大学受験舐めてんのか   作:オカルトって面白いよね・蠱毒とか

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“ビジネスとはまず「節約ありき」ではなく、投資してガバッとカネを稼ぐという事。
もっと雄々しいものなんです”
 堀紘一



第3話 誤魔化しはそれ自体が何かあることの証明になる

 入学式の終わった放課後の時間帯。

 クラスメイト達の交流や連絡先の交換を一足先に抜け出した司は、真嶋に言われていた通り職員室へと足を向けた。

 

(大体は普通だったが、橋本には変に目をつけられたかな。平々凡々な人間が2回もあえて周りの流れに逆らうのは流石に不自然だったか。ちょっと変なやつぐらいの認識だろうが、今後は気をつけないとだな)

 

 まだ40名のうち数名と言葉を交わした程度だが、今のところ特に司が気になる相手は橋本以外にはいない。

 皆至って普通の、多少ツンツンしてたり逆に馴れ馴れしかったりはするものの、ごくどこにでもいる学生のようなものだ。

 

 その中で橋本の言動というか振る舞いが、司には少しばかり気になっていた。

 朝の挨拶からサクッと懐に入ってきたことと良い、あるいは司の一挙一動をよく見ている様子といい、どうもただクラスメイトとして見られているだけではなく観察されているような気がするのだ。

 それも司相手にだけでなく、話しかけるクラスメイト全てに対して言動を探りを入れているように見えるのである。

 

 たかが高校生相手に考えすぎ、という線ももちろんあるにはあるだろう。

 ただ友人関係を良くするためによく見ている、というだけかもしれない。

 

 だが司も、今回の人生では若いながら多くの人物と顔を合わせてきた。

 前世とは違って一般家庭ではない家の関係で表立って活動はしてはいないものの、それでも家の陣営に所属する勢力の人物と会ったり、あるいはそこに繋がりを求めてくる人物であったりとあれやこれやとやり取りをしてきている。

 中には現役の官僚や政治家、起業家なんかもいたし、ただ子供を見る目だけでなく、取り入ろうとする目や利用価値を測るような目をいくつも見てきた。

 そんな経験と生まれつきの勘が相まって人を見る目というのにはかなり自信があるのである。

 

 その司からして、今の橋本は少しばかり胡散臭いというべきか、普通に学友として付き合うには少々好ましくない相手なのだ。

 少なくとも普通に学生の友人らしく心許せる相手ではない。

 せいぜい良いところが腹を探り合う同業他社の相手とかそれぐらいだろうか。

 その観察能力や姿勢は評価するが、しかし高校でやることかどうかは少々疑問である。

 

「失礼します」

 

 そうこうしているうちに職員室につき、司は静かにノックをして扉を開ける。

 職員室の中を見渡すものの真嶋の姿は見当たらなかった。

 見る限り出口はこの一箇所だけのようだし、トイレに行っているにしろ他に用事があるにしろ、待っていれば戻ってくる。

 

 そう判断した司が再び扉を開けて職員室から出ようとしたところで、先に職員室の扉が外から開いた。

 

「おっ、と、ごめんね?」

「すいません」

 

 ペコリと頭を下げて、扉の脇に避ける司。

 相手2人の服装から教師だと判断して道を譲ったのだ。

 

 そのまま相手が通り過ぎるのを待とうとしたのだが、何故か2人の女性教師のうち1人が司の前で足を止める。

 扉との間に立たれているので無視も出来ず、かといって平凡を演じる身としては積極的に教師相手に話しかける気にもならず、司は戸惑っているように振る舞う。

 

「Aクラスの生徒だよね? もしかして真嶋くんに何か用だった?」

「あ、はい、ちょっと質問があって来たんですけど……」

 

 『どこにいますか?』と聞かずに相手に汲み取ってもらおうとするのは受け身な人間の典型的な振る舞いの1つである。

 会話に責任を負いたくないと暗に意思表示をしているのだ。

 

「何かしら? 私も1年生の担任だから、答えられることになら答えるわよ?」

「1年生の担任の先生ですか? 他のクラスの?」

「そう、Bクラスの担任の星ノ宮知恵っていうの」

「あ、Aクラスの土門司です」

 

 なぜこの教師が司に絡んできているのか司にはわからない。

 ただ教師として生徒が困っていたから声をかけてくれたのか、と思わなくもないが、しかし先程の真嶋とのやり取りを考えると、どうもこの学校の教師は生徒の味方の善意の存在ではないというか、むしろ思考を試すような言動すらしてくる節がある。

