【GAME原魔勇】 不遇王子で完全攻略、リアルなこのゲームセカイで俺は……! 作:山下敬雄
天に静かに剣を掲げ、地から雄叫びが続々と上がる。
皆が祭壇を見上げる。悪しき蛇の存在を討った一振りの剣を誇示する剣士、いや勇者の如きその姿に、地が割れんほどの喝采が送られた。
猛威を振るい続けていた石の軍勢はその機能を停止し、再び眠りについた。大人しく眠る石像に、剣や杖や盾を構えていた誰もが、アモン・シープルと同じように武器を高々と掲げた。
掲げる武器がなかった茶髪の王子だけが、遠目に映る緑髪のエースユニットの姿を見て、やけにリアルに汗染みたその髪を掻きながら笑っていた。
「「あ、焼きおにぎり」」
逃げようとしていた空飛ぶ目玉の魔物を発見、空飛ぶ焼きおにぎり引換券に双子のホナが小銃を向けた。
「何浮かれてるんだい、ほら仕事だ早くしな。これからが〝おたのしみ〟じゃないかい、フッフ」
オリーブは感化され武器を掲げた直属の部下たちに喝を入れる。元山賊兵たちは、おたのしみの宝探しへ、抜け駆けするようそそくさと動き始めた。
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階段が落とされてしまった祭壇上へは、疲弊したクピンに無理を言い水の縄を用意してもらった。
そして魔法の縄を伝いながら、足場の悪い戦いの傷がのこる階段を、なんとか俺は登り切り──
待ち構えていた逞しいその手を今借りて、カール王子は、やっとヤツと同じ壇上へと辿り着いた。
「物足りなかったか? アモン」
「はは、カールこそ」
ハードだったとか、お疲れだとか、遅かったなだとか、そんな普通のことはあえて言わない。
王子の俺と剣士のアモン・シープルは、とりあえず男同士の握手をひとつ交わした。
激闘明けでも爽やかに微笑む緑髪の剣士の後ろ、祭壇のステージ上には酷く焼け焦げた跡がある。石の魔物たちが電池が切れたように動かなくなった時点で分かっていたが、改めてアモンがあのボスを討ったということが分かる。
今回の戦闘での立役者のアモンとの硬い握手を解いた俺が、しばらく辺りを観察していると──
祭壇上に遅れて登ってきた、クピン・シープルの賑やかな声が聞こえてきた。
「物足りなかったかじゃないわよほんと。はぁ……もうこんなの当分はこりごりってかんじ」
クピンがため息混じりにそう言った。さすがに今回の戦いは彼女にとってハードだったようだ。功労者の一人と言っていいほどその魔法で働いてくれたから当然だろうな。当然、第九王子の部隊の主軸として俺も魔法師のクピンのことを勘定に入れていたのだ。
「ははは。でも助かったよクピン。あっ、そういえばところで〝あの技〟修行したのかクピン?」
弟のアモンは、ふと思い出したように気になっていたことを姉のクピンに問うた。【アクアウルフ】と【スネークロープ】を合わせた俺の知っているゲーム内でも使えた小技のことだろう。
「たっ、たまたまできただけだし!」
何故かカール王子を睨みつけるクピン。たまたまならもう少し頑張って練度を上げて欲しいものだ。
「? あ、クロウ! 援護してくれて助かった」
いつの間にかメイド長のクロウの姿もそこに。見つけたアモンが労いの声をかけた。
彼女も功労者の一人。礼の心を忘れず、さすが旅団内好感度ナンバーワン男のアモンといったところだ。
「ええ。カール王子の迅速な指示に従い、打って出たのが結果的に功を奏したようで、良かったです。お怪我はありませんかアモン様? 手強いボス級の魔物が相手だったと思われますが……」
さすがメイド長のクロウ・フライハイト。王子の俺の顔を立てることも忘れない。ボスをほぼ一人で相手にしたアモンの体調も気遣っているようだ。
「あぁ……これといってないけど? ──あ、一つだけ。マントがおしゃかになっちゃったかな、ははは。ごめんクロウ」
剣士はくるりと背を向けながら、激闘を物語るボロついたマントをクロウに見せて、笑いながら謝った。
