大学受験舐めてんのか   作:オカルトって面白いよね・蠱毒とか

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“待っていては駄目だ。
「完璧なタイミング」など永遠に来ない。
今あなたが立っている場所から、今持っている馴染みの道具を使って始めなさい。
より良い道具は、あなたが進むにつれて現れるだろう”

ナポレオン・ヒル


第18話 学びは知識がものを言う

 2人の了承を経て受験勉強の話に話題を戻した司は、個人的におすすめの科目について触れていく。

 今度は先程のように一般論に終止することなく、個人的な感想にも触れるつもりだ。

 

「おすすめの科目は、社会系は世界史、日本史、理系なら物理と化学だな。

 もちろん文系なら理科系は基礎科目だけになるし、理系なら社会系は1科目で良いけど、取りあえず勉強しておくならその4つをおすすめするよ」

「日本史と世界史、物理と化学か。これだよね、参考書」

「メモしておきたいから紙貰えない?」

 

 松下は司が机の上においた参考書を軽く眺め、神室は司の言葉をメモしておくために司にメモが出来るものを求める。

 

「もちろん、はい」

 

 神室にメモ用紙とペンを渡してから、司は細かい説明に入る。

 

「社会のうち世界史と日本史をおすすめするのは独学がしやすいからだ。

 というかむしろ、地理と倫理政経が独学だとやりづらい。

 だから独学主体になる2人なら、日本史世界史が丸いと思う。

 日本史と世界史って、結局のところ教科書に書いていることと単語集をどれだけ暗記するかだからね。

 暗記する内容自体は他2つに比べて多いんだけど、センター試験レベルなら暗記さえ出来ればオーケー。

 二次試験でも暗記した内容を活用する方法を学ぶだけだから、結局暗記力がものを言う。

 単語だけじゃなくてときには時系列とか出来事の繋がりを覚える必要があるけど、それも思考力とは言いつつ暗記で処理出来る。

 もっと言うと、『そういうものだ』って覚えてしまえば済むって感じかな」

「……聞いてると大変そうなんだけど、それが簡単なの?」

「簡単ではないけど、勉強がしやすい。

 高校以上の勉強をやってると、『頑張れば覚えられる』っていうのがどれだけありがたいかわかってくるよ。

 大半の教科に、『頑張っても理解が難しい』こととか『暗記力ではどうにもならない思考力』を問う問題が出てくる。

 

 2人の理解が追いついていない様子なので、司は先日の小テストの問題を机の上から持ってくる。

 それは学校の教科書の問題には掲載されておらず、学校で習った知識を集めてつなぎ合わせて自力で導き出すしか無かった数学の応用問題だ。

 

「この難問とかそうだ。

 知識として覚える以上に、問題を解く時にその問題に対して思考を巡らせて解くしかない問題。

 数学とか物理、現代文あたりだとそういう問題が難しくなるほど出てくる。

 そしてそういう教科は、どれだけ頑張っても点数が伸びなかったりして勉強してて結構きついんだよ。

 後は範囲が全範囲で膨大な英語とかも。

 その点化学の知識の部分と、日本史世界史ってのは暗記さえすれば点がしっかり取れる。

 わからなかったところが明確になるから、どこを勉強すれば良いかもわかりやすいしな。

 だから受験生にとっては、メンタル的にも安定して成績が伸ばせるっていう意味でありがたい教科なんだ」

「考えてもわからない問題、ね。私もその問題は確かに解けなかった」

「私も解き方思いつかなかったんだよね。

 解説も読んだけどそれでもまだ理解出来てるかは微妙だし。

 それと比べれば、覚えるのは大変だけど覚えれば確実に点数が取れるから、楽ではないけど勉強しやすい、ってことだよね」

「そういうこと」

 

 日本史世界史は、点数が取りやすいのだ。

 他の教科との兼ね合いやなるべく時間をかけたくないと地理を選択する生徒も多いが、確実に点を取りたいなら世界史日本史の暗記教科2本立てが良い。

 馬鹿だから暗記が苦手、とか言うが本当は違う。

 馬鹿だからこそ、やれば出来ることをするべきなのだ。

 

「ちなみにこれって、Aクラスの人たちはどれぐらい出来てたの?

