大学受験舐めてんのか 作:オカルトって面白いよね・蠱毒とか
だが先方は、だまされたふりをしているのだとしたら、どちらが一体だまされているのか”
ラ・ブリュイエール
「よーう、土門」
「橋本? 珍しいな、図書館に来るなんて」
時は過ぎ、無事にテストが終わった当日の放課後。
司は1人、テスト期間とは違い閑散としている図書室を訪れていた。
テスト勉強が終わった途端にこれとは、図書館という存在を根本的に勘違いしている生徒ばかりのようである。
が、そんなことは司の前世でも経験済みであり、大半の子供は読書などまともにしないという嫌な前世との共通点の実証になっている。
「まあな、ちょっと用があってよ。
そっちこそ、神室ちゃんと一緒じゃないのは珍しいな。
ずっと放課後一緒に勉強してたろ?」
「テストも終わったからな」
司と神室の関係に探りを入れる橋本の言葉に、司はあえて答えを返さない。
橋本自身がどう解釈したところで、それは司の意思の証明ではなく、なんの言質にもならない言葉でしかない。
その返答に誤魔化されたことに気付いた橋本は、笑みを深めながら司の座る席の対面に座る。
橋本自身司から本当の答えが引き出せるとは思っていなかったが、今の会話から読めることもある。
今の会話では、司が神室との関係を指摘されたところで動じない人間であるということが確信出来た。
それが神室との関係を本当にただの友人だと思っているからなのか、それとも司が神室と親密な関係を築いた上でそれを隠す度胸と演技力を持った人間であるのかは、現段階では判明していない。
だが、その2つを探れば良いと絞り込むことが出来る。
会話で相手がどんな人物なのか判断するときに、『あなたは〇〇についてどう思うのか』なんてまっすぐ聞くことはほとんどない。
大抵はちょっとした雑談や何かしらに対する議論から相手の思考や性格を分析し、人物像を把握していくものだ。
橋本という少年は、その能力に人一倍長けていた。
あるいはその点においては、彼が付き従っている坂柳すらも上回っているかもしれない。
故に彼は、人読みで世を渡る蝙蝠として、常に止まり木足り得る相手を探し続けている。
「テストと言えば、お前結局どうしたんだ? こっちのグループには参加してなかったし、葛城の方に入ったのか?
葛城に気にかけられてただろ?」
その問いに対する答えが神室から伝わっていることは間違いない。
彼女の役割はまさにそれなのだから。
橋本が見ようとしているのは、司がその上でどう答えるのか。
まともに答えるのかそれとも誤魔化すのか。
そもそも神室から司の動向が漏れているという事実に気付いていて隠す意味が無いと答えるのか、それとも何も考えずに素直に答えているのか。
坂柳が司から興味をほとんど失った中で、橋本はむしろ神室をある程度懐柔している司に目をつけていた。
坂柳は一緒に勉強する程度ならば、自分の命令もあるから、と神室の行動を疑問視していない。
むしろ神室こそ完全に支配下においていると思っている坂柳は、その言動に違和感を覚えることすらないだろう。
更に対外交渉や観察などで良く働く橋本や、神室を司の監視につける代わりに身近に置いている山本や鬼頭と比べて、神室が坂柳の側にいないことはそう珍しいことではなくなりつつある。
今では親しくとも常にともにいるわけではない、という本当の意味での友人関係のような立ち位置になっているのが坂柳にとっての神室だ。
だが橋本は違う。
人読みが出来る橋本だからこそ、神室が例え坂柳の命令であっても、あれほど真摯に司と時を過ごして情報を探ろうとするとは思っていない。
せいぜいが時折声をかけて会話をする程度。
普段から親しく接して懐に入って情報を収集する、なんて器用な諜報活動は神室には出来ない。
神室の行動は、そんな橋本の人読みを遥かに上回って司に寄っている。
「え? ああ、俺はどっちにも入ってないよ。
競争するって聞いてたし、点数悪い俺は足引っ張るのがわかってたからな」
「まあ、そうだけどよ」
そんな橋本の探りに対して、司の答えは今度も真意が読み取れないものであった。
司がどちらのグループを選んだのか、あるいは選ばれたのか、なんて話ではなく、もっと根本的な部分。
『自分は競争に参加するべきじゃなかったから参加しなかった』という司の選択とは全く関係ない、競争の仕組みとしての話。
それを持ち出されると、橋本としては探りづらい。
司本人の気持ちがどちらに傾いているかなどではなく、競争の仕組み、道理としての話になるからだ。
そのことから司の思考の傾向は読めるものの、一足飛びに橋本が飛びつきたい情報には触れなくなる。
なにより結局司個人の好悪の感情には触れることが出来ない。
「けど今回の競争は、どっちがより学力を高められるか、みたいなところあっただろ?
