指揮官……と言っても、俺が余り前線に出張って指揮を執ることは少ない。
基本的には執務室に隠って書類仕事、電話対応、勉強、訓練だ。
最近は年末なので殊更忙しい。
「イタリア市街の警備は順調、市民からも受け入れられてるか……よしよし」
元々市民はイタリア警察に対して不満を抱いていたらしいからな。
そこに現れたのが警察より強くてしっかりと治安維持をしてくれる警備会社。
ちゃんと国から許可を得ている上に災害時にも真っ先に対応してくれる。
さらに現場を指揮するのは粒ぞろいの美女ばかり!
イタリア人にばかうけである。
……イタリアは発展途上国じゃないハズなんだがなぁ。
「依頼の達成率も上々、ぬいぐるみも売れたし。FM24の言っていた事業拡大も良いかもな」
彼女達を食わせていくために事業をしているのは当たり前なのだが、やはり市民を味方に付けて置くのが望ましい。
市民が協力的だと、それだけ我々も部隊を動かしやすい。となると共和国派の討伐もしやすい。
そんな事を考えながらPx4ストームの提出した、グリフィングラビアブロマイドの企画書に不許可の判を押す。
「指揮官、9A-91です。今、大丈夫ですか?」
「どうぞ入ってくれ」
扉を開けて開けて入って来たのは報告書を携えた9A-91ともう一人。
どことなく9A-91と似た物を感じさせる少女、エルザだ。
しかし9A-91は分かるが彼女は何かあっただろうか?何やらバスケットを抱えているが……
「エルザじゃないか、どうしたんだ?」
「えっと、その……」
「指揮官、エルザちゃんは言いたいことがあるんですよ」
9A-91がそう言ってくれるが心当たりが無い。
俺は何かしたのだろうか?
9A-91は微笑んでエルザの背を押す。
「ほら、言ってみて?」
「あの……も、もし良かったら、9A-91さんと私とお茶しませんか?」
頬を染めてはにかむ彼女はとても可愛らしい。
冷たい原作のエルザの姿はそこに無く、暖かさを持った生きているエルザが居る。
それが何よりも嬉しい。
「……」
「指揮官?」
「いや、大丈夫だ9A-91……エルザがこんな事を言ってくれたのが嬉しくて……」
少しオーバーかも知れないが涙が出て来る。
そうか、成長したか。いや、取り戻したと言うべきか。
ラウーロしか生きる意味が無かったエルザが9A-91と親しくなって。お茶の誘いを、本当に良かった……
そして何よりも
「そうか、エルザ……お前にも友人ができた」
「はい、友達だけじゃ無いです。いっぱい好きな物や、短い間ですけど思い出もできました。だからそのお礼をしたくて」
ダメだもう涙が止まらねぇよ……
拳を握り締め男泣きに泣きを重ねる俺に反応してエルザがわたわたとし始める。
ただそれだけ、そんな彼女の動き一つが嬉しい。
「えぇ!?9A-91さん!ど、どうすれば!」
「大丈夫よ、エルザちゃん。指揮官にはよくある事だから。だからほら、お茶の用意をしましょう?」
ようやっと引っ込んできた涙を拭い、顔を上げると少し困ったような顔の9A-91に笑われた。
本当に彼女達には感謝しかない。
「9A-91」
「はい」
「スパシーバ、だったかな」
「ふふ、Не за что, моя дорогая♪」
……何と言っているのか分からんが、キラキラとした笑顔で言っているのだ。
きっと、『どういたしまして』とかだろうか。
時計の針はもうすぐ3時も差し迫っている。一息休憩を入れるのも良いだろう。
「二人ともありがとう。喜んで参加させてもらうよ」
「ありがとうございます!サイファーさんは座っててください、私が淹れますから」
エルザに促されるままソファに座り彼女を眺める。手出しは無用なのだろう、9A-91も俺の隣に座って来た。
彼女がティーセットをバスケットから取り出す。
紅茶を入れる彼女は真剣そのもの、どこか緊張感を漂わせながらティーポットに茶葉と湯を入れて蓋をした。
茶葉を蒸らしている間にお茶菓子を用意する。
あどけなさを残しつつも、確かなしなやかさを持つ彼女の手がブリキの缶を開けた。