 Dクラスでも90点が2人と100点が1人いたんだけど、Aクラスはもっと凄いよね?」

 

 小テストの問題が出たついでに松下は、気になっていた各クラスの小テストの成績について神室に尋ねる。

 

「100点? Aクラスでも1番高かったのが95点でそれが1人だけよ。

 90点は10人ぐらいいたけど。

 Dクラスって、馬鹿……あんまりテストの点数良くないんじゃないの?」

 

 しつこく絡んでくる橋本や支配しようとする坂柳と違って、松下に対しては神室は嫌悪感を抱いていない。

 以前までは周囲全てに敵意を向けていた部分もあるが、自分のそれが育った環境に由来することだと知ってある種苛立ちから吹っ切れた部分もあり、今では以前ほど神室は周囲に対して無差別な不快感と拒絶感はない。

 無論落ちこぼれと評されそれを更に下回る言動をする大半のDクラスの生徒や、自分を見下して接してくる坂柳にしつこい橋本等相手よっては辛辣な対応を取ることも当然あるが。

 

 だが松下は、少なくともその括りにはない。

 見知らぬ他者を落ちこぼれだと見下せても、見知った相手をそれらしき言動が無い中で見下せるほど神室という少女は落ちていない。

 

 そのため咄嗟にマイルドな言葉に置き換えて、Dクラスに対する評価を口にする。

 松下には聞こえてしまっているが、それを蒸し返すほど松下は自分自身に対する無駄なプライドは持っていない。

 司や松下、椎名との交流で多少角が取れつつある神室の様子に、司は嬉しそうに目を細めながら2人のやり取りを見守る。

 

「全体的には凄く低かったけど、何人か頭良い人がいるみたいだよ。

 100点を取ったのは高円寺君だから例外だけど、それでも2人は勉強が凄くできるし……なんでだろう」

「……また話が逸れるから、そのことについては後で話すわよ。

 あんたもそれで良いわよね?」

「もちろん。それじゃあ先にこっちの話をしてしまおうか」

 

 また何か学校側が仕掛けていることに気づきかけた2人だが、さっき同様に脱線しないように話を戻して司の方を向き直る。

 

「じゃ、日本史と世界史をおすすめする理由は言ったから、今度はおすすめしない2科目の理由だな。

 倫理政経と地理は、ぶっちゃけセンター試験レベルでは日本史世界史より短時間で高得点が狙えはするんだ。

 だけど、さっき言った通り理解とか解釈が必要になるのが多いし、学校で教師がしっかりと授業をやってくれるのが前提。

 独学がとにかくやりづらいんだよ。

 これに尽きる」

「私達が独学が主体になるからその2つは向いてない、ってことだよね。

 じゃあ授業があったらその2つでも良いの?」

「もちろん。授業がある前提で行ったら極論どの教科を選んでもいいからね。

 まあそれでもやれば取れる歴史系よりはコツとかがいるけど、教える人がいるといないとじゃ雲泥の差だ。

 理系志望の学生が理系科目に時間を割くために時間がかからない地理を選ぶとかは良くあることだしね。

 独学しやすいかっていうのは結構大事だよ」

「そんなに独学しにくいの? 中学校の頃はそんなに難しかった覚えないわよ」

「中学はまだ優しいレベルだからね。

 でも片鱗はあったと思う。

 歴史はとにかく暗記すれば良かったけど、地理の範囲の問題になるとグラフとかを自分で読み取って解答する問題が多かったでしょ?」

 

 司が軽く開いた地理の問題集のグラフを見て2人が頷いているのを確認し、司は話を進める。

 

「地理って、歴史科目みたいに知識を暗記するだけじゃなくて、その知識を元に問題を読み解いて、そして問いへの答えを思考するっていう問題が多いんだ。

 例えばグラフとかは、全く同じグラフが出てくるんじゃなくて、グラフを読み解く知識を使ってグラフを読んで、そこからわかることを持ってる他の知識とすり合わせながら明確にしていく、とか。

