大学受験舐めてんのか   作:オカルトって面白いよね・蠱毒とか

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“人を見分ける力に自信のある人ほど間違った人事を行う。
人を見分けるなどは、限りある身の人間に与えられた力ではない”

ピーター・ドラッカー





第5話 優れていると自負するものほど他者に先をいかれることを想定していない

 

 入学式から1週間が過ぎた。

 2日目には部活動紹介があったり、その流れでポイントによる賭けが出来るのか確認ついでにチェス部と将棋部からポイントをまきあげたり。

 後は学校に申請していたことが通ってちょっと荒稼ぎの準備をしたり。

 クラスでは初日に一悶着あった神室がことさらに司を無視したりときに睨んでくることを除けば、至って普通の高校生活。

 

 そう、ごく、平凡な、一般的な中堅高校程度の高校生活を司は送っていた。

 

 何かこの学校特有のカリキュラム、グループワークによる研究や課題学習が顔を出すでもなく。

 あるいは超進学校らしく馬鹿みたいな速度で授業が進むようなこともなく。

 ろくに課題が課されることもない学習内容。

 

 本当に、普通の、ただの高校生活。

 

(期待はずれ、にしてもおかしすぎる。

 特権が嘘じゃなくちゃんと付与されてるのはうちの会社で暴れた馬鹿のおかげで分かってる。

 なのにこの体たらくはなんだ?

 政府もそんなに馬鹿なはずがない)

 

 司が期待していたエリートを育てる学校の水準に到達していない以前に、そもそも優秀な人間を育てる学校として成立していない。

 それがこの学校に対する司の現段階での評価だった。

 一般的な難関高校などと比較して不足している部分が多すぎる。

 

 だからこそ司は、この学校の意図、方針というものが読めなくなっていた。

 

 学校、そして生徒のレベルが想定に対して低すぎると言ってしまうのは容易い。

 それは事実であるし、その側面だけを見れば間違いの無い事実だ。

 

 だがこの高度育成高等学校を作ったのは政府であり、ただ作っただけでなく広大な敷地に多数の店舗を高育の生徒のためだけに集めるほどに金も時間もかけられている。

 学生1人あたり10万ポイント、全て使われると想定するならば1年生だけで初月で1600万円相当の予算が使われている。

 司にだってポンと100万ポイントが出てきたのがその証である。

 

 そんな力を入れている学校の中身が『これ』だ。

 それが政府の、そしてこの学校を運営している側の不手際、だとは司は思わない。

 

 世の中馬鹿ばかりではない。

 ときに政治で一般人から見てアホなことが起きることはあっても、政府の上層部は馬鹿であっても無能ではない。

 無能であってはそんな高みに上り詰められるはずがない。

 

 この学校だって、やろうとすればもっと頭の良い人間であったり様々な分野で成果を残している生徒をかき集めることだって出来るはずだ。

 これだけの予算があるならば、そうした生徒たちのやりたいことを全力で支援して才能を開花させることだって出来るだろう。

 いくら才能が水物で絶対はないとはいえ、環境がないことで枯れる才能というのは多く、同時に環境によって開花する才能というのも多い。

 

 それにも関わらず、この学校はそうはなっていない。

 

 ということはつまり、この学校がこのレベルに抑えられていることにもなんらかの意図があるのだ。

 政府上層部、与党上層部がそうしているだけの理由が。

 

(国子塾に対抗するための人材を揃えてると思ったんだけどな。どういう人材を育てたいと思ってるのか、もう一度考え直すか)

 

 

 

 そんな思考をしている司は、今現在クラスメイト達がプールサイドに集まっているのを屋内プールの2階席にある見学者用の席から眺めていた。

 

 今日は、なぜかこの時期に唐突に放り込まれたプールの授業。

 この時期にプールの授業が出来るような温水プールが存在していることも驚きだし、そんな遊泳施設が学校付属のプールと街の方の遊戯施設とで2つも存在していることもまた驚きだが、それら全てを『この時期にプール授業をする』という胡散臭さが塗りつぶしている。

 

 この学校ならば、これもまた何かしらの意味があるのだろう。

 司はそう考えながら、プールをサボっていた。

 

「はじめまして、土門司君」

「はじめまして。坂柳さん、だよね?」

 

 そんな司に、同じく授業を休んで見学している坂柳という銀髪の少女が話しかけてくる。

 

