
彼女は時々よろめきながらも、ルイーダに支えられながら何とか地上に降り立った。
「今までよく頑張ったわね。では、はいこれ。」
ミレーユは馬車の荷台から降ろした薬草などのアイテムを差し出した。
「わあっ!ありがとう!」
リッカはそれらを受け取ると、早速ルイーダと一緒に船に戻っていった。
するとヤンガスとカミュは我先にとばかりに薬草と毒消し草を取り出し、むさぼるように食べ始めた。
続いてリッカとルイーダもつられて食べ始めたが、ゲルダは食べたい気持ちをこらえながら薬を取り出し、治療のために船内にいる乗組員のところに向かっていった。
(ここまで空腹だったのね。これは相当苦しい航海だったようね。)
ミレーユがかわいそうにと言いたげな表情で彼女達を見つめていると、テリーが馬車を使わせてほしいと申し出てきた。
「えっ?何に使うの?」
「俺が作った魚の干物や干し肉を持ってきたいんだ。高く買い取ってもらえるチャンスだからな。」
「分かったわ。じゃあ、私も行くわね。」
「ありがとよ、姉さん。じゃあリューラ、頼んだぜ!」
2人は馬車に乗り込むと、一目散にレーベに向かっていった。
現場に残ったチャモロは何人かの兵士とともに、海賊達が不審な行動をしないかどうか、じっと監視をしていた。
(どうか戦闘だけは勘弁してください。私は戦いの経験に乏しいですし、こん棒や銅の剣、ブロンズナイフでは到底太刀打ち出来ません。)
彼が祈るような気持ちでいると、そこにレックが駆け足でやって来た。
「みなさん、お待たせしました!」
彼が持っていた袋を開けると、そこにはきゅうりがたくさん入っていた。
その中には通常のサイズの物に加えて黄色味がかったり、曲がったりして規格外になった物もあった。
「どうもありがとうよ!」
「感謝していただくでがす!」
カミュとヤンガスは先を競うようにして船を降り、袋を受け取ると、早速一本ずつ取り出してポリポリとかじりながら戻っていった。
すると船にいたリッカやルイーダ、そして部下とともに船上に姿を現したゲルダも争うようにしてきゅうりを取り出し、一斉に食べだした。
しばらくするとハッサンが水を、バーバラとアリアハンの飲食店で働いているターニアが売れ残りのパンやお惣菜を持ってやって来た。
ゲルダ達はそれらを受け取ると、どんどん口から胃袋に入れていった。
しばらくするとテリーとミレーユが食材を持って戻ってきてくれたため、リッカ達はそれらも胃袋に入れていった。
すっかりお腹もいっぱいになった後、ゲルダは約束通りみんなに代金を支払ってくれた。
「どうもありがとう!助かったわ!」
「俺もしばらく生活には困らんだろうな。」
「これで食材を廃棄せずに済みました。」
バーバラ、テリー、ターニアをはじめ、みんなは思わぬ臨時収入に大喜びだった。
一方、ゲルダ達は礼を言った後、これからナジミの塔にしばらく滞在するために船で対岸に行くことになった。
塔の内部では見張りをする人が滞在するための設備が整っており、井戸や暖炉をはじめ、薪(まき)やお鍋、お皿や食器、さらには木箱ベッドのようなものが置かれていた。
「ここは寝室として使っていた場所ね!私の腕前を発揮するチャンスだわ!」
「それに調理場として使えそうだな。食材が届いたら早速やってみよう。」
リッカとルイーダは目を輝かせていた。
「では、早速船から寝具を運び出すことにしよう。」
「ああ。そうすれば揺れながら寝なくて済むでがす。」
「とにかく今はゆっくり休んで旅の疲れを取ろうぜ。」
ゲルダ、ヤンガス、カミュをはじめ、乗組員達はまるでホテルに来たかのような安ど感を感じていた。
翌日。彼らはゆっくり休んだおかげですっかり体力が回復し、さらにレックやバーバラ達が渡し船で食材や薬などの必需品を持ってきてくれたため、みんなは隔離とはいえ、快適に過ごせるようになった。
「よおし。みんな、体調が戻ったようだな。ではこれからここで合宿生活を送ることにする。まず手始めに、この1階から最上階までを走って往復してこい!」
カミュ「分かったぜ、お頭。」
ヤンガス「では、行ってくるでがす!」
彼らに加えてルイーダやリッカもそれに参加し、早速みんなで駆け出していった。
途中には一度はテリーによって退治されながらも再び戻ってきたさそりばちなどのモンスターとエンカウントした。
「これくらい、あっしの大かなづちで一発KOでがす。」
「ああ。俺もブーメラン攻撃でチョチョイのチョイだぜ。」
「私としてもムチ攻撃の感覚を取り戻すチャンスだわ。」
ヤンガス、カミュ、ルイーダはすでにかなりの経験値を積んでいることもあって、その腕前を存分に発揮している一方、リッカはレベルが低い上に攻撃手段がメラしかないため、ほとんど防御してばかりだった。
(私ももっと貢献したいけれど、これは仕方ないわね。1階に戻ったら、ゲルダさんに了解をもらった上で、宿屋の仕事に専念するわ。)
リッカは悔しさをこらえながら来た道を引き返すルイーダ達の背中をうらやましそうに眺めていた。
その後、ゲルダは食料や水を持ちながら一足遅れて最上階に行き、そのまま夕方まで見張り役として過ごすことになった。
今回の序盤でのレックとハッサンのフェンシング対決において、何だか相撲で物言いがついた時のようなやり取りがありましたが、これは元々相撲で対決していた時の名残です。
第1話の下書き段階では彼らの対決は次のとおりでした。
レックとハッサンは上半身の服を脱いだ後、チャモロの協力を得てズボン越しにまわしを身に付けた。
そしてバーバラは床に円を描いていき、簡易的な土俵を作り上げた。
「では、チャモロには行司をつとめてもらう。やってくれるか?」
「はい。任せてください。」
彼は王様の依頼を快く引き受け、2人に3回勝負をして先に2勝した方を最終的な勝者とすることを伝えた。
この取り組みはレックにとっては兵士になるための分かれ道である一方、ハッサンにとってはどうしても懸賞が欲しい状況だったため、お互い絶対に負けられないものだった。
そんな事情もあって、彼らは親友であることを忘れたかのようにお互いをにらみつけた。
一方、レックとの勝負を終えたバーバラ、スラリン、ホイミンと王様は四方に座り、勝負審判をつとめることになった。
「待ったなし!手をついて…。」
チャモロが(なぜか持っている)軍配を構えながら声をかけると、2人はその場にしゃがみ、先にレックが両手をついた。
それを見ながらハッサンも手を着くと、いよいよ勝負が始まった。