大学受験舐めてんのか   作:オカルトって面白いよね・蠱毒とか

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“たとえ法的には問題がなくとも、普通の市民の立場から見て、おかしいと思われる行動は一切とらない”

ウォーレン・バフェット


第12話 難しいことはない、ただ成功するのは難しいが

 松下が去った音楽室。

 高円寺が置いていった机の上のチェスの駒を手で弄びながら思考にふける司に、神室が睨みつけるようにしながら声をかける。

 

「あんたは帰らないわけ?」

「……帰った方が良いかな?」

 

 心ここにあらず、といった様子の司に神室は苛立ちをつのらせつつ、それを抑え込んで返す。

 

「はぁ? あんたが帰ってくれないと私も帰れないんだけど。

 まだなにかやりたいことでもあるわけ? ピアノでもひくの?」

「そういうわけでは、無いけどな」

 

 しばらくそのまま思考に潜っていたかった司だが、いつまでも待たせていると神室がキレる可能性があったので、大人しく思考を後回しにして帰ることにする。

 司を監視しているのは神室が勝手にしていることだし、もっと言えば指示を出しているのはどうせ坂柳だからそっちに恨みを向けてくれと思わないでもないが、人の心は常に論理的に思考し感じるようには出来ていない。

 

 チェスの駒をケースにしまい、盤と一緒にカバンに仕舞う。

 

「それ持って帰っていいの?」

「六助のものなら大丈夫だろ。

 こんな監視カメラだらけの学校でどっかからパクってくるような迂闊なやつじゃない」

 

 チェス道具を片付けた後は、演奏するために開けていたピアノの鍵盤に布をかけて蓋を閉じる。

 それ以上の手入れなどは学校側がするだろうから不要だ、と判断して司がカバンの所に戻ろうとすると、神室からの視線を強く感じた。

 普段の監視するような嫌な視線とは違う、純粋に何か聞きたげな視線。

 

「どうしたの?」

「……あんた、ピアノなんて弾けたんだ」

「ああ、これね。まあ弾けるよ。

 この学校に来てからは弾く機会なんてそんな無かったけど」

「ふーん……」

 

 そう曖昧に返す神室は、珍しくトゲのない何か言いたげな表情をしている。

 

(そういう表情をしてるとめちゃくちゃ可愛いんだよな。

 大人になったらとんでもない美人になりそうだ)

 

 前世を持ち精神的にも経験的にも成熟している司だが、それでも同年代の女の子を相手に可愛いと思う感性は持ち合わせている。

 ただそれが恋愛方面や性欲方面に出力されることが無いように自分を制御している、というだけで。

 普通に司も、そういう方面に興味がある男の子であることに変わりはない。

 

「……また、弾くの?」

「ん?」

 

 神室の教室でも珍しい表情に司が密かに見惚れていると、何か決心したような神室が口を開く。

 

「ああ、まあ偶に。

 今日はちょっとストレス発散に来たけど、今後も指が鈍らないようにちょくちょく弾こうと思ってるよ」

「そう。……それ、私も聞いても良い?」

 

 神室の言葉に司はようやく合点がいった。

 

 司の音楽は、自慢ではないがそれこそ天性の才と呼べるほどのものがある。

 ただ技術的に秀でているだけでなく、そこに情景や感情、乗せたいものを自在に乗せて観客に届けることが出来る。

 そこに関してだけは、あらゆることに対して超人的な素質とセンスを持つ高円寺も、『君ほど音楽に愛された人間を私は知らないね』と認めている。

 そして司はそれを、たゆまぬ努力で磨き上げた。

 

 そんな音楽を、おそらく一般家庭に育って、それほどコンサート等の生の音楽に触れてこなかった神室が聞けばどうなるか。

 

「もちろん。音楽は演奏者だけじゃなくて、聞く人がいて初めて完成するものだからね」

「……ありがとう」

 

 音楽には力がある。

 それは前世でサブカルがそれなりに好きだった司自身も、知識として持ちまた経験として理解しているものだった。

 故に言葉は不要。

 神室がどう感じたかなどは必要ない。

 