お前を引き入れて学力をあげれたらむしろプラスになる、って感じで声をかけられたりはしなかったのか?」
もちろん橋本は司が坂柳側から勧誘されていないことを把握している。
把握した上で、そのことに対して司がどう感じているのか探りを入れている。
一足飛びに司がどちらに寄っているかの情報を得られないならばと、それぞれの派閥への印象を拾うことに方向転換したのだ。
加えて、先程の道理に基づいた答えと合わせて、司がどの程度の余裕と視野を持っているのかを知りたいとも考えている。
能力が高い人間は、得てして人が見ていないものを見ているものだ。
それは坂柳にしろ葛城にしろ、そして橋本にしろ変わらない。
むしろここで司が『お前誘わなかっただろ』などと怒るようならば、その程度の人間だと見て取れる。
「いやぁ、かけられてないな。
葛城にはむしろ、『お前は俺のグループには入れられない』って言われたし」
「え、お前そんなこと言われたの?」
司の発言に初めて聞いたように飛びつく橋本。
もちろんそのことも知っているが、そのことを隠して驚いたように問いかける。
この手の互いの腹のうちがわからないときの探り合いは、得てして互いに互いのことを全くわからないふりをした雑談に終止する場合が多い。
なぜなら『あなたのことを探っています』と、自分の目的を晒してしまった時点で相手に情報を1つを取られているからだ。
そして相手が警戒して上手くいなしてしまえば、相手が自分のことを探っていたのか、それともそのつもりはなかったのかすら知ることが出来なくなってしまう。
達成したい目的とはすなわち弱味だ。
相手側からすれば、それを求めているのだから多少対価を釣り上げたところで問題がないという保証になってしまうし、あるいはそれを支援、ないしは妨害することで、自分の側からしかける形で相手との関係を作ることが出来る。
だから、腹の中の探り合いというのは難しく、それが出来る人間は交渉の初期段階において重宝される。
無論話が進んでくれば腹を割って話すことになるので、その能力が発揮される場面も減っていくのだが。
そういう意味では、交渉は交渉にすらなっていない腹の探り合いの段階が1番難しいと言っても良い。
そして司と橋本は、まだ15歳という年齢ながらそれをやってのける。
そのことに、橋本は腹の内がわからない詮索の対象としては手強い相手だと考え、司は腹の探り合いの相手として高い能力を持っていると評価する。
その違いは、橋本が自分が司を詮索するという一方向のやり取りを意識しているのに対して、司は既に、自分が橋本を探り、橋本もまた司を探るという双方向のやり取りを認識している。
その違いは、それぞれが互いに対して持っている前印象だ。
橋本はまだ、司がどういう人間なのかを測りかねている部分がある。
普段のように平凡な人間ではない、という部分には感づきつつあるが、まだそれを確信に変えようという段階だ。
だから『自分が』『司を』探っているという意識になる。
そしてその上で、『相手に探られている、可能性もあり、相手の言動は信用出来ないかもしれない』なんてことまで意識の片隅に起きつつ、あくまで本筋には出さずに探るための会話をするしかない。
一方で司は、既に橋本が人に対して探りを入れるのが得意な少年であるというのを認識している。
そのため、彼にこうして彼が普段来ない場所で話しかけられた時点で探りを入れられていると理解した上で、相手が自分のことを読み取れないような答えを返しつつ探りを入れるようにしていた。
橋本の言葉に嘘が混じっているのは当然のこととして理解しているので、そこについて変に悩む必要すらない。
最初から話半分で話すことが出来るのだ。
これが、情報の強さ。
互いのスタンスが、会話の意図がわかっているかどうかで、これほどに有利不利がわかれる。
それが腹の探り合いというものだ。
「まあ、うん。葛城に声かけられてさ、『お前をグループに入れることは出来ない、すまない』って言われた。
俺点数高くなかったし仕方ないかなと思って、結局1人で勉強しようと思ったんだよ」
「じゃあ別に自分で好きで1人で、つってもまあ神室ちゃんと2人だったけど、2人で勉強してたわけではないってことか?
