大学受験舐めてんのか   作:オカルトって面白いよね・蠱毒とか

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“嘘を大声で、充分に時間を費やして語れば、人はそれを信じるようになる”

アドルフ・ヒトラー


第1話 ようこそはじめましての教室へ

 東京都高度育成高等学校。

 

 それは日本は東京都に存在する、日本から世界に通用する人材を育成するための教育機関。

 外部には秘匿された教育と3年間の寮生活が強制される代わりに、卒業生には望む進路を国が叶えてくれる特権が与えられる、まさしく国家を率いるエリートを育成するための学校。

 そんな謳い文句とともに馬鹿げた額の国費が投じられている金食い虫だ。

 その卒業生は特権を利用して様々な分野に進み、それぞれの分野で多大な成果を収めている()()()

 

 そして、土門司(どもんつかさ)の前世の日本には存在していなかった『この世界ならでは』の存在でもある。

 

「どんなものかねえ」

 

 高度育成高等学校、通称『高育』へと生徒たちを運んできたバスから降りた司は、他の生徒たちが正門を潜り学内に進む中、正門前で足を止めて正門を見上げた。

 

 何か特別その正門に見るべきものがあったわけではない。

 そもそもこの高育は広大な敷地を誇り、更に学生の学外への移動を禁止しているため、正門がこの学校において果たす役割というのはたいして大きくない。

 正門から直に校舎を見上げることが出来るわけでもなく、言ってみればただの門に過ぎない。

 

 それでも司が足を止めたのは、ここにやってきたことに感慨深いものがあったからだ。

 

 この世界は、かつて司が生きた2000年代からの現代日本とはいろいろな部分が大きく違っている。

 政治の動向に経済の状況、資本主義を支える大企業の数々や日本という国の発展度合い。

 

 前世で活躍したはずの政治家達は表に出てきておらず、あるいは大企業として存在し世界に名を馳せたはずの複数の企業が存在していない。

 その影響で経済の状況であったり、国内での各種法律の制定の状況なども色々と変わってきている。

 

 様々なところで前世と違うこの世界に生まれた当初の司は大きく困惑したものだが、それもこの高育という学校の存在を知ってからは納得へと変わった。

 

 東京都高度育成高等学校。

 それは、『ようこそ実力至上主義の教室へ』という創作物の舞台となる学校だ。

 かなり有名で、アニメ化もされたライトノベルである。

 前世の司は現代を舞台にしたライトノベルはあまり読んでいなかったため、前世の友人からあらすじとタイトルを聞いただけであり細かい詳細は知らない。

 

 ただ、創作物の中の存在であるはずの学校が今生の現実には存在していることはわかった。

 それすなわち、この世界が前世とは違う、創作物に描かれるような世界であるということを示している。

 

 そう理解して初めて、司は今生を前世とは違うものとして受け入れることが出来たのだ。

 

 この高育という学校で与えられる特権などには別に興味は無い。

 ただ、この転生先の世界のある意味根幹にあるであろう高育という存在に興味があるというだけだ。 

 とはいえ別にこの世界が創作物の世界だというつもりはないし、ちゃんと創作物だけではない現実として受け止めてはいる。

 それはそれとして、アニメとか小説とかが好きだった人間としては、そういうものの題材が現実に存在していると知れば興味を持ってしまうのは仕方のないことだろう。

 

 だからこそ司は、高校生の3年間という時間をこの学校に通うことに使うことに決めたのだ。

 無論それだけでなく、色々とこの高育にやってきた事情はあるのだが。

 

(上級生の教室も覗いてみたいが、まずは自分の教室に行ってみるか)

 

 一度玄関に張り出されているクラス分けで自分のクラスを確認してから、司は教室のある棟へと入る。

 クラス分けとしては40人ごとの4クラスであり、司はそのうちAクラスに配属された。

 

 教室に向かう道すがら、廊下の構造であったり存在している教室の様子などをさり気なく確認していく。

 

 司がこの学校にやってきた目的の1つが、この学校の実態がどんなものであるのか、そしてどんな人材をどういう教育によって生み出しているのかを確認することだ。

 そのため、その舞台となる学校自体を観察しているのである。

 