 ただ、『もう一度聞きたい』、と彼女の口から出ただけで十分だった。

 

 加えて『俺のピアノに感動した?』なんて余計なことを聞けば、今度こそ神室はしまい込んでしまう可能性があったため、司は短く返すにとどめたのである。

 

「じゃ、帰ろうか」

「……ええ」

 

 司がそれなりの時間ピアノを弾き続けていたことと、その後の会話などにそれなりに時間がかかったために、外はいつの間にか薄暗くなっていた。

 

(思えば神室さんも松下さんも俺のピアノずっと聞いてたわけか。

 それなりに刺さったんだろうな)

 

 今更ながらだが、最初に音楽室に入ってきた2人がどこか動揺した様子を見せていて、司と高円寺のチェスに口を挟まなかったのも、司のピアノの演奏に大きな衝撃を受けていたからだと考えれば納得出来る。

 

「神室さんはこの後まっすぐ寮? それとも坂柳さん達と合流する?」

「何、いきなり。あんたが気にすること?」

 

 さておき、今は寮へと帰ることについて考える。

 少し気にかかることがあった司が尋ねると、神室はいつものように不機嫌な表情で司を見る。

 先ほどまでの表情が消えたのを少しばかり惜しむと同時に、司は見慣れた表情に妙に落ち着きも感じた。

 司が無意識に落ち着かない程には、不機嫌さの無い遠慮がちな神室の表情は可愛らしかったのである。

 

「寮に帰るとして、神室さん的には俺と一緒に行動してるのってどうなのかなと思って。

 坂柳さんとか橋本とか、あの辺のグループの人に見られても大丈夫?」

 

 司の言葉に神室は少し黙り込む。

 

「……大丈夫でしょ。坂柳にも、あんたに監視してるのがわかるようにしろって言われてるし」

「ああなるほど。それで牽制してるつもりなのかね。

 まあそれなら良いか」

 

 また司が神室に気遣いするような様子を見せた。

 偶に2人きりになったとき限定ではあるが、司はこうして神室に妙に優しく配慮した行動を取るときがある。

 司としては前世自分が精神を病んで苦しんだ経験から精神面に大きな問題を抱える子供達には特に優しくなるというだけだが、それが神室には鬱陶しく、そして気恥ずかしく感じられた。

 

「……それで、さっきの話なんだけど」

 

 しかし今は、そのことについて文句をつけるよりも聞きたいことがいくつもある。

 

「さっきの話の続き?」

「そう。色々聞きたいことあるんだけど」

「……まあ、答えられる範囲でなら」

 

 司の言葉に少し考え込んだ神室は、まずは片付けられるところから聞こうと口を開く。

 

「あんた、あの高円寺ってやつみたいにポイント持ってるわけ?」

「……ここだけの話にしてよ?

 これについてはやたらと広めるのも、坂柳さんとかに報告するのも無しにしてほしい」

「なんで? あんた監視されてても良いんでしょ?」

 

 司の普段の神室の監視に対する態度からは考えられない口止めの言葉に、神室は眉をひそめる

 

「いつもの監視は俺が害を被るだけだろ? でもこの話は、変に広まると他の生徒が厄介なことになる可能性が結構あるからな。

 無闇に広めてほしくない。

 ああ、俺がポイントを稼いでるっていう事実は良いよ。

 その中身が問題ってだけだから」

 

 司の真面目な表情に、神室は一瞬躊躇ったが頷いた。

 どうやってポイントを稼いでいるか言えないのは痛いが、稼いでいるという事実がわかるだけでも十分だと考えたからだ。

 

 ただ、そこで少しの悪戯心がでた。

 司に押されっぱなしだったことから来る、ちょっとした反抗心のようなものだ。

 

「じゃあ、高円寺みたいにポイントで口止めしてみたら?」

 

 そう言った神室に、司はじとりとした目を向ける。

 

「そもそも話すかどうかを決めるのは俺だからな?