姫さんが誘ってたら普通に参加してたのか?」
橋本の言葉に司は悩むふりをする。
「……どうだろ。あのときは葛城に言われて、『あ、俺邪魔なんだな』って思ってたからな……。
先に坂柳さんに誘われてたらそんなこと考えずに参加してたのは確実だと思うけど、その後だとわからないな」
あくまでどっちにも寄ってないし隔意があったわけではない、という司の表明に、橋本はひとまずそれを受け入れて話を進める。
ここで『いや、嘘だろ』なんて追求することにはなんの意味もない。
探り合いがそこで打ち切りになってしまうだけだ。
「なるほどね。てか葛城は、お前が点数が低いから無理だ、って断言したのか?」
「え、なんで?」
「いや、ほら、今クラスが割れてるのはわかるだろ?
お前はこっち、姫さんの方に近いから弾かれたんじゃないかと思って」
ただ、いつまでも情報が取れない会話をしていても意味はない。
故に多少強引だが、橋本は話を派閥の方へと持っていた。
こうなると司も、派閥争いについて話さないわけにはいかなくなる。
ここで不自然に言及を避けてしまえば、司が何事か隠し事をしているという認識を持たれてしまうからだ。
そうなると相手は攻めどころを見つけることになり、何もわからない腹の探り合いの先の情報の奪い合いに踏み込んでくる可能性がある。
そうならないために、ちゃんと会話を成立させつつ隠したいところは隠していかないといけないのだ。
「あー、それは、あるのか?
でも俺、そっちのグループに誘われてないし、別に坂柳さんの味方ってわけじゃないだろ?
橋本とか神室さんと違ってさ」
「けどお前が親しくしてるのなんて、俺と神室ちゃんぐらいだろ?
他も多少話してるけど、席が近かったり一緒に勉強したり飯食ったりする俺達とは距離感が違うからな。
それで俺達が姫さん派閥だから、お前もその仲間と見なされた、みたいな」
「派閥、ってなんか凄いな。
普通高校生の会話で聞かなくない? 俺テレビで見たことしかないんだけど」
さり気なく派閥という単語を出し、この現状に対する司の認識を探りにいった橋本だが、司はそれも躱す。
坂柳と葛城の競争、というのが一般のクラスメイトに見えているものだが、その実は坂柳とその配下による坂柳派閥と、葛城とそれに付き従う生徒による葛城派閥の勝負、というのがクラスの現状だ。
そこまで見えているのか、そして派閥という単語を簡単に理解し使えるほどの思考をしているのか、という探りだったが、司はその意図まで理解して『派閥という単語の馴染の無さ』を口にした。
それは友人同士の会話とすればあちこちに話題が行ったり来たり雑談としては当然のものだが、探りをいれている橋本からすれば探りがうまくいなされたように思える。
そのことに橋本は背筋に冷や汗が伝うのを感じる。
(今のはどっちだ? 本気でわかってねえのか、それとも俺の探りを躱した?