 普通の学校ではないのだろう、ということは流石に予想している。

 この高育には卒業生に付与される異常とも言えるレベルの特権が存在しているし、それでなくても『世界に通用するエリートを』と国家が謳って作った学校なのである。

 それこそ前世や今生で言うところの防衛大学校よりも更に力が入っているだろうし、あるいは創作の世界であることも合わせて考えると、ファンタジーで言う王立魔導学院と呼ばれるような学校に何も引けを取るところがない格を持っている。

 言ってみれば国家で最も優れた人間が全て集まりしのぎを削る場所なのだ。

 

 まあ実際にはそんなレベルではないのだが、少なくとも政府が打ち出している建前としてはそうなのだ。

 

 そんな場所が普通の高校のような構造であるはずがない、という予想は何もおかしなことではない。

 おかしなことではないが──

 

(……流石にこの監視カメラの数は異常な気もするが……。一挙一動が確認されるような規律に厳しい類の学校、とは思えないけどな。防衛大ならいざ知らず、あの入試と面接でいきなりこの環境じゃあ脱落者が大量に出るだろ)

 

 学校のシステム、どういう系統の学校になっているのかは、これから司が学校生活を送る中で考察していかなければならない。

 

 例えばあくまで難関高校のように厳しい学習内容を課して頭脳的に優れた人材を育てているのか、あるいは学習的な頭脳の良さだけでは不十分だとより頭を動かすようなイベントを利用しているのか。

 あるいは高校ながら大学のように高校の科目に限らず様々な内容を学習し、また様々な問題に対して解決案だったり意見だったりをディスカッションなどを通して考えていく学習方法が取られているのかもしれない。

 

 更にこの世界が小説に描かれたことを知っている司からしてみればメタ的な想像にはなるが、学校内での成績によって階級のようなものが存在し、それを生徒間で奪い合うような特殊な学校である可能性もある。

 流石に現代とほぼ変わらない世界でそんなことは無いとは思っているのでこれはジョークに過ぎないが。

 とにかく、そうした事前知識は今生での親族に止められて仕込むことが出来なかったので、この学校の中で1つ1つ探っていかなければならないのである。

 

 そんな思考を巡らせながら教室に入った司であるが、教室内、そして既にいくらか登校してきている生徒達の様子は、良くも悪くも普通なものであった。

 席が近い生徒で話したり、女子生徒であれば一角の机を占拠してグループを形成していたり。

 普通の中学校を卒業したばかりの子供の姿で、司が想像していたものには程遠い。

 

 司の影響でだいぶイカれた成長を遂げた司の中学校の友人達のような行動を求めていたわけではない。

 朝っぱらから判例をお供に法律の談義をしたり、バカほど分厚い英語の数学の書物を読んだり、あるいは机の上に将棋を並べていたりなんてしない。

 科学誌を読んでいるわけでも、論文の束を読んでいるわけでも、聖書を原文で読んでいるわけでもない。

 

 いくら日本の将来を背負うエリートを育てる学校とはいえ、普通に育ってきた優秀程度の人間がそこまでのレベルに到達しているとは思っていない。

 思ってはいないが、しかし同時に期待していた部分でもあるのは事実だ。

 

 『日本を引っ張り、世界に通用するエリートたちならば、高校に入学した段階で何かしらの片鱗を見せているはずだ』と。

 例えば大学レベルの数学を楽しそうに解いてて友人にも薦めているとか、英語の小説を読んでいるとか。

 だがまあしかし、今のところはそんな様子は全く見られなかった。

 

 とはいえ司が落胆することはない。

 いくらエリートの卵とはいえ、彼らも高校生。

 新しい友人たちとの交流を優先することも当然にあるだろうし、その本当の姿はこれからだんだん見えてくるはずだ、と。

 

 その期待は高育生活最初の一ヶ月で完全に裏切られることになるわけだが、少なくとも司はそんな期待を抱いてこの教室に足を踏み入れたのである。

 

「よう、おはようお隣さん」

「おはよう、よろしく」

 

 そんな司に声をかけてきたのは、ちょうど司の隣の席に座って前の席の女子生徒に声をかけていたチャラい格好の男子生徒だ。

 いささか軽薄で、けれど人好きのしそうな不快感や警戒感を与えづらい笑顔。

 大胆に刈り上げたツーブロックに長い金髪を後ろで縛り、耳にはピアスがついている。

 制服も早速といってはなんだが下品にならない程度に着崩している。

 

(ええー……まじか。いや、能力が高ければそのあたりは気にしない学校、ってことか?)