 その脅しが出る時点で話さないって選択肢を選ぶよ」

「あっ……そう、よね」

 

 司が真面目に頼み込んだ、という状況から神室は勘違いしたが、場の主導権を持っているのは司である。

 そのことを失念していた神室は、表情を青くする。

 実際のところ彼女には興味以上のものはないので聞く必要は無いわけだが、自分の間違いを指摘されると弱くなるのが人間だ。

 

「ごめん……」

「……はぁ」

 

 ため息をついた司に神室がビクリを肩を揺らす。

 ここで話さないというのは簡単だ。

 別に話す義務は司にはないし、これについては生徒に適当に教えたいようなことでもない。

 どうせ話すならしっかりと話すような内容だ。

 

「まぁ、そういうくだらない駆け引きは今後もあるかもしれないけど、ちゃんと話の流れとか目的は見失わないようにね?

 自分の目的を明確にして話を有利に進めるのは交渉の基本だ。

 相手の逆鱗に無意識に触ってちゃ意味ないよ。

 地雷を踏む時はちゃんと意識して踏むこと」

「……わかった」

 

 ただ一方で、話さない理由も大してない。

 そして司は基本的に、純粋な子供相手には優しい。

 それこそ監視の人を送り従えようとしてくる坂柳相手でも、彼女が求めるならば教え導いてやろうと思う程度には。

 

 上から目線になってしまうのは、成長の支えになる気はあっても、今の坂柳の意思のように支配する手助けをするような形で支えるつもりはないからだ。

 あくまで先達として道を示す。

 それが司のスタンスである。

 

「で、話を戻すけど、ポイントは大して持ってない。

 でも資産っていう意味なら持ってる、っていうのが正確かな」

 

 話すかどうか司が悩んだのは、自分がポイントを増やした手段である投資というのを、この子供が自分で全ての金(ポイント)を管理する学校で広めても良いのか、という懸念があったからだ。

 

 投資というのは、正確な知識がなければただのギャンブルだ。

 あったとしても普通に失敗するものでもある。

 そんなものが自制心が薄くまだ思慮の浅い子供の間で広まると、ろくなことにならないのではないかということは簡単に予想出来る。

 

 だから今のように面と向かって話すつもりはあっても、伝聞で伝わるのは良しとしない。

 

「資産? それって、お金を持ってるってこと?

 ポイントじゃなくて本物の?」

 

 一方神室は、資産という単語自体に聞き馴染みが無かった。

 そもそも一般家庭出身の神室が触れる資産は自分のお小遣いなどのお金がせいぜいだ。

 それ以上の想像は、そちらへの興味や知識がなければ難しい。

 

「資産っていうのは、金銭的な価値があるものを指す。

 お金もそうだけど、他には株や債権なんかの証券とか、不動産、つまりは家とかビルとか、車とかもそうだな。

 俺はこのうち株と、後は仮想通貨を所持してる。

 もちろん入学前からとかじゃなくて、ちゃんとこの学校の管理下で」

「……聞いてもよくわからないんだけど。

 どういうこと? 株ってあの株? 会社とかの株価が上がった下がったって言うやつ。

 ポイントで買ったわけ?」

「まあ、そのあたりは時間がかかるから、また時間があるときにでも聞きたかったら教えるよ。

 取り敢えず『高円寺みたいにポイントを持ってるのか』って質問にちゃんと答えると、ポイントという形では持ってないけど、それ以外の形で持ってる、ってことになる」

 

 うまく飲み込めていない神室だが、司関連では理解できないことも取り敢えず受け止めて後で考えようという意識が出来ていたため、完全に黙り込むことはなかった。

 

「結局あんたは今お金持ちなの?