 そう考えると、この教師相手にも何かあるのかと警戒してしまい下手に話して良いのかわからない。

 

 結果この教師相手にどうすべきか悩んだ司はもう1人の女性教師に目をやったが、既に仕事を初めていて助けてくれる様子は無かった。

 

「えっと、いくつか聞きたいことがあったので真嶋先生に放課後に来なさいと言われてて……。先にお願いしてたので……」

「私の方から真嶋くんに言っておくわよ?」

 

 ニコニコとした表情をしている星ノ宮だが、その実押しが強く引いてくれるような様子が無い。

 

「いや、でも」

「ほら、同じ1年生の担任だから真嶋くんに出来ることなら私にも出来るし、真嶋くんのせいで待たせるのも忍びないしね」

 

(ただの親切の目の色じゃないんだよなあ)

 

 その視線に探るような色があるのを司は見逃さない。

 前世では人の視線に非常に鈍感で高校大学では普通に浮いてしまっていた司だが、今生はそのあたりがその反動でか尋常ではなく敏感になっているのだ。

 

「じゃあ、ええといくつかあるんですけど」

「うんうん」

 

 仕方ないので司はいくつか聞いても問題ないような質問を聞いて時間を稼ぐことにした。

 本題のポイント関連の質問については真嶋から口止めをされているし、それにあまりしつこく聞いてくる相手に自分のことを明かしてやるのも気が引けた。

 

 疑問というのは逆から見れば、それを抱いた人物のものの見方や内面まで見通してしまう。

 それを避けたい程度には、司は先程の真嶋との会話からこの学校の教師を警戒するようになっていた。

 

 それに司は平凡を装うのだ。

 真嶋には流れで鋭いところを見せてしまったがあれは最低限の情報収集のためであって、あまり敏すぎるところを見せるのは色々と問題があるだろう。

 

「端末と学生証を貰ったんですけど、これでオンラインショッピングとか出来るんですか?」

「オンラインショッピングっていうと、am◯zonとかよね? それなら出来るわよ」

「ほんとですか。ありがとうございます。アカウントとかはどうすれば……?

 それと支払いって学生証ですか?」

「アカウントとか支払いは、学生証を端末に登録してからそのアドレスとか情報を使って作る形になるわ。

 一応寮の部屋にWi-Fiの設定とかも含めて説明書が置いてあるのよ」

「あ、そうなんですね。確認しないで聞いてしまってすいません」

 

 実際のところ何かしら説明書はあるだろうとは思っていたので、教師に聞いて解決するなら早くて良い程度の質問だ。

 

「良いの良いの。学生からしたら気になるところだとは思うしね。でも、何を買いたいの? 学校の敷地内にはいろんな店舗があるし、だいたい揃うわよ?」

「そうなんですか? まだお店の方とかは見れてなかったので……」

 

 星ノ宮の言葉にのって、お店が豊富にあるとは知らなかった生徒を装う。

 実際のところはお店の有無に関わらず、いろんな理由で通販やオンラインの支払い方法、アカウントの取得などについては知りたいと思っていたのだが。

 

「そういうことね。この学校は本当に充実してるから、ぜひ見て回ってね? 

 せっかく10万ポイント貰ったんだし、たくさん買い物出来るしね」

「ありがとうございます」

 

(それもこの後時間があったら、だな。この隔離された空間でどの程度の店舗を用意してるかはそのまま予算に直結してるわけだし。どの程度のものになってるか報告も必要だしな)

 

 ちょうどそこで職員室の扉が開き、真嶋が入ってきた。

 

「む、土門、それに星ノ宮か。うちの生徒に何をしている?」

「あら、真嶋くんが戻ってきたみたいね。真嶋くんが遅いから代わりに質問に答えてあげてたのよ」

「そうか。それは感謝する。後は私が引き受けよう」

 

 担任として当然の立場、担当するクラスの生徒からの質問に答える役割を代わると口にした真嶋だが、星ノ宮はなぜかそれに食い下がる。

 

「えー? 別に最後まで私が答えてもいいわよ?」

「その必要はない。後ほど共有される内容も含めて、土門の質問には俺が答える」

 

 その真嶋の言葉にニコニコした顔のままじーっと真嶋を見つめた星ノ宮だが、やがて視線をそらすと司に顔を向ける。

 

「仕方ないわね。土門くん、後は真嶋くんに聞いてね」

「は、はい」

 