 

 流石に防衛大学校や自衛隊の高等工科学校なんかよりも格上に位置する高育の生徒としてその風体はどうかと思った司だが、同時にこの世界の前世との違いを思い出す。

 この司が今生きている世界では、歴史か人類のDNAに何があったのか、どうも日本人でも髪の毛や眼の色などが多彩な者がそれなりにいる。

 金髪など可愛い方で、凄くなるとピンクの髪の人間とか普通にいる。

 このあたり確かにアニメやラノベの世界だなと司は昔納得したものである。

 

 とはいえピアスは無いだろうと思いつつも、司はピアスに軽く視線を向けたうえで目視するに留める。

 普通の凡庸な生徒であればそうするだろうから。

 司はこの学校を観察する上で、凡庸な存在として見学することを決めているのだ。

 

「俺は橋本正義てんだ。よろしくな。でこっちは神室真澄ちゃん。そっちは?」

「ちょっと、勝手に人の名前言わないで」

 

 様子から見るに、フレンドリーというか人との距離を詰めることに躊躇いのない橋本が前の席の神室に話しかけ、クールな感じの神室がそれをあしらっていたという状態らしい。

 

「土門司だ。よろしく」

「おう、よろしく」

 

 そう言いつつ橋本は握手を求めるように手を差し出してきた。

 普通の学生だと挨拶をしてもいきなり握手なんかはそうそうするものでもないと思うが、とはいえ求められたら戸惑いつつもするものだ。

 だから司もそうする。

 

(人当たりの良い……というか良すぎるタイプだな。素なのか作ってるのかは知らんが)

 

「土門はどこから来た感じ? 俺は都内なんだけど」

「近いな。俺はS県だよ」

「ふーん、遠くね?」

「まあな。でもこの学校ならそんなこと珍しくないだろ」

「まあそれもそうか」

 

 これについては嘘はついていない。

 司は小学校に関してはホームスクーリングの応用で通っていないが、中学校はちゃんと通った。

 S県のド田舎の中学校を舞台に、ある種の実地訓練をしていたのである。

 ちゃんと生徒として通っていたので、何も間違えたことは言っていない。

 

「神室ちゃんはどこなの?」

「は? なんでそんなこと話さないといけないわけ?」

「普通に初対面だしこんな学校だし、自己紹介ぐらいしときたいなと思ってさ。駄目だった?」

 

 橋本の親しげな言葉に対する神室の態度は非常に冷たい。

 橋本の態度がそうされても仕方ないものである、というわけではない。

 少なくとも一般的にナンパをしているような男性の、相手のことを考えないようなしつこさはまだ司の目から見て取れない。

 一方的に話すだけでなく、神室側の考えを受け入れつつ自分の考えを相手に浸透させていく。

 

 よくも悪くも親しげで相手の懐にうまく入り込むチャラい少年。

 それが橋本の振る舞いだ。

 

 そしてその振る舞いはかなり巧みなものであると言えるだろう。

 現に、橋本をうざがっていた神室も彼の言葉にため息をつきつつも、完全に無視してしまうことはしていない。

 

(器用な立ち回りが出来るタイプ、か。狙ってるにしろ無意識にしろ色々仕込んだら育ちそうだけど、本質の方はどうなんだろうな)

 

 司がそんな風にクラスメイトである相手を見定めているのは、それもまた司がこの学校にやってきた1つの理由であるからだ。

 この高度育成高等学校という、中身がブラックボックスになっている教育機関において、有能に育つであろう人材がその力を発揮し損ねるような場面があれば、スカウトして自分の所属するところに引き込む。

 あるいはそうでなくても特に将来性がある人材ならば、自分のところに抱え込む。

 

 そういう教育機関における青田買い、ヘッドハンティングもまた司の目的の1つであるのだ。

 

「はぁ、H県。これで満足?」

 