 ポイントだから金じゃないとか言ったら許さないから」

「お金持ちだと思うよ。

 大金持ちと言っても過言じゃないと思う」

「どうやって増やしたわけ?」

 

 高円寺のプライベートポイントで免疫がついていた神室は、司が金持ちであるという点では動揺しなかった。

 つまり高円寺や司が、何らかの手段で稼いでいると理解したのだ。

 

「仮想通貨と株式の投資で。

 運良く仮想通貨が跳ねて大儲けして、後はそれを株式でコツコツ増やしてるって感じかな」

「そんなこと出来るの? 投資って、大人がやることなんじゃ……」

「まず株とか仮想通貨をやるには口座、アカウントが必要になる。

 そしてこれが年齢制限があるから本来は俺が自分では出来ないんだけど、その辺は先生に頼んだらやってくれた。

 だから、今は出来てる。

 後はお金があれば投資すること自体は出来るよ」

 

 ただ、と司は続ける。

 

「ただ、投資には知識と金が必要だ。

 そしてどれだけ知識があったとしても、失敗して損をすることはある。

 実際俺もそれ以上に稼いで補填はしてるけど、100万単位で損してるよ。

 だからあんまり簡単に広めたくは無い。

 俺みたいにポイントに余裕が出来てやるならまだしも、ポイントに余裕が無い生徒が軽い気持ちで手を出すと損することになるからな。

 それで暴れたり周りと揉めたりしたらもう学校どころじゃなくなる」

「……あんたには、その知識があったの?」

「まあね。高円寺と知り合いだってことからわかると思うけど、俺も一応それなりに良い家の出身なんだ。

 だから昔から投資の勉強が出来て、今回は運良くそれがうまくいっただけ」

 

 実際には仮想通貨については前世知識でこのあたりから一山あると思ってぶっこんでいたのだが。

 

「……それ、私でも出来る?」

「出来るのは誰でも出来るよ。教師に頼めば口座作ってくれるし。

 でも投資で稼ぐのはめちゃくちゃ難しい。

 投資をすることと、投資で金を稼ぐっていうのは別にすべきことなんだ。

 最低限の勉強もなしでやるっていうなら全力で止めるし、勉強したとしても大して資金に余裕がない現状でやるっていうならやっぱり止めるかな」

「ふーん……。とにかく人に辞めたほうが良いっていう方法であんたは稼いだってことね」

 

 神室の言葉に司は笑いながら答える。

 

「そう言われると痛いけど……まあそうかな」

「……取り敢えず今は詳しくは聞かないから。聞いても理解できないし。

 でも時間があるときにちゃんと教えて。

 お礼にご飯1回ぐらいなら奢るから」

「良いよ。対価も別になくてもいいけど……普通の頼み事じゃなくて何かを学ぶなら友人間でも対価を支払うのは妥当か。

 うん、また時間があるときに興味があったら教えるよ。

 今日はもう寮についちゃったし」

「え?」

 

 司の言葉に神室が視線を正面に向けると、確かに2人はいつの間にか寮の前についていた。

 司の言葉に神経を集中させていた神室は気づかなかったのである。

 

「あっ……」

 

 神室はまだ聞きたいことがあった。

 それも先に済ましておこうと思った話が思っていたよりも大事だっただけで、本題は今から聞こうとしていた内容の方だ。

 

 故に神室は、司が口を開く前に言葉を重ねた。

 

「あんたの部屋、行っても良い?」

「……は?」




僕が転生して過去に戻るならまず株と仮想通貨を見ます。
金があったら大体のことは出来ますからね。


アンケートですが、綾小路は退学しないほうが良い人が多いようですね。
まあ退学したらストーリーからいなくなっちゃうからね……。
取りあえず本作の一区切りとして1年生の最後辺りを考えてるので、その辺りでどうするかまた考えます。


次回からはまた日付を進めていきます。
でもこうやっていろんな豆知識とか話してる話も楽しいんですよね。

他のキャラクター視点(一人称の地の文という意味ではなく、司がいない場面で、ということ)での描写を読みたいですか? 例えば松下が中間試験への対策に奔走する姿を松下視点で書くのか、あるいはいつも通り司が後から聞いたという形で書くのか。司という異物への、司が居ない場面での反応(例えば神室と松下が2人で話してる場面等)も含めて、視点を統一するべきか色んなキャラの目線を書くべきか悩んでいます。

  • 司中心で、司が見聞きした情報で良い
  • 他のキャラクター視点の情報もみたい。
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