そして顔を覗かせたのはクッキーだ。
まるで宝石の様な赤いジャムを腹に抱えたクッキー。
ロシアンケーキ、あるいはロシアンクッキーだったかな。
美しくも美味しそうなクッキーに見とれていると、ことりと置かれるジャムの瓶。
なるほどこれは……
「ロシアンティーか、これは9A-91が?」
「えぇ、エルザちゃんに教えて欲しいと頼まれたんですよ。彼女、筋がいいんです」
「そうか……楽しみだ」
隣に座って手を絡みつかせて来た9A-91の指を握る。手袋越しだと言うのに感じる、ひんやりとした体温が心地よい。
彼女が肩に頭を預けてくる。
どこか漂ってくる甘い彼女の香り。それが記憶の奥底に眠っていた青春時代を思い起こさせた。
彼女が甘える様な表情で笑いかけてくれる。
そうして夢見心地に浸りそうだった意識を、お茶の香りが現実に引き戻してくれた。
「どうぞ、サイファーさん。飲み方は分かりますか?」
「大丈夫だよ。ありがとうエルザ」
受け取ったカップには良い香りを漂わせるお茶が注がれている。
まずはそのまま1口頂こう。
口に含めると今まで味わった事が無い一風変わった風味が広がった。
軽い甘さと共に感じるスモーキーさ。その中からは、少しばかり経験のある風味を感じる。
これはブレンドティーと言う物か。
「どう、ですか?」
「ふむ……とても美味しい」
そう答えると、バールで会った時からは考えられない大輪の花笑みを浮かべるエルザ。
彼女の心がこもっているからお茶が美味いのだろうな。
「ありがとうございます!9A-91さんもどうぞ!」
「Спасибо。エルザちゃん、ここに座ってくださいね」
「え、でも……いいんですか?」
「9A-91がそう言ってるんだ。ほら、横においで」
今座っている俺の横から1人分ずれた9A-91が手招きすると、少し恥ずかしそうにしながらエルザが座ってきた。
密着してきた彼女はかなり体温が高い。それが9A-91とはまた違う心地良さを感じさせると共に、こんな距離まで近づいてくれる程に心を許してくれている事が嬉しい。
ほっと一息つく。
次はロシア式で頂こう。
瓶からイチゴジャムを取り分けて1匙掬うと、ごろごろと果肉が見える。
おそらくは自家製。
この世界に来てから戦術人形やカリン達は良く料理をする様になったから、このジャムもそれだろう。
天然物の食料で大喜びするのはSF物にはありがちな表現だが、実際に見せられると不憫さが勝って俺も泣きそうになったな。
「あの、どうかしました?やっぱりお口に合わなかったんじゃ……」
「あぁ、果肉がたっぷり入ってるなと思ってな。大丈夫、エルザのお茶は美味しいよ」
「あぁ、良かった。そのジャムはスプリングフィールドさんから貰ったんですよ。手作りみたいなんです」
やっぱりそうだ。そんなジャムを口に入れれると甘酸っぱい味が広がる。
もはや付属品のジャムでは無く、一種のデザートとさえ言える程にそれは大変美味い。
スプリングフィールド手製のそれを口に含んだままブレンドティーを飲む。
これがロシア式の飲み方だ。
甘酸っぱさがさっぱり爽やかにしつつも、確かに残るジャムの甘さが笑顔を作る。
しかしここで働くのがお茶の風味、口内に残ればクドくなるジャムの甘さをしつこく残す事無くどこかに連れ去って行く。
「うーむ……飲んでいるのに次が欲しくなる程美味いんだが、この美味しさを上手に言い表せんな」
「ほんと、指揮官の言う通りです。とっても美味しいですよ」
9A-91がクッキーを食べながら俺に続いた。
ジャムとお茶だけでは無い。お茶請けのロシアンクッキーもしっかりとバターと小麦の風味が感じられて美味い。
あぁ。いいなぁ、こう言う時間。
美味いお菓子を食い、ゆったりとお茶をすすする。
仕事を忘れて、これこそが至福だ。
「……ふふ」
「ん、どうしたエルザ?」
「少し、思ったんです。家族みたいだなって」
エルザの顔がティーカップの紅い水面に揺らいだ。
「サイファーさんは、私のような義体が最後にはどうなるか分かりますか?」
「……健忘症、見当識の低下、精神的にも不安定になる、だったか?」