 そう言って星ノ宮も机の方に戻っていった。

 

「では、土門、話は面談室でするのでついてきてくれ」

「わかりました」

 

 そのまま司は真嶋に連れられて職員室を出る。

 その背中に突き刺さる複数の視線には気づかないふりをしながら。

 

 

 

******

 

 

 

「さて、ここならば落ち着いて話せる」

 

 面談室の一室に移動した2人は、机を挟んで席についていた。

 

「質問の続きだったな」

「はい」

 

 先程の質問は単位を買うのに必要なポイントのところで止まっていたが、実際のところ今の司には具体的なポイントはそこまで必要な情報ではない。

 それよりもまずは大枠から詰めていく必要がある。

 

「まず、この学校の個人あたりのポイントでテストの点数を上げたり単位を買ったり、出席扱いにしたりすることが可能である。

 これはあってますか?」

「ああ。それらはいずれも可能だ」

 

 ここまでは先程の確認。

 本題はここからである。

 司もまた、入学式の間という時間を使って思考を深めていた。

 

「では今この段階で、ポイントがあれば卒業する権利そのものを買うことは可能ですか?

 あるいは飛び級する権利を買って、1年生をとばすことは可能ですか?」

「前者については可能だ。だが後者については申し訳ないが、学校のシステム上不可能だ。

 購入するならば3年までの修了を全て買いすぐに卒業するか、あるいは権利を買いつつ今の学年を継続するしかない」

「つまり学年移動はなしですか」

「そうなるな」

 

(買えるのかよ。カリキュラムはどうなってんだカリキュラムは。

 ポイントさえあれば即卒業って教えはどうなってんだよ。

 ああ、ポイント稼ぐ手段で実力が証明できるって感じなのか?)

 

 取り敢えず司には衝撃的な事実だったが、可能性として予想していた以上は大きく驚くこともない。

 

「ではポイント周りは取り敢えずこれで置いておいて。次は色々と端末やネット関連について質問したいことがあります」

「答えられる範囲で答えよう」

 

 その後司は、ポイント関連の話題から離れ、ネット関係のことについて質問を行っていった。

 有料の動画配信サービスなどのサブスクの登録について、携帯番号などは何を使えば良いのかや、アカウント周りについて。

 その他ざまざまなことについて真嶋を質問攻めにした。

 

 多くの内容については先ほど星ノ宮が言っていた寮室内の説明書に記載があるらしいが、質問によっては真嶋でも答えることが出来ず、持ち帰って後日答えることになった質問もある。

 

 だが、取り敢えず現段階で司が満足できる程度には色々と聞くことが出来た。

 

「ネット関係は以上です。答えてくださってありがとうございます」

「いや、疑問をそのままにしないのは良いことだ」

 

 明らかに疲労した様子の真嶋だが、司の質問が終わったことでほっと一息をついた。

 

「では最後に、入学式前に話した、来月以降のポイント増減についてだ」

「はい」

 

 一息ついた真嶋は、手にしていたファイルから1枚の紙を取り出す。

 

「これは?」

「誓約書だ。毎月与えられるポイントの増減という事実について、他の生徒には話さないでもらいたい。これは学校の仕組み上、受け入れてもらう必要があるものだ」

 

 真嶋が取り出したそれは誓約書だ。

 内容は、ポイントの増減について積極的に流布した場合退学とする、というもの。

 

(よっぽど隠したいのか。退学は普通ではありえないだろうからな。

 それだけこのシステムに対する考察能力を試しているのか)

 

 学校側の要請の理由について理解しながらも、司は首を縦には振らない。

 意図的に思えるように空いた誓約内容の穴が、司に安易にそれを受け入れることを踏みとどまらせていた。

 

「……メリットが無いですね」

 

 だから司は、カマをかけることにした。

 それはこの件だけでなく、真嶋との会話の中で育ってきた、教師に対する不審の現れでもあった。

 

「どういうことかね」

「いや、俺にメリットが無いですよね、ってことです」

「これは学校の制度上の要請だ。メリット云々のものではない」

 

 それは学校側としては当然の要求であろうことは理解できたし、司としても別に頷いてもなんの問題もなかった。

 クラスメイトに伝えるつもりはなかったし、他の生徒が気づくならば勝手に気づけば良いと思っている。

 

 それでも、司はカマをかける。

 全てを語ろうとせずときにあえて誤解させようと言葉を巧みに操る教師の、その本質を引き出すために。

 