 で、そうなってくると必要なのは知識の暗記だけじゃなくて、その知識からわかることはなんなのかという理解、思考力。

 独学で参考書だけを主体でやるとこれを間違って解釈したりして覚えてしまう危険性がある。

 授業でやってるなら教師に聞くことが出来るし、授業でも教師がわかりやすく説明してくれるから良いんだけど、独学にするとこのあたりに齟齬が出てくる。

 倫理政経も同じだね。

 解釈とか理解とかがズレてしまうと大変なことになるけど、教師がいないとそれが合ってるのか間違えてるのか、正しい解釈をしてるのかすら悩んでしまうこともある。

 だから地理と倫理政経は、独学には向いてない。

 その点世界史日本史は、本当に覚えてしまえさえすれば良い。

 勉強のしやすさが段違いだ」

「勉強のしやすさ、かあ。あんまり考えたこと無いけど、向いてる教科と向いてない教科みたいな感じかな?」

「そう考えてくれても良いよ。

 結局俺がこうやって薦めてるのも、素質に関係なく成果がだしやすいものってだけで、例えば地理が凄く向いてて独学でも高い点数が取れるなんてことはあるからね。

 倫理政経も一緒かな。

 向き不向きが出やすい科目だ」

 

 結局は向き不向きの話にはなるのだが、こればかりはやってみないとわからない。

 その生徒が暗記を得意としているのか思考を得意としているのか、自分では得意だと思っていても実はそんなことはないのか、気付いてないけど得意だったのか。

 そんなことがわからないと真に最適な教科を選ぶことは出来ない。

 

 だから取りあえず、素質が無いと仮定して取るならば、という万人に取りあえずおすすめしておく科目を司は伝えている。

 

「あとはまあ参考書かなあ。

 日本史世界史は極端な話教科書があったら勉強出来る。

 ちゃんと覚える部分とかは考えないといけないけど、全部一冊の教科書に入ってる。

 けど倫理政経だと、まずジャンルがいくつかにわかれるから教科書だけで複数になる。

 地理だと資料の種類で資料集も複数になるしね。

 加えて、さっき言った通り地理と倫理政経は知識を元に思考力を試す問題が多いから、問題を解く練習を繰り返す必要がある。

 だから複数の教科書、参考書から覚えるべきことと思考の方法を学んだ上で、それを問題集でアウトプットすることになる。

 シンプルに煩雑なんだよね、やるべきことが。

 取りあえず教科書丸ごと覚えてれば良い歴史とはその辺りの手間も違う」

「それは大変そうだけど……でもそれでも地理を選ぶ人はいるんだよね?

 それも教えてくれる人がいるからなの?」

「大体はそうだね。

 たくさんある資料の中から必要なものを、何故必要なのか理由を含めて教えてくれる。

 色んなグラフや表なんかの資料を、どこに注目して見れば良いのか教えてくれる。

 どの知識をどういう場面で使えば良いか教えてくれる。

 そういう意味で、教えてくれる人は重要だ」

 

 そう司の説明を受けてもどこか腑に落ちない表情をしている松下。

 そんな彼女を横目に、神室は司が机に並べた参考書を手に取る。

 

「じゃあこれも一冊では駄目なの?」

「いや、それ一冊やれば取りあえずセンター試験は結構取れるっていう参考書だね」

「は?」

 

 きょとんとする2人。

 

「一応それみたいに、独学でも大丈夫っていう参考書自体はあるよ。

 それこそ授業をしてるみたいに読みやすくまとめてくれてる参考書とかもね。

 参考書が教師代わりみたいな感じかな」

「じゃあ別にこれでも良いんじゃないの?」

「土門くんが薦めないってことは、なにか問題がある?」

「いや、それ自体には問題は無いよ」

 

 そう言いつつも、司は別の地理の参考書や資料集、問題集を複数棚から持ってきて机に置く。

 