「はい、坂柳有栖と申します。 土門君と話したことはありませんでしたから、せっかくなのでお話をと思いまして」

「あー、そう言えばそうだっけ? 橋本とか神室さんと仲良くしてる人、ってイメージはあったんだけど。

 取り敢えずよろしくお願いします」

「ふふっ、ええ、よろしくお願いします」

 

 司の答えに坂柳はどこかおかしそうにクスリと笑う。

 坂柳が体が弱い、というのは普段杖をついていることから司も知っている。

 そのため授業を見学している理由について聞くつもりはないが、なぜ自分に話しかけてきたのかは疑問だった。

 暇でも持て余したのだろうか。

 

「土門君はなぜ見学を?」

「昨晩からちょっと体調が悪くてな。見学させてもらってる。プールは体育の中でもハードな方だから」

「マスクをなさっているようには見えませんよ?」

 

 ぼうっとプールを見ながらなんとなく答えていた司は、坂柳のその言葉に視線を坂柳に向ける。

 ニコリと司の方を見る坂柳。

 しかしその言葉は司を糾弾するような、あるいは嘘を指摘するような言葉だった。

 

「……体調不良にも色々あるでしょ」

「是非色々のところを聞かせてもらいたいですが、まあ良いでしょう。それは本題ではありませんから」

 

 そこに至って司は彼女の方に体を向けた。

 どうやらなんとなくではなく、彼女は明確な目的があって司に話しかけたらしい。

 

「本題って?」

「先日真澄さんから面白い話を聞きました。なにやら、土門君が真澄さんの手癖を見ていながら見逃した、とか」

「……なんのことかわからないな」

 

 手癖、そして司と神室の関わりというと初日の夜のコンビニでの出来事だろう。

 万引き仕掛けてきた神室を司がさり気なく止めたときのことだ。

 

 そのことを坂柳が知っているということは、つまり神室は自ら坂柳に自白したか、あるいは現場を抑えられたのであろう。

 万引きというのは人によっては常習性があるものであるし、司もそこの原因究明まではやらなかったのでさもありなんといったところだ。

 

「そうですか? 真澄さんからは確かにあなたが気づいていた、と聞いていますよ?」

「神室さんとはそこまで話さないからなあ。なんか最近避けられてるし」

 

 初日の夜には出会ったけど話しただけで何もなかった、とか言質を取らせるようなことは言わない。

 

「……困りましたね」

 

 まったく困っていない様子で坂柳が笑う。

 駆け引きにお付き合いしてあげてもいいが、司の側に彼女に譲歩してあげる理由が全く無いのでそもそも駆け引きが成立しない。

 

「結局何が言いたかったの? 神室さんの手癖を俺が知ってたらどうしたかったのかな」

「おや、知っていることは認めるんですね?」

「普通に気になっただけだよ。急に体調不良を疑われて話しかけられてそんな意味深なことを言われたら気にもなるさ」

 

 司の方は坂柳に話しかけた理由を言わせたいと思っていて、坂柳は司に神室の万引きを目撃したと宣言させたいと思っている。

 少しにらみ合いが続いたが、先に顔をそらしたのは坂柳の方だった。

 

「神室さんは私のご友人ですから。弱みを握られて脅迫されるようなことがあってはいけないと思いまして。

 ですが、土門君が知らないというなら何も問題はありませんね」

 

 坂柳の言葉に司は割と素でドン引きした表情を見せる。

 

「何か?」

 

 坂柳はその視線に首をかしげているが、今はその可愛らしい微笑みが悪魔の微笑に見えてくる。

 

「弱みを知ってたとしてもそうはならんやろ。いやもちろん俺は弱みって言うほど神室さんを知らないけどさ」

「そうでしょうか? 土門君だって、授業をサボっていると先生やクラスメイトに知られては困るでしょう?」

「レベルが違うでしょ。何がとは言わないけどさ」

「……やはり知っていますね、土門君は」

「何のことかな」

 

 実際問題、プールの授業をサボっているとバレて困るか困らないかで言えば多少困る程度だ。

 特にクラスメイトにそういう悪い評判を流布されると変に悪目立ちしてしまうのでその点では困る。

 

 その一方で教師については事前に申請してあるし、代償も払っている。

 こっちについては何も困ることはない。

 