「ふふっ。それは大変ですね。馬車に戻って先にお休みになられては? カール王子もそのように。クピン様もご活躍のようでしたので」
それは良い提案だ。くすりと微笑ったクロウの提案に俺はノらせてもらうことにした。
「ま、そうさせてもらうか。王ヂだしな」
「はぁ、わたしもそうさせてもらお……」
黒ずんだ骨を一つ片手に拾い上げながら、俺は首を傾げた。
後先考えずにプレイした結果、先のことはあまり思い浮かばない。とりあえず今は、働かないこの頭を休めることにする。
武器もない、仕事もない、頭も働かない。さっぱり手ぶらになった王ヂは、メイド長のクロウの気遣いを受け入れた。クピンも珍しく、カール王子と同じ方向に踵を返した。
まだ目覚めない村人たちの石像を待機させた馬車まで運び出す仕事に、アモンは自ら名乗り出たようだ。
王子は王ヂなので、要点をまとめた簡単な指示だけをクロウに伝え残して、とっとと後処理を任せ洞窟の外、イシカゲ村まで一旦戻ることにした。
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命を賭したそのエピローグに、相応しい宝がなければやっていられない。
オリーブ率いる山賊兵たちはおたのしみの宝探しを血眼になりつづけている。
クリーナーシュリンプ、お片付け部隊の赤いメイド服たちも辺りに散らばった礫を除去しながら戦場の整理、戦利品の回収作業に当たった。
村人たちの石像を運ぶ手伝いをしていた疲れ知らずのアモンは、ふと、立ち止まり二つの残骸に手を伸ばした。
どうやらその残骸は人ではなく、魔物らしい。
そして今アモンの目に見える二つの石のパズルは簡単に微細なズレもなく合わせることができた。禍々しい外殻をした甲虫の姿が、ぴったりと組み合わせたそこに浮かび上がる。
切断面は見事な真っ二つ、しかしひどく焦げついた痕も見えた。
さらにその石虫の残骸の傍らには、何かが粉々に欠けた小さな煌めきが、点々と残されていた。
しばらく観察しながらも不思議に思ったアモンは、真っ二つになった魔物の残骸の前で、おもむろに自分の剣を構えてみた。
目を閉じたそこに、湧き上がるイメージは────
瞼の裏に鮮やかな火花が散った。
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時刻は夕暮れ。オレンジに染まるこの村を小高い丘から一望する。
その丘にある大きな一本の木の下で、カール王子である俺は小休憩していた。
王子に用があるヤツは多い。「後でな」と言いひとりひとり人払いをしながら、一人で夕日色の景色を眺めながら集中する。
第九王子の旅団が、北東の洞窟内に出現した石の魔物の軍勢を相手に勝利を収めた。とりあえず俺は疲れ切った身と目を休めつつ、一度これまでのおさらいをすることにした。
敵は想像以上に強かった。俺の知らないとんだエクストラステージだ。まぁ、ゲーマー的にはこれで満足だが。ハードな道を選んだからには、それなりのリターンも──今回あったことだ。木の幹にピン留めされた部下が寄越した報告書の束には、嬉しい知らせがいくつか記載されている。
しかし細々とした武功やお知らせよりも。敵が遠隔から使ってきた【アーティファクト】のことや、ここに置いていたはずの村人たちが洞窟内に現れた仕掛けのこと、アモンが討ち取った新種のボスのことも気になる。
戦後に残った思ったよりも山積みの宿題に、俺は木にもたれながらため息を吐いた。うれしいため息かどうかは、まだ定かには分からない。だが、全員生存できたことは少しは誇ってもいいだろう。
夕日の色に似合うように、俺はやわらかに微笑んだ。
そんな時ふと、俺の目に入った煌めき。何かが遠くでチカチカと夕陽を反射しながら呼んでいる。
眠たくなっていた目を擦った俺は、おもむろに腰を上げ歩きその煌めきに近づいた。
近づいてみると丘の野原に、剣が一本、不自然に埋もれて落ちていた。