「まずその参考書は、センター試験レベルまでのものだ。

 だからセンター試験を狙うならそれをやってれば良い。

 ただ二次試験となると話は変わってくる。

 より思考力や応用力を問う問題が出るからね。

 そうなると参考書もそれじゃあ足りない。

 資料集も読み込んで知識を増やす必要もあるし、それをアウトプットする練習も必要になる。

 てなるとやっぱり煩雑になってくる。

 それに二次試験だと長文で記述しないといけないから、その中で論理を組み立てないと行けない。

 日本史世界史だと知識を繋いで書けば良いけど、地理だと論理的に書けてるのか、おかしな部分は無いのかを自分で判断しないといけなくなる。

 色んなものを漁って、今自分が何をすべきなのか、何が足りないのか、それをどうやって身につけるのかを全部考えながら勉強しないといけないのは、ひたすら勉強に打ち込みたい受験生としては余計な手間だしストレスになる」

 

 そして今度は、机の上においた世界史の教科書を手に取る。

 これは原本が一般では買えなかったので、中古品を購入したものだ。

 

「その点世界史日本史は美しい。

 勉強しやすくまとめた参考書なんかはたくさんあれど、必要なことはほぼ全てこの一冊の中に詰まってる。

 センター試験レベルもそうだし、二次試験だからって新しい知識をいれる必要もない。

 とにかく覚えたものが全ての土台になる。

 だから俺は日本史世界史をおすすめするし、ついでに言えば個人的な好みとしても好きだ」

「そ、そうなんだ……」

 

 先日どうでも良いことのように学校の瑕疵を指摘した時とは違い、熱のある口調で語る司。

 その熱量には、司ほどなにかに打ち込んだ経験もなく、また勉強でもそこまで真剣にはなっていない神室も松下も、若干押され気味になっている。

 

「じゃああんたの好みとしては世界史日本史だけど、地理でも良いのよね?」

「もちろん。というかおすすめの科目を言っておいて何だけど、2人は取りあえず1番初心者向けの参考書で全部触ってみたら良いと思うよ。

 そこから気に入ったのをすれば良いわけだし」

「それで良いの?」

「あんた時間が足りないって言ってたじゃない。

 そんなことしてる暇無いでしょ」

「そりゃあ全教科を受験で使えるぐらいに仕上げればね。

 でも序盤を軽く触ってみるぐらいならそんなに時間はかからない。

 それにここ以外の高校でも、1年生のこの時期からガチガチに受験に向けた勉強をしてるところは稀だ。

 それこそ凪とか開進、女子校だと桜陽あたりの進学特化の学校はもう始まってるだろうけど、一般的な進学校でも受験に向けた勉強がしっかり始まるのは2年生になってからがほとんどだろうね。

 1年生はまだだらだらと学校で出される宿題をしながら授業を受けてるぐらいじゃないかな?

 そう考えると、この段階から独学とは言え受験勉強を始めようとしている2人はまだ多少の余裕はある。

 まあ学校の時間が無駄になる分結構時間的な制約はきつくはあるんだけど、その辺りはちゃんと受験という目的意識を持って3年間やれればどうにでもなる」

 

 学校で勉強をする時間が受験に全く繋がらないというのは大きすぎるデメリットだ。

 その点この高育の生徒は他の学校の生徒に何百歩も遅れを取ることになる。

 

 だが一方で、一般的に進学校と言われる学校でも、1年生の段階から明確に受験を意識した勉強を始めることはそうない。

 生徒の継続的集中が保たないというのもあるし、学校側もそれぞれ上の学年に注力する部分が多く、3年間フルでは取り組めないというのもある。

 その結果1年生は取りあえず学校で行われる授業をなんとなく受けて、2年生から徐々に、2年生の3学期から3年生になってエンジン全開で受験勉強に突入していくというのが大抵の高校生の通る道だ。

 

 それを考えると、1年生の段階から3年間をかけて、かつ明確に受験を見据えて勉強を始めれば、独学でもやれないことはないと司は考えている。

 特に2人はもともとそれなりに勉強が出来る方のようなので尚更だ。

 