「それにサボりではないから。体調不良だよ体調不良」

「……失礼しました。いきなり失礼な話をしましたね」

 

 結局司がシラを切り通したので坂柳はそれ以上の追求を諦めた。

 

「ですが、改めて言っておきますよ。真澄さんは私の友人ですから。

 不用意に手を出すようなことがあれば、覚悟をしてください」

 

 しかし、それでも警告することは忘れない。

 

 坂柳は、司が神室の秘密について完全に理解しているという前提で話を進めている。

 それはカメラ映像でその現場を見たとかではなく、単純に司に釘を刺したようなことを自分が同じ立場に立ったときに躊躇わず実行しているからである。

 

 自分に自信がある人間というのは、自分の行動が正しいものだと思っている。

 多くの選択肢があったとき、その選択肢を取るのが当たり前だと考えている。

 だから司も、自分と比べて手際がどれほど悪くても結局はその事実で神室を脅すだろうと考えていたのである。

 

 特に今回は、ただ現場を目撃しただけでなく、それを外部に言いつけることなく含ませるような形で神室に伝えたというのが坂柳の予想を裏付けていた。

 『俺は知っているぞ、バラされたくなければ言うことを聞け』というわけだ。

 

 実際のところは司はそれほど神室に興味はなく、あんな形で言ったのはただの意趣返しに過ぎないのだが。

 

 いくら頭が切れるとはいえ身体の不自由さから従順な手駒を欲していた坂柳と、そもそも神室程度の人材を、この程度の学校で必要としていない司とでは人を使うにしても前提条件が全く異なるのである。

 そこに大きな誤解が生じている。

 極論今の資金力で卒業も3年間の自由も買えてしまう司には必要なものはほとんどないのだ。

 

 そしてそれ以上にこの誤解には、坂柳という少女の気質が影響している。

 つまるところ、坂柳は自分のやることが合理的で正しいと思っているので、他の者も同じことをやると思っているのである。

 

 弱みを握り、人を脅して支配する。

 そのことに対してなんら忌避感を抱いておらず、どころかそれこそが人間関係の正しい築き方だと思っている。

 だからこそ、同じ弱みを握った司の動きを懸念し牽制しにきたのだ。

 特にその事実をすぐに使うのではなく自分の懐に抱え込んだことに不気味さを覚えて。

 

(だいぶ歪んでるな。対等な人間と出会えなかったタイプなのか?

 それとも変な英才教育を受けてきたか。

 まあ神室さんはご愁傷さまだが、今後も気をつけて観察しておこう)

 

 このタイプの人間は、例え学校という緩い穏やかな人間関係が普通となる場であっても派閥を持ち込み、グループ間の関係性を悪化させる可能性がある。

 ここまで露骨にとは言わないが、よくクラスの女子グループがそれ以外の女子や男子生徒を排斥したりするときにはこういうタイプの人間が関わっていることが多い。

 自分の支配するテリトリーとそれ以外という区別がはっきりしているのだ。

 

 そして利己的かつ自己中心的な部分が強く、他に害を与えてでも得をしようという傾向が強い。

 この学校で今後どんな教育があるかわからないが、グループワークで順序がつけられるような場合には、人間関係に不和を引き起こして他のグループの足を引っ張るぐらいは普通にやりそうである。

 

「なんの話をしてるかわからないけど、そもそも学校生活でクラスメイトを脅すって何事よ。

 普通しないだろそんなこと」

 

 司の言葉に疑わしげな視線を一瞬向けた坂柳だが、次の瞬間にはニコリと笑みを浮かべて肯定した。

 

「ええ、そうですね。確かに土門君の言う通りでした。

 友達のことを思って暴走してしまいました。すいません」

「まあ友達が大事ってのはわかるけどね。

 発想を飛躍させるのは場合によっては危険だよ」

「根拠は大切にしていますよ」

 

 坂柳には坂柳なりの根拠があっての推測であるので、司の言葉はただの当てこすりに過ぎない。

 少なくとも坂柳にとってはそうだったが、それが司に理解できるとは坂柳は思っていないのでそれについて言及することは無かった。

 

「ところで話は変わりますが」

 

 代わりに、自分の手におさまろうとしない司を将来的に従えるために忠告を1つ。

 

「土門君の事情は私にはわかりませんが、授業はあまり休まないことをおすすめします」

「ん? そりゃまあそうだけど……体調不良は仕方ないでしょ?