まじでわかんねえが、これが、ここまでの会話が全部俺の意図を読んだものだとしたら──)
そのことに橋本は僅かばかり高揚するとともに、何としても司のことを探らねばと決めた。
ときにそつが無さすぎる演技は、そのものが違和感になり得る。
大抵の人間が気づくことがない自然な状態と全く変わらないそれに、根拠のない疑いを持つならまだしも明確な違和感を感じることが出来るのは、本当に聡いごく一部の人間だけであり。
そして橋本は、その嗅覚を持った人間だった。
更に言うならばそれは、司が高育で集めたい人材に最優先で求めている、体得できるものとは別の素質としての能力でもある。
(気付いてるな。
これは交渉がうまいとか観察能力が高いとかそういう次元じゃ通らんだろ。
人読みに対する強烈な嗅覚。
買いだな、出来れば手元に引っ張っておきたい)
互いが互いに本腰を入れて会話にのめり込んでいくが、外から見ればあくまでクラスメイト同士のちょっとした雑談程度のもの。
そうであるが故に、自然と他の人間を遠ざけることもなく、結果乱入者を許すことになる。
「土門君、こんにちは」
「こんにちは、椎名さん」
図書館内の学習スペースの机で会話をしていた司に声をかけてきたのは、もはや図書館の住人と化しつつある椎名だった。
「お話中にごめんなさい。土門君と会うのが随分久しぶりな気がしたので、挨拶だけでもと思いまして」
「ああ、確かに試験期間は図書館には来てなかったからな。
久しぶりと言えば久しぶりか」
「ええ、隔日で話していたような状態から数週間空くと、急に長く感じます。
土門君は今日も読書を?」
図書館ではあるものの、読書用にいくつか用意された机とは違い、司が利用しているスペースは学習スペースとして隔離され、ある程度の歓談が許可された場所になっている。
それこそテスト勉強などで、クラスの勉強が出来る生徒が出来ない生徒に教えていたのがここだ。
そのため椎名が会話入ってることにも問題はなく、自然と椎名は2人の会話に混ざる形になる。
「今はちょっと違うけど、変わらず読書はしてるよ。
最近は教えてもらったミステリーが一段落したから、新しく発売されたラノベをちょっとつまんでる」
「そうでしたか。まだまだおすすめの本はありますし、土門君も私に教えて下さいね?」
「もちろん」
「それで、その……そういった情報は、どちらから集めているのですか?」
「情報?」
隣で橋本が黙ってくれているのを良いことに、司は椎名との会話を続ける。
「はい。私は図書館や本屋さんで実際に本を見て探すことが多いですが、土門君は自分が読んでいない本でも知っていますよね?
新しい本や古く有名な本を見つけたりするのに、どうやって情報を集めているのかと思いまして」
「あー、なるほど。それだったらやっぱりネットが多いかな」
ちょっと待ってよ、と司が端末を操作し始める。
そこで手持ち無沙汰になった椎名はきょろりと周囲を見渡して、同じく手持ち無沙汰になっていた橋本と目があった。
橋本の方はへらりと笑うものの、椎名の方はそうはいかない。
思わず久しぶりの司の姿に話しかけてしまったが、司が橋本と話している最中であったということを今更ながらに思い出したのである。
自分はその邪魔をして、あまつさえ自分の話を始めてしまうなど、橋本に対して非常に失礼なことをしてしまっている。
「ごめんなさい、お話し中でしたね。
土門君、私はまた次会ったときに話せれば良いですから。
そちらの方も、お邪魔してごめんなさい」
慌てた様子を見せずに、しかし出来る限り急いで謝罪する椎名。
自分との話は後回しにして構わないと司に告げて、その場を離れようとする。
とはいえ、これについては司の彼女との付き合い方であったり、あるいは今の会話でも見て取れるように自然に読書関係の話を向ける話術だったりが影響して椎名は話に入り込んでしまうため、彼女が一概に悪いとはいえない。
そもそも椎名にとっては、司はこれまで生きてきた中で始めて対等に、自分が人生を捧げてもいいと思っている読書について対等に話せる人間だったのだ。
そんな相手が非常に心地の良いテンポでの会話を心がけ、椎名のことを配慮して不快にならない程度に気を使ってくれる。
そう簡単に依存するわけではないとはいえ、心を開くなという方が無理な話である。
そういう意味では、椎名は神室以上に司に絆されているといっても過言ではない。
故にこうして、いつもなら見える周囲が見えなくなってしまうことがあるのだ。
「いや、別にそんな大事な話だったわけじゃねぇから大丈夫よ。
むしろ教室でほとんど孤立してる土門に友達がいて安心したわ。
俺は橋本正義、土門と同じAクラスの生徒だ。
よろしく」
そんな椎名を、橋本は見逃さない。
尻尾を掴ませることのない司に関係する人物。
話に巻き込めるなら巻き込んでしまえと、自然に椎名を司の友達と認定して話の内容に組み込んでいく。
「私はCクラスの椎名ひよりと申します。
土門君は教室ではそんな感じなのですか?