 一方の神室という少女については、取り敢えず司は判断を保留した。

 彼女については橋本ほど自分を表に出していないのでまだ何も判断が出来ないからだ。

 取り敢えず橋本に冷たく接しているのだって、軽薄でチャラい様子のある橋本であれば敬遠する女性というのはそう珍しくはないだろう。

 強いて言うなら、すぐ絆されない程度には人に心を許していない点は最低限警戒心があると評価出来るぐらいだ。

 

 こんな評価を同年齢の相手に下すのは傲慢に思えるかもしれないが、司自身が前世含めて実年齢の2倍以上の年齢であることに加えて、今生の司は生半可な人生を歩んできていない。

 それこそこの高育がどんな厳しい教育を課すとしても、それを既に複数回乗り越えてきた程度には豊富な経験をしている。

 あるいは常人が一生で経験し学ぶことを軽く超える程度には、多くを知り経験しているとも言えるだろう。

 

 だからこそ、高育の内部調査及び青田買いというそれなりに重要な役割を背負ってこの高育に送り出されているのである。 

 高度育成高等学校という教育機関、そのある種モデルとなった組織の出身者として、それは司に与えられた権利であり義務である。

 

「早速読書って、土門は結構真面目な感じ?」

「ん? 読書ではあるけど、これはファンタジー小説だよ。真面目かどうかと言われると、ちょっと微妙だな」

 

 橋本が神室にまた視線を向けて絡み始めたことを確認してから本を取り出した司だが、橋本は目ざとくそれを見つけて話かけてくる。

 暇つぶしついでにどの程度橋本という少年に周りが見えているかを観察するためにあえて取り出してみたのだが、見事に釣れた形となった。

 

(結構しっかり周囲を見てるな。これは天然でやってるよりは、観察することに慣れてるタイプだろうな。となると振る舞いも計算づくか)

 

 そんな感想を抱きつつ、司は手にしている本を軽く掲げて見せる。

 

「ファンタジー小説? っていうとあれか、アニメみたいな魔法とか女の子とかの」

「そう言われると語弊があるな。あるからそんな目で見ないでください神室さん」

 

 女の子、と橋本が言った途端に神室の司に向ける視線がゴミを見るようなものに変わる。

 流石にいきなりそんな目で見られるのは司的には困るし普通に堪えるのでちゃんと否定しておく。

 

「多分橋本が言ってるのは、ラノベのほうが近いかな」

「そうそれ、ラノベだ。俺の学校でも読んでる奴らいたぜ? それとは違う感じ?」

「外から見たら似たようなものかもしれんが結構違うよ。ライトノベルと、そうじゃない王道のファンタジー小説は。ハリー・ポッターとか指輪物語とか知らない? 俺が今読んでるのはどっちかというとそっち系」

 

 読書を好まないタイプの人間に、ラノベと王道のファンタジーの説明をしたところでおそらく理解には時間がかかる。

 加えてラノベというのが幅が異常に広く、一般的に言われる女の子とハーレムと無双みたいな小説だけではない、という理由もある。

 そんな説明をしたところで長ったらしくなるだけだ。

 

 だから司は、細かく説明するのではなく有名どころを出して説明することにした。

 ついでにその会話から、神室も橋本も特に2次元の趣味に詳しいタイプではないことを認識した。

 読んでせいぜいが有名どころの漫画といったところだろう。

 こういう情報も、意外とどこで役立つかわからないものだ。

 

 そんな会話をしているうちに教室には他の生徒も集まっていく。

 一度は橋本に読書が中断された司だが、橋本が司と神室に見切りをつけて席を立ち他の生徒に話しに行ったことで再び読書に戻った。

 神室の方はそんな司を一瞥すらせず、退屈そうに机の中にしまわれていた学校に関連する資料を適当にめくっていた。

 

 そして始業のチャイムが鳴ると同時に、教室の扉を開けて担任の教師が入ってきたことで、新入生がもっとも浮足立つと言っても過言ではない入学初日の朝は終わりを迎えた。

主人公土門 司の情報(回想であったり趣味だったり学校内での金稼ぎであったり)について、原作キャラクターが一切絡まない形で描写することについてどう思いますか

  • オリキャラ語りはいらない
  • もう少し話数が溜まってからなら
  • うまく原作キャラとの絡みに混ぜてほしい
  • たくさんあっていい
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