「理想としては、夏休みいっぱいまでに、勉強する感覚を掴んだりそれぞれの科目について知るために色々とやってみるのが良い。

 で、夏休み明けから本格的に絞って各科目の勉強を始めるってのが良いと思う。

 自分で選んだ教科なら納得感もあるだろうし、勉強しやすい科目を選んだほうが良いだろうしね」

 

 この学校の夏休みがどうなっているかを司は把握していないが、今のこのエリート育成のための特殊な学校とは思えない有り様ではなにもない余暇になる可能性もあるし、あるいは司が想像していたような生徒を勉強面以外で高めるための特殊なカリキュラムが存在する可能性もある。

 いずれにしろ区切りとするなら、夏休み前より夏休みいっぱいとして、その後から勉強に集中してもらうのが2人としても区切りがついて良いだろう。

 

 神室と松下がその言葉をメモしているのを見ながら、司は話を本題に戻す。

 

「まあ取りあえずその辺の話は教科の話が終わったあとに詳しく話すとして。

 一旦話を地歴に戻そう。

 地理はさっき言った感じで、おすすめはしないけどやってみたら案外勉強しやすいかもしれない。

 だから本当の意味では、やっぱり2人の選択次第だと思う。

 ただ、倫理政経は受けられる大学が減るから本当におすすめはしない。

 倫理と政経の2つにわけたら尚更ね。

 2年とか3年になって受験する大学とか目指したいところが決まってから、2科目目の地歴公民として短時間で点数が狙える倫理政経をやるのは良いけど、1年の最初からやるものではないかな」

「社会系なら何でも良いってわけじゃないの?」

「じゃないんだなあこれが。

 うちは化学が二次試験で必須ですとか、うちは社会科目は倫理政経は認めてないんですとかは結構ある話だよ。

 一応社会科目に現代社会っていうのもあるけど、俺が全く上げなかったのもそれが理由。

 使えない大学が多いんだよね。

 倫理政経もまだましだけど、それでもいくらか制約がつく。

 だったら2科目選ぶなら日本史世界史地理からの3択だね」

 

 ただね、とそこで司は改めて2人に自分の話の前提を確認する。

 

「最初に言った通り、選択科目はまず2人の受験したい大学に影響されるんだ。

 例えば理系に進むって決めたら社会は1科目で良くなるから、わざわざ2つもやらなくていい。

 更に理系なら二次試験の社会科目は無いから、さっき言ったみたいな問題を無視して地理をやることだって出来るし、なんなら倫理政経だって選択肢に入ってくる」

「土門君が薦めてるのは、それを決めるまでに取りあえず勉強しておくべき教科ってことだよね」

「加えて俺の好みが多分に入ってる、って感じかな。

 結局のところ俺の好みは、昔から頭脳を鍛えて勉強もやってきて、暗記能力も思考能力も同年代の中では特に高い俺が好みで選んでるに過ぎないところがある。

 2人は頭の回転とか良さそうだから心配ないとは思ってるけど、それでもちゃんと選ぶならやっぱり2人の得意分野にあったものを選んでほしい」

「……具体的には? それぞれの教科の特徴も、あんたの見解も含めて教えて貰えない?」

 

 神室の問に司はためらいなく頷く。

 無論、せっかく教えるならそれぐらいの話はするつもりだ。

 