「ポイントの増減ってことは、増もあり得るんですよね。

 このシステムに気づいたのは評価に値すると思うんですが、どうでしょうか」

「……わかった。ならば対価として50万ポイント支払おう。それで黙っていてくれ」

 

 そう言って、真嶋は1枚目の誓約書を取り下げ、2枚目の契約書を出してきた。

 

(ビンゴ)

 

「なるほど。つまりこの学校では学校側は事実の全てを詳らかにすることはなく、生徒もまた自ら主張していかないと得られるものも得られない場合がある、と。そういうことですか」

「……何が言いたい?」

 

 真嶋が2枚目の用紙を事前に用意しており、そしてそれを最初から出さずに司の言葉ですぐに出してきたのは悪手だった。

 それは司のかけたカマにかかることに他ならない。

 

 すなわち、学校側が生徒に対して誠意で向き合っているのではなく、様々な場面で、それも試験などではなく普段の会話からも試しを行っているということが、今の真嶋の行動で明らかになったのだ。

 

 例えば今だって、司が言い出さなければ報酬なしで誓約を結ばされるところだった。

 それを司が権利を主張したために、すぐに報酬が付け加えられた。

 

 逆に言えば司が主張しない限り与えられるはずの報酬を与えないつもりだった。

 司が権利に気づき正当に主張できるか、そういう試しだったのだろう。

 

「となると、ポイント増減のシステムについても、まだまだいろいろ隠れてそうですね。

 深堀りすればもっとポイントが貰えたりしますか? 

 テストの点数及び成績で増減するのは当然として、後は評価内容として有り得るのはこの学校独自のカリキュラムでの評価や生活態度、クラスメイトとの交友能力や教師への態度……こんなところかな。

 点数は増がありそうですが、後者は減点式ばっかりですかね」

 

 司の言葉に真嶋は沈黙を選ぶ。

 というより、とっさに答えることが出来なかった。

 

 そんな真嶋を横目に、司は考察を続ける。

 

「ポイントの増減もどんな形で行われるんでしょうね。毎月ごとの支給額に前月の評価が反映されるよりは、毎月蓄積されていって変動する方が評価としては適切でしょうか」

「……その質問には答えられない」

「いえ、俺が勝手に考察してるだけですので」

 

 真嶋の答えをバッサリと切り捨てて司は思考を続ける。

 

「評価というと、個人だけでなくグループ単位、この学校ならクラスになるんでしょうか。

 それ単位での評価でポイントにボーナスがついたりペナルティーがついたりもするんですかね。

 あるいはクラスとは別のグループ分けが後で発表されるのかな。

 まあクラスがベタでしょう」

 

 細かく評価をするというならば、個人ごとだけでなくグループとしてのまとまりや能力も評価する方がより多くの側面から生徒を測ることが出来る。

 特にただの勉学だけに重きをおかないであろうこの学校では、集団での能力なども重要視されてきそうだ。

 グループワークで課題に取り組むようなことも今後出てくるのだろう。

 前世でも高校が特殊な指定校になっていたためにそういう機会はあった。

 

 そう考察を続ける司を見て、真嶋はため息をついた。

 

「……わかった。100万ポイント出そう。それで良いか」

「ありがとうございます。まあ、深堀りするのはこの辺でやめておきます」

 

 真嶋の言葉自体が推測への肯定である。

 

 実際のところどうしてもポイントがほしいというわけではない。

 ただ、この学校のやり方を探りたいがために、真嶋に詰めるようなことをしたのだ。

 

 そして成果はあった。

 取り敢えずこの学校では、学校だからと教師の善意に甘えていてはならず、求めるものは交渉して獲得しなければならないことがわかった。

 教師が交渉相手とは教育機関としてどうなんだと思わないでもないが、そのあたりもこの学校が独自に生徒を育てるためにやっていることなのだろう。

 

 おそらく後々、そうした話術や交渉の進め方なども授業内で扱ってくるはずだ。

 実際そういう技術はなんとなくでやるよりも、長年使われてきた技術を学んだほうがより効果的ではあるので、司も学んできている。

 

 改めて内容が書かれた書類に記入しようとしたところで、司は事前に気づいた契約書の穴について改めて尋ねておくことにした。

 

「この内容について質問があるのですが」

「何かね」

「俺が積極的に流布するのが禁止されていますが、この情報が漏れたときに俺の責任になったりはしませんよね?」

「積極的に流布をしてはならない。それが契約内容だ」

「じゃあ例えば、ある日この内容が書かれた紙が生徒全員の机の上に置かれていたとして、それは俺の責任じゃないってことですか?」

「監視カメラが置かれているので隠れて行うことは不可能だろうが、その場合証拠が無い限り君の責任になることはない」

 