神室さんとは親しく話されているようですが……」
椎名のその言葉に、橋本は態度に出さないながらも食いつく。
「まじで? こいつクラスだと神室ちゃんか俺とちょこちょこ話すぐらいで、他とはあんまり交流が無いんだよね。
図書館では結構違う感じ?」
「そうですね。割と読書についてはよくお話ししてくれますし、神室さんにもおすすめの本を教えたりしていますから……あまり教室で話さないというのは少し意外です」
そう言いながら向けられる椎名の視線に、司は少しばかり居心地悪そうに居住まいを正す。
椎名のこの情報漏洩については、事前に司がお願いしていたことだ。
椎名との関係については特に隠す必要はなく、神室との関係については生徒と教師に近い立場に見える情報を抜いて、友人程度の立場に見える情報であれば話して構わない、と。
全てを隠し通そうとすれば不自然な部分が出るしバレたときには一気に詮索される。
故に神室と司の間にある独特な関係性を除いて見られても構わない部分については、あえて見せることにしている。
もちろん探られれば見える、という程度で、司から自発的に暴露することはないのだが。
「まあ、なんていうか、共通の話題があると話しやすいんだよね。
無いと何話せば良いかわからなくなるというか」
その上で司は、神室に対する図書室での態度と教室での態度に矛盾が出ないように自身の振る舞いの設定を作り込んでいる。
「あー、目的のない雑談とか苦手な感じ?」
「それが1番あってるかも。
例えば趣味の話題とかになると一気に盛り上がれるんだけどさ。
教室でちょっと隣の席の人に声かけるとして、なんて声かけて良いかわからないんだよな。
だからクラスではあんまり話す機会がない」
司の説明に、橋本は疑心半分それを見せずに得心がいったというように頷く。
「それなりに話せてんのになんであんなに交流が薄いのかと思ったら、そういう理由があったのな。
俺の中学にいたオタクみたいに趣味のことしか話せないっていうわけでもなかったし、なんで話そうとしないのか割と疑問だったんだぜ?」
「目的がなー。なんか聞きたいこととかあったら聞けるんだけどさ、お前みたいに取りあえず話してみるってのは割と苦手かな。
話しかけて貰えればいくらでもいけるんだけど」
これは今の司の他者ととの交流に対するスタンス、というよりは、『高育における』スタンスである。
つまりそういう人物像を想定して振る舞っているわけだ。
仲間内であったり交流のある人間とは良く話せるが、初対面の相手にはそうそう踏み込んでいかない。
実はこれは司の前世の会話に対する姿勢だったりするのだが、それ自体は転生してからすでに克服している。
そんなスタンスを司が演じているのは、あらゆるタイプの生徒に対応して関係を持てるようにするためである。
当初、この学校への入学時において、学校の様子を確認しつつその確認のために生徒と交流をしつつ、加えて有望な人材がいればスカウトするという複数の役割を課せられた司は、どういった生徒として学校で振る舞うべきか悩んだ。
学校の様子や各生徒の動向、将来に対する思考などを聞き出すためには、ある程度他者と交流できる人間でなければならない。
だが一方で、例えば橋本のように完全に社交性に振り切っているタイプのキャラ付をしてしまうと、例えば強引な人間や押しの強い相手が苦手な引っ込み思案な生徒からは敬遠される原因となってしまう。
そのあたりに対応するために、相手によって対応を変えるための言い訳として、慣れれば会話が弾むが慣れなければ弾まない、というキャラ付けをしているのだ。
個々に対して対応を変えている理由を作っているのである。
何より司自身が1人での思索を好むタイプなので、やろうと思えば出来るものの、橋本のように多数の他者と積極的に交流をしながら3年間を過ごすのはいささかきついというのもある。
結果司は、今現在では少数の人間と多少の交流をする程度という、クラスではいくらか浮いた状態に陥っていた。
「まあこれから3年間あるし、そのうち慣れていくと思うよ」
「ま、お前はどこのグループにも属してないしな。
そのうち属することがあったら交流の輪も広がるだろ」
加えて司は4月中をクラスメイトとの交流に割く代わりに、学校の実態を掴むための調査に費やしていた。
その分現段階で交流関係が薄いのは当然の帰結といえる。
その辺りを隠すために、そもそも交流が苦手という形にしているというのもあった。
得意な人間がうまくそれを出来ないと妙な違和感を生んでしまうが、苦手な人間が偶然できたことには『偶然、運が良かった、頑張った』以上の意味合いは生まれにくい。
故にあとからカバーのきく方を選んでいるのだ。
「それにしても、土門に他のクラスの友人がいるとはね」
「言っとくがこれも俺から話しかけたわけじゃないからな?