「もちろん。

 日本史世界史は暗記内容がとにかく多いね。

 多少出来事の流れとかの考える系の問題もあるけど、そこも知識でカバーできる程度しかない。

 あとは世界史と日本史の差で言うなら、地域差があるかどうか。

 日本史は日本の中の出来事だから時間軸を1本にまとめて学べるけど、世界史の場合は範囲が広い。

 今の中国の場所で大国が出来てる間に、ヨーロッパの方でも国が出来てたりする。

 そういう離れた地域で何が同じ時期に起こってたのかっていう部分を世界史では気にする必要がある。

 年代を覚えてしまえばそれまでだけど、全部年代を覚えるよりは同じ時期に起こってたことをつなぎ合わせて複数の時間軸を覚えた方が楽だっていう人もいる。

 それとこれはめちゃくちゃシンプルな話だけど、世界史はカタカナで日本史は漢字の単語ばっかりだ。

 これも覚えやすさに差があるっていう人は結構いるから、割と大事な要素かもしれない

 まあどっちもとにかく暗記する教科だね。

 暗記が得意ならおすすめだし、苦手ならきついかもしれない」

「……結構差があるのね」

「ちなみに土門君的にこのうちどっちがおすすめとかは……」

「完全に好みで世界史。

 あちこちで異なる時間軸が走ってるのが俺は好き。

 ぶっちゃけこの2つの差は、他の地理とか倫理政経と比較した場合と比べて遥かに小さいからね。

 それ以上に言えることがない」

 

 強いて言うなら、複数範囲が繋がっている世界史の長文記述問題なんかは割と楽しい部類に入る。

 前世では中央から西アジアあたりの問題を出されて、ひいひい言いながら400字埋めたものだ。

 

「地理は、知識に加えて思考力が必要になる科目だ。

 例えば『Aという国は〇〇と△△という産業で発展している』という事実があったときに、それを覚えるだけじゃなく、『何故その〇〇と△△という産業が発展したのか、隣り合う国で発展してないのは何故か、その産業が発展した結果Aという国は国際的にどういう立場にあるか』みたいな思考をしないといけない。

 センター試験とかで良く出る問題だと、色んな国の貿易データが出されて、そこからどの国がどこか選ぶ問題とかが結構多いかな。

 あの国は石油たくさん出てるかわりに他の産業貧弱だったよな、とか、あの国は石油もあるけど観光業も発展してたよな、とか、あの国は工業製品たくさん輸出してる代わりに食料輸入してるな、とか。

 更にそれらの国がどこにあるからそういう特徴を持ってるのかとか、気候とか自然のことまで考えないといけない。

 そういうのを、数字でしか無いデータから読み取って思考する科目だ。

 暗記量自体は日本史世界史よりも少ないんだけど、その事実から思考を巡らせるという意味では歴史科目よりはるかに難しい。

 世界史なら流れとか理由も含めて暗記でいけないことはないけど、地理はむしろそっちが主題だから全部覚えるのは無理だ。

 思考力を確実に必要とする教科だな。

 ただ知れば世界に目は向くから、受験勉強じゃなくても普通に面白いと思う。

 神室さんなら、勉強の前にそういう系統の本を読んでみても良いと思う。

 普通に読み物として面白いものが多いと思うからおすすめだよ」

「本って、読書? 神室さんって読書好きなの?」

「私は別に……ただ少し読んでみようと思ってるだけ」

「ふーん……私も読書してみた方が良いかな?」

 

 神室が司から読書を薦められて椎名に本を紹介してもらってまだ数日しか経っていない。

 読書の深みにはまるにはまだ時間がかかる。

 

「読書はおすすめするよ。割と真面目に。

 ま、それは後にして最後に倫理政経の話だな」

 

 そして最後に、実は司があまり推奨していない倫理政経の話だ。

 と言ってもそこには多分に私情が混ざっているのだが。

 