 相変わらず言い回しが胡散臭い。

 

「つまり、偶然漏れてしまったりしても問題は無い、と?」

「そこに書いてあるとおりの契約内容だ」

 

(教師が契約を破るための抜け穴を探させてどうすんだよ。

 普通に注意するところだろうが)

 

 流石に呆れた司だが、しかしおかげでこの学校全体の方針がある程度読めてきていた。

 少々信じがたいが、今のところ真実に近いと思える推測だ。

 

 取り敢えず契約内容自体は自分には不利はないようだったので、改めてサインを行う。

 

「これで契約は成立した。ではポイントを振り込もう」

「あー、それなんですけど」

「なんだ?」

 

 ポイントを振り込もうと端末を取り出した真嶋だが、司がそれを静止する。

 

「ポイントを貯める口座を別に作ったりって出来ますか? それと端末も追加で1つ」

「それは……確認しよう。少し待ちたまえ」

「ありがとうございます」

 

 真嶋は待っておくように告げると部屋を出ていき、少しして戻ってきた。

 

「新しい端末の購入に5万ポイント必要となる。また新しい口座を作るための予備の学生証にも5万ポイント必要だ」

「天引きでお願いします」

「わかった。こちらの予備の学生証はポイントを貯める他に、通常の学生証と同様に固有のアドレスがあり、各種アカウントの作成なども可能となっている。ただし身分証明と敷地内での買い物には使用できないので、その点は留意するように。また端末は1台あたり1つの学生証およびアカウントしか登録できない」

「わかりました」

 

 司は財布を貯金用と普段使い用の複数に分けておく派であるし、リスク分散のために口座はあちこちにわけて置いておく派でもある。

 現に外だと今の資産は外国などにもわけて置いてある。

 10万や場合によってはそれを超えるほどの金を全て一箇所にいれて持ち運ぶのは少々気が引けたのだ。

 

「では、これが端末と予備の学生証だ。ポイントは学生証の方に振り込んでおいたので確認してくれ」

「ありがとうございます」

 

(取り敢えず寮の部屋に保管だな。後は色々許可が降りてからか)

 

 端末を受け取り、それを本来の端末を入れているのとは別のポケットにしまっておく。

 普段ならジャケットの内ポケットにいれたりするのだが、あいにくブレザーには端末が入るほどの内ポケットは無かった。

 学生証の方を確認すると、名前などはなくあくまで口座などの機能しかついていないのが見て取れた。

 

「では、質問は以上だな?」

「質問は以上です。あ、ですがあと1つだけ」

「何かね?」

「先生の連絡先をもらいたいです。

 今後も色々疑問は出てくるとは思うんですが、その度にこうして長時間いただくのも申し訳ないので。

 メールならば質問内容を私の方でまとめることも出来ますし、簡潔に答えてもらえるかと」

 

 司の言葉に真嶋は一瞬沈黙する。

 

「…そのような形で教師の連絡先を求めた生徒は過去例が無いが、必要ならば1万ポイントで販売しよう」

「ポイント取るんですか? 生徒が教師に質問をするだけで?」

「通常社会に出た場合、人脈やコネといったものは容易く手に入るものではない。

 だがこの学校においては教師と生徒という関係性が最初から存在している。

 そこで人脈を築くための手間の代わりにポイントを代償として支払うことになっている。

 通常通り直接質問に来る場合については一部の情報を除きポイントを取ることは無い。

 あくまで私の連絡先を使用し手間を省くための経費だと考えてくれ」

「なるほど、そういうことですか」

 

(一部の情報ねえ。これ、普通は話してくれないことでもポイントで買えたりするのかね)

 

「では先生の連絡先を1万ポイントで買います。それと、Aクラスの橋本正義に関する情報は何ポイントで買えますか?」

「……個人の情報については最低10万ポイントが必要となる。内容次第ではより額は上がる」

「買えるんですか」

 

 真嶋の返答に司は驚いた表情を見せる。

 適当に個人情報とか買えるのかと聞いてみただけなのだが、まさかそんなことまで買えるとは思っていなかったのだ。

 