普通の、いや使い込まれた鉄の剣だ。俺は落ちていたそれをおもむろに拾いあげて鑑定する。
「こいつは……アモンのおさがり? なんでこんなところにユウの──」
唐突な風が背を打ち、一瞬騒がしく地の草が揺れた。
剣音が近くで響き合う。冷たい殺気に振り返ると、そこにいたのは──
不意打ちを仕掛けた緑髪。刃を王子に向けたアモン・シープルの姿だった。
「いつの間に修行したんだ、カール」
翠の瞳が、真っ直ぐに見つめているのは、咄嗟に剣を構えてしまった王子、ただ一人。
俺は目の前にいきなり現れたソイツの面を見て、気の利いた返事もなしに黙していた。
一本木の丘の上、村の子供たちの遊び場で、鋭く一太刀交えてしまったのは、ただの冗談ではないようだ。
俺の手に、腕に、痺れてかえる手応えがそう言っている────。
俺たちはどうして剣を取り、こうして今向き合っているのだろうか。
先伸ばしていた勝負の約束か、真剣なお遊びか、それとも──
汗ばむ柄が気持ち悪い。きっと嘘をついているヤツがいる、だからだ。
全てはあの時、俺が剣なんて忌々しいものを握ってしまったからだろう。そして本日二度目、こうしてまんまと落ちていた剣を再び拾い上げて、よく分からないイベントをまた引き起こしてしまった。
果たしてべらべらといつものカール王子節の言葉で返して、コイツはその無礼な剣を引き下げて納得するだろうか。
俺という存在を追い詰めるその緑の眼が今何を疑っているのか、何を試しているのか、凄腕の剣士の心情を一介のプレイヤーに分かるはずもない。俺はこの
ただ、どこかで火を付けてしまったことは明らかだ。それが小火であれ、疑念であれ、怒りであれ、「ここで鎮めなければ先はない」──俺は、まだこの手に返る痺れる手応えにそんな予感がした。
酷く静かだ。取り繕う言葉がいらないほどに。
穏やかではない、険悪でもない。ただ剣を向け合った。
握る柄がとても気持ち悪いのは、どこかで猛る気持ちを縛りセーブしていた、だからだ。
この切先の先にあるものを、試してみたいと思ったのは────
「おだちん! イナヅマっ! チョコ! チョコおおおお!!」
構えて見た緑の視界が唐突にぼやけた。疼く切先と切先の間に割り込んだのは、空気を読めないそばかすメイド。ショコラ色のブリムを被ったメイドが俺の胸元にしがみついた。
「ちょっ、チョコ! ちょ……ちょこぉ? ……ぉ」
そばかす顔のメイドが鼻先で匂いをくんくんと嗅ぐ。隠し事はできない──俺はマントの内から、溶けかけのチョコの銀紙を一つ静かに取り出した。
向かいの緑髪の剣士が笑い、剥き出しだったその刃を納める。
鉄の剣を一つ壊さずに節約できたようだ。
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一本木の丘、夕暮れの決闘シーンなんて王ヂには似合わない。
なんとか無闇に剣を振るうことなく事なきを得た俺は、再び村にある作戦会議室を訪れた。
昼頃に石の魔物の討伐作戦を立てたあの部屋も、今は様相が違う。
テーブルの上には戦利品がずらり、メイドたちがこれから整理と鑑定作業に入るのだろう。
しかし王子はずらりと並ぶ小物には用はない。回収した戦利品の中にやはりあった、一際異彩を放つ【アーティファクト】の残骸。妖しい色合いの宝石の欠片を一つ手に取り、ルーペで覗きながらクロウがさっそく熱心に宝石の鑑定をしてくれていた。
「だからその……あっ、【あーてぃふぁくと】ってなに? なんなのよそれ、カール?」
隣で難しい顔を浮かぶるクピンに俺は上手く説明してやろうとしたが、
「あぁ、それは──いや、しらねぇ」
「はぁ? 知ってる風にえらそうに話しててぇ!?」
あまり隠し事をひけらかすと先刻のように、また厄介なことになるかもしれない。俺は少し悩みながら言葉を選んだ。
「ま、原大陸や勇大陸の今の技術じゃ作れねぇ代物ってことだよな?」
「うん。そうだけど、私もはじめて見るし。これが、アーティファクト……!」