椎名さんが話しかけてくれたから会話を広げられたんだよ」
「あそうなの?
椎名さん可愛いしてっきり土門が頑張ったのかと」
司の言葉に橋本が意外そうに眉をあげる。
その挙動自体は演技ではあり、むしろそうではないかと橋本は予想していたため意外性はかけらもない。
そもそも司が橋本と話している場所は、図書館の一角から繋がっておりガラス張りになっているので視界は通ってはいるものの、館内の読書用のスペースとは少し離れている。
そこにわざわざやってきて声をかけた時点で、椎名が司に積極的に話しかけているというのは容易に予想が出来たのだ。
でなければ、自分から接近しておいて相手にこれほどまでに関心を持たれる司は余程の人垂らしである。
「いえ、土門君が本を探している様子だったので私から声をかけたんです。
図書館にはそれなりに慣れていたので」
「そういうことね」
相手に対する興味関心から始まった関係ではなく、図書館の利用者としての親切心から始まった関係。
その事実に、だが橋本の好奇心が静まることはない。
何から始まった関係かなどどうでもいい。
今どうなのか、それだけの話だ。
「土門君、橋本君、私はお邪魔でしょうからここで失礼します。
また次の機会にお話ししましょう」
「ああいや、俺はもう良いよ。
同じクラスだからいつでも話せるし。
じゃあな土門」
とはいえ、そこでがっついてしまえば司にも、そしておそらくは聡く場の空気が読めるであろう椎名にも警戒されるのを橋本は理解している。
故にその場は身を引いた。
坂柳のように簡単に懐に入れる人間には速やかに、そして司や椎名のように距離を保ってくる相手にはじっくりと。
ここで一旦引くのも、警戒させないための行動の1つである。
ただ言葉上のやり取りだけでなく、相手の心理も利用する。
橋本はそうやって人と人の間を飛んできたのだ。
今はまだ、司の化けの皮を剥がすには時期尚早。
それに椎名の方は椎名の方で、他クラスの伝手として機能するかもしれない。
そう考えて橋本は、今後の展望に笑みを浮かべた。
橋本が立ち去った後、残された2人は静かに顔を見合わせる。
「土門君、お友達ですか? それにしては少し妙な雰囲気をしていましたけど」
「一応友人の部類には入るんじゃないか?
まああれは……あいつなりのコミュニケーションみたいなもんだから。
もしかしたら椎名さんにも絡んでくるかもしれないけど、適当にあしらってもらって良いからな」
「……ああ、そういうことですか」
司の言葉に、橋本の様子に違和感を抱いていた椎名はその違和感の正体を察する。
そして僅かに称賛の色を浮かべた目を司に向けた。
「すごいですね、土門君も橋本君も」
「というと?」
「橋本君はあれほど自然に会話をしながらこちらの様子を探っていたのでしょう?
そして土門君は自然な会話でそれを反らしていた。
すごく……小説的な会話だったなと思いまして。
私はあまり読んでいませんが、政治ものなどでしょうか」
「その違和感にすぐ気づけた椎名さんも相当だよ」
「ふふ、これこそ、土門君が言っていた読書による経験、ですね」
椎名はクスリと笑みを浮かべる。
司と椎名を探ろうとする橋本の思考は、最初の会話の段階で2人にバレていたのだった。
ストーリーの展開が遅いという声をいただきました。
確かにまだ全然進んでないな、と思うので、ある程度進めるようにしていきたいと思います。
勉強関係などで書きたい部分もだいぶ書けましたので。
この後は須藤の暴力沙汰があって、その後夏休みなので数話でそこまで行ければ、と思っています。
主人公の他の生徒と関わらない個人的な鍛錬とかはまた夏休みの特別試験が終わってから書こうかなと思います。
他のキャラクター視点(一人称の地の文という意味ではなく、司がいない場面で、ということ)での描写を読みたいですか? 例えば松下が中間試験への対策に奔走する姿を松下視点で書くのか、あるいはいつも通り司が後から聞いたという形で書くのか。司という異物への、司が居ない場面での反応(例えば神室と松下が2人で話してる場面等)も含めて、視点を統一するべきか色んなキャラの目線を書くべきか悩んでいます。
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司中心で、司が見聞きした情報で良い
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他のキャラクター視点の情報もみたい。