「入学時の評価とか入試の点数、中学校の情報とかもですか? それともあくまで学校内での成績だけですか?」

「前者については公開できない部分がある。後者については可能だ」

「公開できる部分もある、と。無茶苦茶ですな」

「社会に出た場合、いくら規制されているとはいえ個人情報がやり取りされることは多々ある。

 場合によっては過去の犯罪歴が足を引っ張ることもある」

「それを学校で認めちゃいかんでしょ。社会じゃなくて教育機関ですよここは」

 

 教師のくせに無茶苦茶を言うな、とは思ったが、それはすなわちこの高育の方針がそうなっている、ということだろう。

 教育機関というよりは現実の再現の方が近い。

 そんな環境で育てることで、社会に慣れた人間を育てているのかもしれない。

 

「まあでも、わかりました。

 取り敢えず先生の連絡先だけで結構です。

 ああそれと、今日の会話含めて俺の個人情報にプロテクトはかけられますか?」

「今日の会話について秘匿するならば3万ポイント。

 お前に関する情報全てにプロテクトをかけるならば300万ポイントは必要になる」

「じゃあ今日の会話だけお願いします。

 破られた場合には補償があるんですよね?」

「当然だ。具体的にはプロテクトにかかった金額の10倍が返還される。

 必要ならば契約書も作ろう」

「契約書は連絡先の方に送付してください」

「承知した。では連絡先で1万ポイントと会話の秘匿で3万ポイントを振り込んでくれ」

 

 言われた通りに真嶋に向けて1万ポイント振込み、代わりに連絡先のアドレスを受け取った。

 

「連絡先だが、すぐに返答できない場合があるのは了承してくれ」

「それはもちろん、仕事の時間とかもあるでしょうから」

 

 真嶋の連絡先を確認した司は、顔を上げて真嶋に頭を下げる。

 

「お時間をいただきありがとうございました」

「構わない。答えられないことがあるとはいえ、生徒の疑問に答えるのは教師の務めだ。他に用件はないな?」

「今日のところは」

 

 こうして、初日から色々と気づいてしまった司の真嶋への質問攻めは終わった。




早く生徒と絡ませるために本話の内容は後回ししようと思いましたが、後から絡めるのも難しいなと思ったので先に書きました。

初日の学校システムへの推測はここまでです。
ただし今後も本作ではそうした推測や設定語り的な部分が多くなります。苦手な方はご注意ください。


またここまで読まれた方はわかると思いますが、本作では原作の設定などに対して批判的な部分が含まれます。
ただし「ありえない!」と否定するだけでなく、「なぜあり得ないにも関わらずその設定になっているのか、世界観的に何か隠された意図、陰謀があるはずだ」という部分まで後々作内で描写していくつもりです。


それでも原作への批判が苦手な方はブラウザバックをお願いします。


また原作設定、高育絡みへ批判的な部分はありますが、キャラクターそのものへの批判的な要素は基本的にほとんど無い予定です。
あっても「それは間違ってるだろう」程度の指摘とかになると思います。



次に、高評価低評価など多くの評価をいただきありがとうございます。
特に一言つきの評価はありがたいです。

本作は作者初めての原作に批判的な部分を含む作品となっているため、そうした作品が一般的にどう受け取られるのかを知ることが出来るのは作者としてありがたいです。
高評価であれ低評価であれ、そうしたものはありがたいです。
「やっぱりこういうツッコミ系の作品も好きな人はいるよな」とか「原作への批判が嫌いな人もいるよな」とか色々学ぶことが出来ています。

他の読者の方々も、ぜひぜひ一言付きで評価いただけると嬉しいです。
「こういうのが好き!」とか「もっと突っ込んでくれ」とか「〇〇についてはどう?」とか「原作批判は嫌い」とか「ちゃんと原作読め」とかなんでも良いので。



そして最後になりますが、やはり「原作読んでないで批判してるので低評価」というコメントがありましたので、原作を買わせていただきました。
読んでも批判的な内容が含まれることには代わりありませんが、ある程度読んだ上で書きたいと思います(次話は本が届く前に書くかもしれません)。

他のキャラクター視点(一人称の地の文という意味ではなく、司がいない場面で、ということ)での描写を読みたいですか? 例えば松下が中間試験への対策に奔走する姿を松下視点で書くのか、あるいはいつも通り司が後から聞いたという形で書くのか。司という異物への、司が居ない場面での反応(例えば神室と松下が2人で話してる場面等)も含めて、視点を統一するべきか色んなキャラの目線を書くべきか悩んでいます。

  • 司中心で、司が見聞きした情報で良い
  • 他のキャラクター視点の情報もみたい。
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