「倫理政経はちょっと特殊だ。

 まず倫理と政治・経済の2つの科目が合体した科目な上に、更に政治・経済も政治と経済の2つに分かれる。

 つまりこの3つのジャンルを勉強する必要がある。

 このうち倫理は理解や思考力、問題文の読解力が結構問われるジャンルだ。

 これは世界史のなんちゃって理解力とかとは全く別の、『問題文が何を求めてて、それに当てはまる思想などはなにか』っていうことを考えないといけないタイプの思考力だ。

 ぶっちゃけ1番きつい部類だ。

 地理はまだ論理的に考えればわかるけど、倫理は思想とか哲学の話だから文章が読めても理解できない場合がある。

 それもしっかりやれば大丈夫な程度のものなんだけど、それでも求められる思考力、理解力は結構高い。

 しかも地理の正解のルートがあって辿れば良い思考と違って、倫理は内容をそのまま理解する必要が出てくる。

 地理だと『ここがわかればわかる』ってのがちゃんと自分でも理解できるが、倫理は下手すると何が理解できてないのか理解できない、なんてことになりかねない。

 こればっかりは、まともに教えられる人間に教えてもらうべきだと思う。

 講義みたいな形の参考書もあるけど、参考書は聞いても答えてくれないからな。

 参考書の説明が理解できなかったら苦しくなる」

「そこまで難しい教科なの? 実際にそれで受験する人もいるんでしょ?」

「実際点は取れはすると思う。

 むしろハマれば8割は取りやすい。

 普通に使ってる人もいるしな。

 ただ他の科目と比べても、適性がもろに影響する科目だ。

 合わないと本当に点数が伸びない。

 そもそも難しい哲学とか理解できないとか、ふんわりした思想を自分で思考してると絡まってしまうとかな。

 多少知識を入れたところで、問題が解けないんだから意味がない。

 だからまあ、他の科目もあるし無理して使わなくて良いと俺は思ってる」

 

 実際点数は短期間で取りやすい。

 それこそセンター試験で8割程度ならばどうとでもなる。

 それ以上を目指すのが厳しいだけで、十分に選択肢に入る科目だとは思うのだ。

 

 だがそれでも、司は倫理政経が、特に倫理が気に入らない。

 だが今はそれを吐露するときではないし、それ以前に科目としてもやはり勉強するのはおすすめしづらい。

 

「政治・経済は割と点が取りやすい。

 普通に覚えて問題を解いて問題の形式に慣れれば高得点が狙える。

 ぶっちゃけ政治・経済だけなら1番簡単なジャンルだ。

 まあだから倫理と抱合せにされてるんだけどな」

「なるほど……」

 

 司の説明を受けていた松下は、いつの間にか司が机の上に置いておいた倫理の参考書を開いている。

 軽く目を通してどんなものか考えているのだろう。

 

 一方神室は、司が一方的に説明した内容のメモを改めて見返して司に質問を返す。

 

「……取りあえず全部やってみれば良いのね?

 あんたも合うか合わないかみたいなことは言ってるし」

「うん、それをおすすめするよ。

 それぞれの科目で読みやすい講義風の参考書とかあるから、まずは軽くそれでやってみて合うか合わないかを考えれば良いからさ」

「……わかった」

 

 結局結論はそこになるのだ。

 司のおすすめはもちろんあるが、それは2人の適性次第。

 そしてそれは、実際に勉強をやってみないとわからないものだ。

 故に結局、2人には自分でやってみて選んで貰うしか無い。

 もちろんその過程で司もアドバイスはするが、2人の適性を診断するには時間がかかるし、主観もまた納得として必要なものなのだ。

 

「で次は理科系かな。これは────」

 

 その後続けて理科系についても司は説明する。

 こちらもまた各教科の特徴と、その中での司のおすすめをあげる。

 もっともこちらも化学は一応やっておくとして、結局は物理生物の選択は適性次第、本人の好み次第というしかないのだが。

 

 司としては理系ならば数学と絡む物理の方が似ていてやりやすいかとも思うのだが、あるいは2人が文系を志望したならその必要もない。

 結局好み次第、進路次第になってしまうのだ。

 

 故に高校の文理選択とそれに伴う科目選択は大事なのだが、この学校にはそれがない。

 なんとも、頭のおかしい学校である。

 もちろん悪い意味で。

 

 なお地学は受けられない大学が結構あったりするのとマイナーなのでおすすめはしなかった。

 

 

 それが終わった後は、各教科でおすすめの参考書や問題集について軽く触れることにする。

 全力で触れるには少しばかり時間が無いからだ。

 具体的には昼食が迫っていた。

 というか既に12時目前だ。

 

「もう時間が無いから、各教科の勉強法は軽く説明だけしとこうか」

 

 予想以上に社会と理科の選択科目で話しすぎたと反省する司だったが、松下と神室はそのつもりではなかった。

 

「土門君が良かったら、お昼ご飯の後もお願いしたいなって思うんだけど……駄目かな?」

「何か用事でもあるの?」

 

 2人としては結構真剣に話を聞いていたので、昼食を挟んでからも司に教えてもらいたかったのである。

 流石にそれを当たり前として求めることはしなかったが、2人はその流れかと思っていたので戸惑った。

 

「え、いやまあ予定は、あるにはあるけど……むしろ2人は良いの?