 確かに成績表的には良くないとは思うけど」

「ええ、それはもちろんそうです。

 ですが、どうやらこの学校はそれだけではありませんから」

 

 坂柳の言葉に、司は初めて彼女をちゃんと見た。

 

「……どういうこと?」

「今は詳しく言及するのは避けておきましょう。

 ですが、この学校で授業をサボったり授業中に読書をしたりなど不真面目な態度を取ることは、今はまだ見えない不利益を及ぼす可能性が高いです」

「つまり……何かペナルティーがあるかもしれないからもっと真面目に授業を受けろ、ってことかな。

 いやでも、この学校でペナルティーとかあるの?

 今のところすごく優しい学校だと思うけど」

「確実にあります」

「……わかった。俺もペナルティーは嫌だから気をつけるよ」

「ええ、そうしてください。

 授業中に読書をしているのはAクラスでは土門君ぐらいですよ」

「確かに。うん、気をつけるよ。ありがとう」

 

 坂柳からの忠告に司は真摯に感謝の言葉を述べてみせる。

 そのことに気づいているのは、平凡な生徒としては不自然だ。

 

 司が観測している限りでは、クラスで生活態度の評価に気づいているのは坂柳ぐらいのものであろう。

 いつの間にかクラスのリーダー役におさまっている葛城ですらもそのことに気づいていないのは、その取り巻きと化している戸塚が授業中に普通にうつらうつらしていて、葛城が厳しく注意していないことからも明らかだ。

 

 実際のところ、この学校が生活態度などを評価していることを司は既に知っている。

 そのため色々なことにも保険をかけてはいる。

 

 例えば授業中に読む本は、分野違いであれど教科に関係のある内容にしたうえで、その申告を担当教師にして許可を得て読んだレポートを軽くまとめて提出したりしている。

 

 数学では大学数学関連の読み物を。

 国語では評論の勉強という建前で学問系の新書を。

 英語では英文小説や論文を。

 社会では歴史系統の難しめの本を。

 理科では宇宙関係の書籍を。

 

 あくまで授業の内容とは無関係のことをしないようにしているのがみそだ。

 そのため教師からもちゃんと肯定はもらっている。

 このことについては真嶋にも確認済みだ。

 

 今回のプールの授業だってそうである。

 事前に体育教師の元を訪れて申告した上で、補習か出席代わりのレポートなどが無いか確認している。

 そしてそれらが必要ないと言われたので、念の為に欠席扱いとしてポイントを支払ってきた。

 

 いずれにしろ、今回の邂逅で司は坂柳に目をつけられてしまった。

 元から不真面目な態度で目をつけられていたが、それとは別に、坂柳相手の冷静な言葉に、多少なりとも頭の切れる人材だと認識されたのだ。

 

 そのことがこれから司の生活にどう影響を及ぼしてくるのか。

 それはまだわからない。





今回の坂柳は、果たしてこんな感じで大して目立ってない主人公に絡んでくるか作者も疑問ですが、坂柳との関わりと今後の展開や書きたい場面への伏線も含めて書きました。
解釈違いだったらごめんなさい。





他の生徒と絡まずに、司が1人でひたすら趣味をやってたり学校に対して考察してたり金稼ぎをしたりしてる場面って需要がありますかね。

基本的にはクラスメイトと関わる場面を書いたほうが良いかと思ってその中でそうした要素を絡める程度に留めているのですが、趣味などについてはどうしても1人の場面になるのでどうしたものかと。
回想(全部作者の創作、国子塾関連の話とか中学時代の話とか)なんかもそうですが、原作キャラに関係ない話は、ある程度話数溜まってきてからの方が良いでしょうか。
アンケート作っておくので回答をお願いします。

他のキャラクター視点(一人称の地の文という意味ではなく、司がいない場面で、ということ)での描写を読みたいですか? 例えば松下が中間試験への対策に奔走する姿を松下視点で書くのか、あるいはいつも通り司が後から聞いたという形で書くのか。司という異物への、司が居ない場面での反応(例えば神室と松下が2人で話してる場面等)も含めて、視点を統一するべきか色んなキャラの目線を書くべきか悩んでいます。

  • 司中心で、司が見聞きした情報で良い
  • 他のキャラクター視点の情報もみたい。
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