目線を配り話を振った鍛冶師見習いのノゾミィが、そう頷き答えた。名のある鍛冶師の娘であってもアーティファクトを実際に見るのは初めてらしい。
「しかしこれを復元できればかなりの戦力アップになりますね。それにこれならば王国へ帰った時の功績の一つにも数えられるかもしれません」
ルーペを机上に置いて、ハンカチの上に置いた紫の欠片を眺める。メイド長のクロウもアーティファクトの存在を知っていたようだ。砕けてしまっているが復元に成功すれば、第九王子旅団の戦力UPは間違いなし。メイヂ王国に凱旋した際の持ち帰る手柄にもなり得ると、クロウはその経験豊富な慧眼をとおして見立てたようだ。
「あぁ。それもそうだな? じゃ、それも頼んだぞノゾミィさん」
「って!? 依頼の剣もまだなのに……そんな無茶……うーうん、わかった! やってみる、いや、やらせて!」
壊れたアーティファクトの杖が二つ。今回手に入れた戦利品の中で一番価値のある代物には違いない。だが、壊れていては無用の長物、意味がない。
俺は鍛治師見習いのノゾミィの好きなように、アーティファクトの修復作業を任せた。
アモン・シープルの魔剣制作で手一杯のところに入った王子の無茶な追加依頼に、ノゾミィ・ノームは困惑しながらも熱のある返事をかえした。
まだ渋いオレンジの陽の射す内に、王子である俺は、お祭り状態のイシカゲ村の辺りをうろつくことにした。
祝杯を上げるにはまだ早い。だが、村人の石像に酒のコップを持たせて旅団員が乾杯している。
山賊たちは、くすねた宝をアテに、銀髪の姉御を囲み馬鹿笑いを響かせている。あとでいくらか徴収する予定だ。
皆が勝利に浮かれ馬鹿騒ぎする一方で、中には仕事熱心な者もいる。
石像の修復。起きてしまう前に修復を。メイドたちが集まり、祭壇上から転げ落ちた女魔法師の鼻をパズルで組み合わせるように修復している。どの状態が一番美しい鼻かを吟味しつつ競っているようだ、──酔っているのか?
俺は酒に合わないお詫びに貰った甘いドーナツを頬張りながら、中央広場の賑やかな焚き火の周りをただよい抜け出していく。
俺はあまり酒を呑まないが、自分自身、今は酔っていないとは思う。
ふらふらと入り込んだ民家の中を漁って、意味深なタペストリーの裏、腐ったスープの鍋蓋の裏を確認した。当然そんなところには何もない。食い物を探しに来た訳でもない。
勝手に食卓のテーブルにかけながら、食いかけのドーナツの穴を見た。もちろんそこにも何もない。
何も意味がない一人芝居をつづける俺は、ふと、タペストリーに映っていた虫くいの果実をもう一度見た。
穴が空いてるその実の色が、覆われたセカイにこぼれる光のようにも感じられた。
織られたタペストリーに空いたその光の行く末を床沿いに辿っていくと──ちょうど食卓の真下に俺の身は不恰好にも潜り込んでいた。
囲う不揃いな椅子たちをどけた俺は、俺がさっきまで尻を温め座っていた一番大きい椅子があった辺りの木板を、強引に床から剥がした。
血のような赤で描かれていたのは魔法陣。俺は賢い魔法師ではないので分からないが、おそらくここの〝一辺〟足りていないのがミソなのだろう。
ミステリーとは穴に入っても分からないからミステリーなのだ。そんな台詞は誰からも聞いたこともない。ひとり無意味に呟いた俺はドーナツを食べ尽くし、床板と椅子を元に戻して部屋を出た。
もう一度外に繰り出した時には、知っているような知らない面子が増えていた。
髪についた石埃を手で払いながら、待ち構えていたその人たちは、目に入れた茶髪の王子に頭を下げた。
次々と魔法がとけてゆく石像たち。蘇る凝り固まっていたその石面が、血色の良い柔らかな笑みに変わっていく。
中央広場に盛大に焚いたキャンプファイヤーで、名の知らぬ詩を唄って踊りながら、次第、踊る人影が増えていく。
石色に眠るイシカゲ村が、とてもながい朝を迎えて──────。
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