 2人の時間があるならちゃんと説明したいけど……でも退屈じゃない?

 こうやって話ずっと聞いてるのって」

「私はむしろ楽しかったよ。知らないことをたくさん知れたから。

 けど土門君に予定があるならそれの邪魔したいとは思ってないからね?」

「私も。

 普通にためになったし、勉強も別に嫌いじゃない。

 忙しいなら、また空いてる時に教えて」

 

 むしろ自分が話しすぎたと2人が嫌になることを懸念した司だったが、神室と松下は司の予想以上にやる気に溢れていた。

 

 そもそも2人は、自分から危機感を感じて司に勉強を教えてもらいに来ている。

 加えて、それだけだと危機感であって、その危機感を上回る面倒くささがあれば避けてしまう可能性もあったが、2人にあるのはそれだけではない。

 

 神室も松下も、神室はAクラスが、松下は実力は隠しているものの能力としてはAはクラス相当であるその学力が示す通り、もともと勉強が出来ていた人間だ。

 そのため中学校時代などは、クラスの中でも特に勉強が出来ていたし、周囲に勝っていた。

 

 そしてそういう人間は、多かれ少なかれ勉強に対する楽しさを見出している。

 それは内容や学ぶという行為に対するものに限らず、例えば学校の勉強というクイズに答えて、自分は周囲の人間よりも出来るんだという、優越感に裏打ちされた楽しさだったりもする。

 

 楽しさを見出した人間は、それを嫌いになることはそうない。

 勉強をしてきた人間が更に勉強を出来るのはそういう理由もあるからだ。

 一種の成功体験が次を求めさせているのである。

 

 そんなわけで、2人は司の結構細かい受験勉強の話にも割と乗ってきていたのだ。

 それこそ司が予想していた以上に。

 今生ではずっと出来る側の司は、その感覚を失っていた。

 

 とはいえ2人が続けたいなら司もやぶさかではない。

 

「いやまあ、俺の予定って言ってもあれだよ。

 時間を無駄にしたくないから毎日細かくスケジュール決めてるだけで、これをどうしてもしたいとかそういう用事ではないから別に気にしなくて大丈夫。

 やるのもせいぜい運動と勉強ぐらいだったし」

「……なら、このまま話を聞かせて欲しい。駄目?」

「私からもお願いします。折角の機会だから、しっかり聞いておきたいから」

 

 そんなわけで、3人の活動は昼食を挟んで午後に突入することになった。




今年最後の投稿です。
次は来年になります。


本話の知識は作者が受験をした2020年当時のものになります。
日本史世界史は二次試験レベルまで、地理倫理は好奇心で軽く撫でた程度の知識です。
ぶっちゃけ倫理政経、地理の方が8割9割は取りやすいが、ギリギリまで高得点を狙うなら歴史科目だと思ってます。

勉強はなんだかんだ楽しいぞ。

他のキャラクター視点(一人称の地の文という意味ではなく、司がいない場面で、ということ)での描写を読みたいですか? 例えば松下が中間試験への対策に奔走する姿を松下視点で書くのか、あるいはいつも通り司が後から聞いたという形で書くのか。司という異物への、司が居ない場面での反応(例えば神室と松下が2人で話してる場面等)も含めて、視点を統一するべきか色んなキャラの目線を書くべきか悩んでいます。

  • 司中心で、司が見聞きした情報で良い
  • 他のキャラクター視点の情報もみたい。
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