悲しげに笑った彼女がこくりと頷く。
忘れる訳が無い。初期に義体化されたアンジェリカがどんな苦しみを歩んだのか、忘れられる訳がない。
義体の彼女達が向かうターミナル、それを思うと心が凍える。
「そうならないためにHS2000やK11達が頑張ってる。エルザが思い出を忘れることの無いように。だからエルザ、後ろを向かなくても良いんだよ」
「エルザちゃん。心配しないで、大丈夫よ。あなたには指揮官や私達がついてるから」
俺がそう言って頭を撫でて、9A-91がエルザの肩を抱き寄せた。
本当に不憫な子だ。なぜエルザがこんな思いをしなければならないのか、大きな銃と過酷な運命を背負わされ、代わりに与えられたのが小さな、本当に小さな幸せだけなんて……
「エルザ、何でも言ってくれ。嬉しかったこと、辛いこと、他にも何でも。だって、俺達は本物の家族だからな」
「私が家族?本当に?」
「嘘を言うものか。本物の家族だよ、血が繋がってなかろうが、通ってなかろうが皆家族だ。だから笑ってくれ」
「……はい!」
涙を流して、けれどもとびきりの笑顔を向ける彼女を俺と9A-91が抱きしめる。
力強く、離れないように、離さないように。
エルザには……いや、義体の子達には幸せになる権利がある。生きて幸せになる権利が。
例え幸せがあったとしても、人を殺して褒められて。変えられた運命がそれなんて、悲しすぎる。
「そうだなぁ、俺はエルザの兄さんかな?」
「いえ、サイファーさんはお父さん……かな?優しくて、大きくて、暖かくて。そんな気がしたんです」
「そうか、俺が父親ねぇ」
甲斐性なしの父親だなぁ……
そんな事を考えながらポンポンと撫でてあげると、サラサラの触り心地の良いブロンドおさげがよく揺れた。
「はい、サイファーさんがお父さんで9A-91さんがお母さんです」
おっと。
「私が……エルザちゃんのお母さん?」
「9A-91さんも優しくて、私に色々な事を教えてくれて、それで……ダメ、ですよねこんなの……」
捨てられた子犬のような上目遣いは9A-91に会心のダメージを与える。
誰だってあんな視線には耐えられないだろう、俺も無理だと思う。
でも堪えてくれ、否定してくれ9A-91。
姉妹と言ってくれ。
「指揮官」
「……なんだ、9A-91」
「おそらくなんですが……私はエルザちゃんの母です。記憶はないですが、いつの間にか産んだみたいです。そうでないと説明がつかないくらい、この子が頑張る姿やこうして甘えてくる姿に涙が出てきて……これはもう私がエルザちゃんを産んでないと説明がつきません」
「微笑みながらなんて怖いことを言うんだ」
優しく慈悲あふれる表情を浮かべてエルザを抱きしめる9A-91。けど目が笑っていない。
416もそうだが、ハイライトの無いこういう目をしている時は大抵ヤバい時なのだ。
「ほらエルザちゃん、отецって呼んであげて?それから私のことはматьで良いですよ」
「えと……サイファーさんがあちぇーつ?で9A-91さんがまーち?ですか?」
「あなた!今この子がお父さんとお母さんって呼びました!」
「ちょっと落ち着こうか9A-91、深呼吸して頭を冷却しなさい」
やめろ、そんな悲しそうな顔をするんじゃない。
ちょっ、エルザもそんな悲しそうな目で見ないで!?
「そんな……せめてこの子だけでも認知してあげてください!」
「俺がとんもないクズみたいな言い方やめてくれ!」
他人から聞かれれば誤解を招きかねない9A-91の発言に大きく首と手を振って否定するが止まらない。
9A-91の言い出した事が広まってしまえばどうなるか……
9A-91に抱きしめられながら、焦っている俺を見るエルザ。そんな彼女の指がゆっくりと俺を指した。
「……あちぇーつ」
「ほらぁ!」
「乗らなくていいからなエルザ!?」
友「エルザのキャラって崩れるほど分かるか?生きてる時点でキャラ崩壊じゃん」
「いや、まぁ……そこは一応な?」
友「てか二次創作なんて全部キャラ崩壊だろ」
「お前は何て事を言うんだ!」